説明

一般環境微生物に対する光触媒材料の抗菌性能評価方法

【課題】 簡便で迅速かつ定量性のある抗菌性能評価方法を提供する。
【解決手段】 色素合成能を有するシアノバクテリアなどの細菌を含有する液と、該液にさらに光触媒などの抗菌性材料を含有する液とを用い、両液中の色素変化を、抗菌性能評価の指標として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒材料の抗菌性能を評価する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光触媒の中で、酸化チタンは化学的に安定で、紫外光照射によって強い酸化力を生じる。この酸化力によって、有機物を酸化分解したり、微生物を殺菌したりすることができる。近年、光触媒技術の研究開発が活発に行われ、抗菌タイルなど、一部実用化されている。その一方で、十分な効果がない製品、いわゆるまがいものが市場に多く流通しないように、光触媒技術の信頼の確立が求められている。
【0003】
こうした状況下において、使用する光触媒の性能を正しく評価する必要がある。例えば抗菌性能評価の場合、従来の方法は、大腸菌、黄色ブドウ球菌などの菌を用いて、培地に出現する細菌コロニーの数から抗菌性能を評価するものであり(特許文献1〜3等)、光触媒の場合も、同様の細菌コロニーをカウントする方法が用いられている。
例えば、特許文献1に記載された方法は、光触媒粉末の懸濁液に、大腸菌懸濁液を添加し、これに紫外線を照射して光触媒反応を開始させ、該反応液を経時的にサンプリングして、希釈液を作成し、それぞれの希釈液を用いて培地上で培養し、形成されたコロニーをカウントして生菌数を測定するというものである。
しかしながら、従来の方法は、特定の細菌以外の雑菌の影響を排除するための設備を必要とした。そして主な用途としては、医療現場や公衆衛生の場で用いられるものに限られていた。また、培地上での再培養に約1日、コロニーのカウントに数十分と、その評価結果が得られるまでに長い時間を要するものであった。さらに、光触媒の抗菌性能を評価する場合には、紫外線照射による光触媒反応をさせる必要があるが、供試菌自体が、紫外線照射に対して耐性が弱いという欠点を有している。
【特許文献1】特開2001−286757号公報
【特許文献2】特開2003−274995号公報
【特許文献3】特開平11−192号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、雑菌排除などの特別な設備を必要とせず、簡便で迅速かつ定量性のある抗菌性能評価方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の知見を得た。すなわち、酸化チタン光触媒反応は、紫外光照射により誘起され、抗菌性能を発現するが、この光触媒の抗菌性能を環境分野や産業用途に応用する場合には、周囲の光が強いことを考慮して、従来民生用途で試供菌とされてきた大腸菌や黄色ブドウ球菌より一般性があって紫外光に強い菌を使う方が良い。また、生死の判別を簡便に評価できるように、例えば細胞内の色素や化学発光機能が死滅に伴い変化する菌を探索することは重要である。
そこで、我々はまず、微細藻類のシアノバクテリアが持つクロロフィル色素の酸化分解反応に注目した。シアノバクテリアは、海水・淡水・陸上において広く生息しており、日光がよく当たる自然環境の細菌として代表種となり得る。また、クロロフィルをもつことから緑色を呈しており、死ぬとまもなくクロロフィルが分解され色変化が起こることから、死亡判定を吸光度変化や蛍光強度変化で評価することができる可能性がある。
【0006】
本発明は、これらの知見に基づいて完成に至ったものであり、以下のとおりのものである。
(1)抗菌性材料の抗菌性能を評価する方法であって、色素合成能を有する細菌を含有する液と該液中にさらに抗菌性材料を含有する液との、液中の色素変化を指標として用いることを特徴とする抗菌性能評価方法。
(2)前記抗菌性材料が光触媒であって、該光触媒を含有する液に紫外線を照射することを特徴とする上記(1)の抗菌性能評価方法。
(3)前記細菌が、シアノバクテリアである上記(1)又は(2)の抗菌性能評価方法。
(4)色素合成能を有する細菌を含有する液からなる抗菌性能評価用試薬。
(5)前記細菌が、シアノバクテリアである上記(4)の抗菌性能評価用試薬。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法は、再培養操作が不要で、試験中も無菌操作が全く不要で、簡便なリアルタイム計測が可能であり、クロロフィルの吸収スペクトルや蛍光スペクトルを測定することにより、呈色反応でありながら定量性のある、有益な抗菌性能評価法を可能とするものである。また、シアノバクテリアを用いた場合には、紫外線照射に耐性があるという優れた利点がある。本発明の方法によれば、医療現場や公衆衛生の場に限られず、広く環境全般について実施することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の抗菌性能評価方法は、色素合成能を有する細菌を含有する液と該液中にさらに抗菌性材料を含有する液との、液中の色素変化を指標として用いることを特徴とする。
第1図は、本発明の評価方法の概要を示す図である。
【0009】
シアノバクテリア(Synechocystis sp. PCC 6803)は、酸素発生型光合成を行う菌であり、増殖培地BG11で増殖し、クロロフィルa、β−カロテン、フィコエリスリンなどの色素を合成するが、死滅すると、まもなく細胞内部の色素が分解される。
【化1】

【0010】
本発明では、この色素の分解反応に伴って、色素がもつ自家蛍光特性或いは吸光特性の減少を指標として抗菌性材料の抗菌性能を評価するものである。
本発明においては、色素がもつ自家蛍光特性或いは吸光特性の減少を汎用な分光器で計測することで、定量的に殺菌率の判定をすることが可能となる。
本発明の評価方法は、上記シアノバクテリア以外に、緑藻(淡水・海水)、紅藻(海水)、褐藻(淡水)にも広く適用できる。
【0011】
本発明において、こうした液中の色素変化を指標として抗菌性能を評価する場合、その液は、色素合成能を有する細菌及び/又は抗菌性材料を含有する液そのものであっても、或いは、これらの液体から前記細菌及び/又は前記抗菌性材料をフィルタによる除去等の公知の方法を用いて除去した後の液体であってもよい。
【0012】
また、本発明の方法に用いる抗菌性能評価用試薬は、色素合成能を有する細菌を含有する液であればよく、該細菌の培養液そのものであっても、或いは、該培養液を希釈したものであってもよい。
本発明の抗菌性能評価用試薬を用いて抗菌性材料の抗菌性能を評価するには、該試薬中に抗菌性材料を添加し、或いは、抗菌性材料を含有する液中に該試薬を添加し、添加前後の色素変化を指標として用いる。
【実施例】
【0013】
以下、以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
(サンプルの調整)
BG11液体培地で28℃で通気培養を行った1週間以内のシアノバクテリア(倍化時間約1日)の培養液を、10,000rpmで5分間遠心をかけ、上清を捨て超純粋による洗浄作業を2回行った。次に、吸光度(波長730nm)が0.2になるように超純水菌液を調整した。
光触媒として、市販のアナターゼ酸化チタンゾル(石原産業製 STS−21、40wt%スラリー液)用い、これに前記菌液と攪拌子をいれて、攪拌を行いながらキセノン灯からの紫外線(波長400nm以下、0.5mW/cm)を照射した。
同様にして、酸化チタンを添加しない菌液、紫外線照射を行わない菌液、酸化チタン添加も紫外線照射も行わない菌液を調整して、全部で4つの条件のサンプルを用い、生菌数の経時変化を調べた。
【0014】
(シアノバクテリア(Synechocystis sp. PCC 6803)に対する酸化チタン光触媒の抗菌効果の確認)
菌の生死の判定を、LIVE/DEAD BacLight Bacterial Viability Kit(Invitrogen社)を用いた生死判定で行なった。
図2はその結果を示す写真であり、左側が生きている細菌のもので、緑色に発光しているが、右側の死んだ細菌のものは、赤く発光している。
図3は、光触媒反応後のサンプルについて、LIVE/DEAD BacLight Bacterial Viability Kit(invitrogen)を用いた生死判定を示すものであって、6時間の紫外線照射により、光触媒反応が進行すると、90%以上の死滅率が得られた。
【0015】
(シアノバクテリアの死滅に伴う菌液の色変化の確認)
図4は、光触媒反応によるクロロフィルの退色を確認した結果を示すものである。
図に示すとおり、酸化チタンを添加して6時間の紫外線照射を行った菌液(TiO2+、UV6hr)のみ、クロロフィルの退色が進み、緑色から青色に変化したが、酸化チタンを添加しなかった菌液(TiO2−、UV6hr)、紫外線照射を行わなかった菌液(TiO2+、UV−)、及び酸化チタンの添加も紫外線照射も行わなかった菌液(TiO2−、UV−)は、いずれも緑色のままであった。
酸化チタンを添加して6時間の紫外線照射を行った菌液(TiO2+、UV6hr)について、紫外線照射前後の色素スペクトルの変化を測定した。
図5は、吸収スペクトル測定の結果を示す図である。該図に示されているとおり、クロロフィル色素の吸収ピークが消失し、クロロフィルが分解されたことが明らかとなった。
この結果は、前記のLIVE/DEADassayによる評価と対応しており、殺菌率を呈色反応で定量的に評価できることを示すものである。
【0016】
(シアノバクテリアの液体培養液中における光触媒効果)
BG11液体培地を1/10に希釈して、28℃で通気培養を行った。酸化チタンは石原産業製のSTS−21液を水で希釈して用いた。
20mlのサンプル液に対して、キセノン灯からの紫外線(波長400nm以下、0.5mW/cm)を照射して、酸化チタンの有無による違いを調べた。
その結果を図6に示す。
図6に示すとおり、光触媒の入ったサンプルでは、1日経過後、ガラス容器の壁面や通気用のチューブに細菌が付着する現象が確認されたが、3日後には、すべて剥がれ落ちて、沈殿となった。
この結果は次のように解釈できる。すなわち、シアノバクテリアは、まず紫外光による酸化ストレスから身を守るため、酸化チタンやガラス容器などの無機物を核に付着・凝集して、バイオフィルム化することで、外的要因の強度を軽減しようとするが、その後、光触媒酸化反応により、バイオフィルムが分解されることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明の方法及び試薬を用いることにより、光触媒製品の防藻効果やバイオフィルム形成阻害効果などの評価法の確立が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の評価方法の概要を示す図
【図2】LIVE/DEADassayによる菌の生死判定を示す写真
【図3】LIVE/DEADassayにより評価した紫外線暴露時間に伴う生存率の変化をしめす図
【図4】光触媒反応によるクロロフィルの退色を確認した結果を示す図
【図5】紫外線照射前後の吸収スペクトルの変化を示す図
【図6】酸化チタン粉末を用いたバイオフィルム形成阻害・分解効果を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌性材料の抗菌性能を評価する方法であって、色素合成能を有する細菌を含有する液と該液中にさらに抗菌性材料を含有する液との、液中の色素変化を指標として用いることを特徴とする抗菌性能評価方法。
【請求項2】
前記抗菌性材料が光触媒であって、該光触媒を含有する液に紫外線を照射することを特徴とする請求項1に記載の抗菌性能評価方法。
【請求項3】
前記細菌が、シアノバクテリアである請求項1又は2に記載の抗菌性能評価方法。
【請求項4】
色素合成能を有する細菌を含有する液からなることを特徴とする抗菌性能評価用試薬。
【請求項5】
前記細菌が、シアノバクテリアである請求項4に記載の抗菌性能評価用試薬。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−253164(P2008−253164A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96657(P2007−96657)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度経済産業省電源利用技術開発等委託費「エネルギー環境技術標準基板研究」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】