説明

三次元X線CT装置

【課題】有機素材のような軽い元素で構成された材料をナノ単位のレベルで立体観察が行なえるようにする。
【解決手段】真空ポンプ13によって内部が真空状態となる真空室3内に少なくともX線を照射するX線照射部23が臨むと共に1〜10keVの低エネルギーX線をコーン状に照射するX線照射装置5と、前記X線照射装置5から照射されるX線の中心線C−1上の適宜位置に試料のセットを可能とした試料セット台35を有する回転可能な試料ステーション7と、前記試料ステーション7の試料セット台35にセットされた試料15を挟んで前記X線照射装置5と対向し合うと共に冷却手段によって冷却される検出面9aを有する二次元X線検出器9とを配置し、真空室3内に照射されるコーン状のX線によって試料15を検出面9aに拡大投影する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機素材のような軽い元素で構成された材料(ソフトマテリアル)の試料観察に適する三次元X線CT装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、試料等をナノ単位のレベルで立体的に観察するX線CT装置(通称マイクロCT装置)は、照射するX線エネルギーの領域が20〜100keVと高く、例えば、半導体パッケージ等の比較的重い元素の材料観察に使用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これまでのX線CT装置は、比較的重い元素の試料観察に適する高いX線エネルギーとなっているため、例えば、有機素材のような軽い元素で構成された試料観察を行なうとX線エネルギーが高すぎてほとんどすべてのX線が透過してしまうために投影画像が得られず試料観察が難しいことが経験的に知られている。
【0004】
このために、有機素材のような軽い元素で構成された材料でもナノ単位の立体試料観察が行なえるよう望まれていたものである。
【0005】
この場合、X線エネルギーが高いのであれば低いX線エネルギーにする手段が考えられるが、低いX線エネルギーにすると、外乱要因が発生し単純にX線エネルギーを低くしても精度よい鮮明な試料観察が行なえない問題があった。
【0006】
そこで、本発明にあっては、有機素材のような軽い元素で構成された材料(試料)をナノ単位のレベルで試料観察が行なえる三次元X線CT装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために本発明にあっては、内部を真空状態とする真空ポンプ及び試料等を出し入れするための開閉扉を有する真空室と、前記真空室内に少なくともX線を照射するX線照射部が臨むと共に1〜10keVの低エネルギーX線をコーン状に照射するX線照射装置と、前記真空室内に配置され前記X線照射装置から照射されるX線の中心線上の適宜位置に試料のセットを可能とした試料セット台を有する360度回転可能な試料ステーションと、前記試料ステーションの試料セット台にセットされた試料を挟んで前記X線照射装置と対向し合うと共に冷却手段によって冷却された少なくとも検出面の領域が前記真空室内に臨む二次元X線検出器とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、試料を360度回転させながらその透過像を検出面に取り込むようになるが、この時、X線照射装置からのX線は、真空内に照射されるため1〜10keVの低エネルギーX線であってもX線のエネルギー減衰を小さく抑えることができる。また、真空室内の容積を小さくすることができるようになり、真空引きする時間を短くし実験に入る立上り時間を速くする。
【0009】
しかも、X線は、低エネルギーX線によって有機素材等の軽い元素の試料に対応した最適な波長のX線を確保することができるため、コントラストの鮮明な投影画像を得ることができる。
【0010】
一方、試料は、コーン状に照射されるX線照射装置のX線源までの距離とX線源から検出面までの距離比の関係によって検出面に拡大投影することができる点に加えて検出信号のノイズを冷却手段によって小さく抑えることができる点と相俟って、例えば、ナノ単位の鮮明な投影画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を実施するにあたって、第1に、前記X線照射装置、試料ステーション、二次元X線検出器の内、少なくとも試料ステーションは、試料セット台のセット面の水平方向、垂直方向の位置決めを行なう位置決め調整手段を備え、位置決め調整手段を真空室の外から操作可能とすることで、試料セット時に、正しい正確な位置にセットできるようにすることが望ましい。
【0012】
第2に、前記二次元X線検出器の検出面の領域は、X線の透過が可能な気密性の高い材質で作られた隔壁により独立した真空状態が常に保持されるようにすることで、試料を出し入れする時に真空室内を開けても検出面に結露等が発生する悪影響が起きないようにすることが望ましい。
【0013】
第3に、前記試料ステーションの試料セット台に、試料を入れる試料カプセル及び回転する試料セット台の軸ぶれを検出する軸ぶれ検出器をセットするためのセット部を備えるようにすることで、血液等の流体試料の立体観察が行なえるようにすると共に、機械加工によるハード面で得られない加工精度の軸ぶれ補正をソフト面で容易に補えるようにすることが望ましい。
【実施例】
【0014】
以下、図1乃至図8の図面を参照しながら本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0015】
図1は本発明にかかる三次元X線CT装置全体の概要説明図を示している。
【0016】
三次元X線CT装置1は、真空室3とその真空室3内に配置されたX線照射装置5と試料ステーション7と二次元X線検出器9とを備え、ディスプレイ装置11によって立体のCT画像が得られるようになっている。
【0017】
真空室3は、密閉された部屋に形成され、シャッタ12の開により真空ポンプ13の作動によって所定の設定された真空度が得られるようになっている。真空室3の正面には試料15を出し入れするための開閉扉17(仮想線で示す)が設けられている。
【0018】
開閉扉17は片側のヒンジ19を支点として開閉可能となっており、開閉扉の周囲はシール材(図示していない)によってシールされ、全閉時に気密状態が確保されている。
【0019】
X線照射装置5は、X線の入射角度調整手段21を備える一方、入力電圧(30〜100kV)によって変化するX線照射部23から有機素材等の軽い元素に対応する波長となる1〜10keVの低エネルギーX線(連続した白色X線)をコーン状に照射するようになっている。
【0020】
X線照射装置5のX線照射部23は外周面が気密状態にシールされた状態で前記真空室3内に臨むようになっていて、X線は真空の条件下において照射されるようになっている。この場合、X線照射装置5全体が真空室3内に臨む配置構造とすることも可能である。
【0021】
X線の入射角度調整手段21は、X線照射装置本体5aを支持する調整支持フレーム25に複数の調整用の操作部27を備え、操作部27を外から操作することで、X線の中心線C−1に沿った正確なX線の照射角調整が可能となる。
【0022】
X線照射部23からのX線は、スイッチを入れた立上りから安定するまで時間を要するところから、運転に入ると常に照射状態におかれ、必要に応じてシャッタ29を閉とすることで、照射状態のままX線の遮断が行なえるようになっている。また、シャッタ29の開によりX線は試料15へ向かって照射されるようになる。
【0023】
試料ステーション7は、駆動モータ31によって減速された回転動力が与えられる垂直な回転シャフト33と回転シャフト33の上端に着脱自在に装着された試料セット台35と、試料セット台35を正しい位置に位置決めする位置決め調整手段37とを有している。
【0024】
試料セット台35は図3に示す如く上面が水平なセット面35aとなっていて、セット面35aは、前記X線照射装置5からコーン状に照射されるX線の中心線C−1上に試料15を位置決めした状態で360度回転可能となっている。
【0025】
位置決め調整手段37は、図2に示す如く真空室3の床面から上下動可能な蛇腹部39によって真空状態が保持された状態で下方へ延長され、上方の固定支持体45と下方の可動支持体46とによって支持された構造となっている。
【0026】
位置決め調整手段37には第1、第2、第3操作部41、42、43、43aを有し、第1操作部41はセット面35aを上下動させる上下動調整用となっている。したがって、例えば、ディスプレイ装置11の画面11aに写し出されるモニター画像(X線は低エネルギーX線となっているため金属は透過しないため、例えば、黒い画像となって現われる)を見ながら右回転又は左回転させることでロッド47を介してセット面35aの上下方向の正確な位置調整が可能となる。
【0027】
第2操作部42はセット面35aの傾き、即ち、X線の水平線C−1に対する傾き調整用となっていて、例えば、ディスプレイ装置11のモニター画像(例えば、黒い画像となって現われる)を見ながら4個所ある調整ロッド42aをそれぞれ伸縮調整するることでセット面35aの正確な水平面の傾き調整が可能となる。
【0028】
第3操作部43、43aは、X線照射部23に対して試料ステーション7を接近した位置から離れた位置までの位置調整用(図2矢印イ)となって、下方の可動支持体46に対して4箇所設けられている。4箇所の内、2箇所の第3操作部43aは、中心線C−1の軸心に対して左右に心ずれが起きた時にその心ずれを修正する心ずれ修正用となっている。他方の2箇所の第3操作部43はX線照射部23から試料ステーション7までの位置を調整する移動調整用となっていてそれぞれ操作することでX線照射部23に対する試料ステーション7の位置設定が上下の貫通孔48内において可能となっている。
【0029】
試料ステーション7の位置調整は、高解像度投影にあたって画素サイズと共に重要な要素となる空間分解能を高めるためである。空間分解能Bは、検出器画素サイズをS,投影倍率をVとした時にB=S/Vの関係で現される。投影倍率Vは図8(a)(b)に示すX線源Oから試料15までの距離S0Dと、X線源0から二次元X線検出器9の検出面9aまでの距離S1Dとの距離比,S1D/S0Dによって決定される。
【0030】
これにより、例えば、X線源0から試料15までの距離S0Dが遠く離れると投影倍率は4画素の1となる(図8(a)参照)。また、X線源0から試料15までの距離S0Dが近づくと投影倍率は16画素の4となる拡大投影が可能となり(図8(b)参照)、拡大投影は空間分解能を高める手段となっている。
【0031】
試料ステーション7の試料セット台35は、セット面35aの中心垂直軸心線X上に縦穴状のセット部39を有している。
【0032】
セット部39は、図4〜図7に示す如く血液等の液体状の試料、あるいは、皮膚等の生体試料を入れたキャップ51a付きの試料カプセル51の支脚部53及び軸ぶれ基準器55の支脚部57の挿入が可能となっている。
【0033】
これにより、試料カプセル51を用いることで血液,皮膚等の生体試料観察が行なえるようになる。
【0034】
また、軸ぶれ基準器55を用いることで、回転シャフト33の軸ぶれのデータが簡単・迅速に得られるようになる。
【0035】
これは、回転時に軸ぶれが発生すると二次元X線検出器9の検出面9aに投影される画像精度に重大な悪影響が起きるところからソフト面による補正を可能とするものである。
【0036】
具体的には、図6、図7に示す如く、撮影視野に応じて直径0.1ミリから0.5ミリのポリイミド製の細い軸ぶれ基準器55の外周に、同じく撮影視野に応じて直径0.01ミリから0.03ミリのシリカビーズ59を、予め計算によって設定された円周方向並びに縦方向に複数個貼り付けてCT画像撮影を行う。
【0037】
ポリイミド製の軸ぶれ基準器55はX線の透過力が高いので、画像としてのコントラストは極めて薄く、シリカビーズ59の画像が強いコントラストで画像化される。このとき、軸ぶれがあれば、図7に示すようにシリカビーズ59の画像にもぶれが生じる。シリカビーズ59の幾何学的位置はその配置条件により予め分かっているので、その本来あるべき画像の幾何学条件をCT画像再構成演算部に収録しておき、撮影によって得られたCT画像と対比すれば、回転シャフト33のぶれ量を把握でき、その数値を補正量とすることにより、ぶれを補正したシリカビーズ59の画像を得ることが可能となる。
【0038】
この一連の演算処理をプログラム化して、ディスプレイ装置11のCT画像再生構成ソフトに組入れることにより軸ぶれ補正を自動的に行なえるようになる。
【0039】
二次元X線検出器9は、検出面位置調整手段10とμm単位サイズの画素が縦・横に整列して配置されX線を光に変換する検出面9aと検出面9aからの光を電気信号に変換するCCDカメラ61とで構成されている。
【0040】
検出面位置調整手段10は、二次元X線検出器本体12を支持する調整支持フレーム14に複数の調整用の操作部16を備え、各操作部16を外から操作することで、X線の中心線C−1に対して直交し合う鉛直方向の正確な検出面位置調整が得られるようになっている。
【0041】
CCDカメラ61は、検出信号のノイズを小さく抑えるために冷却手段63となるペルチュ素子63aによって所定の温度に冷却されている。
【0042】
検出面9aの領域は外周面が気密状態にシールされた状態で前記真空室3内に臨む構造となっている。
【0043】
これは、真空室3内の容積をできるだけ小さく抑えるためであって、二次元X線検出器9全体が配置される構造とすることも可能である。
【0044】
検出面9aの前方には、X線の通過が可能で気密性の高い材質、例えば、ベリリウーム等で作られた隔壁65が設けられ、隔壁65によって常に真空状態が保持されている。
【0045】
これにより、真空室3の開閉扉17を開けた時に外気の影響を遮断することで、検出面9aに温度差による結露等が発生するのを防いで常に良好な検出面の状態が得られるようになっている。
【0046】
ディスプレイ装置11は、キーボード(図示していない)を備え、二次元X線検出器9から送られてくる試料15の画像情報に基づいて演算処理を行ない三次元CT画像を画面11aに写し出すようになっている。
【0047】
このように構成された三次元X線CT装置1によれば、X線照射部23から360度回転する試料15へ向けてコーン状にX線を照射し、二次元X線検出器9の検出面9aに拡大投影された透過像を取り込むことによりディスプレイ装置11によって試料観察用の立体のCT画像が迅速に得られるようになる。
【0048】
この時、X線照射装置5からのX線は、真空内に照射されるため1〜10keVの低エネルギーX線であってもX線のエネルギー減衰を小さく抑えられる。
【0049】
しかも、X線は、低エネルギーX線によって有機素材等の軽い元素の試料に対応した最適な波長のX線を確保することができるため、コントラストの鮮明な投影画像が得られる。
【0050】
一方、試料15はコーン状に照射されるX線照射装置5のX線源までの距離とX線源から検出面までの距離比の関係によって検出面9aに拡大投影することができる点に加えて、検出信号のノイズを冷却手段63によって小さく抑える点と相俟って、例えば、ナノ単位の鮮明な投影画像が得られる。
【0051】
また、試料15を出し入れする時に、開閉扉17を開けても隔壁65によって温度差は起こらず、結露等が発生しない良好な検出面が常に得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明にかかる三次元X線CT装置全体の概要説明図。
【図2】試料ステーションの構造を示した概要斜視図。
【図3】試料ステーションの回転シャフトから試料セット台を取外した状態を示す概要説明図。
【図4】試料カプセルのセット前の説明図。
【図5】試料カプセルのセット完了後の説明図。
【図6】軸ぶれ基準器の概要説明図。
【図7】軸ぶれ基準器の動作説明図。
【図8】投影倍率の概要説明図。
【符号の説明】
【0053】
3 真空室
5 X線照射装置
7 試料ステーション
9 二次元X線検出器
9a 検出面
11 ディスプレイ装置
13 真空ポンプ
15 試料
17 開閉扉
23 X線照射部
33 回転シャフト
35 試料セット台
35a セット面
37 位置決め調整手段
39 セット部
51 試料カプセル
55 軸ぶれ基準器
C−1 中心線
61 CCDカメラ
63 冷却手段
65 隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を真空状態とする真空ポンプ及び試料等を出し入れするための開閉扉を有する真空室と、
前記真空室内に少なくともX線を照射するX線照射部が臨むと共に1〜10keVの低エネルギーX線をコーン状に照射するX線照射装置と、
前記真空室内に配置され前記X線照射装置から照射されるX線の中心線上の適宜位置に試料のセットを可能とした試料セット台を有する360度回転可能な試料ステーションと、
前記試料ステーションの試料セット台にセットされた試料を挟んで前記X線照射装置と対向し合うと共に冷却手段によって冷却された少なくとも検出面の領域が前記真空室内に臨む二次元X線検出器とを備えていることを特徴とする三次元X線CT装置。
【請求項2】
前記X線照射装置、試料ステーション、二次元X線検出器の内、少なくとも試料ステーションは、試料セット台のセット面の水平方向、垂直方向の位置決めを行なう位置決め調整手段を備え、位置決め調整手段は真空室の外から操作可能となっていることを特徴とする請求項1記載の三次元X線CT装置。
【請求項3】
前記二次元X線検出器の検出面の領域は、X線の透過が可能な気密性の高い材質で作られた隔壁により独立した真空状態が常に保持されていることを特徴とする請求項1記載の三次元X線CT装置。
【請求項4】
前記試料ステーションの試料セット台は、試料を入れる試料カプセル及び回転する試料セット台の軸ぶれを検出する軸ぶれ検出器をセットするためのセット部を備えていることを特徴とする請求項1記載の三次元X線CT装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−139314(P2009−139314A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318243(P2007−318243)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000114891)ヤマト科学株式会社 (17)
【Fターム(参考)】