説明

不斉ルテニウム触媒及びそれを用いる光学活性アルコールの製造法

【課題】 光学純度の高い光学活性アルコールを製造する簡便かつ安価な方法及び触媒として有用な新規な光学活性ルテニウム化合物を提供する。
【解決手段】 式(1):
【化1】


(式中、Aは芳香族配位子、Xはハロゲンイオン)で表されるルテニウム錯体と、式(2):
【化2】


(式中、Ca及びCbは炭素原子;R1、R2、R3及びR4は、水素、アルキル等で、少なくとも一つが他とは異なる基;R5、R6及びR7は、水素、アルキル等)で表される光学活性配位子から調製される光学活性ルテニウム化合物;並びに前記光学活性ルテニウム化合物とケトン化合物を二級アルコールの存在下で反応させることを特徴とする光学活性アルコールの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性ルテニウム触媒及びそれを用いたケトンの不斉還元方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学活性な錯体触媒及びそれを用いた不斉触媒反応は既に多くの例が知られているが、それらの中でも、ケトン類を不斉還元して、光学活性アルコールを得る反応は特に重要である。
【0003】
金属錯体触媒を用いるケトンの還元方法については、還元の際に水素源として用いる物質により分類できる。例えば、水素源として水素ガスを用いる方法(特許文献1)、水素化ホウ素ナトリウム等の金属水素化物を用いる方法(特許文献2)、二級アルコールやギ酸−トリエチルアミン等の水素供与性の有機化合物を用いる方法(特許文献3)などが知られている。
【0004】
【特許文献1】特許第2731377号公報
【特許文献2】特開平9−151143号公報
【特許文献3】特許第2962668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水素ガスを用いる不斉還元法では、高い選択性で光学活性アルコールを製造できるが、水素ガスを用いるため耐圧反応装置が必要であり、安全面でも多くの対策を取る必要がある。水素化ホウ素ナトリウム等の金属水素化物を用いる還元法は簡便ではあるが、量論量以上の金属水素化物を必要とし、金属水素化物由来の生成物が副生する。このため、二級アルコール等の安全性の高い水素源を用いる、簡便かつ安全性の高い、しかも高活性で高選択的な製造法の確立が求められている。アルコールを水素源として用いる高選択的な反応としては、特許文献3をはじめ、すでにいくつかの例が知られているが、触媒の原料となる配位子を合成するためには多段階の工程を要し、工業的な利用には制約が多い。
【0006】
このため、簡便に合成可能で工業的スケールでの利用に適した不斉触媒の開発及び安全性の高いケトンの不斉還元プロセスの開発が求められていた。本発明は、以上の課題を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、光学活性ルテニウム触媒を見出し、更にこの触媒をケトンの不斉還元反応に対して適用し、前記の課題を解決した。即ち、本発明は、新規化合物として、下記一般式(1):
【0008】
【化1】

(式中、Aは芳香族配位子であり、Xはハロゲンイオンである。)で表されるルテニウム錯体と、下記一般式(2):
【0009】
【化2】

(式中、Ca及びCbは炭素原子を表す。R1、R2、R3及びR4は、水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基またはヘテロ環基であり、これらは置換基を有していてもよく、それぞれが相互に結合して環を形成してもよい。R1、R2、R3及びR4は、少なくとも一つが他とは異なる基であり、その結果として、Ca及びCbは、いずれか一方、もしくは両方が不斉中心である。R5、R6及びR7は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロ環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基またはアラルキルオキシカルボニル基であり、これらは置換基を有していてもよく、R6とR7が結合して環を形成してもよい。)または下記一般式(3):
【0010】
【化3】

(式中、Cc及びCdは炭素原子を表す。R8、R9、R10及びR11は、水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基またはヘテロ環基であり、これらは置換基を有していてもよく、それぞれが相互に結合して環を形成してもよい。R8、R9、R10及びR11は、少なくとも一つが他とは異なる基であり、その結果として、Cc及びCdは、いずれか一方、もしくは両方が不斉中心である。R12は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基またはアラルキル基であり、これらは置換基を有していてもよい。R13、R14、R15及びR16は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロ環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、シアノ基またはニトロ基であり、これらは置換基を有していてもよく、それぞれが相互に結合して環を形成してもよい。)で表される光学活性配位子より得られる光学活性ルテニウム化合物を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、前記光学活性ルテニウム化合物を触媒として用い、二級アルコールの存在下でケトン化合物を反応させる工程を含む、光学活性アルコールの製造法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば、安価な二級アルコールを水素源に用いて光学純度の高い光学活性アルコールを簡便に製造することができる。光学活性アルコールは、医薬品などの生理活性化合物の合成中間体または原体として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について、詳細に説明する。
本発明の光学活性ルテニウム化合物は、前記一般式(1)で表されるルテニウム錯体と、前記一般式(2)で表される光学活性配位子または前記一般式(3)で表される光学活性配位子を反応させることにより調製される。
【0014】
なお、前記一般式(3)で表される光学活性配位子は、前記一般式(2)におけるR6とR7が結合してベンゼン環を形成したものに相当し、前記一般式(2)で表される光学活性配位子の概念に包含されるものである。
【0015】
前記一般式(1)において、Aは芳香族配位子である。芳香族配位子は芳香族化合物であれば特に限定されないが、具体的な例としては、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、クメン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、p-シメン、メシチレン、ヘキサメチルベンゼン、ナフタレン、アントラセンなどが挙げられる。これらの中では、ベンゼン、p-シメン、メシチレンが好ましく、p-シメンが特に好ましい。
【0016】
前記一般式(1)において、Xはハロゲンイオンである。ハロゲンイオンの具体例としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アスタチンの各イオンが挙げられる。これらの中では、塩素イオン及び臭素イオンが好ましく、特に塩素イオンが好ましい。
【0017】
前記一般式(2)において、Ca及びCbは炭素原子を表す。R1、R2、R3及びR4は、水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基またはヘテロ環基のいずれかである。これらは置換基を有していてもよく、それぞれが相互に結合して環を形成してもよい。また、R1、R2、R3及びR4のうち、少なくとも一つは異なる基であり、結果として、炭素原子Ca及びCbは、両方、もしくは少なくとも一方が不斉中心となる。R5、R6及びR7は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロ環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基またはアラルキルオキシカルボニル基のいずれかである。これらは置換基を有していてもよく、R6とR7が結合して環を形成してもよい。
【0018】
前記一般式(3)において、Cc及びCdは炭素原子を表す。R8、R9、R10及びR11は、水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基またはヘテロ環基のいずれかである。これらは置換基を有していてもよく、それぞれが相互に結合して環を形成してもよい。R8、R9、R10及びR11のうち、少なくとも一つは異なる基であり、結果として、炭素原子Cc及びCdは、両方、もしくは少なくとも一方が不斉中心となる。R12は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基またはアラルキル基であり、これらは置換基を有していてもよい。R13、R14、R15及びR16は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロ環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、シアノ基またはニトロ基であり、これらは置換基を有していてもよく、それぞれが相互に結合して環を形成してもよい。
【0019】
以上において、アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などの炭素数1〜20のアルキル基が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基などが挙げられる。アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。ヘテロ環基としては、例えば、フリル基、テトラヒドロフリル基、ピリジル基、イミダゾリル基が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、2−プロペニル基などの炭素数2〜20のアルケニル基が挙げられる。アシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基などの炭素数1〜20の脂肪族アシル基;ベンゾイル基、1−ナフチルカルボニル基、2−ナフチルカルボニル基などの芳香族アシル基が挙げられる。アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、n−オクチルオキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基などの炭素数2〜20のアルコキシカルボニル基が挙げられる。アリールオキシカルボニル基としては、例えば、フェノキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基が挙げられる。アラルキルオキシカルボニル基としては、例えば、ベンジルオキシカルボニル基、フェネチルオキシカルボニル基が挙げられる。ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基などの炭素数1〜20のアルコキシ基が挙げられる。アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基が挙げられる。アルキルアミノ基としては、例えば、前記のアルキル基でモノ置換されたアミノ基が挙げられる。ジアルキルアミノ基としては、例えば、前記のアルキル基でジ置換されたアミノ基が挙げられる。アリールアミノ基としては、例えば、前記のアリール基でモノ置換されたアミノ基が挙げられる。ジアリールアミノ基としては、例えば、前記のアリール基でジ置換されたアミノ基が挙げられる。
【0020】
相互に連結して環を形成する例としては、例えば、R1とR3がアルキレン基で連結されて形成される、CaとCbを含む5員環や、R8とR10がアルキレン基で連結されて形成される、CcとCdを含む5員環などが挙げられ、更に、R6とR7が、アルキレン基で連結されて形成される5員環または6員環、共役炭化水素基で連結されて形成される芳香環などが挙げられる。置換基としては、反応に悪影響を与えないものであれば、特に限定されず、例えば、ハロゲン原子、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、シアノ基、ニトロ基が挙げられる。
【0021】
前記一般式(2)で表される光学活性配位子の好ましい例としては、例えば下記のものが挙げられる。
【0022】
【化4】

【0023】
【化5】

【0024】
【化6】

【0025】
前記一般式(3)において、より好ましい例としてはR13が、アルキル基、アリール基、アラルキル基のものである。このような配位子の具体的な例としては、(S)−2−(N−3−t−ブチルサリチリデン)アミノ−1−ブタノール、(S)−2−(N−3−t−ブチルサリチリデン)アミノ−3−メチル−1−ブタノール、(S)−2−(N−3−t−ブチルサリチリデン)アミノ−4−メチル−1−ペンタノール、(S)−2−(N−3−t−ブチルサリチリデン)アミノ−3−メチル−1−ペンタノール、(S)−2−(N−3−t−ブチルサリチリデン)アミノ−3,3−ジメチル−1−ブタノール、(S)−2−(N−3−t−ブチルサリチリデン)アミノ−2−フェニル−1−エタノール、(S)−2−(N−3−t−ブチルサリチリデン)アミノ−3−フェニル−1−プロパノール、(1S,2R)−2−(N−3−t−ブチルサリチリデン)アミノ−1−フェニル−1−プロパノール、(1S,2R)−2−(N−3−t−ブチルサリチリデン)アミノ−1,2−ジフェニル−1−エタノール、(R)−2−(N−3−t−ブチルサリチリデン)アミノ−1−フェニル−1−エタノール、(1R,2S)−1−(N−3−t−ブチルサリチリデン)アミノ−2−インダノール、(S)−2−(N−3,5−ジ−t−ブチルサリチリデン)アミノ−1−ブタノール、(S)−2−(N−3,5−ジ−t−ブチルサリチリデン)アミノ−3−メチル−1−ブタノール、(S)−2−(N−3,5−ジ−t−ブチルサリチリデン)アミノ−4−メチル−1−ペンタノール、(S)−2−(N−3,5−ジ−t−ブチルサリチリデン)アミノ−3−メチル−1−ペンタノール、(S)−2−(N−3,5−ジ−t−ブチルサリチリデン)アミノ−3,3−ジメチル−1−ブタノール、(S)−2−(N−3,5−ジ−t−ブチルサリチリデン)アミノ−2−フェニル−1−エタノール、(S)−2−(N−3,5−ジ−t−ブチルサリチリデン)アミノ−3−フェニル−1−プロパノール、(1S,2R)−2−(N−3,5−ジ−t−ブチルサリチリデン)アミノ−1−フェニル−1−プロパノール、(1S,2R)−2−(N−3,5−ジ−t−ブチルサリチリデン)アミノ−1,2−ジフェニル−1−エタノール、(R)−2−(N−3,5−ジ−t−ブチルサリチリデン)アミノ−1−フェニル−1−エタノール、(1R,2S)−1−(N−3,5−ジ−t−ブチルサリチリデン)アミノ−2−インダノール、(1R,2S)−1−(N−3−フェニルサリチリデン)アミノ−2−インダノール、(1R,2S)−1−(N−3−ベンジルサリチリデン)アミノ−2−インダノールなどが挙げられる。
【0026】
前記一般式(3)において、最も好ましい例としては、R8とR9のうちの一つ及びR10とR11のうちの一つが水素原子であり、結果としてCcとCdの両方が不斉炭素となっていて、且つR13が、アルキル基、アリール基、アラルキル基のものである。このような配位子の具体的な例としては、(1S,2R)−2−(N−3−t−ブチルサリチリデン)アミノ−1−フェニル−1−プロパノール、(1S,2R)−2−(N−3−t−ブチルサリチリデン)アミノ−1,2−ジフェニル−1−エタノール、(1R,2S)−1−(N−3−t−ブチルサリチリデン)アミノ−2−インダノール、(1S,2R)−2−(N−3,5−ジ−t−ブチルサリチリデン)アミノ−1−フェニル−1−プロパノール、(1S,2R)−2−(N−3,5−ジ−t−ブチルサリチリデン)アミノ−1,2−ジフェニル−1−エタノール、(1R,2S)−1−(N−3,5−ジ−t−ブチルサリチリデン)アミノ−2−インダノール、(1R,2S)−1−(N−3−フェニルサリチリデン)アミノ−2−インダノール、(1R,2S)−1−(N−3−ベンジルサリチリデン)アミノ−2−インダノールなどが挙げられる。
【0027】
前記一般式(1)で表されるルテニウム錯体は、公知の方法にしたがって調製できる。例えば、三塩化ルテニウム(III)三水和物にシクロヘキサジエン類またはその誘導体を反応させる方法により合成できることが知られている。
【0028】
前記一般式(2)または前記一般式(3)で表される光学活性配位子は、公知の方法にしたがって調製できる。例えば、光学活性なアミノアルコールと、ヒドロキシル基を置換基として有するカルボニル化合物から、脱水反応により、一段階で合成することができる。脱水反応の際には、無水硫酸マグネシウム、無水硫酸ナトリウム、モレキュラーシーブスなどの脱水剤を共存させることが好ましい。
【0029】
光学活性なアミノアルコールは、例えば天然または非天然アミノ酸のカルボキシル基を還元することにより得られ、多くの種類のものが工業的に入手可能である。また、ヒドロキシル基を置換基として有するカルボニル化合物としては、例えば、サリチルアルデヒド及びその誘導体などがあり、これらの多くも容易に入手することができる。
【0030】
本発明の光学活性ルテニウム化合物は、前記一般式(1)で表されるルテニウム錯体に対して、前記一般式(2)もしくは前記一般式(3)で表される光学活性配位子を0.1当量から5当量、好ましくは1.5当量から2.5当量を接触させることにより得られる。この際、反応を円滑に進行させるために、溶媒を用いることが好ましい。用いる溶媒は、ルテニウム錯体または光学活性配位子のどちらか、もしくは両方が溶解して、反応を円滑に進行させるものであれば特に限定されないが、アルコールであることが好ましい。また、この際、塩基の存在下でルテニウム錯体と配位子を反応させることが好ましい。存在させる塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。また、塩基はそのまま反応系に加えてもよいが、アルコール溶液として加えることがより好ましい。前記ルテニウム化合物の合成操作は、乾燥した不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられる。反応温度は特に限定されないが、通常の室内温度、例えば15〜30℃で行なうことにより調製できる。
【0031】
以上のように調製された光学活性ルテニウム化合物は、不斉触媒反応に用いることができ、特に二級アルコールを水素源としたケトンの還元反応に好ましく用いることができる。
【0032】
本発明の光学活性ルテニウム化合物は、特段の精製操作を加えず、そのまま前記一般式(4):
【化7】

で表されるケトン化合物の不斉還元に用いることができる。
【0033】
前記一般式(4)において、R17、R18はそれぞれ異なるアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基またはヘテロ環基のいずれかであり、これらは置換基を有していてもよく、それぞれが相互に結合して環を形成してもよい。このようなケトンとしては、具体的には、例えば、アセトフェノン、p−メチルアセトフェノン、m−メチルアセトフェノン、o−メチルアセトフェノン、p−メトキシアセトフェノン、m−メトキシアセトフェノン、o−メトキシアセトフェノン、p−クロロアセトフェノン、m−クロロアセトフェノン、o−クロロアセトフェノン、1−アセトナフトン、2−アセトナフトン、プロピオフェノン、ブチロフェノン、2−ブタノン、2−ヘプタノン、2−ヘキサノン、t−ブチルメチルケトン、ベンジルメチルケトン、1−テトラロン、2−テトラロン、フェナンシルクロリド、2−アセチルフラン、3−アセチルフラン、2−アセチルピリジン、3−アセチルピリジン、4−アセチルピリジンなどが挙げられる。
【0034】
水素源として用いる二級アルコールは、還元反応を進行させるものであれば、特に限定されないが、2―プロパノールと1−フェニルエタノールが好ましく、2−プロパノールが特に好ましい。
【0035】
本発明の方法において、前記光学活性ルテニウム化合物を触媒として用いる際、高い光学収率及び高い化学収率で光学活性アルコールを得るためには、ケトン化合物1モルに対して、0.001〜50モル%の割合、好ましくは0.01〜20モル%の割合、更に好ましくは0.05〜10モル%の割合で使用するのが望ましい。
【0036】
反応温度は、用いるケトンや触媒の種類により異なるが、−78℃〜溶媒還流温度であり、好ましくは、15〜30℃の範囲である。反応時間は、用いるケトンや触媒の種類により異なるが、通常1時間より96時間の範囲である。反応溶媒は特に限定されないが、水素源に用いる二級アルコールを用いることが好ましい。
【0037】
以上のケトンの不斉還元反応で得られる光学活性アルコールの精製は、公知の方法、例えば、蒸留、吸着分離、抽出、再結晶等の方法を組み合わせて行なうことができる。
【0038】
以上の方法で製造される光学活性アルコールは、医薬品原体製造における中間体として、好ましく用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
生成物の同定は、1H NMR(日本電子製JMN−400及びVarian製MERCURY plus300−4N)、IRスペクトル(島津製作所製IR−408型)等により行なった。不斉収率は、高速液体クロマトグラフィー(日立製作所製L−7100)を用いて測定した。このとき、カラムとしてキラルカラム(ダイセル化学工業製 CHIRALCEL OD−H)を用い、溶離液は、ヘキサン/2−プロパノール=99.5/0.5より90/10の範囲の混合溶媒を用いた。生成物の絶対配置は、旋光度を既報値と比較して決定した。旋光度計は、堀場製作所製SEPA−200を用いた。
【0041】
(参考例1)
アルゴン雰囲気下、三塩化ルテニウム(III)三水和物 5.0 g (19 mmol)のエタノール溶液250mlにα−テルピネン25mlを加えて4時間加熱還流した。反応終了後、析出固体をろ別し、ジクロロ(p−シメン)ルテニウム(II)ダイマー[RuCl2(p-MeC6H4CHMe2)]2を得た。収量は5.07 g、三塩化ルテニウム(III)三水和物基準の収率は86%であった。
【0042】
(参考例2)
アルゴン雰囲気下、80 mlシュレンクチューブに3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシベンズアルデヒド 0.23g (1.0 mmol)、ジクロロメタン3mlを入れ、(1R,2S)−1−アミノ−2−インダノール 0.16g (1.1mmol)、モレキュラーシーブス3Aを加え、室温で24時間攪拌した。反応終了後、ジクロロメタンで抽出し、飽和塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水で洗浄後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n−ヘキサン/酢酸エチル=5/1)により生成物を単離し、(1R,2S)−1−(N−3,5−ジ−t−ブチルサリチリデン)アミノ−2−インダノール(配位子L;下記式(5))を得た。
【0043】
【化8】

【0044】
(参考例3)
3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシベンズアルデヒドの代わりに、3−t−ブチル−2−ヒドロキシベンズアルデヒドを用いた以外は、参考例2と同様の操作を行い、(1R,2S)−1−(N−3−t−ブチルサリチリデン)アミノ−2−インダノール(配位子L;下記式(6))を得た。
【0045】
【化9】

【0046】
(実施例1)
アルゴン雰囲気下、80mlシュレンクチューブに参考例2で合成した配位子L 7.3 mg (0.020mmol)を入れ、0.10mol/L水酸化カリウム イソプロパノール溶液 0.20ml、イソプロピルアルコール4.6mlを加え、20分間攪拌した。これに参考例1で合成したジクロロ(p−シメン)ルテニウム(II)ダイマー 6.1 mg(0.010mmol)、イソプロピルアルコール 5.0mlを加え、1.5時間攪拌して、触媒を調製した。
【0047】
(実施例2)
配位子Lの代わりに、参考例3で合成した配位子Lを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、触媒を調製した。
【0048】
(実施例3)
実施例1で調製した触媒溶液に、アセトフェノン 120 mg(1.0mmol)、0.10mol/L水酸化カリウム イソプロパノール溶液 0.20mlを加え、室温で24時間反応させた。反応終了後、1.0mol/L塩酸で中和し、溶媒を減圧留去した。残渣に蒸留水を加え、酢酸エチルで抽出し、飽和食塩水で洗浄後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン:酢酸エチル=4:1)により1-フェニルエタノールを単離した。収率は92%、光学収率は93%ee(S体)であった。
【0049】
(実施例4)
触媒溶液として、実施例2で得られたものを用いた以外は、実施例3と同様の操作を行い、1−フェニルエタノールを単離した。収率は76%、光学収率は90%ee(S体)であった。
【0050】
(実施例5)
ケトンとして、o−クロロアセトフェノンを用いた以外は、実施例3と同様の操作を行い、1−(2−クロロフェニル)エタノールを単離した。収率は94%、光学収率は93%ee(S体)であった。
【0051】
(実施例6)
ケトンとして、1−アセトナフトンを用いた以外は、実施例3と同様の操作を行い、1−(1−ナフチル)エタノールを単離した。収率は80%、光学収率は99%ee以上(S体)であった。
【0052】
(実施例7)
ケトンとして、プロピオフェノンを用いた以外は、実施例3と同様の操作を行い、1−フェニル−1−プロパノールを単離した。収率は83%、光学収率は90%ee(S体)であった。
【0053】
(比較例1)
配位子Lの代わりに、(S)−1−(N−3−t−ブチルサリチリデン)アミノ−1−フェニルエタン(配位子L;下記式(7))を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、触媒を調製した。
【0054】
【化10】

【0055】
(比較例2)
触媒溶液として、比較例1で得られたものを用いた以外は、実施例3と同様の操作を行い、1−フェニルエタノールを単離した。収率は3%、光学収率は19%ee(S体)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

(式中、Aは芳香族配位子であり、Xはハロゲンイオンである。)で表されるルテニウム錯体と、一般式(2):
【化2】

(式中、Ca及びCbは炭素原子を表す。R1、R2、R3及びR4は、水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基またはヘテロ環基であり、これらは置換基を有していてもよく、それぞれが相互に結合して環を形成してもよい。R1、R2、R3及びR4は、少なくとも一つが他とは異なる基であり、その結果として、Ca及びCbは、いずれか一方、もしくは両方が不斉中心である。R5、R6及びR7は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロ環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基またはアラルキルオキシカルボニル基であり、これらは置換基を有していてもよく、R6とR7が結合して環を形成してもよい。)で表される光学活性配位子から調製される光学活性ルテニウム化合物。
【請求項2】
前記一般式(1)で表されるルテニウム錯体と、一般式(3):
【化3】

(式中、Cc及びCdは炭素原子を表す。R8、R9、R10及びR11は、水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基またはヘテロ環基であり、これらは置換基を有していてもよく、それぞれが相互に結合して環を形成してもよい。R8、R9、R10及びR11は、少なくとも一つが他とは異なる基であり、その結果として、Cc及びCdは、いずれか一方、もしくは両方が不斉中心である。R12は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基またはアラルキル基であり、これらは置換基を有していてもよい。R13、R14、R15及びR16は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロ環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、シアノ基またはニトロ基であり、これらは置換基を有していてもよく、それぞれが相互に結合して環を形成してもよい。)で表される光学活性配位子から調製される光学活性ルテニウム化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光学活性ルテニウム化合物と、一般式(4):
【化4】

(式中、R17、R18はそれぞれ異なる、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基またはヘテロ環基であり、これらは置換基を有していてもよく、それぞれが相互に結合して環を形成してもよい。)で表されるケトン化合物を、二級アルコールの存在下で反応させることを特徴とする光学活性アルコールの製造法。

【公開番号】特開2006−76935(P2006−76935A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−263560(P2004−263560)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)発行者:社団法人日本化学会 刊行物名:日本化学会第84春季年会 2004年 講演予稿集II 掲載頁:1445頁 刊行物発行年月日:平成16年3月11日 (2)研究集会名:日本化学会第84春季年会 主催者名:社団法人日本化学会 開催日:平成16年3月28日
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】