説明

一次元構造内にゼロ次元構造が点在するSiナノワイヤとその製造法

【課題】内部に球状のシリコンナノ結晶が点在する、発光材料として利用可能なシリコンナノワイヤを提供する。
【解決手段】該シリコンナノワイヤは、一次元構造の結晶シリコンナノワイヤにO2+イオンを注入してから不活性ガス雰囲気下にアニールしてその内部にシリコンナノ結晶を析出させ、その後、加熱と共に水素プラズマ処理することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高輝度発光材料としての応用が可能な、一次元構造内にゼロ次元構造が点在する新規なSiナノワイヤ、及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、Siナノワイヤについてはよく知られており、溶融法、蒸発法(アブレーション法)、触媒法、化学気相堆積法(CVD法)等の種々の方法により製造することができる(特許文献1〜4)。
しかし、一次元構造内にゼロ次元構造が点在するSiナノワイヤについては、知られていない。
【0003】
また、Siは間接半導体であるため、発光素子には適していないと言われる。しかし、Siのサイズが小さくなると、バンド構造の変化ならびに電子−正孔対の再結合確率が増大するため、発光素子として利用できるようになる。
これまで、Siナノ構造を利用した発光の研究・開発は様々行われているが、ほとんどの研究・開発は、Siウェハー等のSi基板上に、
1)SiOx(x<2)の膜を堆積させ、
2)適度な温度でアニールし、
3)それによって、膜内にSiナノ結晶を析出させるもの(すなわち、二次元方向の形成・制御)、であった(特許文献5参照)。
ここで、Si−O系では、SiOがエネルギー的に最も安定であるため、熱アニールにより、SiOxはSiOとSiとに相分離し、Siナノ結晶が析出することを利用している。
【0004】
また、本発明者らは、これまでに、Siナノワイヤへの不純物ドーピングの研究過程で、ホウ素(B)やリン(P)をイオン注入し、熱処理(アニール)すると、Siナノワイヤの結晶性が回復し、PやBが電気的に活性化することを明らかにしている。更に、本発明者らは、イオン注入前のSiナノワイヤ(原料Siナノワイヤ)とイオン注入後にアニールしたSiナノワイヤとを比べると、前者ではSiナノワイヤの内部が単結晶であるが、後者では多結晶化することを見出している(非特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
〔発明の目的又は動機〕
本発明者らは、上記したSiナノワイヤにおける処理前後の内部構造の変化に注目し、種々検討した。そして、Siナノワイヤに対して適量のOイオン注入を行い、その後に熱処理(アニール)すると、意外にも、一次元構造内にゼロ次元構造が点在するSiナノワイヤを得ること、及びこれが発光材料となりうることを見出し、本発明を完成した。
本発明は、一次元構造を有するSiナノワイヤをテンプレートとして、その内部にゼロ次元のSiナノ結晶を高密度に形成したSiナノワイヤとその製造法を提供することを目的とし、ひいては、Siナノ結晶からの発光を利用した高輝度発光材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔発明の要旨〕
すなわち、本発明は、一次元SiO構造内にゼロ次元Siナノ結晶構造が点在するSiナノワイヤを提供する。
【0007】
また、本発明は、一次元SiO構造内にゼロ次元Siナノ結晶構造が点在するSiナノワイヤの製造法も提供する。その製造法は、次の工程(i)〜(iii)を含むことを特徴とする。
(i)一次元構造の結晶Siナノワイヤに、Oイオン注入する工程;
(ii)次いで、これを不活性ガス雰囲気下に、熱処理(アニール)する工程;
(iii)次いで、これを加熱と共に、水素プラズマ処理する工程。
【発明の効果】
【0008】
本発明の、一次元SiO構造内にゼロ次元Siナノ結晶構造が点在するSiナノワイヤは新規なSiナノワイヤである。このPLスペクトルは、ゼロ次元ナノ結晶のサイズに応じて、約400〜950nmに強い発光ピークをもつので、発光素子としての応用が可能である。
本発明の製造法により、一次元SiO構造内にゼロ次元Siナノ結晶構造が点在するSiナノワイヤを再現性よく得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1(Oイオン注入量は1×1016cm−2)における各工程のサンプルのラマンスペクトル。(a)原料Siナノワイヤ(成長直後の結晶Si)、(b)Oイオン注入後のSiナノワイヤ、(c)1000℃でアニールした後の(再結晶化)Siナノワイヤ。
【図2】比較例1(Oイオン注入量は5×1015cm−2)における各工程のサンプルのラマンスペクトル。(a)原料のSiナノワイヤ(成長直後の結晶Si)、(b)Oイオン注入後のSiナノワイヤ、(c)1000℃でアニールした後の(再結晶化)Siナノワイヤ。
【図3】実施例1(Oイオン注入量は1×1016cm−2)において、Oイオン注入後に1000℃でアニールしたSiナノワイヤのTEM像。
【図4】比較例1(Oイオン注入量は5×1015cm−2)において、Oイオン注入後に1000℃でアニールしたSiナノワイヤのTEM像。
【図5】Oイオン注入後に1000℃でアニールし、更に水素プラズマ処理を行ったSiナノワイヤのPLスペクトル。(1)は実施例1(Oイオン注入量は1×1016cm−2)で得られた目的物についてのもの、(2)は比較例1(Oイオン注入量は5×1015cm−2)で得られたSiナノワイヤについてのもの。
【図6】実施例1(Oイオン注入量は1×1016cm−2)における(a)1000℃アニール後のPLスペクトル、(b)その後、水素プラズマ処理(500℃、30分)を行った後のPLスペクトル。
【図7】実施例1(Oイオン注入量は1×1016cm−2)における(a)1000℃アニール後のESRシグナル、(b)その後、水素プラズマ処理(500℃、30分)を行った後のESRシグナル。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔発明の更に詳しい説明〕
先ず、本発明の製造法について説明する。
本発明の製造法は、上で述べたように、次の工程(i)〜(iii)を含んでいる。
(i)一次元構造の結晶Siナノワイヤに、Oイオン注入する工程;
(ii)次いで、これを不活性ガス雰囲気下に、熱処理(アニール)する工程;
(iii)次いで、これを加熱と共に水素プラズマ処理する工程。
【0011】
ここで、工程(i)で用いる「一次元構造の結晶Siナノワイヤ」は、公知の方法、すなわち、溶融法、蒸発法(アブレーション法)、触媒法、化学気相堆積法(CVD法)等により調製することができる。この結晶Siナノワイヤの太さ(径)は、通常3〜500nmの範囲であり、この太さ(径)が目的物である「一次元SiO構造内にゼロ次元Siナノ結晶構造が点在するSiナノワイヤ」の太さ(径)を左右することになる。
【0012】
Siナノワイヤ中にSiナノ結晶を形成する上で重要なことは、直径が2〜5nm(更に好ましくは2〜3nm)のSi球状ナノ結晶を高密度に形成することで、そのために、工程(i)におけるOイオン注入量(ドーズ量)の最適化、及び工程(ii)における熱アニール条件の最適化が重要である。
工程(i)におけるOイオン注入量は、好ましくは0.8×1016〜2×1016個/cmとする。この処理により、ナノワイヤの中はアモルファス状態となる。Oイオン注入量が0.8×1016個/cm未満の低い量では、Siナノワイヤ中の結晶をゼロ次元に変えることはできない。注入量の増大に伴って、Siナノワイヤ中にSiナノ結晶の析出が開始する。本発明の「一次元SiO構造内にゼロ次元Siナノ結晶構造が点在するSiナノワイヤ」を、発光材料に用いる場合には、析出するSi球状ナノ結晶の直径が3nm以下(2nm以上)となるように調整する。これが3nmを越えるとほとんど発光しないからである。また、注入量が2×1016個/cmを越えて多すぎても、Siナノワイヤの結晶内部の殆どが酸化物になり、やはり発光しない傾向になる。最適ドーズ量の範囲は比較的狭いものである。
なお、Oイオン注入する際の温度は、適度に加温してもよいが、通常は室温で構わない。
【0013】
工程(ii)で用いる不活性ガスとしては、Ar、窒素等が用いられる。
【0014】
また、工程(ii)における熱処理(アニール)では、一次元構造ナノワイヤ内にSiナノ粒子を析出させ、その析出物が完全に結晶化するような温度及び時間(保持時間)を選んで行なう。その温度及び時間は、概ね500〜1200℃、10〜60分である。熱処理の温度が高すぎたり、あるいは、処理時間が長すぎたりすると、Siナノ結晶同士が凝集して大きくなり、直径3nm以下のSi球状ナノ結晶を形成できない。
【0015】
工程(iii)の「加熱と共に行なう水素プラズマ処理」は、工程(ii)で析出したSiナノ粒子の周りに存在するダングリングボンド型(未結合手型)欠陥を完全に水素原子で終端させるために行なうものである。加熱温度及び時間は、概ね300〜600℃、5〜60分であり、加熱温度が高いほど処理時間は短く済む傾向となる。
【0016】
かくして、本発明の、一次元SiO構造内にゼロ次元Siナノ結晶構造が点在するSiナノワイヤが得られる。
【0017】
ここで、前記一次元SiO構造は、好ましくは、3〜500nmの径を有し、その長さは径の3倍以上を有するSiOワイヤである。
また、前記一次元SiO構造内に点在するゼロ次元Siナノ結晶構造は、前記一次元SiO構造内に収まる大きさでなければならないことは勿論であるが、好ましくは直径2〜5nm、更に好ましくは直径2〜3nm、の球状ナノ粒子である。
【0018】
本発明の典型的な例では、Si基板に無数のSiナノワイヤを垂直に成長させたあと、そのSiナノワイヤへ酸素イオンを注入して、これをSiOxナノワイヤ(ナノワイヤの中はアモルファス状態となる)へと変化させ、次いでこれを不活性ガス雰囲気下に熱処理(アニール)することで、SiOxをSiOとSiとに相分離させて、一次元構造ナノワイヤ内にSiナノ結晶粒子を析出させている。更には、これを加熱と共に水素プラズマ処理し、析出したSiナノ粒子の周りに存在するダングリングボンド(未結合手)型欠陥を完全に水素原子で終端させている。このように、Siナノ結晶を基板の面内から垂直方向へもスタックすること(すなわち、三次元方向の形成・制御)ができるため、従来のSi系発光材料に比べ高輝度の新材料の創製が可能となる。
【実施例】
【0019】
<実施例1>
(1)Siナノワイヤ(原料Siナノワイヤ)は次のようにして調製した。すなわち、金属触媒としてのNiを含有するSi(Ni含有量:1at%)をターゲットとし、Arガス500Torr、50sccmの雰囲気中、1200℃で、Nd:YAGレーザー(532nm,10Hz,1.6W)によるアブレーションを行ない、ターゲットの下流に置かれたSi基板上にSiナノワイヤを堆積させた。
(2)基板上に堆積したSiナノワイヤに対し、加速エネルギー:80keV,注入量:1×1016cm−2,平均飛程Rp:100nmの条件で、Oイオン注入を行った。
(3)その後、Arガス 200Torr、100sccm雰囲気中で、1000℃で30分間、熱処理(アニール)を行なった。
(4)その後、500℃で水素プラズマ処理を30分間行ない、目的とする「一次元構造内にゼロ次元構造が点在するSiナノワイヤ」を得た。
【0020】
<比較例1>
SiナノワイヤへのOイオン注入量を、1×1016cm−2に代えて5×1015cm−2としたほかは、実施例1と同様に操作し、比較のためのSiナノワイヤを得た。
【0021】
(評価)
目的物及び比較品の評価は、顕微ラマン散乱測定、TEM観察、フォトルミネッセンス(PL)測定等により行なった。
図1は、実施例1における各工程のサンプルのラマンスペクトルで、上から、(a)原料Siナノワイヤ(成長直後の結晶Si)、(b)Oイオン注入後のSiナノワイヤ、及び(c)1000℃でアニールした後の(再結晶化)Siナノワイヤ、についてのものである。また、図2は、比較例1における各工程のサンプルについてのラマンスペクトルである。Oイオン注入前(原料Siナノワイヤ)のラマンスペクトル(a)はいずれの図も、結晶Siの光学フォノンに由来する520cm−1付近のピークを示している。一方、Oイオン注入後のラマンスペクトル(b)では、いずれの図も480cm−1付近にアモルファスSiに由来するブロードなピークが観測されているが、520cm−1付近のピークについて見れば、実施例1(Oイオン注入量:1×1016cm−2)では殆ど観測されてない(すなわち、結晶Siは殆ど残っていない)のに対して、比較例1(Oイオン注入量:5×1015cm−2)では、520cm−1付近のピークを観測でき、結晶Siが残っていることを示している。1000℃でアニール後のラマンスペクトル(c)では、アモルファスSiのピークが消え、光学フォノンに由来する520cm−1のピークがいずれの図も観測されており、これは結晶性の回復を示すものである。
【0022】
図3は、実施例1で、Oイオン注入後に1000℃でアニールしたSiナノワイヤのTEM像である。Siナノワイヤの内部に、球状のSiナノ結晶粒子が点在するように生成していることを証する結果である。なお、図3においては、この球状のSiナノ粒子の位置を見やすくするため、夫々の粒子とその周囲との境界を黒い線で示している。粒子は球状であるため、この境界線は図3では黒い円となっている。
図4は、比較例1で、Oイオン注入後に1000℃でアニールしたSiナノワイヤのTEM像である。Siナノワイヤ中には、図3で観測されたような球状のSiナノ結晶粒子は観測されず、Oイオン注入前の元の状態に近い構造となっている。
【0023】
図5に、実施例1で得られた目的物(Oイオン注入後に1000℃でアニールし、更に水素プラズマ処理を行ったSiナノワイヤ)及び比較例1で得られたSiナノワイヤ(比較品)のPLスペクトルを示した。実施例1(Oイオン注入量は1×1016cm−2)で得られたSiナノワイヤでのみ強い発光が観測されたが、これは図3で示したような、Siナノワイヤ内部に点在する球状のSiナノ結晶粒子が発光に起因していると考えている。なお、ここで、水素プラズマ処理前のものについては、発光がほとんど観測されないことは図6の結果からも確認できる。
また、実施例1における水素プラズマ処理前後の各々のESRシグナルを示した図7の結果から、水素プラズマ処理により、g=2.005の位置に観測された欠陥のシグナルが減少したこと、つまり、水素プラズマ処理によって上記欠陥を水素で終端し、その欠陥が電気的に不活性化されたことが分かる。欠陥の不活性化により、非発光再結合中心が減少して発光効率が上がったといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開2003−142680
【特許文献2】特開2004−296750
【特許文献3】特開2006−117475
【特許文献4】特開2007−055840
【特許文献5】特開平7−237995
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】2009年秋季第70回応用物理学会学術講演会講演予稿集第2分冊715ページ、9p−TB−4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次元SiO構造内にゼロ次元Siナノ結晶構造が点在するSiナノワイヤ。
【請求項2】
前記一次元SiO構造は3〜500nmの径を有し、前記ゼロ次元Siナノ結晶構造は径2〜5nmの球状ナノ粒子である、請求項1のSiナノワイヤ。
【請求項3】
次の工程(i)〜(iii)を含むことを特徴とする、一次元SiO構造内にゼロ次元Siナノ結晶構造が点在するSiナノワイヤの製造法:
(i)一次元構造の結晶Siナノワイヤに、Oイオン注入する工程;
(ii)次いで、これを不活性ガス雰囲気下に、熱処理する工程
(iii)次いで、これを加熱と共に水素プラズマ処理する工程;
【請求項4】
工程(i)におけるOイオン注入量は0.8×1016〜2×1016個/cmである、請求項3の製造法。
【請求項5】
工程(ii)における熱処理の温度及び時間は、500〜1200℃で10〜60分である、請求項3の製造法。
【請求項6】
工程(iii)における加熱温度及び時間は、300〜600℃で5〜60分である、請求項3の製造法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−178585(P2011−178585A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42439(P2010−42439)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】