説明

下水処理方法

【課題】 降雨後においても下水の十分な脱リンを行うことができる下水処理方法を提供する。
【解決手段】 酸発酵装置5に汚泥を投入し発酵処理して得られた酸発酵液を下水とともに生物処理装置7に導入し、下水を生物処理する下水処理方法において、下水中の有機酸濃度(CVFA)とリン濃度(CP)との比(CVFA/CP)が所定の値を下回った場合に、酸発酵装置5への汚泥の投入量を増加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は下水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸発酵槽にて生成した酸発酵液を下水とともに生物処理装置に導入し、生物処理する下水処理方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。下水処理では、下水中にもともと含まれる有機酸が生物処理装置内で下水の脱リンに寄与する。特許文献1記載の方法では、有機酸を含む酸発酵液を更に下水に加えて下水中の有機酸を増加させ、下水の脱リンを促進している。
【特許文献1】特開2004−49941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、この種の下水処理方法における下水は、下水管を介して生物処理装置へ導入される。従って、降雨時には、下水管に雨水が入り込むため下水が雨水によって希釈され、生物処理装置へ導入される下水の有機酸濃度及びリン濃度は一時的に低くなり、そして、降雨後には再び下水の有機酸濃度及びリン濃度が回復する。
【0004】
しかしながら、下水中のリン濃度が素早く回復する一方で、有機酸濃度は回復が遅いので、降雨直後のしばらくの間は、下水中の有機酸がリンに対して不足した状態にあることが判った。図8は時点T1において降雨があった場合の下水の有機酸濃度及びリン濃度の概略の変化を示すグラフである。降雨直後には、下水管に雨水が入り込むため下水が雨水によって希釈され、生物処理装置へ導入される下水の有機酸濃度及びリン濃度は双方とも一時的に低くなる(時点T1〜T2)。降雨後には再び下水の有機酸濃度及びリン濃度の回復が始まるが、リン濃度の方が有機酸濃度よりも素早く回復する。すなわち、下水のリン濃度は時点T4で降雨前の濃度に回復するが、有機酸濃度は時点T5で降雨前の濃度に回復する。なお、T1〜T5は夏季においては3日程度、冬季においては6日程度である。
【0005】
有機酸濃度の回復が遅いのは、下水管に堆積し有機酸の原料となる有機物や有機物を分解して有機酸を生成する酸生成菌が降雨時に雨水により洗い流されてしまい、有機物が再び堆積し有機酸が生成されるまでに時間がかかるためと推測される。その結果、特許文献1記載の下水処理方法によれば、降雨直後のしばらくの間は、生物処理装置で十分な下水の脱リンがなされず、処理水中のリン濃度が高くなってしまう。
【0006】
そこで、本発明は、降雨後においても下水の十分な脱リンを行うことができる下水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の下水処理方法は、酸発酵装置に汚泥を投入し発酵処理して得られた酸発酵液を下水とともに生物処理装置に導入し、下水を生物処理する下水処理方法であって、下水中の有機酸濃度(CVFA)とリン濃度(CP)との比(CVFA/CP)が所定の値を下回った場合に、酸発酵装置への汚泥の投入量を増加することを特徴とする。
【0008】
この下水処理方法においては、汚泥が酸発酵装置へ投入され、汚泥の投入量に応じた量の有機酸が酸発酵装置から排出される。酸発酵装置は、汚泥の投入量を増加する前は、増加後に比較して、酸発酵装置内に滞留する酸発酵液の有機酸濃度が高く流量が低い状態で運転されている。ここで、降雨等によってCVFA/CPの値が所定値を下回った場合は、生物処理装置へ導入される有機酸が不足していると考えられ、汚泥の投入量が増加されることによって、酸発酵装置の流量が上昇する。このため、投入量増加後しばらくは、酸発酵装置内に滞留する高い濃度の酸発酵液が、上昇後の高い流量で排出される。その結果として、投入量増加後しばらくは、酸発酵装置から排出される有機酸の量が増加することとなり、生物処理装置へ導入される有機酸が素早く補われる。上記下水処理方法によれば、このように生物処理装置に導入される有機酸とリンとの量的関係の変化が抑制されることにより、安定した下水の脱リンがなされる。
【0009】
また、本発明の下水処理方法は、上記の濃度の比(CVFA/CP)が5を下回った場合に、前記汚泥の投入量を増加することを特徴としてもよい。
【0010】
有機酸濃度CVFAがリン濃度CPの5倍以上であれば、処理水中のリン濃度が定められた規準値以下になり、5倍を下回れば処理水中のリン濃度が規準値を超えて極端に増加する傾向にある。有機酸濃度CVFAがリン濃度CPの5倍を下回った場合には、処理水中のリン濃度が規準値を超えてしまうと考えられ、汚泥の投入量が増加される。このことにより、生物処理装置へ導入される有機酸が増加されるので濃度比CVFA/CPの変化が抑制され、処理水中のリン濃度が安定化される。
【0011】
また、本発明の下水処理方法は、汚泥の最大の投入量が、最小の投入量の3倍以下であることを特徴としてもよい。汚泥の投入量をこの範囲に限ることにより大量の汚泥が酸発酵装置に投入されることがなく、酸発酵装置の負荷が抑えられる。
【0012】
また、本発明の下水処理方法は、酸発酵装置が、汚泥を発酵処理する発酵槽と、発酵槽で得られた発酵汚泥を酸発酵液と濃縮汚泥とに固液分離する濃縮槽と、を有し、濃縮槽で分離した濃縮汚泥を発酵槽へ返送することを特徴としてもよい。この下水処理方法によれば、発酵装置が濃縮槽で分離した濃縮汚泥を発酵槽へ返送しているので、発酵槽内の汚泥濃度が高められ、発酵装置において有機酸が効率よく生成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、降雨後においても下水の十分な脱リンを行うことができる下水処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。まず、図1を参照し、本発明の実施形態に係る下水処理方法を行う下水処理装置1の構成を説明する。
【0015】
下水処理装置1は、第1沈殿池3、酸発酵装置5、生物処理装置7、及び最終沈殿池9を備えている。第1沈殿池3は、原水中の固体成分である生汚泥を重力により沈殿させ分離する分離槽である。第1沈殿池3は、ラインL1から原水を導入し、沈殿させた生汚泥をラインL2から排出し、上澄み液を下水としてラインL3から排出するようになっている。ラインL2からの生汚泥は酸発酵装置5へ導入され、ラインL3からの下水は生物処理装置7へ導入されるようになっている。
【0016】
酸発酵装置5は、発酵槽11及び沈殿槽13を備えている。発酵槽11は、生汚泥を発酵処理する槽である。発酵槽11は、ラインL2から導入した生汚泥の有機物を酸生成菌によって有機酸に分解する。本発明において「有機酸」とは、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の低分子量の酸をいう。発酵槽11は有機酸を含む発酵汚泥をラインL4から排出するようになっている。ラインL4からの発酵汚泥は沈殿槽13へ導入される。発酵槽11は発酵を促進するための撹拌機、ポンプ、ブロアを備えてもよく、発酵槽11は、槽内にアルカリ剤を添加し槽内のpHを調整するアルカリ添加装置を備えてもよい。
【0017】
沈殿槽13は発酵汚泥を重力によって沈殿させ濃縮する槽である。沈殿槽13は、ラインL4から導入した発酵汚泥を、重力によって固体成分である濃縮汚泥と、有機酸を含む酸発酵液とに分離し、それぞれをラインL5,L6から排出するようになっている。ラインL5からの濃縮汚泥は発酵槽11へ再び返送され、ラインL6からの酸発酵液は生物処理装置7へ導入されるようになっている。
【0018】
生物処理装置7は、嫌気/無酸素/好気法(A2O法)を用いて下水を脱リン、脱窒処理する装置である。生物処理装置7は、嫌気槽21、無酸素槽23、好気槽25、無酸素槽27、好気槽29を備えている。上記各槽には、脱リン菌、硝化菌、脱窒菌等を含む汚泥が生育している。生物処理装置7は、ラインL3から嫌気槽21へ導入された下水をラインL6からの酸発酵液と共に、嫌気槽21、無酸素槽23、好気槽25、無酸素槽27、好気槽29の順に送りながら脱リン菌、硝化菌、脱膣菌によって下水の脱リン、脱窒を行うようになっている。なお、ラインL3からの下水は、無酸素槽27へも導入されるようになっている。好気槽29での処理がされた下水はラインL8から排出されるようになっている。
【0019】
最終沈殿池9は、下水中の固体成分を重力により沈殿させ分離する分離槽である。最終沈殿池9は、ラインL8から生物処理された下水を導入し、沈殿させた固体成分をラインL9から排出し、上澄み液をラインL10から排出するようになっている。ラインL9からの固体成分は、一部は返送汚泥としてラインL11を通じて生物処理装置7の嫌気槽21へ再び返送され、他は余剰汚泥として下水処理装置1の系外に排出されるようになっている。ラインL10からの上澄み液は、処理水として下水処理装置1の系外に排出されるようになっている。
【0020】
次に、図1及び図2のフロー図を参照し、下水処理装置1で行われる下水処理の方法及びその作用について説明する。
【0021】
まず、下水管を含むラインL1を通じて原水が第1沈殿池3へ導入される。第1沈殿池3では原水中の固体成分が沈殿し、上澄み液(下水)と沈殿物(生汚泥)とが分離する。分離した下水は、ラインL3を通じて生物処理装置7へ導入される。ラインL3の下水は一部サンプリングされ、有機酸濃度及びリン濃度が測定される(S102)。
【0022】
ここでは、「有機酸濃度」として、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸の合計の濃度が測定される。以下、本実施形態において、「有機酸濃度」というときは酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸の合計の濃度を意味するものとする。また、ここでは、「リン濃度」として、例えばPO4の濃度(PO4―P濃度)が測定される。以下、本実施形態において、「リン濃度」というときは、PO4の濃度(PO4―P濃度)を意味するものとする。なお、下水中のPO4の濃度は、下水中に含まれるすべてのリンの濃度(T−P濃度)と相関関係があり、両者は互いに換算が可能である。また、以下、生物処理装置7へ導入される有機酸濃度及びリン濃度をそれぞれ「流入有機酸濃度」、「流入リン濃度」と称する。これらの濃度は、例えばイオンクロマト法、ガスクロマト法、比色法等により測定される。
【0023】
測定した流入有機酸濃度(CVFA)及び流入リン濃度(CP)に基づいて生汚泥の投入量を設定する(S104)。これらの濃度比(CVFA/CP)が所定の値を下回った場合には投入量の設定が増加され(S106)、下回っていないときには投入量の設定は変更されない。このとき、増加後の投入量は、沈殿槽13に負荷を与えないよう最小の投入量の3倍以下に定められる。次に、バッチ運転により、例えば手動で第1沈殿池3で沈殿した生汚泥のうち設定された量の生汚泥がラインL2から排出され、所望の投入量の生汚泥が酸発酵装置5へ投入される(S108)。
【0024】
また、上記濃度比(CVFA/CP)の所定の値は例えば5に設定される。図3はCVFA/CPと、処理水のリン濃度との関係を示すグラフである。本図によれば、有機酸濃度CVFAがリン濃度CPの5倍以上であれば、処理水のリン濃度が一般的に望まれる目標値1.0mg/リットル以下になり、5倍を下回れば処理水中のリン濃度が規準値を超えて極端に増加することが判る。すなわち、有機酸濃度CVFAがリン濃度CPの5倍を下回った場合に、上記投入量の増加がなされれば、処理水のリン濃度を抑えることが可能となる。
【0025】
なお、CVFA/CPが所定の値以上の場合には、投入量を最小の投入量にすることが好ましい。このようにすれば、酸発酵装置5内に滞留する有機酸をなるべく多くすることができ、CVFA/CPが所定の値を下回った場合に酸発酵装置5からの有機酸量を素早く増加させることができる。
【0026】
酸発酵装置5において、発酵槽11では生汚泥が発酵処理され、沈殿槽13において固液分離され、有機酸を含む酸発酵液がラインL6から排出される。このとき、発酵槽11内はpHが5〜5.8程度に調整されることが好ましい。このようにすれば、発酵槽11内で有機酸がメタンガスにまで分解されることが防止されつつ、効率の良い発酵が行われる。
【0027】
酸発酵装置5への生汚泥の投入量が増加された場合には、増加前に酸発酵装置5内に比較的高い有機酸濃度で滞留していた酸発酵液が、増加した流量の生汚泥にて押し出されるので、ラインL6から排出される有機酸の総量が増加する。
【0028】
また酸発酵装置5は、発酵槽11で得られた発酵汚泥を濃縮槽5で固液分離し、分離された濃縮汚泥を発酵槽11へ返送するとともに酸発酵液を排出するように構成されているので、有機酸が効率よく生成される。
【0029】
続いて、第1沈殿池3で分離された下水と酸発酵装置5で生成された酸発酵液とが生物処理装置7へ導入される。生物処理装置7中の脱リン菌は、嫌気槽21において、リンを吐き出して有機酸を取り込み、菌体内にPHAs(polyhydroxyal Kanoates)を蓄える。次に脱リン菌は、好気槽25(29)において、PHAsを消費し、嫌気槽21で吐き出した量よりも多くリンを取り込む。最終的にリンを取り込んだ脱リン菌は最終沈殿池9で分離され、余剰汚泥として系外へ排出されるので、結果として下水中のリンが取り除かれることとなる。このように、生物処理装置7中では、有機酸が脱リン菌による下水の脱リンに寄与する。
【0030】
また、下水中の窒素(有機性窒素、アンモニア等)は、好気槽25(29)において硝化菌によりNO3-に変えられ、このNO3-は無酸素槽27において脱窒菌により窒素ガスへと変えられて大気中に放出される。このように脱リン、脱窒された下水は、ラインL8より排出される。
【0031】
上記の通り、脱リン菌による下水の脱リンのためには、下水中にはリン濃度に応じた濃度の有機酸が存在する必要がある。たとえば、生物処理装置7の下水中の有機酸濃度(流入有機酸濃度)が流入リン濃度の5倍以上であることが好ましい。降雨後等で流入有機酸濃度が流入リン濃度の5倍を下回った場合には、上述したように酸発酵装置5への生汚泥の投入量が増加され、ラインL6から生物処理装置7へ導入される有機酸の総量が増加するので、生物処理装置7の下水中の有機酸濃度の低下が抑制される。
【0032】
ラインL8からの下水は最終沈殿池9において固体成分と液体成分とに分離される。固体成分はラインL9を通じて系外に排出されるとともに、一部は返送汚泥として生物処理装置7へ返送される。液体成分は処理水としてラインL10を通じて系外に排出される。
【0033】
上記の下水処理方法によれば、例えば降雨後等にラインL3から生物処理装置7へ導入される有機酸濃度が低下した場合には、ラインL6から導入される有機酸量が増加するように運転されるので、生物処理装置7の下水中の有機酸濃度の低下が抑制される。このように生物処理装置7内の有機酸濃度の低下が抑制されることにより、脱リン菌によるリンの取り込みの効率が維持され、降雨後においても下水の十分な脱リンを行うことができる。
【0034】
ここで、図4を参照し、酸発酵装置5への生汚泥の投入量が増加された場合に、ラインL6から排出される有機酸の総量が増加する原理について説明する。図4のグラフは、横軸に時間を取り、ラインL6における流量Vと、ラインL6から排出される酸発酵液の有機酸濃度Cとの経時変化を示すグラフである。生汚泥投入量の増加前は、生汚泥投入量がV1(すなわち流量V=V1)で運転されており、このときの酸発酵液の有機酸濃度をC1とする。増加後は、生汚泥の投入量がV1からV2(すなわち流量V=V2)へ増加したものとする。
【0035】
ここで、図5に、酸発酵装置5内の水理学的滞留時間(流量Vに反比例する。以下「HRT」。)と、酸発酵液の有機酸濃度Cとの関係を示す。図5によれば、HRTと有機酸濃度Cとは比例することが判り、その結果、流量Vと有機酸濃度Cは反比例することが判る。よって、生汚泥投入量がV2に増加した場合には酸発酵液の有機酸濃度C2はC2=C1×V1/V2となるはずである。ところが、酸発酵装置5内には既に有機酸濃度C1の酸発酵液が滞留しているので、図4に示すように濃度CはC2までゆっくりと下降していく。一方、流量Vは素早くV1からV2へと増加する。ここで、ラインL6から排出される有機酸の総量SはS=V×Cで表されるので、生汚泥投入量の増加直後は総量SがV1×C1からV2×C1へと増加することとなる。最終的にはS=V2×C2へ収束するが、投入量増加からC2へ収束するまでの間はラインL6から排出される有機酸の総量が増加することとなる。このように、上記の下水処理方法によれば、酸生成装置5から排出される有機酸の総量を素早く増加させることが可能である。
【0036】
また、上記の下水処理方法は、生物処理装置に高価な酢酸等の有機酸を直接投入する方法に比してランニングコストを抑えることが出来る。また、上記の下水処理方法では、酸発酵装置と生物処理槽との間に酸発酵液を貯留し酸発酵液の導入量を調整する方法に比して貯留槽を設ける必要がないので設備が簡略化される。
【0037】
また、上記の下水方法では、生物処理装置の後段にポリ塩化アルミニウム等を添加してリンを除去する方法に比して発生する余剰汚泥を少なくすることができる。また、汚泥には、硝化菌の反応を阻害するアルミニウム等がほとんど含まれていないので、汚泥に由来する有機酸を生物処理装置7内に導入しても、硝化菌の作用が阻害されることも少ない。
【0038】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば、上記した実施形態では図1に示す構成の酸発酵装置5を用いたが、これに代えて、図6に示すような、濃縮槽313で生汚泥を濃縮し濃縮汚泥を発酵槽311で発酵させるように構成された酸発酵装置305を用いてもよい。
【0039】
また、上記した実施形態では、手動により所望の投入量の生汚泥が酸発酵装置5へ投入される例を挙げたが、例えば、次に説明する下水処理装置301ように、自動的に所望の量の生汚泥が投入されるようにしてもよい。図7は下水処理装置301の第1沈殿池3付近を示す拡大図である。下水処理装置301は、ラインL3上に設けられた濃度測定装置111と、制御装置113と、ラインL2上に設けられた汚泥排出装置115とを備えている。濃度測定装置は、ラインL3を通過する下水の有機酸濃度CVFA及びリン濃度CPを測定し、測定結果に応じた信号を制御装置113へ送信する。制御装置113は、受信した信号に基づいて算出されるCVFA/CPの値を所定の値と比較し、生汚泥の投入量を決定する。制御装置113は決定された生汚泥投入量に応じて汚泥排出装置115へ信号を送信し、汚泥排出装置115は、受信した信号に応じた量の生汚泥をラインL2から排出する。
【0040】
また、上記した実施形態では、酸発酵装置5は重力により固体成分を沈殿させる沈殿槽13を用いて固液分離を行っているが、沈殿槽13に代えて遠心濃縮設備等を用いて固液分離を行ってもよい。
【0041】
また、上記した実施形態では、酸発酵装置5へ投入する汚泥として、第1沈殿池3からの生汚泥を用いているが、これに代えて最終沈殿池からの汚泥、生物処理装置からの余剰汚泥等を用いてもよい。
【0042】
また、上記した実施形態では、生物処理装置7として、2段の無酸素槽23,27及び好気槽25,29を備えた装置を用いているが、生物処理装置7は、1段又は3段以上の無酸素槽及び好気槽を備えてもよい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の
実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
下水処理装置1において、台風による降雨後に酸発酵装置5へ投入する生汚泥の量を増加させた。生物処理装置7としては、1段の無酸素槽及び好気槽を備えるものを用いた。生汚泥の投入はバッチ運転で、1時間に1回とした。降雨量は65mm/日であった。各濃度は、イオンクロマト法により測定した。他の条件は以下の通りである。
下水処理装置の処理能力:50m3/日
第1沈殿池:50m3/m2/日
嫌気槽容積:1m3
無酸素槽容積:4m3
好気槽:7m3
最終沈殿池:10m3/m2/日
発酵槽容積:1m3
降雨前の生汚泥の投入量:250リットル/日(降雨前のHRTは4日)
発酵槽内のMLSS:15000〜20000mg/リットル
発酵槽における発酵温度:26〜28℃
発酵槽内のpH:5.5〜5.7
流入リン濃度:0.2〜3.5mg/リットル
【0045】
表1に、降雨後の日数に対応する生汚泥の投入量を示している。本表に示すように、降雨後0日目(降雨日)には流入有機酸濃度が0mg/リットル(流入リン濃度の5倍未満)となったので、1〜3日目にかけて生汚泥の投入量を750リットル/日(最小の投入量250リットル/日の3倍)まで増加させた。
【0046】
(比較例1)
下水処理装置1において、降雨前の生汚泥の投入量を500リットル/日とし、降雨後にも酸発酵装置5へ投入する生汚泥の量を変化させず500リットル/日とした。その他の条件は実施例1と同様とした。
【0047】
【表1】

【0048】
(結果及び評価)
実施例1及び比較例1について、表1に、降雨後の日数に対応して、生物処理装置7へ導入される有機酸の量及び処理水のリン濃度を示している。実施例1において、処理水のリン濃度は、降雨後1〜7日目まで0.1mg/リットル以下に抑えられている。一方、比較例1においては、処理水のリン濃度は、降雨後1日目から上昇し始め、3日目に1.1mg/リットルまで達してから下降し、7日目に0.1mg/リットル以下となった。よって、実施例1においては、降雨後においても下水の十分な脱リンが可能であることが示された。
【0049】
(実施例2)
下水処理装置1において、春季における降雨後に酸発酵装置5へ投入する生汚泥の量を増加させた。降雨は2日間に亘り、降雨量は2日間で合計29mmであった。発酵槽容積は1.25m3とした。発酵槽における発酵温度は21〜22℃であった。流入リン濃度は0.2〜4.1mg/リットルであった。その他の条件は実施例1と同様とした。
【0050】
(比較例2)
下水処理装置1において、降雨前の生汚泥の投入量を500リットル/日とし、降雨後にも酸発酵装置5へ投入する生汚泥の量を変化させず500リットル/日とした。温度は26〜28℃とした。その他の条件は実施例2と同様とした。
【0051】
【表2】

【0052】
(結果及び評価)
実施例2及び比較例2について、表2に、降雨後の日数に対応して、生物処理装置7へ導入される有機酸の量及び処理水のリン濃度を示している。実施例2において、処理水のリン濃度は、降雨後1〜10日目まで0.1mg/リットル以下に抑えられている。一方、比較例2においては、処理水のリン濃度は、降雨後1日目から上昇し始め、3日目に1.5mg/リットルまで達し、10日目に0.2mg/リットルとなった。よって、実施例2においては、降雨後においても下水の十分な脱リンが可能であることが示された。また、実施例1(発酵温度=26〜28℃)と比較して、発酵槽における発酵温度が低く(発酵温度=21〜22℃)、発酵の反応速度が遅くなる場合においても、同様に本発明が適用可能であって、降雨後の下水の十分な脱リンが可能であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施形態に係る下水処理方法を行う下水処理装置の構成を示す概略図である。
【図2】下水処理装置1で行われる下水処理の方法を示すフロー図である。
【図3】CVFA/CPと、処理水のリン濃度との関係を示すグラフである。
【図4】ラインL6における流量Vと、ラインL6から排出される酸発酵液の有機酸濃度Cと、の経時変化を示すグラフである。
【図5】酸発酵装置内のHRTと、酸発酵液の有機酸濃度Cとの関係を示すグラフである。
【図6】酸発酵装置の変形例を示す図である。
【図7】下水処理装置の変形例の第1沈殿池付近を示す拡大図である。
【図8】降雨があった場合の下水の有機酸濃度及びリン濃度の概略の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0054】
1…下水処理装置、3…第1沈殿池、5…酸発酵装置、7…生物処理装置、9…最終沈殿池、11…発酵槽、13…沈殿槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸発酵装置に汚泥を投入し発酵処理して得られた酸発酵液を下水とともに生物処理装置に導入し、前記下水を生物処理する下水処理方法であって、
前記下水中の有機酸濃度(CVFA)とリン濃度(CP)との比(CVFA/CP)が所定の値を下回った場合に、前記酸発酵装置への前記汚泥の投入量を増加することを特徴とする下水処理方法。
【請求項2】
前記比(CVFA/CP)が5を下回った場合に、前記汚泥の投入量を増加することを特徴とする請求項1に記載の下水処理方法。
【請求項3】
前記汚泥の最大の投入量が、最小の投入量の3倍以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の下水処理方法。
【請求項4】
前記酸発酵装置は、前記汚泥を発酵処理する発酵槽と、前記発酵槽で得られた発酵汚泥を前記酸発酵液と濃縮汚泥とに固液分離する濃縮槽と、を有し、
前記濃縮槽で分離した前記濃縮汚泥を前記発酵槽へ返送することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の下水処理方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−43512(P2006−43512A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−224639(P2004−224639)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【出願人】(591043581)東京都 (107)
【Fターム(参考)】