説明

不燃性電波吸収板及び不燃性電波吸収積層板

【課題】電波吸収能に優れるため、例えば、無線LAN採用室内の内装材や天井材、ETCを採用している料金所の壁材や天井材等に適するとともに、軽量であるため、施工性や運搬性も良好な不燃性電波吸収板及び不燃性電波吸収積層板を提供すること。
【解決手段】本発明の第1発明の不燃性電波吸収板10は、セメント、シリカ質原料、繊維補強材、フェライト粉末および導電性カーボンブラックを含有し、前記フェライト粉末の含有量が全体の20〜60質量%であり、前記導電性カーボンブラックの含有量が全体の1〜5質量%である。また、本発明の第2発明の不燃性電波吸収積層板1は、前記した第1発明の不燃性電波吸収板10の一方の面に導電性電波反射体11を積層し、前記不燃性電波吸収板10の他方の面にケイ酸カルシウム板12を積層する構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信機器から発せられる電波の多重反射による誤動作を防止することができる不燃性電波吸収板及び不燃性電波吸収積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信機器による種々の形式の情報伝達が活発化し、例えば、オフィス内では社内コンピューターネットワークが拡大しており、LAN(Local Area Network:構内通信網)構築も有線から無線によるネットワーク化が普及されている。
また、高速道路等の有料道路においても、ITS(Intelligent Transport System:高度道路交通システム)が構築され、その一環として、ETC(Electronic Toll Collection System:ノンストップ自動料金収受システム)や、DSRC(Dedicated Short Range Communications:狭域通信)システムが普及しつつある。
【0003】
一方、前記したシステムを採用するにあっては、天井や側面壁等で電波が多重反射することによって誤動作が生じており、問題となっている。また、このような電波の反射を防ぐ対策として、電波を吸収する磁性材料を板やシートに混合し、これを反射面に設置する方法が採用されており、例えば、電波吸収材としては、フェライトを樹脂材料やゴム材料をマトリックスとして混練したシートや板材が開発されている。
【0004】
しかしながら、このようなシートや板材は、ETC等における使用が可能であっても、樹脂材料やゴム材料がマトリックスであるため、屋外においては紫外線による劣化が考えられ、また、耐久年数にも問題があった。加えて、地下、屋上の駐車場や、ITSに関わるトンネル内の内壁には、防火性に劣る可燃材料は不適当であり、不燃材料からなる電波吸収板の提供が求められていた。そして、このような不燃性の電波吸収板としては、無線LAN対応の不燃電波吸収板やETC対応の不燃電波吸収板についての技術が開示されていた(例えば、特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−229693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記した特許文献に開示されるETC用不燃電波吸収パネルは、重量が重いため、室内やトンネル等の天井に施工する場合にあっては、施工性や運搬性が悪く、その改善が求められていた。
【0007】
従って、本発明の目的は、電波吸収能に優れるため、例えば、無線LANを採用する室内の内装材や天井材、ETCを採用している料金所の壁材や天井材等に適するとともに、軽量であり、施工性や運搬性も良好な不燃性電波吸収板及び不燃性電波吸収積層板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を達成するために、本発明の不燃性電波吸収板は、セメント、シリカ質原料、繊維補強材、フェライト粉末および導電性カーボンブラックを含んでなる不燃性電波吸収板であって、前記フェライト粉末の含有量が全体の20〜50質量%であり、前記導電性カーボンブラックの含有量が全体の1〜5質量%であることを特徴とする。
【0009】
本発明の不燃性電波吸収板は、セメント、シリカ質原料、繊維補強材、フェライト粉末および導電性カーボンブラックを含んでなり、フェライト粉末の含有量が全体の20〜50質量%であり、前記導電性カーボンブラックの含有量が全体の1〜5質量%という構成を採用している。よって、導電性カーボンブラックの添加により、比重が高いフェライト粉末を電波吸収板に対して20〜50質量%と低い割合に抑えるため、電波吸収性を良好な状態で維持したまま、電波吸収板の軽量化を図ることができ、電波吸収性と易運搬性、施工性を併せ持った電波吸収板を提供することができる。
また、本発明の電波吸収板は、マトリックス材料がセメントやシリカ質原料といった不燃性材料であるため、優れた不燃性を備えたものとなる。
【0010】
そして、このような第1発明の不燃性電波吸収板は、通信機器から発せられる電波を多重反射による誤動作を防止するための電波吸収板であり、無線LAN(Local Area Network:構内通信網)を採用する室内の内装材や天井材、ETC(Electronic Toll Collection System:ノンストップ自動料金収受システム)やDSRC(Dedicated Short Range Communications:狭域通信)システムを採用している料金所の壁材や天井材等に適用することができ、更には、将来この料金システムが駐車場、ドライブスルー等に適用された場合でも、有利に使用することができる。
【0011】
本発明の第1発明の不燃性電波吸収板は、厚さが3〜30mmであることが好ましい。
この本発明の不燃性電波吸収板は、厚さを3〜30mmとしているので、製造性ないし生産性も良好となり、また、例えば、無線LANに適用される場合の周波数帯である2.45GHzや、ETCに適用される場合の周波数帯の5.8GHzにも問題なく対応可能な電波吸収板となる。
【0012】
また、本発明の第2発明の不燃性電波吸収積層板は、前記した第1発明の不燃性電波吸収板の一方の面に導電性電波反射体を積層し、前記不燃性電波吸収板の他方の面にケイ酸カルシウム板を積層することを特徴とする。
【0013】
この本発明の不燃性電波吸収積層板は、前記した第1発明の不燃性電波吸収板の一方の面に導電性電波反射体を積層し、不燃性電波吸収板の他方の面にケイ酸カルシウム板を積層する構成を採用しているので、前記した第1発明の備えた効果を享受するとともに、複層化による吸収周波数の広帯域化を有するものとなる。また、ケイ酸カルシウム板を備えることにより、屋外においては紫外線による劣化が防止することができ、さらに、誘電体であるケイ酸カルシウム板を積層することにより、吸収性能の向上と整合周波数の調整を図ることができる。そして、ケイ酸カルシウムは不燃材料なので、不燃性を優れた状態で維持することができる。
【0014】
そして、この第2発明の不燃性電波吸収積層板も、第1発明の不燃性電波吸収板と同様に、無線LANの採用室内の内装材や天井材や、ETCやDSRCシステムを採用している料金所の壁材や天井材等に適用することができる。
【0015】
本発明の不燃性電波吸収積層板は、前記ケイ酸カルシウム板の厚さが3mm以上であることが好ましい。
この本発明によれば、不燃性電波吸収積層板を構成する、誘電体であるケイ酸カルシウム板の厚さが3mm以上であるので、成形性も良好となるとともに、吸収周波数の広帯域化を図ることができ、また、不燃性も更に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(I)不燃性電波吸収板の構成:
本発明の第1発明の不燃性電波吸収板(以下、単に「電波吸収板」とする場合もある)は、セメント、シリカ質原料、繊維補強材、フェライト粉末および導電性カーボンブラックを含んでなる不燃性電波吸収板であって、フェライト粉末の含有量が全体の20〜50質量%であり、導電性カーボンブラックの含有量が全体の1〜5質量%である。
【0017】
ここで、セメント材料としては、ポルトランドセメントを使用することが好ましく、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、低アルカリ形のポルトランドセメント等のポルトランドセメントが挙げられる。
また、このポルトランドセメントに対して、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ質混合材を混合した混合セメントを使用してもよい。
なお、セメントを混合する場合にあっては、セメントの水和促進のため、ケイ酸ソーダ等の硬化促進剤を添加するようにしてもよい。
【0018】
シリカ質原料としては、ケイ酸(SiO)が含まれている原料をいい、例えば珪石、珪砂、珪藻土、白土、パーライトなどの鉱物微粉末、ホワイトカーボンなどの合成粉末、フライアッシュ、シリカヒュームなどのダストを使用することができる。
なお、本発明の電波吸収板は、マトリックス材料がこれらセメントやシリカ質原料といった不燃性材料であるため、優れた不燃性を備えたものとなる。
【0019】
繊維補強材としては、有機系および無機系の繊維補強材を採用することができ、繊維補強材を添加することにより、電波吸収板の機械的強度をより優れたものとすることができる。また、繊維補強材の含有量は、電波吸収板全体に対して1〜10質量%とすることが好ましい。
【0020】
繊維補強材としては、有機系繊維補強材や無機系繊維補強材が挙げられる。
有機系繊維補強材としては、セルロース繊維、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維等を採用することができ、セルロース繊維としては、針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒しクラフトパルプ(LBKP)が挙げられる。
【0021】
一方、無機系繊維補強材としては、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、ステンレス繊維等を採用することができる。これらの繊維補強材は、原料成形体全体に対して1〜10質量%程度添加することができ、これら繊維補強材は、所定の混合手段により、原料成形体に対して均一に混合、分散するようにすればよい。
【0022】
ここで、この繊維補強材は、電波吸収板の不燃性を高めることを考慮すると、無機系繊維補強材を使用することが好ましい。また、炭素繊維は、電波吸収板の補強、不燃性の向上に寄与するのみならず、吸収しうる電波周波数の広帯域化を図ることができるので、その使用範囲を広げることが可能となる。
なお、繊維強化材として炭素繊維を添加する場合にあっては、あらかじめ設計された吸収周波数帯域がシフトしてしまう可能性があるので、前もって吸収帯域の確認が必要である。
【0023】
本発明の不燃性電波吸収板に電波吸収材料として添加されるフェライト粉末は、その大きさとして、平均粒径を1μm以下として、かさ比重を小さく(例えば0.6以下)と小さくしたものを適用することにより、軽量化を図ることができるため好ましい。
【0024】
フェライト粉末の含有量は、電波吸収板全体に対して20〜50質量%とし、30〜40質量%とすることが好ましい。フェライト粉末の含有量が全体の20質量%より小さいと、十分な電波吸収特性を得ることができず、一方、含有量が全体の50質量%を越えると、電波吸収板の重量化を招き、運搬性、施工性が悪くなるとともに、切削、釘打ち等の施工における加工性が劣化する問題が生じるため好ましくない。
なお、本発明の電波吸収板は、このように、比重が高いフェライト粉末を、電波吸収板に対して20〜50質量%と低い含有量に抑えることができるため、電波吸収板の軽量化を図ることができ、易運搬性、施工性に優れることとなる。
【0025】
また、導電性材料である導電性カーボンブラックは、磁性損失材料である前記したフェライト粉末とは異なり、誘電損失材料であるので、電界により電波を吸収する性能を有する。このように、導電性カーボンブラックを配合したことにより、得られる電波吸収板の誘電率を高めることができる。加えて、本発明にあっては、比重の高いフェライトの含有量を減らすことができ、電波吸収板の軽量化を図ることができる。
導電性カーボンブラックの大きさとしては、特に限定はなく、適宜決定すればよい。また、比較的軟らかい粒状のものを適用することが、分散性も良好となり、取り扱いやすく好ましい。
【0026】
この導電性カーボンブラックの含有量は、電波吸収板全体に対して1〜5質量%とし、
2〜4質量%とすることが好ましい。導電性カーボンブラックの含有量が1〜5質量%の範囲内であれば、誘電損失効果で電波吸収性能を向上させることができるが、含有量が全体に対して1質量%以下では、電波吸収性能が低くなり、含有量が5質量%を越えると、誘電率が高くなり過ぎて、逆に吸収特性が低下してしまう。更には、導電性カーボンブラックは高価であるため、含有量が5質量%を越えるとコスト的にも好ましくない。
【0027】
なお、本発明の電波吸収板に対しては、本発明の効果を妨げない範囲において、高分子系バインダー、木片、ガラスビーズ等の任意成分を適宜添加するようにしてもよい。
【0028】
本発明の電波吸収板を製造するには、例えば、前記した構成材料、具体的にはセメント、シリカ質原料、繊維補強材、導電性カーボンブラック、フェライト粉末及び必要により任意成分を所定の混合比で混合して原料混合物とした後に、適量の水を加えて粘土状ないしスラリー状等の流動性を帯びた混練物を作り、この混練物を押出成形、脱水プレス成形、抄造成形等の公知の成形方法により板状成形体とすればよい。
【0029】
成形方法として抄造成形や脱水プレス成形を用いる場合は、原料混合物に多量の水を混合して、スラリー状とした後、任意の条件により構成材料を板状成形体に成形するようにすればよい。なお、抄造成形や脱水プレス成形を実施するに際しては、成形時に凝集剤を添加するようにしてもよく、このようにして成形時に凝集剤を添加することにより、成形性の向上を図ることができる。
【0030】
また、成形方法として押出成形を用いる場合は、原料混合物に少量の水とセルロース系の押出助剤を混合して混合攪拌することにより粘土状の混練物として、任意の成形条件により成形するようにすればよい。ここで、押出成形は各原料の比重差による不均一が少ない成形方法であるので、平板はもとより、回り縁、見切縁、窓枠等建築部材といった意匠性に富む成形体の成形を可能とする。
【0031】
このようにして得られた板状成形体は、公知の硬化手段により硬化されて、電波吸収板となる。硬化方法としては、水熱養生、蒸気養生、常温常圧養生がある。
例えば、硬化手段として水熱養生(水熱反応による養生)を実施する場合にあっては、オートクレーブを用いて実施することができる。また、水熱反応の条件としては、特に制限はないが、例えば、温度を105〜210℃程度、圧力を0.12〜1.91MPa、反応時間を1〜12時間程度とすればよい。このようにして、板状成形体に対して水熱反応を行って硬化させることにより、板状成形体を効率的かつ確実に硬化させることができ、機械的強度が良好となる。
【0032】
なお、このような水熱反応を実施することにより、水の存在下で、高温高圧になるほど、セメントの水和反応、シリカ質原料との結合反応が進み、板の強度、寸法安定性能に優れることとなるが、エネルギーコストや装置設備の維持等のコストがかかるので、板材の使用する環境に合わせて選択することが望ましい。
【0033】
このようにして硬化が行われた板状成形体は、必要により乾燥処理を施すことが好ましい。ここで、乾燥処理の条件は、板状成形体の含水状態の程度にあわせて、適宜決定すればよい。
【0034】
このようにして得られた電波吸収板は、その厚さを3〜30mmの範囲内とすることが好ましく、4〜20mmとすることが特に好ましい。電波吸収板の厚さが3〜30mmであれば、例えば、無線LANに適用される場合の周波数帯である2.45GHzや、ETCに適用される場合の周波数帯の5.8GHzにも問題なく対応可能となる。一方、製造性ないしは生産性の観点からいえば、不燃性電波吸収板の厚さが3mmより小さいと、成形時において板形状を保持できない場合があり、歩留まりが悪くなる。一方、不燃性電波吸収板の厚さが30mmを越えると、生産性が低下し、これも好ましくない。
【0035】
このようにして得られる本発明の第1発明の不燃性電波吸収板は、セメント、シリカ質原料、繊維補強材、フェライト粉末および導電性カーボンブラックを含んでなり、フェライト粉末の含有量が全体の20〜50質量%であり、導電性カーボンブラックの含有量が全体の1〜5質量%という構成を採用しているので、導電性カーボンブラックの添加により、比重が高いフェライト粉末を、電波吸収板に対して20〜50質量%と低い含有量に抑えるため、電波吸収性を良好な状態で維持したまま、電波吸収板の軽量化を図ることができ、電波吸収性と易運搬性、施工性を併せ持った電波吸収板を提供することができる。
また、本発明の電波吸収板は、マトリックス材料がセメントやシリカ質原料といった不燃性材料であるため、優れた不燃性を備えたものとなる。
【0036】
(II)不燃性電波吸収積層板の構成:
図1は、本発明の第2発明の不燃性電波吸収積層板1の構成の一態様を示した断面図である。この不燃性電波吸収積層板1は、前記した第1発明の不燃性電波吸収板10の一方の面に導電性電波反射体11を積層し、当該電波吸収板10の他方の面にケイ酸カルシウム板12を積層してなるものである。
【0037】
本発明の不燃性電波吸収積層板1を構成し、不燃性電波吸収板10の一方の面に積層される導電性電波反射体11としては、導電性を備え、電波を反射するものであることより、層状の金属材料、具体的には、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等からなる薄板、フィルム、シート、メッシュ網、箔等を採用することができる。導電性電波反射体11の厚さは、特に制限はないが、0.1〜1mm程度であればよい。
【0038】
また、不燃性電波吸収積層板1を構成し、不燃性電波吸収板10の他方の面に積層されるケイ酸カルシウム板12は、素板、化粧板のどちらを採用してもよいが、化粧板を採用することで施工現場での表面塗装作業を省略することができるので好ましい。
なお、ケイ酸カルシウム板12として素板を採用する場合は、意匠性および耐水性付与のため、表面に塗装、もしくは化粧シートを貼ることが望ましい。
【0039】
ケイ酸カルシウム板12の厚さは、3mm以上であることが好ましく、5〜7mmであることがより好ましい。誘電体であるケイ酸カルシウム12の厚さが3mm以上であれば、成形性も良好となるとともに、吸収周波数の広帯域化を図ることができ、また、不燃性も更に向上する。一方、ケイ酸カルシウム板12の厚さが3mmより小さいと、目的とする吸収周波数での対応が困難となったり、成形時においては板形状の保持が困難となる場合がある。
なお、ケイ酸カルシウム板12は、主として抄造成型により製造されるが、厚さが3mm以上であれば、成形歩留まりも良好となる。
【0040】
不燃性電波吸収積層板1は、電波吸収板10の一方の面に対して導電性電波反射体11を接着剤、もしくはビス留め(ネジ留め)により貼り合わせ、電波吸収板10の他方の面に対して、ケイ酸カルシウム板12をビス留め(ネジ留め)、もしくは接着剤により貼り合わせて、3層が一体となった不燃性電波吸収積層板1を簡便に得ることができる。
ここで、接着剤としては、有機系、無機系の接着剤を採用することができる。有機系接着剤としては、α−オレフィン系、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系等の接着剤を、無機系接着剤としては、ケイ酸ソーダ、アルミナセメント等を採用することができる。
【0041】
このように、本発明の不燃性電波吸収積層板1は、前記した第1発明の不燃性電波吸収板10の一方の面に導電性電波反射体11を積層し、不燃性電波吸収板10の他方の面にケイ酸カルシウム板12を積層する構成を採用しているので、前記した第1発明の備えた効果を享受するとともに、複層化による吸収周波数の広帯域化を有することとなる。
また、ケイ酸カルシウム板12を備えることにより、屋外においては紫外線による劣化が防止することができる。
さらに、誘電体であるケイ酸カルシウム板12を積層することにより、吸収性能の向上と整合周波数の調整を図ることができる。
そして、ケイ酸カルシウムは不燃材料なので、不燃性を優れた状態で維持することができる。
【0042】
本発明の第1発明の不燃性電波吸収板10や、第2発明の不燃性電波吸収積層板1は、通信機器から発せられる電波を多重反射による誤動作を防止するための電波吸収板であり、無線LAN(Local Area Network:構内通信網)を採用する室内の内装材や天井材、ETC(Electronic Toll Collection System:ノンストップ自動料金収受システム)やDSRC(Dedicated Short Range Communications:狭域通信)システムを採用している料金所の壁材や天井材等に適用することができ、更には、将来この料金システムが駐車場、ドライブスルー等に適用された場合であっても有利に使用することができる。
【0043】
また、本発明の不燃性電波吸収積層板1は、有料道路の料金所に用いられるETCに用いることができるが、具体的には、車両が通過する料金所の天井や側面壁に対し、車両が通過する側にケイ酸カルシウム板12が向き合うようにして配置し、導電性電波反射体11は、車両が通過する側の反対側を向くように配置すればよい。
【0044】
なお、本発明の不燃性電波吸収積層板1を屋外で使用する場合において、雨水により濡れることが予想される場所への設置では、不燃性電波吸収積層板1に対して防水処置を施すことが好ましい。
防水処置としては、例えば、不燃性電波吸収板10やケイ酸カルシウム板12に撥水剤を塗布して撥水層を表面に形成したり、また、不燃性電波吸収積層板1を防水シートで覆うことが挙げられる。このような防水処置を施すことにより、不燃性電波吸収積層板1が濡れて誘電率が高くなることによる吸収性能の低下や、目的とする吸収周波数の低シフト化を防ぐことができる。
【0045】
なお、本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は、本発明に含まれるものである。
例えば、不燃性電波吸収板10をさらに低比重化するために、攪拌式オートクレーブで水熱処理反応を施されたトバモライト(5CaO・6SiO・5HO)、ゾノトライト(6CaO・6SiO・HO)、CSH(非晶質ケイ酸カルシウム水和物:ケイ酸カルシウム水和物が水和反応する際に生成する中間体、準結晶)等の超軽量ケイ酸カルシウム水和物を原料混合工程で混合して、軽量化を図るようにしてもよい。
【0046】
更には、硬化処理反応温度内で分解しない樹脂を、不燃材料として適合する範囲内で配合しておくことで強度の向上を図ることもできる。
その他、本発明を実施する際の具体的な構造および形状等は、本発明の目的を達成できる範囲内で他の構造等としてもよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び参考例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明はこれら実施例等の内容に限定されるものではない。
【0048】
[実施例1]
電波吸収板の製造:
表1は、実施例1および参考例1で使用した不燃性電波吸収板の原料の配合割合を示したものである。
この表1の配合に従って、各原料および水を混合し、モルタルミキサーによって、攪拌数50rpmで10分間混練した。得られた混練物を、押出成形機により押出成形し、長さ450mm、幅300mm、厚さ12mmの板状成形体を得た。得られた板材を、温度を151℃、0.49MPaの圧力下、10時間水熱処理反応を行った後、120℃で12時間乾燥させて不燃性電波吸収板を得た。
なお、参照として用いた参考例1は、電波吸収材料としてフェライト粉末のみを用いた、従来品の電波吸収板である。
【0049】
なお、表1に示した原料の詳細は下記の通りである。
すなわち、セメント材料としては、普通ポルトランドセメントを、シリカ質原料としては、珪石粉末(SiO含有量:97.8%)とパーライト(真珠岩JISSO.15−0.6)の混合物を採用した。
有機質繊維には、NBKP(針葉樹晒しクラフトパルプ)とポリプロピレンとからなる繊維(配合比 1:1)を採用した。
フェライト粉末は、実施例1ではマグネタイト微粉末(平均粒径 0.4μm)を、比較例1ではMn−Zn系フェライト(粒径 0.1〜2.0mm)の粒状品を採用した。
導電性カーボンブラックは、ケッチェンブラックEC粒状品を採用した。
メチルセルロースは、市販品(信越化学工業(株)製)を使用した。
さらに、板材中の含水率を、板材の外割重量比で示した。
【0050】
(原料構成)
【表1】

【0051】
前記した実施例1及び参考例1で得られた不燃性電波吸収板について、建築材料としての性能を確認すべく、かさ比重、曲げ強度、吸水率、吸水長さ変化率、及び切断加工性を評価した。結果を表2に示す。
なお、前記の測定項目のうち、かさ比重、吸水率および吸水長さ変化率については、JIS A5430に準拠した方法により測定した。また、曲げ強度については、JIS A1408に準拠した方法により測定した。結果を表2に示す。
また、切断加工性は、得られた電波吸収板をチップソー(外径 355mm)で切断し、切断面の直線性を目視にて観察・確認した。そして、切断面が良好な場合を「○」、普通の場合「△」、切断面に引き曲がりがあった場合には「×」と判定した。
【0052】
(結果)
【表2】

【0053】
表2で示されるように、実施例1の不燃性電波吸収板は、参照である参考例1と同様に、いずれも実用するにあたって十分な強度を有しており、また、吸水長さ変化率も低く、吸水に対する十分な寸法安定性を有していることが確認された。
また、実施例1は、従来品である参考例1に比べてかさ比重が低くなっている。従って、実施例1の不燃性電波吸収板は、易運搬性、施工性に優れていることがわかる。
【0054】
[実施例2]
不燃性電波吸収積層板1の製造(1):
前記した実施例1に示した方法と同様な方法を用いて、長さが450mm、幅が300mm、厚さが8mmの不燃性電波吸収板10を得た。
この不燃性電波吸収板10の一方の面に導電性電波反射体11として厚さが0.1mmのアルミニウムフィルム(接着層としてアクリル系接着剤を被着済み)を、当該接着層を介して貼り合わせた。
また、不燃性電波吸収板10の他方の面には、厚さが6.3mmのケイ酸カルシウム板12(かさ比重0.8の繊維混入ケイ酸カルシウム板)をビス留めにより接合して、図1に示す構成の本発明の不燃性電波吸収積層板1を製造した。
【0055】
[参考例2]
不燃性電波吸収積層板の製造(2):
前記した参考例1に示した方法と同様な方法を用いて、長さが450mm、幅が300mm、厚さが7.0mmの電波吸収板を得た。この電波吸収板の一方の面に導電性電波反射体として、実施例2で用いたものと同様のアルミニウムフィルムを接着層を介して貼り合わせた。また、電波吸収板の他方の面には、厚さが8.0mmのケイ酸カルシウム板をビス留めにより接合して、不燃性電波吸収積層板を製造した。
【0056】
そして、前記した実施例2、参考例2で得られた不燃性電波吸収積層板について、所定寸法の試験片を作成し、所定領域の周波数の電波を入射させ、その際の反射される電波の反射損失を、同軸管法を用いて確認した。電波の周波数(GHz)に対する、反射された電波の反射損失(dB)の関係を図2(実施例2)及び図3(参考例2)に示した。
【0057】
図2及び図3は、横軸に入射する電波の周波数(GHz)を、縦軸に反射された電波の反射損失(dB)を示すグラフである。ETC(Electronic Toll Collection System:ノンストップ自動料金収受システム)にあっては、使用されている周波数領域は5.8GHzであるが、図2及び図3に示されるように、従来品である参考例2と同様、実施例2も、ETCに使用されている5.8GHzでの反射損失は20dB以上であり、吸収性能があることが確認された。この結果から、フェライト粉末の含有量が低い一方、導電性カーボンブラックを配合し、軽量化を図った実施例1の不燃性電波吸収板を使用した実施例2の不燃性電波吸収積層板においても、従来品(参考例2)と同様、ETCにおける電波吸収の用途への使用に十分適用できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、無線LAN(Local Area Network:構内通信網)を採用する室内の内装材や天井材、ETC(Electronic Toll Collection System:ノンストップ自動料金収受システム)、DSRC(Dedicated Short Range Communications:狭域通信)システム等を採用している料金所の壁材や天井材等に適する不燃性電波吸収板及び不燃性電波吸収積層板として有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の不燃性電波吸収積層板の一態様を示す断面図である。
【図2】実施例2に係る不燃性電波吸収積層板についての電波吸収性能の測定結果を表すグラフである。
【図3】参考例2に係る不燃電波吸収板についての電波吸収性能の測定結果を表すグラフである。
【符号の説明】
【0060】
1 … 不燃性電波吸収積層板
10 … 不燃性電波吸収板
11 … 導電性電波反射体
12 … ケイ酸カルシウム板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、シリカ質原料、繊維補強材、フェライト粉末および導電性カーボンブラックを含んでなる不燃電波吸収板であって、
前記フェライト粉末の含有量が全体の20〜50質量%であり、
前記導電性カーボンブラックの含有量が全体の1〜5質量%であることを特徴とする不燃性電波吸収板。
【請求項2】
請求項1に記載の不燃性電波吸収板において、
厚さが3〜30mmであることを特徴とする不燃性電波吸収板。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の不燃電波吸収板の一方の面に導電性電波反射体を積層し、
前記不燃電波吸収板の他方の面にケイ酸カルシウム板を積層することを特徴とする不燃性電波吸収積層板。
【請求項4】
請求項3に記載の不燃性電波吸収積層板において、
前記ケイ酸カルシウム板の厚さが3mm以上であることを特徴とする不燃性電波吸収積層板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−165178(P2006−165178A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−352893(P2004−352893)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【出願人】(390036722)神島化学工業株式会社 (54)
【Fターム(参考)】