説明

不燃性繊維構造物

【課題】フェノール樹脂系繊維と天然繊維とが混紡されてなる繊維構造体、、ポリエステル系繊維と天然繊維とが混紡されてなる繊維構造体、あるいは、フェノール樹脂系繊維からなる繊維構造体の各分野において、従来の難燃性であると言われるレベルを超える不燃特性を有する不燃性繊維構造体を提供すること。
【解決手段】フェノール樹脂系繊維と天然繊維とが混紡されてなる繊維構造体であるか、あるいは、ポリエステル系繊維と天然繊維とが混紡されてなる繊維構造体であるか、あるいは、フェノール樹脂系繊維からなる繊維構造体であり、少なくともホウ酸ナトリウム重合体を50〜100重量部、繊維反応型有機燐化合物を50〜100重量部を含み構成された防炎処理剤が付与されている繊維構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不燃性繊維構造物に関する。
【0002】
本発明において、「不燃性」とは、従来、繊維業界で、繊維構造体における燃焼・非燃焼特性に関して「難燃性」という技術概念・用語によって評価してきているが、そのような「難燃性」という評価基準では「合格」というレベルよりもさらに高いレベルでの燃焼特性をいい、具体的には「燃焼しない」というレベルを指すものである。
【0003】
本発明によって得られる、かかる燃焼しないという特性を持つ繊維構造体(以下、「不燃性繊維構造体」という)は、その特性を活かし、たとえば、耐火・防火服、カーテン、カーペット、シーツ、壁紙・クロス、間仕切り、つい立て、パーテーション、椅子張り、座席シート(カーシート、車輌用シート、機内シート、船室シート)などの各種衣類、寝装具類、建装具類、あるいはインテリア品などの用途に好適なものとして使用することができる。
【背景技術】
【0004】
従来から燃えやすい物質を燃えにくくするための技術については、各種分野で検討されてきており、そのような物質に難燃性を付与するための薬剤なども知られている(特許文献1−6)。しかし、これらのものは、本発明の希望する不燃レベルにはまだ到達しているとは言えないものであった。
【0005】
また、難燃特性よりもハイレベルと言うべき不燃特性を実現する薬剤として、高濃度ホウ酸化合物を用いること、そして、該高濃度ホウ酸化合物を木材、木質材料や天然繊維構造体に含浸や塗布をして防火・耐火剤とする提案がされている(特許文献7、8)。
【0006】
しかし、かかる高濃度ホウ酸化合物は、不燃化技術を達する薬剤として優れたものであるが、該薬剤を繊維構造体に含有させることや付着させることが難しく、該技術による高度な不燃特性を有する繊維構造体は実現されていなかったのが実状である。
【0007】
一方、繊維そのもの自体が難燃特性を固有に有したものとして、上述したようなフェノール樹脂を繊維化したフェノール樹脂系繊維が提案されている。しかし、かかるフェノール樹脂系繊維は、該繊維固有の問題として染色がほとんどできないという問題や風合いが乏しいという問題点があり、用途的な面において制約を大きく受けていた。
【0008】
すなわち、電線副資材、シール材、断熱材などの工業資材用途等では広く受け入れられていても、特に、人体に着用される衣服の分野等では、色や風合いの点から用途が限られていた。
【0009】
このような点から、フェノール樹脂系繊維の持つ難燃性、耐アーク性を活かすとともに、フェノール樹脂系繊維の持つ、染色がほとんど不可能であるという問題を克服して優れた染色性を有する織布として、フェノール樹脂繊維を15〜30重量%、難燃処理されたアクリル繊維を45重量%以下、難燃処理されたレーヨン繊維を30重量%以下、難燃処理されたポリエステル繊維を30重量%以下の混紡比率で、これら4種類の繊維を混紡した混紡糸を織成して織布とすることによって、特に、これら4種繊維の使用比率を適宜に調整することによって十分な染色性と強度を保ちつつ、柔軟性、着心地、風合いなどを調整することが提案されている(特許文献9)。
【0010】
しかし、このような4種類もの繊維を混紡することは煩雑であり、また、必ずしも強度や難燃性などの点でバランスが良く満足できるというレベルではなかった。
【特許文献1】特開平6−313099号公報
【特許文献2】特開平7−26153号公報
【特許文献3】特開平7−171378号公報
【特許文献4】特開平9−13037号公報
【特許文献5】特開平11−255955号公報
【特許文献6】特開2003−144904号公報
【特許文献7】特開平8−73212号公報
【特許文献8】特開2003−291110号公報
【特許文献9】特開2000−199150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上述したような点に鑑み、従来の難燃性であると言われるレベルを超える不燃特性を有する不燃性繊維構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した目的を達成する本発明の不燃性繊維構造体は、以下の(1)、(2)または(3)の構成からなるものであり、それぞれ、(1)はフェノール樹脂系繊維と天然繊維が混紡されてなる繊維構造体に関し、(2)はポリエステル系繊維と天然繊維とが混紡されてなる繊維構造体に関し、(3)はフェノール樹脂系繊維からなる繊維構造体に関するものである。
(1)フェノール樹脂系繊維と天然繊維とが混紡されてなる繊維構造体であり、かつ、該繊維構造体には、少なくともホウ酸ナトリウム重合体を50〜100重量部、繊維反応型有機燐化合物を50〜100重量部を含み構成された防炎処理剤が付与されていることを特徴とする不燃性繊維構造体。
(2) ポリエステル系繊維と天然繊維とが混紡されてなる繊維構造体であり、かつ、該繊維構造体には、少なくともホウ酸ナトリウム重合体を50〜100重量部、繊維反応型有機燐化合物を50〜100重量部を含み構成された防炎処理剤が付与されていることを特徴とする不燃性繊維構造体。
(3)フェノール樹脂系繊維からなる繊維構造体であり、かつ、該繊維構造体には、少なくともホウ酸ナトリウム重合体を50〜100重量部、繊維反応型有機燐化合物を50〜100重量部を含み構成された防炎処理剤が付与されていることを特徴とする不燃性繊維構造体。
【0013】
なお、これら本発明の不燃性繊維構造体において、より具体的に好ましくは、以下の(4)〜(9)のいずれかの構成を有するものである。
(4)繊維反応型有機燐化合物が、N−メチロールジメチル−ホスホノプロビオンアミドであることを特徴とする上記(1)、(2)または(3)記載の不燃性繊維構造体。
(5)ホウ酸ナトリウム重合体の付着量が10〜40%owf、繊維反応型有機燐化合物の付着量が10〜40%owfであることを特徴とする上記(1)、(2)、(3)または(4)記載の不燃性繊維構造体。
(6)天然繊維が、綿(コットン)であることを特徴とする上記(1)、(2)、(4)または(5)記載の不燃性繊維構造体。
(7)綿(コットン)の混合使用比率が、繊維構造体の全繊維重量中、25〜75重量%であることを特徴とする上記(6)記載の不燃性繊維構造体。
(8)不燃性繊維構造体が、紡績糸であることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の不燃性繊維構造体。
(9)不燃性繊維構造体が、織編物であることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の不燃性繊維構造体。
【発明の効果】
【0014】
請求項1にかかる本発明によれば、フェノール樹脂系繊維と天然繊維が混紡されてなる繊維構造体において、フェノール樹脂系繊維が本来持つ難燃特性を生かし、かつ、天然繊維が本来持つ該フェノール樹脂系繊維よりは燃えやすいという不都合を改善しながらフェノール樹脂系繊維が本来持つ天然繊維よりも風合い的に劣る、染色性に劣るという不都合を改善して、燃焼に対する特性、風合い、タッチ、染色性、発色などの点において総合的に満足できる繊維構造体を実現することができる。
【0015】
請求項2にかかる本発明によれば、ポリエステル系繊維と天然繊維とが混紡されてなる繊維構造体において、従来からの該混紡繊維構造体が持つ繊維ミックス使用による良好な効果を維持しつつ、不燃性に極めて優れている繊維構造体を実現できる。
【0016】
請求項3にかかる本発明によれば、フェノール樹脂系繊維からなる繊維構造体において、本来、不燃性の点で優れたものが実現できる。
【0017】
請求項4、請求項5にかかる本発明によれば、上述の請求項1、2または3の繊維構造体の特徴を維持しつつ、より高く良好な不燃性を実現した繊維構造体を実現することができる。
【0018】
請求項6、請求項7にかかる本発明によれば、上述の請求項1または2の繊維構造体の特徴を維持しつつ、綿(コットン)の特質を生かし、良好な風合い、良好な染色・発色などの特徴を有する繊維構造体を実現することができる。
【0019】
請求項8、請求項9にかかる本発明によれば、上述した特徴を有する各繊維構造体を、紡績糸あるいは織編物で実現でき、例えば、耐火・防火服などやカーテン、シーツ、布団カバーなどの衣料関係や寝装具関係、建装具関係などの分野に好適に使用することのできる紡績糸あるいは織編物を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、更に詳しく本発明について、説明する。
【0021】
本発明の繊維構造体は、少なくともホウ酸ナトリウム重合体を50〜100重量部、繊維反応型有機燐化合物を50〜100重量部を含み構成された防炎処理剤が付与されているものであり、該防炎処理剤が付与されていることによって優れた不燃効果、耐炎効果がもたらされている。
【0022】
ホウ酸ナトリウム重合体と繊維反応型有機燐化合物は、混合された状態で防炎処理剤として構成されていることが重要である。両者の混合比率は、ホウ酸ナトリウム重合体50〜100重量部に対して、繊維反応型有機燐化合物50〜100重量部の範囲内の比率とするのがよく、いずれかが他方よりも混合比率が多い混合使用としてもよい。
【0023】
なお、ホウ酸ナトリウム重合体50〜100重量部、繊維反応型有機燐化合物50〜100重量部の範囲で混合されて防炎処理剤が構成されるが、処理液剤としては、他に、適宜の助剤が1〜20重量部程度の範囲内で混合されて処理液剤が構成されていてもよい。
【0024】
本発明の繊維構造体は、第一の形態はフェノール樹脂系繊維と天然繊維とが混紡されてなる繊維構造体であるか、あるいは、第二の形態はポリエステル系繊維と天然繊維とが混紡されてなる繊維構造体であるか、あるいは、第三の形態はフェノール樹脂系繊維からなる繊維構造体である。
【0025】
ここで、第一の形態と第三の形態で使用されるフェノール樹脂系繊維は、もともと難燃性を有する繊維であるが、天然繊維と混紡されたことによる繊維構造体としての難燃性の低下分を該防炎処理剤で処理することにより、特に天然繊維の不燃特性・難燃特性が向上し、該繊維構造体は、全体として良好な不燃特性・難燃特性を有するものとなる。該効果は、繊維構造体がフェノール樹脂系繊維だけからなる場合も該繊維が有する難燃特性に、更に増して、不燃特性・難燃特性を発揮できるものとなる。
【0026】
また、第二の形態で使用されるポリエステル系繊維と天然繊維とが混紡されてなる繊維構造体の場合、従来の同種の繊維構造体のものに比較して、非常に優れた不燃特性・難燃特性を発揮できるものとなる。
【0027】
本発明において、繊維構造体とは、代表的には、構成繊維の全てが短繊維状である混合紡績糸(混紡糸)、あるいは、一部に連続長繊維(フィラメント繊維)を含んで混合紡績されて形成された長短混合紡績糸(長短混紡糸)であり、また、それら混紡糸の、更に、高次加工がなされた二次的形態(織布・織生地、編布・編生地、紐、ロープなど)のものや、最終の製品形態・商品形態(アパレル製品、インテリア製品、建装材・寝装材製品など)のものをも含む概念である。
【0028】
本発明の繊維構造体において、防炎処理剤を構成する一成分である繊維反応型有機燐化合物は、N−メチロールジメチル−ホスホノプロビオンアミドであることが、不燃・難燃効果、防炎効果を良好に付与し得る点で最も好ましい。
【0029】
本発明において、繊維反応型有機燐化合物とは、繊維が有するセルロース末端基が通常の架橋のための処理温度で架橋結合をする化合物をいう。該繊維反応型有機燐化合物としては、例えば、上述のN−メチロールジメチル−ホスホノプロビオンアミドのほか、テトラキスヒドロキシメチルホスフォニウムクロライド、ビス[ビス(2−クロロエトキシ)ホスフェニル]イソプロピル−クロロエチルホスフェードなどが好ましく用いられる。
【0030】
また、本発明の繊維構造体において、ホウ酸ナトリウム重合体の付着量が全繊維重量に対して10〜40%owfの範囲内、繊維反応型有機燐化合物の付着量が10〜40%owfの範囲内であることが好ましい。より好ましくは、ホウ酸ナトリウム重合体の付着量が全繊維重量に対して15〜20%owfの範囲内、繊維反応型有機燐化合物の付着量が15〜20%owfの範囲内であることが好ましい。
【0031】
本発明において用いられるホウ酸ナトリウム重合体は、いわゆる水ガラスであり、発泡性水ガラスとして知られ、その溶液が、既に市販されているものであって(例えば、「ファイヤレスB」(いずれも登録商標、(株)トラストライフ)、100℃前後に加熱されると激しく発泡して発泡スチロール様のガラス発泡体となるものである。すなわち、該ホウ酸ナトリウム重合体溶液は、主成分のホウ酸イオンが主に層状の構造をなしているために、ガラスの膜を形成しやすく、しかもガラスでできた泡がはじけにくく比較的強固な膜を形成することができるものであり、水蒸気が激しく気化を始める100℃前後になると、水蒸気によってガラスの泡が形成され、ガラス発泡体(概して、比重0.1〜0.2)となるのである。
【0032】
したがって、ホウ酸ナトリウム重合体が付与されている被処理繊維構造体においては、火炎等にさらされた場合、100℃前後に昇温したときに、ホウ酸ナトリウム重合体が激しく発泡し、該被処理繊維構造体の表面はガラスでできた泡が多数集結した比重0.1〜0.2程度のガラス発泡体で覆われることになり、該ガラス発泡体が、該被処理繊維構造体を外気(酸素)から完全にシャットアウトして、該被処理繊維構造体は酸素が絶たれた状態となり、燃焼することが不可能な状態となり、非常に良好な難燃化・不燃化効果が得られるものである。
【0033】
本発明において、フェノール樹脂系繊維とは、フェノール系樹脂を繊維化してなる高機能繊維であって、ノボラック型フェノール樹脂を原料とするもの、レゾール型フェノール樹脂を原料とするもの、あるいは、ノボラック型、レゾール型のフェノール樹脂の双方が混合された原料からなるものの、いずれも使用できるものである。
【0034】
ノボラック型フェノール樹脂を原料とする繊維としては、例えば、未硬化で熱可塑性のノボラック型フェノール樹脂を溶融紡糸した後、硬化工程を経て製造されるノボロイド繊維があり(特公昭48−11284号公報)、レゾール型フェノール樹脂を原料とする繊維としては、例えば、液状レゾール型フェノール樹脂に酸触媒を添加し、これを遠心紡糸して得られる繊維があり(特開昭59−179811号公報)、あるいは、固形レゾール型フェノール樹脂を溶融し、紡糸ノズルより加熱空気流により牽引紡糸するいわゆるメルトブローン法により得られる繊維がある(特開平9−132818号公報)。また、レゾール型、ノボラック型のフェノール樹脂の双方を原料とする繊維としては、例えば、両方の型のフェノール樹脂の混合物からメルトブローン法により得られる繊維がある(特開平9−176918号公報)。
【0035】
このようにして得られるフェノール樹脂系繊維は、三次元網目構造の巨大分子から構成されていて、熱による軟化溶融、収縮、分解等が起こりにくく、耐熱性、難燃性に優れている。中でも、ノボロイド繊維は「カイノール」(登録商標)の商品名(群栄化学工業株式会社の商品名)で広く利用されており、本発明において、好ましく使用できる繊維である。
【0036】
第一の態様における該フェノール樹脂系繊維と天然繊維の混紡比率は、両繊維の持つ特性を所望の通りに発揮させ得る点で、フェノール樹脂系繊維:天然繊維=10〜90:90〜10の範囲内で混紡されるのが好ましい。特に、該天然繊維が綿(コットン)の場合は、綿(コットン)の混合使用比率が該繊維構造体中の全繊維重量中、25〜75重量%の範囲内であることが好ましい。この場合、防炎特性、耐熱特性、耐火特性をより大きくしたい場合には、フェノール樹脂系繊維を上述の範囲内で、混紡比率をより大きくするのがよい。ただし、天然繊維との混紡効果を維持する上で、一般的には、例えば、フェノール樹脂系繊維:天然繊維=30〜60:70〜40の範囲内程度が好ましいものである。
【0037】
混紡される天然繊維は、繊維構造体としての所望の特性や特質等に合わせて、何を用いるのがよいかが決定されれば良く、例えば、上述の綿(コットン)のほかには、絹(シルク)、麻、竹、大豆などから適宜に決定されればよい。
【0038】
第二の態様におけるポリエステル系繊維と天然繊維との混紡比率は、従来から当該分野で採用されてきている混紡比率としてよく、具体的には、重量比でポリエステル系繊維:天然繊維=75〜25:25〜75の混合比とすること、あるいは、繊維構造体の対全重量百分率で天然繊維が25〜75%であるように使用することが好ましい。
【0039】
ホウ酸ナトリウム重合体と繊維反応型有機燐化合物から構成された防炎処理剤を繊維構造体に付着させるに際しては、原綿の状態、あるいは、糸や編物、織物あるいは不織布などの繊維高次加工品になした後、該防炎処理剤をマイクロカプセルに内包させ、該マイクロカプセルを浸漬・乾燥させるなどにより繊維構造体に付着させること、あるいは、繊維構造体を、ホウ酸ナトリウム重合体と繊維反応型有機燐化合物から構成された防炎処理剤の溶液に浸漬し乾燥させて、ホウ酸ナトリウム重合体と繊維反応型有機燐化合物を該繊維構造体に付着させることなどによって、所望通りの付着量で繊維構造体に付着させることができる。
【0040】
該付着処理に際して、処理液・浸漬液には、ホウ酸ナトリウム重合体と繊維反応型有機燐化合物に加えて、さらに水系ウレタンバインダー、メチロールメラミン樹脂等を含有させることが好ましく、該バインダーを使用するとより強固な付着状態を得ることができる。
【0041】
また、本発明においては、該繊維構造体に対して、該ホウ酸ナトリウム重合体と繊維反応型有機燐化合物の防炎処理剤は、繊維構造体が平面状を呈するものである場合、その防炎処理剤の有効固形成分として、繊維構造物の単位面積当たり10〜50g/m2 付着させることが好ましいものである。さらに好ましい付着量は、繊維構造物の単位面積当たり20〜30g/m2 である。
【0042】
また、本発明にかかる繊維構造体において、構成するフェノール樹脂系繊維および/またはポリエステル系繊維、天然繊維の、一本一本の単繊維は、その横断面形状(繊維の長さ方向に直角な方向の断面形状)は、特に限定されるものではなく、通常の円形断面のものでもよく、あるいは、非円形中実断面の繊維であってもよいものである。ここで、非円形中実とは、非「円形中実」という意味であり、「断面が真円でかつ中実のもの」ではないことを意味している。
【0043】
特に、ホウ酸ナトリウム重合体と繊維反応型有機燐化合物を繊維表面から脱落させることなく付着させるには、繊維断面形状は、単なる円形断面の繊維でなく、非円形中実断面を有する繊維を用いることが好ましい。
【0044】
すなわち、具体的には、繊維断面形状は、断面が非真円の異形断面繊維であるか、あるいは、断面が真円でも内部に空洞部を有する中空繊維などであることが好ましく、要素構造的には、繊維横断面の輪郭線上において凹み、あるいは窪み等が明確に形成されて存在しているものであればよく、該凹みあるいは窪み部分等に、微細なホウ酸ナトリウム重合体が付着することになる。
【0045】
したがって、フェノール樹脂系繊維以外の他の繊維としては、特に、繊維横断面形状において不規則な凹みが多数存在していることが認められるアルカリ減量加工処理を施された、いわゆるクレーター構造を多数を有するようなポリエステル繊維等でもよいものであり、本発明の横断面形状(繊維の長さ方向に直角な方向の断面形状)が非円形中実の繊維であるとは、そのようなクレーター構造を多数を有するような繊維も含む。
【0046】
断面が非真円の異形断面繊維の場合、例えば、三角断面、四角断面、5角断面、六角断面、八角断面、C型断面、T型断面、Y型断面、H型断面、多葉型断面、まゆ型の異形断面繊維のうちの1つもしくは2つ以上のものである繊維を用いるのも好ましい。特に、H型断面繊維などは、自動車等の座席シートや内装品にパイル品として使用されることも多く、不燃化効果を奏することは意義がある。
【0047】
さらになお、「断面が真円でない」とは、円形がつぶれたような楕円状のものでもよいという意味である。そのような形状でも真円形に比較して、強いホウ酸ナトリウム重合体や繊維反応型有機リン化合物の保持力(担持力)を実現できるからであり、本発明者らの各種知見によれば、楕円である場合は、長径と短径の比は、長径/短径比Rが、1<R≦4の範囲内を満足するものであることが好ましい。
【実施例】
【0048】
実施例1
フェノール樹脂系繊維の短繊維と他の短繊維として綿(コットン)を用いて混紡糸を作り(混成率:フェノール樹脂系繊維50%/綿(コットン)50%)、さらに該混紡糸を用いて製織し、さらに、糊抜き−精練・漂白−染色−セット加工した織物生地を、ホウ酸ナトリウム重合体(「ファイアレス リキッド B」((株)トラストライフ社登録商標))100重量部、繊維反応型有機燐化合物(N−メチロールジメチル−ホスホノプロビオンアミド〜を100重量部からなる防炎処理剤に、メチロールメラミン樹脂を5重量部をさらに混合して構成した処理液剤を用いて、該処理液剤に浸漬させた後、二本のゴムローラー間に通しながら余分な水溶液を絞り出して、ホウ酸ナトリウム重合体と繊維反応型有機燐化合物とを該織布生地に均一に付着させた。引き続き、乾熱170℃のボックスの中に布速度40m/分で通し、乾燥させた。
【0049】
ホウ酸ナトリウム重合体の有効付着量は、対繊維重量比率ではホウ酸ナトリウム重合体の有効固形成分が15%owfであり、また、単位生地面積当たりでは、ホウ酸ナトリウム重合体の有効固形成分が24g/m2 であった。また、繊維反応型有機燐化合物の有効付着量は、対繊維重量比率では繊維反応型有機燐化合物の有効固形成分が15%owfであり、また、単位生地面積当たりでは、繊維反応型有機燐化合物の有効固形成分が13g/m2 であった。
【0050】
こうして得られた織布を、市販のガスライターで直下炎に晒して燃焼テストをしたが、全く燃えなかった。
【0051】
また、この生地は、綿(コットン)が良好に染色されており、色外観の点で良好なものであり、またタッチや風合いの点でも綿(コットン)ライクな風合いのある良好なものであった。
実施例2
実施例1で用いたフェノール樹脂系繊維の短繊維に代えて、ポリエステル繊維を用いた他は実施例1と同様にして織物生地を作成した。さらに該織物生地に対して、実施例1で用いたのと同様の、防炎処理剤にメチロールメラミン樹脂を混合して構成した処理液剤を用いて、実施例1と同様の処理条件で処理をした。
【0052】
こうして得られた織布を、市販のガスライターで直下炎に晒して燃焼テストをしたが、良好な不燃・難燃特性を示した。
【0053】
また、この生地は、ポリエステル繊維と綿(コットン)が良好に染色されており、色外観の点で良好なものであり、またタッチや風合いの点でも従来のポリエステル綿混品と同様レベルの良好なものであった。
実施例3
実施例1で用いたコットン繊維に代えて、フェノール樹脂系繊維の100%使いで用いた他は実施例1と同様にして織物生地を作成した。さらに該織物生地に対して、実施例1で用いたのと同様の、防炎処理剤にメチロールメラミン樹脂を混合して構成した処理液剤を用いて、実施例1と同様の処理条件で処理をした。
【0054】
こうして得られた織布を、市販のガスライターで直下炎に晒して燃焼テストをしたが、全く燃えなかった。
【0055】
この生地は、従来のフェノール樹脂系繊維の100%使いの織物と同様に、染色性・色外観の点などでは従来の同様の綿使いのものと同様レベルのものであるが、従来のものに比較してさらに強い不燃特性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール樹脂系繊維と天然繊維とが混紡されてなる繊維構造体であり、かつ、該繊維構造体には、少なくともホウ酸ナトリウム重合体を50〜100重量部、繊維反応型有機燐化合物を50〜100重量部を含み構成された防炎処理剤が付与されていることを特徴とする不燃性繊維構造体。
【請求項2】
ポリエステル系繊維と天然繊維とが混紡されてなる繊維構造体であり、かつ、該繊維構造体には、少なくともホウ酸ナトリウム重合体を50〜100重量部、繊維反応型有機燐化合物を50〜100重量部を含み構成された防炎処理剤が付与されていることを特徴とする不燃性繊維構造体。
【請求項3】
フェノール樹脂系繊維からなる繊維構造体であり、かつ、該繊維構造体には、少なくともホウ酸ナトリウム重合体を50〜100重量部、繊維反応型有機燐化合物を50〜100重量部を含み構成された防炎処理剤が付与されていることを特徴とする不燃性繊維構造体。
【請求項4】
繊維反応型有機燐化合物が、N−メチロールジメチル−ホスホノプロビオンアミドであることを特徴とする請求項1、2または3記載の不燃性繊維構造体。
【請求項5】
ホウ酸ナトリウム重合体の付着量が10〜40%owf、繊維反応型有機燐化合物の付着量が10〜40%owfであることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の不燃性繊維構造体。
【請求項6】
天然繊維が、綿(コットン)であることを特徴とする請求項1、2、4または5記載の不燃性繊維構造体。
【請求項7】
綿(コットン)の混合使用比率が、繊維構造体の全繊維重量中、25〜75重量%であることを特徴とする請求項6記載の不燃性繊維構造体。
【請求項8】
不燃性繊維構造体が、紡績糸であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の不燃性繊維構造体。
【請求項9】
不燃性繊維構造体が、織編物であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の不燃性繊維構造体。

【公開番号】特開2007−291563(P2007−291563A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−121453(P2006−121453)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(500282427)東レインターナショナル株式会社 (27)
【Fターム(参考)】