説明

下痢改善剤および下痢予防剤

【課題】 下痢を治療並びに予防する効果に優れた安全性の高い組成物を提供する。
【解決手段】 1分子あたりウロン酸残基を1つ以上有する平均重合度が2〜15である酸性キシロオリゴ糖からなるキシロオリゴ糖組成物を有効成分とする下痢を治療並びに予防する改善剤。酸性キシロオリゴ糖は、リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理したものから分離して得られるものが良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト及び動物に於いて効果を有する安全性の高い下痢改善剤又は下痢予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
下痢は、大腸での食物中の水分吸収過程に於ける異常時に起こり、通常、急性下痢と慢性下痢とに分けられる。急性下痢は、大腸菌、赤痢菌、腸炎ビブリオ菌及びウイルス等によって起こる感染性下痢と、食べ過ぎ、水・アルコールの飲み過ぎ及び寝冷等による消化不良が原因で起こる非感染性下痢に分類され、症状が激しい時は10数回/日も水瀉便が出ることがあり、時には水分の不足から脳貧血に至り、洗面所で倒れてしまうこともある。特に、ウイルスによる感染性下痢は、毎年11月位から急増する乳幼児の下痢の大部分を占めており、致死的状況に至る注意すべき疾患とされている。慢性下痢の場合は、消化吸収障害、腸の慢性炎症、大腸粘膜の過敏及びアレルギー性下痢等の様々な原因があり、1〜2回/日の軟便程度のものから数回/日の下痢までの症状が見られる。また、近年のストレス社会を背景とした過敏性大腸炎による下痢が増加傾向にあり、大きな問題となっている。
【0003】
鶏・豚・牛等の食肉や鶏卵の生産現場でも下痢の問題は深刻であり、生産量の低下だけでなく、下痢を惹起する病原性細菌の食肉や鶏卵への混入がヒトの食中毒の直接的な原因にもなる。また、近年は病原性細菌の排除の為に使用される薬剤の食肉や鶏卵への残留の問題も懸念されている。
屋内外で癒しの対象として飼われる犬猫のペットに於いても、下痢は最も多く見られ、オーナーから敬遠されがちな疾患である。中でも、猫の下痢は治癒が困難な場合が多く、数週間以上継続し、慢性化しやすい。猫は屋外の溜まり水を好んで飲む為、コクシジウム、ジアルジア症等の日和見的原虫性疾患による下痢や、サルモネラ菌、キャンピロバクター菌等による細菌性下痢になり易く、また、牛乳や市販の缶詰め等による食物アレルギー性の下痢も多い。
【0004】
これらの下痢の治療法としては、止痢剤、鎮痛剤、抗生剤及び制吐剤等の医薬品が用いられるが、即効性が十分でなく、副作用も無視出来ない。整腸作用で知られている多くのオリゴ糖は腸内細菌の善玉菌を増やし、悪玉菌を減らす作用により便秘には効果的といわれているが、下痢に対しては即効性の面で十分ではない。一般的に植物繊維、特にペクチン系物質(ポリガラクツロン酸複合体)の高い含有率をもつ繊維が感染性および非感染性の下痢に対して有効な作用を示すことが知られているが、溶解性が低くアルコール等に懸濁させて用いられる為(特許文献1参照)、乳幼児や味覚が敏感な動物への経口投与は困難である。従って、投与が容易であり、安全性が高く、即効性のある下痢改善剤が望まれている。
酸性キシロオリゴ糖は、安全性及び水溶性に優れ、投与も容易である。既に多くの生理作用に基づいた提案(特許文献2及び特許文献3参照)がなされているが、下痢改善剤又は下痢予防剤としての報告はない。
【特許文献1】特表平11−503423号公報
【特許文献2】特開2004−182609号公報
【特許文献3】特開2004−059481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、下痢の治療並びに予防効果に優れた、ヒト及び動物に対して安全性の高い組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決する為、鋭意研究した結果、ウロン酸残基が付加した酸性キシロオリゴ糖組成物が優れた下痢改善又は下痢予防の効果を持つことを見出した。
上記課題を解決するため、以下の構成を採用する。即ち、本発明の第1は、「キシロオリゴ糖分子中にウロン酸残基を有する酸性キシロオリゴ糖を有効成分とすることを特徴とする下痢改善剤又は下痢予防剤」である。
本発明の第2は、前記第1発明において、「該酸性キシロオリゴ糖はキシロースの重合度が異なるオリゴ糖の混合組成物であり、平均重合度が2.0〜15.0であることを特徴とする下痢改善剤又は下痢予防剤」である。
本発明の第3は、前記第1または第2の発明において、「前記酸性キシロオリゴ糖が、「リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理してキシロオリゴ糖混合物を得、得られるキシロオリゴ糖混合物から、1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有するキシロオリゴ糖を分解して得たものであること特徴とする下痢改善剤又は下痢予防剤」である。
本発明の第4は、前記第1〜第3のいずれかの発明において、「ウロン酸がグルクロン酸もしくは4−O−メチル−グルクロン酸であることを特徴とする下痢改善剤又は下痢予防剤」である。
本発明の第5は、前記第1〜第4のいずれかの発明における、「下痢改善剤又は下痢予防剤を有効量含有することを特徴とする家畜用飼料」である。
本発明の第6は、前記第1〜第4のいずれかの発明における、「下痢改善剤又は下痢予防剤を有効量含有することを特徴とするペット用フード又はペット用機能性食品」である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、人体に対して安全性の高く、下痢改善剤作用および下痢予防作用を有する薬剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の構成について詳述するが、本発明はこれにより限定されるものではない。キシロオリゴ糖とは、キシロースの2量体であるキシロビオース、3量体であるキシロトリオース、あるいは4量体〜20量体程度のキシロースの重合体を言う。本発明で使用する酸性キシロオリゴ糖とは、キシロオリゴ糖1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を有するものを言う。
また、キシロースの重合度が異なるオリゴ糖の混合組成物であっても良い。一般的には、天然物から製造するために、このような組成物として得られることが多く、以下、主として酸性キシロオリゴ糖組成物について説明する。
【0009】
該組成物は、平均重合度で示す数値は正規分布または他の分布をとる酸性キシロオリゴ糖のキシロース鎖長の平均値で、2.0〜15.0が好ましく、2.0〜11.0がより好ましい。キシロース鎖長の上限と下限との差は20以下が好ましく、10以下がより好ましい。ウロン酸は天然では、ペクチン、ペクチン酸、アルギン酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルタマン硫酸等の種々の生理活性を持つ多糖の構成成分として知られている。本発明におけるウロン酸としては特に限定されないが、グルクロン酸もしくは4−0−メチル−グルクロン酸が好ましい。
【0010】
上記のような酸性キシロオリゴ糖組成物を得ることが出来れば、その製法は特に限定されないが、(1)木材からキシランを抽出し、それを酵素的に分解する方法(セルラーゼ研究会発行、セルラーゼ研究会報第16巻、2001年6月14日発行、p17−26)と、(2)リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理してキシロオリゴ糖混合物を得、得られるキシロオリゴ糖混合物から、1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有するキシロオリゴ糖を分離する方法が挙げられる。
特に、(2)の方法が5〜10量体のように比較的高い重合度のものを大量に安価に製造することが可能である点で好ましく、以下にその概要を示す。
【0011】
酸性オリゴ糖組成物は、化学パルプ由来のリグノセルロース材料を原料とし、加水分解工程、濃縮工程、希酸処理工程、精製工程を経て得ることができる。加水分解工程では、希酸処理、高温高圧の水蒸気(蒸煮・爆砕)処理もしくは、ヘミセルラーゼによってリグノセルロース中のキシランを選択的に加水分解し、キシロオリゴ糖とリグニンからなる高分子量の複合体を中間体として得る。濃縮工程では逆浸透膜等により、キシロオリゴ糖−リグニン様物質複合体が濃縮され、低重合度のオリゴ糖や低分子の夾雑物などを除去することができる。濃縮工程は逆浸透膜を用いることが好ましいが、限外濾過膜、塩析、透析などでも可能である。得られた濃縮液の希酸処理工程により、複合体からリグニン様物質が遊離し、酸性キシロオリゴ糖と中性キシロオリゴ糖を含む希酸処理液を得ることができる。この時、複合体から切り離されたリグニン様物質は酸性下で縮合し沈殿するのでセラミックフィルターや濾紙などを用いた濾過等により除去することができる。希酸処理工程では、酸による加水分解を用いることが好ましいが、リグニン分解酵素などを用いた酵素分解などでも可能である。
【0012】
精製工程は、限外濾過工程、脱色工程、吸着工程からなる。一部のリグニン様物質は可溶性高分子として溶液中に残存するが、限外濾過工程で除去され、着色物質等の夾雑物は活性炭を用いた脱色工程によってそのほとんどが取り除かれる。限外濾過工程は限外濾過膜を用いることが好ましいが、逆浸透膜、塩析、透析などでも可能である。こうして得られた糖液中には酸性キシロオリゴ糖と中性キシロオリゴ糖が溶解している。イオン交換樹脂を用いた吸着工程により、この糖液から酸性キシロオリゴ糖のみを取り出すことができる。糖液をまず強陽イオン交換樹脂にて処理し、糖液中の金属イオンを除去する。次いで強陰イオン交換樹脂を用いて糖液中の硫酸イオンなどを除去する。この工程では、硫酸イオンの除去と同時に弱酸である有機酸の一部と着色成分の除去も同時に行っている。強陰イオン交換樹脂で処理された糖液はもう一度強陽イオン交換樹脂で処理し更に金属イオンを除去する。最後に弱陰イオン交換樹脂で処理し、酸性キシロオリゴ糖を樹脂に吸着させる。
【0013】
樹脂に吸着した酸性オリゴ糖を、低濃度の塩(NaCl、CaCl、KCl、MgClなど)によって溶出させることにより、夾雑物を含まない酸性キシロオリゴ糖溶液を得ることができる。この溶液を、例えば、スプレードライや凍結乾燥処理により、白色の酸性キシロオリゴ糖組成物の粉末を得ることができる。
【0014】
化学パルプ由来のリグノセルロースを原料とし、キシロオリゴ糖とリグニンからなる高分子量の複合体を中間体とした酸性キシロオリゴ糖組成物の上記製造法のメリットは、経済性とキシロースの平均重合度の高い酸性キシロオリゴ糖組成物が容易に得られる点にある。平均重合度は、例えば、希酸処理条件を調節するか、再度ヘミセルラーゼで処理することによって変えることが可能である。また、弱陰イオン交換樹脂溶出時に用いる溶出液の塩濃度を変化させることによって、1分子あたりに結合するウロン酸残基の数が異なる酸性キシロオリゴ糖組成物を得ることもできる。さらに、適当なキシラナーゼ、ヘミセルラーゼを作用させることによってウロン酸結合部位が末端に限定された酸性キシロオリゴ糖組成物を得ることも可能である。
【0015】
本発明の酸性キシロオリゴ糖を配合した下痢改善剤又は下痢予防剤の摂取形態としては直接摂取しても良いが、飲料に添加したり食品に添加したりすることが出来る。直接摂取する場合は、粉体化しても良いし、打錠により錠剤化しても良い。
本発明に於ける酸性キシロオリゴ糖を配合した下痢改善剤又は下痢予防剤は、他の食品、経腸栄養剤、他の栄養成分、或いは医薬品と混合して医療用食品として使用することが出来る。また、一般的に医薬部外品や医薬品に使用される成分と混合し、医薬部外品や医薬品としても提供することも出来る。なお、上述の食品、医療用食品及び医薬品の対象としては、ヒトだけではなく、犬や猫のペット用の食品や機能性食品、家畜用飼料としても用いることが可能である。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。また、本実施例では断りのない場合、%は質量%を示す。
まず、各測定法の概要、本発明で有効成分として含有させた酸性キシロオリゴ糖(UX10、UX5、UX2)の調製例1〜3を示す。
<測定法の概要>
(1) 全糖量の定量
全糖量は検量線をD−キシロース(和光純薬工業(株)製)を用いて作製し、フェノール硫酸法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)にて定量した。
(2) 還元糖量の定量
還元糖量は検量線をD−キシロース(和光純薬工業(株)製)を用いて作製、ソモジ−ネルソン法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)にて定量した。
(3) ウロン酸量の定量
ウロン酸は検量線をD−グルクロン酸(和光純薬工業(株)製)を用いて作製、カルバゾール硫酸法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)にて定量した。
(4) 平均重合度の決定法
サンプル糖液を50℃に保ち15,000rpmにて15分遠心分離し不溶物を除去し上清液の全糖量を還元糖量(共にキシロース換算)で割って平均重合度を求めた。
(5) 酸性キシロオリゴ糖の分析方法:
オリゴ糖鎖の分布はイオンクロマトグラフ(ダイオネクス社製、分析用カラム:Carbo Pac PA−10)を用いて分析した。分離溶媒には100mM NaOH溶液を用い、溶出溶媒には前述の分離溶媒に酢酸ナトリウムを500mMとなるように添加し、溶液比で、分離溶媒:溶出溶媒=10:0〜4:6となるような直線勾配を組み分離した。得られたクロマトグラムより、キシロース鎖長の上限と下限との差を求めた。
(6) オリゴ糖1分子あたりのウロン酸残基数の決定法
サンプル糖液を50℃に保ち15,000rpmにて15分遠心分離し不溶物を除去し上清液のウロン酸量(D−グルクロン酸換算)を還元糖量(キシロース換算)で割ってオリゴ糖1分子あたりのウロン酸残基数を求めた。
(7) 酵素力価の定義
酵素として用いたキシラナーゼの活性測定にはカバキシラン(シグマ社製)を用いた。酵素力価の定義はキシラナーゼがキシランを分解することで得られる還元糖の還元力をDNS法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)を用いて測定し、1分間に1マイクロモルのキシロースに相当する還元力を生成させる酵素量を1ユニットとした。
【0017】
<調整例:酸性キシロオリゴ糖の調製例>
<調製例1>
混合広葉樹チップ(国内産広葉樹70%、ユーカリ30%)を原料として、クラフト蒸解及び酸素脱リグニン工程により、酸素脱リグニンパルプスラリー(カッパー価9.6、パルプ粘度25.1cps)を得た。スラリーからパルプを濾別、洗浄した後、パルプ濃度10%、pH8に調製したパルプスラリーを用いて以下のキシラナーゼによる酵素処理を行った。
バチルスsp.S−2113株(独立行政法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センター、寄託菌株FERM BP-5264)の生産するキシラナーゼを1単位/パルプgとなるように添加した後、60℃で120分間処理した。その後、濾過によりパルプ残渣を除去し、酵素処理液1050Lを得た。
次に、得られた酵素処理液を濃縮工程、希酸処理工程、精製工程の順に供した。
濃縮工程では、逆浸透膜(日東電工(株)製、RO NTR−7410)を用いて濃縮液(40倍濃縮)を調製した。希酸処理工程では、得られた濃縮液のpHを3.5に調整した後、121℃で60分間加熱処理し、リグニンなどの高分子夾雑物の沈殿を形成させた。さらに、この沈殿をセラミックフィルター濾過で取り除くことにより、希酸処理溶液を得た。
精製工程では、限外濾過・脱色工程、吸着工程の順に供した。限外濾過・脱色工程では、希酸処理溶液を限外濾過膜(オスモニクス社製、分画分子量8000)を通過させた後、活性炭(和光純薬(株)製)770gの添加及びセラミックフィルター濾過により脱色処理液を得た。吸着工程では、脱色処理液を強陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製PK218)、強陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製PA408)、強陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製PK218)各100kgを充填したカラムに順次通過させた後、弱陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製WA30)100kgを充填したカラムに供した。この弱陰イオン交換樹脂充填カラムから75mM NaCl溶液によって溶出した溶液をスプレードライ処理することによって、酸性キシロオリゴ糖の粉末(全糖量353g、回収率13.1%)を得た。以下、この酸性キシロオリゴ糖をUX10とする。前述の測定方法により、UX10は平均重合度10.3、キシロース鎖長の上限と下限との差は10、酸性キシロオリゴ糖1分子あたりウロン酸残基を1つ含む糖組成化合物であった。
【0018】
<調製例2>
調整例1と同様にして得られた希酸処理液1160mlに、スミチームX(新日本化学工業(株)製のキシラナーゼ)28mgを添加し、40℃で20時間の反応させた。加熱処理(70℃、1時間)により酵素を失活させた後、スミチームX処理液を調整例1と同様の精製工程を経て、酸性キシロオリゴ糖粉末(全糖量21.3g、回収率22.2%)を得た。以下、この酸性キシロオリゴ糖をUX5とする。前述の測定方法により、UX5は平均重合度4.8、キシロース鎖長の上限と下限との差は9、酸性キシロオリゴ糖1分子あたりウロン酸残基を1つ含む糖組成化合物であった。
【0019】
<調製例3>
調整例1より得られたUX10の10%水溶液100mlに、スミチームX(新日本化学工業(株)製のキシラナーゼ)50mgを添加し、60℃、20時間反応後、弱アニオン交換樹脂(WA30)10gを充填したカラムに供した。カラムを水洗した後、75mM NaCl溶液によって溶出した溶液を凍結乾燥することによって、酸性キシロオリゴ糖粉末(全糖量2.1g、回収率21%)を得た。以下、この酸性キシロオリゴ糖をUX2とする。前述の測定方法により、UX2は平均重合度2.3、キシロース鎖長の上限と下限との差は2、酸性キシロオリゴ糖1分子あたりウロン酸残基を1つ含む糖組成化合物であった。
【0020】
<実施例1>
サルモネラ菌(Salmonella typhimurium)感染群から、10羽の鶏を選択した。これらの鶏を2つに群分けし、同一鶏舎にて飼育した。A群は、標準的なブロイラー用配合飼料、即ち、とうもろこし、こうりゃん、小麦、大裸麦、米、エン麦、ふすま、米ぬか、大豆油かす、菜種油かす、魚かす、魚粉、脱脂粉乳等から選択される飼料で飼育した。B群は、3%の酸性キシロオリゴ糖を配合した同配合飼料で飼育した。9日後に、鶏の盲腸内のサルモネラ菌の菌数をサルモネラ菌用寒天培地(DCM001 マイクロバイオ株式会社)を用いて測定した。A群の鶏は依然として、サルモネラ菌に感染していたが、B群の鶏からサルモネラ菌は検出されなかった。
【0021】
<実施例2>
サルモネラ菌(Salmonella typhimurium)非感染群から、10羽の鶏を選択した。これらの鶏を2つに群分けし、同一鶏舎にて飼育した。A群は、標準的なブロイラー用配合飼料、即ち、とうもろこし、こうりゃん、小麦、大裸麦、米、エン麦、ふすま、米ぬか、大豆油かす、菜種油かす、魚かす、魚粉、脱脂粉乳等から選択される配合飼料に、サルモネラ菌(Salmonella typhimurium)を混和した飼料で飼育した。B群は、同配合飼料にサルモネラ菌(Salmonella typhimurium) 及び3%の酸性キシロオリゴ糖を混和した飼料で飼育した。9日後に、鶏の盲腸内のサルモネラ菌の菌数をサルモネラ菌用寒天培地(DCM001 マイクロバイオ株式会社)を用いて測定した。A群の鶏はサルモネラ菌に感染していたが、B群の鶏からサルモネラ菌は検出されなかった。
【0022】
<実施例3>
下痢症状を示し、元気のない猫20匹を選択した。これらの猫を2つに群分けし、A群は標準的な猫用ペットフード、即ち9%以上の粗蛋白質、2%以上の粗脂肪、1%以下の粗繊維質を含むキャットフードであるオーシャンフィッシュ缶(Natural Balance社)で、群Bは3%の酸性キシロオリゴ糖を配合した同一の猫用ペットフードを与えて6日間飼育した。投与開始後の各時期の獣医師による下痢及びQOLの所見「著明改善(劇的に改善)、改善(明らかに改善)、やや改善(何らかの改善)、不変、悪化」をもとに、改善状況を診断した(表1)。A群は下痢症状が回復することはなく、一匹の猫は下痢による脱水症状を示して衰弱が進み、死亡した。B群のすべての猫に於いて、4日までに下痢症状及びQOLの著しい改善が見られた。
【0023】
【表1】

【0024】
<実施例4>
<安全性試験>
酸性キシロオリゴ糖の安全性試験として、皮膚刺激性試験、急性経口毒性試験を実施した。
<皮膚刺激性試験>
2質量%の酸性キシロオリゴ糖(UX2、UX5、UX10)水溶液100μlを、各々、除毛後のC3Hマウス(雄、6週齢、日本チャールズリバー(株)製)の背皮に、約1ヶ月間、連続塗布した(1回/日、各群10匹)。塗布期間及び塗布終了後の2週間、マウス背皮において、紅斑、浮腫、炎症等の異常は特に観察されなかった。また、ブランク(水塗布群)と比較し、体重推移においても有意差(P<0.05)が認められなかった。
<急性経口毒性試験>
60質量%の酸性キシロオリゴ糖(UX2、UX5、UX10)水溶液を、各々、ICR系マウス(雄、6週齢、日本チャールズリバー(株)製)に胃ゾンデを用いて、経口投与した(投与量:5g/マウス体重1kg、各群10匹)。投与してから2週間後まで、死亡例はなかった。又、体重推移においてもブランク(水投与群)と比較し、有意差(P<0.05)が認められなかった。
【0025】
<実施例5>
<安定性試験>
60質量%の酸性キシロオリゴ糖(UX2、UX5、UX10)水溶液を調整後、室温で保存した。調製直後、及び、1ヶ月保存後の酸性キシロオリゴ糖水溶液をイオンクロマトグラムで分析した。1ケ月保存後のサンプルのクロマトグラムのパターンは、調製直後のサンプルと比較して変化はなかった。又、クロマトグラムの各ピークの面積の差は、1ケ月保存後のサンプルと調製直後のサンプルの間で、5%未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明により、下痢改善又は下痢予防効果に優れた、安全性の高い組成物が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キシロオリゴ糖分子中にウロン酸残基を有する酸性キシロオリゴ糖を有効成分とする下痢改善剤又は下痢予防剤。
【請求項2】
前記酸性キシロオリゴ糖がキシロースの重合度が異なるオリゴ糖の混合組成物であり、平均重合度が2.0〜15.0であることを特徴とする請求項1記載の下痢改善剤又は下痢予防剤。
【請求項3】
前記酸性キシロオリゴ糖が、「リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理してキシロオリゴ糖混合物を得、得られるキシロオリゴ糖混合物から、1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有するキシロオリゴ糖を分解して得たもの」であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の下痢改善剤又は下痢予防剤。
【請求項4】
ウロン酸が、グルクロン酸もしくは4−O−メチル−グルクロン酸であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の下痢改善剤又は下痢予防剤。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載された下痢改善剤又は下痢予防剤を有効量含有することを特徴とする家畜用飼料。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載された下痢改善剤又は下痢予防剤を有効量含有することを特徴とするペット用フード又はペット用機能性食品。


【公開番号】特開2007−22968(P2007−22968A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−208491(P2005−208491)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】