説明

三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体、およびそれを用いた三次元表示装置

【課題】 本発明は、アップコンバージョン発光する蛍光体微粒子を用いたものであって、大型化が可能で、容易に製造可能な三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体および三次元表示装置を提供することを主目的とする。
【解決手段】 本発明は、2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光する蛍光体微粒子が、透明液体または透明樹脂に分散されてなることを特徴とする三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体を提供することにより、上記目的を達成するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アップコンバージョン発光する蛍光体微粒子を用いたものであり、医療分野、建築分野、航空管制システム、分子構造表示等において好適に用いることができる三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体および三次元表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
不可欠
医療分野におけるCT診断や手術シミュレーション、建築分野におけるCAD、航空管制システムおける航空機の位置表示、科学技術計算における分子構造表示など、多くの分野で三次元情報を取り扱うことが必要不可欠になっている。現在、三次元表示が可能な表示装置としてはCRT(ブラウン管)ディスプレイ、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ等が知られているが、これらの表示装置では二次元映像しか表示できないため、遠近法などを利用した疑似三次元表示方式により三次元表示を可能としている。しかしながら、疑似三次元表示方式では上述したような三次元情報を十分に表示するのは困難である。したがって、大量の三次元情報を高速に表示し、前後、左右、上下から自由に観察できる三次元表示装置が望まれている。
【0003】
一般に人間が対象物を立体視する生理的要因は、(1)両眼視差、(2)両眼のふくそう角、(3)焦点調節(水晶体の調節)、(4)単眼の運動視差といわれる。
従来、三次元表示に用いられてきた方法は、ほとんどが(1)両眼視差のみを実現したものであり、不自然さや極度の疲労感を伴わざるを得ない。また立体知覚の異常といった生理的疾患の原因になっているとも考えられている。最近では、複数の平面スクリーンを重ねて、擬似的に(2)両眼のふくそう角、および(3)焦点調節(水晶体の調節)を満たそうという試みもなされているが十分とは言えず、また(4)単眼の運動視差を実現するまでには至っていない。
【0004】
立体画像をより忠実に表示する表示装置としては、ホログラフィを利用した表示装置がよく知られている。ホログラフィは、上記の(1)両眼視差、(2)両眼のふくそう角、および(3)焦点調節(水晶体の調節)の三点を満たすことができるが、(4)単眼の運動視差の実現は難しい。また、ホログラフィを利用した表示装置は、光学的な書き込みと再生とを行う必要があり、さらに電子的な架空物体を表示させる場合は膨大な干渉縞の計算を行う必要があり、リアルタイムに動画像表示を行うことは非常に困難である。
【0005】
また、上記の(1)〜(4)を満足する方法としては、体積走査法(奥行標本化法)が挙げられる。体積走査法は、前後、左右、上下から自由に観察できるという、言わば真の意味での完全な三次元映像を表示する方法である。体積走査法については、(a)バリフォーカル・ミラー方式、(b)移動ディスプレイ方式、(c)移動スクリーン方式、および(d)アップコンバージョン蛍光方式が知られている。
【0006】
上記(a)バリフォーカル・ミラー方式は、ブラウン管等の画像を前後に振動するミラーの動きに同期させて反射させる方法である。しかしながら、振動するミラーでは像の倍率が変わり、補正が必要である。また、表現できる大きさや画像が見える範囲に限界がある。
【0007】
上記(b)移動ディスプレイ方式は、立体画像の断面図を表示した発光ダイオードディスプレイ等を高速で移動・回転することにより立体像を表示するものである。また、上記(c)移動スクリーン方式は、移動するスクリーンにレーザー光で立体画像の断面図を描くことで立体的に見せるものである。しかしながら、これらの方式では、移動の方向により立体画像が見える範囲に制限があったり、解像度が異なったりする問題がある。また、表示部内に三次元表示装置の構造部材を内包せざるを得ず、基本的に画像が不鮮明になりやすい。
【0008】
上記(d)アップコンバージョン蛍光方式は、蛍光体のアップコンバージョン現象を利用して、特に二段階吸収によるアップコンバージョン現象を用いて、実際の発光面に沿って蛍光体を発光させて三次元の画像を表示するものである。
最近では、フッ化物ガラスに蛍光体を析出させたものを表示部とし、この表示部に別々の方向から2つの異なる波長のレーザー光を入射して一点で交差させ、その一点のみを発光させるという方法が提案されている(例えば非特許文献1参照)。この方法では、それぞれのレーザー光を同期させながら水平および垂直方向に走査していくことにより、発光点が移動するので立体的な画像を表示することができる。
しかしながら、表示部はフッ化物ガラスに蛍光体を析出させてなるものであり、大型のものを作製するのは困難である。また、フッ化ガラスの組成により発光色に影響が及ぼされるおそれがあり、目的とする発光色を得られない場合がある。さらに、複数の発光色で立体画像を表示する、すなわち立体画像をカラー表示するためには、三原色の単色光のみを発光する蛍光体を選択し、各蛍光体を析出させたフッ化ガラスをそれぞれ作製し、これらを積層して表示部とする必要があり、製造工程が煩雑である。このため、実用化には至っていない。
【0009】
【非特許文献1】"A Three-Color, Solid-State, Three-Dimensional Display" Elizabeth Downing, Lambertus Hesselink, John Ralston, Roger Macfarlane, p.1185-1188, SCIENCE, Vol. 273, 30 August 1996
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、アップコンバージョン発光する蛍光体微粒子を用いたものであって、大型化が可能で、容易に製造可能な三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体および三次元表示装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光する蛍光体微粒子が、透明液体または透明樹脂に分散されてなることを特徴とする三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体を提供する。
【0012】
本発明の三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体を表示装置に用いた場合には、蛍光体微粒子の二段階吸収によるアップコンバージョン現象を利用することにより立体画像を表示することができる。このような本発明の三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体は、例えば蛍光体微粒子を透明液体中に分散させる、あるいは蛍光体微粒子を透明樹脂中に練り込むことにより作製することができるので、容易に製造可能であり、大型化が可能である。また、本発明に用いられる透明液体や透明樹脂は任意に選択可能であり、蛍光体微粒子を分散させる媒体の組成によって発光色に影響が及ぼされるのを回避することができ、目的とする発光色を得ることが可能である。さらに、本発明の三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体をカラー表示が可能な三次元表示装置に適用する場合には、例えば互いに異なる発光色を示す複数の蛍光体微粒子を透明液体または透明樹脂に分散させた三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体とすればよい。したがって、カラー表示の三次元表示装置に用いることができる蛍光体微粒子分散体を容易に得ることが可能である。
【0013】
また本発明は、2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光する蛍光体微粒子の表面に分散剤膜が形成された被覆蛍光体微粒子が、透明媒体に分散されてなることを特徴とする三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体を提供する。
【0014】
本発明によれば、上述した利点に加えて、蛍光体微粒子の表面に分散剤膜が形成されているので、被覆蛍光体微粒子の分散性をより安定化させることができる。
【0015】
本発明の三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体は、透明であることが好ましい。蛍光体微粒子分散体が不透明であると、三次元表示装置に用いた場合に表示品質が低下するおそれがあるからである。
【0016】
また本発明においては、上記蛍光体微粒子の平均粒子径が、1nm〜100nmの範囲内であることが好ましい。
蛍光体は、ほとんどの場合、粉末の形で用いられ、その平均粒子径は3〜12μm程度である。粒子径を小さくしていくと、ある粒子径(物質によって異なるが、1〜2μm程度)以下で発光効率が低下し始める。これは、結晶の表面層の発光効率が低いためと考えられている。1994年、粒子径数十〜数nmの蛍光体微粒子で高い発光効率が得られることが報じられ、注目された("Optical Properties of Manganese-Doped Nanocrystals of ZnS" APPLIED PHYSICS LETTERS, VOLUME 72, NUMBER 317, JANUARY, 1994 )。この現象は、励起子の閉じ込め効果によって説明される。したがって、蛍光体微粒子の粒子径を概ね100nm以下にすることにより、蛍光体微粒子によるアップコンバージョン発光の発光効率をさらに高めることが期待できる。
【0017】
さらに本発明においては、上記蛍光体微粒子が希土類元素を含有し、上記蛍光体微粒子の母材がハロゲン化物または酸化物であることが好ましい。希土類元素を含有する蛍光体微粒子は、安定して発光し、かつ十分な発光効率を示すものであり、また有機蛍光体のように保存時の安定性に欠けるといった不具合がないからである。さらに、希土類元素には励起状態において複数のエネルギー準位をもつものが多く、2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光するものとして好適であるからである。また、蛍光体微粒子の母材がハロゲン化物である場合は発光効率がさらに良好となり、蛍光体微粒子の母材が酸化物である場合は耐水性などの耐環境性が高くなるからである。
【0018】
この場合、上記希土類元素が、エルビウム(Er)、ホロミウム(Ho)、プラセオジウム(Pr)、ツリウム(Tm)、ネオジウム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、ユウロピウム(Eu)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)およびセリウム(Ce)からなる群から選択される少なくとも1つ以上の希土類元素であることが好ましい。アップコンバージョン発光が可能な希土類元素としては、これらのものが好ましいからである。
【0019】
さらにこの場合、上記蛍光体微粒子がイッテルビウム(Yb)を含有していてもよい。イッテルビウム(Yb)は光に対する感度が良好であるので、増感剤として用いることができるからである。
【0020】
また本発明においては、上記蛍光体微粒子が、複数の発光色を示すものであってもよい。あるいは、本発明の蛍光体微粒子分散体が、互いに異なる発光色を示す複数の上記蛍光体微粒子を含有していてもよい。このような三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体を用いた三次元表示装置では、カラー表示が可能となる。
【0021】
さらに本発明は、上述した三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体を有する表示部と、上記表示部の周囲に配置された2つ以上の赤外光源と、上記赤外光源から発せられた光の方向を制御する制御手段とを有することを特徴とする三次元表示装置を提供する。
【0022】
本発明によれば、表示部に上述した三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体を用いているので、表示部の大型化が可能である。また、上述したように三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体では蛍光体微粒子が分散される媒体を任意に選択することができるので、媒体の組成によって発光色に影響が及ぼされるのを回避することができる。さらに、カラー表示が可能な三次元表示装置とする場合には、三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体が容易に製造可能であるので、表示部も容易に得ることが可能である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体は、大型化が可能であり、容易に製造可能であるという効果を奏する。また、蛍光体微粒子を分散させる透明液体や透明樹脂、あるいは透明媒体は任意に選択可能であり、媒体の組成によってアップコンバージョン発光の発光色が影響されるのを回避することができ、目的とする発光色を得ることができるという効果を奏する。さらに、本発明の三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体は、カラー表示が可能な三次元表示装置に好適に用いることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体および三次元表示装置について詳細に説明する。
【0025】
A.三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体
本発明の三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体(以下、蛍光体微粒子分散体と称する場合がある。)は、2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光する蛍光体微粒子が、透明液体または透明樹脂に分散されてなる蛍光体微粒子分散体である場合(第1実施態様)、および、2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光する蛍光体微粒子の表面に分散剤膜が形成された被覆蛍光体微粒子が、透明媒体に分散されてなる蛍光体微粒子分散体である場合(第2実施態様)の2つの実施態様がある。以下、各実施態様について説明する。
【0026】
1.第1実施態様
本発明の蛍光体微粒子分散体の第1実施態様は、2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光する蛍光体微粒子が透明液体または透明樹脂に分散されてなることを特徴とするものである。
【0027】
一般的なアップコンバージョン発光について、図面を参照しながら説明する。図1においては、希土類元素としてエルビウム(Er)を用いた系であり、励起光として1500nmおよび850nmの赤外光を照射した例が示されている。まず、図1(a)に示すように、1500nmの励起光によりエルビウムが励起されて15/2からよりエネルギー準位の高い13/2に移動する。そして、図1(b)に示すように、850nmの励起光によりエルビウムが励起され、さらにエルビウムのエネルギー準位を13/2から3/2に押し上げる。そして、図1(c)に示すように、上記励起されたエルビウムが基底状態に戻る際に、545nmの光を発光する。
【0028】
このように、1500nmおよび850nmの光で励起されたものが、よりエネルギーの高い545nmの光を発するような場合、すなわち励起光より高いエネルギーを発光するような場合をアップコンバージョン発光というのである。
【0029】
本発明における蛍光体微粒子は、例えばこのようなアップコンバージョン発光を生じる希土類元素等を含有するものであるので、エネルギーの高い光、例えば紫外光等で励起する必要がない。また、蛍光体微粒子分散体は三次元表示装置に用いられるものであるので、発光は通常は可視光であることが好ましい。したがって、アップコンバージョン発光の場合は可視光より波長の長い光が励起光として用いられる。このため、励起光波長と発光波長が重なることがほとんどなく、良好な画像表示が得られるのである。
【0030】
また本発明における蛍光体微粒子は、2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光するものである。すなわち、蛍光体微粒子は、図2に例示するように波長λの赤外光1および波長λの赤外光2の2種類の励起光により励起されて、波長λの光を発することができる。
このように、2種以上の異なる波長の励起光によりエネルギー準位を経て励起されアップコンバージョン発光する場合を、本発明においては二段階吸収によるアップコンバージョン発光という。
【0031】
図2に例示したアップコンバージョン発光を示す蛍光体微粒子を透明液体に分散してなる蛍光体微粒子分散体を用いた三次元表示装置について、図3に示す。図3に例示するように、本実施態様の蛍光体微粒子分散体をセルに充填させてなる表示部11の一方向から波長λの赤外光15a(図2の赤外光1)を照射し、別の方向から波長λの赤外光15b(図2の赤外光2)を照射して、一点で交差させる。そうすると、赤外光15a(図2の赤外光1)および赤外光15b(図2の赤外光2)が交差した点13が発光する。この際に、図2に例示するアップコンバージョン発光が起こるからである。そして、赤外光15aおよび赤外光15bを同期させながら水平および垂直方向に走査すると、発光点13が立体的に移動するので、三次元の画像を表示することができる。
【0032】
さらに、本発明の蛍光体微粒子分散体は、蛍光体微粒子が透明液体または透明樹脂に分散されてなるものであり、例えば蛍光体微粒子を透明液体中に分散させる、あるいは蛍光体微粒子を透明樹脂中に練り込むことにより作製することができる。したがって、容易に製造可能であり、また大型化が可能である。
【0033】
また、背景技術の欄に記載したフッ化物ガラスに蛍光体を析出させたものでは、蛍光体を析出させる媒体が限られるのに対し、本発明においては蛍光体微粒子を分散させる透明液体や透明樹脂は任意に選択可能であり、媒体の組成によって発光色に影響が及ぼされるのを回避することができる。したがって、目的とする発光色を得ることが可能である。
【0034】
さらに、本実施態様の蛍光体微粒子分散体をカラー表示が可能な三次元表示装置に適用する場合には、三原色の各色に相当する波長でアップコンバージョン発光を示す各蛍光体微粒子を透明液体または透明樹脂に分散させた蛍光体微粒子分散体とすればよい。したがって、カラー表示の三次元表示装置に用いることができる蛍光体微粒子分散体を容易に得ることが可能である。
以下、本実施態様の蛍光体微粒子分散体の各構成について説明する。
【0035】
(1)蛍光体微粒子
本実施態様における蛍光体微粒子は、母材に蛍光を発する元素等がドープされた、いわゆる付活型の蛍光体の微粒子であることが好ましい。元素等の種類やドープ量により、発光の強さや色を調整することができるからである。
【0036】
この際、蛍光体微粒子に含有される蛍光を発する元素等としては、2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光することが可能であり、かつ所定の範囲内の波長の光により励起されるものであれば特に限定されるものではない。このような蛍光体微粒子分散体を用いた三次元表示装置では、蛍光体微粒子の二段階吸収によるアップコンバージョン現象を利用することにより立体画像を表示することが可能となるからである。
【0037】
本実施態様においては特に蛍光体微粒子が希土類元素を含有することが好ましい。希土類元素には励起状態において複数のエネルギー準位をもつものが多く、2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光するものとして好適であるからである。
【0038】
本実施態様に用いられる希土類元素は、2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光するものであれば特に限定されるものではない。一般的には3価のイオンとなる希土類元素を挙げることができ、中でもエルビウム(Er)、ホロミウム(Ho)、プラセオジウム(Pr)、ツリウム(Tm)、ネオジウム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、ユウロピウム(Eu)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)およびセリウム(Ce)が好適に用いられる。これらの希土類元素は、1種類で用いても、2種類以上同時に用いてもよい。
【0039】
上記希土類元素のアップコンバージョン発光の例として、図4(a)〜(c)にプラセオジウム(Pr)、エルビウム(Er)、およびツリウム(Tm)のアップコンバージョン発光についてそれぞれ示す。また、図示しないが、例えばエルビウム(Er)については、励起光として970nmまたは1500nmの光を照射した場合、アップコンバージョン過程を経て、Er3+イオンのエネルギー準位において、410nm(9/215/2)、545nm(3/215/2)、660nm(9/215/2)などの可視光発光を示す。
【0040】
また本実施態様においては、蛍光体微粒子がイッテルビウム(Yb)を含有していてもよい。イッテルビウム(Yb)は光に対する感度が良好であるので、増感剤として機能するからである。
【0041】
ここで、上述した2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光する希土類元素と、イッテルビウム(Yb)とを用いた系について説明する。イッテルビウムを励起するとエネルギーが生じるが、このイッテルビウムの励起により生じたエネルギーがエネルギー移動することにより、上記希土類元素のエネルギー準位を押し上げることができる場合がある。これは、イッテルビウムのエネルギー準位と上記希土類元素のエネルギー準位とが近い場合は、エネルギーの移動が起こりうるからである。したがって、例えば2種の異なる波長の励起光を用いる場合は、一方の励起光をイッテルビウムの励起波長の光とし、もう一方の励起光を希土類元素の励起波長の光とすることができるのである。この場合には、イッテルビウムが光に対する感度が良いので、効率的にアップコンバージョン発光することが可能となる。
【0042】
また本実施態様の蛍光体微粒子分散体をカラー表示が可能な三次元表示装置に適用する場合には、蛍光体微粒子が複数の発光色を示すものである、あるいは蛍光体微粒子分散体が互いに異なる発光色を示す複数の蛍光体微粒子を含有する、ことが好ましい。すなわち、蛍光体微粒子分散体が、複数の発光色を示す1種の蛍光体微粒子を含有する、あるいはそれぞれ単一の発光色を示す複数の蛍光体微粒子を含有する、ことが好ましい。
【0043】
上記蛍光体微粒子が複数の発光色を示すものである場合には、特に三原色の赤・緑・青の発光色を示すものであることが好ましい。この場合には、例えば複数の希土類元素を含有する蛍光体微粒子とすることにより複数の発光色を得ることができる。
【0044】
この際、蛍光体微粒子に含有される複数の希土類元素は、それぞれ異なる波長の光で励起されアップコンバージョン発光するものであることが好ましい。本実施態様の蛍光体微粒子分散体を用いた三次元表示装置では、例えば2つの赤外光を走査することにより発光点を立体的に移動させるので、ほぼ同一の波長の光により励起されアップコンバージョン発光する希土類元素を複数用いると、各色の発光点を別々に移動させることが困難となるからである。
1種の希土類元素を励起してアップコンバージョン発光させるには、上述したように2種以上の波長の異なる赤外光を照射することから、それぞれの希土類元素をアップコンバージョン発光させるために用いる励起光の波長が、それぞれ異なることが好ましい。具体的には±5nm以上異なることが好ましく、より好ましくは±10nm以上で異なることが好ましい。
【0045】
一方、上記蛍光体微粒子分散体が互いに異なる発光色を示す複数の蛍光体微粒子を含有する場合には、特に三原色の赤・緑・青の発光色をそれぞれ示す蛍光体微粒子を含有することが好ましい。この場合には、例えば互いに異なる希土類元素をそれぞれ含有する蛍光体微粒子を含む蛍光体微粒子分散体とすることにより複数の発光色を得ることができる。
【0046】
この際、それぞれの蛍光体微粒子に含有される希土類元素は、上記の場合と同様に、それぞれ異なる波長の光で励起されアップコンバージョン発光するものであることが好ましい。なお、励起光の波長の差としては、上記と同様である。
【0047】
このように本実施態様の蛍光体微粒子分散体をカラー表示が可能な三次元表示装置に適用する場合には、希土類元素をアップコンバージョン発光させる励起光の波長を考慮して、希土類元素の種類が適宜選択される。
【0048】
希土類元素をアップコンバージョン発光させる励起光の波長の範囲としては、赤外領域であることが好ましく、少なくとも700nm〜2000nmの範囲内の波長であり、中でも700nm〜1800nmの範囲内、特に800nm〜1600nmの範囲内の波長であることが好ましい。
【0049】
また、本実施態様に用いられる母材としては、希土類元素を担持するものであって、上記希土類元素をアップコンバージョン発光可能な状態で担持するものであれば特に限定されるものではない。例えば、希土類元素と反応し、錯体、デンドリマー等を形成する有機物であってもよく、無機物であってもよい。中でも、本発明においては、無機物を使用することが好ましい。希土類元素を発光可能な状態で含有させることが容易だからである。
【0050】
無機物の母材としては、発光効率の観点から励起光に対して透明性を有する材料が好ましい。具体的にはフッ化物、塩化物等のハロゲン化物、酸化物、硫化物等が好ましく用いられ、特にハロゲン化物が好適に用いられる。
【0051】
ハロゲン化物としては、例えば塩化バリウム(BaCl)、塩化鉛(PbCl)、フッ化鉛(PbF)、フッ化カドミニウム(CdF)、フッ化ランタン(LaF)、フッ化イットリウム(YF)等を挙げることができる。中でも、塩化バリウム(BaCl)、塩化鉛(PbCl)およびフッ化イットリウム(YF)が好ましい。
【0052】
一方、水分等に安定な耐環境性の高い母材としては、酸化物を挙げることができる。酸化物としては、例えば酸化イットリウム(Y)、酸化アルミニウム(Al)、酸化シリコン(SiO)、酸化タンタル(Ta)等を挙げることができる。中でも、酸化イットリウム(Y)が好ましい。
【0053】
母材としてハロゲン化物を用いた場合は、周囲に保護層が形成されていることが好ましい。ハロゲン化物は一般的に水等に対して不安定であり、ハロゲン化物を母材とする蛍光体微粒子をそのまま用いると正確に画像を表示できない場合があるからである。このような場合は、ハロゲン化物を母材とする蛍光体微粒子の周囲に耐水性等を有する被覆材を形成し、複合核部にするとよい。この被覆材としては、上述したような酸化物を好適に用いることができる。
【0054】
本実施態様における蛍光体微粒子の平均粒子径は、1nm〜100nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1nm〜50nmの範囲内である。平均粒子径が小さすぎる蛍光体微粒子は合成が極めて困難であり、また平均粒子径が大きすぎる蛍光体微粒子は散乱を生じるおそれがあり、三次元表示装置に用いた場合には表示品質が低下する可能性があるからである。
なお、上記平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の電子顕微鏡写真より100個の蛍光体微粒子を抽出し、それぞれの粒子径を平均した値とする。
【0055】
また、本実施態様における蛍光体微粒子の合成方法としては、本発明の目的に適う蛍光体微粒子を得ることができれば特に限定されるものではない。例えば、高周波プラズマ法を含むガス中蒸発法、スパッタリング法、ガラス結晶化法、化学析出法、逆ミセル法、ゾル−ゲル法およびそれに類する方法、水熱合成法や共沈法を含む沈殿法、スプレー法、または燃焼法等を挙げることができる。
【0056】
母材への希土類元素のドープ方法としては、例えば母材がハロゲン化物の塩化バリウム(BaCl)である場合、特開平9−208947号公報もしくは文献(忍fficient 1.5mm to Visible Upconversion in Er3+ Doped Halide Phoshors Junichi Ohwaki, et al., p.1334-1337, JAPANESE JOURNAL OF APPLIED PHYSICS, Vol.31 part 2 No.3A, 1March 1994)に記載の方法を挙げることができる。また、母材が酸化物の場合、特開平7−3261号公報もしくは文献("Green Upconversion Fluorescence in Er3+ Doped Ta2O5 Heated Gel" Kazuo Kojima et al., Vol.67(23), 4 December 1995 ; "Relationship Between Optical Properties and Crystallinity of Nanometer Y2O3:Eu Phoshor" APPLIED PHYSICS LETTERS, Vol.76, No.12, p.1549-1551, 20 March 2000)に記載の方法を挙げることができる。
【0057】
母材中における希土類元素のドープ量としては、希土類元素の種類や母材の種類、および必要とされる発光の程度によって大幅に異なるものであり、種々の条件に応じて適宜決定されるものである。
【0058】
本実施態様における蛍光体微粒子の合成方法の一例として、Erがドープされた蛍光体微粒子の合成方法について説明する。
まず、Erが付活された塩基性炭酸塩を得、このErが付活された塩基性炭酸塩を焼成することによって、Erがドープされた蛍光体微粒子を得ることができる。焼成後に必要に応じて所定の粒子径に調整してもよい。
【0059】
この際に用いられる塩基性炭酸塩としては、例えば塩基性炭酸イットリウム、塩基性炭酸ガドリニウム、塩基性炭酸ルテチウム、塩基性炭酸ランタン等を挙げることができる。これらの塩基性炭酸塩は、1種単独で用いてもよく2種以上を用いてもよい。
【0060】
平均粒子径が1nm〜100nmの範囲内である蛍光体微粒子を得るには、上記Erが付活された塩基性炭酸塩を液相反応によって得ることが好ましい。例えば、Erで付活しようとする塩基性炭酸塩の構成元素である金属の硝酸塩と、Erの硝酸塩と、炭酸ナトリウムとを反応させることによって、上記Erが付活された塩基性炭酸塩を得ることができる。
【0061】
所望の希土類元素が付活された塩基性炭酸塩を焼成するにあたっては、急速加熱することが好ましく、その後、急速冷却することが好ましい。この急速加熱および急速冷却によって粒子の成長を防ぎ、平均粒子径を容易に100nm以下にすることができるからである。
【0062】
急速加熱としては、通常300℃〜1700℃程度、好ましくは500℃〜1100℃程度に設定されたオーブンに、少なくとも10分以上、好ましくは30分〜180分程度投入する。また、急速冷却としては、通常、オーブンから取り出してオーブン内の温度より200℃以上低い温度条件下におき、好ましくはオーブン内の温度より500℃〜1100℃低い温度条件下におく。
【0063】
(2)透明液体
本実施態様に用いられる透明液体としては、上記蛍光体微粒子を分散可能なものであれば特に限定されるものではないが、蛍光体微粒子の分散性が良好であり、アップコンバージョン発光に影響を及ぼさないものである、具体的には発光強度を著しく低下させないものであることが好ましい。このような透明液体としては、例えば非水系溶媒が挙げられる。水系溶媒に比較して非水系溶媒を用いた方が、透明液体の影響により発光強度が低下するのを抑えることができるからである。
【0064】
上記非水系溶媒としては、例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール系溶媒;ジクロルエチルエーテル、イソプロピルエーテル、n−ブチルエーテル等のエーテル系溶媒;トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル等のエステル系溶媒;エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコール系溶媒;HFE-7100(商品名、住友スリーエム(株)製)、HFE-7200(商品名、住友スリーエム(株)製)等のフッ素系溶媒;などが挙げられる。これらの非水系溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
本実施態様の蛍光体微粒子分散体は、透明液体に蛍光体微粒子を分散させることにより得ることができる。得られた蛍光体微粒子分散体の粘度としては、特に限定されるものではなく、本発明の用途に合わせて適宜調整される。本実施態様の蛍光体微粒子分散体は三次元表示装置に適用されるものであることから、蛍光体微粒子分散体の粘度は蛍光体微粒子が沈降しにくい粘度であることが好ましい。
【0066】
(3)透明樹脂
本実施態様に用いられる透明樹脂としては、上記蛍光体微粒子を分散可能なものであれば特に限定されるものではないが、蛍光体微粒子を固定化することができるものであることが好ましい。このような透明樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、および光硬化性樹脂のいずれも用いることが可能である。
熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、および光硬化性樹脂としては、一般的に使用されているものを用いることができる。
【0067】
本実施態様の蛍光体微粒子分散体は、透明樹脂に蛍光体微粒子を混入もしくは混練させることにより得ることができる。
【0068】
(4)その他
本実施態様において、蛍光体微粒子分散体中の蛍光体微粒子の含有量としては、特に限定されるものではない。一般に、蛍光体微粒子の含有量が低いほど発光強度が小さくなり、蛍光体微粒子の含有量が多いほど発光強度が大きくなる傾向にある。ただし、蛍光体微粒子の含有量が多すぎると蛍光体微粒子により散乱が生じるので、発光強度が低下する可能性がある。
このように蛍光体微粒子分散体中の蛍光体微粒子の含有量は、アップコンバージョン発光の発光強度等を考慮し、本発明の用途に応じて適宜調整される。
【0069】
また、本実施態様の蛍光体微粒子分散体は透明であることが好ましい。蛍光体微粒子分散体が不透明であると、三次元表示装置に用いた場合に表示品質が低下するおそれがあるからである。具体的には、蛍光体微粒子分散体の可視領域における平均透過率が50%以上であることが好ましく、より好ましくは中でも60%以上、最も好ましくは70%以上である。
なお、上記平均透過率は、波長380nm〜800nmの範囲内において、島津製作所(株)社製 UV−3100を用いて測定した値の平均値とする。
【0070】
さらに、蛍光体微粒子分散体は、ヘイズ(曇度)が50%以下であることが好ましく、より好ましくは40%以下、最も好ましくは30%以下である。
なお、上記ヘイズは、JIS K 7105に準拠して測定した値である。
【0071】
2.第2実施態様
本発明の蛍光体微粒子分散体の第2実施態様は、2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光する蛍光体微粒子の表面に分散剤膜が形成された被覆蛍光体微粒子が、透明媒体に分散されてなることを特徴とするものである。
【0072】
本実施態様においては、上記第1実施態様に記載した利点に加えて、被覆蛍光体微粒子が蛍光体微粒子表面に分散剤膜が形成されたものであるので、蛍光体微粒子分散体中の被覆蛍光体微粒子の分散状態をより安定化することが可能である。
以下、本実施態様の蛍光体微粒子分散体の各構成について説明する。
【0073】
(1)被覆蛍光体微粒子
図5に例示するように、本実施態様における被覆蛍光体微粒子分散体20は、蛍光体微粒子21の表面に分散剤膜22が形成されたものである。
【0074】
本実施態様における分散剤膜は、蛍光体微粒子表面に形成され、分散剤からなるものであれば特に限定されるものではない。
【0075】
上記分散剤としては、微粒子に配位もしくは付着等して微粒子の分散状態を安定化させる物質であれば特に限定されるものではない。例えばカチオン系、アニオン系、ノニオン系、両性、シリコーン系、フッ素系等の界面活性剤を使用できる。具体的には、ノナノアミド、デカンアミド、ドデカンアミド、N−ドデシルヘキサデカンアミド、N−オクタデシルプロピオアミド、N,N−ジメチルドデカンアミド、またはN,N−ジヘキシルアセトアミド等のアミド化合物;ジエチルアミン、ジヘプチルアミン、ジブチルヘキサデシルアミン、N,N,N´,N´−テトラメチルメタンアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、またはトリオクチルアミン等のアミン化合物;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N,N´,N´−(テトラヒドロキシエチル)−1,2−ジアミノエタン、N,N,N´−トリ(ヒドロキシエチル)−1,2−ジアミノエタン、N,N,N´,N´−テトラ(ヒドロキシエチルポリオキシエチレン)−1,2−ジアミノエタン、1,4−ビス(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、または1−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン等のヒドロキシ基を有するアミン;などを例示することができる。また、その他にニペコタミド、イソニペコタミド、ニコチン酸アミド等の化合物を挙げることができる。
【0076】
さらに、ポリアクリル酸エステル等の不飽和カルボン酸エステルの(共)重合体類;ポリアクリル酸等の不飽和カルボン酸の(共)重合体の(部分)アミン塩、(部分)アンモニウム塩や(部分)アルキルアミン塩類;水酸基含有ポリアクリル酸エステル等の水酸基含有不飽和カルボン酸エステルの(共)重合体やそれらの変性物;ポリウレタン類;不飽和ポリアミド類;ポリシロキサン類;長鎖ポリアミノアミドリン酸塩類;ポリ(低級アルキレンイミン)と遊離カルボキシル基含有ポリエステルとの反応により得られるアミドやそれらの塩類等を挙げることができる。
【0077】
また、分散剤の市販品として、例えばシゲノックス-105(商品名、ハッコールケミカル社製)、Disperbyk-101、Disperbyk-130、Disperbyk-140、Disperbyk-161、Disperbyk-170、Disperbyk-171、Disperbyk-182、Disperbyk-2001(以上、ビックケミー・ジャパン(株)製)、EFKA-49、EFKA-4010、EFKA-9009(以上、EFKA CHEMICALS社製)、ソルスパース12000、ソルスパース13240、ソルスパース13940、ソルスパース17000、ソルスパース20000、ソルスパース24000GR、ソルスパース24000SC、ソルスパース27000、ソルスパース28000、ソルスパース33500(以上、ゼネカ(株)製)、PB821、PB822(以上、味の素(株)製)等を挙げることができる。
【0078】
本実施態様における被覆蛍光体微粒子の平均粒子径は、1nm〜100nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1nm〜50nmの範囲内である。平均粒子径が小さすぎる被覆蛍光体微粒子は合成が極めて困難であり、また平均粒子径が大きすぎる被覆蛍光体微粒子は散乱を生じるおそれがあり、三次元表示装置に用いた場合には表示品質が低下する可能性があるからである。上記平均粒子径の測定方法は、上述した方法と同様である。
【0079】
なお、蛍光体微粒子については上記第1実施態様に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0080】
(2)透明媒体
本実施態様に用いられる透明媒体としては、上記蛍光体微粒子を分散可能なものであれば特に限定されるものではなく、例えば液体であっても固体であってもよい。具体的には、上記第1実施態様に記載した透明液体や透明樹脂を用いることができる。
【0081】
(3)その他
本実施態様において、蛍光体微粒子分散体中の被覆蛍光体微粒子の含有量としては、特に限定されるものではなく、アップコンバージョン発光の発光強度等を考慮し、本発明の用途に応じて適宜調整される。
【0082】
また、本実施態様の蛍光体微粒子分散体は透明であることが好ましい。蛍光体微粒子分散体が不透明であると、三次元表示装置に用いた場合に画像を表示することが困難となるからである。なお、蛍光体微粒子分散体の可視光領域における平均透過率については、上記第1実施態様に記載したものと同様である。
【0083】
B.三次元表示装置
次に、本発明の三次元表示装置について説明する。本発明の三次元表示装置は、上述した蛍光体微粒子分散体を有する表示部と、上記表示部の周囲に配置された2つ以上の赤外光源と、上記赤外光源から発せられた光の方向を制御する制御手段とを有することを特徴とするものである。
【0084】
図3に本発明の三次元表示装置の一例を示す。図3に示すように、本発明の三次元表示装置10は、蛍光体微粒子分散体がガラスセルに充填等されてなる表示部11と、この表示部11の周囲に配置された2つの赤外光源12a,12bとを有している。赤外光源12a,12bはそれぞれ異なる波長の赤外光15a,15bを発するものである。さらに、赤外光源12a,12bは移動可能であり、赤外光15a,15bの方向を任意に変えることができる。この三次元表示装置10では、赤外光源12a,12bを移動する手段が赤外光15a,15bの方向を制御する制御手段となっている。
【0085】
赤外光源12a,12bにより表示部11に対して互いに異なる方向から赤外光15a,15bを照射し、赤外光15aと赤外光15bとを交差させると、交差した点13が発光する。これは、蛍光体微粒子分散体中の蛍光体微粒子が、異なる波長の赤外光15a,15bによって励起され、すなわち例えば図2に示すように二段階吸収により励起されアップコンバージョン発光するからである。そして、赤外光源12a,12bは移動可能であるので、赤外光源12a,12bを移動させ、赤外光15a,15bを同期させながら水平および垂直方向に走査することにより、表示部11内で発光点13を前後、左右、上下に移動させることができる。これにより、本発明においては立体画像の表示が可能となる。
【0086】
本発明においては、表示部に上述した蛍光体微粒子分散体を用いているので、表示部の大型化が容易である。また、この蛍光体微粒子分散体は、蛍光体微粒子が分散される媒体を任意に選択することができるので、媒体の組成によって発光色に影響が及ぼされるのを回避することができる。
【0087】
さらに、カラー表示が可能な三次元表示装置とする場合には、複数の発光色が得られるように蛍光体微粒子分散体を調製する必要があるが、本発明においては媒体に複数の蛍光体微粒子を分散させるだけで蛍光体微粒子分散体を得ることができるので、カラー表示が可能な三次元表示装置の表示部を容易に得ることが可能である。
以下、本発明の三次元表示装置の各構成について説明する。
【0088】
1.表示部
本発明に用いられる表示部は、蛍光体微粒子分散体を有するものである。
【0089】
上記蛍光体微粒子分散体が、蛍光体微粒子が透明液体等の液体に分散されてなるものである場合、蛍光体微粒子分散体自体は液体状となるので、通常、表示部はセルに蛍光体微粒子分散体が充填等されたものとなる。
この際、蛍光体微粒子分散体を充填等するのに用いられるセルとしては、アップコンバージョン発光に影響を及ぼさないもの、具体的には発光強度を著しく低下させないものであれば特に限定されるものではない。また、セルは透明であることが好ましく、具体的には可視領域における平均透過率が比較的高いものであることが好ましい。このようなセルとしては、例えばガラスセル、石英セル、プラスチックセル等が挙げられる。
【0090】
一方、上記蛍光体微粒子分散体が、蛍光体微粒子が透明樹脂等の固体に分散されてなるものである場合、蛍光体微粒子分散体自体が固体状となるので、通常は蛍光体微粒子分散体自体が表示部となる。
【0091】
表示部の大きさとしては、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択される。
【0092】
2.赤外光源
本発明に用いられる赤外光源は、少なくとも2つ必要であり、表示部の周囲に配置され、赤外光が発せられるものである。
【0093】
赤外光源は2つ以上であれば、その数としては特に限定されないが、通常は偶数となる。本発明においては、二段階吸収による励起によってアップコンバージョン発光する現象を利用する場合が多いことから、例えば1色の発光を得るためには2つの赤外光源が必要となり、3色の発光を得るためには6つの赤外光源が必要となる。なお、この赤外光源は1種の波長の赤外光のみを発するものである。
【0094】
また、発光光源としては赤外光を発するものであれば特に限定されるものではなく、例えば半導体レーザー等を用いることができる。また、例えば図6に示すように赤外光源12a,12bが複数の半導体レーザーがアレイ状に配置されたレーザーアレイであってもよい。
【0095】
また、本発明の三次元表示装置は、例えば図3に示すように2つの赤外光源12a,12bから発せられたそれぞれの赤外光15a,15bの交差点13を発光させるものであることから、赤外光15a,15bのそれぞれの方向が一直線状とならないように赤外光源12a,12bを配置することが好ましい。赤外光15a,15bの方向が一直線状になると、赤外光15a,15bが交差した部分は発光するので、線状に発光が観察されてしまうからである。よって、赤外光15a,15bを同期させながら水平および垂直方向に走査する際にも、赤外光15a,15bの方向が一直線状にならないように走査することが好ましい。
【0096】
3.制御手段
本発明における制御手段は、赤外光源から発せられた光の方向を制御するものであれば特に限定されるものではない。制御手段は、例えば図3に示すように赤外光源12a,12bを移動させることにより赤外光15a,15bの方向を制御するものであってもよく、また例えば図7に示すように赤外光源12a,12bの近傍に鏡16a,16bが配置されており、鏡16a,16bの角度や位置を変えることにより赤外光15a,15bの方向を制御するものであってもよい。
【0097】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0098】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。
1.(Y0.99,Tm0.01微粒子の合成
液相反応にてTmをドープした前駆体を得、この前駆体を焼成することによりY0.99,Tm0.01微粒子を作製した。以下に製造工程を示す。
【0099】
まず、硝酸イットリウム0.0198molと硝酸ツリウム0.0002molとを蒸留水に溶解させて100mlとし、YイオンとTmイオンとの混合溶液を調製した。また、炭酸ナトリウム水溶液(0.3mol/l)100mlを上記YイオンとTmイオンとの混合溶液に添加し2時間攪拌した。
次に、遠心分離機を用い、3000rpm、30分間の遠心分離を三回繰り返し行った。その後、沈殿物を真空中で45℃、5時間乾燥し、前駆体であるTmが付活された塩基性炭酸イットリウムを得た。
この前駆体を空気中900℃の電気炉に入れて急熱し、30分保持した後、取り出して急冷した。このようにして、(Y0.99,Tm0.01微粒子を合成した。SEMおよびXDRの測定結果より、(Y0.99,Tm0.01微粒子の平均粒子径は約40nmであることが確認された。
【0100】
2.(Y0.99,Tm0.01微粒子分散体の作製
合成した(Y0.99,Tm0.01微粒子0.1gをMIBK(メチルイソブチルケトン)10mlに入れ、分散剤としてDisperbyk-161(ビックケミー・ジャパン(株)製)を0.18g加えた。さらにφ0.05mmのYTZボール(株式会社ニッカトー製)を20g加え、ペイントシェーカー(浅田鉄鋼社製)を用いて1時間分散し、蛍光体微粒子分散体を作製した。
得られた微粒子分散体を静置させることにより分級し、分散・安定化した蛍光体微粒子分散体を調製した。SEMおよびTEMにより、(Y0.99,Tm0.01微粒子は球状であり粒子径30〜50nmの粒子であることが確認された。
【0101】
3.三次元表示装置の作製
このようにして得られた(Y0.99,Tm0.01微粒子分散体をガラスセルに充填して表示部を作製し、表示部の周囲に2つの赤外光源を配置した。一方の赤外光源としては波長800nm付近の半導体レーザーを使用し、もう一方の赤外光源には波長1120nm付近の半導体レーザーを使用した。
【0102】
4.評価
(Y0.99,Tm0.01微粒子分散体が充填されたガラスセルに、2つの赤外光源からそれぞれの赤外光が交差するように光を照射した。その結果、2種の赤外光の交点において、Tm3+の480nm付近の青色発光が観測された。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】アップコンバージョン発光を説明するための説明図である。
【図2】アップコンバージョン発光を説明するための説明図である。
【図3】本発明の三次元表示装置の一例を示す斜視図である。
【図4】アップコンバージョン発光を説明するための説明図である。
【図5】本発明における被覆蛍光体微粒子の一例を示す断面図である。
【図6】本発明の三次元表示装置の他の例を示す斜視図である。
【図7】本発明の三次元表示装置の他の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0104】
10 … 三次元表示装置
11 … 表示部
12a,12b … 赤外光源
15a,15b … 赤外光
20 … 被覆蛍光体微粒子
21 … 蛍光体微粒子
22 … 分散剤膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光する蛍光体微粒子が、透明液体または透明樹脂に分散されてなることを特徴とする三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体。
【請求項2】
2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光する蛍光体微粒子の表面に分散剤膜が形成された被覆蛍光体微粒子が、透明媒体に分散されてなることを特徴とする三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体。
【請求項3】
透明であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体。
【請求項4】
前記蛍光体微粒子の平均粒子径が、1nm〜100nmの範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体。
【請求項5】
前記蛍光体微粒子が希土類元素を含有し、前記蛍光体微粒子の母材がハロゲン化物または酸化物であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体。
【請求項6】
前記希土類元素が、エルビウム(Er)、ホロミウム(Ho)、プラセオジウム(Pr)、ツリウム(Tm)、ネオジウム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、ユウロピウム(Eu)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)およびセリウム(Ce)からなる群から選択される少なくとも1つ以上の希土類元素であることを特徴とする請求項5に記載の三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体。
【請求項7】
前記蛍光体微粒子が、イッテルビウム(Yb)を含有することを特徴とする請求項6に記載の三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体。
【請求項8】
前記蛍光体微粒子が、複数の発光色を示すものであることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかの請求項に記載の三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体。
【請求項9】
互いに異なる発光色を示す複数の前記蛍光体微粒子を含有することを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかの請求項に記載の三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれかの請求項に記載の三次元表示装置用蛍光体微粒子分散体を有する表示部と、前記表示部の周囲に配置された2つ以上の赤外光源と、前記赤外光源から発せられた光の方向を制御する制御手段とを有することを特徴とする三次元表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−249254(P2006−249254A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−67981(P2005−67981)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】