説明

下水処理方法

【課題】最初沈殿池、嫌気槽、好気槽及び最終沈殿池、又は最初沈殿池、嫌気槽、無酸素槽、好気槽及び最終沈殿池からなる下水からの新規生物学的リン除去方法の提供。
【解決手段】本発明は、嫌気層出口のORP計(酸化還元電位測定計)の電極部を空気で洗浄し、かつ前記電極部の洗浄時間を3秒以下とし、ORP値(銀/塩化銀電極基準値)の変動をおさえることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水中に含まれるリンを安定的かつ効率的に除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市下水中の全リン濃度は、通常3〜5mg/L程度あり、リンを除去する方法としては、以下のような方法が公知である。
1) 凝集沈殿法:塩化第二鉄、硫酸第二鉄などの鉄塩や硫酸アルミニウムやポリ塩化アルミニウム等の凝集剤を用いて凝集沈殿法によりリンを除去する。最も確実な方法であるが、凝集剤添加により、余剰汚泥量の増加に伴う処理費や薬品費などランニングコストが上昇する。
2) 生物学的リン除去方法:活性汚泥(微生物の集合体)中の一部の細菌群(以下、ポリリン酸蓄積細菌と述べる)は、嫌気条件下(溶存酸素も硝酸イオン等の結合体酸素もない状態)においてリンを放出させると、好気条件下(溶存酸素が存在する状態)ではリンを過剰に摂取する。この性質を利用し、リン除去を行う。このような方式を採用すると下水の活性汚泥中のリン濃度は2〜3%から5〜6%程度に増大するといわれている。この方法は、都市下水処理の分野で実用化が進んでいる。
【0003】
生物学的リン除去プロセスは、一般に最初沈殿池、反応槽(嫌気槽と好気槽)、最終沈澱池から構成されている。最初沈殿池は下水中の粗大浮遊物を沈降除去し、反応槽への有機物負荷を減じる。反応槽は、嫌気槽と好気槽からなり、嫌気槽では嫌気性条件下として、活性汚泥中のポリリン酸蓄積細菌からリンを放出させる。さらに、好気槽においてポリリン酸蓄積細菌にリンを放出量以上過剰に摂取させる。最終沈殿池においては、活性汚泥を沈降分離させ上澄液は放流する。最終沈殿池で沈降分離された濃縮活性汚泥は、返送汚泥として、嫌気槽に返送ポンプにより返送され、その一部は余剰汚泥として引き抜く。余剰汚泥は、リンを高濃度に含むため、下水中に含まれていたリンは余剰汚泥の形で系外に引き抜かれることとなる。
【0004】
生物学的リン・窒素同時除去プロセスは、生物学的リン除去プロセスに生物学的窒素除去プロセスを組み合わせたプロセスであり、最初沈殿池、反応槽(嫌気槽、無酸素槽、好気槽)、最終沈澱池から構成されている。最初沈殿池、嫌気槽、好気槽及び最終沈殿池は、生物学的リン除去プロセスと同様の処理が行われる。無酸素槽では、溶存酸素のない無酸素状態とすることで、好気槽から循環返送される硝化液中のNO2-N並びにNO3-Nが、活性汚泥中の脱窒細菌と下水中の有機物との脱窒反応により、窒素空気として除去される。
【0005】
生物学的リン除去プロセスや生物学的リン・窒素同時除去プロセスでは、処理が不安定化しやすく、生物学的リン除去方法を安定的に稼動させるための適切な運転管理方法の確立が強く望まれている。
例えば、雨水などの下水への混入などにより、下水中での有機物濃度が低下すると嫌気槽でのリンの放出が抑制される。嫌気槽で、リンの放出現象が抑制されると、好気槽でのリンの過剰な取り込み能力が低下する。嫌気槽でのリン放出を良好に行なうためには下水中に大量の有機物が必要であり、その指標としてBODとT-Pの濃度比である(BOD)/(T-P)比が、20〜25以上あればリンの放出は良好であるとされている。(非特許文献1、非特許文献2を参照のこと)。ここで、BOD:生物化学的酸素要求量:mg/L
T-P:全リン濃度:mg/L
を意味する。
【0006】
さらに、好気槽でのリンの過剰摂取については、溶存酸素(DO)濃度との関連が多く指摘されている。溶存酸素濃度が不足するとリン摂取が阻害されるため、概ね、好気槽末端の溶存酸素濃度は、1.5〜2.0mg/L (非特許文献1参照)あるいは1.5〜3.0mg/Lが望ましいとされている(非特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、嫌気槽流入水の嫌気槽流入水の(BOD)/(T-P)比が25以上あっても、嫌気槽でのリンの放出が不良であれば、処理水中に多量のリンが残留するケースがある。
【0008】
この原因としては、次のような要因が考えられる。
1) 雨水が混入した下水や返送汚泥からのNOx-N(NO2-NとNO3-Nの和、以下同じ)や溶存酸素の嫌気槽への流入;
2) 無酸素槽に返送される硝化液からのNOx-Nや溶存酸素の嫌気槽への逆流;
3) 嫌気槽での過度の攪拌による溶存酸素の巻き込み;
4) 嫌気槽での短絡流の発生によるHRT(水理学的滞留時間)の短縮。
【0009】
これらの嫌気槽の緒条件は、各下水処理場で大きく異なり、このため、嫌気槽流入水の(BOD)/(T-P)比が25以上あっても、嫌気槽でのリンの放出が良好とは限らないと思われる。
これらのことから、リンの除去については、嫌気槽でリンの放出状況を簡易にモニタリングし、この対処方法を開発することが重要となる。
【0010】
この課題に対して、以下のような検討報告例がある。例えば、嫌気槽でリンの放出状況を簡易にモニタリングする方法として、銀/塩化銀電極基準値のORP(酸化還元電位、以下同じ)値に着目した事例がある。
【0011】
例えば、嫌気槽のORP値とリンの吐き出し現象が密接に関係しており、生物学的脱リン処理プロセスの嫌気槽のORP値が-270mVを超えた場合、有機物を多く含む下水(最初沈殿池流入水)や最初沈殿池沈殿汚泥を嫌気槽に流入させ、嫌気槽のORP値を-270mV以下に維持する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0012】
また、下水(最初沈殿池流入水)や最初沈殿池流出水のORP値を測定し、このORP値に応じて、下水(最初沈殿池流入水)と最初沈殿池流出水の混合割合を変動させ、嫌気槽のORP値を-270mV以下に維持する方法も提案されている(特許文献2参照)。
【0013】
さらに、最初沈殿池流出水の有機物濃度と嫌気槽のORP値を測定し、これらの測定値に基づき嫌気状態を制御する方法も提案されている(特許文献3参照)。
【0014】
しかしながら、特許文献1あるいは特許文献2のような最初沈殿池流入水を用いる方法は、最初沈殿池流入水自体の有機物濃度が不安定であるばかりでなく、反応槽での有機物負荷、窒素負荷を大きく変動させるため、廃水中の有機物やリンの除去を制御することはかなり難しい。さらに、特許文献3のように原水の有機物濃度を測定して制御を行うためには、連続的に有機酸を測定する必要がある。有機酸の指標としてBOD(生物化学的酸素要求量:mg/L)やCOD(化学的酸素要求量:mg/L)、TOC(有機性炭素量:mg/L)などがあるが、いずれの指標にしても、リアルタイムで測定することは難しいといった問題がある。また、特許文献3では、紫外線吸光度を測定することで有機酸の代替とすることも提案されているが、紫外線吸光度ではベンゼン環を持つ有機物は測定できないように、必ずしも全有機酸を反映した測定結果とならないといった問題もある。
【0015】
さらに、下水からの生物学的リン・窒素同時除去技術についても、前述したリン除去の課題を併せ持つが、窒素除去の最適条件とリン除去の最適条件が相反する場合が多いため、課題解決がより難しい。
【特許文献1】特開平3−278893
【特許文献2】特願2001−252413
【特許文献3】特開2001−87793
【非特許文献1】高度処理施設設計マニュアル、p225-252、日本下水道協会、平成6年
【非特許文献2】嫌気-無酸素-好気法運転管理マニュアル(案)、東京都下水道サービス、平成9年3月、p21-p53
【非特許文献3】The effect of organic compounds on biological phosphorus removal, Water Science Technology, Vol.23, No.4/6, p585-p591, 1991
【非特許文献4】東亜ディーケーケー株式会社 水ジェット洗浄付き浸漬型検出器 JOC-711C型 取扱説明書、P13
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
即ち、嫌気槽(4)では、溶存酸素も結合体酸素もない状況を維持する必要があるため、ORP計の洗浄においては、図3に示すブラシ洗浄を用いる方法があるが、ブラシ部に毛髪などが絡んだり、ブラシ内部が活性汚泥で汚染されるために、洗浄時にORPが大きく低下して回復に時間がかかるといった課題があった。
【0017】
図5に、ブラシ洗浄装置を付加したORP計で測定した嫌気槽内のORP値の変化を示す。洗浄時間は30秒間とした。この結果、洗浄時にORP値が100mV程度低下し、元のORP値に回復するまでに90分程度必要となることがわかる。ORP値が回復するまでの間は、嫌気槽の正しい値を示さないため、嫌気槽の制御ができなくなる。
【0018】
一方、図4に示すように電極の先端部に設置したノズルにより空気を噴霧する空気洗浄は、ブラシ洗浄のように毛髪などの影響を受けずに長期間使用でき、かつ、嫌気槽内で洗浄できる。
ただし、従来技術として、非特許文献4に示すように、溶存酸素濃度をDO計(溶存酸素濃度測定計)で測定し、測定部位を空気洗浄をするものが開示されており、洗浄効果を発揮させるために、1回の洗浄時間を60秒とするように推奨している。しかしながら、ORP計の電極部に空気洗浄機能を有し、その洗浄時間を規定したものはない。即ち、DO計とORP計は測定するものも、使用環境も異なる。DO計は、もともと好気条件下(溶存酸素がある状況)で使用するものであるが、ORP計は嫌気条件下(溶存酸素が存在しない状況)でも使用するものである。よって、洗浄時間を60秒としてORP計の洗浄に適用すると、ORP指示値の下降幅が大きく、回復するまでに時間がかかる、あるいは嫌気槽内に空気送り込むことで、嫌気槽内のDO値(溶存酸素濃度)が上昇して処理状況を悪化させるという課題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
そこで本発明者らは、上記の課題を解決すべく検討を重ねた結果、以下の方法により、ORP値を計測し、嫌気槽内の反応状況を制御することで、安定してリンを除去することに成功した。
【0020】
本発明の要旨とするところは、次の(1)〜(4)である。
(1)最初沈殿池、嫌気槽、好気槽及び最終沈殿池、又は最初沈殿池、嫌気槽、無酸素槽、好気槽及び最終沈殿池からなる下水からの生物学的なリンの除去方法において、嫌気槽出口のORP(酸化還元電位)の電極部を空気で洗浄し、かつ前記電極部の洗浄時間を3秒以下とすることで、ORP値の変動をおさえることを特徴とする前記方法。
【0021】
(2)嫌気槽出口の前記ORP値(銀/塩化銀電極基準値)が−400mV以上−200mV以下の範囲に維持されるように、有機酸を嫌気槽に添加することを特徴とする前記(1)記載の方法。
【0022】
(3)嫌気槽に添加する前記有機酸が、酢酸又は酢酸塩であることを特徴とする前記(2)記載の方法。
【0023】
(4)嫌気槽出口のORP値が−400mV以上−200mV以下の範囲に維持されるように、嫌気槽の滞留時間を調整することを特徴とする前記(3)記載の方法。
【0024】
ORP計の1回当りの空気洗浄時間を3秒以下とすることで、嫌気槽でのDO値の影響と洗浄に伴うORP値の変化を最小限とし、処理に影響を与えないようにできる。
【0025】
図6に、洗浄間隔を1時間に1回、0.3MPaの空気圧で洗浄時間を0.3秒とした場合のORP値の変化を示す。洗浄時にORP値の変化は見られるものの、5〜10mV程度の上昇であり、かつORP値の回復は10分程度であるため、1時間に1回の洗浄を実施しても嫌気槽を制御する上では何ら問題はない。また、洗浄直後の嫌気槽のDO値は0.0mg/Lで変化はなく、リン除去への影響もない。
【0026】
表1には1回当りのエア洗浄時間を変更した場合のORP値の変動幅の一例を示す。1回当りの洗浄時間が3秒以下の場合は、ORP値の上昇幅が小さく回復までの時間も20分以下であるが、3秒を越えると上昇幅及び回復までの時間が長くなり、処理に影響を与える傾向にある。よって、洗浄時間は、0超〜3分以下とした。
【0027】
【表1】

【0028】
洗浄時間は短いほどORPの変化幅を小さくできるため、出来うる限り短くするのが好ましいが、洗浄効果との兼ね合いから適宜時間と間隔は選定する。
【0029】
また、洗浄空気の圧力は非特許文献4に示してある0.05〜0.5MPaとすればよい。
発明者らは、先に嫌気槽出口(4)のORP値が−400mV以上−200mV以下の範囲に維持する(好ましくは、連続的にORP値の累積頻度を測定して、その50%以上が−350mV以上−250mV以下の範囲に維持する)ことでリンの除去が良好になることを発見した。-400mV未満になると嫌気槽でのリンの放出量に変化がなくなるので下限とし、−200mVを超えると嫌気槽でのリンの放出量が小さくなり、後段の好気槽でのリンの過剰摂取量が減少してリン処理が悪化するため、上限は−200mV以下とした。
【0030】
このとき、エア洗浄条件を3秒以下とすることで、洗浄時のORP値変動が操業に影響を与えないようにでき、連続的にORP値を測定できるため、嫌気槽出口の条件を−400mV以上−200mV以下の範囲に常に維持するように有機酸を添加することができる。嫌気槽でのリンの放出には下水中の有機酸や発酵産物が優先的に処理されるため、有機酸を添加することで、その処理を嫌気槽で行うことができる。特に有機酸の中でも酢酸は処理されやすい。
【0031】
さらに、嫌気槽出口の条件を−400mV以上−200mV以下の範囲に維持するように、嫌気槽の滞留時間を変更することもできる。即ち本願の生物学的リン除去方法では、ORP値が−200mV超となった場合には、好気槽の最前列の水槽を嫌気槽とし、空気攪拌から機械攪拌に変更することで、また、生物学的窒素・リン除去プロセスでは、硝化液の流入位置を無酸素槽の最前列の水槽から2列目に変更することで、嫌気槽をリン放出に必要なORP値となるように制御できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明により、リンを含有する下水から、安定してリンを除去することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の処理フロ−の一例を図1、図2に示す。
図1は、本発明の生物学的脱リン・プロセスである。反応槽は、嫌気槽(4)と好気槽(6)から成り立っている。
【0034】
図2は、脱リン機能に加え、脱窒素機能も有する生物学的脱リン・脱窒素プロセスである。反応槽は、嫌気槽(4)、無酸素槽(5)、好気槽(6)から成り立っている。
生物学的脱リン・脱窒素プロセスは、図1の脱リン・プロセス、及び、図2の生物学的脱リン・脱窒素プロセスを事例として発明の形態を説明する。
まず、下水(1)に含まれる粗大浮遊物(主として汚泥)は、最初沈殿池(2)において沈降除去される。
その後、最初沈殿池流出水(3)は、嫌気槽(4)に流入する。
嫌気槽(4)は、以下のように管理する。
【0035】
生物学的リン除去を行なうポリリン酸蓄積細菌は、好気条件下で吸収したPO4-Pを細胞内でポリリン酸の顆粒として保持しており、嫌気槽(4)においては、この顆粒のポリリン酸を加水分解して、PO4-Pとして放出するとともに、下水中の有機物、特に有機酸や発酵産物を優先的に細胞内に摂取する。PO4-Pの放出速度は、基質の種類や濃度によって大きく異なっており、酢酸などの有機酸が基質である場合にPO4-Pの放出速度が大きいとされている。細胞内に摂取された有機物は、グリコーゲンやPHB(ポリハイドロブチレイト)の高分子物質の形で貯蔵される。これらの細胞内物質は、再び、好気条件下に置かれると、酸化分解され減少するが、ポリリン酸蓄積細菌はこの基質利用により増殖していき、また、PO4-Pを過度にとりこみ、細胞内でポリリン酸の顆粒として保持するのである。
【0036】
このような生物学的リン除去を行なうポリリン酸蓄積細菌の反応を促進する上で重要なことは、有機酸や発酵産物の存在であるが、これらの有機酸や発酵産物は、BOD成分の一部ではあるものの、下水のBOD濃度が高いからといってこれらの有機酸や発酵産物濃度が高いとは必ずしも限らない。したがって、BODよりも下水中の有機酸(mg/L)濃度などの指標の方が有効である。嫌気槽(4)において、リン放出に必要な有機物の種類や必要量に関しては多くの研究事例があるが、リン放出に対する酢酸利用が、モル比で1.3程度の報告がある(例えば、非特許文献3)。したがって、嫌気槽(4)への有機酸添加量は公知となっているこの数字を参考とすればよい。
【0037】
しかしながら、実際の処理設備では、雨水や返送汚泥の影響により、嫌気槽(4)にNOx-NやDOが流入する場合がしばしばあり、嫌気槽(4)において、NOx-N、及びDOが存在すると、有機酸は直ちに分解されてしまう。以下に、有機酸として、酢酸を用いた場合の反応を示す。
【0038】
8NO3- + 5CH3COOH → 4N2+10CO2+6H2O+8OH- (5)
8NO2- + 3CH3COOH → 4N2+6CO2+4H2O+8OH- (6)
2O2 + CH3COOH → 2CO2+2H2O (7)
【0039】
これから、例えば、NO3−Nが1mg/L存在すると、これに伴い、酢酸2.7mg/Lが消費されることとなる。また、NO2−Nが1mg/L存在すると、これに伴い、酢酸1.6mg/Lが消費されることとなる。一方、DOは1mg/L存在すると、これに伴い、酢酸0.9mg/Lが消費されることとなる。この結果から、特に、NO3−Nの存在が酢酸の消費に及ぼす影響が極めて大きいことがわかる。
【0040】
NO3−N、NO2−N、及びDOは、調査の結果、雨水が混入する下水(1)や返送汚泥(8)中にも存在する場合がたびたびあるが、特に、好気槽の運転条件(高DO、高ORP運転)によっては、最終沈殿池(7)から嫌気槽(4)に返送される返送汚泥(8)中に高濃度のNO3−Nが存在することがあり、この場合、嫌気槽(4)においてリンの放出が極めて生じにくくなる。例えば、流入下水の酢酸濃度が20mg/Lあったとしても、NO3−Nを10mg/L含む返送汚泥が下水に対して50V/V%混入すると、NO3−N が13.5mg/Lの酢酸を消費してしまう。
【0041】
また、下水中あるいは返送汚泥中のNOx-NやDOによる有機酸の消費ばかりでなく、装置特性(脱窒槽からの逆流など)も影響する場合がある。したがって、下水中の有機酸濃度のみで、嫌気槽でのリンの放出を判断するのは難しく、また、この嫌気槽でのリンの吐き出しに関与する要因(有機酸濃度、NOx-N濃度、DO濃度、装置特性など)を、すべて事前に把握して有機酸の添加量を制御することは困難と考えられる。
【0042】
そこで、嫌気槽(4)のORP値を−200mV以下−400mV以上に維持されるように有機酸(12)を嫌気槽(4)に添加することで、安定したリン除去ができるようになるが、空気洗浄装置付きのORP計で測定することで、より連続して安定した処理ができるようになる。
【0043】
嫌気槽(4)は、ORP値が−250mV以上になると、有機酸(12)をポンプ(13)により、嫌気槽(4)に添加し、嫌気槽(4)のORP値が−260mVになると停止させることにより、嫌気槽(4)のORP値を−200mV以上−400mV以下内に納まるように運転する。
【0044】
あるいは、嫌気槽(4)出口のORP値を−400mV以上−200mV以下の範囲に維持するように、嫌気槽(4)の滞留時間を変更することで、嫌気槽の制御をすることもできる。生物学的リン除去方法では、好気槽(6)を複数の水槽に分割し、最前列の好気槽に機械攪拌機と空気攪拌機の両方を備え、嫌気槽のORP値が制御値以上となった場合には、好気槽(6)の最前列の水槽の攪拌方法を空気攪拌から機械攪拌に変更して嫌気槽(4)とする。また、生物学的窒素・リン除去プロセスでは、無酸素槽(5)を複数の水槽に分割し、嫌気槽のORP値が制御値以上となった場合に、硝化液の流入位置を点線で示すように無酸素槽(5)の最前列の水槽から2列目に変更することで、嫌気槽(4)をリン放出に必要なORP値となるように制御する。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の実施例を説明する。なお、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0046】
実施例1
本発明の方法を都市下水処理へ適用した。
図2に示すように、下水(1)の浮遊物を最初沈殿池(2)で除去した後、最初沈殿池流出水(3)を嫌気槽(4)、続いて無酸素槽(5)、好気槽(6)を置き、更に、最終沈殿池(7)を置くプロセスである。硝化液(17)は、循環ポンプ(18)により下水量(1)に対して150V/V%無酸素槽(5)に返送した。返送汚泥(8)は、返送汚泥ポンプ(9)により、下水量(1)に対して50V/V%の条件で嫌気槽(4)に返送した。各反応槽のMLSS(活性汚泥浮遊物質)は2500〜3000mg/Lに維持した。また、A-SRT(好気槽での汚泥滞留時間)は12〜13日で管理した。
【0047】
最初沈殿池流出水(3)の水質は、BODが平均100mg/L、T−N(全窒素)が平均30mg/L、T−P(全リン)が4.5mg/L、PO4-Pが3.0mg/L程度である。
【0048】
まず、嫌気槽(5)のORP値を指標とし、ORP値が-250mV以上となったときに有機酸(蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酢酸塩等)を添加する。本実施例では、有機酸の代表として酢酸(12)を下水流量あたり30mg/Lで嫌気槽(4)に添加し、嫌気槽(4)のORP値が-200mV以下-400mV以上になるようにして、ブラシ洗浄装置付きORP計を使用した場合と、空気洗浄装置付きORP計をした場合で水質を比較した。
【0049】
ブラシ洗浄装置付きORP計の洗浄頻度は4時間に1回とし、洗浄時間は30秒とした。また、空気洗浄装置付きORP計の洗浄頻度は1時間に1回、0.3Mpaの空気圧で洗浄時間を0.3秒とした。
【0050】
表2に結果を示す。ブラシ洗浄装置付きORP計で制御した場合は、原水PO4−P濃度が3.0mg/Lに対し処理水は0.9mg/Lであるのに対し、空気洗浄装置付きORP計で制御したときは原水PO4−P濃度が3.3mg/Lに対して処理水は0.2mg/Lと良好な処理水質が得られた。
【0051】
【表2】

【0052】
実施例2
次に、無酸素槽(5)のORP値を指標とし、嫌気槽(4)のORP値が-250mV以上となった場合に、嫌気槽(4)の滞留時間を下水流量基準で2時間から3時間に変更した場合と、滞留時間を2時間として固定した場合の水質を比較した。ここで、滞留時間を2時間から3時間に変更したとは、好気槽(6)の最前列の水槽の攪拌方法を空気攪拌から機械攪拌に変更して、嫌気槽(4)とすることを意味する。
【0053】
ORP計の洗浄は空気洗浄とし、洗浄頻度は1時間に1回、0.3Mpaの空気圧で洗浄時間を0.3秒とした。
表3に結果を示す。嫌気槽の滞留時間を固定した場合は、原水PO4−P濃度が2.9mg/Lに対し処理水は1.2mg/Lであるのに対し、嫌気槽のORP値により滞留時間を変化させる制御を実施したときは原水PO4−P濃度が2.8mg/Lに対して処理水は0.1mg/Lと非常に良好な処理水質が得られた。
【0054】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る、下水からの生物学的脱リン・プロセスである。
【図2】本発明に係る、下水からの生物学的脱リン及び脱窒プロセスである。
【図3】ブラシ洗浄装置の一例を示した図である。
【図4】空気洗浄装置の一例を示した図である。
【図5】ブラシ洗浄装置によるORP値の時間変化を示した図である。
【図6】空気洗浄によるORP値の時間変化を示した図である。
【符号の説明】
【0056】
1 下水
2 最初沈殿池
3 最初沈殿池流出水
4 嫌気槽
5 無酸素槽
6 好気槽
7 最終沈殿池
8 返送汚泥
9 返送汚泥ポンプ
10 ブロア
11 機械攪拌機
12 有機酸タンク
13 薬注ポンプ
14 ORP計
15 ジェットノズル
16 DO計
17 硝化液
18 循環ポンプ
19 処理水(最終沈殿池流出水)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最初沈殿池、嫌気槽、好気槽及び最終沈殿池、又は最初沈殿池、嫌気槽、無酸素槽、好気槽及び最終沈殿池からなる下水からの生物学的なリンの除去方法において、嫌気槽出口のORP(酸化還元電位)の電極部を空気で洗浄し、かつ前記電極部の洗浄時間を3秒以下とすることで、ORP値の変動をおさえることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
嫌気槽出口の前記ORP値が銀/塩化銀電極基準で−400mV以上−200mV以下の範囲に維持されるように、有機酸を嫌気槽に添加することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
嫌気槽に添加する前記有機酸が、酢酸又は酢酸塩であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
嫌気槽出口のORP値が−400mV以上−200mV以下の範囲に維持されるように、嫌気槽の滞留時間を調整することを特徴とする、請求項3に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−144264(P2007−144264A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−339225(P2005−339225)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(000230571)日本下水道事業団 (46)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】