説明

一液型フッ素樹脂塗料組成物及び汚染防止方法

【課題】塗膜としたときに優れた耐薬品性、耐候性、撥水性、耐汚染性を付与でき、更に帯電防止性を併せて付与できる新規の一液型フッ素樹脂塗料組成物及び該一液型フッ素樹脂塗料組成物を用いる汚染防止方法を提供する。
【解決手段】一液型フッ素樹脂塗料組成物は(I)(A)ウレタン結合を介してラジカル重合性不飽和結合部分を有するフッ素樹脂、(B)片末端ラジカル重合性ポリシロキサン、(C)片末端ラジカル重合性ポリアルキレングリコール、及び、必要に応じて(D)その他のラジカル重合性単量体を反応させることによって得られるグラフト共重合体;及び
(II)アルカリ金属塩を含有してなり、汚染防止方法は前記一液型フッ素樹脂塗料組成物を塗装してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一液型フッ素樹脂塗料、特に汚染防止に有効な一液型フッ素樹脂塗料、及び前記塗料を用いた汚染防止方法に関する。本発明の一液型フッ素樹脂塗料組成物を塗布した物品は、耐薬品性、耐候性、撥水性、耐汚染性及び汚染除去性に優れるが、特に汚染防止に有効であり、更に例え汚染された場合においても優れた汚染除去性を示す。
【背景技術】
【0002】
従来より、意匠性、耐薬品性、耐候性、基材の耐久性等を向上させるために塗装が行われていることは周知の事実である。中でも特に、耐薬品性、耐候性等を向上させるためアクリル樹脂塗料、シリコンアクリル樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料等を塗装することが知られている。特にフッ素樹脂塗料は耐薬品性や耐候性が非常に優れているが、フッ素樹脂塗料は多数の被塗物、例えば塗料塗膜、プラスチック等との密着性が比較的悪いために実用化という点では制限があった。またフッ素樹脂塗料は基材に対する塗膜の密着性が許容される範囲内であったとしても、煙草の煙などの汚染物質によって容易に汚染されることが問題となっていた。更にフッ素樹脂塗膜は一旦汚染されると容易に除去できなかった。例えば、煙草の煙によって汚染されると表面が褐色化し、意匠性が著しく低下するという問題があった。
【0003】
一般に、バインダー樹脂に導電性フィラーを適量導入することによって、塗膜の表面抵抗性を制御して耐汚染性に優れた塗膜を得ることが知られている。しかしこの方法では、導電性フィラーを一部重ね合わせ、電気回路として作用させることにより導電性を付与しているために、適切にフィラーを分散させることが容易でないという問題点があった。また、電気回路を形成する、即ちフィラーが完全に分散されているのではないために、塗膜の光沢があまり良好でないという問題点があった。また、フィラーの粒径や分散状態によってはクリヤー塗膜を所望した場合に青みがかったり、着色塗膜において色相が変化したりする問題点もあった。
【0004】
本発明者等は、フッ素樹脂又はアクリル樹脂の存在下にポリシロキサン、ポリアルキレングリコール及び他の単量体を反応させグラフト共重合体を得、このグラフト共重合体を用いた塗料が撥水性、耐汚染性に優れた塗膜を得ることができることを見いだした(特許文献1、及び特許文献2)。このグラフト共重合体を用いた塗料は、汚染防止性能に優れるものではあったが、静電気が発生しやすく、汚染物質の除去性、特に汚染物質が粉状のときに、除去することが困難であった。
【特許文献1】特開2000−119355号公報
【特許文献2】特開2000−136222号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、塗膜としたときに耐薬品性、耐候性、撥水性に優れ、しかも帯電防止性を有するために表面の汚染を有効に防止することができる塗膜を得ることができる一液型フッ素樹脂塗料組成物及び汚染防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題は、本発明により、
(I)(A)ウレタン結合を介してラジカル重合性不飽和結合部分を有するフッ素樹脂、
(B)片末端ラジカル重合性ポリシロキサン、及び
(C)片末端ラジカル重合性ポリアルキレングリコール、
を反応させることによって得られるグラフト共重合体;及び
(II)アルカリ金属塩
を含む、塗膜の表面抵抗率が10〜1013Ω/□であることを特徴とする一液型フッ素樹脂塗料組成物により解決することができる。
【0007】
本発明による一液型フッ素樹脂塗料組成物の好ましい態様においては、前記グラフト重合体が
(A)ウレタン結合を介してラジカル重合性不飽和結合部分を有するフッ素樹脂、
(B)片末端ラジカル重合性ポリシロキサン、
(C)片末端ラジカル重合性ポリアルキレングリコール、及び
(D)ウレタン結合を介してラジカル重合性不飽和結合部分を有するフッ素樹脂(A)、片末端ラジカル重合性ポリシロキサン(B)、及び片末端ラジカル重合性ポリアルキレングリコール(C)とは異なるラジカル重合性単量体、
を反応させることによって得られるグラフト共重合体であり、特には、前記片末端ラジカル重合性ポリアルキレングリコール(C)が、少なくともエチレングリコール単位を2個以上有する。
【0008】
また、本発明は、前記一液型フッ素樹脂塗料を塗装して塗膜を形成することを特徴とする汚染防止方法にも関する。
【0009】
なお、本明細書中において、(メタ)アクリレートはアクリレート及びメタクリレートを包含して意味するものとし、例えばメチル(メタ)アクリレートはメチルアクリレートとメチルメタクリレートの両方を意味するものとする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一液型フッ素樹脂塗料組成物及び汚染防止方法は表面の汚染を効果的に防止することができる。詳しくは、本発明の一液型フッ素樹脂塗料組成物は煙草の煙、ほこりやちり、油汚れ等の汚染物質が付着するのを防止する塗膜を形成することが可能であり、例え、前記の汚染物質が付着したとしても、塗膜の有する帯電防止性により、容易に汚染物質を除去することができる。特に、静電気によって帯電しやすいほこりやちりに対して有効である。
本発明の一液型フッ素樹脂塗料組成物によって形成された塗膜は、高光沢で透明性に優れ、一般的には難付着性とされている塗料塗膜、プラスチックに対する密着性にも優れている。
更に、本発明の一液型フッ素樹脂塗料組成物は、その構成成分であるグラフト重合体にフッ素樹脂成分を含んでいるため、前記の一液型フッ素樹脂塗料組成物によって形成された塗膜は耐薬品性と耐候性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の一液型フッ素樹脂塗料組成物は、(I)ある特定のグラフト共重合体及び(II)アルカリ金属塩を含有することを特徴とする。
【0012】
《グラフト共重合体》
本発明のグラフト共重合体(I)は、(A)ウレタン結合を介してラジカル重合性不飽和結合を有するフッ素樹脂〔以下、単に成分(A)と称することがある〕、(B)片末端ラジカル重合性ポリシロキサン〔以下、単に成分(B)と称することがある〕、及び(C)片末端ラジカル重合性ポリアルキレングリコール〔以下、単に成分(C)と称することがある〕を共重合するという製造方法によって得られ、必要に応じて、前記成分(A)、成分(B)、成分(C)、並びに(D)成分(A)、成分(B)、及び成分(C)とは異なるラジカル重合性単量体〔以下、単に成分(D)と称することがある〕を共重合するという製造方法によって得られる。
【0013】
(1)成分(A)
成分(A)はウレタン結合を介してラジカル重合性不飽和結合部分を有するフッ素樹脂であり、詳しくは主鎖としての直鎖状フッ素樹脂がウレタン結合を介してラジカル重合性不飽和結合部分を側鎖として有してなるものである。そのような成分(A)は、例えば、水酸基を有するフッ素樹脂(A−1)〔以下、単に成分(A−1)と称することがある〕とイソシアネート基を有するラジカル重合性単量体(A−2)〔以下、単に成分(A−2)と称することがある〕を反応させることによって得ることができる。
【0014】
成分(A−1)は、その構成成分として少なくとも水酸基含有単量体部分とポリフルオロパラフィン部分とを含むものであれば特に限定されるものではないが、例えば、下記一般式(1)で表される繰り返し単位、及び下記一般式(2)で表される繰り返し単位を含むものであることができ、更に、下記一般式(3)で表される繰り返し単位を含むことができる。この一般式(3)で表される繰り返し単位を含むことによって有機溶剤に対する溶解性を向上させることができる。
【0015】
【化1】

【0016】
式中、R及びRは、各繰り返し単位毎に独立して、かつ同一でも異なっていてもよく、水素原子;ハロゲン原子(例えばフッ素原子、又は塩素原子);炭素数1〜10のアルキル基(例えば、メチル基、又はエチル基);炭素数6〜10のアリール基(例えば、フェニル基);ハロゲン原子(例えばフッ素原子又は塩素原子)で1個又は複数個置換された炭素数1〜10のアルキル基(例えば、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、又はトリクロロメチル基);あるいはハロゲン原子(例えばフッ素原子、又は塩素原子)で1個又は複数個置換された炭素数6〜10のアリール基(例えば、ペンタフルオロフェニル基)であり、lは2以上の整数である。なお、lが2以上の整数であるとは、フッ素樹脂(A−1)が上記一般式(1)で表される繰り返し単位を2以上含むという意味である。
【0017】
一般式(1)で表される繰り返し単位の好ましい例として、例えば、フルオロビニリデン基(このときR=R=H)、クロロトリフルオロエチレン基(このときR=F、R=Cl)、ヘキサフルオロプロピレン基(このときR=F、R=CF)、テトラフルオロエチレン基(このときR=R=F)等が挙げられる。(前記例示においてRとRは互いに入れ違っても同一の繰り返し単位となる。)
【0018】
【化2】

【0019】
式中、Rは、各繰り返し単位毎に独立して、水素原子;ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、又は塩素原子);炭素数1〜10のアルキル基(例えば、メチル基、又はエチル基);炭素数6〜8のアリール基(例えば、フェニル基);ハロゲン原子(例えばフッ素原子、又は塩素原子)で1個又は複数個置換された炭素数1〜10のアルキル基(例えば、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、又はトリクロロメチル基);あるいはハロゲン原子(例えばフッ素原子、又は塩素原子)で1個又は複数個置換された炭素数6〜10のアリール基(例えば、ペンタフルオロフェニル基)であり、Rは、繰り返し単位毎に独立して、OR5a基、CHOR5b基、COOR5c基から選択した2価の基であり、R5a、R5b、及びR5cは、炭素数1〜10のアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、又はヘキサメチレン基);炭素数6〜10のシクロアルキレン基(例えば、シクロヘキシレン基);炭素数2〜10のアルキリデン基(例えばイソプロピリデン基);及び炭素数6〜10のアリーレン基(例えば、フェニレン基、トリレン基、又はキシリレン基)から選択した2価の基であり、mは2以上の整数である。なお、mが2以上の整数であるとは、フッ素樹脂(A−1)が上記一般式(2)で表される繰り返し単位を2以上含むという意味である。
【0020】
【化3】

【0021】
式中、Rは、各繰り返し単位毎に独立して、水素原子;ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、又は塩素原子);炭素数1〜10のアルキル基(例えば、メチル基、又はエチル基);炭素数6〜10のアリール基(例えば、フェニル基);ハロゲン原子(例えばフッ素原子、又は塩素原子)で1個又は複数個置換された炭素数1〜10のアルキル基(例えば、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、又はトリクロロメチル基);あるいはハロゲン原子(例えばフッ素原子、又は塩素原子)で1個又は複数個置換された炭素数6〜10のアリール基(例えば、ペンタフルオロフェニル基)であり、Rは、繰り返し単位毎に独立して、OR8a基又はOCOR8b基であり、R8a及びR8bは、水素原子;ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、又は塩素原子);炭素数1〜10のアルキル基(例えば、メチル基、又はエチル基);炭素数6〜10のアリール基(例えば、フェニル基);ハロゲン原子(例えばフッ素原子、又は塩素原子)で1個又は複数個置換された炭素数1〜10のアルキル基(例えば、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、又はトリクロロメチル基);あるいはハロゲン原子(例えばフッ素原子、又は塩素原子)で1個又は複数個置換された炭素数6〜10のアリール基(例えば、ペンタフルオロフェニル基)であり、nは2以上の整数である。なお、nが2以上の整数であるとは、フッ素樹脂(A−1)が上記一般式(2)で表される繰り返し単位を2以上含むという意味である。
【0022】
成分(A−1)の水酸基価は、5〜250mgKOH/gであることが好ましく、10〜200mgKOH/gであることがより好ましく、20〜150mgKOH/gであることが更に好ましい。水酸基価が5mgKOH/g未満であると、後述する成分(A−2)の導入量が著しく少なくなるために反応混合物が濁ることがある。一方、水酸基価が250mgKOH/gを超えると後述の成分(B)との相溶性が悪化し、グラフト共重合が進行しなくなる場合がある。
【0023】
成分(A−1)は公知の方法で調製することができ、また市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、ルミフロンLF200、LF302、LF400、LF504、LF552、LF600、LF906N、LF916、LF924、LF936、LF986N、LF710F、LF800〔以上、旭硝子(株)製〕、セフラルコートPX−40、A202B、A402B、A610X、A670X、A680XS、CF−803〔以上、セントラル硝子(株)製〕、ザフロンFC−110、FC−220、FC−250、FC−275、FC−310、FC−575〔以上、東亞合成(株)製〕、ゼッフルGK−510〔以上、ダイキン工業(株)製〕、フルオネートK−700、K−702、K−703、K−704、K−705、K−707、K−708、WZQ−660〔以上、大日本インキ化学工業(株)製〕等を挙げることができる。水酸基を有するフッ素樹脂(A−1)は、単独で使用するか又は2種類以上を混合して使用することができる。
【0024】
成分(A−2)は、イソシアネート基とラジカル重合性を有する部分とを含むものであれば特に限定されるものではないが、好適な成分(A−2)としては、例えば下記一般式(4)又は(5)で表される単量体を用いるのが好ましい。
【0025】
【化4】

【0026】
式中、Rは水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基、例えば炭素数1〜10のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基又はヘキシル基);炭素数6〜10のアリール基(例えば、フェニル基);又は炭素数3〜10のシクロアルキル基(例えばシクロヘキシル基)であり、R10は炭素原子数1〜10の直鎖状又は分岐状の2価炭化水素基、例えば、炭素数1〜10のアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、又はヘキサメチレン基);炭素原子数2〜10のアルキリデン基(例えばイソプロピリデン基);炭素数6〜10のアリーレン基(例えば、フェニレン基、トリレン基、又はキシリレン基);又は炭素数3〜10のシクロアルキレン基(例えばシクロヘキシレン基)であり、pは0又は1である。
【0027】
一般式(4)で表される単量体の好ましい例として、例えば、2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、3−イソシアナトプロピル(メタ)アクリレート、4−イソシアナトブチル(メタ)アクリレート、2−イソシアナトブチル(メタ)アクリレート、イソシアナトメチルビニルケトン等が挙げられる。
【0028】
【化5】

【0029】
式中、R11は水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基、例えば炭素数1〜10のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基又はヘキシル基);炭素数6〜10のアリール基(例えば、フェニル基);又は炭素数3〜10のシクロアルキル基(例えばシクロヘキシル基)であり、R12は酸素原子、又は炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状の2価炭化水素基、例えば、炭素数1〜10のアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、又はヘキサメチレン基);炭素数2〜10のアルキリデン基(例えばイソプロピリデン基);炭素数6〜10のアリーレン基(例えば、フェニレン基、トリレン基、又はキシリレン基);又は炭素数3〜10のシクロアルキレン基(例えばシクロヘキシレン基)である。
【0030】
一般式(5)で表される単量体の好ましい例として、例えば、(メタ)アクリロイルイソシアネート、m−もしくはp−イソプロペニル−α、α−ジメチルベンジルイソシアネート等が挙げられる。
【0031】
成分(A−2)は1種又は2種以上を併用して用いることができる。
【0032】
成分(A−1)と成分(A−2)との反応では、成分(A−2)を、成分(A−1)の水酸基1当量あたり好ましくは0.001モル以上0.1モル未満の量、より好ましくは0.01モル以上0.08モル未満の量で反応させる。この成分(A−2)が0.001モル未満であると相分離を起こすためにグラフト共重合が進行しにくく、結果として反応混合物が濁る場合があり好ましくない。また、0.1モル以上であるとグラフト共重合体製造の際にゲル化が起こりやすくなり好ましくない。
【0033】
成分(A−1)と成分(A−2)の反応は、水酸基とイソシアネート基によるウレタン結合が形成される限りはいかなる条件で行ってもよいが、通常は無触媒下あるいは触媒存在下、室温〜80℃で行うことができる。
【0034】
成分(A)は、使用する成分(A)〜(C)全量、又は成分(A)〜(D)全量に対して2〜66重量%、好ましくは4〜60重量%の範囲で用いられる。2重量%未満とすると塗膜としたときの耐候性が低下することがあり、66重量%を超えるとグラフト共重合体製造時にゲル化を起こすことがある。
【0035】
(2)成分(B)
成分(B)はラジカル重合性ポリシロキサンであり、詳しくは直鎖状ポリシロキサン鎖の片末端にラジカル重合性不飽和結合部分を含むものである。
このようなラジカル重合性ポリシロキサン(B)として、下記一般式(6)で示される単量体を用いることができる。
【0036】
【化6】

【0037】
一般式(6)中、R13は水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基、例えば、炭素数1〜10のアルキル基(例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、又はヘキシル基);炭素数6〜10のアリール基(例えばフェニル基);又は炭素数3〜10のシクロアルキル基(例えばシクロヘキシル基)であり、好ましくは水素原子又はメチル基である。また、R14、R15、R16、R17、R18は互いに同一でも異なっていてもよい。R14、R15、R16、R17はそれぞれ独立してメチル基又はフェニル基であることが好ましく、R18はメチル基、ブチル基、又はフェニル基であることが好ましい。また、qは2以上の整数であり、好ましくは10以上の整数、より好ましくは30以上の整数である。
【0038】
ラジカル重合性ポリシロキサン(B)として、下記一般式(7)で示される単量体を用いることもできる。
【0039】
【化7】

【0040】
一般式(7)中、R19は水素原子又は炭素原子数1〜10の炭化水素基、例えば炭素原子数1〜10のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基);炭素数6〜10のアリール基(例えばフェニル基)、又は炭素原子数3〜10のシクロアルキル基(例えばシクロヘキシル基)であり、好ましくは水素原子又はメチル基である。また、R20、R21、R22、R23、R24は互いに同一でも異なっていてもよい。R20、R21、R22、R23はそれぞれ独立して炭素原子数1〜10の炭化水素基、例えば炭素原子数1〜10のアルキル基(例えば、メチル基、又はエチル基);炭素数6〜10のアリール基(例えばフェニル基)であることが好ましく、R24は炭素原子数1〜10の炭化水素基、例えば炭素原子数1〜10のアルキル基(例えば、メチル基、又はエチル基);炭素数6〜10のアリール基(例えばフェニル基)、水素原子又は水酸基であることが好ましい。また、rは0〜10の整数であり、好ましくは3である。また、sは2以上の整数であり、好ましくは10以上の整数、より好ましくは30以上の整数である。
【0041】
成分(B)は、前記一般式(6)で表されるラジカル重合性ポリシロキサンを単独で又は2種類以上混合して、あるいは前記一般式(7)で表されるラジカル重合性ポリシロキサンを単独で又は2種類以上混合して使用することができ、更には前記一般式(6)で表される片末端ラジカル重合性ポリシロキサンの1種もしくはそれ以上と前記一般式(7)で表される片末端ラジカル重合性ポリシロキサンの1種もしくはそれ以上とを混合して使用することができる。
【0042】
成分(B)は、使用する成分(A)〜成分(C)の全量、又は成分(A)〜成分(D)の全量に対して2〜40重量%、好ましくは5〜30重量%の範囲で用いられる。2重量%未満とすると塗膜としたときの防汚性及び/又は汚染物質の除去性が不十分となることがあり、40重量%を超えるとグラフト共重合体製造後に未反応で残存する成分が多くなり、塗膜の軟化、未反応成分のブリード等好ましくない事態を招くことがある。
【0043】
(3)成分(C)
成分(C)はラジカル重合性ポリアルキレングリコールであり、詳しくはポリアルキレングリコールの片末端にラジカル重合性不飽和結合部分を有するものである。更に、少なくともエチレングリコール単位を2個以上有するものである。
このようなラジカル重合性ポリアルキレングリコール(C)として、下記一般式(8)で示される単量体を用いることができる。
【0044】
【化8】

【0045】
一般式(8)中のR25は水素原子又は炭素原子数1〜10の炭化水素基、例えば、炭素原子数1〜10のアルキル基(例えばメチル基、又はエチル基);炭素原子数6〜10のアリール基(例えばフェニル基);又は炭素原子数3〜10のシクロアルキル基(例えばシクロヘキシル基)であり、好ましくは水素原子又はメチル基である。また、R26は炭素原子数1〜20の直鎖状又は分岐していてもよい炭化水素基、例えば炭素原子数1〜20のアルキル基(例えばメチル基、エチル基、プロピル基、又はイソプロピル基)であり、好ましくはメチル基である。また、R27は水素原子;炭素原子数1〜20の直鎖状又は分岐していてもよい炭化水素基、例えば炭素原子数1〜20のアルキル基(例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、2−エチルヘキシル基、n−ドデシル基、又はn−ステアリル基);アルキル基で置換されていてもよいアリール基、例えば炭素原子数1〜20のアルキル基で置換されたアリール基(例えばノニルフェニル基、イソノニルフェニル基、ドデシルフェニル基)であり、好ましくはメチル基、2−エチルヘキシル基、n−ドデシル基である。また、tは2以上の整数であり、好ましくは2〜100の整数、より好ましくは2〜95の整数である。また、uは0を含む任意の整数であり、好ましくは0〜50、より好ましくは0〜10である。ここでuが0であるということは、uを含むユニットが存在しないことを表す。
【0046】
成分(C)は公知の方法で調製することができるが、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、ブレンマーPEシリーズ、AEシリーズ、PEPシリーズ、AEPシリーズ、PETシリーズ、AETシリーズ、PMEシリーズ、AMEシリーズ、POEPシリーズ、AOEPシリーズ、PLEシリーズ、ALEシリーズ、PSEシリーズ、ASEPシリーズ、PKEPシリーズ、AKEPシリーズ、ANEシリーズ、PNEPシリーズ、PNPEシリーズ、ANEPシリーズ〔以上、日本油脂(株)製〕、ライトエステルBC、MTG、130MA、041MA、ライトアクリレートEC−A、MTG−A、EHDG−A、130A、P−200A、NP−4EA、NP−8EA〔以上、共栄社化学(株)製〕、ファンクリルFA−400M〔日立化成工業(株)製〕、アロニックスM−101、M−102、M−110、M−111、M−113、M−117、M−120〔以上、東亞合成(株)製〕、NKエステルM−20G、M−40G、M−90G、M−230G、AM−90G、AMP−20GY、AMP−60G〔以上、新中村化学工業(株)製〕、アントックスRMA−564、RMA−568、RMA−506、MA−30、MA−50、MA−100、MA−150、RMA−150M、RMA−300M、RMA−450M〔以上、日本乳化剤(株)製〕等を挙げることができる。
【0047】
成分(C)は、使用する成分(A)〜(C)の全量、又は成分(A)〜(D)の全量に対して2〜50重量%、好ましくは5〜40重量%、更に好ましくは10〜30重量%の範囲で用いられる。2重量%未満とすると塗膜としたときに静電気が発生して汚染物、特にほこりやちり等の粉状の汚染物質の除去性が不十分となる場合があり、50重量%を超えると塗膜の耐水性が低下することがある。
【0048】
(4)成分(D)
成分(D)とは、成分(A)、成分(B)、及び成分(C)のいずれとも異なるラジカル重合性単量体であり、構造的にはもちろんのこと、ラジカル重合の際の条件下で成分(A)及び(C)とラジカル重合以外の反応をしない官能基を有していてもよい。
【0049】
成分(D)は置換基を有していないかあるいは有している単量体であり、その置換基は官能基(二重結合を除く)を含むことができる。このような置換基としては、具体的には、例えば、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子);炭素数1〜20のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ラウリル基、又はステアリル基);炭素数6〜10のアリール基(例えば、フェニル基、トリル基、又はキシリル基);又はアルキル部分の炭素数が1〜10でアリール部分の炭素数が6〜10のアラルキル基(例えば、ベンジル基)、(前記のアルキル基、アリール基、及びアラルキル基をまとめて、以下単に“炭化水素基R”と称することがある);水酸基1個又は複数個を有する前記炭化水素基R(例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、2,3−ジヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシフェニル基、又は4−ヒドロキシメチルフェニル基);ニトリル基1個又は複数個を有する前記炭化水素基R(例えば、シアノエチル基);エーテル基1個のみを有する前記炭化水素基R(例えば、メトキシメチル基又はエトキシエチル基);エステル基1個又は複数個を有する前記炭化水素基R(例えば、アセトキシメチル基);第3アミノ基1個又は複数個を有する前記炭化水素基R(例えば、ジメチルアミノメチル基、又はジエチルアミノエチル基);エポキシ基1個又は複数個を有する前記炭化水素基R(例えば、グリシジル基、又は3,4−エポキシシクロヘキシルメチル基);アミド基1個又は複数個を有する前記炭化水素基R;カルボキシル基1個又は複数個を有する前記炭化水素基R(例えば、カルボキシメチル基);ウレタン基1個又は複数個を有する前記炭化水素基R;尿素基1個又は複数個を有する前記炭化水素基R;アルコキシシリル基1個又は複数個を有する前記炭化水素基R(例えば、トリメトキシシリルメチル基、又はジメトキシメチルシリルメチル基)等を挙げることができる。
【0050】
一方、前記成分(A)〜(C)とのラジカル重合の際に、成分(A)及び(C)とラジカル重合反応以外の反応をする可能性のある官能基としては、例えば、酸ハロゲン化物(例えば、カルボン酸塩化物、カルボン酸臭化物、リン酸塩化物、又はスルホン酸塩化物);酸無水物(例えば、無水マレイン酸);イソシアネート化合物等を挙げることができる。成分(D)は、これらの官能基を持つことはできないが、成分(A)及び(C)と前記の条件下で反応しない任意の官能基を有することができる。
【0051】
成分(D)の具体例としては、例えば、スチレン、p−メチルスチレン、p−クロロメチルスチレン、又はビニルトルエン等のスチレン系単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、又はベンジル(メタ)アクリレート等の炭化水素基をもつ(メタ)アクリレート系単量体;前記の(メタ)アクリレート系単量体の水素原子をフッ素原子、塩素原子、又は臭素原子等で置換した(メタ)アクリレート系単量体;酢酸ビニル、安息香酸ビニル、又は分岐状モノカルボン酸のビニルエステル〔ベオバ:シェル化学(株)製〕等のビニルエステル系単量体;アクリロニトリル、又はメタクリロニトリル等のアクリロニトリル系単量体;エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、又はシクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル系単量体;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、又はジアセトンアクリルアミド等のアクリルアミド系単量体;ビニルピリジン、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、4−(N,N−ジメチルアミノ)スチレン、又はN−{2−(メタ)アクリロイルオキシエチル}ピペリジン等の塩基性窒素含有単量体;グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、又は3,4−エポキシビニルシクロヘキサン等のエポキシ基含有単量体;(メタ)アクリル酸、アンゲリカ酸、クロトン酸、マレイン酸、4−ビニル安息香酸、p−ビニルベンゼンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸、又はモノ{2−(メタ)アクリロイルオキシエチル}アシッドホスフェート等の酸性ビニル単量体;p−ヒドロキシメチルスチレン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジ−2−ヒドロキシエチルフマレート、又はポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有単量体;前記水酸基含有単量体にε−カプロラクトン、又はテトラヒドロフラン等を開環付加させた水酸基含有単量体;前記酸性ビニル単量体にε−カプロラクトン、又はテトラヒドロフラン等を開環付加させた水酸基含有単量体;前記酸性ビニル単量体とブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、又は分岐状カルボン酸グリシジルエステル〔カージュラE;シェル化学(株)製〕のようなエポキシ化合物との付加物等の水酸基含有単量体;ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシエチルトリメトキシシラン、又はγ−メタクリルオキシエチルメチルジメトキシシラン等のシラン系単量体;エチレン、又はプロピレン等のオレフィン系単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、フッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、又はクロロトリフルオロエチレン等のハロゲン化オレフィン系単量体;その他マレイミド、又はビニルスルホン等を挙げることができる。
【0052】
成分(D)としては、前記の単量体を単独で用いても、あるいは2種類以上を混合して用いてもよい。
【0053】
ここで、防汚性及び汚染除去性を付与したい被塗物がプラスチック、例えば、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等のように表面自由エネルギーが比較的低い場合には、密着性を高めるために対象物の表面自由エネルギーに合わせるように成分(D)を適宜選択して用いればよい。
【0054】
グラフト共重合体(I)の製造に使用することのできる成分(D)は、主として成分(A)〜(C)との共重合性及び耐候性の観点から、前記の(メタ)アクリレート系単量体及びスチレン系単量体からなる群から選択される1種類又は2種類以上を用いることが好ましい。
【0055】
成分(D)は、使用する成分(A)〜(D)全量に対し0〜94重量%、好ましくは20〜90重量%の範囲で用いられる。94重量%を超えると相対的に成分(A)〜(C)の量が少なくなるために防汚性及び/又は汚染除去性が不十分となる。ここで成分(D)が0%であるということは、成分(D)を全く用いないことをいう。
【0056】
グラフト共重合体(I)の製造方法としては、公知慣用の任意の重合方法を用いることができ、中でも溶液ラジカル重合法又は非水分散ラジカル重合法によるのが最も簡便であり、特に好ましい。
【0057】
例えば、溶液又は非水分散ラジカル重合の際に用いられる溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、又は芳香族炭化水素の混合溶剤〔ソルベッソ100;エクソンモービル(有)製〕等の芳香族炭化水素化合物;n−ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、ミネラルスピリット、又はケロシン等の脂肪族、脂環族炭化水素化合物;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、又はブチルセロソルブアセテート等のエステル系化合物;メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のアルコール系化合物;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソホロン等のケトン系化合物等を挙げることができ、これらの溶剤は単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
前記の製造方法は、公知慣用の種々のラジカル重合開始剤、例えば、アゾ系化合物又は過酸化物系化合物のようなラジカル重合開始剤を用いて、常法により実施することができる。重合時間は特に制限されないが、工業的には通常1〜48時間の範囲が選ばれる。また、重合温度は通常30〜120℃、好ましくは60〜100℃である。前記の重合は、更に必要に応じて公知慣用の連鎖移動剤、例えば、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、又はα−メチルスチレンダイマー等を添加して実施することもできる。
【0059】
本発明に用いることのできるグラフト共重合体の製造においては、グラフト共重合体の分子量は特に限定されるものではないが、その重量平均分子量が、ポリスチレン換算のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、好ましくは約5,000〜2,000,000、より好ましくは約10,000〜1,000,000の範囲である。5,000未満とすると造膜性、塗膜としたときの耐候性、又は耐薬品性が低下し、2,000,000を超えるとグラフト共重合体製造時にゲル化する危険がある。
【0060】
《アルカリ金属塩(II)》
本発明の一液型フッ素樹脂塗料組成物に用いることのできるアルカリ金属塩は、グラフト共重合体(I)に添加されることによって、塗膜に帯電防止性能を付与することが可能であり、汚染物質、特に粉状の粒子を容易に除去するためのものである。前記アルカリ金属塩としては例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムを含む金属が挙げられ、具体的には、Li、Na、又はK等のカチオンと、Cl、Br、I、BF、PF、SCN、ClO、CFSO、(CFSO、又は(CFSO等のアニオンから構成されるアルカリ金属塩が好ましい。中でも特にグラフト共重合体(I)に対する溶解性、分散性の点から、LiBr、LiI、LiBF、LiPF、LiSCN、LiClO、LiCFSO、Li(CFSON、Li(CFSOC等のリチウム塩が好ましい。これらのアルカリ金属塩は単独で使用しても良いし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0061】
本発明の一液型フッ素樹脂塗料組成物を塗膜としたときの、帯電防止性の目安となる表面抵抗率は、10〜1013Ω/□、好ましくは10〜1012Ω/□、更に好ましくは10〜1011Ω/□である。この表面抵抗率に影響を与える因子としては、前記のアルカリ金属塩(II)の配合量が重要である。前記の表面抵抗率を達成するためのアルカリ金属塩(II)の配合量は、添加するアルカリ金属塩(II)の種類に依存するために一概には規定できないが、通常前記グラフト共重合体(I)の固形分100重量部に対して0.01重量部以上5重量部以下であり、好ましくは0.05〜2重量部である。0.01重量部未満では十分な帯電防止性が得られず、結果として汚染物質の除去性が悪化する。また、5重量部を超えると塗膜の耐水性が低下することがあるため好ましくない。
【0062】
《その他の添加剤》
本発明の一液型フッ素樹脂塗料組成物には、従来から用いられている各種添加剤、例えば、界面活性剤、増量剤、着色顔料、防錆顔料、フッ素樹脂粉末、シリコーン樹脂粉末、防錆剤、染料、ワックス等を添加することもできる。
【0063】
《汚染防止方法》
本発明の汚染防止方法は、前記の一液型フッ素樹脂塗料組成物を塗装、及び乾燥して塗膜を形成するものである。
本発明の一液型フッ素樹脂塗料組成物を適用することのできる被塗物は、特に限定されるものではないが、例えば、鉄、アルミ、又はブリキ等の金属、ガラス、塗料塗膜、又はプラスチック等を挙げることができる。特には、従来の塗料では、比較的密着性が悪い塗料塗膜又はプラスチックにも応用することができる。
一液型フッ素樹脂塗料組成物の塗装方法は特に制限されるものではなく、例えばエアースプレー塗装法、エアレススプレー塗装法、浸漬塗装法、静電塗装法、ローラー塗装法、ハケ塗装法、ドクターブレード塗装法、グラビヤ印刷塗装法等の周知の塗装方法を適用することができる。
【0064】
塗膜の乾燥条件も特に制限されないが、被塗物の耐熱性を考慮し通常、室温〜150℃の範囲で1分間〜7日間程度の乾燥を行う。一般的には40〜60℃で10〜30分程度の強制乾燥を行うことが好ましい。
【0065】
以上の方法で形成された塗膜は、優れた耐候性、耐薬品性及び光沢等に優れるという特徴を有し、前記の表面抵抗率を有することから優れた防汚性及び汚染除去性を付与することができる。
本発明の一液型フッ素樹脂塗料組成物を塗布された塗膜は、様々な汚染物質から塗膜の汚染を防止することができ、汚染物質は限定されるものではないが、例えば、油汚れ、煙草の煙に代表されるエアロゾル、粉体粒子等、を挙げることができる。特に帯電防止性能を有しているため、ちりやほこり等の粉状の汚染物質の除去に有効である。
【実施例】
【0066】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。以下の例示において“部”及び“%”は特に示さない限り“重量部”及び“重量%”を意味するものとする。
【0067】
以下の製造例等において用いられた材料の市販品名を次に示す。
(1)水酸基を有するフッ素樹脂(A−1)
セフラルコートCF−803〔水酸基価60、数平均分子量15,000;セントラル硝子(株)製〕
(2)片末端ラジカル重合性ポリシロキサン(B)
サイラプレーンFM−0721〔数平均分子量約5,000;チッソ(株)製〕
(3)片末端ポリアルキレングリコール(C)
NKエステルM−230G〔分子量約1,100、式(8)においてl=24、m=0;新中村化学工業(株)製〕
ブレンマーPME−400〔分子量約470、式(8)においてl=9、m=0;日本油脂(株)製〕
NKエステルM−90G〔分子量約290、式(8)においてl=4、m=0;新中村化学工業(株)製〕
NKエステルM−20G〔分子量約190、式(8)においてl=2、m=0;新中村化学工業(株)製〕
ブレンマー50POEP−800B〔分子量約880、式(8)においてl=8、m=6、R14=CH;日本油脂(株)製〕
(4)ラジカル重合開始剤
パーブチルO〔t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート;日本油脂(株)製〕
(5)アルカリ金属塩(II)
サンコノールN−0720R(リチウム塩(20%)注.のポリオキシエチレンオレイルアミドエーテル溶液〔80%);三光化学工業(株)製〕
注.対アニオンは企業秘密により明らかにされていない。
【0068】
《参考例:成分(A)の合成》
機械式撹拌装置、温度計、コンデンサー及び乾燥窒素ガス導入口を備えたガラス製反応器に、セフラルコートCF−803(固形分換算99.6部)、2−イソシアナトエチルメタクリレート(0.4部)を入れ、乾燥窒素雰囲気下80℃に加熱した。80℃で2時間反応した後サンプリングし、赤外吸収スペクトルによりイソシアネートの吸収が消失したことを確認してから反応混合物を取り出し、成分(A)を得た。
【0069】
《製造例1:グラフト共重合体(I)の合成》
機械式撹拌装置、温度計、コンデンサー及び乾燥窒素ガス導入口を備えたガラス製反応器に、参考例で合成した成分(A)(固形分換算20部)、メチルメタクリレート(500部)、2−エチルヘキシルメタクリレート(80部)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(100部)、サイラプレーンFM−0721(100部)、ブレンマーPME−400(200部)、パーブチルO(30部)、酢酸n−ブチル(不揮発分40%となる量)、を入れ、窒素雰囲気中で90℃まで加熱した後、90℃で5時間保持することによって、不揮発分が40%である目的とするグラフト共重合体の溶液を得た。
【0070】
《製造例2〜10:グラフト共重合体(I)の合成》
溶剤、単量体、開始剤類の仕込量を表1に示したように変更したこと以外は、製造例1と同様に操作してグラフト共重合体の溶液を得た。製造例2〜10では本発明に用いることのできるグラフト共重合体が得られる。
【0071】
《比較製造例1〜6:グラフト共重合体(I)の合成》
溶剤、単量体、開始剤類の仕込量を表2に示したように変更したこと以外は、製造例1と同様に操作してグラフト共重合体の溶液を得た。比較製造例1、2では成分(A)の量が本発明に用いることのできるグラフト重合体の範囲外であるもの、比較製造例3、4では成分(B)の量が本発明に用いることのできるグラフト重合体の範囲外であるもの、比較製造例5、6では成分(C)の量が本発明に用いることのできるグラフト重合体の範囲外であるものについて示した。比較製造例2ではゲル化が発生した。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
《実施例1:一液型フッ素樹脂塗料組成物の調製》
製造例1で得られたグラフト共重合体(I)の固形分100部に対して、サンコノールN−0720Rを1部(リチウム塩換算0.2部)を混合し、塗料中の不揮発分が35重量%になるように酢酸ブチルで希釈して塗料組成物得た。
【0075】
《実施例2〜12及び比較例1〜7:一液型フッ素樹脂塗料組成物の調製》
グラフト共重合体(I)の量と種類、リチウム塩(II)の量を表3及び4に示したように変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2〜12及び比較例1〜7の一液型フッ素樹脂塗料を得た。
【0076】
《評価方法》
予めトルエン/イソプロピルアルコール(2/1)混合溶剤で脱脂、乾燥したブリキ板及びポリスチレン(PS)板上に実施例1〜10で得られた一液型フッ素樹脂塗料組成物をバーコーター#14を用いて塗布した後60℃で10分間乾燥して乾燥膜厚約10μmの塗膜を得、下記項目について評価した。
【0077】
(1)塗膜外観
ブリキ板上に作成した塗膜について目視で異状の有無を観察した。
【0078】
(2)密着性試験
PS板上に作製した塗膜についてJIS K5600−4−7に準じて密着性を評価した。結果の0〜5は同JIS規格に基づく評価結果であり、0は密着性に優れ、1は実用上問題ない範囲であり、2〜5は実用上問題があり密着性不良と判定される。
【0079】
(3)水接触角
ブリキ板上に作製した塗膜についてCA−W型自動接触角計〔協和界面科学(株)製〕を使用し、約5μLの脱イオン水の接触角を5点以上測定し、平均した。
【0080】
(4)表面抵抗率
ブリキ板上に作製した塗膜についてSME−8311型〔東亜ディーケーケー(株)製〕を使用し、3点以上測定し、平均した。表3には乗数のみを記載した。
【0081】
(5)汚染物質の除去性
ブリキ板上に作製した塗膜を乾燥したネル布で摩擦した後に煙草の灰を散布し、同じネル布で拭き取って灰の残存の度合いを判定した。5点:残存なし、4点:若干残存しているが実用上問題なし、3〜0点:(点数に応じて灰が残存し)美観上問題あり。
【0082】
(6)耐水性
ブリキ板上に作製した塗膜を25℃恒温とした水道水に24時間浸漬して、表面の異状の有無を観察した。
【0083】
(7)耐光性
ブリキ板上に作製した塗膜に高圧水銀灯を100時間照射して、6800型色差計〔BYKガードナー(株)製〕を使用して初期と照射後の色差(ΔE)を測定し、10未満を合格、10以上を不合格とした。
【0084】
【表3】

【0085】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の一液型フッ素樹脂塗料組成物を用いることによって得られる塗膜は、被塗物を選ばずに良好な密着性を示し、かつ被塗物表面に優れた撥水性、防汚性を与えることができ、帯電防止性を同時に有することから汚染物質の除去性にも有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)(A)ウレタン結合を介してラジカル重合性不飽和結合部分を有するフッ素樹脂、
(B)片末端ラジカル重合性ポリシロキサン、及び
(C)片末端ラジカル重合性ポリアルキレングリコール、
を反応させることによって得られるグラフト共重合体
;及び
(II)アルカリ金属塩
を含む、塗膜の表面抵抗率が10〜1013Ω/□であることを特徴とする一液型フッ素樹脂塗料組成物。
【請求項2】
前記グラフト重合体が
(A)ウレタン結合を介してラジカル重合性不飽和結合部分を有するフッ素樹脂、
(B)片末端ラジカル重合性ポリシロキサン、
(C)片末端ラジカル重合性ポリアルキレングリコール、及び
(D)ウレタン結合を介してラジカル重合性不飽和結合部分を有するフッ素樹脂(A)、片末端ラジカル重合性ポリシロキサン(B)、及び片末端ラジカル重合性ポリアルキレングリコール(C)とは異なるラジカル重合性単量体、
を反応させることによって得られるグラフト共重合体である、請求項1に記載の一液型フッ素樹脂塗料組成物。
【請求項3】
前記片末端ラジカル重合性ポリアルキレングリコール(C)が、少なくともエチレングリコール単位を2個以上有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の一液型フッ素樹脂塗料組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の一液型フッ素樹脂塗料を塗装して塗膜を形成することを特徴とする汚染防止方法。

【公開番号】特開2008−214511(P2008−214511A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54670(P2007−54670)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(592042255)富士化成工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】