説明

一体化モノリシックマイクロ加工したエレクトロスプレーと液体クロマトグラフィーのシステムおよび方法

【課題】大容量で容易に再現可能および工業生産可能な化学分析システムを提供する。
【解決手段】化学分析システムは、主要面を有する第1基板、これに接合または取り付けられた第2基板、これに一体化され分析用液体を受け液体を処理して排出するように構成された液体クロマトグラフィーシステム、およびモノリシックエレクトロスプレー装置であって、注入側にある入口オリフィスと、注入側とは反対側の放出面上にあるノズルと、前記モノリシック装置を連続的に貫通して延び入口オリフィス及びノズルと連通するチャネルと、放出面より窪みノズルを囲む領域とを有するモノリシックエレクトロスプレー装置を含む。モノリシック装置は第1基板上に一体化されており、注入側は液体クロマトグラフィーシステムからの処理液体を受けるように構成されており、主要面は液体をエレクトロスプレーすることにより液体を分配するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に微小電気機械システム(MEMS)技術を用いて加工した一体化小型化学分析システムに関する。特には、本発明は、一体化モノリシックマイクロ加工されたエレクトロスプレーおよび液体クロマトグラフィー装置に関する。これにより、例えば医薬の発見に用いる場合、従来のシステムに比べて、質量分析計による高処理分析という点で、著しく有利となる。
【背景技術】
【0002】
医薬の発見および開発における新たな発展により、分析技術に対する新たな要求が生まれている。例えば、コンビナトリアルケミストリーは、新たなリード化合物を発見するのに、またはリード化合物の変形を作るために、しばしば用いられる。コンビナトリアルケミストリー技術は、何千、何百万もの化合物(コンビナトリアルライブラリー)を比較的短時間(数日から数週間程度)に作ることができる。このような多数の化合物の生物学的活性について、タイムリーにかつ効率的な方法でテストするには、各候補化合物の特性を素早く評価することのできる高処理スクリーニング法が必要である。
【0003】
コンビナトリアルライブラリー中の複数の化合物を、しばしば同時に1つの分子の標的に対して試験する。例えば、比色計測を用いる酵素検定法は、1枚の96ウエルプレート内で実施される。各ウエル中の酵素の部分を、数十または数百の化合物と混合する。有効な酵素阻害物質が通常の酵素反応による色の発生を阻止し、検定結果の迅速な分光学的(または視覚的)評価を可能にする。各ウエルに10種類ずつの化合物がある場合、プレート全体で960種の化合物を選別することができ、また105枚のプレートで10万種類の化合物を選別することができ、化合物の迅速かつ自動的な試験を可能とする。
【0004】
しかし、しばしば、ライブラリーの合成方法が原因で、コンビナトリアルライブラリーのある部分にどの化合物が含まれているかを決めることが困難となる。例えば、米国特許第5,182,366号のランダムペプチド合成の「スプリット&プール」法は、各樹脂ビーズが固有のペプチド配列を保有するペプチドライブラリーを作る方法を記述している。96ウエルプレートの各ウエルに10個のビーズを入れ、続いてビーズからペプチドを切断し、切断溶液を取り除いて、結果としてプレートの各ウエルに10(またはより少ない)ペプチドを得る。次に酵素検定をプレートウエルの中で行い、100,000種のペプチドを105枚のプレートで選別する。しかし、ペプチドの正体は分かっていないので、各ウエルの内容を分析する必要がある。
【0005】
各ウエルから溶液の一部を取り出し、中身を質量分析計と連結した液体クロマトグラフィーまたはキャピラリー電気泳動器等の分離装置に注入することにより、ペプチドの分析が可能であった。このような方法が1被分析試料当り約5分かかるとすると、該方法が完全に自動化で24時間運転するとして、105枚の96ウエルプレートの内容物を分析するのに1ヶ月以上を必要とする。
【0006】
この例は、多数の化合物または化合物の複合混合物の迅速な分析法について、特には、高処理スクリーニングの場合に臨界的な必要性があることを示したものである。多数の化合物を作る技術は、例えばコンビナトリアルケミストリーを通して、確立されている。高処理スクリーニング法は、広範な標的に対して開発中であり、前記の比色酵素分析法およびELISA(酵素結合免疫吸着検定法)技術等の幾つかのスクリーニング法がよく確立されている。前記の例で示したように、複数の化合物の複数の混合物、または複数の個々の化合物を特徴付けなければならない段階においてボトルネックがしばしば発生する。
【0007】
分子バイオテクノロジーにおける現在の発展を考えると、この必要性はさらにはっきりとする。膨大な量の遺伝子配列データが、新しいDNA塩基配列決定法により作り出されている。この新しい情報の財産が、病気の進行のメカニズムに対する新しい見識を作り出している。特に、新興分野であるゲノムは、医薬開発の試みの新たな標的の迅速な同定を可能にしている。個人間の遺伝子的差異の決定を行うことによって、個人の特別な遺伝子プロフィールをもとにした個人向け医薬を標的とする可能性を開くものである。費用のかかる動物実験および臨床試験の代わりに、細胞毒性、特異性および他の医薬的特性の試験を高処理検定で実施することができる。したがって、医薬品開発の早い段階での潜在的医薬またはリード化合物を詳細に特徴付けることにより、時間と費用の両方を著しく節約できる可能性がある。
【0008】
これらの新しい標的に対する有効なスクリーニング法の開発は、検定結果を分析するために迅速な分離および分析技術が利用できるかどうかによるところが多い。例えば、候補薬の潜在的毒性代謝物を検定する場合、候補薬とその候補の代謝物の両方を同定する必要がある。特異性の検定は、ウイルスのプロテアーゼと哺乳類のプロテアーゼ等の2つの分子の標的に識別的に結合する複数の化合物を同定する必要がある。
【0009】
したがって、効率的なプロテオーム解析の方法を提供して、評価過程の早い時期に薬物動態学的プロフィールを得ることは、有利であろう。新化合物がいかにして体に吸収され、いかにして代謝されるかを理解することは、増大した治療効果の有無の可能性を予測することを可能にする。
【0010】
日々作られる膨大な数の新化合物を考慮すると、医薬の発見のための潜在的治療価値のある分子を同定するための改善したシステムも非常に必要である。
【0011】
また、関心のある疾病において役割を果たす遺伝子または遺伝子産物と相互作用する化合物を迅速に配列分析し、かつ同定する方法を提供することが望まれる。迅速な配列分析法は、化合物を順次(1つずつ)分析する非効率的で時間のかかる方法のボトルネックを打開するものである。
【0012】
したがって、潜在的候補薬の同定のために、化合物を目的とした反応の高処理スクリーニングし、かつ同定することに対して臨界的な必要性がある。
【0013】
マイクロチップ系の分離装置が、多数のサンプルを迅速に分析するために開発されてきた。他の従来の分離装置と比べると、これらのマイクロチップ系の分離装置は、より高いサンプル処理能力を有し、サンプルと試薬の消費量を減らし、かつ化学的廃棄物を減らす。マイクロチップ系の分離装置の流速は、ほとんどの用途に対し毎分約1〜300ナノリットル(nL)の範囲である。
【0014】
マイクロチップ系の分離装置の例としては、キャピラリー電気泳動(CE)、キャピラリー電気クロマトグラフィー(CEC)および高速液体クロマトグラフィー(HPLC)がある。HarrisonらのScience1993年、261号、859〜897頁;JacobsonらのAnal. Chem.1994年、66号、1114〜1118頁;およびJacobsonらのAnal. Chem.1994年、66号、2369〜2373頁を参照のこと。このような分離装置により、高速分析が可能となり、かつ他の従来の分析装置に比べて、精度と信頼性が向上している。
【0015】
液体クロマトグラフィー(LC)は、後の分析および/または同定のために、ある液体の成分を分離するのに定評ある分析方法である。伝統的に、液体クロマトグラフィーは、密に詰められたビーズ、ゲルまたは他の適当な粒状物質を充填して表面積を大きくした、円筒管等の分離カラムを用いる。表面積が大きいので、液体と粒状物質との相互反応が促進され、かつ粒状物質が密に詰められ、無作為に間隔をあけているので、液体はカラムの長さよりも非常に長い効果的な流路を移動させられる。特に、各成分の分配係数に基づき、液体の複数の成分が移動相(液体クロマトグラフィーカラムを流れる溶出液)および固定相(液体クロマトグラフィーカラム内の粒子)と相互反応する。分配係数は、被分析試料が固定相と相互反応するのに費やす時間と移動相と相互反応するのに費やす時間との比、と定義される。被分析試料が固定相と長時間相互反応するほど、分配係数は大きくなり、かつ被分析試料が液体クロマトグラフィーカラムに保持される時間が長くなる。カラム出口をカラム後の検出器に接続することにより、液体クロマトグラフィーカラムから溶離後に、成分を分光学的に検出することができる。
【0016】
分光学的検出器は、適当な波長による励起後の屈折率、紫外線および/または可視光線吸収率の変化、または蛍光発光を基にして、分離した成分を検出する。または、分離した成分は、液体クロマトグラフィーカラムから出て、分析のために他の形式の分析機器に入れることもできる。分析結果は、液体クロマトグラフィーカラムにより分離された成分が順次到達することにより決まり、したがって時間依存性である。
【0017】
拡散を最小にし、よって分離効率および分析感度を最大にするために、液体クロマトグラフィーカラムから検出器等の分析機器までの液体の移送長は、好ましくは最短とする。移送長をデッドボリュームまたはカラム外体積と呼ぶ。
【0018】
キャピラリー電気泳動法は、小キャピラリーチューブ内における分子の電気泳動的性質および/または液体の電気浸透流を利用して液体の成分を分離する技術である。典型的には、100μm以下の内径のフューズドシリカのキャピラリーを、電解質を含んだ緩衝液で満たす。キャピラリーの両端を、緩衝電解液を収容した別々の液体リザーバー内に配置する。
【0019】
一方の緩衝液リザーバーにポテンシャル電圧をかけ、他方の緩衝液リザーバーに第2ポテンシャル電圧をかける。緩衝液リザーバーに印加した2つのポテンシャル電圧により作られた電界の影響下で、正および負に荷電した種が、キャピラリーを逆方向に泳動する。電気浸透流は、緩衝液から荷電した種の泳動による、キャピラリー壁に沿った液体の流れ、と定義される。幾つかの分子は、溶液中では荷電した種として存在し、分子種の荷電対質量の比に基づきキャピラリーを泳動する。この泳動を電気泳動度と定義する。液体の各成分の電気浸透流および電気泳動度が、各液体成分の全体の泳動を決定する。分離チャネルの壁に沿った摩擦抵抗の減少により、電気浸透流により生じる流速プロフィールは平坦である。これにより、流速プロフィールが圧力駆動流のため放物線状である液体クロマトグラフィーに比べ、分離効率が向上する。
【0020】
キャピラリー電気クロマトグラフィーは、液体クロマトグラフィーに典型的な固体固定相を充填したキャピラリーカラム内での電気泳動分離法の電気駆動流特性を利用した複合技術である。これは、逆相液体クロマトグラフィーの分離力とキャピラリー電気泳動の高効率とを一緒にしたものである。液体クロマトグラフィーに比べて、キャピラリー電気クロマトグラフィー分離は、より高い効率が得られる。なぜならば、圧力駆動流により生ずる放射状の流れプロフィールと比較した場合、電気浸透流による生ずる流れプロフィールは、分離チャネルの壁に沿って摩擦力が低減するので平坦だからである。さらに、液体クロマトグラフィーに比べて、キャピラリー電気クロマトグラフィーにおいては、より小さな粒径を用いることができる。なぜなら、電気浸透流によって背圧は発生しないからである。電気泳動とは対照的に、液体クロマトグラフィー分離機構を利用して、被分析試料がカラム粒子の固定相と移動相との間で分配されるので、キャピラリー電気クロマトグラフィーは、中性分子を分離することができる。
【0021】
このような分離装置で分離した生成物を、液体サンプルとして、エレクトロスプレーイオン化を発生するのに用いる装置に導入することができる。エレクトロスプレー装置を、エレクトロスプレーされた液体を分析するための大気圧イオン化質量分析計(API−MS)に接続することができる。
【0022】
エレクトロスプレーシステム50の概要を図1に示す。十分な電位差Vsprayを、キャピラリーオリフィスを出た導電性または半導電性液体と電極との間に加えて、エレクトロスプレー装置のキャピラリー52の先端または終端から発する電界線の集中を起こした場合に、エレクトロスプレーが発生する。質量分析計へのイオンサンプリングオリフィスに備えたもの等の、取り出し電極54に対してキャピラリーの先端に正の電圧Vsprayを加えた場合、電界により液体中に正に荷電したイオンが生じ、キャピラリーの先端で流体の表面に移動する。質量分析計へのイオンサンプリングオリフィスに備えたもの等の、取り出し電極54に対するキャピラリーの先端に負の電圧Vsprayを加えた場合、電界により液体中に負に荷電したイオンが生じ、キャピラリーの先端で流体の表面に移動する。
【0023】
溶媒和したイオンの反発力が、エレクトロスプレーされた液体サンプルの表面張力を上回った場合、液体サンプルの体積は、キャピラリーの先端から延びる、テイラーコーン56として知られる円錐形になる。小さな荷電液滴58がテイラーコーン56の先端から形成され、取り出し電極54に向けて引き出される。この現象は、例えば、DoleらによりChem. Phys. 1968年、49号、2240頁で、およびYamashitaとFennによりJ. Phys. Chem. 1984年、88号、4451頁で説明されている。エレクトロスプレーを開始させるのに必要なポテンシャル電圧は、例えば、SmithがIEEE Trans. Ind. App.、1986年、IA−22号、527〜535頁に説明されているように、溶液の表面張力により決まる。典型的には、電界は概ね10V/mのオーダーである。キャピラリーの物理的大きさにより、エレクトロスプレーを開始するのに必要な電界線密度が決まる。
【0024】
エレクトロスプレーイオン化法の利点の1つは、質量分析計により測定した被分析試料に対する応答が、液体中の被分析試料の濃度に依存し、かつ流速に依存しないという点である。流速100μL/分で質量分析とエレクトロスプレーイオン化法を組み合わせて用いた、所定の濃度の溶液中の被分析試料への応答は、流速100nL/分に匹敵する。
【0025】
毎分ナノリッターのオーダーの流速におけるエレクトロスプレーイオン化工程は、「ナノエレクトロスプレー」と呼ばれてきた。キャピラリーから流れる液体中には被分析試料分子が存在するので、API質量分析計のイオンサンプリングオリフィスにエレクトロスプレーすることにより、質量分析検出器から定量応答が発生する。
【0026】
したがって、上流をマイクロチップ系の分離装置で一体化し、かつ下流をAPI−MS装置で一体化するエレクトロスプレーイオン化装置に設けることが望まれる。
【0027】
ナノエレクトロスプレーを行うエレクトロスプレー装置を製造することが試みられてきた。例えば、WilmとMannはAnal. Chem.、1996年、68号、1〜8頁において、内径2〜4μmに引き伸ばしたフューズドシリカのキャピラリーから流速20nL/分でエレクトロスプレーする工程を記述している。具体的には、API質量分析計のイオンサンプリングオリフィスから1〜2mm離して、600〜700Vで、内径2μm、外径5μmの引き伸ばしたフューズドシリカのキャピラリーから、20nL/分のナノエレクトロスプレーが達成された。
【0028】
Ramseyらは、Anal. Chem.、1997年、69号、1174〜1178頁において、電気浸透流を用い、チップの端部をAPI質量分析計のイオンサンプリングオリフィスから3〜5mm離した、エレクトロスプレー用マイクロチップの端部上の閉鎖分離チャネルから出た液体に4.8kVを印加して、深さ10μm、幅60μm、長さ33mmの閉鎖分離チャネルを有する板状ガラスマイクロチップの端部から放出される、90nL/分のナノエレクトロスプレーを記述している。テイラーコーンおよびマイクロチップ端部から放出される安定したナノエレクトロスプレーが形成される前に、約12nLのサンプル液体がチップの端部に集まる。しかし、約12nLのサンプル液体が集合すると、液体の再混合を招き、ゆえに分離チャネルで行われた分離を取り消してしまう。再混合してしまうと、マイクロチップの端部での帯域広幅化を起こし、基本的に被分析試料検出用ナノエレクトロスプレー質量分析計への適用を制限してしまう。それゆえ、キャピラリー電気泳動による分離またはキャピラリー電気クロマトグラフィーによる分離後のこのマイクロチップ素子の端部からのナノエレクトロスプレーは、非実用的となる。さらに、この素子は表面が平坦であり、それゆえ隆起が比較的少量であるので、電界線濃度が不十分なため、この素子は、エレクトロスプレーを形成する場合、エレクトロスプレーを開始するために非実用的な高電圧を必要とする。
【0029】
Xue, Q.;Foret, F.;Dunayevskiy, Y. M.;Zavracky, P. M.;McGruer, N. E.;Karger, B. L.は、Anal. Chem.、1997年、69号、426〜430頁において、深さ25μm、幅60μmおよび長さ35〜50mmの閉鎖チャネルによりチップの端部をAPI質量分析計のイオンサンプリングオリフィスから3〜8mm離して、エレクトロスプレー形成用マイクロチップの端部上の閉鎖分離チャネルから出た液体に4.2kVを印加することによって板状ガラスマイクロチップの端部からの安定なナノエレクトロスプレーを行うことを記述している。シリンジポンプを用いて、ガラスマイクロチップエレクトロスプレイヤーに100〜200nL/分の間の流速でサンプル液体を移送する。ガラスマイクロチップの端部には疎水コーティングが施され、平坦面からのナノエレクトロスプレーに付帯する難点を軽減している。疎水コーティングは、ナノエレクトロスプレーの安定性をわずかに向上させる。平坦面からのこの方法によるエレクトロスプレーは、またしても電界線濃度を不十分にし、かつエレクトロスプレーを非効率的にする。
【0030】
Desaiらは、1997 International Conference on Solid-State Sensor and Actuator, シカゴ、1997年6月16〜19日、927〜930頁において、直径または幅1〜3μmおよび長さ40μmのシリコンマイクロチップの端部上にノズルを生成する多工程処理およびAPI質量分析計のイオンサンプリングオリフィスから0.25〜0.4mm離したマイクロチップ全体に4kVを印加することを記載している。このナノエレクトロスプレーノズルは、サンプル液体のデッドボリュームを減らす。しかし、マイクロチップの端部からノズルを延長すると、ノズルを不慮の破損にさらす。比較的高いスプレー電圧を用いており、ノズルが質量分析計のサンプリングオリフィスに非常に近接して配置されているので、電界線濃度が不十分となり、エレクトロスプレーが低効率となった。
【0031】
前述の装置の全てにおいて、チップの端面の物理的形状を厳密かつ繰り返し測定することができないので、モノリシックチップからの端部スプレー法は、不十分に制御された方法となる。端部スプレー法の別の実施態様において、延伸キャピラリーの小切片等の放出ノズルは、分離し、かつ独立してチップの端部に取り付けられる。この方法は、固有的にコスト的に非効率でかつ信頼性がなく、チップの設計において空間上制限を強いり、ゆえに工業生産には不向きである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
したがって、制御可能なスプレー法を具えたエレクトロスプレーイオン化装置ならびにこのような装置の製造方法で、大容量で容易に再現可能および工業生産可能な方法も望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明は、再現可能、制御可能かつ頑強な、液体のナノエレクトロスプレーイオン化のためのシリコンマイクロチップ系のエレクトロスプレー装置を提供する。該エレクトロスプレー装置は、エレクトロスプレーした液体の分析用大気圧イオン化質量分析計(API−MS)を下流に接続し、および/または小型化した液相分離装置を上流に接続することができ、該分離装置は、例えばガラス、プラスチックまたはシリコンの基板またはウエハースを有することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明のエレクトロスプレー装置は、注入面上の入口オリフィスと放出面(主要面)上のノズルとの間のチャネルを画定したシリコンの基板またはマイクロチップを通常含み、エレクトロスプレー装置により発生したエレクトロスプレーが、通常放出面に対し概ね垂直となるようにする。ノズルは、内径と外径を有し、放出面より窪んだ環状部により画定される。環状の窪みは、外径から放射状に延びる。ノズルの先端は、放出面と同一平面または同一高さにあり、放出面を超えることはなく、ゆえにノズルは偶発的破損から保護されている。ノズル、チャネルおよび窪み部を、反応性イオンエッチングおよび他の標準的半導体製造技術によりシリコン基板からエッチングする。
【0035】
シリコン基板の全ての面は、好ましくは酸化により作られたニ酸化ケイ素層をその上に有して、異なるポテンシャル電圧を各面および液体サンプルに独立的に印加することができるように、基板から液体サンプルを、ならびに放出面および注入面をお互いから電気的に絶縁する。また、二酸化ケイ素層は生態適合性を具える。さらに、エレクトロスプレー装置は、酸化物層を通して基板と電気的に接触した、基板に電位を印加するための少なくとも1つの制御電極を含む。
【0036】
好ましくは、ノズル、チャネルおよび窪みを、反応性イオンエッチングおよび他の標準的半導体製造技術によりシリコン基板からエッチングする。注入側素子、基板貫通液体チャネル、放出側素子および制御電極は、単結晶シリコン基板からモノリシック的に形成される。すなわち、個別の部品を操作または組み立てることを必要とせずに順次加工する途中にまたは結果として、これらが形成される。
【0037】
エレクトロスプレー装置は、反応性イオンエッチングおよび他の標準半導体製造技術を用いて製造されるので、このような装置の大きさを非常に小さく、例えば、内径2μmおよび外径5μmもの小ささにすることができる。したがって、例えば、内径5μmおよび高さ250μmのノズルは、4.9pL(ピコリットル)の体積しか有しない。対照的に、ガラスマイクロチップの平坦端からのエレクトロスプレー装置は、19.8nLの分離チャネルの体積に対し、12nLのさらなるデッドボリュームを導入し、それゆえ液体成分の再混合を起こし、かつ分離チャネルで行った分離を取り消してしまう。マイクロメーターサイズの大きさのエレクトロスプレー装置は、デッドボリュームを最小限にし、それゆえ効率および分析感度を増加させる。
【0038】
本発明のエレクトロスプレー装置は、エレクトロスプレーの効率的で効果的な形成を提供する。マイクロメートルのオーダーの大きさで液体を放出するエレクトロスプレー面を具えることにより、エレクトロスプレー装置はテイラーコーンを作るのに必要な電圧を制限する。必要な電圧は、ノズル直径、液体の表面張力および取り出し電極からのノズルの距離により決まるからである。エレクトロスプレー装置のノズルは、大きな電界が集中するマイクロメートルのオーダーの物理的隆起を与える。さらに、エレクトロスプレー装置は、放出面上に付加電極を具えてもよく、該付加電極に、電位を印加し、かつ液体および取り出し電極の電位とは独立に制御して、電界を有利に変更し、かつ最適化する。それゆえ、ノズルと付加電極とを組み合わせることによって、ノズルと取り出し電極の間の電界を増強する。10V/m以上のオーダーで、液体と取り出し電極の間の電位差により発生した大きな電界は、空間に均一に分配せずに、液体コーンに直接印加される。
【0039】
本発明のマイクロチップ系のエレクトロスプレーイオン化装置により、カラム外体積を減少させた結果として、カラム外分散が最小になり、かつ効率的、再現可能、高信頼および厳格なエレクトロスプレーを形成する。イオン化装置の構成も頑強であるので、エレクトロスプレー装置を費用効率が高く、収率の高い方法で容易に大量生産することができる。
【0040】
作動中、導電性または半導電性液体サンプルは、注入面上の入口オリフィスと通してチャネルに導入される。エレクトロスプレー装置への液体分配チャネル内の電線を用い、または周辺の表面領域および基板から絶縁された注入面上に形成された電極を用い、液体に印加されているポテンシャル電圧に液体サンプルおよびノズルを保持する。基板および/または放出面に電圧、好ましくは液体に印加した電圧の概ね半分未満の電圧を加えることにより、ノズル先端の電界強度を増強する。したがって、液体/ノズルおよび基板/放出面の電圧を独立に制御することにより、本発明のエレクトロスプレー装置は、ノズルから発する電界線の最適化を可能にする。さらに、エレクトロスプレー装置の下流を質量分析装置に接続した場合、液体/ノズルおよび基板/放出面電圧の独立制御により、質量分析装置の許容領域内にエレクトロスプレーを向け、かつ最適化することも可能にする。
【0041】
本発明のエレクトロスプレー装置は、API質量分析計から1〜2mmまたは最大10mmの位置に置き、20nL/分もの低流速で、例えばノズルに700Vの電圧を印加し、かつシリコンマイクロチップの基板および/または板状放出面に0〜350Vの電圧を印加して、安定なナノエレクトロスプレーを確立する。
【0042】
標準的で、十分に制御された薄層処理を用いたシリコン加工により、このような微小な部品の取扱いが排除できるだけでなく、機能的に似た素子を迅速に並列で処理することも可能となるので、本発明の複数のエレクトロスプレー装置のアレイまたはマトリックスを、単一のマイクロチップ上に製造することができる。ノズルは、チップの中心付近で比較的小さな直径を有する円の周りに放射状に配置することができる。したがって、本発明のエレクトロスプレー装置は、時間および費用効率、制御、ならびに再現性において顕著な優位性を与える。これらのエレクトロスプレー装置は低コストであるので、使い捨てが可能となり、異なる液体サンプルからの交差汚染を排除することができる。
【0043】
本発明のエレクトロスプレー装置は、上流を小型化液体サンプル取扱い装置で一体化し、および下流をAPI質量分析計で一体化されることができる。エレクトロスプレー装置は、例えば、キャピラリー電気泳動、キャピラリー電気クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー(LC)またはその他の濃縮相分離技術を実施可能な、シリコンマイクロチップ系液体分離装置に、チップ対チップで、またはウエハー対ウエハーで接合してもよい。エレクトロスプレー装置はまた、適当な方法によりガラスおよび/またはポリマー系の液体分離装置に接合してもよい。
【0044】
本発明の別の態様において、マイクロチップ系の液体クロマトグラフィー装置を提供することができる。液体クロマトグラフィー装置は、入口オリフィスとリザーバーの間に導入チャネルを、リザーバーと出口オリフィスの間に分離チャネルを画定する分離基板またはウエハーを一般的に含む。分離チャネルは、分離チャネルの側壁から分離チャネルを流れる液体に垂直な方向に分離柱状体が設けられている。好ましくは、分離柱状体は、分離基板の表面を超えず、かつ好ましくは分離基板の表面と同一面であるか、または高さが分離基板と同じで、製造工程中の偶発的損傷から守られている。成分の分離は分離チャネル内で行われ、分離チャネルを流れる液体の相互反応のために大きな表面積を与えることにより、分離柱状体は液体クロマトグラフィーの役目をする。カバー基板を分離基板に接合して、カバー基板に隣接するリザーバーおよび分離チャネルを密封する。
【0045】
液体クロマトグラフィー装置は、電位を液路に沿った場所で液体に印加するための、1つまたは複数の電極を更に含むことができる。液路に沿って異なる電位を印加することにより、流路の液流を促進することができる。
【0046】
導入および分離チャネル、入口および出口オリフィスならびに分離柱状体を、好ましくは、反応性イオンエッチングおよび他の標準的半導体製造技術によりシリコン基板からエッチングする。分離柱状体は、好ましくは酸化したシリコンの柱状体で、化学的に変化してサンプル液体の成分と固定分離柱状体との相互反応を最適化することができる。
【0047】
本発明の別の態様において、液体クロマトグラフィー装置は、エレクトロスプレー装置と一体化され、液体クロマトグラフィー装置の出口オリフィスがエレクトロスプレー装置の入口オリフィスと均一な界面を形成し、それゆえエレクトロスプレーを発生させるための、液体クロマトグラフィー装置からエレクトロスプレー装置への液体のオンチップ移送を可能にする。エレクトロスプレー装置のノズル、チャネルおよび窪み部は、液体クロマトグラフィー装置のカバー基板からエッチングしてもよい。
【0048】
本発明のさらに別の態様において、複数の液体クロマトグラフィーシステムを単一チップ上に形成して、後の順次分析するための共有点まで多数のサンプルを移送することができる。エレクトロスプレー装置の複数のノズルを、単一チップの中心付近に比較的小さな半径を有する円周辺に放射状に配置することができる。
【0049】
多システムチップ上の放射状に分配されたエレクトロスプレーノズルアレイは、サンプルオリフィスの近くにノズルを置くことにより、質量分析計のサンプリングオリフィスと接続することができる。エレクトロスプレーノズルの密集した放射状配置により、エレクトロスプレーノズルを質量分析計のサンプリングオリフィスと非常に近接して配置することが可能となる。
【0050】
したがって、マルチシステムチップは、マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)技術を用いて加工した、迅速順次化学分析システムを提供する。例えば、マルチシステムチップは、多数のサンプルを自動化により順次分離および注入することを可能にし、結果として、例えば、医薬の発見のために化合物を高処理検出するために、質量分析機器を著しく大きな分析処理能力により利用をすることになる。
【0051】
本特許出願には、少なくとも1つの彩色した図面を含む。カラー図面を付した本特許出願の写しは、請求と必要な費用の支払いにより、特許商標庁から提供されるであろう。
【0052】
本発明の一態様において、液体サンプルのエレクトロスプレーイオン化を発生するためのシリコンマイクロチップ系のエレクトロスプレー装置を提供する。エレクトロスプレー装置は、下流でエレクトロスプレーされた液体の分析用の大気圧イオン化質量分析計(API−MS)に接続してもよい。本発明の別の態様は、例えば、エレクトロスプレー装置と一体のガラス、プラスチックまたはシリコン基板を有することができる一体化された小型液相分離装置である。以下の説明では、液体クロマトグラフ分離装置に関連して本発明を提示する。しかし、他のマイクロチップ系の分離装置を用いて同様の装置を作ることができるのは、容易に認識されよう。以下の説明は、当業者の誰もが本発明を作りかつ利用することができるようにするものである。具体的な用途に関する記述は、単に例として挙げたものである。好ましい実施態様を様々に変更することは当業者には容易に理解でき、ここで明示した一般原理は、本発明の精神と範囲を離れることなく、他の実施態様および用途に適用することができる。したがって、本発明は、提示した実施態様に制限されるものではなく、ここに開示した原理と特徴と合致した最も広範な範囲を与えられるべきものである。
【0053】
(エレクトロスプレー装置)
図2〜4は、それぞれ、本発明のエレクトロスプレー100の斜視図、平面図および横断面図である。本発明のエレクトロスプレー装置は、基板102を貫通し、注入面108上の入口オリフィス106と放出面112上のノズル110との間のチャネル104を画定するシリコン基板またはマイクロチップまたはウエハー102を通常含む。チャネルは、円形または長方形等の任意の好適な断面形状を有することができる。ノズル110は、内径および外径を有し、窪み領域114により画定される。領域114は、放出面112から窪み、ノズル110から外向きに延び、かつ環状とすることができる。ノズル110の先端は、放出面112を超えず、好ましくは放出面と同一平面または同じ高さとし、よって不慮の破損からノズル110を保護する
【0054】
好ましくは、注入面108は放出面112の反対側にある。しかし、図示していないが、注入面が放出面に隣接し、入口オリフィスとノズルの間に延びるチャネルが装置内で向きを変えていてもよい。このような構造において、エレクトロスプレーは互いに接合した2つの基板を含む。第1基板は、接合面と接合面の反対側の放出面との間に延びる基板貫通チャネルを画定することができる。第1基板はさらに、基板貫通チャネルおよび注入面のオリフィスから延びる、接合面から窪んだ開放チャネルを画定し、第1基板と第2基板の接合の際に、第2基板の接合面が開放チャネルを密封することができる。または、第2基板は、接合面から窪んだ開放チャネルを画定し、第1基板と第2基板の接合の際に、第1基板の接合面が開放チャネルを密封することができる。さらに別の変形としては、第1基板はさらに、第2の基板貫通チャネルを画定し、開放チャネルが2つの基板貫通チャネルの間に延びることができる。したがって、注入面は放出面と同じ面である。
【0055】
放出面112のグリッド面領域116は、ノズル110および窪み領域114の外部にあり、電位を基板102に印加してノズル先端110を含む放出面112と取出電極54との間の電界パターンを変更するために、導電性電極120を含む導電性材料119の層をその上に形成した面を具えることができる。または、導電性電極を、注入面118(図示せず)上に設けてもよい。
【0056】
エレクトロスプレー装置100は、さらに基板102の表面を覆う二酸化ケイ素層118を含み、電極120はこの層を通して基板102と放出面112または注入面108のいずれかで接触している。チャネル104の壁に形成された二酸化ケイ素層118は、シリコン基板102から内部の液体を電気的に絶縁し、ゆえにチャネル104内の液体およびシリコン基板102に対する異なる電位の独立した印加および維持を可能にする。液体および基板の電位を独立して変えることができるので、以下に述べるように、電界線パターンを変更してエレクトロスプレーを最適化することができる。または、所定の用途に適当であれば、基板102を液体と同じ電位に制御することもできる。
【0057】
図5に示す通り、エレクトロスプレーを発生するために、例えば、キャピラリー52またはマイクロピペットにより、エレクトロスプレー装置100の入口オリフィス106に液体を移送することができる。キャピラリー52もしくはチャネル104内に置いた電線(図示せず)または注入面108上に設け、表面領域および基板102から絶縁された電極(図示せず)を介して、液体にポテンシャル電圧Vfluidを加える。グリッド面116上の電極120にポテンシャル電圧Vsubstrateを印加することも可能で、その大きさは、エレクトロスプレー特性を最適化するために可変であることが好ましい。液体は、チャネル104を流れ、非常に微細な、高荷電した液滴58の形でノズル110から出るかまたは放出される。エレクトロスプレーが電界の影響下で取出電極54に向かって引き出されるようなポテンシャル電圧Vextractに電極54は保持される。電界に影響を与える相対電位であるので、液体、基板および取出電極の電位を容易に調整および変更して所望の電界を得ることができる。一般的に、電界の強さは、周囲の媒体、典型的には空気の誘電破壊強度を超えるべきではない。
【0058】
実施態様の1つにおいて、ノズル110は、取出電極54の役目を果たす、API質量分析計のサンプリングオリフィスから最大10mmまで離して置くことができる。約500〜1000Vの範囲で、例えば700Vのポテンシャル電圧Vfluidを液体に印加する。液体のポテンシャル電圧Vfluidは、基板102の表面上の二酸化ケイ素に関して最大500V/μmとすることができ、かつスプレーされた液体の表面張力およびノズル110のジオメトリーにより決まる。液体のポテンシャル電圧Vfluidのおよそ半分未満、すなわち0〜350Vである基板のポテンシャル電圧Vsubstrateをグリッド面116上の電極に印加して、ノズル110先端の電界強度を増強する。取出電極54を、地電位Vextract(0V)またはその付近で保持する。したがって、1,000nL/分未満の流速でエレクトロスプレー装置100に導入される液体のナノエレクトロスプレーは、電界の影響下で取出電極54に向けて引き出される。
【0059】
ノズル110は、効率的なエレクトロスプレーを得るために、ノズル110から発せられる電界線を集中するための物理的隆起を具える。また、ノズル110は、基板貫通チャネル104の延長を形成し、出口オリフィスの役目を果たす。さらに、窪み領域114は、ノズル110を放出面112のグリッド面領域116から物理的に分離し、それによって電界線の集中を促進し、かつノズル110とグリッド面116との間を電気的に絶縁する役目を果たす。本発明は、液体およびノズル110のポテンシャル電位Vfluidならびに放出面112のグリッド面116上の電極のポテンシャル電位Vsubstrateの独立制御を通して、ノズル110から発せられる電界線の最適化を可能にする。
【0060】
電極120に加え、1つまたは複数の付加導電性電極を基板102の放出面112上の二酸化ケイ素層118上に具えてもよい。図6および7は、それぞれエレクトロスプレー装置100’の一例の平面図および断面図を示す。ここで、導電性層119が基板102の放出面112上に3つの付加電極122、124、126を画定している。放出面112上の二酸化ケイ素層118はシリコン基板102を放出面112上の付加電極122、124、126から電気的に絶縁しており、付加電極122、124、126は互いに物理的に分離しているので、各付加電極122、124、126に印加する電位は、お互いから、基板102からおよび液体から独立して制御することができる。したがって、付加電極122、124、126を用いて電界線パターンをさらに変更し、例えば、エレクトロスプレーの操舵および/または成形を行うことができる。同じ大きさと形状に描かれているが、電極120および付加電極122、124、126は、同じまたは異なる、適当な形状および大きさのいずれであってもよい。
【0061】
エレクトロスプレーをさらに制御および最適化するために、図8に示すフィードバック制御回路130もエレクトロスプレー装置100に具えることができる。フィードバック回路130は、至適スプレー性状設定ポイント132、比較器および電圧制御器134ならびに1つまたは複数のスプレー性状センサー136を含む。至適スプレー性状設定ポイント132は、オペレーターにより、または既定もしくは初期値に設定される。1つまたは複数のスプレー性状センサー136は、エレクトロスプレー装置100からのエレクトロスプレーの1つまたは複数の所望の性状、例えばエレクトロスプレーイオン流および/またはスプレーパターンの空間的濃度等、を検出する。スプレー性状センサー136は、エレクトロスプレーの所望の性状値を示す信号を比較器および電圧制御器134に送り、所望の性状を示す値と至適スプレー性状設定ポイント132と比較する。次に、比較器および電圧制御器134は、ポテンシャル電圧Vfluid、Vsubstrateをそれぞれ液体およびシリコン基板102に供給する。ポテンシャル電圧Vfluid、Vsubstrateを独立して変えて、所望のスプレー性状を最適化することができる。図示していないが、比較器および電圧制御器134は、独立して制御された付加ポテンシャル電圧を1つまたは複数の付加導電性電極のそれぞれに供給することができる。
【0062】
フィードバック回路130を、適当な方法のいずれかでエレクトロスプレー装置100に接続することができる。例えば、フィードバック回路130を、エレクトロスプレー装置100上の一体化回路、エレクトロスプレー装置100に電気的に接続した分離一体化回路、またはエレクトロスプレー装置の基板と電気的に接続した共用基板上にある個別部品として構成することができる。
【0063】
エレクトロスプレー装置100を接続もしくは一体化する上流および/または下流の装置と同時に、具体的な用途、配置設計等の種々の要因により、エレクトロスプレー装置100の大きさを決めることができる。さらに、チャネルおよびノズルの大きさを、液体サンプルの所望の流速のために最適化することができる。反応性イオンエッチング技術の使用により、例えば内径2μm、外径5μmの小径ノズルの再現可能で費用効果のある生産を可能にする。
【0064】
現在好適な実施態様の一つにおいて、エレクトロスプレー装置100のシリコン基板102の厚さは約250〜600μmであり、チャネル104の断面積は約50,000μm未満である。チャネル104の断面が円形である場合、チャネル104およびノズル110の内径は最大250μm、より好ましくは最大145μmであり、ノズル110の外径は最大255μm、より好ましくは最大150μmであり、ノズル110の高さ(および窪み部114の深さ)は最大500μmである。窪み部114が、好ましくはノズル110から外方向に最大1000μm延びる。二酸化ケイ素層118の厚さは、約1〜4μm、好ましくは1〜2μmである。
【0065】
(エレクトロスプレー装置の加工手順)
図9〜20Bを参照しながら、エレクトロスプレー装置100の加工について説明する。好ましくは熱酸化、写真平板、反応性イオンエッチング(RIE)、イオンインプランテーション、および金属付着等の、確立され、良く制御された薄膜シリコン加工技術を用いて、モノリシックシリコン一体化回路としてエレクトロスプレー装置100を加工する。このようなシリコン加工技術を用いた加工は、同じ装置の大量並列処理を容易にし、時間的、コスト的に有効であり、重要な寸法の厳密な制御を可能にし、容易に再現可能であり、および結果として全体が一体の装置となり、したがって、いかなる組み立ての必要性も無くす。さらに、加工手順を容易に延長して、エレクトロスプレー装置の注入面および/または放出面上に物理的外観または特徴を作成し、液体移送システムへの接続および連結を容易にし、または液体移送副システムとの一体化を容易にして単体一体化システムを作ることができる。
【0066】
(注入面の処理:入口からウエハー貫通チャネルまで)
本発明のエレクトロスプレー装置100の加工における基板の注入側の処理工程を図9A〜11に示す。平面図9Aおよび断面図9Bをそれぞれ参照して、両面研磨シリコンウエハー基板200は、酸化環境内で高温に晒され、基板200の注入側203に二酸化ケイ素の層またはフィルム202を、および放出側205に二酸化ケイ素の層またはフィルム204を形成する。生成した二酸化ケイ素層202、204の各々の厚さは、約1〜2μmである。二酸化ケイ素層202、204は、電気的絶縁を付与され、またシリコン基板200の特定の領域の後の選択的エッチングのマスクの役目をする。
【0067】
基板200の注入面203上の二酸化ケイ素層202上に、ポジ型フォトレジストのフィルム206を蒸着する。ウエハー貫通チャネルへの入口に対応するフォトレジストの領域206は、後にエッチングされるが、波長が365、405または436ナノメートルの青または近紫外等の短波長光を透過する光学リトグラフ露光ツールにより、マスクを通して選択的に露光される。
【0068】
平面図10Aおよび断面図10Bにそれぞれ示す通り、フォトレジスト206を現像した後、非感光領域をフォトレジスト206’で保護したまま、フォトレジストの感光領域208を取り除き、下にある二酸化ケイ素層202まで開口する。二酸化ケイ素層202の感光領域210を、保護フォトレジスト206’に対しては高度の異方性および選択性を持って、フッ素系のプラズマによりシリコン基板200に達するまでエッチングする。残存フォトレジストを、酸素プラズマまたは過酸化水素(H)により活性化した硫酸(HSO)等の活性酸化化学薬品浴内で取り除く。
【0069】
断面図11に示す通り、シリコン基板200の貫通チャネルの注入側部212を別のフッ素系のエッチングにより垂直にエッチングする。ここで説明する加工方法の利点は、アスペクト比(深さ対幅)等の貫通チャネルの寸法を正確かつ再現可能に制限および制御できることである。加工する機器のエッチングアスペクト比が制限因子である場合、まずウエハーの片側をエッチングし、次にウエハーの反対側をエッチングすることにより、この制限を克服することが可能である。例えば、現行のシリコンエッチング処理では、一般にエッチングアスペクト比が30:1に制限されるので、慣用的な厚さが約250〜600μmである基板200を貫通する直径約10μm未満のチャネルを、基板200の両面からエッチングする。
【0070】
基板200の放出側205からエッチングされる貫通チャネルのもう一つの部分と連結するために、チャネル部212の深さを最小値以上とすべきである。放出側205上の窪み領域114の望ましい深さにより、チャネル104の放出側部220がどれだけ深くエッチングされるかが概ね決まる。チャネル104の残部、注入側部212を注入側からエッチングする。正確なエッチング深さが最小エッチング深さ以上であることは、エレクトロスプレー装置の装置性能または収率に影響しないが、チャネル部212の最小深さは典型的には50μmである。
【0071】
(放出面処理:ノズルおよび周辺面の構造)
本発明のエレクトロスプレー装置100の加工における基板200の放出側205の処理工程を図12〜20Bに示す。図12の断面図に示す通り、ポジ型フォトレジスト214のフィルムを基板200の放出側205上の二酸化ケイ素層204上に析出させる。放出側205上のパターンを、基板200の注入側203上に先に形成されたパターンに揃える。シリコンおよびその酸化物は、赤外波長スペクトル領域、すなわち70〜1000ナノメートルにおいて、光に対して固有的相対的に透明であるので、注入側203の残存パターンは、パターンを施した注入側203から基板200に赤外光を照射することにより、十分明確に識別することができる。したがって、放出側205用のマスクを要求される許容度内にあわせることができる。
【0072】
パターンを揃えた後、ノズルおよび窪み部に対応するフォトレジスト214の特定の領域を、波長が365、405、436ナノメーターの青または近紫外等の短波長光を透過する光学リトグラフ露光ツールにより放出側のマスクを通して選択的に露光する。平面図13Aおよび断面図13Bにそれぞれ示すように、次いでフォトレジスト214を現像してフォトレジストの感光領域を取り除き、未感光領域をフォトレジスト214’で保護したまま、ノズル領域216および窪み領域218を下にある二酸化ケイ素層202まで開口する。二酸化ケイ素層204の感光領域216、218を、次いで、保護フォトレジスト214’に対しては高度の異方性および選択性を持って、フッ素系プラズマにより二酸化ケイ素層200に到達するまでエッチングする。
【0073】
断面図14に示す通り、次のフッ素系のシリコンエッチングによりシリコン基板200の放出側205にあるパターンを垂直にエッチングする間、残存フォトレジスト214’はさらなるマスキングになる。次いで、残存フォトレジスト214’を酸素プラズマまたは過酸化水素(H)により活性化した硫酸(HSO)等の活性酸化化学薬品浴内で取り除く。
【0074】
チャネル104の放出側部220を形成することにより、フッ素系エッチングは、シリコン基板200を貫通したチャネル104を作る。フッ素系エッチングは、放出ノズル110、ノズル110外側の窪み領域114およびノズル110と窪み領域114の外側のグリッド面領域116も作る。好ましくはグリッド面領域116をノズル110の先端と同一平面とし、ノズル110を不用意な磨耗、取扱い時の応力破砕および/または偶発的破損から保護する。グリッド面領域116は、1つまたは複数の導電性電極を設ける台としての役目も果たす。
【0075】
組み立ての必要無く、単結晶シリコン基板からエレクトロスプレー装置の素子をエッチングすることにより、この加工手順は加工されたエレクトロスプレー装置に優れた機械的安定性を付与する。この加工手順は、注入側および放出側シリコンエッチングの相対量を調節することにより、ノズル高の制御を可能とする。さらに、窪み部114の横方向の広がりおよび形状をその深さと独立して制御することが可能である。この深さは、ノズル高に影響し、かつ基板の放出側のエッチング範囲により決まる。窪み部114の横方向の広がりおよび形状の制御により、エレクトロスプレー装置100と取出電極の間の電界パターンを変更および制御することができるようになる。
【0076】
(電気的絶縁のための酸化)
断面図15に示す通り、シリコン基板200を酸化環境中で高温に晒すことにより、二酸化ケイ素層221を基板200の全シリコン面上に育成する。例えば、酸化環境は、二酸化ケイ素厚がおよそ数百ナノメーターより大きい場合には水素を酸化して作った超純粋水蒸気、または二酸化ケイ素厚がおよそ数百ナノメーター以下の場合には純粋酸素とすることができる。基板200の全シリコン表面を覆う二酸化ケイ素層221により、チャネル内の液体がシリコン基板200から電気的に絶縁され、チャネル104内の液体およびシリコン基板200に対する異なる電位の印加および維持が可能となる。
【0077】
全シリコン表面が酸化され、酸化の温度と時間を選択することにより制御可能な厚さを持った二酸化ケイ素が形成される。二酸化ケイ素の最終的な厚さを選択して、装置の所望の電気的絶縁度を得ることができる。二酸化ケイ素層が薄いほど、電気的絶縁破壊に対する抵抗が高くなる。
【0078】
(電界制御のための金属処理)
図16〜20Bは、基板200の放出側205上の、基板200に電気的に接続した単一の導電性電極の構成を示す。断面図16に示す通り、ポジ型フォトレジスト222のフィルムを基板200の放出側205上の二酸化ケイ素層を覆って析出させる。電極と基板200の間の電気的に接触する領域に対応するフォトレジスト領域222を、波長が365、405、436ナノメーターの青または近紫外等の短波長光を透過する光学リトグラフ露光ツールにより別のマスクを通して選択的に露光する。
【0079】
次にフォトレジスト222を現像してフォトレジストの感光領域224を取り除き、未感光領域をフォトレジスト222’で保護したまま、電極と基板200の間の電気的に接触する領域を下にある二酸化ケイ素層204まで開口する。断面図17に示す通り、二酸化ケイ素層204の感光領域224を、次いで保護フォトレジスト222’に対しては高度の異方性および選択性を持って、フッ素系プラズマにより二酸化ケイ素層200に到達するまでエッチングする。
【0080】
ここで断面図18を参照する。次いで、残存フォトレジストを酸素プラズマまたは過酸化水素(H)により活性化した硫酸(HSO)等の活性酸化化学薬品浴内で取り除く。パターンの施された放出側二酸化ケイ素層204をマスクとして利用し、高容量埋め込みを行い、埋め込み領域225を形成して、電極と基板200の間が低抵抗電気的接触であることを確保する。アルミニウム等の導電性フィルム226が、熱または電子ビーム蒸発により基板200の放出側205上に均一に析出し、電極120を形成する。明確にするために厚さを大きく描いているが、導電性フィルム226の厚さは、好ましくは約3000Åである。
【0081】
放出ノズル110の側壁上に導電性材料の連続フィルムを作らないのであれば、任意の方法により導電性フィルム226を作ることができる。このような連続フィルムは、チャネル104内の液体と基板200とを電気的に接続し、それぞれの電位の独立制御を妨げる。例えば、導電性材料の熱または電子ビーム蒸発により導電性フィルムを作ることができるが、呈した面の視線方向(line-of-sight)に析出を招く。放出ノズル110の側壁が蒸発源の視線方向外になるように基板200を向けることにより、導電性材料が放出ノズル110の側壁上に連続フィルムとして析出しないようにする。プラズマ内での導電性材料のスパッタリングは、全面に導電性材料の析出を招き、かつ故に好ましくないという析出技術の例である。
【0082】
図6および7を参照して前述したように、1つまたは複数の付加導電性電極を基板200の放出側205上に容易に形成することができる。断面図19に示す通り、ポジ型フォトレジスト228を基板200の放出側205上の導電性フィルム226を覆って析出させる。電極間の物理的空間に対応するフォトレジスト228の特定の領域を波長が365、405、436ナノメーターの青または近紫外等の短波長光を透過する光学リトグラフ露光ツールにより別のマスクを通して選択的に露光する。
【0083】
ここで平面図20Aおよび断面図20Bを参照する。フォトレジスト228を現像してフォトレジストの感光領域230を取り除き、未感光領域をフォトレジスト228’で保護したまま、感光領域を下にある二酸化ケイ素層204まで開口する。導電性フィルム226の感光領域230は、次いで、湿式化学エッチングまたは反応性イオンエッチングの、特定の導電性材料に適当ないずれかを用いてエッチングする。エッチングは、下にある二酸化ケイ素層204に選択的であるか、またはエッチングの速度および時間を基に終了されるかのいずれかである。最後に、酸素プラズマ中で残存フォトレジストを取り除く。
【0084】
下にある二酸化ケイ素層204に対して導電性フィルム226をエッチングすることは、導電性材料または電極の物理的および電気的離島を結果的に生じる。前述の通り、これらの電極をシリコン基板またはチャネル液体と独立に制御することができる。なぜなら、これらは、二酸化ケイ素により基板から、および物理的分離によりお互いから電気的に絶縁されているからである。これらを用いて、さらに電界線パターンを変更し、よってエレクトロスプレー液体の操舵および/または成形をすることができる。この工程により、エレクトロスプレー装置100の処理および加工手順が終了する。
【0085】
前述の通り、エレクトロスプレー装置の基板に電位を印加するための導電性電極を放出面ではなく注入面上に設けてもよい。加工手順は、基板200の放出側205上に導電性電極を設ける手順と同様である。図20C〜20Gは、基板200の注入側203上の基板200に電気的に接続した単一導電性電極の形成を図示したものである。
【0086】
断面図20Cに示した通り、ポジ型フォトレジスト232の薄層を基板200の注入側203上の二酸化ケイ素層を覆って析出させる。電極と基板200の間の電気接触領域に対応するフォトレジスト232の領域を、波長が365、405、436ナノメーターの青または近紫外等の短波長光を透過する光学リトグラフ露光ツールにより別のマスクを通して選択的に露光する。
【0087】
次にフォトレジスト232を現像してフォトレジストの感光領域234を取り除き、未感光領域をフォトレジスト232’で保護したまま、電極と基板200の間の電気的に接触する領域を下にある二酸化ケイ素層202まで開口する。断面図20Dに示す通り、二酸化ケイ素層202の感光領域234を、次いで保護フォトレジスト232’に対しては高度の異方性および選択性を持って、フッ素系プラズマにより二酸化ケイ素層200に到達するまでエッチングする。
【0088】
ここで断面図20Eを参照する。次いで、残存フォトレジストを酸素プラズマまたは過酸化水素(H)により活性化した硫酸(HSO)等の活性酸化化学薬品浴内で取り除く。パターンの施された放出側二酸化ケイ素層202をマスクとして利用し、高容量埋め込みを行い、埋め込み領域236を形成して、電極と基板200の間が低抵抗電気的接触であることを確保する。アルミニウム等の導電性フィルム238を、熱または電子ビーム蒸発により基板200の放出側203上に均一に析出し、電極120’を形成する。
【0089】
エレクトロスプレーの放出面上に導電性電極を形成するのとは対照的に、熱または電子ビーム蒸発の他に、スパッタリングを用いて注入面上に導電性電極を形成することができる。基板の注入側でなく放出側にノズルがあるので、注入側電極層がノズルまで延びて、ノズルと物理的に連続な、ゆえに電気的に導通な経路を作ることはなく、スパッタリングを用いて注入側上に電極を形成することができる。
【0090】
エレクトロスプレー装置の注入面上に電極を形成する際に、スパッタリングの方が蒸発よりも好ましいかもしれない。なぜなら、スパッタリングは、二酸化ケイ素層202を通して基板200までエッチングして、基板200に対する電気的連続性および確実な電気的接触を確保した感光領域234の側壁上に絶縁保護被覆を作る能力が高いからである。
【0091】
ある種の用途においては、注入側203上の入口オリフィス106に隣接した面の領域から導電性フィルム取り除くことにより、基板200とエレクトロスプレー装置内の液体との間の電気的絶縁を確保することが必要であるかもしれない。取り除くべき導電性フィルム238の範囲は、エッチング方法とは無関係であり、上流の液体移送システム/副システムとエレクトロスプレー装置の注入側との間の境界面を作るのに用いる具体的な方法により決めることができる。例えば、直径が約0.2〜2mmの間の導電性フィルム238を入口オリフィス106の周辺領域から取り除くことができる。
【0092】
断面図20Fに示す通り、ポジ型フォトレジスト240の別のフィルムを基板200の注入側203上の導電性フィルム238を覆って析出させる。注入側203上の入口オリフィス106に隣接した領域に対応するフォトレジスト領域240を、波長が365、405、436ナノメーターの青または近紫外等の短波長光を透過する光学リトグラフ露光ツールにより別のマスクを通して選択的に露光する。
【0093】
次にフォトレジスト240を現像してフォトレジストの感光領域242を取り除き、未感光領域をフォトレジスト240’で保護したまま、注入側203上の入口オリフィス106に隣接する領域を下にある導電性フィルム238まで開口する。断面図20Gに示す通り、導電性フィルム238の感光領域242を、次いで保護フォトレジスト240’に対しては高度の異方性および選択性を持って、塩素系プラズマにより二酸化ケイ素層203に到達するまでエッチングする。
【0094】
導電性フィルム238をエッチングする具体的な技術は、析出した具体的な導電性材料により決まる。例えば、標準アルミニウムエッチング液を用い湿式化学浴中、または反応性イオンエッチング(RIE)および塩素系化学組成を用いたプラズマ中のいずれかによりアルミニウムをエッチングしてもよい。標準湿式アルミニウムエッチング液を用いてアルミニウムフィルムをエッチングすることが好ましいかもしれない。このような湿式エッチングにより、入口オリフィス106を経由して、チャネル104内に析出した望ましくない導電性材料を取り除くことができるからである。さらに、塩素系反応性イオンエッチングを用いてもよいが、このようなエッチングは、フォトレジストの除去が遅れた場合、アルミニウムの腐食を招くかもしれない。
【0095】
注入側上に電極を形成して、エレクトロスプレー装置の基板に電位を印加することにより、いくつかの利点が生じる。例えば、非平面トポロジーにより表面上のフォトレジストを均一に被覆する能力は制限されるため、より平らな注入側上にフォトレジストを被覆する方が、放出側上のフォトレジストを被覆するよりも、より均一で連続的なフォトレジストフィルムとなる。フォトレジストの均一性および連続性は、直接的および肯定的に信頼性および収率に影響する。なぜなら、少なくとも部分的には、フォトレジスト被覆の欠損により、感光領域224、234のエッチングの際、望まない位置の二酸化ケイ素を続いてエッチングするからである。
【0096】
注入面上に電極を形成するもう一つの利点は、導電性材料析出工程における、柔軟性と信頼性がより高いことである。なぜなら、エレクトロスプレー装置の放出面上よりも注入面上に析出した導電性材料により、ノズルの内面が被覆されないからである。その結果、析出技術としてスパッタリングを用いて、導電性材料の絶縁保護被覆および表面から基板接点までの電気的連続性を確保することができる。さらに、注入面上に電極を設けることにより、放出側上の付加導電性電極の析出および模様付けを阻止せず、さらに電界線を変更して、例えばエレクトロスプレーの操舵および/または成形を行う。このような付加電極は基板と電気的に接触する必要がないからである。
【0097】
注入面上に電極を形成することが可能であることは、パッケージング等の物理的制約により放出側よりも注入側の電気的接触の必要性が決まる特定の用途においても有利であるかもしれない。
【0098】
前述のエレクトロスプレー装置100の加工手順は、単一モノリシック基板内に一体化した複数チャネルおよび/または複数放出ノズルを含む複数エレクトロスプレー装置を含む単一モノリシックシステムの同時加工に容易に適合、および適用することができる。さらに、例えば、単に配置設計の変更により、および/またはフォトマスクの極性の変更とポジ型フォトレジストの使用ではなくネガ型フォトレジストの使用により処理工程を変更して、同一または異なるエレクトロスプレー装置を加工することができる。
【0099】
さらに、加工手順を単一エレクトロスプレー装置の加工に関して説明しているが、この加工手順により同様の装置の大量並列処理が容易かつ可能になる。次いで、単一ウエハー上で大量並列処理して加工した複数エレクトロスプレー装置またはシステムを複数装置またはシステムに切断するか、そうでなければ分離することができる。
【0100】
エレクトロスプレー装置の接続または一体化
(エレクトロスプレー装置の下流接続または一体化)
具体的な用途によっては、エレクトロスプレー装置100を、下流をサンプリング装置に接続または一体化してもよい。例えば、輸送、分析および/または合成の目的で、被分析試料を表面上へエレクトロスプレーして表面を被覆するか、またはもう一つの装置内にエレクトロスプレーすることができる。図5を参照しながら前述した通り、エレクトロスプレー100により、ナノリットル規模の体積の被分析試料から、高荷電液滴が大気圧で作られる。高荷電液滴は、溶媒分子が十分に蒸発した場合に気相イオンを作り、例えば大気圧イオン化質量分析計(API−MS)のオリフィスを通して、エレクトロスプレーした液体の分析のために気相イオンを採取することができる。
【0101】
(エレクトロスプレー装置の上流接続または一体化)
ここで図21〜23を参照する。圧電ピペット、マイクロピペット、キャピラリーまたは他の形式のマイクロデバイス等の1つまたは複数の液体移送装置と上流接続または一体化により、液体を任意の適当な方法でエレクトロスプレー装置の入口オリフィスに移送する。液体移送装置を別々の部品として、エレクトロスプレー装置の入口オリフィスと異種の界面を作ってもよい。または、液体移送装置をエレクトロスプレー装置と一体化し、エレクトロスプレー装置の入口オリフィスと同種の界面を作ってもよい。
【0102】
図21Aおよび21Bは、エレクトロスプレー装置の入口オリフィスと異種の界面を作る液体移送装置の例を示す。好ましくは、異種の界面は液体移送装置およびエレクトロスプレー装置が物理的に分離しかつ接触していない、非接触界面である。例えば、断面図21Aに示す通り、圧電ピペット300をエレクトロスプレー装置100Aの注入面108の上方に隔てて配置する。圧電ピペット300は、入口オリフィス106Aを通してチャネル104内へ、それぞれ体積が約200pLの微液滴の流れを析出する。好ましくは、圧電ピペット300を用いる場合のように、特に基板貫通チャネル104の体積よりも大きい体積の液体をスプレーすることが望まれ、かつ液体の連続的な供給が実現不可能な場合に、エレクトロスプレー装置100Aは、チャネル104に入る前にサンプル液を収容するための入口ウエル302を入口オリフィス106Aに具える。入口ウエルは好ましくは体積が0.1nL〜100nLである。さらに、電位を液体に印加するために、入口ウエル302の表面上に、注入面108と平行に入口ウエル電極304を設ける。または、ワイヤー(図示せず)を、入口オリフィス106Aを介してチャネル104内に配置してもよい。好ましくは、いくらかの液体が入口ウエル302内にあり、液体と入口ウエル電極304との間の電気的接触を確保している。
【0103】
または、異種界面が、液体移送装置をエポキシ接合等の任意の適当な方法によりエレクトロスプレー装置に取り付け、上流の液体源とエレクトロスプレー装置のチャネルとの間に連続した密閉流路を形成する接触した界面であってもよい。例えば、図21Bは、エレクトロスプレー装置100Bの入口オリフィス106に取り付ける前のキャピラリー306の断面図を示している。エレクトロスプレー装置100Bの注入面108は、キャピラリー306の取り付けを容易にするように適合させる。このような素子を容易に基板の注入側用マスクへ配置し、同時に注入側をエッチングしている間にチャネルの注入側部と一緒に形成することができる。
【0104】
例えば、キャピラリー306の内径がチャネル104および入口オリフィス106よりも大きい所では、エレクトロスプレー装置100Bは好ましくは注入面108より窪んだ領域308を画定し、キャピラリー306と結合および固定のための結合鍔を形成する。したがって、キャピラリー302の出口オリフィス310部が入口オリフィス106周辺に配置されるように、キャピラリー306は窪み部308内に配置および取り付けされる。さらに、エレクトロスプレー装置100Bは随意に入口オリフィス106Bに入口ウエル312を具え、チャネル104に入る前にサンプル液体を収容する。図示していないが、キャピラリーの外径がチャネルおよび入口オリフィスの外径より小さい場合、キャピラリーをエレクトロスプレー装置の位置口オリフィスに挿入し、かつ取り付けることができる。
【0105】
ここで概略図22を参照する。異種界面ではなく、上流液体移送装置318がエレクトロスプレー装置100の入口オリフィス(図示せず)と同種界面を形成した、単一一体化システム316が設けられている。このシステム316は、エレクトロスプレーを発生させるために、上流液体移送装置318を出た液体をエレクトロスプレー装置100の入口オリフィスにオンチップで移送することができる。
【0106】
単一一体化システム316により、余剰液体体積を最小とするか、または無くし、反応および/または混合等による、液体の望ましくない変化の危険度を減らすという利点を生じる。また、単一一体化システム316により、顕微鏡レベルでの部品の信頼性のない取扱いおよび取り付けの必要を無くし、ひとつの一体化システム内に液体を収容することにより液体の漏れを最小とするか、または無くすという利点を生じる。
【0107】
上流の液体移送装置318は、エレクトロスプレー装置100の入口オリフィスまで液体サンプルが直接または間接に通過する出口オリフィスを有するモノリシック一体化回路であってもよい。上流の液体移送装置318は、例えばキャピラリー電気泳動、キャピラリー電気クロマトグラフィー、アフィニティ−クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー(LC)または他の濃縮相の分離法が可能なシリコンマイクロチップ系の液体分離装置であってもよい。さらに、上流の液体移送装置318は、シリコン、ガラス、プラスチックおよび/またはポリマー系の装置で、任意の適当な方法によりエレクトロスプレー装置100がチップ対チップで、またはウエハー対ウエハーで接合された装置であってもよい。例えば単一一体化システム316に用いるモノリシック液体クロマトグラフィー装置の例を次に説明する。
【0108】
(マイクロデバイス内で合成されたコンビナトリアルケミストリーライブラリーのサンプル移送用エレクトロスプレー装置)
エレクトロスプレーは、ナノエレクトロスプレー付着により、母板から娘板にサンプルを再現可能に移送および付着する役目もする。エレクトロスプレー装置を、コンビナトリアルケミストリーライブラリーを合成することのできるマイクロデバイス中にエッチングすることができる。所望の時間に、ノズルは所望の量のサンプルを母板から娘板へスプレーすることができる。ノズルの大きさの制御、印加電圧、および散布時間により、マトリックス支援レーザーイオン化飛行時間型質量分析計(MALDI−TOFMS)による分子量決定のためのサンプル板の生成等の、ノズルアレイからのサンプル付着の正確かつ再現可能な方法が得られる。母板から娘板へ被分析試料を移送する能力を、プロテオミックスクリーニング等の他形式の分析用の他の娘基板を作るのにも用いることができる。
【0109】
図23Aおよび23Bはそれぞれ、反応ウエルブロックまたはタイタープレート322および受容または娘板324を含むチップ型のコンビナトリアルケミストリーシステム320の、線23B−23Bにおける分解斜視図および断面図を示す。反応ウエルブロック322は、コンビナトリアルに合成した化合物からの反応生成物を収納するためのリザーバー326のアレイを画定する。反応ウエルブロック322は、さらに、チャネル328、ノズル330および窪み部332を画定し、各リザーバー326内の液体が対応するチャネル328を流れて、対応するノズル330を通ってエレクトロスプレーの形で出るようにする。反応ウエルブロック322は、任意の数のリザーバーを任意の望ましい構成で画定し、各リザーバーは好適な大きさと形である。リザーバー326の体積は数ナノリットルから最大数マイクロリットルの範囲であり、より好ましくは約200nLから1μLの間の範囲である。
【0110】
反応ウエルブロック322を母板として使って、マイクロチップ系化学合成装置に接続し、反応ウエルブロック322のエレクトロスプレー機能を用いて、控えめの量の生成溶液を受容または娘板324に再現可能に移送することができる。娘板324は、リザーバー326のそれぞれに対応する受容ウエル334を画定する。次いで娘板324内の分配された生成溶液を用いて、生物学的標的に対してコンビナトリアルケミストリーライブラリーをスクリーニングする。
【0111】
(エレクトロスプレーを発生するエレクトロスプレー装置の説明)
図24Aおよび24Bは、一体化シリコン系ノズルから発せられる実際のテイラーコーンのカラー画像を示す。図24Cおよび24Dは、それぞれ図24Aおよび24Bに示したエレクトロスプレー装置および質量分析システムの斜視図および側断面図である。図24Aは、ノズルおよび窪み部または窪み環、並びにテイラーコーン、0.2%のギ酸を含むポリプロプレングリコール425(PPG425)を10μg/mL含んだメタノールの高荷電エレクトロスプレーされた液滴の液体ジェットおよび噴流を示す。図24Bは、エレクトロスプレー装置に加え、質量分析計のイオンサンプリングオリフィスを示す。
【0112】
エレクトロスプレー装置100は、上流をピペット52’に接続されている。図24Aおよび24Bのそれぞれ右上隅ならびに図24Cおよび24D中に示す通り、ピペットの先端をエレクトロスプレー装置100の注入側に圧迫封着する。エレクトロスプレー装置100は、注入側上の直径10μmの入口オリフィス、内径30μmで外径60μmのノズル、15μmのノズル壁厚および150μmのノズル深さを有する。窪み部または窪み環は、ノズルの外径から300μm延びる。液体に印加した電圧Vfluidをエレクトロスプレー装置に導入して、ノズル電圧は900Vとなる。電圧Vsubstrateを基板に印加し、エレクトロスプレー装置は0Vとなる。取り出し電極の役目も果たす質量分析計に印加した電圧Vextractは、約40Vである。液体サンプルは、シリンジポンプを用い、エレクトロスプレー装置の注入側に圧迫封着したピペット先端を通して、333nL/分の流速で送られる。ノズルは、質量分析計60のイオンサンプリングオリフィス62から約5mmである。質量分析計60のイオンサンプリングオリフィス62は、通常質量分析計60の許容領域を画定する。データを得るための質量分析計は、Micromass社のLCT飛行時間質量分析計であった。
【0113】
図24Eは、水50%と、ギ酸0.1%、アセロニトリル0.1%および2mM酢酸アンモニウムを含むメタノール50%とに1μg/mLのPPG425を入れたものの質量スペクトルを示す。データを流速333nL/分で集めた。
【0114】
(液体クロマトグラフィー装置)
分解斜視図25Aおよび断面図25Bにそれぞれ示す、本発明の別の態様において、シリコン系液体クロマトグラフィー装置400には、通常シリコン基板またはマイクロチップ402を含み、該シリコン基板またはマイクロチップ402は、基板402を貫通し第1面408上の入口オリフィス406と液体リザーバー410の間に延びる導入チャネル、リザーバー410と出口オリフィス414の間に延びる分離チャネル、分離チャネル412に沿った複数の分離柱状体、ならびにカバー420に隣接するリザーバー410および分離チャネル412のためのカバー420に隣接する封入面を設けるためのカバー420を画定する。
【0115】
複数の分離柱状体416は、分離チャネル412の側壁から分離チャネル412を通る液体に垂直な方向に延びる。好ましくは、各分離柱状体416の一端は、第2面417を超えては延びず、好ましくは第2面417と同一面または同一高さである。分離チャネル412は、機能的には液体クロマトグラフィーのカラムと同じであり、複数の分離柱状体416が液体クロマトグラフィー機能を果たす分離チャネル412内で成分分離が起きる。円柱状分離柱状体416により表面積の大きくなった分離チャネル412を流れる液体の相互反応により成分分離は起きる。分離チャネル412および分離柱状体416の表面には、好ましくは絶縁層を具えて、分離チャネル412内の液体を基板402から絶縁する。具体的には、分離柱状体416は、好ましくはサンプル液体の成分と固定相すなわち分離柱状体416との相互反応を最適化するために既知の技術を用いて化学的に修正をした、酸化ケイ素柱状体であることが好ましい。実施態様の一つにおいて、分離チャネル412は分離柱状体416を超え、基板402の端まで延び、出口オリフィス414として終結する。
【0116】
導入チャネル、404、分離チャネル412、リザーバー410および分離柱状体416は、円形および/または長方形等の任意の好適な断面形状を有することができる。好ましくは、分離柱状体416は同じ断面形状および大きさを有するが、それでもなお異なる断面形状および/または大きさを有することもできる。
【0117】
液体クロマトグラフィー装置400はさらに、カバー420の基板の表面を覆ったニ酸化ケイ素層422および基板402の表面を覆ったニ酸化ケイ素層424を含む。二酸化ケイ素層422、424は、リザーバー410および分離チャネル412に収納された液体を基板402およびカバー420の基板から電気的に絶縁する。二酸化ケイ素層422、424はまた、比較的不活性であり、ゆえに単なるケイ素に比べてリザーバー410および分離チャネル412内の液体と相互反応し難い。
【0118】
具体的な用途によっては、基板402には、装置400内の液体と電気的に接触した1つまたは複数の導電性電極を形成した面を具えることができる。例えば、リザーバー電極426および/または出口電極428を基板402の第2面417上に設けて、対応する電極をリザーバー410内および出口オリフィス414に近接した液体とそれぞれ電気的に接触させることができる。充填電極430も基板402の第2面417上に設け、リザーバー410と最初に現れる分離柱状体416との間の、分離チャネル412の未実装部432内の液体と充填電極430を電気的に接触させることができる。基板402上の各電極の形状、大きさおよび流体の流路に沿った位置を、隣接した電極間の距離等の設計の検討により決めることができる。さらに、任意のまたは全ての電極を、カバー420の接合面425上に二者択一的にまたは付加的に形成することができる。例えば、充填電極430を二者択一的に置いて、リザーバー410に隣接した分離チャネル412内の液体と電気的に接触させることができる。さらに、付加電極を設けて、例えば液体の流路に沿った任意の電位分布を作ることができる。
【0119】
装置400内の液体サンプルを基板402およびカバー420の基板402から電気的に絶縁すると共に、2つ以上のリザーバー電極、充填電極および出口電極を設けることにより、流路に沿った2つ以上の異なる場所における異なる(または同じ)電位の印加および保持を可能とする。流路に沿った2つ以上の異なる場所における電位の違いにより、その2つ以上の場所の間で液体の動きが生じる。したがって、これらの電極は、リザーバー410の充填および/または分離チャネル412を通った液体の駆動を促進する。
【0120】
さらに、適当な配置設計および加工方法により、基板402および/またはカバー420には、リザーバー410に移送される前に液体の前調整、および/または分離チャネル412から出た液体サンプルの移送、分析および/または処理等の付加機能も具える。カバー420は、カバー420の一方もしくは両方の面および/または大部分にこのような付加機能を設ける。
【0121】
カバー420には、ケイ素あるいはガラス、プラスチックおよび/またはポリマー等の任意の他の好適な材料を含む基板418を含む。例えば、ケイ素がより望ましい基板402と同様の処理技術を用いて、カバー420の加工を容易にするのにガラスがより望ましいおよび/または考慮すべきである蛍光液体の直接観察を望むかどうかにより、カバー420用の具体的な材料は決まる。カバー420を接合するか、そうでなければ固定して、液体の封じ込めおよび絶縁の適当な水準を確保するために、基板402とカバー420の間の密封を形成する。例えば、陽極接合、ケイ酸ナトリウム接合、共晶接合および融着接合を含む、ケイ素対ケイ素、またはガラス対ケイ素の接合をする幾つかの方法が当業で知られている。具体的な密封接合方法は、基板402とカバー420の表面の物理的形状ならびに/あるいは一体化システムおよび/または液体クロマトグラフィー装置400の用途と機能等の様々な要因により決まる。
【0122】
液体クロマトグラフィー装置400の大きさは、それが接続または一体化される装置と同様に具体的な用途、配置設計等の種々の要因により決まる。液体クロマトグラフィー装置400の素子の表面寸法、すなわちXおよびY方向の寸法は、配置設計および加工に用いた対応するフォトマスクにより決まる。液体クロマトグラフィー装置400の素子の深さまたは高さ、すなわちZ方向の寸法は、以下に説明する加工中のエッチング処理により決まる。反応性イオンエッチングのアスペクト比制限がエッチング深さ、特に分離柱状体416間のチャネル412内の小さな表面開口を用いたエッチング深さを制限するが、素子の深さまたは高さは、一次近似において表面寸法とは独立である。
【0123】
さらに、分離柱状体416の大きさ、数、断面形状、間隔および位置を、所望の流速を達成しかつ分離チャネル412内の視界の低抵抗線を防ぎ、適当な液体−表面相互反応を確保するための配置設計により決めることができる。各分離柱状体416は、同じまたは異なる、大きさおよび/または断面形状等の特性を有することが出来る。柱状体の断面形状を配置設計の際に選択して、柱状体表面における液体/境界層の相互反応を最適化することができる。分離柱状体416を周期的、半周期的または不規則的等の任意の所望のパターンで分離チャネル412内に配置することができる。分離柱状体416の間隔が狭い方が、液体との表面相互反応を最大にするためには望ましい。同様に、分離柱状体416の断面積を最小にすることにより、分離チャネル412内により多くの数を置くことができる。しかし、分離柱状体416の断面積を減らすことは、処理中に必要な機械的安定性が減少するという結果を招くため、限定される。
【0124】
従来の分離カラム充填材料は、間隔が不規則に変動する上に粒度分布の分散が望ましくないので、分離柱状体416の大きさ、数、断面形状、間隔および位置を制御することは、従来の液体クロマトグラフィーに対して有利となる。
【0125】
一般に好ましい実施態様の一つにおいて、液体クロマトグラフィー装置400の基板402は、厚さが約250〜600μmであり、分離チャネル412は、深さが約10μmであり、長方形リザーバー410は約1000μm×1000μmであり、その結果体積が約10nLとなる。リザーバー410および分離チャネル412の深さは分離柱状体416の高さにより制限され、分離柱状体の高さもまた最大エッチングアスペクト比により制限される。分離柱状体416の最も近い隣接柱状体との間隔は、好ましくは約5μm未満である。リザーバー410の大きさは液体クロマトグラフィー分離に用いることのできる液体サンプルの容量を決め、明白なことであるが、表面積と深さを独立に制御することにより、リザーバー410を任意の所望の体積にすることができる。好ましくは、入口オリフィス406の直径を100μm以下として、リザーバー410内の液体を保持してリザーバーからの漏出を防ぐのに十分な液体の表面張力とする。
【0126】
シリコン系の液体クロマトグラフィー装置400により、典型的液体クロマトグラフィー装置の大きさを2桁近くの規模で縮小する。寸法の縮小により、正確な分析に必要な被分析試料の量および/または液体サンプルの体積を顕著に減らすという利点を得ることができる。さらに、巨視的分離カラムおよびその充填材料をモノリシック装置へ縮小することにより、液体クロマトグラフィー装置400をオンチップ一体化システムの部品とすることができる。
【0127】
さらに、リザーバー、分離チャネルおよび分離柱状体等の素子の全てが、基板402から窪んでいる。基板402のリザーバーおよび分離チャネルの外側の部分は、それゆえ基板402とカバー420の取扱いおよびその後の接合の際の不用意な破損および接合の際の不用意な破損および応力破砕から分離柱状体を物理的に保護する役目を果たす。柱状体は基板に一体化されているので、柱状体は本質的に安定で、ゆえに、従来の高速液体クロマトグラフィーシステムで従来の充填材を使用した場合に起きる固相の損傷の危険性なしに加圧システムの使用を可能にする。
【0128】
マイクロピペット、圧電ピペットまたは小キャピラリー等の上流の液体移送システムを液体クロマトグラフィー装置400の外面に圧迫封着し、ピペットまたはキャピラリーを入口オリフィス406と同心にすることができる。随意に、液体クロマトグラフィー装置に鍔(図示せず)を設けて、図21Bを参照して説明したエレクトロスプレー装置の鍔の結合と同様に、液体移送装置の液体クロマトグラフィー装置への結合および取り付けを容易にする。
【0129】
液体クロマトグラフィー装置400を操作するために、まず、入口オリフィス406を介して導入チャネル404を通し液体移送装置から液体を注入することにより、サンプル液体で液体リザーバー410を満たす。マイクロピペット、圧電ピペットまたは小キャピラリー等の任意の好適な液体移送装置が使用可能である。液体クロマトグラフィー装置400に注入するサンプル液体の体積は、最大で、概ねリザーバー410の体積に導入チャネル404内に残る比較的小さな体積を加えた量である。
【0130】
リザーバー電極426と充填電極430との間に、導入チャネル404が約1000V/cm等の、適当なポテンシャル電位差を印加することにより、リザーバー410の充満を容易にすることができる。特に、ある量の液体は、入口オリフィス406を介して導入チャネル404を通りリザーバー410に最初に導入され、毛管作用によりリザーバー410および導入チャネルの表面を覆いまたは呼び水して、液体とリザーバーおよび充填電極426、430との間を電気的に接触させる。分離チャネル412の分離柱状体416を実装していない部分に充填電極430を置いた場合、充填電極430も、リザーバー410と充填電極430の間のチャネル412の部分の充満を容易にする。
【0131】
適当な体積のサンプル液体でリザーバー410を満たした後、任意の好適な方法を用いて、液体をリザーバー410から分離チャネル412内に移すことができる。例えば、入口オリフィス406を介して静水圧をリザーバー410に加えることにより、充填したリザーバー410から分離チャネル412に液体を運ぶことができる。
【0132】
二者択一的に、または付加的に、リザーバー電極426と出口電極428との間に好適な静電学的ポテンシャル電位差を印加して、電気泳動的または電気浸透的な液体の動きを発生させることにより、液体は分離チャネル412を通過することができる。好ましくは、電位差は分離チャネル長で約1000V/cmある。勿論、任意の他の好適な液体の流れを誘発する方法を用いることができる。圧力駆動および電圧駆動流動は、異なる分離効率をもたらす。したがって、用途により、一方または両方を用いることができる。
【0133】
次いで、液体は、出口オリフィス414を通り分離チャネル412から、例えば、図26に示す通り、出口オリフィスとオフチップ相互結合をしているキャピラリー434へ出る。または、図27に示す通り、液体クロマトグラフィー装置400は、リザーバー410からの液体を分離して、液体の残部を廃棄リザーバー439に導きながら、柱状体416により行われた分離から選択した被分析試料を、未実装チャネルから分析および/または混合向け等の他のオンチップ装置438に通過させることができる。未実装チャネル436は、液体クロマトグラフィー装置400の分離チャネル412の単なる延長または分離チャネル412から分岐したチャネルとすることができる。
【0134】
連続的にリザーバーを満たし、液体を分離チャネル412を通過させることにより、2つ以上の液体サンプルを液体クロマトグラフィー装置400を通過させることができる。例えば、ある種の用途においては、最初に1つまたは複数の試薬により分離柱状体416の表面を被覆し、次いで被分析サンプルを調整した分離柱状体416上を通すことが望ましいか、または必要である。
【0135】
前述の液体クロマトグラフィー装置を様々に変更することができる。例えば、図28に示す通り、基板内に入口オリフィスおよび導入チャネルを画定せず、液体クロマトグラフィー装置400’はカバー420’内に導入チャネル404’を設け、入口オリフィス406’をカバー420’の外面上に画定することができる。さらに、カバー420’は、カバー420’の外面上に画定された出口オリフィス414’と基板402’内で終了する分離チャネル412’との間に出口チャネル413を画定することができる。
【0136】
もう一つの変形としては、付加的導入チャネル440および入口オリフィス442を図29に示す通り基板402’’内またはカバー(図示せず)内に画定してもよい。付加的導入チャネル440は、液体を分離チャネル412’’に導入して、付加的導入チャネル440からの液体が、リザーバー410から分離チャネル412’’の未実装部432’’への液流の経路をさえぎる。液体リザーバー410を溶離液のバッファとして用い、付加導入チャネル440を用いて液体サンプルを分離チャネル412’に導入することができる。さらに、付加的入口オリフィス442を用いて、連続して幾つかの液体サンプルを分離チャネル412’に導入することもできる。例えば、ある用途においては、分離柱状体416の表面をある試薬で被覆し、次に調整した分離柱状体416の表面上に被分析試料を通過させることが必要であろう。
【0137】
ここで図30〜35を参照する。液体クロマトグラフィー装置を単一のリザーバーおよび単一のチャネルを含むものとして説明してきたが、モノリシック液体クロマトグラフィー装置を容易に改造および変更して、複数液体クロマトグラフィー装置および/または複数入口オリフィス、出口オリフィス、リザーバーおよび/または分離チャネルを含むようにできる。各変形において、幾つかのまたは全てのリザーバー、分離チャネルおよび分離柱状体は、異なる大きさおよび/または形状を有することができる。
【0138】
例えば、複数リザーバー−分離チャネルの組合せを単一チップ上に設けることができる。特に、図30に示す通り、リザーバー410Aは分離柱状体416Aを有する分離チャネル412Aに流入し、もう一つのリザーバー410Bは分離柱状体416Bを有するもう一つの分離チャネル412Bに流入してもよい。
【0139】
図31に示すもう一つの変形において、単一リザーバー410Cは、複数分離チャネル412C、412Dに流入してもよい。分離チャネル412C、412Dのそれぞれは、数、大きさおよび形状等の特性が同じまたは異なる分離柱状体416C、416Dをそれぞれ内部に有する。もう一つのチャネル412Eを、分離柱状体が完全に未実装のヌルチャネルとして設けてもよい。ヌルチャネル412Eからの出力を、分離柱状体を実装した分離チャネルからの出力との比較の基礎として用いることができる。または、チャネル412C、412D、412Eの全ては、分離柱状体を有する分離チャネルであってもよい。
【0140】
ここで図32を参照する。複数リザーバー410Eおよび410Fからの液体を、それぞれ連結チャネル444E、444Fを介して単一分離チャネル412Fに送り込む。連結チャネル444E、444Fは、分離チャネル412Fを通過する前に、リザーバー410E、410Fからの液体サンプルの混合を容易にするために分離柱状体が未実装であることが好ましい。分離の前に興味のある主要なサンプルを調整するため、または分離チャネル412Fの実装部を通過する前にサンプル間で反応をさせるために、サンプルを混合してもよい。あるいは、リザーバー410Eからの調整液体等の液体を分離チャネル412Fに流して、他のリザーバーからの被分析サンプル等の他のサンプルの通過の前に、分離柱状体416Fの表面を調整してもよい。分離柱状体416Fは異なる断面を持つように図示しているが、分離柱状体416Fは、同じ大きさで同じ断面形状であってもよい。
【0141】
また、連結チャネルを介して単一分離チャネルに流入する複数リザーバーからの液体を有することに加え、分離チャネルの実装部を液体が通過する前および/または後において、もう一つのリザーバーからの液体を、分離チャネルに沿った液流に導入してもよい。例えば、複数リザーバー410G、410Hからの液体は、それぞれ連結チャネル444G、444Hを介して単一分離チャネル412Gに流入し、もう一つのリザーバー410Iからの液体を、液体が分離柱状体416Gを通過したあとに分離チャネル412Gに沿った液流に導入することができることを図33は示している。複数リザーバー410J、410Kからの液体は、それぞれ連結チャネル444J、444Kを介して単一分離チャネル412Jに流入し、もう一つのリザーバー410Lからの液体を、液体が分離柱状体416Jを通過する前に分離チャネル412Jに沿った液流に導入することができることを図34は示している。
【0142】
複数リザーバーおよび/または複数チャネルを有する装置のために、分離電極を各リザーバーおよび/または各チャネル、例えば、分離柱状体の上流のチャネルの未実装部および/またはチャネルの出口付近に設けることができる。このような分離電極の設置は、液体流れの個別かつ独立した制御して、各リザーバーの充填および/または液体の分離チャネルの通過を可能にする。
【0143】
複数リザーバーおよび/または複数チャネルに、一つの共有リザーバー電極、一つの共有充填電極、および/または一つの出口電極を有することで電極制御を単純にすることができる。例えば、第1電圧を共有リザーバー電極に、第1電圧とは異なる第2電圧を充填するリザーバーに対応する充填電極に印加し、第1電圧を他の充填電極のそれぞれに印加することにより、複数リザーバーの各々を分離して充填することができる。明らかに、第1電圧を共有リザーバー電極に、第2異電圧を充填電極のそれぞれに印加することにより、複数リザーバーを同時に満たすことができる。同様に、第3電圧を共有リザーバー電極に印加し、第3電圧と異なる第4電圧を液体が通過するチャネルに対応する出口電極に、第3電圧を他の出口電極に印加することにより、液体を各複数チャネルに分離して送ることができる。
【0144】
図35に示すさらに別の変形において、サンプルリザーバー410Mおよび分離柱状体416Mに加え、複数の柱状体416Lを分離柱状体416Mの上流のチャネル412M内に設けて、サンプルの前処理に固相抽出(SPE)等の付加的機能性を与えることができる。SPE柱状体416Mは、単純に配置設計を変えることで、分離柱状体416Mと同一、類似または非類似とすることができる。SPE柱状体416Lは、分離柱状体416Mとは異なる表面機能性を与える。あるいは、サンプルリザーバーを設ける代わりに、導入チャネル(図示せず)を用いて、サンプルの直接注入を認めることにより、液体サンプルを直接チャネル412Mに導入することができる。さらに、リザーバー410N、410Pを設けて、柱状体416Lの上流でのサンプルの前処理に必要な緩衝液を含むことができる。例えば、被分析試料の溶離用に溶離剤リザーバーを設け、サンプルの洗浄用に洗浄リザーバーを設けることができる。
【0145】
液体サンプルがSPE柱状体416Lを通過した後、例えば、固相抽出処理による廃棄物を廃棄リザーバー410Qに導くことができる。特に、SPE処理の間、電圧差をリザーバー410M、410N、410Pおよび410Qの間に印加し、リザーバー410M、410Nからの液体の一部を廃棄リザーバー410Qに導き、リザーバー410Mからの液体の残部をSPE柱状体416L上に残したままにすることができる。次いで、例えば、分離柱状体416Mにより抽出された物質の分離のために、リザーバー410Pからの液体をチャネル412Mに導くことにより、SPE柱状体416Lから材料を洗い落とすことができる。廃棄リザーバー410Qの下流で分離柱状体416Mの上流に補助リザーバー410R、410Sを設けて、一つのリザーバー内に被分析試料の勾配溶離液を、および他のリザーバー内に希釈液を収容することができる。勾配溶離液は、移動相組成、すなわち極性被分析試料と固定相との相互反応を促進し、ゆえに被分析試料の分離を容易にする極性を変化することによりクロマトグラフィーを容易にする。さらに、希釈液により次の分離のための正しい溶液の極性が与えられる。
【0146】
(液体クロマトグラフィー装置加工手順)
本発明の液体クロマトグラフィー装置の加工法を図36A〜46Bを参照しながら説明する。好ましくは熱酸化、写真平板、反応性イオンエッチング(RIE)、イオンインプランテーション、および金属付着等の確立し、良く制御された薄膜シリコン加工技術を用いたモノリシックシリコンマイクロ装置として液体クロマトグラフィー装置を加工する。このようなシリコン加工技術を用いた加工は、同じ装置の大量並列処理を容易にし、時間とコストに有効であり、重要な寸法の厳密な制御を可能にし、容易に再現可能であり、および結果として全体が一体の装置となる。したがって、組み立ての必要性が全くない。別々の部品を操作し、および/または副組み立てして、高い信頼性および収率で液体クロマトグラフィー装置を作ることは、望ましくないし、効率的な分離に必要なマイクロメートルの大きさでは不可能である。
【0147】
さらに、加工手順を容易に延長して、物理的外観または特徴を作り、他の機能性を持った装置との接続、一体化および/または連結を容易にし、または単一一体化システムを作るための液体移送副システムとの一体化を容易にすることができる。したがって、液体クロマトグラフィー装置を使い捨て装置として加工および使用することができ、ゆえにカラムの再生の必要性がなくなり、かつサンプルの交差汚染の危険性がなくなる。
【0148】
平面図36Aおよび断面図36Bをそれぞれ参照する。両面研磨され、厚さが約250〜600μmのシリコンウエハー分離基板500を酸化環境化で高温に晒して、分離基板500のリザーバー側503上に二酸化ケイ素の層またはフィルム502を、裏側505上に二酸化ケイ素の層またはフィルム504を育成する。得られる二酸化ケイ素層502、504のそれぞれは、約1〜2μmの厚さを有する。二酸化ケイ素層502、504は電気的絶縁を付与し、かつ次の分離基板500のある領域の選択的エッチング用のマスクとしての役目も果たす。
【0149】
ポジ型フォトレジスト層506を分離基板500のリザーバー側503上の二酸化ケイ素層502上に析出させる。リザーバー、分離チャネルおよび分離柱状体に対応するフォトレジスト506のある領域は、後にエッチングされるが、波長が365、405または436ナノメートルの青または近紫外等の短波長光を透過する光学リトグラフ露光ツールにより、マスクを通して選択的に露光される。
【0150】
平面図37Aおよび断面図37Bをそれぞれ参照する。フォトレジスト506を現像した後、非感光領域をフォトレジスト506’で保護したまま、それぞれリザーバー、分離柱状体およびチャネルに対応するフォトレジストの感光領域508、509、510を取り除き、下にある二酸化ケイ素層502まで開口する。次に、二酸化ケイ素層502の感光領域508、509、510を、保護フォトレジスト506’に対しては高度の異方性および選択性を持って、フッ素系のプラズマによりシリコン基板500に達するまでエッチングする。残存フォトレジストを、酸素プラズマまたは過酸化水素(H)により活性化した硫酸(HSO)等の活性酸化化学薬品浴内で取り除く。
【0151】
断面図38に示す通り、リザーバー410、分離チャネル412、および分離チャネル412内の分離柱状体416を別のフッ素系のエッチングによりシリコン分離基板500内に垂直に形成する。好ましくは、リザーバー410および分離チャネル412は、既知のエッチング速度においてエッチング時間により制御される同じ深さを有する。リザーバー410およびチャネル412の同時形成は、均一な深さを確保し、液体束縛面内に液流を妨げる不連続点を無くす。リザーバー410およびチャネル412の深さは、好ましくは約5〜20μmであり、より好ましくは約10μmである。エッチングは、最大30:1のアスペクト比(深さ対幅)を正確かつ再現可能に生成できる。図示していないが、その他のリザーバーおよび/またはチャンネルも、実装であろうが、未実装であろうが、このエッチング手順により形成することができる。
【0152】
次いで、ポジ型フォトレジストフィルムを分離基板500のリザーバー側503上の二酸化ケイ素層502および感光した分離基板500上に析出させる。導入チャネルに対応するフォトレジスト領域は、後にエッチングされるが、波長が365、405または436ナノメートルの青または近紫外等の短波長光を透過する光学リトグラフ露光ツールにより、マスクを通して選択的に露光される。フォトレジストを現像した後、非感光領域をフォトレジストで保護したまま、導入チャネルに対応するフォトレジストの感光領域を取り除き、下にある分離基板500まで開口する。
【0153】
平面図39Aおよび断面図39Bにそれぞれ示す通り、分離基板500の感光領域を、次いで保護フォトレジストに対しては高度の異方性および選択性を持って、フッ素系プラズマにより背側505上の二酸化ケイ素層504に到達するまでエッチングする。したがって、導入チャネル部404が、分離基板500を通して形成される。残存フォトレジストを酸素プラズマまたは過酸化水素(H)により活性化した硫酸(HSO)等の活性酸化化学薬品浴内で取り除く。次いで、背側505上の二酸化ケイ素層504を、例えばフッ素系プラズマ中で無地のエッチングにより取り除く。
【0154】
あるいは、図40Aおよび40Bに示す通り、導入チャネル404を基板500のリザーバー側503および背側505の両方からのエッチングにより形成することができる。前述と同様の方法により基板部500を垂直エッチングして導入チャネル部404を形成した後、ポジ型フォトレジストフィルム512を分離基板500の背側505上の二酸化ケイ素層504上に析出させる。背側505上のパターンを、分離基板500のリザーバー側503上に先に形成されたパターンに揃えることができる。ケイ素およびその酸化物は、赤外波長スペクトル領域、すなわち約700〜1000ナノメートルにおいて、B光に対して固有的相対的に透明であるので、リザーバー側503の残存パターンは、パターンを施したリザーバー側503から基板500に赤外光を照射することにより、十分な透明性を持って識別することができる。したがって、背側505用のマスクを要求される許容度内にあわせることができる。揃える際に、入口オリフィスおよび導入チャネルに対応するフォトレジストの領域512は、後にエッチングされるが、波長が365、405または436ナノメートルの青または近紫外等の短波長光を透過する光学リトグラフ露光ツールにより、マスクを通して選択的に露光される。
【0155】
フォトレジスト512を現像した後、非感光領域をフォトレジスト512で保護したまま、入口オリフィスに対応するフォトレジストの感光領域514、を取り除き、下にある二酸化ケイ素層504まで開口する。次に、二酸化ケイ素層504の感光領域514を、保護フォトレジスト512に対しては高度の異方性および選択性を持って、フッ素系のプラズマによりシリコン基板500に達するまでエッチングする。次のフッ素系のシリコンエッチングにより導入チャネルの背側部を垂直にエッチングする間、残存フォトレジストはさらなるマスキングになる。したがって、基板貫通導入チャネル404が完成する。残存フォトレジストを酸素プラズマまたは過酸化水素(H)により活性化した硫酸(HSO)等の活性酸化化学薬品浴内で取り除く。
【0156】
好ましくは、導入チャネル404は、入口オリフィスと同じ直径である。30:1というエッチングアスペクト比の実用上の制限により、厚さが約300μmの基板に対して入口オリフィスの直径が約10μm以上となるようにエッチングせざるを得ない。実用的に考慮すると、好ましくは、入口オリフィス406および導入チャネル404は、直径が約100μmである。例えば、エッチングアスペクト比により最小直径が決まり、直径はリザーバー410の充填を容易にするのに十分に大きく、さらに液体の表面張力を確保して液体のリザーバー410からの漏れを防ぐのに十分小さいことが好ましい。
【0157】
あるいは、導入チャネルおよび入口オリフィスの両方を、分離チャネル500の背側505からエッチングすることにより形成することができる。分離柱状体416をフォトレジストで良好に被覆することは困難であるので、これは好ましい。さらに、装置の用途、例えば外部サンプル移送システム、所望のチップ取扱い装置、他の装置との接続、チップ型もしくは非チップ型、および/またはチップの実装を考慮すると、これが望ましい。断面図41を参照する。リザーバー、分離チャネルおよび分離柱状体を基板500内にエッチングした後に(図38に示した)、ポジ型フォトレジストフィルム516を分離基板500の背側505上の二酸化ケイ素層504上に析出させる。背側505上のパターンを、前述のようにパターンを施したリザーバー側503から基板500に赤外光を照射することにより、分離基板500のリザーバー側503上に先に形成されたパターンに揃えることができる。揃える際に、入口オリフィスに対応するフォトレジストの領域516は、後にエッチングされるが、波長が365、405または436ナノメートルの青または近紫外等の短波長光を透過する光学リトグラフ露光ツールにより、マスクを通して選択的に露光される。
【0158】
フォトレジスト516を現像した後、入口オリフィスに対応するフォトレジスト516の感光領域518を取り除き、下にある分離基板500の背側505上の二酸化ケイ素層504まで開口する。次に、酸化ケイ素層504の感光領域518を、保護フォトレジスト512に対しては高度の異方性および選択性を持って、フッ素系のプラズマによりシリコン基板500に達するまでエッチングする。残存フォトレジストを同じ場所に残して、次のシリコン分離基板500を通したエッチングの間の付加マスキングとする。
【0159】
ここで、断面図42を参照する。導入チャネル404を別のフッ素系のエッチングによりシリコン分離基板500内に垂直に形成する。導入チャネル404は、リザーバー410に到達するまで、分離基板500を通してエッチングすることにより完成する。したがって、導入チャネル404は、分離基板500を通して、分離基板500の背側上の入口オリフィスとリザーバーとの間に延びる。残存フォトレジストを酸素プラズマまたは過酸化水素(H)により活性化した硫酸(HSO)等の活性酸化化学薬品浴内で取り除く。
【0160】
(表面安定化処理および液体絶縁のための酸化)
断面図43に示す通り、シリコン基板500を酸化環境中で高温に晒すことにより、二酸化ケイ素層522を基板500の全シリコン面上に育成する。例えば、酸化環境は、二酸化ケイ素厚がおよそ数百ナノメーターより大きい場合には水素を酸化して作った超純粋水蒸気、または二酸化ケイ素厚がおよそ数百ナノメーター以下の場合には純粋酸素とすることができる。基板500の全シリコン表面を覆う二酸化ケイ素層522は、チャネル内の液体をシリコン基板500から電気的に絶縁し、リザーバーと分離チャネル出口との間、リザーバーの充填を容易にするリザーバーとリザーバー付近の分離チャネルの未実装部との間、および/または流路に沿った他の点の間に、異なる電位の印加および維持ができるようにする。したがって、液体サンプルに渡る有意な電圧の印加および保持を達成することができる。さらに、酸化により裸のケイ素に比較して表面を不活性にし、結果として表面安定化処理となる。
【0161】
全シリコン表面が酸化され、酸化の温度と時間の選択により制御可能な厚さを持った二酸化ケイ素が形成される。二酸化ケイ素の最終的な厚さを選択して、装置の所望の電気的絶縁度を得ることができる。二酸化ケイ素層が薄いほど、電気的絶縁破壊に対する抵抗が高くなる。
【0162】
写真平板および反応性イオンエッチングは、分離柱状体直径および柱状体間隔を約1μmより大きくするよう配置設計を制限する。しかし、熱酸化処理は、約0.44μmのケイ素を使って1マイクロメートルの二酸化ケイ素を形成するので、熱酸化処理は体積膨張を招く。この体積膨張を、分離柱状体416間の間隔をマイクロメートル以下の寸法に減らすのに用いることができる。例えば、柱状体間の間隔が約1.5μmの配置において、1μmの二酸化ケイ素フィルムまたは層を形成する酸化により最も短い間隔が約0.5μmとなる。さらに、酸化処理がよく制御されているので、柱状体間の間隔を含む分離柱状体の大きさを、マイクロメートル以下の体制において、再現可能かつ高収率な方法で形成することができる。
【0163】
図44A、44Bおよび44Cは、走査電子顕微鏡写真および加工した液体クロマトグラフィー装置部の設計配置を示す。図44Aは、分離柱状体が長方形の断面形状を有する場所の、分離チャネル部内のリザーバーおよび分離柱状体部の設計配置を示している。図44Bは、分離チャネル内の分離柱状体で、分離柱状体が円形断面形状ならびに約1μmの直径および柱状体間間隔を有するものを示している。図44Cは、分離チャネル部内の分離柱状体で、分離柱状体が2μmの大きさの長方形または正方形断面形状および約1μmの柱状体間間隔を有するものを示している。
【0164】
変形の一つにおいて、二酸化ケイ素層525をカバー基板524の全面上に育成した後、入口オリフィスおよび液体リザーバーを満たすための導入チャネルを、基板500内ではなく、カバー基板524内に形成することができる。図45に示す通り、カバー基板524を分離基板500のリザーバー側503に接合することができる。リザーバー410に関して整列した後に、入口オリフィス406’および導入チャネル404’をカバー基板524内に形成することができる。入口オリフィス406’および導入チャネル404’は、写真平板を用いて入口オリフィスパターンを画定し、および反応性イオンエッチングを用いて入口オリフィスおよびカバー貫通導入チャネルを作ることにより、前述と同じまたは同様の方法で形成される。カバー基板524を再び酸化環境中で高温に晒して、酸化物層を導入チャネル404’の表面上に育成する。さらに、導入チャネル404’は、カバー基板524の1または2面から形成することができる。チャネル404’がカバー基板の2面から形成される場合は、カバー基板524は、チャネル404’の形成後でチャネル表面の酸化後に、基板500に接合される。入口オリフィスを、完成した液体クロマトグラフィー装置のリザーバーおよび分離チャネルと同じ側に画定する一つの利点は、基板500の背側にいかなる素子も具えず、かつ基板の背側上に画定された入口オリフィスを通してリザーバーを満たすための特別な設備なしに保護パッケージに接合することができることである。
【0165】
(流速制御のための金属処理)
図46Aおよび46Bは、好ましくはガラスおよび/またはケイ素を含むカバー基板526内の結合パッドに電極をつなぐ導電性の線または電線と同時に、リザーバー電極、充填電極および出口電極の構成を示す。ここで説明する金属処理は、入口オリフィスおよび導入チャネルを備えたカバー基板に容易に適用することができるが、図46Aおよび46Bに示すカバー基板526は、入口オリフィスまたは導入チャネルを具えていない。
【0166】
平面図46Aおよび断面図46Bにそれぞれ示す通り、カバー基板526上に導電性材料を析出する前に、二酸化ケイ素528のフィルムまたは層を作る前述の処理と同じまたは類似の方法により、カバー基板526の表面全体を熱酸化に供する。カバー基板526がガラスを含む場所では、このような酸化は起きない。
【0167】
二酸化ケイ素層528は、導電性電極を作ることのできる面を具える。二酸化ケイ素層528の厚さは、酸化温度および時間により制御可能であり、最終的な厚さを選択して所望の電気絶縁度を得ることができる。二酸化ケイ素層が薄いほど、電気的絶縁破壊に対する抵抗が高くなる。二酸化ケイ素層528は、全ての電極をカバー基板526から電気的に絶縁し、かつ液体クロマトグラフィー装置のリザーバーおよびチャネル内の液体をカバー基板526から絶縁する。液体をカバー基板526から絶縁する能力により、酸化により分離基板に具えられた電気的絶縁を補完し、かつ分離基板およびカバー基板526の両方からの液体の完全な電気的絶縁を確保する。両基板からのサンプル液体の完全な電気的絶縁により、流路内の空間的に離れた場所間に電位差を適用して、流路の液流を制御することを可能にする。
【0168】
酸化の後、カバー基板528を、活性酸化化学薬品浴、例えば過酸化水素(H)により活性化した硫酸(HSO)等の酸化溶液を用いて洗浄する。次いで、カバー基板528を十分に濯いで、有機夾雑物および粒子を取り除く。次に、アルミニウム等の導電性材料の層530をアルゴン環境中でDCマグネトロンスパッタリング等の任意の好適な方法により析出させる。明確にするために厚さを大きく図示しているが、アルミニウムの厚さは、好ましくは約3000Åである。ここで説明する加工手順にはアルミニウムを用いているが、他の金属、金属多重層、ケイ化物、導電性ポリマーおよびインジウム−スズ酸化物(ITO)のような導電性セラミック等の任意の形態の高導電性材料を電極に用いることができる。良好な接合のための表面調製は、用いる具体的な電極材料により変わる。例えば、アルミニウムは通常天然ケイ素には十分に接合しないので、二酸化ケイ素層528は、アルミニウム電極が接合できる表面を具える。
【0169】
ポジ型フォトレジストフィルム532を導電性材料530の表面上に析出させる。電極周辺の(図示した)領域ならびに導電性線または電線および結合パッドに対応するフォトレジスト層532は、後にエッチングされるが、波長が365、405または436ナノメートルの青または近紫外等の短波長光を透過する光学リトグラフ露光ツールにより、マスクを通して選択的に露光される。
【0170】
フォトレジスト532を現像した後、導電性線または電線および結合パッドと同様に、リザーバー電極、充填電極および出口電極にそれぞれ対応する未感光領域534、536、538をフォトレジストで保護したまま、下にあるアルミニウム導電層530までの開口を残して、フォトレジストの感光領域を取り除きく。特定の導電性材料に適当であるので、湿式化学エッチングまたは反応性イオンエッチング等により、導電性電極および線/結合パッドをエッチングすることができる。エッチングは、下にある二酸化ケイ素層528に選択的であるか、またはエッチングの速度および時間を基に終了されるかのいずれかである。酸素プラズマまたはアセトン等の溶媒浴中で残存フォトレジストを取り除く。この加工手順により、導電性電極、線および結合パッドの島をマスクに描かれたパターンに従って、物理的および電気的に分離する。
【0171】
カバー基板を分離基板よりも大きくして、電位を電極に印加するために結合パッドおよび/または直接電極を利用できるようにすることができる。図46Cに示す通り、カバー基板526’は分離基板よりも大きく、分離基板はカバー基板526’に関して点線540にまでしか延びていない。接続金属線542、544および546等の導電性リードスルー(lead-throughs)は、それぞれリザーバー電極、充填電極および出口電極534、536、538から延び、電位を電極に印加することを可能にする。
【0172】
あるいは、各電極から分離基板のパターンを施していない別の領域へ金属導線を形成して、カバー基板内に形成され、かつ化学蒸着(CVD)により導電性材料を充填した基板貫通アクセスチャネルにより電極へのアクセスを可能にする。化学蒸着の代わりとして、基板貫通アクセスチャネルの側壁を、例えばKOHエッチングにより傾斜させて、その上への導電性材料の連続析出を容易にし、よって分離基板からポテンシャル電圧を印加するカバー基板の頂点まで電気的に連続した流路を設けることができる。この変形において、分離およびカバー基板は同じ大きさであってよい。
【0173】
電極はカバー基板上に設けられていることが好ましいが、前述の加工方法を適当に変更することにより、電極を二者択一的および/または付加的に分離基板上に設けてもよい。例えば、このような変形において、リザーバーの側壁は、好ましくは底面に対して90°の角度ではなく、かつ、例えば湿式化学水酸化カリウム(KOH)エッチングにより少なくとも一部を形成されることができる。傾斜したリザーバー側壁により、その上に導電性材料を析出することが可能になる。もう一つの変形において、半導体加工の業界で既知のダマシン処理により形成することもできる。ダマシン処理は、結合線またはパッドにより現れるステップアップおよびステップダウン表面地形のない平坦面という利点を提供し、ゆえに後述のように分離およびカバー基板の結合を容易にする。
【0174】
前述の液体クロマトグラフィーの加工手順は、上の具体化した単一モノリシック基板で説明したような複数リザーバーおよび/または複数分離チャネルを含む複数液体クロマトグラフィー装置を含むモノリシックシステムの同時加工に容易に適合および応用することができる。
【0175】
さらに、加工手順を単一液体クロマトグラフィー装置に関して説明しているが、この加工手順は同じ装置の大量並列処理を容易にし、かつ可能にする。単一ウエハー上に大量並列処理により加工された複数液体クロマトグラフィー装置またはシステムを、次いで切断または他の方法で分離して複数装置またはシステムにする。
【0176】
液体クロマトグラフィー装置の制御をリザーバー電極、充填電極および出口電極を含むものとして前述したが、配置設計を変更することにより、これらおよび/または流路内の液体と電気的に接触した他の電極の任意の好適な組合せを得、かつ容易に加工することができる。さらに、任意のまたは全ての電極を付加的または代替的に分離基板内に設けることができる。加工手順を変更して、カバー基板内に電極を形成することに関して前述した工程と類似または同じ付加工程を含めることにより、分離基板内に電極を形成することができる。
【0177】
(カバー基板の分離基板への接合)
前述の通り、任意の好適な方法で、液体クロマトグラフィー装置内に液体を封じ込めかつ絶縁するために、カバー基板を分離基板に密封接合することが好ましい。ケイ素をケイ素へ、またはガラスをケイ素へ接合する例には、陽極接合、ケイ酸ナトリウム接合、共晶接合および融着接合を含む。
【0178】
例えば、陽極接合により分離基板をガラス被覆基板に接合するために、分離基板および被覆基板を約400℃に加熱し、分離基板を陽極(または高電位)として400〜1200ボルトの電圧を印加する。さらに、必要な接合電圧は表面酸化物の厚さにより決まるので、必要な接合電圧を減らすために、接合処理の前に分離基板の背側505から酸化物フィルムまたは層を除去することが望ましい。例えばフッ素系プラズマ中での無地エッチングにより、酸化物フィルムまたは層を除去することができる。酸化物層全てが除去されるまでエッチングを続ける。エッチングの過剰度は重要ではない。したがって、エッチングは容易に制御され、かつ高収率である。
【0179】
接合後の液体クロマトグラフィー装置の本来の機能および電極(もしあれば)を液体クロマトグラフィー装置の外部から利用可能とするような結合パッドおよび/または金属線等の導電性リードスルーの配置設計の提供を確保するために、 いずれの接合方法においても重要な検討事項に、分離およびカバー基板内の部品の整列を含む。もう一つの重要な検討事項は、接合方法の分離およびカバー基板を密閉する能力を損なうかもしれない、加工手順によりできた地形である。例えば、ケイ素またはガラスは容易に変形して金属線またはパッドの形状を追従せず、金属と酸化物の間の境界付近に空隙を残すので、金属線またはパッドにより現れる表面地形の昇段および降段により、その周りに封を形成することが特に困難になる。
【0180】
(チップ上への液体クロマトグラフィーおよびエレクトロスプレー装置の一体化)
断面概略図47は、液体クロマトグラフィー装置602を含み、本発明のエレクトロスプレー装置620を一体化した液体クロマトグラフィーエレクトロスプレー装置600で、液体クロマトグラフィー装置602の出口オリフィス614とエレクトロスプレー装置620の入口オリフィス622との間に均一な界面を形成したものを示す。単一一体化システム600は、液体クロマトグラフィー装置602の出口オリフィス614から出る液体をオンチップでエレクトロスプレー装置620の入口オリフィス622に移送してエレクトロスプレーを発生させることを可能にする。
【0181】
図47に示す通り、液体クロマトグラフィー装置602の入口オリフィス606および導入チャネル604を、エレクトロスプレー装置620に沿ってカバー基板608内に形成する。または、液体クロマトグラフィー入口オリフィスおよび導入チャネルを分離基板内に形成することもできる。
【0182】
エレクトロスプレーノズル入口622にある液体は、液体クロマトグラフィー出口オリフィス614付近の分離チャネル612内の出口電極610に印加された出口電圧である。したがって、エレクトロスプレー入口電極は不要である。
【0183】
単一一体化システム600により、余剰液体体積を最小にするか、または無くし、反応および/または混合等による、液体の望ましくない変化の危険度を減らすという利点を生じる。また、単一一体化システム600により、顕微鏡レベルでの部品の信頼性のない取扱いおよび取り付けの必要を無くし、ひとつの一体化システム内に液体を収容することにより液体の漏れを最小にするか、または無くすという利点を生じる。
【0184】
一体化液体クロマトグラフィーエレクトロスプレーシステム600を用いて、液体サンプルを質量分析計のサンプリングオリフィスに移送することができる。エレクトロスプレーノズル624の電圧に関して適当な電圧に保持する場合には、質量分析計のサンプリングオリフィスは、エレクトロスプレー過程における取出し電極の役目を果たすことができる。液体クロマトグラフィーエレクトロスプレーシステム600は、液体をエレクトロスプレー624から効率的に取り出すために質量分析計のサンプリングオリフィスから10mm以内に置かれる。
【0185】
(単一チップ上の複数液体クロマトグラフィーエレクトロスプレーシステム)
複数の液体クロマトグラフィーエレクトロスプレーシステム600を単一チップ上に形成して、様々なサンプルを後の順次分析の共有点に移送する。例えば、図48は、単一チップ650上の複数液体クロマトグラフィーエレクトロスプレーシステム600の平面図を示し、図49は、明瞭にするために、分離チャネルを点線で示し、窪み部を無くした、システム600の領域Aの詳細図を示す。図の通り、エレクトロスプレー装置620の複数ノズル624を、単一チップ650の中心付近では比較的小さな直径を有する円状に放射状に配置することができる。エレクトロスプレーノズルおよび液体クロマトグラフィーチャネルの大きさにより、複数システムチップ650上における複数ノズルの配置される場所が制限される。例えば、複数システムチップに、幅最大50μmの96個のノズルを直径2mmの円の周囲に配置して、ノズルの各対間の間隔が約65μmとなるように設けることができる。
【0186】
または、液体クロマトグラフィー装置を持たない複数エレクトロスプレー装置のアレイを単一チップ上に形成して、様々なサンプルを後の順次分析の共有点に移送することができる。ノズルを同様にチップの中心付近で比較的小さな直径を有する円状に放射状に配置することができる。単一チップ上のエレクトロスプレーアレイは、単一マイクロチップ上に加工された分離装置等の複数液体移送装置と上流を一体化することができる。例えば、マイクロ液体クロマトグラフィーカラムの放射状に分配したアレイの放射状に分配した出口オリフィスのアレイを、エレクトロスプレー装置の放射状に配分した入口オリフィスと一体化し、ノズルが質量分析計のオリフィスに近い小さな半径に配列される。従って、エレクトロスプレー装置を、複数のサンプル液体の迅速順次分析用に用いることができる。しかし、具体的な用途および/または下流の質量分析計(または他の下流の装置)の性能によるので、複数のエレクトロスプレーは一つずつまたは同時に、エレクトロスプレー装置の全てまたは一部を用いて、一つまたは複数のエレクトロスプレーを発生することができる。すなわち、複数のエレクトロスプレー装置を、並列に、交互に、または個別に作動することができる。
【0187】
単一複数システムチップ650を完全にシリコン基板内に加工し、それにより前述のよく発達したシリコン加工技術を利用することができる。このような加工技術は、単一複数システムチップ650を費用効率の高い方法で加工し、結果としてサンプル間交差汚染を排除するための使い捨て装置として用いるのに見合うコストパフォーマンスとなることを可能にする。さらに、液体クロマトグラフィーエレクトロスプレーシステムの大きさと位置は、加工によってではなく配置設計により決まるので、単一チップ中の複数液体クロマトグラフィーエレクトロスプレーシステムの加工に配置設計を容易に適合させることができる。
【0188】
(質量分析計への複数システムチップの接続)
複数システムチップ上で放射状に配分したエレクトロスプレーノズル624のアレイを、ノズルをサンプリングオリフィス付近に配置することにより、質量分析計のサンプリングオリフィスと接続することができる。エレクトロスプレーノズル624を密接して放射状に構成することにより、その配置を質量分析計のサンプリングオリフィスとを近接させる。
【0189】
複数システムチップ650をサンプリングオリフィスに関して回転して、エレクトロスプレー用ノズルの1または複数をサンプリングオリフィス付近に配置することができる。次いで、適当な電圧をエレクトロスプレー用ノズルの1または複数に印加する。または、複数システムチップ650を質量分析計のサンプリングオリフィスに関して固定して、比較的狭い半径内に集中した全てのノズルをエレクトロスプレー処理のために適当に配置することができる。明らかに、ノズルの再配置の必要を無くすことにより、単一複数システムチップの高度に再現可能かつ迅速な整列および分析速度の増加が可能となる。
【0190】
エレクトロスプレー装置620の適当な電極に印加した電圧により制御されているので、エレクトロスプレー装置620の放射状に分配されたノズル624の1個、いくつかまたは全てがエレクトロスプレーを同時に、順番にまたは無作為に発生することができる。
【0191】
本発明の具体的かつ好適な実施態様を説明し、かつ図示してきたが、特許請求の範囲にある本発明の精神を離れること無く、変更をすることができることは理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0192】
【図1】エレクトロスプレーシステムの概略図である。
【図2】本発明のエレクトロスプレー装置の斜視図である。
【図3】図2のエレクトロスプレー装置の平面図である。
【図4】線4−4における図3のエレクトロスプレー装置の断面図である。
【図5】本発明のエレクトロスプレーを含むエレクトロスプレーシステムの概略図である。
【図6】装置の放出面上に複数電極を有するエレクトロスプレー装置の平面図である。
【図7】線7−7における図6のエレクトロスプレー装置の断面図である。
【図8】本発明のエレクトロスプレー装置に組み込むフィードバック制御回路の模式図である。
【図9A】エレクトロスプレー装置の加工手順の一例を示す。
【図9B】エレクトロスプレー装置の加工手順の一例を示す。
【図10A】エレクトロスプレー装置の加工手順の一例を示す。
【図10B】エレクトロスプレー装置の加工手順の一例を示す。
【図11】エレクトロスプレー装置の加工手順の一例を示す。
【図12】エレクトロスプレー装置の加工手順の一例を示す。
【図13A】エレクトロスプレー装置の加工手順の一例を示す。
【図13B】エレクトロスプレー装置の加工手順の一例を示す。
【図14】エレクトロスプレー装置の加工手順の一例を示す。
【図15】エレクトロスプレー装置の加工手順の一例を示す。
【図16】エレクトロスプレー装置の加工手順の一例を示す。
【図17】エレクトロスプレー装置の加工手順の一例を示す。
【図18】エレクトロスプレー装置の加工手順の一例を示す。
【図19】エレクトロスプレー装置の加工手順の一例を示す。
【図20A】エレクトロスプレー装置の加工手順の一例を示す。
【図20B】エレクトロスプレー装置の加工手順の一例を示す。
【図20C】エレクトロスプレー装置の加工手順の一例を示す。
【図20D】エレクトロスプレー装置の加工手順の一例を示す。
【図20E】エレクトロスプレー装置の加工手順の一例を示す。
【図20F】エレクトロスプレー装置の加工手順の一例を示す。
【図20G】エレクトロスプレー装置の加工手順の一例を示す。
【図21A】エレクトロスプレー装置の入口オリフィスから離して置いた、液体サンプルをエレクトロスプレー装置の入口オリフィスへ移送するための圧電ピペットの断面図である。
【図21B】液体サンプルをエレクトロスプレー装置の入口オリフィスへ、エレクトロスプレー装置の入口オリフィスへの取り付けに先立ち移送するキャピラリーの断面図である。
【図22】上流の液体移送装置および液体移送装置と均一な界面を有するエレクトロスプレー装置を有する単一一体化システムの概略図である。
【図23A】反応ウェル区画および娘基板を含む、チップ型の組合せ化学システムの分解斜視図である。
【図23B】図23Aのチップ型の組合せ化学システムの線23B−23Bにおける断面図である。
【図24A】一体化シリコンチップ型のノズルから発せられる実際のテイラーコーンの写真である。
【図24B】一体化シリコンチップ型のノズルから発せられる実際のテイラーコーンの写真である。
【図24C】それぞれ、図24Aおよび24Bのエレクトロスプレー装置および質量分析システムの斜視図および側断面図である。
【図24D】それぞれ、図24Aおよび24Bのエレクトロスプレー装置および質量分析システムの斜視図および側断面図である。
【図24E】水50%、0.1%のギ酸と0.1%のアセトニトリルと2mMの酢酸アンモニウムとを含むメタノール50%にPPG425を0.1μg/mL入れ、流速333nL/分で捕集した質量スペクトルである。
【図25A】本発明のエレクトロスプレー装置と均一に一体化するための液体クロマトグラフィー装置の分解斜視図である。
【図25B】図25Aの液体クロマトグラフィー装置の線25B−25Bにおける断面図である。
【図26】チップ外の装置とチップ外相互接続を形成する出口オリフィスを有する液体クロマトグラフィー装置の平面図である。
【図27】チップ上の装置とチップ上相互接続を形成する出口オリフィスを有する液体クロマトグラフィー装置の平面図である。
【図28】別の構成を有する液体クロマトグラフィー装置の断面図である。
【図29】別の構成を有する液体クロマトグラフィー装置の断面図である。
【図30】別の構成を有する液体クロマトグラフィー装置の平面図である。
【図31】別の構成を有する液体クロマトグラフィー装置の平面図である。
【図32】別の構成を有する液体クロマトグラフィー装置の平面図である。
【図33】別の構成を有する液体クロマトグラフィー装置の平面図である。
【図34】別の構成を有する液体クロマトグラフィー装置の平面図である。
【図35】別の構成を有する液体クロマトグラフィー装置の平面図である。
【図36A】液体クロマトグラフィーの加工手順の一例である。
【図36B】液体クロマトグラフィーの加工手順の一例である。
【図37A】液体クロマトグラフィーの加工手順の一例である。
【図37B】液体クロマトグラフィーの加工手順の一例である。
【図38】液体クロマトグラフィーの加工手順の一例である。
【図39A】液体クロマトグラフィーの加工手順の一例である。
【図39B】液体クロマトグラフィーの加工手順の一例である。
【図40A】液体クロマトグラフィーの加工手順の一例である。
【図40B】液体クロマトグラフィーの加工手順の一例である。
【図41】液体クロマトグラフィーの加工手順の一例である。
【図42】液体クロマトグラフィーの加工手順の一例である。
【図43】液体クロマトグラフィーの加工手順の一例である。
【図44A】液体クロマトグラフィーの加工手順の一例である。
【図44B】液体クロマトグラフィーの加工手順の一例である。
【図44C】液体クロマトグラフィーの加工手順の一例である。
【図45】液体クロマトグラフィーの加工手順の一例である。
【図46A】液体クロマトグラフィーの加工手順の一例である。
【図46B】液体クロマトグラフィーの加工手順の一例である。
【図46C】液体クロマトグラフィーの加工手順の一例である。
【図47】エレクトロスプレーと均一に一体化した液体クロマトグラフィーを含むシステムの断面図である。
【図48】図47のシステムの平面図である。
【図49】図47のシステムの詳細図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主要面を有する第1基板、
該第1基板に接合されるか、または取り付けられた第2基板、
該第2基板内に一体化され、かつ分析用液体を受け、該液体を処理して排出するように構成された液体クロマトグラフィーシステム、および
モノリシックエレクトロスプレー装置であって、注入側にある入口オリフィスと、注入側とは反対側の放出面上にあるノズルと、前記モノリシック装置を連続的に貫通して延び入口オリフィス及びノズルと連通するチャネルと、放出面より窪みノズルを囲む領域とを有するモノリシックエレクトロスプレー装置を含み、
前記モノリシック装置は前記第1基板上に一体化されており、注入側は液体クロマトグラフィーシステムからの処理液体を受けるように構成されており、主要面は液体をエレクトロスプレーすることにより液体を分配するように構成されている、一体化された化学分析システム。
【請求項2】
前記モノリシックエレクトロスプレー装置の主要面は、主要面に対して略垂直な方向に処理済の液体をエレクトロスプレーすることにより液体を分配するよう構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
複数の液体クロマトグラフィーシステムは、それぞれ前記第2基板内に一体化されており、それぞれ分析用液体を受け、該液体を処理して排出するように構成されており、
複数の前記モノリシックエレクトロスプレー装置は、それぞれ前記第1基板上に一体化されており、それぞれ液体クロマトグラフィーシステムからの処理済みの液体を受けるように構成された注入側を有しており、それぞれ液体をエレクトロスプレーして液体を分散させるように構成された放出面を有する、請求項18に記載のシステム。
【請求項4】
被分析試料を含有する液体を受けるための入口を含む液体クロマトグラフィー装置を画定するマイクロ加工された装置であって、注入側にある入口オリフィスと、注入側とは反対側の放出面にあるノズルと、前記モノリシック装置を連続的に貫通して延び入口オリフィス及びノズルと連通するチャネルと、放出面より窪みノズルを囲む領域とを有し、かつ液体クロマトグラフィー装置からの被分析試料を含有する液体を受け、液体からエレクトロスプレーを発生するように構成されたモノリシックエレクトロスプレー装置をさらに画定するマイクロ加工された装置、およびサンプリングオリフィスを含む質量分析計を含み、前記マイクロ加工された装置はノズルからサンプリングオリフィス内にエレクトロスプレーを放出するよう配置されているシステム。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9A】
image rotate

【図9B】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13A】
image rotate

【図13B】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20A】
image rotate

【図20B】
image rotate

【図20C】
image rotate

【図20D】
image rotate

【図20E】
image rotate

【図20F】
image rotate

【図20G】
image rotate

【図21A】
image rotate

【図21B】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23A】
image rotate

【図23B】
image rotate

【図24A】
image rotate

【図24B】
image rotate

【図24C】
image rotate

【図24D】
image rotate

【図24E】
image rotate

【図25A】
image rotate

【図25B】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate

【図35】
image rotate

【図36A】
image rotate

【図36B】
image rotate

【図37A】
image rotate

【図37B】
image rotate

【図38】
image rotate

【図39A】
image rotate

【図39B】
image rotate

【図40A】
image rotate

【図40B】
image rotate

【図41】
image rotate

【図42】
image rotate

【図43】
image rotate

【図44A】
image rotate

【図45】
image rotate

【図46A】
image rotate

【図46B】
image rotate

【図46C】
image rotate

【図47】
image rotate

【図48】
image rotate

【図49】
image rotate

【図44B】
image rotate

【図44C】
image rotate


【公開番号】特開2006−234838(P2006−234838A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−127976(P2006−127976)
【出願日】平成18年5月1日(2006.5.1)
【分割の表示】特願2000−569901(P2000−569901)の分割
【原出願日】平成11年9月1日(1999.9.1)
【出願人】(501104982)アドヴィオン バイオサイエンシィズ インコーポレイテッド (2)
【出願人】(504151918)キオニックス インコーポレイテッド (6)
【Fターム(参考)】