説明

三次元物体の製造装置およびその製造方法

製造対象の三次元物体の断面に相当する各層の位置において粉末状成形材料を層状に固化させることにより三次元物体を製造する装置を提供する。作業面(4)が設けられ、その作業面において、固化される粉末状成形材料の層が順次塗布されて部分的に固化される。作業面または先に固化された成形材料層の上に成形材料を塗布するための塗布装置(5)は、作業面(4)に相対する塗布面(53)を有する。塗布面(53)と作業面(4)との間の角度(α)を調節可能に構成された調節装置(59,60,54)が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元物体の断面に相当する各層の各位置において粉末状成形材料を層状固化させることにより三次元物体を製造する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ焼結による三次元物体の製造装置および方法としては、特許文献1から公知のものがある。この公知技術では、粉末状成形材料の層の塗布と平滑化をブレード形状の塗布装置を用いて行う。ブレードの各面が、成形材料層を塗布する作業面に対して所定の角度を有しており、これらの面が作業面に相対する塗布面を形成する。
【0003】
実際には、そのような塗布面の最適角度は様々なパラメータ、例えば、塗布する層の層厚や粉末状成形材料の材料特性など、に応じて決められる。公知技術では、作業面に対する塗布装置の塗布面の角度に関して、様々な既知の条件および想定し得る条件下で許容し得る結果が得られる角度を選択する。しかしながら、粉末状成形材料を用いる場合、その材料特性が使用されるべき想定し得る各種材料の平均から大きく異なり、層状に塗布したときに最適な結果が得られない、と言ったことが起り得る。
【0004】
【特許文献1】DE 195 14 740 Cl
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、粉末状成形材料を層状に固化させることにより三次元物体を製造するための装置および方法を提供することにある。本発明の装置および方法によると、成形材料の様々な材料特性といった様々なプロセス・パラメータ用に、層の塗布を改良することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、請求項1に記載の装置、および請求項13の記載の方法によって達成される。本発明のその他の変形例についても従属請求項に記載する。
【発明の効果】
【0007】
本発明による解決法は、実行しようとする製造工程のプロセス・パラメータに対して塗布装置の配置を容易に適合させることができるという利点を有する。
【0008】
塗布装置の配置をそれぞれのプロセス・パラメータにその都度適合させることによって、広範囲の材料特性および層厚にわたって最適な層塗布を行うことができ、製造された物体の表面品質および寸法精度に関して改良が実現される。様々なプロセス・パラメータを有する三次元物体の製造が短い時系列において可能となる。
【0009】
添付図面を参照しての実施の形態の説明から、本発明のその他の特長および有用性についても明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、まず始めに、図1を用いて、第一の実施の形態による装置全体を説明する。
【0011】
図1から明らかなように、三次元物体の製造装置は成形コンテナ1を備えており、その内部に、上面が実質的に平面で、かつ成形コンテナの上縁部とほぼ平行に配列された支持体2が設けられている。支持体2は、製造対象の物体3を未固化の成形材料によって取り囲まれた状態で支持するように形成されている。図1には、粉末状成形材料の複数の層から成る形成対象物体3が示されており、該粉末状成形材料は、後に詳述するように、電磁放射の作用により物体に相当する各位置において固化されている。
【0012】
支持体2は、図1の双方向矢印によって概略的に示されるように、高さ調節装置12を介して成形コンテナ1内で垂直方向に移動させることができる。塗布した粉末材料が固化される平面が作業面4を規定し、そこにおいて、三次元物体形成のための成形材料の層状塗布とそれに続く粉末状成形材料の固化とが行われる。
【0013】
成形コンテナ1の上方に、作業面4において粉末状材料を固化させるための装置が設けられている。この装置は、例えばレーザビーム7を生成するレーザ6等の形の放射線源を含む。成形コンテナ1の上方にはまた、例えば不図示の旋回部によって旋回可能な偏向ミラーの形の偏向装置8と、焦点調節部10が配設される。レーザビーム7を作業面4の任意の地点に照射できるように偏向装置8および焦点調節部10を駆動することができる制御部9が設けられている。
【0014】
成形コンテナ1の上方にはさらに、供給装置11が設けられており、これにより次の層用の粉末状成形材料を供給することができる。この供給装置11は、粉末状成形材料で満たされる、例えばトラフ形状とすることができ、また、所定量の成形材料を排出する計量装置を持たせることもできる。
【0015】
図1では概略的に示したにすぎないが、成形コンテナの上方に塗布装置5の形の拡展装置が設けられている。塗布装置5の下縁部は作業面4に位置し、作業面4と平行なY方向へ塗布装置5を移動させるための移動装置が設けられている。移動装置は、水平双方向矢印によって概略的に示されている。移動装置は塗布装置5を作業面4の全面に亘って図1の左から右へ、また右から左へと可変速度を調節しながら移動させることができる。塗布装置5は図1の紙面に対して垂直方向に、成形コンテナ1のほぼ全幅に亘って伸びている。
【0016】
次に、図2に基づいて塗布装置の構成についてより詳細に説明する。
【0017】
図2から分かるように、図示の実施の形態における塗布装置5は、2つの取付部50と2つの塗布部51とを備え、これらの部分は作業面4に対する垂直線に関して対称に形成されている。従って、説明を簡略化するために、まず一方の取付部50と一方の塗布部51についてのみ説明する。塗布装置5の移動方向Yは、図2の水平方向に、作業面4と平行に、左から右へまた右から左へと延びている。
【0018】
塗布部51は、いずれの場合も、作業面4に対してほぼ垂直で、かつ作業面4の全幅に亘り紙面に対して垂直方向に延びる薄いプレートまたはブレード52から成る。プレート52の下面側が塗布面53を形成し、塗布面は作業面に対して角度αで配置されている(図2では角度0度、すなわち平行に配置されている)。塗布面はもう一方の塗布部51に面する下縁部53aと、もう一方の塗布部51から離れる方を向く下縁部53bとを有している。もう一方の塗布部51に対向する側において、塗布部51はその下端部に面51aを有している。
【0019】
塗布部51の垂直方向のほぼ中心に、図2の紙面に垂直にプレート52からその両側に横方向に突出する軸受ピン54が設けられている。プレート52の両側の両軸受ピン54によって、作業面4に平行に延びる回転軸Xが画定される。
【0020】
図示の実施形態では、取付部50は垂直に延びる支持体部56に繋がる上部大型フレーム55から成る。支持体部56は、回転軸Xの軸方向に沿って横方向に、少なくとも塗布部51のプレート52をやや越えるところまで延びている。支持体56の垂直方向のほぼ中心においてプレート52の両側に支持ノーズ57が形成されており、もう一方の取付部50に向かって水平方向に延びている。各支持ノーズ57に開口部58が設けられており、塗布部51の軸受ピン54を受け入れている。つまり、塗布部51は、回転軸Xを中心に取付部50に関して旋回できるように、両軸受ピン57により取付部50の開口部58に取り付けられている。この場合、旋回は、塗布面53の下縁部53a及び53bが常に作業面4に対して平行を保ち、かつ塗布面53と作業面4との間の角度αが旋回に伴って変化するように行われる。図2では、この旋回が左側の塗布部51に関して双方向矢印62により概略的に示されている。
【0021】
角度αを調節するために調節装置がまた設けられる。図示の実施形態では、この装置は設定ねじ59のような調節機構と復帰ばね60のような復帰機構とによって構成される。設定ねじ59は、支持ノーズ57の上方において支持体56に設けられた貫通ねじ穴61に螺合される。設定ねじ59の前面59aは平坦になっており、軸受ピン57の上方で塗布部51のプレート52を押圧するように、支持体56から突出している。復帰ばね60は、回転軸Xの下方の、塗布部51と支持体56との間に設けられ、回転軸Xを中心に回転されることによって、プレート52を設定ねじ59の前面59aに押圧している。設定ねじ59をねじ入れたり出したりすることによって、塗布部51は復帰ばね60に抗して回転軸Xを中心に旋回され、塗布面53と作業面54との間の角度αが小さくなったり大きくなったりする。図示の実施の形態では、設定ねじの頭部59bがホイールとして示されており、これによって設定ねじをねじ入れたり出したりするために握ることができる。一例として、目盛を設けることができ、設定ねじ59の頭部59bの位置から角度αを読み取れることができる。
【0022】
塗布装置5は剛体材料、特に金属またはプラスチック材料で形成され、塗布面53は上述のようにブレード形状に形成される。
【0023】
通常、左右の塗布部51の両塗布面53の角度αはどちらも同じ値となるように調整されるが、互いに独立して調整して異なる値を持たせてもよい。角度を別個に調整する必要の無い場合、両方の塗布面53aの角度が同期して変化するように調節装置を構成してもよい。
【0024】
次に、塗布装置5の機能について図1と図2を参照して説明する。
【0025】
塗布装置5は当初、図1に概略的に示される作業面4の左側など、作業面4の側方の位置にある。供給装置11によって定量の粉末状成形材料が塗布装置5の両塗布部51間の領域63に導入され、両塗布部51の間に成形材料のカラムが形成される。高さ調節装置12の働きにより、支持体2または先に固化された粉末層の水平面が作業面4の下方へ一定距離dだけ移動される。それから、塗布装置5は、作業面4に平行にかつそれを横切るように、移動方向Yに一定速度で移動される。この移動は、まずは例えば図1および図2で見て左から右へと行われる。塗布装置5の移動により、粉末状成形材料は図2の塗布装置5の左側にある塗布面53の下に移動し、この塗布面が成形材料を平滑化する。そしてこれにより、距離dに相当する厚さの粉末状成形材料層が作業面上に塗布される。
【0026】
塗布面53は、層を塗布する際に、成形材料が押し固められ同時に平滑化されるような角度αを持たせた配置とする。
【0027】
塗布部51を2つ備えた塗布装置5の対称的構成により、塗布装置を図2において左から右へと移動させる際のみならず、図2においてその逆に移動させる際にも層の塗布を行うことが可能となっている。両塗布部51間の工程において、塗布する粉末からなるカラムが形成され、それによって塗布装置がどちらの方向に移動する際にも際立って一定でかつ輪郭のはっきりした層の塗布が可能となる。このような構成により、塗布する粉末材料の輸送とその塗布を効率的に同時に行うことが可能となる。
【0028】
次に、三次元物体の製造方法について説明する。
【0029】
工程の初めに、成形材料の材料特性や生成する層厚に基づいて、塗布面53と作業面4との間の最適角度を決定する。この最適角度は、調整装置、即ち図示の実施の形態では設定ねじ59、によって調節される。
【0030】
次に、成形材料の各層を、塗布装置5により支持体2の上側または先に固化された層の上に交互に塗布し、制御部9によって焦点を合わせたレーザビーム7を偏向装置8と焦点調節部10とを介して塗布層に照射し、成形材料が物体の断面に相当する層の位置において焼結または固化されるようにする。製造すべき物体が完成するまでこれらの各方法ステップを繰り返し行う。
【0031】
本発明の装置および方法によると、作業面4に対する塗布面53の角度をそれぞれのプロセス・パラメータに応じて精密に調節することができる。そのため、特殊な材料特性や層厚の場合でも最適な層塗布を行うことができ、製造される三次元物体の部品品質を向上させることができる。
【0032】
上記の実施の形態では特定の構成について説明したが、多くの変更が可能である。固化のための装置は必ずしもレーザである必要はなく、成形材料の固化に必要なエネルギーを有するものであれば、その他の電磁放射線源や粒子放射線源を用いることができる。上記の実施形態では、塗布装置はいずれの場合も下端塗布面53が設けられる構成となっているが、塗布装置を例えば底部に向かって先細になるブレード形状として、側面51aが塗布面を形成するようにしてもよい。
【0033】
塗布装置はまた、それぞれ異なる移動方向で粉末材料を塗布するための塗布面を両側に備えたブレードとして形成することもできる。
【0034】
図示の実施形態では、塗布装置5は2方向の移動において塗布が可能なように2つの塗布面53を備えるものとして説明したが。しかしながら、本発明は一方向の移動方向においてのみ層塗布を行う塗布装置にも適用可能である。
【0035】
また、調節装置については、塗布面53の角度位置の調節を、ねじにより手作業で行うものとして説明した。しかしながら、制御部9に接続されるステップモータ又はその他のモータ、アクチュエータ、あるいは駆動装置により塗布面の角度位置を自動的に調節することも可能である。
【0036】
角度の調節を可能にするものとして、ねじまたは復帰ばねにより調節を行う旋回装置について説明した。しかしながら、他の技術的手段も可能であり、取付部と塗布部との結合部の拘束は摩擦固定や形状固定によっても行うことができる。また、角度位置の調節についてもピンと開口部を備えた軸受を介して行う必要はなく、角度位置を十分な力で連結できるものであればその他の関節式継手を用いてもよい。
【0037】
角度位置の変更は、必ずしもねじで行う必要はない。例えば偏心機構又は他の調節機構を用いることもできる。
【0038】
粉末状成形材料としては、プラスチック、金属、セラミックス、砂、被覆粉、数種類の成分から成る粉末、およびそれらを組合せたものなどを使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】装置の概略断面図を示す。
【図2】一実施の形態による塗布装置の概略側面図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造対象の三次元物体の断面に相当する各層の位置において粉末状成形材料を層状に固化させることにより三次元物体を製造する装置であって、
粉末状成形材料の層を順次塗布し、部分的に固化させる作業面(4)と、
前記作業面(4)に相対する塗布面(53,51a)を有し、前記作業面において成形材料の層を塗布するための塗布装置(5)と、を備え、
前記塗布面(53,51a)と前記作業面(4)との間の角度(α)を調節できるように構成された調節装置(59,60,54)が設けられていることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記塗布面(53,51a)が、塗布中に層の平滑化および/または押し固めを行うように形成されていることを特徴とする、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記塗布装置(5)が、相互に旋回連結されている取付部(50)と塗布部(51)とを備え、前記塗布部(51)は塗布面(53,51a)を備えていることを特徴とする、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記取付部(50)と前記塗布部(51)の相互に旋回する程度が調節装置(59,60,54)によって決定されることを特徴とする、請求項3記載の装置。
【請求項5】
前記調節装置(59,60,54)が回転部(59b)を備え、該回転部を一定量だけ回転することによって前記塗布面(53,51a)と前記作業面(4)との間の角度(α)を一定量変化させると共に、これらの量が一定の比となることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つに記載の装置。
【請求項6】
角度(α)の角度位置を固定可能であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つに記載の装置。
【請求項7】
前記塗布面(53,51a)を復帰力によって所定の角度位置まで移動させる復帰装置(60)が設けられていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一つに記載の装置。
【請求項8】
前記塗布装置(5)が、塗布装置を移動させたときに、相互に逆方向である二方向において塗布を行う2つの塗布面(53,53,51a,51a)を、相互に間隔をあけて備えることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一つに記載の装置。
【請求項9】
前記2つの塗布面(53,53,51a,51a)の間に、塗布されるべく供給された成形材料を受容するための領域(63)が設けられていることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一つに記載の装置。
【請求項10】
前記塗布部が、相互に異なる塗布装置の移動方向に塗布するための2つの塗布面を有するブレードとして形成されていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一つに記載の装置。
【請求項11】
前記調節装置(59,60,54)が、前記塗布面(53,51a)と作業面(4)との間の予め設定された角度を指示する目盛を備えていることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一つ記載の装置。
【請求項12】
前記塗布面(53,51a)がブレードとして形成されていることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一つに記載の装置。
【請求項13】
前記調節装置が角度(α)を調節するための駆動部を備えることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一つに記載の装置。
【請求項14】
製造対象の三次元物体の断面に相当する各層の位置において粉末状成形材料を層状に固化させることにより三次元物体を製造する方法であって、
作業面(4)と塗布装置(5)の成形材料を塗布するための塗布面(53,51a)との間の必要角度(α)を決定するステップと、
決定された角度(α)を設定するステップと、
次に成形材料を層状に塗布し、それを固化させることを交互に行うことにより三次元物体を製造するステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
必要角度(α)の設定を、相互に間隔をあけて配置されている2つの塗布面の各々について行うことを特徴とする、請求項14記載の方法。
【請求項16】
成形材料の層を2つの反対方向に交互に塗布することを特徴とする、請求項14または15記載の方法。
【請求項17】
角度(α)の設定を、自動的に制御されるように行うことを特徴とする、請求項14〜16のいずれか一つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−515727(P2009−515727A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−539454(P2008−539454)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【国際出願番号】PCT/EP2007/003640
【国際公開番号】WO2007/134687
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(503267906)イーオーエス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング イレクトロ オプティカル システムズ (50)
【Fターム(参考)】