説明

三価クロムめっき浴からのクロムめっき方法

金属クロムを基板にめっきするめっき方法が開示される。方法は、硫酸塩及び/又はスルホン酸塩マトリクスを含む三価クロムめっき浴を使用する。方法は、また、不溶性陽極を利用する。マンガンイオンをめっき浴に添加することで、めっき浴を使用する際に有害な六価クロムイオンの形成を阻止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき浴中の三価クロムイオンと、不溶性陽極とを利用するクロムめっき方法に関する。めっき浴の使用中に、陽極での六価クロムイオンの形成を最小限にするめっき浴に対する添加剤が提案される。
【背景技術】
【0002】
1970年代後半から長年にわたり三価クロム系電解質が産業的に使用されてきた。これらの方法は、健康、安全、及び環境への毒性の観点から六価クロムに基づく方法よりも優れている。しかしながら、これらの三価クロムプロセスに適した陽極の選択は重大な問題を提起する。プロセスの陰極効率が非常に低いので、不溶性陽極を使用する必要がある。もしクロムからなる溶解性陽極が使用されるならば、陰極効率が低いため浴内で金属クロムが蓄積されることになる。また、クロムCr(VI)を溶解するのに十分な陽極電位に達するまで、クロムは電解質において不動態である。これは、金属クロム陽極が使用されるならば、クロムが三価の形態よりもむしろ六価の形態で溶解されることを意味する。六価クロムは、三価クロムプロセスにおいて深刻な汚染物質であり、この種の形成を防ぐことが重要である。歴史的に、この問題に対していくつかのアプローチがなされてきた。塩化物系電解質(不溶性陽極からの塩素発生もまた問題となりうる)は、クロム(III)からクロム(VI)への酸化を触媒するよりもむしろ、ギ酸イオン又はアンモニウムイオン等の化学種の陽極酸化を触媒するために、臭化物イオンを使用する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
硫酸塩系三価クロムプロセスに使用される添加剤の種類が原因で、この戦略は使用できない。硫酸塩系プロセスにおいて、クロム酸化を防ぐ可能性がある方法が2つある。本来は、これらのプロセスには分離セル配列が使用されていた(例えば、特許文献2)。一般的に、鉛陽極は、透過性膜によってめっき浴から分離された硫酸陽極液で使用された。めっき電流はカチオン透過性膜を通って水素カチオンによって運ばれた。これによって、三価クロムが陽極の表面に接触するのを効果的に防いだので、三価クロムから六価クロムへの酸化を防ぐ。しかしながら、この種の装置は費用が高く、維持が困難である。また、膜の寿命は限られており、費用的に好ましくない結果となる。硫酸塩系電解質から三価クロム電気めっき技術における更なる開発において、酸化イリジウム/酸化タンタル被覆陽極を使用した(例えば、特許文献3参照)。これらは、三価クロム溶液に直接使用されたが、これらの陽極の表面は電位に対して酸素が少ないことが分かった(よって、最も低い陽極電位で酸素の遊離を促進する)。しかしながら、操作期間にわたって、これらの陽極に三価クロムから六価クロムへの酸化が促進された。上記に概説された問題のため、硫酸塩系三価クロムめっきプロセスに適した費用効果的な陽極が未だ必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第3,954,574号明細書
【特許文献2】英国特許第1,602,404号明細書
【特許文献3】米国特許第5,560,815号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の発明者らは基板に金属クロムをめっきする方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
基板に金属クロムをめっきする方法は、前記基板をめっき浴に接触させる工程を含み、前記めっき浴が(a)〜(c)を含み、
(a)三価クロムイオン;
(b)硫酸イオン及び/又はスルホン酸イオン;並びに
(c)マンガンイオン;
前記基板が陰極となり、並びに酸化イリジウム、酸化ルテニウム及び/又はプラチナを含む表面被覆を含む不溶性陽極が使用される。
【0007】
本発明で使用される陽極は、めっき浴内に直接置かれてもよく、又は、セパレーターとして半透膜を使用した区画において、めっき浴から離してもよい。しかしながら、費用及び効率の点から、めっき浴内に直接置かれる陽極が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、三価クロムめっき浴内における六価クロムに対するマンガンの効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の発明者らは、不溶性陽極を使用する三価クロムめっき浴にマンガンイオンを加えることで、プロセスの性能を実質的に向上し、且つ陽極の寿命を大幅に延ばすことが可能であることを見出した。本発明のめっき浴で有用な電解質の種類としては、制限がなく、例えば、米国特許第4,141,803号明細書;米国特許第4,374,007号明細書;米国特許第4,417,955号明細書;米国特許第4,448,649号明細書;米国特許第4,472,250号明細書;米国特許第4,507,175号明細書;米国特許第4,502,927号明細書;及び米国特許第4,473,448号明細書等に記載のものが挙げられる。浴に添加されるマンガンイオンの量は、好ましくは、少なくとも10ppmであり、溶解性の限界が上限値である。しかしながら、実際には、容認し難い程度に大量のマンガン(700ppm超)が陰極に共析出し、析出したクロムの表面的な外観、及び耐食性能の問題の原因となることが分かった。従って、マンガンイオンの添加量は、好ましくは10ppm〜700ppm、より好ましくは100ppm〜300ppmである。マンガンイオンが、適切な浴に溶解する塩として添加されてもよい。硫酸アニオンがめっき浴の組成物と親和性があるため、硫酸マンガンは好適な塩である。
【0010】
理論にとらわれることなく、マンガン(II)イオンは、クロム(III)/クロム(VI)反応の酸化電位よりも低い電位で酸化されて二酸化マンガンになるため、不溶性陽極表面に二酸化マンガン被覆が形成されると考えられる。そして、二酸化マンガンが被覆された陽極は、酸素発生を促進させ及び/又はクロム酸化を阻害することで機能する。電流が切られると、二酸化マンガンは、徐々にマンガン(II)イオンを再形成し、酸素を遊離する。電流が再度付加される場合、二酸化マンガン被覆が陽極に再形成される。よって、めっき浴に少量のマンガンイオンを添加することで、過量の六価クロムの形成を防ぐ。
【0011】
結果として、本発明の発明者等は、基板に金属クロムをめっきする方法を提案し、前記方法は、前記基板をめっき浴に接触させる工程を含み、
前記めっき浴が(a)〜(c)を含み、
(a)三価クロムイオン;
(b)硫酸イオン及び/又はスルホン酸イオン;並びに
(c)マンガンイオン;
前記基板が陰極となり、及び不溶性陽極が使用される。
【0012】
三価クロムイオン源は、三価クロムイオンの任意の溶解性源であり得る。好ましくは、硫酸クロム(III)が使用される。しかしながら、塩化クロム(III)、シュウ酸クロム(III)、炭酸クロム(III)、水酸化クロム(III)、及び他の同様の三価クロムイオン塩、又は錯体が使用できる。めっき浴における三価クロムイオンの濃度は、好ましくは5g/L〜40g/L、最も好ましくは10g/L〜15g/Lである。六価クロムイオンは、めっき浴の適切な機能に悪影響をもたらすため、結果的に、めっき浴の六価クロムイオン濃度は、できるだけ低いことが好ましいが、より好ましくは0.1g/L未満である。
【0013】
同様に硫酸イオン及び/又はスルホン酸イオン源が、これらのアニオンの任意の溶解性源になり得る。好ましくは、硫酸が使用される。又は、アルカンスルホン酸、硫酸塩、又はアルカンスルホン酸塩を使用してもよい。めっき浴の硫酸アニオン及び/又はスルホン酸アニオンの濃度は、好ましくは50g/L〜150g/L、最も好ましくは90g/L〜110g/Lである。めっき浴のpHは、好ましくは3〜4で維持される。
【0014】
マンガンイオン源は、任意の溶解性マンガン含有塩でもよい。好ましくは、硫酸マンガンが使用される。しかしながら、塩化マンガン、スルホン酸マンガン、又は炭酸マンガン等の他の塩もまた使用することができる。めっき浴のマンガンイオン濃度は、好ましくは、0.01g/L〜0.7g/Lであり、最も好ましくは、0.02g/L〜0.3g/Lである。
【0015】
上記のように、使用される陽極は、めっき浴に溶解しない。これに関して、不溶性陽極は、めっき浴のマトリクスに溶解しない陽極であるか、又はほぼ不溶性の陽極である。適切な不溶性陽極としては、例えば、鉛陽極、鉛合金陽極、白金めっきチタン陽極、又は酸化イリジウム、酸化ルテニウム、若しくは酸化イリジウムと酸化タンタルとの混合物を含む表面被覆を含む金属陽極等が挙げられる。好ましくは、陽極は、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、又は酸化イリジウムと酸化タンタルとの混合物を含む表面被覆を含む金属陽極である。酸化イリジウムと酸化ルテニウムとの混合物、又は酸化イリジウムと酸化タンタルとの混合物を被覆した陽極の金属基板は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、モリブデン、又はタングステン等の任意の浴不溶性金属であってもよい。好ましくは、チタンが使用される。これらの好適な陽極は公知であり、米国特許第5,560,815号明細書に記載されており、その教示を参照することにより全体を本願に援用する。
【0016】
概して、めっき浴は、55℃〜65℃の温度で操作される。pHは、好ましくは3〜4である。陰極電流密度は、概して、2Amp/dm〜10Amp/dmである。
【0017】
白金めっきチタン、又は鉛(合金)陽極が使用されるならば、めっき浴のマンガンイオンの濃度を推奨範囲内のより高い上限値まで増やす必要があるかもしれない。この場合、推奨されるマンガンイオン濃度は0.6g/L〜0.7g/Lである。
【0018】
本発明のめっき浴に有用な他の添加剤は、ギ酸塩、シュウ酸塩、リンゴ酸塩、酢酸塩、及びホウ酸等のカルボン酸アニオンを含む。
【0019】
(実施例1)
本発明の効果をテストするために、有効期間の最後まで使用され、且つかなりの量の六価クロムを生成した酸化イリジウム被覆タンタル陽極を使用した。これは、陽イオン交換膜を備えるセルに導入された。セルの両側を三価クロムめっき電解質で満たした。セルの目的は、陽極及び陰極反応を分離して、陽極で生成された六価クロムが陰極で減らないようにした。よって、これは「最悪の事態」シナリオを表すと考えた。
図1は、以下の物質を含む三価クロム電解質を使用して得た結果を示す。
7g/L 塩基性硫酸クロムとして添加された金属クロム
160g/L 硫酸ナトリウム
75g/L ホウ酸
10g/L リンゴ酸
セルは、陽極電流密度5amps/dm、pH3.4を用いて60℃で操作された。陽極液の体積は、350mLであった。
【0020】
この図から、比較例(マグネシウム添加無し)において、電気分解を60分間行った後、六価クロムが急激に増加し、245ppmの値に達したことがわかる。硫酸マンガン100ppm(マンガン30ppmに相当)を添加することで、生成される六価クロムの量は更に増加しつづけ、60分後に130ppmの値に達した。このマグネシウム濃度でさえも、比較例と比べると六価クロムの生成率は著しく減った。更に高濃度の硫酸マンガン(それぞれ0.25g/L及び0.5g/L)の効果もまた示される。これらの実施例は、硫酸マンガン0.5g/L(マンガン150ppmに相当)で、電気分解を80分間継続後、六価クロムは更には増加しなかったことを示す。これは、この期間の後、陽極による六価クロムの生成が実質的に阻止されたことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に金属クロムをめっきする方法であって、
前記方法は、前記基板をめっき溶液に接触させる工程を含み、
前記めっき溶液が(a)〜(c)を含み、
(a)三価クロムイオン;
(b)硫酸イオン又はスルホン酸イオン;並びに
(c)マンガンイオン;
前記基板が陰極となり、及び不溶性陽極が使用されることを特徴とする方法。
【請求項2】
不溶性陽極が(i)白金めっきチタン陽極、(ii)鉛、又は鉛合金陽極、及び(iii)酸化イリジウム、酸化ルテニウム、又は酸化イリジウムと酸化タンタルとの混合物を含む表面被覆で被覆された金属陽極からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
不溶性陽極が、酸化イリジウムと酸化タンタルとの混合物を含む表面被覆で被覆された金属陽極を含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
不溶性陽極が、酸化イリジウム又は酸化ルテニウムを含む表面被覆で被覆された金属陽極を含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
マンガンイオンの濃度が0.05g/L〜0.7g/Lである請求項1に記載の方法。
【請求項6】
マンガンイオンの濃度が0.05g/L〜0.5g/Lである請求項3に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−511099(P2012−511099A)
【公表日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534570(P2011−534570)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際出願番号】PCT/US2009/058143
【国際公開番号】WO2010/051118
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(591069732)マクダーミッド インコーポレーテッド (38)
【氏名又は名称原語表記】MACDERMID,INCORPORATED
【Fターム(参考)】