説明

下面ビール酵母株の選抜に用いるポリヌクレオチド、プローブ及びプライマーセット並びに下面ビール酵母株の選抜方法及び発泡性アルコール飲料の製造方法

【課題】硫化水素産生能が低い下面ビール酵母(S. pastorianus)株の選抜に用いるポリヌクレオチド、プローブ及びプライマーセットを提供し、さらには、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株を選抜する方法及び硫化水素含有量の少ない発泡性アルコール飲料の製造方法を提供すること。
【解決手段】以下の(a)〜(c)のいずれかに示される、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母(S. pastorianus)株の選抜に用いるポリヌクレオチド。(a)開示する特定の塩基配列からなるポリヌクレオチド(b)上記(a)に記載のポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチド(c)上記(a)又は(b)に記載のポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
硫化水素産生能が低い下面ビール酵母(S. pastorianus)株の選抜に用いるポリヌクレオチド、プローブ及びプライマーセット並びに硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株の選抜方法及び硫化水素含有量の少ない発泡性アルコール飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含硫化合物は、酵母を利用して醸造するアルコール飲料の香味に負の影響を与えることが知られ、酵母の含硫化合物の生成を抑制することは、アルコール飲料の品質の安定及び向上に役立つことが知られている。特に、発泡酒・雑酒に代表される低窒素麦汁を発酵させて醸造するアルコール飲料の場合には、硫黄臭の原因となる硫化水素が最終製品中に残存し、アルコール飲料の香味や品質に悪影響を与えることが問題となっている。このため、アルコール飲料の醸造に適した硫化水素低産酵母株の探索がなされてきた。
【0003】
例えば、ワインの醸造に使用するワイン酵母では、硫化水素産生能が低い酵母株として、含硫アミノ酸アナログ(例えば、エチオニン、セレノメチオニン及びS−エチルシステイン)の耐性株が報告された(特許文献1)。
【0004】
また、ビールの醸造に使用される下面ビール酵母では、主発酵工程における麦汁中のメチオニン濃度又はアンモニウムイオン濃度を高めることで、硫化水素の生成を抑えられることが報告された(非特許文献1)。
【0005】
さらに、遺伝子組み換え技術を用いて硫化水素産生能の低い酵母株を作成した例として、1)硫化水素を生成しないS. cerevisiae X−2180株からクローニングした硫化水素生成抑制遺伝子を下面ビール酵母に遺伝子導入した酵母株(特許文献2、特許文献3)、2)硫化水素の前駆体である亜硫酸を菌体外に排出する蛋白質をコードするSSU1遺伝子を高発現させた酵母株(特許文献4)、3)硫化水素から硫黄原子をO-アセチルホモセリンに転移する酵素をコードする遺伝子を高発現させた酵母株(特許文献5)、が報告された。
【特許文献1】特願平7−50331号公報
【特許文献2】特願平3−63710号公報
【特許文献3】特許平4−81429号公報
【特許文献4】特願2003−299202号公報
【特許文献5】特願平6−99855号公報
【非特許文献1】J. ASBC、2004年、62巻、1号、p.35−41
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、発酵液に含硫アミノ酸アナログを添加したり、発酵液のメチオニン濃度又はアンモニウムイオン濃度を高めたりすることで、発酵過程における酵母の硫化水素生成量を減少させても、発酵速度の低下や香味成分等の減少が引き起こされ、好ましくない醸造特性が付与される問題があった。また、遺伝子組み換え技術によって作成された酵母株は、天然の酵母には存在しない異種生物のプロモーター遺伝子や薬剤耐性遺伝子等が使用されているため、安全性の観点から、ヒトが飲用するアルコール飲料等の醸造に使用することは困難であった。さらに、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母の選抜に用いるマーカー遺伝子の報告はほとんどなく、これらを利用した硫化水素産生能が低い下面ビール酵母の選抜方法については報告がないのが現状であった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母(S. pastorianus)株の選抜に用いるポリヌクレオチド、プローブ及びプライマーセットを提供することにあり、さらには、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株を選抜する方法及び硫化水素含有量の少ない発泡性アルコール飲料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、以下の(a)〜(c)のいずれかに示される、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母(S. pastorianus)株の選抜に用いるポリヌクレオチドを提供する。
(a)配列表の配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(b)上記(a)に記載のポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチド
(c)上記(a)又は(b)に記載のポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
【0009】
また、本発明は、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母(S. pastorianus)株の選抜に用いるプローブであって、配列表の配列番号1に示される塩基配列若しくはこれと相補的な塩基配列、に含まれる連続した少なくとも20bp以上の塩基配列、又は、これらの塩基配列からなるプローブとストリンジェントな条件でハイブリダイズする少なくとも20bp以上の塩基配列、を含むプローブを提供する。
【0010】
本発明のポリヌクレオチド及びプローブは、配列表の配列番号1に示される塩基配列を含む下面ビール酵母特有の遺伝子の発現量を調べるために使用できる。また、この遺伝子の発現量が低い下面ビール酵母株は、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株であるため、本発明のポリヌクレオチド及びプローブは、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株の選抜に使用できる。
【0011】
ここで、上記(a)に記載した配列表の配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドは、配列表の配列番号2叉は3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドであってもよく、配列表の配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドの場合と同様に硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株の選抜に使用できる。
【0012】
また、本発明は、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母(S. pastorianus)株の選抜に用いるプライマーセットであって、配列表の配列番号4に示される塩基配列を含むプライマーと、配列表の配列番号5に示される塩基配列を含むプライマーとから構成される、プライマーセットを提供する。
【0013】
本発明のプライマーセットを用いれば、配列表の配列番号1に記載の塩基配列を含む、下面ビール酵母の硫化水素産生能のマーカーとなる下面ビール酵母遺伝子を、PCRでpastorianus種特異的に増幅できる。また、この遺伝子の発現量が低い下面ビール酵母株は、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株であるため、本発明のプライマーセットは、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株の選抜に利用できる。
【0014】
ここで、上記の配列表の配列番号4に示される塩基配列を含むプライマーと配列表の配列番号5に示される塩基配列を含むプライマーとから構成されるプライマーセットは、配列表の配列番号6に示される塩基配列を含むプライマーと配列表の配列番号7に示される塩基配列を含むプライマーとから構成されるプライマーセット、叉は配列表の配列番号8に示される塩基配列を含むプライマーと配列表の配列番号9に示される塩基配列を含むプライマーとから構成されるプライマーセットであってもよく、配列表の配列番号4に示される塩基配列を含むプライマーと配列表の配列番号5に示される塩基配列を含むプライマーとから構成されるプライマーセットの場合と同様に硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株の選抜に使用できる。
【0015】
また、本発明は、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母(S. pastorianus)株の選抜方法であって、配列表の配列番号1に示される塩基配列を含む遺伝子の発現量を発酵途中の下面ビール酵母株間で比較する比較ステップと、この遺伝子の発現量が低い又は発現が認められない下面ビール酵母株を、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株であると判断する判断ステップと、を少なくとも備える選抜方法を提供する。
【0016】
さらに、上記の比較ステップは、発酵途中の下面ビール酵母株からトータルRNAを抽出するステップと、このトータルRNAからcDNAを得るステップと、このcDNAを鋳型に上記のプライマーセットを用いてPCRを行うステップと、を備える比較ステップであり、上記の判断ステップは、このPCRにおいて、配列表の配列番号1に示される塩基配列の第341番目から第1195番目の塩基配列からなるDNA断片の増幅量が低い又は増幅が認められない下面ビール酵母株を硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株であると判断する判断ステップであることが好ましい。
【0017】
本発明の選抜方法を用いれば、発酵液に含硫アミノ酸アナログを添加したり、発酵液のメチオニン濃度又はアンモニウムイオン濃度を高めたりすることなく、また、酵母の遺伝子を人為的に組み換えることなく、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株を選抜できる。さらに、こうして選抜された下面ビール酵母株を用いてアルコール飲料を醸造すれば、硫黄臭の原因となる硫化水素のアルコール飲料中への残存を防ぐことができ、アルコール飲料の香味や品質に及ぼす悪影響を防ぐことができる。
【0018】
ここで、上記のプライマーセットを、配列表の配列番号4に示される塩基配列を含むプライマーと配列表の配列番号5に示される塩基配列を含むプライマーとから構成されるプライマーセット以外に、配列表の配列番号6に示される塩基配列を含むプライマーと配列表の配列番号7に示される塩基配列を含むプライマーとから構成されるプライマーセット、叉は配列表の配列番号8に示される塩基配列を含むプライマーと配列表の配列番号9に示される塩基配列を含むプライマーとから構成されるプライマーセットとし、上記のPCRにおいて、それぞれ配列表の配列番号2に示される塩基配列の第2821番目から第3384番目の塩基配列からなるDNA断片、叉は配列表の配列番号3に示される塩基配列の第247番目から第697番目の塩基配列からなるDNA断片、の増幅量を調べても、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株を選抜できる。
【0019】
また、本発明は、上記の選抜方法で選抜された下面ビール酵母株を用いた、硫化水素含有量が少ない発泡性アルコール飲料の製造方法を提供する。
【0020】
本発明の製造方法を用いれば、硫黄臭の原因となる硫化水素が最終製品中への残存を防ぐことができ、さらに、最終製品から硫化水素を取り除く作業が短縮できるため、醸造期間の短縮が可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のポリヌクレオチド、プローブ及びプライマーセットを用いれば、下面ビール酵母の硫化水素産生能のマーカーとなる下面ビール酵母遺伝子をpastorianus種特異的に検出し、かつ定量でき、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株を選抜できる。また、本発明の選抜方法によれば、下面ビール酵母の硫化水素産生を抑制するために必要な物質を発酵液に添加したり、人為的に遺伝子を組み換えた下面ビール酵母株を用いることなく、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株を選抜できる。こうして選抜された下面ビール酵母株を用いてアルコール飲料を醸造すれば、硫黄臭の原因となる硫化水素のアルコール飲料中への残存を防ぐことができ、醸造期間の短縮も可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0023】
本発明のポリヌクレオチドは、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株の選抜に用いるポリヌクレオチドであって、以下の(a)〜(c)のいずれかのヌクレオチドであることを特徴としている。
(a)配列表の配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(b)上記(a)に記載のポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチド
(c)上記(a)又は(b)に記載のポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
【0024】
ここで、「下面ビール酵母」とは、学名がSaccharomyces pastorianusに分類される酵母のことをいい、ビールの醸造に使用した場合に、主発酵後期に凝集沈降する性質を有する酵母である。従来は、下面ビール酵母の学名として、S. carlsbergensisが使用されていたが、現在は、S. carlsbergensisはS. pastorianusに改名され、「下面ビール酵母」の学名は、S. pastorianusに統一されている。
【0025】
「ポリヌクレオチド」とは、プリン塩基又はピリミジン塩基が糖にβ−N−グリコシド結合したヌクレオシドのリン酸エステル(リボヌクレオチド叉はデオキシリボヌクレオチド)が複数個結合した分子のことをいう。
【0026】
「硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株」とは、下面ビール酵母の発酵過程で硫化水素を産生する能力が低いか又は欠損している下面ビール酵母株のことをいい、複数の下面ビール酵母株間で発酵液中の硫化水素含量を比較した場合に、比較対照とする下面ビール酵母株よりも硫化水素の生成量が低い酵母株が該当する。例えば、対照とする下面ビール酵母株としては、W34/70株が挙げられる。W34/70株は、ビール等の発泡性アルコール飲料の醸造に汎用されている下面ビール酵母株である。
【0027】
「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、例えば、50%ホルムアミド、5×SSC(150mM NaCl、15mM クエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハーツ溶液、10%デキストラン硫酸、及び20μg/mlのDNAを含む溶液中、42℃で一晩ハイブリダイゼーションした後、室温で2×SSC・0.1%SDS中で一次洗浄し、次いで、約65℃において0.1×SSC・0.1%SDSで二次洗浄した後においてもハイブリダイズしていることをいう。
【0028】
上記の(a)〜(c)のいずれかに示されるポリヌクレオチドは、例えば、Molecular cloning(Maniatisら、1989年、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス)に記載された方法に従って、配列表の配列番号1の塩基配列情報をもとに合成した標識cDNAプローブを用いて、下面ビール酵母のcDNAライブラリー又はゲノムライブラリーからクローニングできる。
【0029】
さらに、上記の(a)〜(c)のいずれかに示されるポリヌクレオチドは、下面ビール酵母から抽出したトータルRNA又はポリARNAを鋳型として配列表の配列番号1の塩基配列情報をもとにデザインしたプライマーセットを用いれば、RT−PCR法で合成できる。さらに、上記の(a)〜(c)のいずれかに示されるポリヌクレオチドの部分配列をDNA合成機で合成し、酵素的手法及びサブクローニングの手法を使ってつなぎ合わせ、目的とするサイズのポリヌクレオチドを作成することもできる。
【0030】
また、上記の方法を用いれば、配列表の配列番号2叉は3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドも同様に取得できる。
【0031】
本発明のプローブは、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株の選抜に用いるプローブであって、配列表の配列番号1に示される塩基配列若しくはこれと相補的な塩基配列、に含まれる連続した少なくとも20bp以上の塩基配列、又は、これらの塩基配列からなるプローブとストリンジェントな条件でハイブリダイズする少なくとも20bp以上の塩基配列、を含むことを特徴とする。
【0032】
「プローブ」とは、相補的な配列を有するmRNAの発現やcDNAあるいはゲノムDNAの検出に用いるポリヌクレオチドのことをいい、配列表の配列番号1の塩基配列情報をもとに、上記のポリヌクレオチドの取得方法によって取得できる。プローブの長さは、20bp以上であれば好ましく使用できるが、より好ましくは100bp〜500bpであり、さらに好ましくは250bp〜1.5kbpである。
【0033】
また、上記の方法を用いれば、配列表の配列番号2叉は3に示される塩基配列若しくはこれと相補的な塩基配列、に含まれる連続した少なくとも20bp以上の塩基配列、又は、これらの塩基配列からなるプローブとストリンジェントな条件でハイブリダイズする少なくとも20bp以上の塩基配列、を含むプローブも同様に取得できる。
【0034】
本発明のプライマーセットは、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株の選抜に用いるプライマーセットであって、配列表の配列番号4に示される塩基配列を含むプライマーと、配列表の配列番号5に示される塩基配列を含むプライマーとから構成されることを特徴とする。
【0035】
このプライマーセットは、配列表の配列番号4の塩基配列情報をもとに、それぞれDNA合成機で合成できる。
【0036】
また、DNA合成機を用いれば、配列表の配列番号6に示される塩基配列を含むプライマーと配列表の配列番号7に示される塩基配列を含むプライマーとから構成されるプライマーセット、叉は配列表の配列番号8に示される塩基配列を含むプライマーと配列表の配列番号9に示される塩基配列を含むプライマーとから構成されるプライマーセットも、それぞれ合成できる。
【0037】
本発明の硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株の選抜方法は、配列表の配列番号1に示される塩基配列を含む遺伝子の発現量を発酵途中の下面ビール酵母株間で比較する比較ステップと、この遺伝子の発現量が低い又は発現が認められない下面ビール酵母株を、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株であると判断する判断ステップとを少なくとも備えることを特徴とする。
【0038】
比較ステップでは、発酵途中の下面ビール酵母株からトータルRNAを抽出し、配列表の配列番号1に示される塩基配列を含む遺伝子の発現量を、RT−PCR、ノーザンブロッティング又はマイクロアレイ等の手法により検出し、定量して比較できる。
【0039】
例えば、発酵途中の下面ビール酵母株からトータルRNAを抽出し、このトータルRNAからcDNAを取得し、このcDNAを鋳型に配列表の配列番号4及び5記載のプライマーセットを用いてPCRを行うことで、配列表の配列番号1に示される塩基配列を含む遺伝子の発現量を検出し、定量して比較できる。
【0040】
判断ステップでは、比較ステップで実施されたRT−PCR、ノーザンブロッティング又はマイクロアレイ等の手法により得られた配列表の配列番号1に示される塩基配列を含む遺伝子の発現量を比較した結果、発現量の低い下面ビール酵母株を硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株であると判断すればよい。例えば、対照とする下面ビール酵母株としてW34/70株を用い、配列表の配列番号1に示される塩基配列を含む遺伝子の発現量が、W34/70株よりも低い下面ビール酵母株を硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株であると判断できる。
【0041】
例えば、配列表の配列番号4及び5記載のプライマーセットを用いたRT−PCRにおいて、配列表の配列番号1に示される塩基配列の第341番目から第1195番目の塩基配列からなるDNA断片の増幅量が低い又は増幅が認められない下面ビール酵母株を、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株であると判断すればよい。
【0042】
また、上記のプライマーセットの代わりに、配列表の配列番号6に示される塩基配列を含むプライマーと配列表の配列番号7に示される塩基配列を含むプライマーとから構成されるプライマーセット、叉は配列表の配列番号8に示される塩基配列を含むプライマーと配列表の配列番号9に示される塩基配列を含むプライマーとから構成されるプライマーセットを使用し、上記のPCRにおいて、それぞれ配列表の配列番号2に示される塩基配列の第2821番目から第3384番目の塩基配列からなるDNA断片、叉は配列表の配列番号3に示される塩基配列の第247番目から第697番目の塩基配列からなるDNA断片、の増幅量を調べ、比較及び判断することによっても、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株を選抜できる。
【0043】
次に、本発明の硫化水素含有量が少ない発泡性アルコール飲料の製造方法について説明する。
【0044】
本発明の発泡性アルコール飲料の製造方法は、発泡性アルコール飲料の醸造過程で上記の選抜方法で選抜された硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株を使用することを特徴とする。例えば、ビール等の麦芽を主原料とする発泡性アルコール飲料の製造方法は、糖化工程、発酵工程、濾過工程を備えるが、発酵工程で上記の硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株を使用すること以外は通常と同じ工程作業をすれば、硫化水素含有量が少ない発泡性アルコール飲料を製造できる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
1.発酵試験
下面ビール酵母(S. pastorianus)を用いた発酵試験を以下の条件で行った。
・麦汁エキス濃度: 約11%
・麦汁容量: 2.5L
・麦汁溶存酸素濃度: 約5〜10ppm
・発酵温度: 15℃
・下面ビール酵母投入量:20〜24g湿酵母菌体
・メチオニン添加量:麦汁容量に対して20ppm又は無添加
【0047】
図1は、20ppmのメチオニンを麦汁に添加して発酵させた場合(以下、Met20ppm試験区)とメチオニンを添加することなく麦汁中で発酵させた場合(以下、対照区)の発酵過程における仮性エキスの量(重量%)を経時的に示したグラフである。ここで、仮性エキスとは、麦汁中に残存する糖分のことをいう。麦汁中の糖分は発酵が進むに連れて消費されるため、仮性エキスを指標に発酵経過を観察できる。仮性エキス(E)は、発酵液の比重(SG)を測定することにより、E(重量%)=−460.234+662.649SG−202.414SGの式から算出した。この結果、Met20ppm試験区及び対照区の仮性エキスはほとんど同じペースで消費され、いずれも同じ発酵経過を辿ることが確認された。
【0048】
図2は、Met20ppm試験区及び対照区の発酵過程における浮遊酵母数を経時的に示したグラフである。この結果、Met20ppm試験区の浮遊細胞数は、対照区と比較してやや少ない傾向が認められるものの、浮遊細胞数は、いずれも発酵開始後19時間目にピークを迎え、120時間目まで減少していくことが確認された。
【0049】
図3は、Met20ppm試験区及び対照区の発酵過程における硫酸イオンの消費量を経時的に示したグラフである。この結果、Met20ppm試験区は、対照区と比較して硫酸イオンの消費が顕著に抑制されることが明らかとなった。
【0050】
図4は、Met20ppm試験区及び対照区の発酵過程における亜硫酸の生成量を経時的に示したグラフである。この結果、Met20ppm試験区は、対照区と比較して亜硫酸の生成が顕著に抑制されることが明らかとなった。
【0051】
図5は、Met20ppm試験区及び対照区の発酵過程及び貯酒終了時の硫化水素の生成量を経時的に示したグラフである。この結果より、Met20ppm試験区は、対照区と比較して硫化水素の生成が顕著に抑制されることが明らかとなった。
【0052】
以上より、20ppmのメチオニンを麦汁に添加して下面ビール酵母を発酵させると、硫化水素の生成が顕著に抑制されることが明らかとなった。そこで、硫化水素の生成が顕著に抑制されたMet20ppm試験区の酵母で、対照区の酵母と比較して有意に発現量が変化した遺伝子を以下のようにして探索した。
【0053】
2.遺伝子の発現解析
まず、Met20ppm試験区及び対照区の浮遊酵母数がピークとなる発酵開始後19時間目に酵母をそれぞれ回収し、Met20ppm試験区の酵母で、対照区の酵母と比較して有意に発現量が変化する遺伝子をマイクロアレイで解析した。
【0054】
1)トータルRNAの抽出:
まず、それぞれの酵母(約1g)を遠心チューブに入れ、遠心チューブごと液体窒素で凍結させた。その後、凍結した酵母をクライオプレス(マイクロテック・ニチオン社製)で磨砕し、そこに約10mlのIsogenTM(ニッポンジーン社製)を加え、付属のマニュアルに従ってトータルRNAを精製した。
【0055】
こうして得られたトータルRNAは、吸光度を測定して濃度を算出し、バイオアナライザー(Agilent 2100 Bioanalyzer)で、RNAの分解が生じていないことを確認した。
【0056】
2)蛍光色素による標識:
次に、それぞれのトータルRNAにオリゴdTプライマーをアニールさせ、aminoallyl−dUTP存在下で逆転写反応を行い、得られたcDNAにカップリング反応(間接標識法)でCyanine色素を結合させ、蛍光標識cDNAを調製した。その際、Met20ppm試験区のcDNAはCy3で標識し、対照区のcDNAはCy5で標識した。
【0057】
3)マイクロアレイ:
マイクロアレイは、下面ビール酵母(S. pastorianus)ゲノムライブラリーの約20,000個のプラスミドクローン(それぞれ約2.5kbpのゲノムDNA断片を含む)をガラス基板上に固定した下面ビール酵母マイクロアレイを用いた。下面ビール酵母ゲノムライブラリーは、「酵母遺伝子実験マニュアル」(大矢禎一監修、丸善株式会社、p.113−119)に従って作成した。下面ビール酵母マイクロアレイは、得られた約20,000個のプラスミドクローンをアルカリ固定液に溶解し、ポリリジンで処理されたガラス基板上にスポッティングして作成した。
【0058】
4)ハイブリダイゼーション:
それぞれの蛍光標識cDNAは、上述した下面ビール酵母マイクロアレイと62℃の恒温槽で14時間ハイブリダイズさせた。その後、蛍光標識cDNAがハイブリダイズした下面ビール酵母マイクロアレイを洗浄して、非特異的に吸着した蛍光標識cDNAを取り除いた。ハイブリダイゼーション及びその後の洗浄方法については、「DNAアレイと最新PCR法」(秀潤社)に記載された方法に従って行った。
【0059】
5)蛍光強度の測定:
ハイブリダイゼーション後の下面ビール酵母マイクロアレイは、スライドスキャナー(Agilent Scanner;Agilent社)にセットし、そのマイクロアレイ上の下面ビール酵母のゲノムDNA(以下、プローブ)にハイブリダイズした蛍光標識cDNAの蛍光シグナルを画像データとして取り込んだ。この画像データは、専用ソフトFeatureExtraction(Agilent社)で数値データに変換して解析した。
【0060】
6)プローブの塩基配列解析及び遺伝子の機能推定(アノテーション):
上記の発酵試験及び遺伝子発現解析は繰り返して3回行い、下面ビール酵母マイクロアレイによる解析で得られた数値データに基づいてクラスタリングした。
【0061】
表1は、対照区と比較してMet20ppm試験区で遺伝子の発現が有意に変動したプローブの数を示した表である。
【0062】
【表1】

【0063】
その結果、20ppmのメチオニンの添加により遺伝子の発現が有意に上昇したプローブは80個検出され、有意に減少したプローブは7個検出された。
【0064】
そこで、20ppmのメチオニンの添加により遺伝子の発現が有意に減少した7個のプローブ(クローン番号:SBc35D14、SBc13J08、SBc19H14、SBc20C15、SBc49K07、SBc36O04、SBc38J24)について塩基配列の決定を行い、この塩基配列に基づいて遺伝子の機能推定(アノテーション)を行った。アノテーションは、S. cerevisiae及びS. bayanusのゲノムデータベースを用い、7つのプローブの塩基配列とホモロジーを有する遺伝子をDNASIS Proで検索して行った。S. cerevisiae及びS. bayanusのゲノムデータベースは、NCBIのweb siteからダウンロードして用いた。尚、下面ビール酵母(S. pastorianus)遺伝子の塩基配列情報はほとんど報告がなく、利用できる下面ビール酵母ゲノムデータベースはなかった。
【0065】
表2は、対照区と比較してMet20ppm試験区で遺伝子の発現が有意に減少した7プローブのアノテーション結果を示した表である。
【0066】
【表2】

【0067】
その結果、7プローブ中3プローブの下面ビール酵母ゲノムクローン(SBc13J08、SBc13J08及びSBc19H14)の塩基配列は同一遺伝子由来のゲノムクローンであった。これにより、今回見出した20ppmのメチオニンの添加で有意に発現が抑制される遺伝子は5種類であった。
【0068】
アノテーションの結果からは、SBc36O04及びSBc38J24は、それぞれS. cerevisiaeのMET6遺伝子及びCYS4(STR4)遺伝子と100%の相同性があることが明らかとなり、下面ビール酵母のMET6遺伝子及びCYS4(STR4)遺伝子は、S. cerevisiaeのMET6遺伝子及びCYS4(STR4)遺伝子と同一であることが判明した。
【0069】
一方、SBc35D14、SBc13J08(SBc19H14、SBc20C15)及びSBc49K07は、それぞれS. cerevisiaeのMET3遺伝子、MET5(ECM17)遺伝子及びMET10遺伝子と85%、84%及び82%の相同性があり、S. bayanusのMET3遺伝子、MET5(ECM17)遺伝子及びMET10遺伝子と94%、93%及び93%の相同性があるものの、下面ビール酵母(S. pastorianus)特有の塩基配列を有する新規遺伝子(以下、下面ビール酵母型MET3遺伝子、下面ビール酵母型MET5遺伝子及び下面ビール酵母型MET10遺伝子)であることが判明した。下面ビール酵母型MET3遺伝子の一部の塩基配列は、配列表の配列番号1に、下面ビール酵母型MET5遺伝子の一部の塩基配列は、配列表の配列番号2に、下面ビール酵母型MET10遺伝子の一部の塩基配列は、配列表の配列番号3に示した。
【0070】
以上より、20ppmのメチオニンを麦汁に添加して下面ビール酵母を発酵させることにより、新規遺伝子である下面ビール酵母型MET3遺伝子、MET5遺伝子及びMET10遺伝子の発現が有意に減少することが判明し、これらの遺伝子の発現量を指標にすれば、硫化水素生産能の低い下面ビール酵母(S. pastorianus)株を選抜できることが示唆された。
【0071】
3.硫化水素生産能の低い下面ビール酵母株の選抜
そこで、硫化水素生産能が異なる2種類の下面ビール酵母株、SBC0601株及びSBC0844株を用いて、下面ビール酵母型MET3遺伝子、MET5遺伝子又はMET10遺伝子の発現量を比較し、硫化水素生産能の低い下面ビール酵母株を選抜できるか否かについて試験した。各遺伝子の発現量の比較は、各遺伝子の特異的なプライマーを用いたRT−PCRで行った。
【0072】
まず、2種類の下面ビール酵母株、SBC0601株及びSBC0844株を、以下の条件下で発酵させた。
・麦汁エキス濃度: 約11%
・麦汁容量: 2.5L
・麦汁溶存酸素濃度: 約5〜10ppm
・発酵温度: 15℃
・下面ビール酵母投入量:20〜24g湿酵母菌体
【0073】
次に、発酵開始後19時間目にそれぞれの酵母株を回収し、そこからトータルRNAを抽出し、これを鋳型に各遺伝子の特異的なプライマーを用いてRT−PCRを行った。トータルRNAの抽出及び精製は、上記した方法に従い、RT−PCRは、One Step RNA PCR kit(AMV)(タカラバイオ株式会社)を用いて、付属のマニュアルに従って行った。具体的には、0.3μgのトータルRNAを、上記のキットに付属のAMV Reverse Transcriptase XLでcDNAに逆転写し、以下のプライマーセットとAMV−Optimized Taqとを用いて、サーマルサイクラーDICE mini(タカラバイオ株式会社)でPCRを行った。PCRの条件は、50℃で30分、94℃で2分間処理した後に、94℃で30秒、60℃で30秒、72℃で1分30秒のサイクルを22サイクルとした。
【0074】
下面ビール酵母型MET3遺伝子(MET3s.p.)を特異的に増幅できるプライマーセットは、MET3s.p.F:5'-ACAATGGCGAACCCCTGCTT-3'(配列番号4)及びMET3s.p.R:5'-CATCTCAGTCCAGGACGTTT-3'(配列番号5)、
下面ビール酵母型MET5遺伝子(MET5s.p.)を特異的に増幅できるプライマーセットは、MET5s.p.F:5'-GTTCCTACGAGATGACAGAAC-3'(配列番号6)及びMET5s.p.R:5'-GCCAATCTGTTCTTGGGTAAAC-3'(配列番号7)、
下面ビール酵母型MET10遺伝子(MET10s.p.)を特異的に増幅できるプライマーセットは、MET10s.p.F5'-TGGCGAACAGGTTACCACTT-3'(配列番号8)及びMET10s.p.R5'-GGCAGTTGATGGAACTTCCT-3'(配列番号9)であり、
S. cerevisiae型MET3遺伝子(MET3s.c.)を特異的に増幅できるプライマーセットは、MET3s.c.F:5'-ACTTACTGTCCAGGATGTTTAC-3'(配列番号10)及びMET3s.c.R:5'-AGGTTCATCCGCTGACTCTA-3'(配列番号11)、
S. cerevisiae型MET5遺伝子(MET5s.c.)を特異的に増幅できるプライマーセットは、MET5s.c.F:5'-CAAGTTCTCTGACCCCAGTT-3'(配列番号12)及びMET5s.c.R:5'-CGTTGCCATAATCATTCACATTACC-3'(配列番号13)、
S. cerevisiae型MET10遺伝子(MET10s.c.)を特異的に増幅できるプライマーセットは、MET10s.c.F:5'-CCTCGAAAGAACAGATACCTG-3'(配列番号14)及びMET10s.c.R:5'-AGCGGAACCTCACTGAGGAA-3'(配列番号15)である。
【0075】
図6は、上記の各プライマーセットが目的とする遺伝子を特異的に増幅できることを示したゲル写真である。下面ビール酵母型の各遺伝子の増幅に用いるプライマーセットは、下面ビール酵母(S. pastorianus)のゲノムDNAを鋳型に用いたPCRで目的サイズのDNA断片を増幅し、S. cerevisiae型の各遺伝子の増幅に用いるプライマーセットは、S. cerevisiaeのゲノムDNAを鋳型に用いたPCRで目的サイズのDNA断片を増幅した。PCRで増幅された各DNA断片は、電気泳動したゲルから抽出して塩基配列を調べ、目的とする遺伝子の対応部位が増幅されたことを確認した。これにより、上記の各プライマーセットは、目的とする遺伝子を特異的に増幅できることが証明された。
【0076】
図7は、発酵開始後19時間目のSBC0601株及びSBC0844株から抽出したトータルRNAを用いて、下面ビール酵母型MET3遺伝子及びS. cerevisiae型MET3遺伝子の発現量をRT−PCRで比較したゲル写真である。
【0077】
その結果、SBC0601株では、S. cerevisiae型MET3遺伝子(MET3s.c.)は増幅されるものの(レーン2)、下面ビール酵母型MET3遺伝子(MET3s.p.)はほとんど増幅されなかった(レーン3)。一方、SBC0844株では、S. cerevisiae型MET3遺伝子(MET3s.c.;レーン4)及び下面ビール酵母型MET3遺伝子(MET3s.p.;レーン5)のいずれもが増幅された。よって、SBC0601株は、SBC0844株と比較して、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株であることが示唆された。
【0078】
そこで、SBC0601株及びSBC0844株の貯酒終了時(発酵開始後26日目)における亜硫酸と硫化水素の生成量について調べた。表3は、SBC0601株及びSBC0844株の貯酒終了時における亜硫酸と硫化水素の生成量について調べた結果である。
【0079】
【表3】

【0080】
その結果、SBC0844株の亜硫酸生成量及び硫化水素生成量は、それぞれ15ppm及び2ppbであった。一方、SBC0601株の亜硫酸生成量及び硫化水素生成量は、それぞれ8ppm及び1ppbであった。
【0081】
以上の結果より、SBC0601株は、SBC0844株と比較して、亜硫酸及び硫化水素生産能が低い下面ビール酵母株であることが判明し、亜硫酸及び硫化水素生産能は、下面ビール酵母型MET3遺伝子の発現量に依存することが明らかとなった。これらの結果は、下面ビール酵母型MET5遺伝子及び下面ビール酵母型MET10遺伝子を指標に解析した場合であっても同様であり、今回新たに見つけた下面ビール酵母型MET3遺伝子、下面ビール酵母型MET5遺伝子及び下面ビール酵母型MET10遺伝子は、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株の選抜のためのマーカー遺伝子として使えることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は、Met20ppm試験区及び対照区の発酵過程における仮性エキスの量を経時的に示したグラフである。
【図2】図2は、Met20ppm試験区及び対照区の発酵過程における浮遊酵母数を経時的に示したグラフである。
【図3】図3は、Met20ppm試験区及び対照区の発酵過程における硫酸イオンの消費量を経時的に示したグラフである。
【図4】図4は、Met20ppm試験区及び対照区の発酵過程における亜硫酸の生成量を経時的に示したグラフである
【図5】図5は、Met20ppm試験区及び対照区の発酵過程及び貯酒終了時の硫化水素の生成量を経時的に示したグラフである。
【図6】図6は、配列表の配列番号4及び5、6及び7、並びに6及び7の塩基配列からなるプライマーセットが目的とする遺伝子を特異的に増幅できることを示したゲル写真である。
【図7】図7は、発酵開始後19時間目のSBC0601株及びSBC0844株に発現する下面ビール酵母型MET3遺伝子及びS. cerevisiae型MET3遺伝子の発現量をRT−PCRで比較したゲル写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(c)のいずれかに示される、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母(Saccharomyces pastorianus)株の選抜に用いるポリヌクレオチド。
(a)配列表の配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(b)前記(a)に記載のポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチド
(c)前記(a)又は(b)に記載のポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
【請求項2】
硫化水素産生能が低い下面ビール酵母(Saccharomyces pastorianus)株の選抜に用いるプローブであって、
配列表の配列番号1に示される塩基配列若しくはこれと相補的な塩基配列、に含まれる連続した少なくとも20bp以上の塩基配列、又は、
これらの塩基配列からなるプローブとストリンジェントな条件でハイブリダイズする少なくとも20bp以上の塩基配列、
を含むプローブ。
【請求項3】
硫化水素産生能が低い下面ビール酵母(Saccharomyces pastorianus)株の選抜に用いるプライマーセットであって、
配列表の配列番号4に示される塩基配列を含むプライマーと、
配列表の配列番号5に示される塩基配列を含むプライマーと、
から構成される、プライマーセット。
【請求項4】
硫化水素産生能が低い下面ビール酵母(Saccharomyces pastorianus)株の選抜方法であって、
配列表の配列番号1に示される塩基配列を含む遺伝子の発現量を発酵途中の下面ビール酵母株間で比較する比較ステップと、
前記遺伝子の発現量が低い又は発現が認められない下面ビール酵母株を、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株であると判断する判断ステップと、
を少なくとも備える、選抜方法。
【請求項5】
前記比較ステップは、
発酵途中の下面ビール酵母株からトータルRNAを抽出するステップと、
前記トータルRNAからcDNAを得るステップと、
前記cDNAを鋳型に請求項3記載のプライマーセットを用いてPCRを行うステップと、を備える比較ステップであり、
前記判断ステップは、
前記PCRにおいて、配列表の配列番号1に示される塩基配列の第341番目から第1195番目の塩基配列からなるDNA断片の増幅量が低い又は増幅が認められない下面ビール酵母株を、硫化水素産生能が低い下面ビール酵母株であると判断する判断ステップである、請求項4記載の選抜方法。
【請求項6】
請求項4叉は5記載の選抜方法で選抜された下面ビール酵母株を用いた、硫化水素含有量が少ない発泡性アルコール飲料の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−319095(P2007−319095A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−153751(P2006−153751)
【出願日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(303040183)サッポロビール株式会社 (150)
【Fターム(参考)】