説明

三次元免震装置

【課題】液圧シリンダに対し曲げモーメントが作用することを防止でき且つ積層ゴムが剪断座屈を起こしにくくすることができ、免震性能向上を図り得る三次元免震装置を提供する。
【解決手段】一個の積層ゴム1に対し、その軸線Oを中心に対称となるよう複数の液圧シリンダ3を配設し、各液圧シリンダ3には、アキュムレータ2に接続される鉛直荷重支持用液室3cと、ピストン3dにて上下に仕切られる曲げ支持用上液室3e及び曲げ支持用下液室3fとを形成し、液圧シリンダ3の曲げ支持用上液室3eと、該液圧シリンダ3に対応する別の液圧シリンダ3の曲げ支持用下液室3fとを連通路7aにて接続すると共に、液圧シリンダ3の曲げ支持用下液室3fと、該液圧シリンダ3に対応する別の液圧シリンダ3の曲げ支持用上液室3eとを連通路7bにて接続することにより、各液圧シリンダ3を同位相で動作させるよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元免震装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ビルや重量建造物等の免震対象物を、地震の振動や衝撃から保護して支持するために、種々のバネを用いた三次元免震装置が提案されている。
【0003】
図6は従来の三次元免震装置の一例を示す側断面図であって、該三次元免震装置は、水平方向の免震機能を有する積層ゴム1と、アキュムレータ2が接続され鉛直方向の免震機能を有する液圧シリンダ3とを球面軸受4を介して上下に積み重ねてなる免震ユニット5を、基礎Bと免震対象物Hとの間における複数所要箇所に配設してなる構成を有している。
【0004】
前記液圧シリンダ3は、液圧シリンダ本体3aと、該液圧シリンダ本体3aの内部に鉛直方向へ摺動自在に嵌入され且つ上端部が液圧シリンダ本体3a外部へ張り出すピストンロッド3bとを有する一方、前記アキュムレータ2は、アキュムレータ本体2aと、該アキュムレータ本体2aの内部に鉛直方向へ摺動自在に嵌入されたピストン2bとを有し、該ピストン2bで仕切られたアキュムレータ本体2aの下部空間2cと、前記液圧シリンダ本体3a内部のピストンロッド3b下面側に形成される鉛直荷重支持用液室3cとを連通管6にて接続し、該連通管6にて接続されるアキュムレータ本体2aの下部空間2c及び液圧シリンダ本体3aの鉛直荷重支持用液室3c内に油等の液体を充填すると共に、前記ピストン2bで仕切られたアキュムレータ本体2aの上部空間2d内に窒素ガス等の不活性ガスを充填するようにしてある。
【0005】
ここで、前述の如く、積層ゴム1と液圧シリンダ3とを球面軸受4を介して上下に積み重ねて免震ユニット5を構成しているのは、液圧シリンダ3に対し、いわゆる「こじり力」(曲げモーメント)が作用しないようにするためである。
【0006】
尚、積層ゴムと液圧シリンダとを備えた三次元免震装置と関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−291918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、前記積層ゴム1は、それ単独で考えた場合、本来、図7(a)に示される如く球面軸受4を設けることによって片端の回転が拘束されていない、いわゆる片端回転フリーとするのではなく、図7(b)に示される如く両端固定として曲げ(回転)が拘束された状態で使用することが望ましい。
【0009】
この理由は、図7(b)に示される如く前記積層ゴム1を両端固定として曲げ(回転)が拘束された状態で使用した場合、該積層ゴム1の安定限界水平変位(座屈発生時水平変位)は、図7(c)中、仮想線で示されるようになるのに対し、図7(a)に示される如く球面軸受4を設けて前記積層ゴム1を片端回転フリーとした場合、該積層ゴム1の安定限界水平変位は、図7(c)中、実線で示されるようになり、例えば、鉛直荷重がP=20[ton]である場合、両端固定では安定限界水平変位がおよそ1250[mm]であるのに対し、片端回転フリーでは安定限界水平変位がおよそ1000[mm]に低下してしまい、同じ鉛直荷重でも小さい水平変位で座屈が発生してしまうためである。
【0010】
又、図7(b)に示される如く前記積層ゴム1を両端固定として曲げ(回転)が拘束された状態で使用した場合、該積層ゴム1の水平剛性(水平荷重をF、水平変位をδとすると、F/δ[ton/m])は、図7(d)中、仮想線で示されるようになるのに対し、図7(a)に示される如く球面軸受4を設けて前記積層ゴム1を片端回転フリーとした場合、該積層ゴム1の水平剛性は、図7(d)中、実線で示されるようになり、鉛直荷重が増加するに従って水平剛性が低下する割合が、両端固定より片端回転フリーの方が大きくなり、片端回転フリーの場合、前記積層ゴム1が剪断座屈を起こしやすくなることがわかる。
【0011】
即ち、図8(a)に示される如く、前記積層ゴム1と液圧シリンダ3とを球面軸受4を介して上下に積み重ねて免震ユニット5を構成すれば、液圧シリンダ3に対し曲げモーメントが作用しない反面、前記積層ゴム1に曲げモーメントが作用してしまい、該積層ゴム1が剪断座屈を起こしやすくなる不具合が生ずる一方、仮に、球面軸受4を介さずに、図8(b)に示される如く、前記積層ゴム1と液圧シリンダ3とを直接接続すると、該積層ゴム1にとっては有利となる反面、前記液圧シリンダ3が曲げモーメントを負担しなければならなくなって摺動抵抗が増し、免震性能が低下してしまう問題が発生することとなる。
【0012】
本発明は、斯かる実情に鑑み、液圧シリンダに対し曲げモーメントが作用することを防止でき且つ積層ゴムが剪断座屈を起こしにくくすることができ、免震性能向上を図り得る三次元免震装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、水平方向の免震機能を有する積層ゴムと、アキュムレータが接続され鉛直方向の免震機能を有する液圧シリンダとを球面軸受を介して上下に積み重ねてなる免震ユニットを備えた三次元免震装置において、
前記免震ユニットを構成する一個の積層ゴムに対し、該積層ゴムの軸線を中心に対称となるよう複数の液圧シリンダを配設し、
前記各液圧シリンダには、前記アキュムレータに接続される鉛直荷重支持用液室と、ピストンにて上下に仕切られる曲げ支持用上液室及び曲げ支持用下液室とを形成し、
前記液圧シリンダの曲げ支持用上液室と、該液圧シリンダに対応する別の液圧シリンダの曲げ支持用下液室とを連通路によって接続すると共に、前記液圧シリンダの曲げ支持用下液室と、該液圧シリンダに対応する別の液圧シリンダの曲げ支持用上液室とを連通路によって接続することにより、前記各液圧シリンダを同位相で動作させるよう構成したことを特徴とする三次元免震装置にかかるものである。
【0014】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0015】
地震等の発生時に、曲げモーメントが免震ユニットの液圧シリンダに伝わると、積層ゴムの軸線を中心に対称となるよう配設された一方の液圧シリンダには上方への荷重が作用すると共に、対応する他方の液圧シリンダには下方への荷重が作用するが、これらの液圧シリンダは連通路による接続によって同位相の動作しか許容されていないので、回転変形が発生しない。
【0016】
この結果、積層ゴムは、液圧シリンダとの間に球面軸受が介在されているものの、あたかも両端固定として曲げ(回転)が拘束されているような状態で使用される形となり、前記積層ゴムが剪断座屈を起こしにくくなる。
【0017】
又、前記積層ゴムと複数の液圧シリンダとは球面軸受を介して接続されており、該各液圧シリンダが曲げモーメントを負担しなくて済むため、摺動抵抗が増す心配はなく、免震性能が低下してしまう問題が発生することもない。
【0018】
前記三次元免震装置においては、前記積層ゴムの軸線を中心とする正方形以上の偶数正多角形の頂点となる位置に液圧シリンダを配設し、互いに対角に位置する一方の液圧シリンダの曲げ支持用上液室と他方の液圧シリンダの曲げ支持用下液室とを連通路によって接続すると共に、一方の液圧シリンダの曲げ支持用下液室と他方の液圧シリンダの曲げ支持用上液室とを連通路によって接続することができる。
【0019】
又、前記三次元免震装置においては、前記積層ゴムの軸線を中心とする正三形以上の正多角形の頂点となる位置に液圧シリンダを配設し、所望の液圧シリンダの曲げ支持用上液室と一方の側に隣接する液圧シリンダの曲げ支持用下液室とを連通路によって順次接続し、最終的に前記所望の液圧シリンダの他方の側に隣接する液圧シリンダの曲げ支持用上液室と前記所望の液圧シリンダの曲げ支持用下液室とを連通路によって接続することもできる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の三次元免震装置によれば、液圧シリンダに対し曲げモーメントが作用することを防止でき且つ積層ゴムが剪断座屈を起こしにくくすることができ、免震性能向上を図り得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第一実施例を示す概要構成図であって、(a)は側断面図((b)のIa−Ia断面相当図)、(b)は平断面図である。
【図2】本発明の第二実施例を示す概要構成図であって、(a)は側断面図((b)のIIa−IIa断面相当図)、(b)は平断面図である。
【図3】本発明の第三実施例を示す概要構成図であって、(a)は側断面図((b)のIIIa−IIIa断面相当図)、(b)は平断面図である。
【図4】本発明の第四実施例を示す概要構成図であって、(a)は側断面図((b)のIVa−IVa断面相当図)、(b)は平断面図である。
【図5】本発明の第五実施例を示す概要構成図であって、(a)は側断面図((b)のVa−Va断面相当図)、(b)は平断面図である。
【図6】従来の三次元免震装置の一例を示す側断面図である。
【図7】従来の三次元免震装置の一例における積層ゴムの固定条件の相違(球面軸受の有無)による状態変化を示す図であって、(a)は片端回転フリーとした場合(球面軸受が有る場合)の積層ゴムの変形を示す概念図、(b)は両端固定とした場合(球面軸受が無い場合)の積層ゴムの変形を示す概念図、(c)は片端回転フリーとした場合の積層ゴムの安定限界水平変位が両端固定とした場合より低下することを示す線図、(d)は片端回転フリーとした場合の積層ゴムの水平剛性が両端固定とした場合より低下することを示す線図である。
【図8】従来の三次元免震装置の一例における積層ゴムの固定条件の相違(球面軸受の有無)による状態変化を示す図であって、(a)は片端回転フリーとした場合の積層ゴムの変形と該積層ゴムに作用する曲げモーメントとを示す概念図、(b)は両端固定とした場合の積層ゴムの変形と液圧シリンダに作用する曲げモーメントとを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0023】
図1(a),(b)は本発明の第一実施例であって、図中、図6と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図6に示す従来のものと同様であるが、本第一実施例の特徴とするところは、図1(a),(b)に示す如く、免震ユニット5を構成する一個の積層ゴム1に対し、該積層ゴム1の軸線Oを中心に対称となるよう複数の液圧シリンダ3を配設し、各液圧シリンダ3には、アキュムレータ2に接続される鉛直荷重支持用液室3cと、ピストン3dにて上下に仕切られる曲げ支持用上液室3e及び曲げ支持用下液室3fとを形成し、前記液圧シリンダ3の曲げ支持用上液室3eと、該液圧シリンダ3に対応する別の液圧シリンダ3の曲げ支持用下液室3fとを連通路7aによって接続すると共に、前記液圧シリンダ3の曲げ支持用下液室3fと、該液圧シリンダ3に対応する別の液圧シリンダ3の曲げ支持用上液室3eとを連通路7bによって接続することにより、前記各液圧シリンダ3を同位相で動作させるよう構成した点にある。
【0024】
本第一実施例の場合、前記積層ゴム1の軸線Oを中心とする正方形の頂点となる位置に四個の液圧シリンダ3を配設し、互いに対角に位置する一方の液圧シリンダ3の曲げ支持用上液室3eと他方の液圧シリンダ3の曲げ支持用下液室3fとを連通路7aによって接続すると共に、一方の液圧シリンダ3の曲げ支持用下液室3fと他方の液圧シリンダ3の曲げ支持用上液室3eとを連通路7bによって接続するようにしてある。
【0025】
尚、前記四個の液圧シリンダ3は、共通となる一個の液圧シリンダ本体3aを利用し、該一個の液圧シリンダ本体3aに四本のピストンロッド3bを配設するようにしてある。
【0026】
又、前記四本のピストンロッド3b下面側に形成される四個の鉛直荷重支持用液室3cは、連通路8によって連通させるようにしてある。
【0027】
次に、上記第一実施例の作用を説明する。
【0028】
地震等の発生時に、曲げモーメントが免震ユニット5の各液圧シリンダ3に伝わると、積層ゴム1の軸線Oを中心に対称となるよう互いに対角に配設された一方の液圧シリンダ3には上方への荷重が作用すると共に、対応する他方の液圧シリンダ3には下方への荷重が作用するが、これらの液圧シリンダ3は連通路7a,7bによる接続によって同位相の動作しか許容されていないので、回転変形が発生しない。
【0029】
この結果、積層ゴム1は、液圧シリンダ3との間に球面軸受4が介在されているものの、あたかも両端固定として曲げ(回転)が拘束されているような状態で使用される形となり、前記積層ゴム1が剪断座屈を起こしにくくなる。因みに、第一実施例における積層ゴム1の安定限界水平変位(座屈発生時水平変位)は、図7(b)に示される如く前記積層ゴム1を両端固定として曲げ(回転)が拘束された状態で使用した場合と同様に、図7(c)中、仮想線で示されるようになる一方、第一実施例における積層ゴム1の水平剛性は、図7(b)に示される如く前記積層ゴム1を両端固定として曲げ(回転)が拘束された状態で使用した場合と同様に、図7(d)中、仮想線で示されるようになる。
【0030】
又、前記積層ゴム1と複数(四個)の液圧シリンダ3とは球面軸受4を介して接続されており、該各液圧シリンダ3が曲げモーメントを負担しなくて済むため、摺動抵抗が増す心配はなく、免震性能が低下してしまう問題が発生することもない。
【0031】
こうして、液圧シリンダ3に対し曲げモーメントが作用することを防止でき且つ積層ゴム1が剪断座屈を起こしにくくすることができ、免震性能向上を図り得る。
【0032】
図2(a),(b)は本発明の第二実施例であって、図中、図1(a),(b)と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図1(a),(b)に示す第一実施例と同様であるが、本第二実施例の特徴とするところは、図2(a),(b)に示す如く、前記積層ゴム1の軸線Oを中心とする正六角形の頂点となる位置に六個の液圧シリンダ3を配設し、互いに対角に位置する一方の液圧シリンダ3の曲げ支持用上液室3eと他方の液圧シリンダ3の曲げ支持用下液室3fとを連通路7aによって接続すると共に、一方の液圧シリンダ3の曲げ支持用下液室3fと他方の液圧シリンダ3の曲げ支持用上液室3eとを連通路7bによって接続するようにした点にある。
【0033】
上記第二実施例の如く、六個の液圧シリンダ3を配設しても、地震等の発生時に、曲げモーメントが免震ユニット5の各液圧シリンダ3に伝わると、積層ゴム1の軸線Oを中心に対称となるよう互いに対角に配設された一方の液圧シリンダ3には上方への荷重が作用すると共に、対応する他方の液圧シリンダ3には下方への荷重が作用するが、これらの液圧シリンダ3は連通路7a,7bによる接続によって同位相の動作しか許容されていないので、回転変形が発生せず、この結果、積層ゴム1は、液圧シリンダ3との間に球面軸受4が介在されているものの、あたかも両端固定として曲げ(回転)が拘束されているような状態で使用される形となり、前記積層ゴム1が剪断座屈を起こしにくくなり、又、前記積層ゴム1と複数(六個)の液圧シリンダ3とは球面軸受4を介して接続されており、該各液圧シリンダ3が曲げモーメントを負担しなくて済むため、摺動抵抗が増す心配はなく、免震性能が低下してしまう問題が発生することもない。因みに、第二実施例における積層ゴム1の安定限界水平変位(座屈発生時水平変位)は、図7(b)に示される如く前記積層ゴム1を両端固定として曲げ(回転)が拘束された状態で使用した場合と同様に、図7(c)中、仮想線で示されるようになる一方、第二実施例における積層ゴム1の水平剛性は、図7(b)に示される如く前記積層ゴム1を両端固定として曲げ(回転)が拘束された状態で使用した場合と同様に、図7(d)中、仮想線で示されるようになる。
【0034】
こうして、第二実施例においても、第一実施例と同様、液圧シリンダ3に対し曲げモーメントが作用することを防止でき且つ積層ゴム1が剪断座屈を起こしにくくすることができ、免震性能向上を図り得る。
【0035】
図3(a),(b)は本発明の第三実施例であって、図中、図2(a),(b)と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図2(a),(b)に示す第二実施例と同様であるが、本第三実施例の特徴とするところは、図3(a),(b)に示す如く、積層ゴム1の軸線O延長上における中心部分に、球面軸受4を介して鉛直方向荷重支持専用の液圧シリンダ3を配置し、該鉛直方向荷重支持専用の液圧シリンダ3の周囲に、六個の液圧シリンダ3を配設し、互いに対角に位置する一方の液圧シリンダ3の曲げ支持用上液室3eと他方の液圧シリンダ3の曲げ支持用下液室3fとを、液圧シリンダ本体3aの外側に設けられる配管で形成した連通路7aによって接続すると共に、一方の液圧シリンダ3の曲げ支持用下液室3fと他方の液圧シリンダ3の曲げ支持用上液室3eとを、液圧シリンダ本体3aの外側に設けられる配管で形成した連通路7bによって接続するようにした点にある。
【0036】
上記第三実施例の如く構成すると、鉛直方向荷重は主に、積層ゴム1の軸線O延長上における中心部分に配置された鉛直方向荷重支持専用の液圧シリンダ3によって支持されており、この状態で、地震等の発生時に、曲げモーメントが前記免震ユニット5の各液圧シリンダ3に伝わると、積層ゴム1の軸線Oを中心に対称となるよう互いに対角に配設された一方の液圧シリンダ3には上方への荷重が作用すると共に、対応する他方の液圧シリンダ3には下方への荷重が作用するが、これらの液圧シリンダ3は、液圧シリンダ本体3aの外側に設けられる配管で形成した連通路7a,7bによる接続によって同位相の動作しか許容されていないので、回転変形が発生せず、この結果、積層ゴム1は、液圧シリンダ3との間に球面軸受4が介在されているものの、あたかも両端固定として曲げ(回転)が拘束されているような状態で使用される形となり、前記積層ゴム1が剪断座屈を起こしにくくなり、又、前記積層ゴム1と鉛直方向荷重支持専用の液圧シリンダ3及び複数(六個)の液圧シリンダ3とは球面軸受4を介して接続されており、該各液圧シリンダ3が曲げモーメントを負担しなくて済むため、摺動抵抗が増す心配はなく、免震性能が低下してしまう問題が発生することもない。因みに、第三実施例における積層ゴム1の安定限界水平変位(座屈発生時水平変位)は、図7(b)に示される如く前記積層ゴム1を両端固定として曲げ(回転)が拘束された状態で使用した場合と同様に、図7(c)中、仮想線で示されるようになる一方、第三実施例における積層ゴム1の水平剛性は、図7(b)に示される如く前記積層ゴム1を両端固定として曲げ(回転)が拘束された状態で使用した場合と同様に、図7(d)中、仮想線で示されるようになる。
【0037】
こうして、第三実施例においても、第二実施例と同様、液圧シリンダ3に対し曲げモーメントが作用することを防止でき且つ積層ゴム1が剪断座屈を起こしにくくすることができ、免震性能向上を図り得る。
【0038】
図4(a),(b)は本発明の第四実施例であって、図中、図1(a),(b)と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図1(a),(b)に示す第一実施例と同様であるが、本第四実施例の特徴とするところは、図4(a),(b)に示す如く、積層ゴム1の軸線Oを中心とする正方形の頂点となる位置に配設した四個の液圧シリンダ3それぞれにアキュムレータ2を連通管6を介して接続するようにした点にある。
【0039】
上記第四実施例の如く構成すると、地震等の発生時に、曲げモーメントが前記免震ユニット5の各液圧シリンダ3に伝わると、積層ゴム1の軸線Oを中心に対称となるよう互いに対角に配設された一方の液圧シリンダ3には上方への荷重が作用すると共に、対応する他方の液圧シリンダ3には下方への荷重が作用するが、これらの液圧シリンダ3は、連通路7a,7bによる接続によって同位相の動作しか許容されていないので、回転変形が発生せず、この結果、積層ゴム1は、液圧シリンダ3との間に球面軸受4が介在されているものの、あたかも両端固定として曲げ(回転)が拘束されているような状態で使用される形となり、前記積層ゴム1が剪断座屈を起こしにくくなり、又、前記積層ゴム1と複数(四個)の液圧シリンダ3とは球面軸受4を介して接続されており、該各液圧シリンダ3が曲げモーメントを負担しなくて済むため、摺動抵抗が増す心配はなく、免震性能が低下してしまう問題が発生することもない。因みに、第四実施例における積層ゴム1の安定限界水平変位(座屈発生時水平変位)は、図7(b)に示される如く前記積層ゴム1を両端固定として曲げ(回転)が拘束された状態で使用した場合と同様に、図7(c)中、仮想線で示されるようになる一方、第四実施例における積層ゴム1の水平剛性は、図7(b)に示される如く前記積層ゴム1を両端固定として曲げ(回転)が拘束された状態で使用した場合と同様に、図7(d)中、仮想線で示されるようになる。
【0040】
更に又、前記アキュムレータ2は、その数が増加するものの、それぞれを小さくすることが可能となり、製作もしやすくなると共に、免震ユニット5の設置箇所周辺に別の配管や機器等が存在するような場合、それらとの干渉を避ける上でも有効となる。
【0041】
こうして、第四実施例においても、第一実施例と同様、液圧シリンダ3に対し曲げモーメントが作用することを防止でき且つ積層ゴム1が剪断座屈を起こしにくくすることができ、免震性能向上を図り得る。
【0042】
尚、上記第一実施例〜第四実施例の場合、積層ゴム1の軸線Oを中心とする正方形の頂点となる位置に四個の液圧シリンダ3を配設したり、或いは積層ゴム1の軸線Oを中心とする正六角形の頂点となる位置に六個の液圧シリンダ3を配設する代わりに、積層ゴム1の軸線Oを中心とする正方形以上の偶数正多角形(正八角形や正十角形、或いはそれ以上)の頂点となる位置に複数の液圧シリンダ3を配設することも可能である。
【0043】
図5(a),(b)は本発明の第五実施例であって、図中、図3(a),(b)と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図3(a),(b)に示す第三実施例と同様であるが、本第五実施例の特徴とするところは、図5(a),(b)に示す如く、積層ゴム1の軸線O延長上における中心部分に、球面軸受4を介して鉛直方向荷重支持専用の液圧シリンダ3を配置し、該鉛直方向荷重支持専用の液圧シリンダ3の周囲に、六個の液圧シリンダ3を配設し、所望の液圧シリンダ3の曲げ支持用上液室3eと一方の側(図5(b)においては時計回り方向の側)に隣接する液圧シリンダ3の曲げ支持用下液室3fとを、液圧シリンダ本体3aの外側に設けられる配管で形成した連通路7によって順次接続し、最終的に前記所望の液圧シリンダ3の他方の側(図5(b)においては反時計回り方向の側)に隣接する液圧シリンダ3の曲げ支持用上液室3eと前記所望の液圧シリンダ3の曲げ支持用下液室3fとを、液圧シリンダ本体3aの外側に設けられる配管で形成した連通路7によって接続するようにした点にある。
【0044】
上記第五実施例の如く構成すると、鉛直方向荷重は主に、積層ゴム1の軸線O延長上における中心部分に配置された鉛直方向荷重支持専用の液圧シリンダ3によって支持されており、この状態で、地震等の発生時に、曲げモーメントが前記免震ユニット5の各液圧シリンダ3に伝わると、積層ゴム1の軸線Oを中心に対称となるよう互いに対角に配設された一方の液圧シリンダ3には上方への荷重が作用すると共に、対応する他方の液圧シリンダ3には下方への荷重が作用するが、所望の液圧シリンダ3の曲げ支持用上液室3eと一方の側(図5(b)においては時計回り方向の側)に隣接する液圧シリンダ3の曲げ支持用下液室3fとを、液圧シリンダ本体3aの外側に設けられる配管で形成した連通路7によって順次接続し、最終的に前記所望の液圧シリンダ3の他方の側(図5(b)においては反時計回り方向の側)に隣接する液圧シリンダ3の曲げ支持用上液室3eと前記所望の液圧シリンダ3の曲げ支持用下液室3fとを、液圧シリンダ本体3aの外側に設けられる配管で形成した連通路7によって接続するようにしたことにより、鉛直方向荷重支持専用の液圧シリンダ3の周囲に配設された六個の液圧シリンダ3は、同位相の動作しか許容されていないので、回転変形が発生せず、この結果、積層ゴム1は、液圧シリンダ3との間に球面軸受4が介在されているものの、あたかも両端固定として曲げ(回転)が拘束されているような状態で使用される形となり、前記積層ゴム1が剪断座屈を起こしにくくなり、又、前記積層ゴム1と鉛直方向荷重支持専用の液圧シリンダ3及び複数(六個)の液圧シリンダ3とは球面軸受4を介して接続されており、該各液圧シリンダ3が曲げモーメントを負担しなくて済むため、摺動抵抗が増す心配はなく、免震性能が低下してしまう問題が発生することもない。因みに、第五実施例における積層ゴム1の安定限界水平変位(座屈発生時水平変位)は、図7(b)に示される如く前記積層ゴム1を両端固定として曲げ(回転)が拘束された状態で使用した場合と同様に、図7(c)中、仮想線で示されるようになる一方、第五実施例における積層ゴム1の水平剛性は、図7(b)に示される如く前記積層ゴム1を両端固定として曲げ(回転)が拘束された状態で使用した場合と同様に、図7(d)中、仮想線で示されるようになる。
【0045】
尚、上記第五実施例の場合、積層ゴム1の軸線Oを中心とする正六角形の頂点となる位置に六個の液圧シリンダ3を配設する代わりに、積層ゴム1の軸線Oを中心とする正三角形、或いはそれ以上の正多角形(正方形や正五角形、或いはそれ以上)の頂点となる位置に複数の液圧シリンダ3を配設することも可能である。
【0046】
こうして、第五実施例においても、第三実施例と同様、液圧シリンダ3に対し曲げモーメントが作用することを防止でき且つ積層ゴム1が剪断座屈を起こしにくくすることができ、免震性能向上を図り得る。
【0047】
尚、本発明の三次元免震装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0048】
1 積層ゴム
2 アキュムレータ
3 液圧シリンダ
3c 鉛直荷重支持用液室
3d ピストン
3e 曲げ支持用上液室
3f 曲げ支持用下液室
4 球面軸受
5 免震ユニット
7 連通路
7a 連通路
7b 連通路
B 基礎
H 免震対象物
O 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向の免震機能を有する積層ゴムと、アキュムレータが接続され鉛直方向の免震機能を有する液圧シリンダとを球面軸受を介して上下に積み重ねてなる免震ユニットを備えた三次元免震装置において、
前記免震ユニットを構成する一個の積層ゴムに対し、該積層ゴムの軸線を中心に対称となるよう複数の液圧シリンダを配設し、
前記各液圧シリンダには、前記アキュムレータに接続される鉛直荷重支持用液室と、ピストンにて上下に仕切られる曲げ支持用上液室及び曲げ支持用下液室とを形成し、
前記液圧シリンダの曲げ支持用上液室と、該液圧シリンダに対応する別の液圧シリンダの曲げ支持用下液室とを連通路によって接続すると共に、前記液圧シリンダの曲げ支持用下液室と、該液圧シリンダに対応する別の液圧シリンダの曲げ支持用上液室とを連通路によって接続することにより、前記各液圧シリンダを同位相で動作させるよう構成したことを特徴とする三次元免震装置。
【請求項2】
前記積層ゴムの軸線を中心とする正方形以上の偶数正多角形の頂点となる位置に液圧シリンダを配設し、互いに対角に位置する一方の液圧シリンダの曲げ支持用上液室と他方の液圧シリンダの曲げ支持用下液室とを連通路によって接続すると共に、一方の液圧シリンダの曲げ支持用下液室と他方の液圧シリンダの曲げ支持用上液室とを連通路によって接続した請求項1記載の三次元免震装置。
【請求項3】
前記積層ゴムの軸線を中心とする正三形以上の正多角形の頂点となる位置に液圧シリンダを配設し、所望の液圧シリンダの曲げ支持用上液室と一方の側に隣接する液圧シリンダの曲げ支持用下液室とを連通路によって順次接続し、最終的に前記所望の液圧シリンダの他方の側に隣接する液圧シリンダの曲げ支持用上液室と前記所望の液圧シリンダの曲げ支持用下液室とを連通路によって接続した請求項1記載の三次元免震装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−255767(P2010−255767A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107547(P2009−107547)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】