説明

一酸化炭素還元用触媒、その製造方法および炭化水素の製造方法

【課題】C10−C20炭化水素留分に対する選択性の高い一酸化炭素還元用触媒、その製造方法および一酸化炭素の還元による炭化水素の効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】(1)担体としての金属酸化物にキレート剤を含浸する工程、(2)前記キレート剤を含浸した金属酸化物を乾燥する工程、(3)前記キレート剤を含浸、乾燥した金属酸化物に遷移金属化合物を含有する溶液を含浸する工程、(4)前記遷移金属化合物を含有する溶液を含浸した金属酸化物を乾燥する工程、および(5)前記遷移金属化合物を含有する溶液を含浸、乾燥した金属酸化物を焼成する工程、の各工程を含む工程を経て製造される一酸化炭素還元用触媒により、上記課題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィッシャー・トロプシュ合成反応に用いることのできる、一酸化炭素還元用触媒、その製造方法および前記触媒を用いる一酸化炭素の還元による炭化水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化炭素の還元は、硫黄分を含まないクリーンな炭化水素からなる燃料、化学原料を製造する方法として有効な反応であり、フィッシャー・トロプシュ(Fischer−Tropsch)合成(以下、「FT合成」という。)と呼ばれている。FT合成の原料となる合成ガス(一酸化炭素と水素の混合物)は石油以外の非石油系炭素資源( 天然ガス、バイオマス、石炭等)から製造することが可能であり、FT合成は将来の石油枯渇に対応したエネルギーおよび化学原料の多様化に対して、また硫黄酸化物等の環境負荷物質の排出低減の観点で重要な意味を持つ。特にFT合成により得られるC10−C20の炭化水素留分はセタン価も高く、硫黄分を実質的に含有しないことから、本反応は高品位なディーゼル燃料の合成法として注目されている。
このような状況から、既に大規模天然ガス田からの天然ガス等、未利用炭素資源の有効利用が検討されている。
【0003】
広義のFT合成には多くの遷移金属が触媒活性を示すことが知られているが、中でもシリカやアルミナに担持したコバルト触媒は低温、中程度の圧力下で高い合成ガス転化活性と液体炭化水素選択性を示すことが知られている。これらの商業プロセスではジルコニウム、レニウムあるいは白金等を添加したシリカ担持コバルト触媒が用いられており、そのC10−C20炭化水素留分の生産性は100〜200g/ kg−cat・ h程度と言われる。しかし、この程度の活性では中・小規模の天然ガス田からの天然ガス等の未利用炭素資源の燃料化を行うには採算の面で不十分であり、触媒の活性、選択性を向上が必要である。一方、特殊な細孔構造を有するメソポーラスシリカにコバルトを担持した触媒をFT合成に用いると、高いC10−C20炭化水素留分の生産性が得られることが見出されているものの、メソポーラスシリカの製造には複雑な過程を必要とする上に、機械的強度が低いという問題がある。
【0004】
コバルト触媒の製造に当たって、硝酸コバルトを前駆体として用いてこれにエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、クエン酸を配合することにより、アルミナまたはチタニア担体上に高分散でコバルト種を形成できることが報告されている(例えば、非特許文献1 および非特許文献2参照。)。
しかしながら、こうして得られた触媒においてはコバルト種の金属コバルトへの還元が進行しにくいため、一酸化炭素の還元反応に対して活性をほとんど示さないという問題がある。
【0005】
また、キレート剤として多官能性カルボン酸を用いて、このキレート剤とコバルト化合物を含む溶液をシリカに含浸した触媒の製造方法が開示されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。しかしながら、このようにして製造された触媒を用いて一酸化炭素の還元反応を行なった場合、一酸化炭素の転化率や付加価値の高いC10−C20炭化水素留分(灯軽油留分)の生産性、特に触媒中の単位コバルト量当りの生産性が低く、性能向上が必要であった。
【非特許文献1】J . v a n d e L o o s d r e c h t , M . v a n d e H a a r , A . M . v a n d e r K r a a n , A . J .v a n D i l l e n , J . W . G e u s ,「 A p p l . C a t a l . A . G e n .」, 1 5 0 , 3 6 5 ( 1 9 9 7 )
【非特許文献2】M . K r a u m , M . B a e m s , 「A p p l . C a t a l . A . G e n .」, 1 8 6 , 1 8 9 ( 1 9 9 9 )
【特許文献1】特許第3882044号公報
【特許文献2】特表2002−512556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、灯軽油留分であるC10−C20炭化水素留分に対する選択性の高い一酸化炭素還元用触媒、その製造方法および一酸化炭素の還元による効率的な炭化水素の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を行った結果、アモルファスシリカなどの汎用の担体に予めキレート剤を担持しておき、その後コバルトを担持することにより、特に高価な貴金属等を添加することなく、C10−C20炭化水素留分の生産性が飛躍的に(最大で約4倍)向上した一酸化炭素還元用触媒が得られることを見出して本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明の第1は、(1)担体としての金属酸化物にキレート剤を含浸する工程、(2)前記キレート剤を含浸した金属酸化物を乾燥する工程、(3)前記キレート剤を含浸、乾燥した金属酸化物に遷移金属化合物を含有する溶液を含浸する工程、(4)前記遷移金属化合物を含有する溶液を含浸した金属酸化物を乾燥する工程、および(5)前記遷移金属化合物を含有する溶液を含浸、乾燥した金属酸化物を焼成する工程、の各工程を含む工程を経て製造されることを特徴とする一酸化炭素還元用触媒である。
【0009】
本発明の一酸化炭素還元用触媒においては、その製造工程において前記キレート剤がニトリロトリ酢酸および/またはトランス−シクロヘキサンジアミンテトラ酢酸であることが、触媒の活性および選択性の観点から特に好ましい。
【0010】
また、本発明の一酸化炭素還元用触媒においては、前記金属酸化物がシリカまたはアルミナであることが、触媒の活性、選択性および機械的強度等の観点から特に好ましい。
【0011】
また、本発明の一酸化炭素還元用触媒においては、前記遷移金属化合物の前記金属酸化物の質量を基準とした担持量が、遷移金属原子として1〜40質量%であることが、触媒の活性および選択性の観点から特に好ましい。
【0012】
また、本発明の一酸化炭素還元用触媒においては、前記キレート剤が前記遷移金属化合物中の遷移金属原子1モル当たり0.1〜20モルの割合で用いられることが、触媒の活性および選択性の観点から特に好ましい。
【0013】
また、本発明の一酸化炭素還元用触媒においては、前記遷移金属化合物が硝酸塩および/または酢酸塩であることが、触媒の活性および選択性の観点から特に好ましい。
【0014】
また、本発明の一酸化炭素還元用触媒においては、前記遷移金属がコバルトであることが特に好ましい。
【0015】
また、本発明の一酸化炭素還元用触媒においては、前記キレート剤を前記金属酸化物に含浸する工程(1)の前に、前記金属酸化物を焼成する工程を備える製造工程によって製造されることが、触媒の活性および選択性の観点から特に好ましい。
【0016】
本発明の第2は、(1)担体としての金属酸化物にキレート剤を含浸する工程、(2)前記キレート剤を含浸した金属酸化物を乾燥する工程、(3)前記キレート剤を含浸、乾燥した金属酸化物に遷移金属化合物を含有する溶液を含浸する工程、(4)前記遷移金属化合物を含有する溶液を含浸した金属酸化物を乾燥する工程、および(5)前記遷移金属化合物を含有する溶液を含浸、乾燥した金属酸化物を焼成する工程、の各工程を含む工程を経て製造されることを特徴とする一酸化炭素還元用触媒の製造方法である。
【0017】
本発明の第3は、上記本発明の一酸化炭素還元用触媒用を用いることを特徴とする一酸化炭素の還元による炭化水素の製造方法である。
【0018】
また、本発明の炭化水素の製造方法においては、一酸化炭素の還元条件が反応温度200〜500℃、W/F=0.5〜10 g・h/mol、圧力0.1〜20MPa、水素/一酸化炭素比=1.0〜4.0(モル比)であることが目的とする炭化水留分の生産性の観点から特に好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の触媒は、汎用の担体を用い、貴金属等の添加を行うことなく、また特に特殊な工程および設備を必要とすることなく製造され、安価に製造することが可能である。そして、本発明の触媒を用いてFT合成反応を行うことにより、最も有用であるC10−C20炭化水素留分の生産性が大きく向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の最良の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
本発明の一酸化炭素還元用触媒の担体である金属酸化物としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどを使用することができ、好ましくはシリカまたアルミナである。これらの金属酸化物にキレート剤を含浸する前に、100〜800℃、好ましくは500〜600℃で3〜24時間、好ましくは空気中で焼成して用いるのが好ましい。
【0022】
金属酸化物担体の比表面積、細孔容積、および平均細孔径は特に限定されるものではないが、比表面積が100m/g以上、細孔容積が0.5mL/g以上、平均細孔径が10nm以上であることが一酸化炭素の還元反応に対する触媒の活性および灯軽油留分選択性の観点から好ましい。
【0023】
上記金属酸化物担体にキレート剤を含浸する工程では、まずキレート剤を溶媒に溶解させた溶液(含浸液)を調製する。溶媒としては、水、アルコール類、エーテル類、ケトン類、および芳香族化合物類を用いることができ、特に溶解性、乾燥時の排気等の観点から水が好ましい。
【0024】
キレート剤としては、グルコン酸、クエン酸、シュウ酸、ギ酸、酒石酸、フィチン酸、コハク酸、乳酸、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、トランス−シクロヘキサンジアミンテトラ酢酸(CyDTA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸(TTHA)、ヒドロキシエチルイミノジ酢酸(HIDA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸(HEDP)、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTMP)、グリコールエーテルジアミンテトラ酢酸(GEDTA)、L−アスパラギン酸二酢酸(ASDA)、L−グルタミン酸二酢酸(GLDA)、ピロリン酸、トリポリリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸などを用いることができ、製造される触媒の活性および灯軽油留分選択性の観点から、好ましくはNTAとCyDTAである。
【0025】
キレート剤を金属酸化物担体に含浸する方法としては湿式含浸法、乾式含浸法、スプレー含浸法または減圧含浸法などを挙げることができ、製造される触媒の活性および選択性、触媒製造時の設備および操作の簡略化の観点から、湿式含浸法が好ましい。
【0026】
キレート剤が含浸された金属酸化物担体の乾燥は、常圧乾燥法や減圧乾燥法等により行なうことができる。例えば、常圧乾燥法の場合、大気圧雰囲気下、10〜200℃、0.2〜48時間の条件で行なうことができ、好ましくは室温〜150℃、0.5〜24時間の条件である。
【0027】
金属酸化物担体にキレート剤を含浸し乾燥した後、ここに一酸化炭素を還元、水素化し得る遷移金属化合物を担持する。遷移金属としては、例えば、コバルト、ニッケル、鉄、銅、クロム、マンガン、ジルコニウム、モリブデン、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、パラジウム、銀、ルテニウム、ロジウム、および白金等を用いることができる。特に、高分子量炭化水素を合成するには、コバルト、鉄、およびルテニウムが好ましく、特にコバルトが好ましい。
【0028】
こうした遷移金属は、硝酸塩、炭酸塩、有機酸塩等の塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、シアン化物、酸化物塩、水酸化物塩、ハロゲン化物塩、およびシアン化物塩からなる群から選択される少なくとも1種の金属化合物として用いることができる。これらのうち、硝酸塩および/または酢酸塩がより好ましく、硝酸コバルトおよび/または酢酸コバルトが特に好ましい。金属化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
遷移金属化合物を溶媒に溶解させて溶液(含浸液)を調製し、これを用いてキレート剤が担持された金属酸化物担体に含浸を行う。
溶媒としては水、アルコール類、エーテル類、ケトン類、および芳香族化合物類を用いることができ、溶解性、金属種の分散性、乾燥時の排気等の観点から特に水が好ましい。含浸する方法としては湿式含浸法、乾式含浸法、スプレー含浸法または減圧含浸法などを挙げることができ、製造される触媒の活性および選択性、触媒製造時の設備および操作の簡略化の観点から、湿式含浸法が好ましい。1回の含浸のみでは後述する所望の金属担持量にならない場合は、この含浸および乾燥の工程を複数回繰り返して行なってもよい。
【0030】
本発明の一酸化炭素還元用触媒においては、金属酸化担体に担持されるべき遷移金属の好ましい量は、その金属の種類に応じて決定される。例えば、コバルトまたは鉄の場合には、金属酸化物担体の質量を基準として、金属原子として1〜40質量%の範囲で担持されることが好ましい。さらに好ましくは5〜30質量%である。また、貴金属であるルテニウムの場合には、1〜10質量%の範囲で担持されることが好ましい。遷移金属の担持量が上述した範囲の下限未満の場合には、後述する水素と一酸化炭素との混合ガスの反応時における一酸化炭素の転化率が低下する傾向にある。一方、上限値を越えて多量に担持しても、それに見合った一酸化炭素の転化率の向上が得られない。
【0031】
担持するキレート剤と遷移金属化合物の割合は、一酸化炭素の還元反応成績を左右する重要な因子である。キレート剤の配合割合は、遷移金属原子1 モル当たり0.1〜20モルであることが好ましく、0.3〜10モルであることがより好ましい。キレート剤の配合割合が0.1モル未満の場合には、キレート剤の担持効果が小さく、最終的に得られる触媒の活性が向上しない傾向にある。一方、20 モルを越える場合には、含浸液の粘度が大幅に上昇するため、金属酸化物担体への含浸が困難になる傾向にある。
【0032】
本発明の一酸化炭素還元用触媒の製造においては、上述したようにキレート剤を含有する溶液を金属酸化物担体に含浸させた後に乾燥し、さらにそこに遷移金属化合物を含有する含浸液を含浸させた後、乾燥、焼成を行う。
乾燥は常圧乾燥法や減圧乾燥法等により行なうことができる。例えば、常圧乾燥法の場合、大気圧雰囲気下、室温〜150℃ 、0.1〜24時間の条件で行なうことができる。
【0033】
その後の焼成は、例えば空気中、300〜500℃ で2〜5時間程度の条件で行なうことが好ましい。
【0034】
本発明の一酸化炭素還元用触媒の形状に特に制限は無く、粉末状(例えば、平均粒径50〜150μm)または粒状(例えば、平均粒径1〜20mm)として用いることができる。この他に、この粉末をシリカ、アルミナ、ボリア等をバインダーとして成型してペレットとしたもの、またはそれを粉砕した顆粒状の形態で使用してもよい。また、成型品は必要に応じて円柱状、三葉状、四葉状、球状等の形状とすることができる。
【0035】
上述した方法により、一酸化炭素を水素化、還元し得る遷移金属の酸化物が担体上に高分散された触媒が製造される。得られた触媒は、常法により活性化処理(還元処理)を施した後、一酸化炭素の還元反応に用いることができる。
【0036】
活性化処理としては、例えば、反応塔内に活性化処理前の触媒を充填し、活性化剤として水素や一酸化炭素または水素と一酸化炭素との合成ガスを流通させながら、300〜500℃まで徐々に加熱し、所定の実操作温度で4〜12時間程度保持する処理が挙げられる。
【0037】
本発明の触媒は、上述のように前記(1)〜(5)の各工程を含む工程を経て製造される。
かかる方法により調製された本発明の触媒の存在下に、水素と一酸化炭素とを含む混合ガスを200〜500℃の温度、0.1〜20MPaの圧力、0.5〜10g・h/molのW/F、1.0〜4.0mol/molの水素/一酸化炭素比にて反応させることによって、ガソリン燃料油成分、ディーゼル燃料成分等を含む水素化生成物である炭化水素が得られる。
ここで、「W」は反応器に充填される触媒の質量(g)を表し、「F」は反応器に供給される一酸化炭素と水素の合計の流量(mol/h)を表し、「W/F」は原料の触媒に対する接触時間の尺度となる数値である。
【0038】
本発明の一酸化炭素の還元による炭化水素の製造方法においては、使用する反応相の形態は限定されず、固定床、流動床、懸濁床などが用いられる。また反応器は塔型反応器、(攪拌機を付設した)槽型反応器等が使用される。
【0039】
具体的には、円筒状のステンレス製高圧反応管内に例えば粉末状の前記触媒を充填し、この反応管を例えば外部に配置したヒーターで、その内部温度が200〜500℃となるように加熱する。この状態で、水素と一酸化炭素とを含む高圧混合ガス(0.1〜20MPa)を流通させることにより水素化生成物を製造する。
【0040】
この他に、出入口を有する高圧タンク内に高沸点有機溶媒に粉末状の本発明の触媒を分散させたスラリーを収容し、この高圧タンクを例えば外部に配置したヒーターでその内部温度が200〜500℃になるように加熱した状態で、水素と一酸化炭素を含む高圧混合ガス(0.1〜20MPa) を前記入口から前記スラリー内に流通させることにより水素化生成物を製造することも可能である。
【0041】
本発明の一酸化炭素還元用触媒の存在下に前記混合ガスを反応させる反応系において、温度および圧力を前記範囲に設定することにより、目的とする成分としてC1のメタンからC4のブタンと、C5〜C9のガソリン燃料油成分およびC10〜C20のディーゼル燃料油成分と、ワックスのような高沸点パラフィンとを任意に選択的に製造することが可能になる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を挙げ本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
担体としてシリカ(富士シリシア化学社製 Q−15)を用意した。このシリカは、比表面積が約200m/g、細孔容積が約1.0mL/g、平均細孔径は約15nmである。このシリカは空気中、5 5 0 ℃にて2時間焼成して使用した。
キレート剤のシリカへの含浸は次のように行った。
内容積5mLのメスフラスコにキレート剤としてのNTA 0.8gをとり、蒸留水加えて5mLとし含浸液を調製した。この含浸液1.0mLを用いてIncipient Wetness法でキレート剤をシリカ担体に含浸した。キレート剤が含浸したシリカを空気中、120℃で12時間乾燥した。
遷移金属としてのコバルトの含浸は以下のように行った。
内容積5mLのメスフラスコに硝酸コバルト1.23gを加え溶解させた後、蒸留水を加えて総体積5mLとした水溶液(含浸液)を調製した。この溶液1.0mLを用いてキレート剤が含浸されたシリカにコバルトを担持量が20wt%となるように含浸した。
溶液が含浸されたシリカは、空気中、120℃で12時間乾燥させた。
その後、空気中、350℃にて4時間焼成を行なって、触媒を得た。
得られた触媒を高圧固定床流通式反応器に収容して、水素気流中、500℃
にて還元することにより前処理を施した。その後、水素と一酸化炭素とを含む混合ガスを導入して、次の条件でFT合成反応を行なうことにより水素化生成物を製造した。
反応温度: 230℃
全圧: 1.1 M P a
/CO=62/33(mol/mol)
W/F=1.25g−cat・h /mol
FT反応開始20 時間後のC10−C20留分およびC5+留分の生産性(STY、単位:g/kg−cat/h)をガスクロマトグラフィーによる分析により調べた。得られた結果を下記表1 にまとめる。
【0044】
(実施例2)
NTAを1.5g のCyDTAに変更した以外は、前述の実施例1と同様の手法により触媒を調製し、同条件下でFT合成反応を行った。その結果を表1に示す。
【0045】
(比較例1)
NTAを配合しない以外は、前述の実施例1と同様の手法により触媒を調製し、同条件下でFT合成反応を行った。その結果を表1に示す。
【0046】
(比較例2)
キレート剤を前もって担体に含浸せずに、キレート剤とコバルトを同時に含浸したこと以外は、前述の実施例2と同様の手法により触媒を調製し、同条件下でFT合成反応を行った。その結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
上記表1に示されるように、キレート剤を含有しない溶液を用いて製造された触媒(比較例1)のC10−20のSTY(単位触媒量、単位反応時間当りに生成した炭化水素の重量)は、207g/kg−cat/hである。これに対して、キレート剤を含有する溶液を用いて調製した場合には、生産性が向上した。特にCyDTA を添加した触媒では、STYが815と4 倍近くも増加している。この値は既存のどの報告値よりも高く、キレート剤、特にCyDTAを用い、遷移金属化合物を担持する前の工程においてこれを担持して触媒を製造することで、極めて高活性な触媒の開発に成功した。
また、キレート剤と遷移金属化合物を共含浸して担持した比較例2においては、先行技術に開示されているようなキレート剤の添加効果が確認されなかったが、いずれにしても実施例2はこれに比較しても極めて高活性であった。これらの結果から、本発明の有用性を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の一酸化炭素還元用触媒を用いることにより、一酸化炭素の還元反応の主生成物である炭化水素、特に有用なC10〜C20の留分が極めて高い生産性をもって製造されることから、燃料、あるいは化学原料として利用される産業、すなわち、エネルギー関連産業および化学産業に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)担体としての金属酸化物にキレート剤を含浸する工程、(2)前記キレート剤を含浸した金属酸化物を乾燥する工程、(3)前記キレート剤を含浸、乾燥した金属酸化物に遷移金属化合物を含有する溶液を含浸する工程、(4)前記遷移金属化合物を含有する溶液を含浸した金属酸化物を乾燥する工程、および(5)前記遷移金属化合物を含有する溶液を含浸、乾燥した金属酸化物を焼成する工程、の各工程を含む工程を経て製造されることを特徴とする一酸化炭素還元用触媒。
【請求項2】
前記キレート剤がニトリロトリ酢酸および/またはトランス−シクロヘキサンジアミンテトラ酢酸であることを特徴とする請求項1に記載の一酸化炭素還元用触媒。
【請求項3】
前記金属酸化物がシリカまたはアルミナであることを特徴とする請求項1または2に記載の一酸化炭素還元用触媒。
【請求項4】
前記遷移金属化合物の前記金属酸化物の質量を基準とした担持量が、遷移金属原子として1〜40質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の一酸化炭素還元用触媒。
【請求項5】
前記キレート剤が前記遷移金属化合物中の遷移金属原子1モル当たり0.1〜20モルの割合で用いられることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の一酸化炭素還元用触媒。
【請求項6】
前記遷移金属化合物が、硝酸塩および/または酢酸塩であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の一酸化炭素還元用触媒。
【請求項7】
遷移金属がコバルトであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の一酸化炭素還元用触媒。
【請求項8】
前記キレート剤を前記金属酸化物に含浸する工程(1)の前に、前記金属酸化物を焼成する工程を備える製造工程によって製造されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の一酸化炭素還元用触媒。
【請求項9】
(1)担体としての金属酸化物にキレート剤を含浸する工程、(2)前記キレート剤を含浸した金属酸化物を乾燥する工程、(3)前記キレート剤を含浸、乾燥した金属酸化物に遷移金属化合物を含有する溶液を含浸する工程、(4)前記遷移金属化合物を含有する溶液を含浸した金属酸化物を乾燥する工程、および(5)前記遷移金属化合物を含有する溶液を含浸、乾燥した金属酸化物を焼成する工程、の各工程を含む工程を経て製造されることを特徴とする一酸化炭素還元用触媒の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の一酸化炭素還元用触媒用を用いることを特徴とする一酸化炭素の還元による炭化水素の製造方法。
【請求項11】
一酸化炭素の還元条件が、反応温度200〜500℃、W/F=0.5〜10g・h/mol、圧力0.1〜20MPa、水素/一酸化炭素比=1.0〜4.0(モル比)であることを特徴とする請求項10に記載の炭化水素の製造方法。

【公開番号】特開2009−11938(P2009−11938A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176776(P2007−176776)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(507227256)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】