説明

一方向不連続繊維帯の製造方法

【課題】繊維材料を冷凍することなく、また、フィラメントの配向を乱すことなく繊維材料を切断して、低コストで一方向不連続繊維帯を製造する。
【解決手段】一方向連続繊維からなる帯状の繊維束22aにレーザ光を照射して、繊維束22aの長手方向の複数箇所において、該繊維束22aと交差する方向の切断線を部分的に形成する切断工程を有する。切断工程では、繊維束22aの下面に、繊維束22aを支持する支持体24を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数本の短繊維が長手方向に沿って配向した一方向不連続繊維帯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂成形品を得る際に使用する成形材として、一方向に配向した連続繊維材料に熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を含浸させた一方向プリプレグが知られている。このような一方向連続繊維プリプレグでは、プリプレグ自体の変形が十分でないため曲面形状に賦形する場合には形状に沿わせることが難しく、所望の形状となるよう裁断してプリフォームを製作する必要がある。また、プリプレグでは保管期間や保管状態の管理も配慮する必要があるなど煩雑である。
これに対して、繊維材料として一方向に配向した短繊維を含むドライプリフォームも検討されている。一方向に配向した短繊維では擬似的に伸びるため、優れた曲面賦形性を発揮するものと期待される。すなわち、一方向連続繊維(長繊維)で立体形状のプリフォームを得る場合には、しわが発生するが、一方向不連続繊維は繊維が短いために、プリフォームとした際には擬似的に伸びる。よって、所望する任意の形状に成形した時に型へのなじみもよく、しわの発生も低減されると考えられ、低コストで高品位の成形が可能なドライプリフォームが得られる。
【0003】
一方向に配向した短繊維は、例えば、一方向に配向した長繊維束(繊維トウ)を巻き出して開繊した後、この長繊維束の長手方向の複数箇所において、長繊維束を幅方向に沿って断続的に切断する方法などにより得られる。このような方法によれば、長繊維束のような連続的な取り扱い(例えば、連続的な巻取りなど。)が可能でありながら、個々の各フィラメントは複数箇所で適宜切断されて短繊維となっている、一方向不連続繊維帯を得ることができる。
【0004】
ところが、繊維材料として例えば炭素繊維やアラミド繊維を用いた場合には、これらの繊維は一般的な有機繊維よりも引張り強さが大きく、高弾性であるため、ステンレスやセラミックからなる切断具では磨耗による劣化によって安定的に切断できない問題点があった。
このような問題に対して、特許文献1には、繊維材料に冷凍処理を施した後、レーザ光を照射することにより、繊維材料を切断する技術が記載されている。そして、特許文献1には、単にレーザ光を照射するだけでは、フィラメントがばらけてしまい、配向が乱れる場合があったのに対して、繊維材料にあらかじめ冷凍処理を施すことによって、フィラメントがばらけることなく、長繊維束を切断できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−158528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、繊維材料を冷凍するための冷凍装置や、切断後に繊維材料を乾燥するための乾燥装置、さらには、冷凍のための液体窒素などの液化ガスが必要となり、製造コストが高くなるという問題があった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、繊維材料を冷凍することなく、また、フィラメントの配向を乱すことなく繊維材料を切断して、低コストで一方向不連続繊維帯を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一方向不連続繊維帯の製造方法は、一方向連続繊維からなる帯状の繊維材料にレーザ光を照射して、前記繊維材料の長手方向の複数箇所において、該繊維材料と交差する方向の切断線を部分的に形成する切断工程を有し、該切断工程では、前記繊維材料の下面に、前記繊維材料を支持する支持体を配置する。
前記切断工程の後に、前記繊維材料と前記支持体とを前記繊維材料が内側になるように巻き取る巻取工程をさらに有することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、繊維材料を冷凍することなく、また、フィラメントの配向を乱すことなく、繊維材料を切断して、低コストで一方向不連続繊維帯を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の製造方法で製造される一方向不連続繊維帯の一例を示す平面図である。
【図2】図1の一方向不連続繊維帯を製造する製造装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一方向不連続繊維帯の製造方法について、詳細に説明する。
なお、本発明において、一方向不連続繊維帯とは、長手方向(一方向)に沿って、多数本の短繊維が配向した帯状の材料のことを言う。また、短繊維とは、長さが15mm以上、200mm未満の繊維のことを意味し、長繊維とは、長さが200mm以上の繊維のことを意味する。
【0012】
図1は、本発明の製造方法で製造される一方向不連続繊維帯の一例を示す平面図である。
この一方向不連続繊維帯10は、長手方向に沿う一方向(矢印A方向)に配向した多数本の短繊維の炭素繊維フィラメントからなる幅Wの帯状の材料であり、詳しくは後述するが、3000〜180000本程度のフィラメントからなり、開繊された幅Wの1本の長繊維束(一方向連続繊維)を材料として製造されたものである。また、この一方向不連続繊維帯10の厚みは0.04〜0.25mmである。
【0013】
この一方向不連続繊維帯10は、長手方向の複数箇所P(ただし、n=1,2,3・・・)、すなわち、この例ではP,P,P,P,Pの5箇所それぞれにおいて、炭素繊維フィラメントと交差する方向(繊維方向と交差する方向。)に部分的に形成された複数の切断線(切れ目)11を有している。
【0014】
具体的には、各切断線11は、一方向不連続繊維帯10の幅方向に沿う長さがL、一方向不連続繊維帯10の幅方向に沿う間隔がQ、一方向不連続繊維帯10の長手方向に沿う間隔がQで配置され、長手方向の各箇所それぞれにおいて一方向不連続繊維帯10の幅方向に沿って断続的に形成されている。また、各切断線11は、一方向不連続繊維帯10の厚み方向に貫通している。
図1の一方向不連続繊維帯10は、このように形成された切断線11により、元々は長繊維であった各炭素繊維フィラメントそれぞれが長手方向に分断され、長さRの短繊維とされたものである。そのため、この一方向不連続繊維帯10をプリプレグに使用した際には、一方向に配向した長繊維を含むプリプレグと同等の物性や取扱性を有しながら、優れた曲面賦形性を発揮し、特に立体的な成形物の成形に適したものとなる。
【0015】
また、この例では、長手方向に隣り合う箇所、すなわちPとPn+1とでは、切断線11の幅方向における配置位置が一致せず、互い違いにずれるようなパターンで、切断線11が配置されている。
【0016】
このような一方向不連続繊維帯10は、例えば図2に示す一方向不連続繊維帯の製造装置20により連続的に製造できる。
図2の製造装置20は、一方向連続繊維からなる繊維束の巻回物を巻き出す巻出装置21と、巻き出された繊維束22を開繊して、例えば厚みが0.04〜0.25mm程度の均一な厚みの帯状とする開繊装置23と、開繊された帯状の繊維束22aの下面側に支持体24を供給、配置する供給装置25と、支持体24が配置された繊維束22aに対して、支持体24が配置されていない上面側にレーザ光を照射して繊維束22aの所望の部分を切断し、複数の切断線11を形成する切断装置26と、切断装置26を経た繊維束22bを支持体24と共に巻き取る巻取装置27とを備えている。
【0017】
この例の切断装置26は、水平方向に搬送される繊維束22aの上面側において、レーザ光を自在に走査して、繊維束22aの上面における任意の位置を切断可能なものである。
また、開繊装置23の後段には、開繊された繊維束22aと、供給された支持体24とを両面側から挟む一対のニップローラ28が配置され、このニップローラ28により、巻出装置21から巻き出され、支持体24で支持される前までの繊維束に対して、所定の張力が付与されるようになっている。また、ニップロール28から巻き取り装置27までの間は、支持体24に対し、張力が付与され、繊維束22bのフィラメントの配向を乱すことなく巻き取ることができるようになっている。
【0018】
この製造装置20により、図1の一方向不連続繊維帯10を製造する場合には、まず、巻出装置21により繊維束22を連続的もしくは間欠的に巻き出し、この繊維束22を開繊装置23の具備する複数本のバーで擦過もしくは揺動によって開繊して、帯状の繊維束22aとする。
ついで、開繊された帯状の繊維束22aの下面側に、供給装置25から支持体24を供給し、この支持体24により繊維束22aを下方から支持して、繊維束22aを支持体24とともに切断装置26へと送る。
そして、支持体24が配置された繊維束22aの上面側から、切断装置26によりレーザ光を照射して、繊維束22aの所定の位置を走査して切断し、図1のようなパターンで複数の切断線11を形成する(切断工程)。
この例では、被切断物である帯状の繊維束22aは、所定の供給速度で連続的に切断装置26に送られているため、切断装置26は、繊維束22aの供給速度を考慮した方向および速度でレーザ光を走査し、複数の切断線11を連続的に形成していく。
【0019】
ついで、切断工程後の繊維束22bと、その下面側に配置された支持体24とを共に、繊維束22bが内側となるように巻取装置27で巻き取る(巻取工程)。繊維束22bが内側に位置するように巻き取ると、すでに切断線11が形成されている状態の繊維束22bが、巻回物の外側に向けてばらけてフィラメントの配向が乱れてしまうことがない。
このような方法により、支持体24に支持された巻回物の形態で、一方向不連続繊維帯10を得ることができる。
【0020】
こうして得られた一方向不連続繊維帯10がプリプレグの製造に使用される場合には、図示略のプリプレグ化工程において、一方向不連続繊維帯10に対して熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を含浸させて、プリプレグを製造する。
得られたプリプレグは、製造する成形物の形状、強度などに応じて、複数枚重ねられて成形に供される。
【0021】
支持体24としては、レーザ照射が反射もしくは透過することにより切断されない耐レーザ性を備え、少なくとも切断工程中に、繊維束22aを支持できるものであればよく、帯状(シート状、テープ状、フィルム状、ベルト状、バンド状など。)のものがよい。例えば、YAGレーザであればPETフィルムや、シリコーン樹脂やテフロン(登録商標)でコーティングされた紙であればよい。また、炭酸ガスレーザであればシリコーンフィルムやシリコーン又はテフロン(登録商標)でコーティングされた紙であればよい。
【0022】
切断工程で照射するレーザ光の種類としては、例えば、炭酸ガスレーザやエキシマレーザなどの気体レーザ、YAGレーザやYVOレーザなどの固体レーザ及びファイバーレーザなどが使用できるが、短時間の照射で繊維束を良好に切断できる点では、YAGレーザ及びYVOレーザなどの固体レーザ及びファイバーレーザが好ましい。
切断工程で使用される切断装置26としては、キーエンス製の型式MD−F3000や型式MD−V9900、SUNX製の型式LP−Z250、LP−G050、LP−431U、Advanced Optowaves Corp製の型式AWAVE−355−15−100Kなどが挙げられる。
また、レーザ出力、発振モード、走査する速度、パルス幅、パルス周波数などを繊維束22aの材質、厚み、供給される速度、厚み方向の切断の度合いに応じて設定することが好ましい。
【0023】
このような製造方法では、以上説明したように、一方向連続繊維からなる繊維束22aの下面に、繊維束22aを支持する支持体24を配置して切断工程を行う。
そのため、切断工程を行うにあたって繊維束22aを冷凍しなくても、繊維束22aを構成している炭素繊維フィラメントの配向を乱すことなく、レーザ光により繊維束22aの所望の箇所を切断することができる。よって、繊維束を冷凍するための冷凍装置や、切断後に繊維束を乾燥するための乾燥装置、さらには、冷凍のための液体窒素などの液化ガスは一切必要なく、低コストで図1の例のような一方向不連続繊維帯10を連続的に製造することができる。
【0024】
また、この例の製造方法では、切断工程の後に、繊維束22bと支持体24とを繊維束22bが内側になるように巻き取る巻取工程をさらに有している。そのため、すでに切断線11が形成されている状態の繊維束22bが、巻回物の外側に向けてばらけてフィラメントの配向が乱れてしまうことがない。
【0025】
なお、この例では、繊維束22aの上面側に切断装置26を配置し、レーザ光を繊維束22aの上面側より照射して切断線11を形成しているが、繊維束22aの下面側にある支持体24がレーザ光を透過する支持体の場合には、支持体22はレーザ光により切断されずに繊維束22aを支持することができるため、切断装置26を繊維束22aの下面側もしくは両側に配置して、繊維束22aの下面側もしくは両面側よりレーザ光を照射して切断線11を形成してもよい。繊維束22aの両面側からレーザ光を照射する場合には、一方からのレーザ光と他方からのレーザ光により、繊維束22aを両面側から切断することにより、厚み方向に貫通した切断線11を形成してもよい。
【0026】
なお、この例では、繊維材料として炭素繊維を例示したが、炭素繊維以外の繊維、例えばアラミド繊維などであってもよい。しかしながら、上述の切断工程によれば、配向を乱さずに切断することがより難しい炭素繊維であっても、良好に切断することができる。
【0027】
また、この例では、一方向不連続繊維帯10として、長手方向の複数箇所Pそれぞれにおいて、複数の切断線11が断続的に形成されているものを例示した。しかしながら、一方向不連続繊維帯10を構成する各フィラメントが、切断工程により短繊維になっている限り、各箇所Pそれぞれにおける切断線の本数は1本であってもよい。
また、この例では、一方向不連続繊維帯10として、長手方向に隣り合う箇所では、切断線11の幅方向における配置位置が互い違いにずれるパターンで切断線11が形成されたものを例示した。しかしながら、一方向不連続繊維帯10を構成する各フィラメントが、切断工程により短繊維になっている限り、切断線11の形成パターンには特に制限はない。例えば図1の例のように一定の規則性をもったパターンでもよいし、規則性のないランダムなパターンであってもよい。また、各切断線11の長さ、切断線11の本数、間隔Q、Qなどにも制限はない。
また、この例では、一方向不連続繊維帯10として、各切断線11が厚み方向に貫通して形成されているものを例示した。しかしながら、一方向不連続繊維帯10を構成する各フィラメントが、切断工程により短繊維になっている限り、すべての切断線が厚み方向に貫通している必要はない。
【0028】
さらに、この例では、各切断線11の方向が一方向不連続繊維プリプレグ10の幅方向と一致しているものを例示した。しかしながら、各切断線11の方向は、繊維方向と交差する方向であればよい。ただし、レーザ光の照射されるスポット径による切断幅の点からは、各切断線11の方向は、繊維方向に対する角度が2〜178°となる範囲内であることが好ましい。更に好ましくは30〜150°の範囲がよい。なお、各切断線の方向は、一致していなくてもよい。
【0029】
また、この例では、一方向不連続繊維帯10として、1束の一方向連続繊維からなる繊維束(長繊維束(繊維材料))から形成されたものを例示したが、複数本の一方向連続繊維束が幅方向に並べられた繊維材料から形成されたものであってもよい。その場合、巻出装置から複数の繊維束を幅方向に並べた状態で巻き出せばよい。このような方法によれば、幅の大きな一方向不連続繊維帯を得ることができる。
以上説明したように、切断線11の形成パターン、本数、間隔、方向や、切断工程に供給される長繊維束の本数などは、得られた一方向不連続繊維帯を用いたプリプレグの用途や、成形品に求められる物性などに応じて適宜設計でき、特に制限はない。
【符号の説明】
【0030】
10 一方向不連続繊維帯
11 切断線
22a 帯状の繊維束(繊維材料)
24 支持体
26 切断装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向連続繊維からなる帯状の繊維材料にレーザ光を照射して、前記繊維材料の長手方向の複数箇所において、該繊維材料と交差する方向の切断線を部分的に形成する切断工程を有し、
該切断工程では、前記繊維材料の下面に、前記繊維材料を支持する支持体を配置する、一方向不連続繊維帯の製造方法。
【請求項2】
前記切断工程の後に、前記繊維材料と前記支持体とを前記繊維材料が内側になるように巻き取る巻取工程をさらに有する、請求項1に記載の一方向不連続繊維帯の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−87420(P2012−87420A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232604(P2010−232604)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】