説明

一遺伝子ナノ粒子のパッケージング法

【課題】遺伝子治療や再生医療の革新的治療法を支える遺伝子導入技術として、一遺伝子を均一かつ微小なナノ粒子としそれを脂質膜でコーティングする技術を提供する。
【解決手段】本発明の脂質構造体は、モノカチオニックディタージェント(Monocationic detergent:MCD)で凝縮化された一遺伝子ナノ粒子を有していることを特徴とする。本脂質構造体は、粒子径が非常に小さく非分裂細胞の核膜孔を透過する戦略によって効率的な遺伝子発現が望める。また、粒子の微小化は、in vivoでの使用にも非常に有利な特徴である。本脂質構造体は、均一な粒子径を有するため高品質な製剤化を可能とする。さらに、MCDから形成されたナノ粒子は、遺伝子放出効率が高いため核内の効率的な遺伝子放出を可能とし、飛躍的な遺伝子発現の上昇を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子治療、高品質な製剤化を可能する遺伝子発現ベクターを創製するため、一遺伝子を微小かつ均一なナノ粒子としそれを脂質膜でコーティングする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療を実現するために、目的の遺伝子を標的部位に確実に送達するためのベクターやキャリアーの開発が盛んに行われている。例えば、目的の遺伝子を標的細胞へ導入するためのベクターとして、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス等のウイルスベクターが開発されている。しかしながら、ウイルスベクターは、大量生産の困難性、抗原性、毒性等の問題があるため、このような問題点が少ないリポソームベクターやペプチドキャリアーが注目を集めている。リポソームベクターは、その表面に抗体、タンパク質、糖鎖等の機能性分子を導入することにより、標的部位に対する指向性を向上させることができるという利点も有している。
【0003】
最近、凝縮化DNA封入リポソームの表面をステアリル化オクタアルギニンで修飾することにより、凝縮化DNAの細胞導入効率が1000倍、凝縮化DNA封入リポソームの細胞への導入効率が100倍向上したことが報告されている(非特許文献1)。この構造体、多機能性エンベロープ型ナノ構造体(octaarginine modified multifunctional envelope−type nano device:R8−MEND)は、アデノウイルスと同等の遺伝子発現活性を示す事が報告されている(非特許文献2)。しかしながら、R8−MENDは、粒子径が約300 nmと大きく、かつ、不均一な構造をとっており、この状態では、実用化は難しい。in
vivo適用に耐えうる200 nm以下の平均粒子径を持ち、かつ、均一な粒子径分布を有するR8−MENDの開発は、高品質・高性能な製剤化において必須の課題である。
【0004】
微小、かつ均一なR8−MENDを調製するためには、一遺伝子ナノ粒子を形成させ、これを一つずつパッケージする必要がある。従来のR8−MENDは、ポリカチオン(ポリエルリジン(Poly−l−lysine:PLL)など)によって複数のプラスミドDNAが凝縮化された不均一なコア粒子を有していた。従来、一遺伝子をナノ粒子化する技術としては、カチオニックディタージェント(例えば、cetyl trimethyl ammonium bromide)と目的の遺伝子とを混合しナノ粒子を形成させる方法が主に採用されてきた(非特許文献3)。しかし、調製されたナノ粒子の形成過程は、可逆的であるため遺伝子導入を行う目的で細胞培養液中に添加した場合には崩壊が確認されていた。このため、高い遺伝子発現は得られず、さらに放出したカチオニックディタージェントによる細胞毒性も報告されていた(非特許文献4、5)。Behrらはこの崩壊を防ぐために、チオール結合によってカチオニックディタージェントを架橋させナノ粒子を固定化したが、逆に細胞核内で遺伝子が放出されずに遺伝子治療に十分な遺伝子発現活性は観察されなかった(非特許文献6)。
【非特許文献1】K.Kogure等、「Journal of ControlledRelease」、2004年、98巻、317−323頁
【非特許文献2】I.A.Khalil等、「Gene Therapy」、2007年、14巻、682−689頁
【非特許文献3】S.M.Melnikov等、「Journal of American Chemical Society」、1995年、117巻、2401−2408頁
【非特許文献4】J.P.Clamme等、「Biochimica et Biophysica Acta」、2000年、1467巻、347−361頁
【非特許文献5】J.S.Remy等、「Bioconjugate Chemistry」、1994年、5巻、647−654頁
【非特許文献6】C.Chittimalla等、「Journal of American Chemical Society」、2005年、127巻、11436−11441頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、効率的な遺伝子発現、臨床応用、高品質な製剤化を可能する手段として、一遺伝子を微小かつ均一なナノ粒子としそれを脂質膜でコーティングする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の脂質構造体は、凝縮化一遺伝子ナノ粒子を有することを特徴とする(請求項1参照)。微小かつ均一な凝縮化一遺伝子ナノ粒子を脂質膜でパッケージングした脂質膜構造体は、微小かつ均一な物性を保持する。したがって、凝縮化一遺伝子ナノ粒子を有する脂質構造体は、微小な粒子径を有するため、核膜孔を透過する遺伝子送達を可能とし非分裂細胞での効率的な遺伝子発現が可能となる。また、凝縮化一遺伝子ナノ粒子を有する脂質構造体の均一な粒子径分布はin vivoへの適応、製剤化においても大きな利益をもたらす。すなわち、本発明の脂質構造体は、遺伝子治療を可能とする遺伝子ベクターとして使用することができる(請求項11参照)。
【0007】
本発明の脂質膜構造体において、前記凝縮化一遺伝子ナノ粒子が、カチオニックディタージェントによって凝縮された遺伝子ナノ粒子であることが好ましく(請求項2参照)、前期カチオニックディタージェントは、例えば、モノカチオニックディタージェント(Monocationic detergent : MCD)である(請求項3参照)。MCDによって凝縮された一遺伝子ナノ粒子は微小かつ均一であり、脂質膜でパッケージングした脂質膜構造体の物性は、微小かつ均一に保持される。
【0008】
本発明の脂質膜構造体において、前記凝縮化一遺伝子ナノ粒子を構成するMCDは、好ましくは1つの長鎖脂肪鎖と1つの芳香族を有した構造である(請求項6参照)。前記長鎖脂肪鎖は、例えば、炭素数が14〜20個(請求項7参照)であり、前記芳香族の芳香環の数は、例えば、1〜5個(請求項8参照)である。上記の特徴を有するMCDは、微小かつ均一な凝縮化一遺伝子ナノ粒子を形成する。
【0009】
上記凝縮化一遺伝子ナノ粒子は、プラスミドDNAとMCDを混合することで形成することができる。混合する際のモル比は、MCD種によって異なってもかまわない。
【0010】
本発明の脂質膜構造体は、凝縮化一遺伝子ナノ粒子が脂質膜にパッケージングされたリポソームであることが好ましい(請求項9参照)。また、凝縮化一遺伝子ナノ粒子を脂質膜でパッケージングした後に、余剰の凝縮化素子が除去されていることが好ましい(請求項4参照)。上記余剰の凝縮化素子の除去は、例えば、疎水性ビーズの使用によって行われる(請求項5参照)。余剰分の凝縮化素子の除去は、脂質膜構造体の脂質膜への影響を回避し、生体内での毒性を回避することが可能となる。
【0011】
本発明の脂質膜構造体は、可逆的平衡関係にあるMCDによって凝縮化された一遺伝子ナノ粒子を有する事が好ましい(請求項3参照)。この場合、脂質膜内に保持された一遺伝子ナノ粒子は核内まで保持され、体内、細胞内でのヌクレアーゼより保護される。また、核内送達後には効率的に遺伝子を放出し、高い遺伝子発現を発揮することが可能となる(図1参照)。
【0012】
本発明の脂質膜構造体は核内へ送達しようとする目的遺伝子が内部に封入されていることが好ましく(請求項10参照)、この場合、本発明の脂質膜構造体は前記目的遺伝子を用いた遺伝子治療用ベクターとして使用することができる(請求項11参照)。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、遺伝子治療や再生医療の革新的治療法を支える遺伝子導入技術として、一遺伝子を微小かつ均一なナノ粒子としそれを脂質膜でコーティングする技術が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の脂質膜構造体について詳細に説明する。本発明の脂質膜構造体は、凝縮化された一遺伝子ナノ粒子を有する限り、リポソーム、O/W型エマルション、W/O/W型エマルション、球状ミセル、ひも状ミセル、不定型の層状構造物などのうち、いずれの構造体であっても良いが、リポソームである事が好ましい。本発明の脂質膜構造体がリポソームである場合、本発明の脂質膜構造体の内部に目的遺伝子を封入する事により、目的遺伝子を核内に効率よく送達する事ができる。
【0015】
本発明の脂質膜構造体がリポソームである場合、多重膜リポソーム(MLV)であってもよいし、SUV(small
unilamellar vesicle)、LUV(large unilamellar vesicle)、GUV(giant unilamellar
vesicle)等の一枚膜リポソームであってもよい。
【0016】
本発明の脂質膜構造体のサイズは特に限定されるものではないが、本発明の脂質膜構造体がリポソーム又はエマルションの場合、粒子径は通常は直径50nm〜5μm、好ましくは直径50nm〜500nm、さらに好ましくは直径50nm〜200nmである。また、ひも状ミセル又は不定形の層状構造物の場合、1層あたりの厚みは通常5〜10
nmである。
【0017】
本発明の脂質膜構造体の内部には、核内に送達しようとする目的遺伝子を封入することができる。目的遺伝子としては、通常核酸が挙げられ、診断、治療等の目的に応じて適宜選択することができる。なお、「核酸」には、DNA又はRNAに加え、これらの類似体又は誘導体(例えば、ペプチド核酸(PNA)、ホスホロチオエートDNA等)が含まれる。また、核酸は一本鎖又は二本鎖のいずれであってもよいし、線状又は環状のいずれであってもよい。
【0018】
封入すべき核酸を予めカチオン性物質と複合体化させておくことが好ましい。核酸とカチオン性物質と静電的に結合させ複合体化することにより、核酸の凝集体を調製することができる。複合体化の際、核酸とカチオン性物質との混合比率を調整することにより、全体として正又は負に帯電する核酸の凝集体を調製する事ができる。核酸とカチオン性物質との複合体の存在下、脂質膜を水和し、次いで攪拌又は超音波処理することにより、核酸とカチオン性物質との複合体が封入されたリポソームを簡便かつ効率よく製造することができる。
【0019】
「カチオン性物質」とは、その分子中にカチオン性基を有する物質を意味し、静電的相互作用により核酸と複合体を形成することができる。カチオン性物質の種類は核酸と複合体を形成し得る限り特に限定されるものではなく、例えば、カチオン性基を有する低分子;カチオニックディタージェント、カチオン性基を有する高分子;ポリリジン、ポリアルギニン、リジンとアルギニンの共重合体等の塩基性アミノ酸の単独重合体若しくは共重合体又はこれらの誘導体(例えばステアリル化誘導体);ポリエチレンイミン等のポリカチオン性ポリマー;硫酸プロタミン等が挙げられるが、これらのうち特にカチオニックディタージェントが好ましい。カチオニックディタージェントのカチオン性基の数は特に限定されるものではないが、通常1〜6個であり、好ましくは1〜4個、さらに好ましくは1〜2個である。カチオン性基は正に荷電し得る限り特に限定されるものではなく、例えば、アミノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基等のモノアルキルアミノ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;イミノ基;グアニジノ基等が挙げられる。
【0020】
カチオニックディタージェントは、モノカチオニックディタージェント(Monocationic detergent : MCD)であることが好ましい。MCDの構造は特に限定されるものではないが、1つの長鎖脂肪鎖と1つの芳香族を有した4級アンモニウム塩である事が好ましい。このような疎水基を有するMCDによって凝縮された遺伝子ナノ粒子は微小かつ均一であり、脂質膜でパッケージングした脂質膜構造体の物性は、微小かつ均一に保持される。MCD中の長鎖脂肪鎖の炭素数は通常14〜20個、好ましくは15〜19個、さらに好ましくは16〜18個である。MCD中の芳香族の芳香環の数は、通常1〜5個、好ましくは1〜4個、さらに好ましくは1〜3個である。MCD中の単鎖脂肪鎖の種類は特に限定されるものではなく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。
【0021】
本発明の脂質膜構造体が有する凝縮化一遺伝子ナノ粒子は、MCDによって形成されていることが好ましい。MCDは、可逆的平衡によってナノ粒子を形成している。そのため、核内に送達された後には効率的に遺伝子を放出することが可能となり高い遺伝子発現が期待できる。また、核内に送達されるまでは脂質膜によってパッケージングされているため体内、細胞内で各種ヌクレアーゼより保護される(図1参照)。また、MCDによって調製されたナノ粒子は微小であるためその脂質膜構造体は、核膜孔を通過する新たな遺伝子送達戦略が可能となる。さらに、均一な粒子径は、in vivoでの応用、製剤化において大きな利益をもたらす。
【0022】
本発明の脂質膜構造体において、脂質膜の構成成分として、脂質、膜安定化剤、抗酸化剤、荷電物質、膜タンパク質等を含有することができる。
【0023】
脂質としては、例えば、以下に例示するリン脂質、糖脂質、ステロール、飽和又は不飽和の脂肪酸等が挙げられる。
[リン脂質]
ホスファチジルコリン(例えば、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン等)、ホスファチジルグリセロール(例えば、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジグリセロール等)、ホスファチジルエタノールアミン(例えば、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジエタノールアミン等)、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、これらの水素添加物等。
【0024】
[糖脂質]
グリセロ糖脂質(例えば、スルホキシリボシルグリセリド、ジグリコシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド、グリコシルジグリセリド)、スフィンゴ糖脂質(例えば、ガラクトシルセレブロシド、ラクトシルセレブロシド、ガングリオシド)等。
【0025】
[ステロール]
動物由来のステロール(例えば、コレステロール、コレステロールコハク酸、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール、ジヒドロコレステロール)、植物由来のステロール(フィトステロール)(例えば、スチグマステロール、シトステロール、カンペステロール、ブラシカステロール)、微生物由来のステロール(例えば、チモステロール、エルゴステロール)等。
【0026】
[飽和又は不飽和の脂肪酸]
パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、ミリスチン酸等の炭素数12〜20の飽和又は不飽和の脂肪酸等。
【0027】
膜安定化剤は、脂質膜を物理的又は化学的に安定させたり、脂質膜の流動性を調節したりするために含有させることができる、脂質膜の任意の構成成分であり、その含有量は、リポソーム膜を構成する総物質量の通常30%(モル比)以下、好ましくは25%(モル比)以下、さらに好ましくは20%(モル比)以下である。なお、膜安定化剤の含有量の下限値は0である。
【0028】
膜安定化剤としては、例えば、ステロール、グリセリン又はその脂肪酸エステル等が挙げられる。ステロールとしては、上記と同様の具体例が挙げられ、グリセリンの脂肪酸エステルとしては、例えば、トリオレイン、トリオクタノイン等が挙げられる。
【0029】
抗酸化剤は、脂質膜の酸化を防止するために含有させることができる、脂質膜の任意の構成成分であり、その含有量は、脂質膜を構成する総物質量の通常30%(モル比)以下、好ましくは25%(モル比)以下、さらに好ましくは20%(モル比)以下である。なお、抗酸化剤の含有量の下限値は0である。
【0030】
抗酸化剤としては、例えば、トコフェロール、没食子酸プロピル、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシトルエン等が挙げられる。
【0031】
荷電物質は、脂質膜に正荷電又は負荷電を付与するために含有させることができる、脂質膜の任意の構成成分であり、その含有量は、脂質膜を構成する総物質量の通常30%(モル比)以下、好ましくは25%(モル比)以下、さらに好ましくは20%(モル比)以下である。なお、荷電物質の含有量の下限値は0である。
【0032】
正荷電を付与する荷電物質としては、例えば、ステアリルアミン、オレイルアミン等の飽和又は不飽和脂肪族アミン;ジオレオイルトリメチルアンモニウムプロパン等の飽和又は不飽和カチオン性合成脂質等が挙げられ、負電荷を付与する荷電物質としては、例えば、ジセチルホスフェート、コレステリルヘミスクシネート、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸等が挙げられる。
【0033】
膜タンパク質は、脂質膜の構造を維持したり、脂質膜に機能性を付与したりするために含有させることができる、リポソーム膜の任意の構成成分であり、その含有量は、リポソーム膜を構成する総物質量の通常10%(モル比)以下、好ましくは5%(モル比)以下、さらに好ましくは2%(モル比)以下である。なお、膜タンパク質の含有量の下限値は0である。
【0034】
膜タンパク質としては、例えば、膜表在性タンパク質、膜内在性タンパク質等が挙げられる。
【0035】
本発明の脂質膜構造体において、脂質膜を構成する脂質として、例えば、血中滞留性機能、温度変化感受性機能、pH感受性機能などを有する脂質誘導体を使用することができる。これにより、上記のうち1種又は2種以上の機能を脂質膜構造体に付与する事ができる。脂質膜構造体に血中滞留性機能を付与する事により、脂質膜構造体の血液中での滞留性を向上させ、肝臓、脾臓等の細網内皮系組織による補足率を低下させることができる。また、脂質膜構造体に温度変化感受性機能またはpH感受性機能を付与することにより、脂質膜構造体に保持された膜遺伝子の放出性を高めることができる。
【0036】
血中滞留性機能を付与する事ができる血中滞留性脂質誘導体としては、例えば、ポリエチレングリコール誘導体などが挙げられ、温度変化感受性機能を付与することができる温度変化感受性脂質誘導体としては、例えば、ジパルミトイルホスファチジルコリン等が挙げられ、pH感受性機能を付与することができるpH感受性脂質誘導体としては、例えば、コレステリルヘミスクシネート等が挙げられる。
【0037】
本発明の脂質膜構造体には、標的とする細胞、当該細胞が分泌する酵素などを特異的に認識する抗体を保持させる事ができる。抗体としては、モノクローナル抗体を使用することが好ましく、モノクローナル抗体としては、単一のエピトープに対して特異性を有する一種のモノクローナル抗体を使用しても良いし、各種エピトープに対して特異性を有する2種以上のモノクローナル抗体を組み合わせて使用しても良い。
【0038】
細胞内への遺伝子導入効率を向上させる点から、脂質膜構造体は、遺伝子導入機能を有する化合物を有する事が好ましい。遺伝子導入機能を有する化合物は、脂質膜構造体の内部、脂質膜中、脂質膜表面、脂質膜層中、脂質膜層表面に存在させる事ができる。
【0039】
本発明の脂質膜構造体がリポソームである場合、水和法、超音波処理法、エタノール注入法、エーテル注入法、逆相蒸発法、界面活性剤法、凍結・融解法等の公知の方法を用いて作製することができる。
【0040】
水和法によるリポソームの製造例を以下に示す。
リポソーム膜構成成分である脂質を有機溶剤に溶解した後、有機溶剤を蒸発除去することにより脂質膜を得る。この際、有機溶剤としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール等の低級アルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン等のケトン類等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。次いで、脂質膜に目的遺伝子が凝縮化されたナノ粒子懸濁液添加し、水和させ、攪拌又は超音波処理することにより、目的遺伝子が凝縮化されたナノ粒子を有するリポソームを製造することができる。
【0041】
本発明の脂質膜構造体は、MCDによって凝縮化された一遺伝子ナノ粒子が脂質膜にパッケージングされたリポソームであることが好ましい。凝縮化一遺伝子ナノ粒子がMCDからなる場合、ナノ粒子は微小かつ均一であり、それを脂質膜でパッケージングしたリポソームとした場合にもこの微小性、均一性は保持されている。MCDによって調製されたナノ粒子は可逆的平衡関係にあるため余剰のMCDが溶液中に存在している。そのため、脂質膜によってパッケージングした後に、余剰のMCDを除去する事が好ましい。パッケージング後に余剰のMCDを除去してもナノ粒子は崩壊しない。また、余剰のMCDの除去はパッケージングした脂質への影響を回避し、さらに生体内での毒性も回避する。
【0042】
余剰のMCDの除去は、例えば、疎水性ビーズ法、ゲル濾過法、透析法などが挙げられるが、疎水性ビーズ法である事が好ましい。MCDによって凝縮化されたナノ粒子を有する脂質膜構造体に疎水性ビーズを添加するとMCDの疎水性基に疎水性ビーズが吸着する。次に遠心分離操作によって疎水性ビーズに吸着したMCDと脂質膜構造体を分離する事が可能である。疎水性ビーズ法は、ゲル濾過法、透析法と比較して非常に簡便であり短時間での処理が可能となる。
【0043】
疎水性ビーズ法によるMCDの除去回数は通常1〜6回であり、好ましくは2〜5回であり、さらに好ましくは3〜4回である。また、疎水性ビーズと脂質膜構造体とのインキュベーション時間は通常10〜60分であり、好ましくは20〜50分、さらに好ましくは30〜40分である。上記の処理を施した脂質膜構造体は、粒子径が安定しており製剤化に大きな利点を与える。さらに、崩壊しやすい凝縮化一遺伝子ナノ粒子を有する脂質膜構造体は、核内でナノ粒子を効率的に放出するため、高い遺伝子発現能を有する。ポリカチオンによって凝縮化された遺伝子ナノ粒子は非可逆的に凝縮化されるため効率的な遺伝子の放出は不可能であった(I.Nayvelt等、「Biomacromolecules」、2007年、8巻、477−484頁)。また従来は、MCDによって凝縮化されたナノ粒子をパッケージングする技術がなかった。そのため、MCDによる遺伝子導入は不可能であった。本発明の新たなパッケージング技術によって新しい遺伝子導入技術を提供する事が可能となる。
【0044】
目的遺伝子の凝縮化一遺伝子ナノ粒子が全体として正に帯電している場合、脂質膜を構成する脂質としてアニオン性脂質(酸性脂質)を使用すれば、目的遺伝子の凝縮化一遺伝子ナノ粒子が保持された脂質膜を効率よく製造する事ができ、目的遺伝子の凝縮化一遺伝子ナノ粒子が全体として負に帯電している場合、脂質膜を構成する脂質としてカチオン性脂質(塩基性脂質)を使用すれば、目的遺伝子の凝縮化一遺伝子ナノ粒子が保持された脂質膜を効率よく製造する事ができる。
【0045】
本発明の脂質膜構造体が標的とする生物種は特に限定されるものではなく、例えば、動物、植物、微生物等が挙げられるが、動物が好ましく、哺乳動物がさらに好ましい。哺乳動物としては、例えば、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス、モルモット等が挙げられる。また、本発明の脂質膜構造体が標的とする細胞の種類は特に限定されるものではなく、例えば、体細胞、生殖細胞、幹細胞、iPS細胞又はこれらの培養細胞等が挙げられる。
【0046】
本発明の脂質膜構造体は、例えば、分散液の状態で使用することができる。分散溶媒としては、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝液,クエン緩衝液,酢酸緩衝液等の緩衝液を使用することができる。分散液には、例えば、糖類、多価アルコール、水溶性高分子、非イオン界面活性剤、抗酸化剤、pH調節剤、水和促進剤等の添加剤を添加して使用してもよい。
【0047】
本発明の脂質膜構造体は、分散液を乾燥(例えば、凍結乾燥、噴霧乾燥等)させた状態で使用することもできる。乾燥させたリポソームは、生理食塩水、リン酸緩衝液,クエン緩衝液,酢酸緩衝液等の緩衝液を加えて分散液とすることができる。
【0048】
本発明の脂質膜構造体は、in vivo及びin vitroのいずれにおいても使用することもできる。本発明の脂質膜構造体をin vivoにおいて使用する場合、投与経路としては、例えば、静脈、腹腔内、皮下、経鼻等の非経口投与が挙げられ、投与量及び投与回数は、脂質膜構造体に封入された目的遺伝子の種類や量等に応じて適宜調節することができる。
【実施例】
【0049】
〔実施例1〕微小かつ均一な凝縮一遺伝子ナノ粒子の形成
(1)MCDによるナノ粒子の調製
微小かつ均一な凝縮一遺伝子ナノ粒子を形成させるために、モノカチオニックディタージェント(Monocationic detergent : MCD)を用いてプラスミドDNAを凝縮化しナノ粒子とした。スクリーニングに用いたMCDは、メチル基を2つと側鎖R、R有する4級アンモニウム塩である。側鎖R、Rに関しては表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
10 mM Trisバッファー(pH7.4)で0.1 mg/mLプラスミドDNA(encoding the EGFP−luciferase fusion protein)水溶液を調製した。MCDはエタノールに溶解し1 Mストック溶液として保存し、使用時に10 mM Trisバッファーで適当なnitrogen/phosphate(N/P)比(0.1、0.5、1、10、25、50)となるように系列希釈した。ボルテックスしながら、MCD溶液に等量のプラスミドDNA水溶液を穏やかに添加することでナノ粒子を調製した。以下、MCDにより調製したナノ粒子をcondensed plasmid DNA particle formed by MCD:MCD−CDPという。
【0052】
(数1)
N/P比=(C/MW)/(C/MW
〔式中、CはMCD溶液の濃度(mg/mL)を表し、MWはMCDの分子量を表し、CはプラスミドDNA溶液の濃度(mg/mL)を表し、MWはプラスミドDNAに含まれるヌクレオチド1つの平均分子量(310)を表す。〕
【0053】
(2)ナノ粒子の粒子径と表面電位測定
調製したMCD−CDPの粒子径及び表面電位をそれぞれ動的光散乱法及び電気泳動法を利用した光散乱測定機 (Zetasizer Nano ZS; Malvern Instruments Ltd.,Malvern,WR,UK)によって測定した。
【0054】
調製したMCD−CDPの粒子径(nm)及び表面電位(mV)を図2に示す。なお、図2AはType−C, Dからなるナノ粒子、図2BはType−Eからなるナノ粒子、図2CはType−Fからなるナノ粒子の粒子径(a)および表面電位(b)を示す。また、図2A(a)及び図2B(a)中、□はN/P比=25、■はN/P比=50で調製したナノ粒子の粒子径を示す。また、図2A(b)中、○はC−1、●はC−2、□はD−1、■はD−2のそれぞれのN/P比で調製したナノ粒子の表面電位を示す。図2B(b)中、○はE−1、△はE−2、□はE−3のそれぞれのN/P比で調製したナノ粒子の表面電位を示す。
【0055】
図2に示すように、炭素数が16個の長鎖脂肪鎖を有するMCD(C−2、D−2、E−3、F)は微小なナノ粒子を形成することが確認された。さらに、芳香族基と炭素数が16個の長鎖脂肪鎖を両方持つMCDであるE−3、Fは最も微小なナノ粒子を調製することが確認された。また、得たナノ粒子はN/P比10以上で正電荷を有していた。
【0056】
以上の結果より、MCDを用いて小さなナノ粒子を形成するためには、炭素数が16個(またはそれ以上)の長鎖脂肪鎖と芳香族も有するMCDが必要であることが明らかとなった。スクリーニングより得たE−3とFをMCD−CDP形成のためのMCDとして選択した。以下、E−3のMCDを「BDHAC」、FのMCDを「TB」という。
【0057】
(3)ナノ粒子形成の確認
BDHAC、TBによってpDNAが安定なナノ粒子を形成するか否かを確認した。調製したナノ粒子に、終濃度1 mg/mLとなるようにポリアスパラギン酸(pAsp:DNAをナノ粒子から放出させる試薬)を加え混合した。0.5%アガロースゲルにアプライし、TAE (40 mM Tris、40 mM acetic acid、1 mM EDTA、pH8.0)中で電気泳動を行った(100V,20分間)。泳動後、エチジウムブロマイド染色によってプラスミドDNAを可視化した。エチジウムブロマイドはプラスミドDNAがナノ粒子を形成するとインターカレートできなくなるので、ナノ粒子化されていないプラスミドDNAとナノ粒子化されたプラスミドDNAを区別することができる。
【0058】
BDHACからなるナノ粒子のアガロース電気泳動の結果を図3Aに示し、TBからなるナノ粒子のアガロース電気泳動の結果を図3Bに示す。図3A及び図3B中、レーン1−6はpAsp未処理群を示し、レーン7−12はpAsp処理群を示す。また、レーン1及び7はN/P=10で調製したCDPを示し、レーン2及び8はN/P=12.5で調製したCDPを示し、レーン3及び9はN/P=15で調製したCDPを示し、レーン4及び10はN/P=20で調製したCDPを示し、レーン5及び11はN/P=25で調製したCDPを示し、レーン6及び12はN/P=50で調製したCDPを示す。
【0059】
図3の結果より、pAsp未処理の時(図3A及び図3Bのレーン1−6)、BDHAC、TBともにN/P比の増加に伴って検出されるプラスミドDNAが減少し、N/P比20以上でプラスミドDNAは検出されなくなった。この結果より、N/P比20以上の時に安定したナノ粒子が形成されていると考えた。さらに、pAsp処理によってプラスミドDNAを放出させた時(図3A及び図3Bのレーン7−12)、N/P=20、25でプラスミドDNAが検出されるようになったが、N/P=50ではプラスミドDNAは観察されなかった。
【0060】
以上の結果より、BDHAC、TBより調製したナノ粒子は、N/P=20以上で形成されていることが確認され、さらにN/P=20とN/P=25で脱凝縮化が可能な構造をしていることが明らかとなった。核内での効率的なプラスミドDNAの放出を考慮してN/P比=20で調製したナノ粒子を脂質膜でパッケージングすることにした。以下、ナノ粒子を「condensed plasmid DNA particle:CDP」、BDHACからなるナノ粒子を「BDHAC−CDP」、TBからなるナノ粒子を「TB−CDP」という。
【0061】
〔実施例2〕R8−MEND(MCD)の調製と物性評価
(1)MCD−CDPの脂質膜によるパッケージング
BDHAC−CDP、TB−CDPを有する脂質膜構造体を、単純水和法によって次のように調製した。ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(dioleoyl phosphatidyl ethanolamine:DOPE)とコレステリルヘミスクシネート (cholestelyl hemisuccinate:CHEMS)とを9:2(モル比)の割合で有機溶媒(クロロホルム)に溶解した後、ガラス試験管に加え、有機溶媒を除去してガラス試験管底に薄膜を形成させた。そこに、BDHAC−CDP溶液またはTB−CDP溶液を加え、脂質膜を水和させた後、超音波処理によって脂質膜コーティングを行った(総脂質濃度0.5〜0.55mM)。
【0062】
以下、BDHAC−CDPを脂質膜によりコーティングした構造体を「MEND(BDHAC)」、TB−CDPを脂質膜によりコーティングした構造体を「MEND(TB)」という。また、MEND(BDHAC)とMEND(TB)のことを、「MEND(MCD)」という。
【0063】
脂質膜によるパッケージングの後に、余剰のMCDを除去した。この操作を行わない場合、MCDによって脂質膜が溶解されMEND(MCD)が崩壊する可能性がある。操作は以下のように行った。MCD−CDPをパッケージングした構造体 200 uLをAmberlite XAD2(以下、疎水性ビーズ、Organo;Tokyo,Japan)70 mgへ添加し、25℃で30分間インキュベーションした。その後、2,300g、25℃で3分間遠心分離を行い、上清を回収した。さらに、同様の操作を2回繰り返した。この操作によって、余剰のMCDが吸着した疎水性ビーズが沈殿に沈むため、上清のMEND(MCD)から余剰のMCDを除去することが可能である。
【0064】
MEND(MCD)懸濁液100uL、ステアリル化オクタアルギニン溶液(ステアリル化オクタアルギニン濃度:2 mg/mL,添加量:2.44 uL,溶媒:水)を添加し、室温で一定時間インキュベートすることにより、脂質膜にステアリル化オクタアルギニンを分配させた(ステアリル化オクタアルギニンの分配量:総脂質量の5モル%)。こうして、オクタアルギニン(アルギニン8重合体)を表面に有するMEND(MCD)を調製した。
【0065】
以下、オクタアルギニンを表面に有するMEND(BDHAC)を「R8−MEND(BDHAC)」、オクタアルギニンを表面に有するMEND(TB)を「R8−MEND(TB)」という。また、R8−MEND(BDHAC)とR8−MEND(TB)のことを、「R8−MEND(MCD)」という。
【0066】
(2)MCD−CDPのパッケージングの確認
ショ糖密度勾配分画法を用いて、MCD−CDPのパッケージングの確認を行った。R8−MEND(MCD)の脂質膜には、0.5モル%ローダミン(Rho)標識化DOPE(励起波長(Ex)560nm、蛍光波長(Em)590nm)を含有させた。R8−MEND(BDHAC)懸濁液、またはR8−MEND(TB)懸濁液、またはBDHAC−CDP懸濁液、またはTB−MCD懸濁液500 μLを不連続ショ糖密度勾配(0−60%)に重層し、160,000g、20℃で2時間超遠心処理を行った。超遠心後、上部から1 mLずつフラクションを回収した。脂質はRho標識DOPEの蛍光強度、プラスミドDNAはpAsp処理後のアガロース電気泳動によってそれぞれ定量した。
【0067】
R8−MEND(BDHAC)、BDHAC−CDPの脂質とプラスミドDNAの分布を図4Aに示し、R8−MEND(TB)、TB−CDPの脂質とプラスミドDNAの分布を図4Bに示す。
【0068】
図4より、R8−MEND(MCD)の脂質及びプラスミドDNAはともにフラクション6を主としてフラクション6−10に分布することが確認された。ナノ粒子のみについて評価を行った時と比較すると、R8−MEND(BDHAC)、R8−MEND(TB)ともにプラスミドDNA分布はナノ粒子よりもショ糖密度の小さいフラクションへシフトしていた。脂質エンベロープを有するR8−MEND(MCD)の密度はナノ粒子(MCD−CDP)よりも小さい事が予想されるため、フラクション6−10で検出された脂質及びプラスミドDNAのピークはいずれもR8−MEND(MCD)に由来すると考えられた。この結果より、ナノ粒子を脂質膜でコートしたR8−MEND(MCD)が構築されていることを確認した。
【0069】
(3)R8−MEND(MCD)の粒子径の大きさと均一性の評価
R8−MEND(MCD)の粒子径と均一性をポリカチオン(ポリエルリジン:PLL)からなるCDPを有するR8−MEND(以下、R8−MEND(PLL)という)と比較した。粒子径は、動的光散乱法を利用して測定した。均一性は、粒子径分布より粒子径分布幅を算出しその値を指標とした。
【0070】
粒子径を図5Aに示し、粒子径分布を図5Bに示す。図5Aまたは図5Bの(a)は、CDPの値を示し、図5Aまたは図5Bの(b)は、R8−MENDの値を示す。統計処理は、一元分散分析を用いて行い従来型R8−MENDとの差をStudent−Newman−Keuls検定により評価した。**は、p<0.01で有意な差があることを示す。*は、p<0.05で有意な差があることを示す。
【0071】
コア粒子を比較した場合、MCD−CDPの粒子径は、PLL−CDPと比較して約40nm小さかった(図5A(a))。また、粒子径分布幅も有意に小さく、その均一性が示された(図5B(a))。R8−MENDでの比較を行った場合、R8−MEND(BDHAC)、R8−MEND(TB)の粒子径は、R8−MEND(PLL)の半分以下である120nm程度だった(図5A(b))。さらに、パッケージング後にも、MCD−CDPの均一性は保持されていた(図5B(b))。
【0072】
図5Aの結果より、R8−MEND(MCD)は、R8−MEND(PLL)と比較して、コア粒子との粒子径増加幅が小さく、少ない数のナノ粒子がパッケージングされている事が示唆された。粒子径の増加幅よりR8−MEND(MCD)は、一遺伝子ナノ粒子を一つだけパッケージングしている可能性が示唆された。また、本方法はMCDをパッケージングの後に除去する調製方法を採用している。一般的に、ディタージェントダイアレシス法によって調製した脂質膜構造体は一枚膜であることが報告されている(W.Li等、「Journal of Gene Medicine」、2005年、7巻、67−79頁)。そのため、R8−MEND(MCD)は一枚膜に膜枚数が制御されている可能性がある。
【0073】
〔実施例3〕R8−MEND (MCD)の機能評価
(1)遺伝子発現活性能の評価
ヒト子宮頸癌由来のHeLa細胞を用いて、R8−MEND(MCD)の遺伝子発現活性を評価した。本実験では、コントロールとして従来型のR8−MEND(PLL)を用いた。前日に、8×10細胞/mLの濃度で24ウェルプレート(Corning incorporated;Corning、NY、USA)に播種したHeLa細胞の培地を無血清培地と交換した後に、プラスミドDNA(ルシフェラーゼタンパク質を発現する)0.4 μgを含むR8−MENDを細胞に加え、37℃、5%CO存在下で3時間インキュベーションした。その後、血清添加培地と交換し、さらに37℃、5%CO存在下で21時間インキュベーションした。その後、細胞を0.5 mLのPBSで洗い、75 μLのreporter lysis buffer (PROMEGA;MADISON,WI,USA)で溶解した。−80℃で20分間以上インキュベーションした後、15,000g、4℃で5分間遠心し50 μLを回収した。ルシフェラーゼ活性は細胞ライセート20 μLにluciferase assay reagent (Promega;Madison,WI,USA)50 μLを加え、ルミノメーター(Luminescencer−PSN;ATTO,Japan)を用いて測定した。細胞ライセートのタンパク質量はBCA protein assay kit (PIERCE,Rockford,IL,USA)を用いて決定した。
【0074】
ルシフェラーゼの発現活性を図6に示す。遺伝子発現量は、Luciferase activityを指標に算出した。naked pDNAとは未封入のプラスミドDNAの事を示す。
【0075】
(数2)
Luciferase activity(RLU/mg protein)=ルシフェラーゼ発現活性(RLU/mL)/蛋白質量(mg/mL)
【0076】
図6の結果より、R8−MEND(BDHAC)及びR8−MEND(TB)の遺伝子発現能は、naked pDNAより4桁も高く、非常に効率的である事が示された。この値は、従来型のR8−MEND(PLL)と同程度の活性を示す。R8−MEND(PLL)はアデノウイルスと同等の遺伝子発現能を示すことが報告されている。そのため、R8−MEND(MCD)はウイルスベクターと同等の高い遺伝子発現を有する事が示された。
【0077】
(2)毒性評価
R8−MENDの毒性評価を行った。評価は、上記(1)と同様にHeLa細胞にR8−MENDを添加し、24時間後にタンパク量を測定し、細胞生存率を算出し行った。
【0078】
(数3)
細胞生存率(%)=R8−MEND処理群の細胞蛋白質量(mg/mL)/未処理群の細胞蛋白質量(mg/mL)×100
【0079】
細胞生存率の評価結果を、図7に示す。−は、余剰のMCDをパッケージング後に除去しなかったR8−MEND(MCD)を示し、+は、余剰のMCDをパッケージング後に除去したR8−MEND(MCD)を示す。
【0080】
図7よりR8−MEND(MCD)は従来型のR8−MEND(PLL)と同様に細胞毒性がないことが示された。また、MCDを除去しなかった場合には細胞毒性が顕著に表れていることも確認された。このことは、MCD−CDPをパッケージングした後に実施例2で示したようなMCDの除去操作が非常に重要であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0081】
非常に微小なR8−MEND(MCD)は、核膜孔を透過する新たな戦略が可能となり非分裂細胞への応用が期待される。従って、分裂の遅い細胞への適応が可能となりiPS細胞などへの応用が期待され再生医療に大きく貢献できる。さらに、均一な粒子径分布は、非ウイルス性遺伝子デリバリーベクターのin vivoへの応用、製剤化にも大きな利益をもたらすことが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の脂質膜構造体の実施形態を模式的に示す図である。
【図2】MCD−CDPの粒子径と表面電位を示す図である。
【図3】MCD−CDPのアガロースゲル電気泳動図を示す図である。
【図4】R8−MEND(MCD)の脂質とプラスミドDNAの密度分布を示す図である。
【図5】MCD−CDPとR8−MEND(MCD)の粒子径、粒子径分布幅を示す図である。
【図6】R8−MEND(MCD)の遺伝子発現評価を示す図である。
【図7】R8−MEND(MCD)の毒性評価を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝縮化された一遺伝子ナノ粒子が脂質膜でパッケージングされていることを特徴とする脂質膜構造体。
【請求項2】
前記一遺伝子ナノ粒子がカチオニックディタージェントによって凝縮化されたことを特徴とする請求項1記載の脂質膜構造体。
【請求項3】
前記カチオニックディタージェントがモノカチオニックディタージェント(Monocationic detergent:MCD)であることを特徴とする請求項2記載の脂質膜構造体。
【請求項4】
凝縮化一遺伝子ナノ粒子が脂質膜パッケージングされた後に、余剰の凝縮化素子が除去されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の脂質膜構造体。
【請求項5】
上記余剰の凝縮化素子の除去が疎水性ビーズの使用によって行われることを特徴とする請求項4記載の脂質膜構造体。
【請求項6】
前記MCDが、1つの長鎖脂肪鎖と1つの芳香族を有する4級アンモニウム塩であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか記載の脂質膜構造体。
【請求項7】
前記MCDの長鎖脂肪鎖の炭素数が14〜20個であることを特徴とする請求項6記載の脂質膜構造体。
【請求項8】
前記MCDの芳香族の芳香環の数が1〜5個である事を特徴とする請求項6又は7記載の脂質膜構造体。
【請求項9】
リポソームであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかの記載の脂質膜構造体。
【請求項10】
核内へ送達しようとする目的遺伝子を保持していることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の脂質膜構造体。
【請求項11】
前記目的遺伝子の遺伝子治療用ベクターとであることを特徴とする請求項10記載の脂質膜構造体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−221165(P2009−221165A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68259(P2008−68259)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】