説明

不織布およびその製造方法

【課題】軟便の透過が容易な不織布。
【解決手段】不織布1が熱可塑性合成樹脂の短繊維11を互いに溶着させることによって形成される。不織布1の表面2には幅方向Bにおいて起伏を繰り返し長さ方向Aへ互いに並行して延びる隆起部6と谷部7とが形成される。不織布1は、その裏面3を下側にして水平面Hに置くと、隆起部6における裏面3と水平面Hとの間に高空隙部21が形成される。隆起部6の頂点付近においては、短繊維11が不織布1の厚さ方向へ延びるように傾斜している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、不織布およびその製造方法に関し、より詳しくは使い捨てのおむつを一例とする体液吸収性物品の透液性表面シートとして使用するのに好適な不織布およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、使い捨てのおむつや生理用ナプキン等の体液吸収性物品における吸収体を透液性表面シートで被覆することは周知である。また、その透液性表面シートとして不織布を使用し、その不織布には熱可塑性合成樹脂で形成された短繊維を使用する場合の多いことも周知である。例えば、特開2008−25080号公報(特許文献1)に開示された不織布は、表面シートとして使用するのに好適なものである。この不織布は、熱可塑性合成樹脂の短繊維で形成されたウエブに熱風を吹き付けることによって形成されるもので、互いに並行して機械方向へ延びる隆起部と谷部とを有し、機械方向に直交する交差方向では、これら隆起部と谷部とが交互に並んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−25080号公報(JP2008−25080 A)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の不織布の一例においては、ウエブの幅方向に並ぶ複数のノズルからウエブに対して熱風を吹き付けることによってノズルの直下のウエブに谷部が形成され、隣り合うノズルとノズルとの間にあるウエブに隆起部が形成される。その隆起部では見かけの密度が、谷部における見かけの密度よりも高くなっている。このような不織布を使い捨てのおむつの表面シートとして使用すると、粘度の高い軟便のごとき排泄物は、見かけの密度の高い隆起部に滞留する傾向があって、表面シートを速やかに透過して表面シートの下にある吸収体に向かって移行することが難しいという場合がある。
【0005】
この発明は、表面シートとして使用したときの軟便の透過が容易となるように、従来の不織布に改良を施すことを課題にしている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するためのこの発明は、不織布に係る第1発明とその不織布の製造方法に係る第2発明とを含んでいる。
【0007】
この発明のうちの第1発明が対象とするのは、互いに溶着した短繊維によって形成されていて表面と裏面とを有し、前記表面には一方向へ互いに並行して延びる複数条の隆起部と前記隆起部どうしの間にあって前記一方向へ延びる複数条の谷部とが形成されている不織布である。
【0008】
かかる不織布において第1発明が特徴とするところは、以下のとおりである。すなわち、前記不織布は、前記裏面の側を水平面に置いて前記一方向に直交する方向の断面を観察すると、前記隆起部における前記裏面と前記水平面との間に前記隆起部における前記短繊維どうしの間隙よりも大きな空隙である高空隙部が形成されるものであって、前記短繊維が前記隆起部のうちの少なくとも頂点付近において前記不織布の厚さ方向へ延びるように傾斜していることを特徴とする。
【0009】
第1発明の実施形態の一つにおいて、前記断面においては、前記隆起部の頂点を通り前記水平面に対して垂直な基準線と前記短繊維との交差角度の平均値が75度以下である。
【0010】
第1発明の実施形態の他の一つにおいて、前記断面において、前記隆起部の断面積と前記高空隙部の断面積との合計断面積に対して、前記隆起部の断面積のうちで前記短繊維どうしの間隙が占める面積と前記高空隙部の断面積との和が占める割合である空隙部面積率が3.5〜25.0%である。
【0011】
第1発明の実施形態の他の一つにおいて、前記表面に20g/cmの荷重を3分間かけてから5分間静置した後の前記隆起部の高さの弾性的な回復率が少なくとも85%である。
【0012】
第1発明の実施形態の他の一つにおいて、前記不織布は10〜80g/mの単位質量を有するものであり、前記短繊維は1〜11dtexの繊度と20〜80mmの繊維長とを有する親水化処理されたものである。
【0013】
第1発明の実施形態のさらに他の一つにおいて、前記短繊維は、溶融温度の異なる二種類の熱可塑性合成樹脂で形成された複合繊維であって、前記二種類のうちで前記溶融温度の低い方の前記熱可塑性合成樹脂を介して互いに溶着している。
【0014】
この発明の第2発明が対象とし、特徴とするところは、請求項1記載の不織布を製造するための方法であって、その製造の工程に下記工程が含まれることである;
(1)熱可塑性合成樹脂の短繊維で形成されていて表面と裏面とを有するウエブを通気性の支持台に載せて前記支持台の下方から第1サクションを作用させながら機械方向へ走行させ、加熱されたジェットエアであって前記第1サクションの吸気量の3倍未満の風量である第1ジェットエアを前記ウエブに対して前記表面から前記裏面に向かう方向へ吹き付けることにより、前記ウエブを厚さ方向において圧縮しながら前記短繊維どうしを溶着させる前記ウエブの予備処理工程である第1工程、および
(2)前記予備処理工程の後に、前記支持台の下方から第2サクションを作用させながら前記支持台に載せた前記ウエブを前記機械方向へ走行させ、前記機械方向に直交する交差方向に所要の間隔をあけて並ぶ複数のノズルから前記第2サクションの吸気量の3倍以上の風量の第2ジェットエアを前記ウエブの前記表面から前記裏面に向かう方向へ吹き付けて前記第2ジェットエアの前記風量の一部を前記支持台で反射させることにより前記機械方向へ互いに並行して延びる複数条の隆起部と、前記隆起部どうしの間にあって前記機械方向へ延びる複数条の谷部とを形成するとともに、前記隆起部における前記裏面と前記支持台との間に前記隆起部における前記短繊維どうしの間隙よりも大きい高空隙部を形成する第2工程。
【発明の効果】
【0015】
この発明に係る不織布の隆起部では、頂点付近において繊維が不織布の厚さ方向へ傾斜していることに加え、裏面側に高空隙部を有することで、軟便のごとき高粘性排泄物は、隆起部の頂部から下方に向かって移行したり隆起部を透過したりすることが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】不織布の部分斜視図。
【図2】不織布の隆起部における交差方向の断面を示す写真。
【図3】不織布の製造工程の一部を示す図。
【図4】第2ノズル部の正面図。
【図5】空隙部面積率と軟便透過時間との関係を示す図。
【図6】(a),(b),(c)によって空隙部面積率の測定手順を示す図。
【図7】不織布の断面を示す写真。
【図8】不織布の断面の一部分を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付の図面を参照して、この発明に係る不織布およびその製造方法の詳細を説明すると、以下のとおりである。
【0018】
図1,2は、不織布1の一部分を模式的に示す斜視図と、不織布1の断面の一部分を50倍に拡大して示す写真である。不織布1は、その長さ方向と幅方向と厚さ方向とが互いに直交する双頭矢印A,B,Cで示されていて、厚さ方向Cには表面2とその反対面である裏面3とを有する。表面2には、長さ方向Aへ互いに並行して延びる隆起部6と谷部7とが形成されていて、幅方向Bにおいて交互に並ぶこれら隆起部6と谷部7とが起伏を画いている。隆起部6は水平面Hから厚さ方向Cに高さHを有するもので、隆起部6どうしの高さはほぼ同じである。
【0019】
不織布1は、熱可塑性合成樹脂で形成された短繊維11、好ましくは1〜11dtexの繊度と20〜80mmの繊維長とを有する短繊維11がそれに熱風を吹き付けられて互いに溶着しているものである。不織布1はまた、使い捨ておむつや生理用ナプキンを一例とする体液吸収性着用物品の透液性表面シートとして使用するのに好適なものであって、そのように使用するときの不織布1は10〜80g/mの単位質量を有することが好ましく、短繊維11は親水化処理されたものであることが好ましい。不織布1の表面2は凹条部を形成している谷部7の幅方向Bの寸法Wcが0.4〜2mmの範囲にあり、凸条部を形成している隆起部6の幅方向Bの寸法Wが2〜5mmの範囲にある。隆起部6の高さHは1〜5mmの範囲にある。谷部7は、高さHよりも0.7〜2.5mm低いところにあることが好ましい。短繊維11は、短繊維11どうしの溶着を容易にするとともに不織布1を厚さ方向Cにおいて弾性的に圧縮可能なものにするために、溶融温度の異なる二種類の合成樹脂を組み合わせることによって形成された複合繊維であって、溶融温度の低い方の合成樹脂が溶融することによって互いに溶着するものであることが好ましい。合成樹脂の組合せとしては、例えばポリエチレンとポリエステル、ポリエチレンとポリプロピレン等の公知ないし周知の組合せがある。複合繊維はシース・アンド・コア型のものでもよいし、サイド・バイ・サイド型のものでもよい。シース・アンド・コア型の複合繊維は、同芯型のものであっても、偏芯型のものであってもよい。これらの複合繊維は、熱的な処理や機械的な処理によって捲縮しているものであることが好ましい。なお、この発明における短繊維11には、複合繊維の他に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル等で形成されたステープルを使用することもできる。
【0020】
図3,4は、図1,2の不織布1を製造するのに使用する工程の部分図と、その部分図における第2ノズル部920の正面図である。図3において、支持台である厚さ方向に通気性を有する走行ベルト200には短繊維11によって形成された10〜80g/mの単位質量を有するカードウエブ100が載せられて、機械方向MDへ走行する。走行ベルト200には、例えば30メッシュ以上の開口を有するメッシュプレートが使用される。機械方向MDには、カードウエブ100をその厚さ方向において圧縮しながら短繊維11どうしを溶着してカードウエブ100の地合を安定させるための予備処理工程である第1工程901と、予備処理したカードウエブ100に隆起部6を形成する第2工程902とが設けられている。第1工程901では、カードウエブ100に対して、第1ノズル部910から加熱された第1ジェットエア911が吹き付けられ、その第1ジェットエア911がベルト200を通過して第1サクションボックス912に吸引される。第1ジェットエア911の風量は、第1サクションボックス912の吸気量の3倍未満に設定される。第1ジェットエア911の温度は、短繊維11どうしを溶着させることができる温度に設定されている。
【0021】
図3の第2工程902では、第1工程901で処理されたカードウエブ100に対して第2ノズル部920から複数条の加熱された第2ジェットエア921が吹き付けられる。第2ジェットエア921は、第1工程901によって得られる地合の安定したカードウエブ100を部分的に交差方向CDへ移動させて、第2ジェットエア921どうしの間に隆起部6を形成させるものであって、そのための第2ノズル部920の風量は、第2サクションボックス925の吸気量の少なくとも3倍となるように設定される。
【0022】
図4の第2ノズル部920では、交差方向CDに所要の中心間距離aをとって設けられた複数のノズル(図示せず)から第2ジェットエア921がカードウエブ100に向かって吹き付けられる。第2ジェットエア921は、風量が第2サクションボックス925の吸気量を超え始めると、ベルト200を通過して第2サクションボックス925に吸引される流れPと、ベルト200に沿って交差方向CDの両側へ向かう流れQ,Rとに分かれる傾向が強くなり(図4参照)、第2ジェットエア921の風量が第2サクションボックス925の吸気量の3倍を超える程度になると、第2ジェットエア921の作用による隆起部6と谷部7と高空隙部21との形成が次第に顕著になる。したがって、第2工程902においてこれら隆起部6と谷部7と高空隙部21とが確実に形成できるようにするには、ベルト200として、30メッシュ以上の通気性ベルトを使用したり、開口率が5〜30%であって、開口部と開口部との間に形成される非通気部の幅が1〜20mmの範囲にある通気性の開口プレートを使用したりし、併せて第2ノズル部920からの風量を第2サクションボックス925の吸気量の3倍以上に設定することが好ましい。
【0023】
中心間距離aをあけて吹き付けられる第2ジェットエア921の交差方向CDにおける位置は、図1の不織布1における谷部7の位置に一致している。カードウエブ100では、第2ジェットエア921の直下に位置していた短繊維11の一部が交差方向CDの両側へ等分に振り分けられるように移動して隆起部6の形成に加わるが、第2ジェットエア921の直下に残ったものは谷部7を形成する。短繊維11はまたそのような移動に加えて、隣り合う第2ジェットエア921どうしの間にあるものが中心間距離aを二等分する中心線f(図4参照)に向かうように交差方向CDへ移動して隆起部6を形成する。このときに、第2ジェットエア921のうちの流れQ,Rは、ウエブ100としてベルト200の上で水平に寝ていた短繊維11を中心線fに沿ってベルト200の上方へ押し上げるように作用して、それぞれの隆起部6における裏面3とベルト200との間に比較的大きな高空隙部21(図2参照)を作るようにも作用する。ウエブ100がこのようにして隆起部6と高空隙部21とを形成する過程では、第2工程902よりも上流側ではほぼ水平に寝ていた短繊維11が、隆起部6の表面2のうちの傾斜した表面2aに沿って上下方向へ向くようにその向きを変化させた状態になる。そのような短繊維11を含む不織布1の隆起部6では、尿や軟便が短繊維11に沿って上から下に向かって移行することが容易になり、例えば不織布1が使い捨てのおむつの表面シートとして使用されているのであれば、その不織布1が被覆している吸収体への移行も容易になる。
【0024】
発明者が知見したところによれば、不織布1の製造工程における第2サクションボックス925の吸気量が一定であるときに、図2の断面において、隆起部6の裏面3と水平面Hとの間に形成される高空隙部21の面積と隆起部6における短繊維11どうしの間の間隙22の面積との和である空隙部面積が隆起部6の断面積と高空隙部21の面積との和に対して占める割合はこの発明においての空隙部面積率と呼ぶものであって、その面積率は第2ノズル部920から噴射される第2ジェットエア921の風量に伴って変化する傾向がある。空隙部面積率の測定方法は、後記のとおりである。また、発明者がさらに知見したところによれば、不織布1における人工軟便の透過時間は空隙部面積率に依存する傾向がある。これらの知見は、以下のような作業において得られたものである。すなわち、短繊維11には、鞘成分がポリエチレンであり、芯成分がポリエステルであって、鞘と芯との容積比が6:4である同芯の複合繊維を使用した。その複合繊維は、繊度が2.6dtex、繊維長が64mmであって、25.4mmあたり15の機械的捲縮を有し、親水化処理されているものであった。カードウエブ100は、この短繊維11をカード機で処理することによって得られたもので、30g/mの単位質量を有するものであった。図3,4に示された工程において、第1ノズル部910における条件は、つぎのとおりであった;ノズル径:1mm、交差方向CDにおけるノズルの中心間距離:2mm、ノズルとカードウエブとの距離:5mm、第1ジェットエア911の温度:140℃、第1ジェットエア911の風量:3.3L/min、第1サクションボックス912の吸気速度:5m/sec。また、第2ノズル部920における条件は、次のとおりであった;ノズル径:1mm、交差方向CDにおけるノズルの中心間距離a:4mm、ノズルとカードウエブ100の表面との距離:5mm、第2ジェットエア921の温度:180℃、第2ジェットエア921の風量:4.0〜8.3L/min、第2サクションボックス925の吸気速度:5m/sec。これらの条件で得られた不織布は、その仕上げ工程として、図3の工程の後に機械方向MDに1.8mの長さを有する熱処理室(図示せず)を20m/minの速度で通過させて短繊維11どうしをさらに溶着させた。その熱処理室においては、138℃の熱風を0.7m/secの速度で循環させた。なお、第1ノズル部910と第2ノズル部920とにおける第1、第2ジェットエア911,921の温度は、ノズルに対してその上流から供給されるエアの設定温度あって、これら第1、第2ジェットエア911,921が短繊維11に吹き付けられるときの温度は設定温度よりも低くなるが、その温度は測定されていない。
【0025】
表1は、第2サクションボックス925の吸気速度を5m/secに固定して、第2ジェットエア921の風量を4.0〜8.3L/minの間で変化させて得られた不織布の空隙部面積率、軟便透過時間、嵩回復率、および平均繊維角度の測定結果を示している。
【0026】
【表1】

【0027】
図5は、表1における空隙部面積率と軟便透過時間との関係を示している。この発明に係る不織布1は、図5においての空隙部面積率が少なくとも3.5%のものであって、このような不織布1では、軟便の透過時間を確実に短くすることができる。そのような作用を有する不織布1はまた、少なくとも60%の嵩回復率を有するものであることが好ましく、隆起部6の頂部における平均繊維角度が75度以下のものであることが好ましい。
【0028】
図6は、図3,4の工程で得られる不織布の隆起部6における空隙部面積率を測定する手順を(a)〜(c)の一連の写真によって示している。その手順は、次のとおりである。なお、図6の(a)の写真は、図2の写真と同じものである。
A.測定用試片の作成
(1)測定対象とする不織布をコクヨカッターナイフHA−7B(商品名)用の替え刃HA−100でカットして、不織布の交差方向CDの断面を有する試片を用意し、測定台の水平面Hに置く。
(2)試片の表面2にアクリル板(図示せず)を載せ、さらにウエイト(図示せず)を載せて、試片に0.6g/cmの荷重を加える。
(3)キーエンスデジタルマイクロスコープVHX−100を使用して、試片の断面の50倍の写真を撮る(図2、図6のa参照)。
B.隆起部の断面積と空隙部面積率の測定
(1)画像解析ソフトUSB DEGIITAL SCALEを使用して、上記Aで作成した画像を読み込む。
(2)各画像を呼び出し、ヒストグラム値を80に設定して、画像を2値化する(図6のb)。
(3)画像の中で観察対象とする隆起部を指定し、図示の如く水平面Hを通る矩形の線Lで囲む(図6のc)。
(4)指定した隆起部において、画像解析により、短繊維が密集して白色を呈している部分の面積Sを求める。
(5)指定した隆起部において、画像解析により、水平面Hよりも上で黒色を呈している部分(短繊維が存在していない部分)の面積Sを求める。
(6)空隙部断面積と空隙部面積率とを次式によって求める。
空隙部断面積=S+S
空隙部面積率=S/(S+S
【0029】
表1における軟便透過時間の測定手順は、次のとおりである。
(1)測定対象とする不織布を100×100mmにカットして試片とする。
(2)2本の内径52mmの円筒を上下につなぎ、円筒と円筒との間に試片を置く。このときに、試片の下側には30メッシュ、厚さ0.3mmの合成樹脂性ネットをあてがい、試片のたわみを防ぐ。
(3)上側の円筒に40mlの人工軟便を5秒間で注入する。人工軟便の組成は、セルロース:ベントナイト:水=3.3:6.7:90とする。
(4)人工軟便を注入してから、人工軟便が試片への進入を開始した後に試片の上面に残って動かなくなるまでの時間を求め、軟便透過時間とする。
なお、軟便透過時間の測定の前後における試片の重量の差を求め、その差を試片における軟便残存量とするが、表1においての空隙部面積率が2.1〜6.3%である不織布についての軟便残存量は、いずれも4〜5gの範囲にあってほぼ一定しているとみなすことができた。
【0030】
表1における嵩回復率の測定手順は、次のとおりである。
(1)測定対象とする不織布を100×100mmにカットして測定用試片として水平面の上に置く。
(2)試片の表面に厚さTのアクリル板を載せ、アクリル板にはさらにウエイトを載せて試片に3g/cmの荷重を加え、3分間静置する。
(3)次に、ダイアルゲージを使用してアクリル板の上から試片とアクリル板との厚さTを測定する。
(4)次に、ウエイトを追加して試片に20g/cmの荷重を加えて3分間静置し、その後にダイアルゲージを使用して試片とアクリル板との厚さTを測定する。
(5)試片に対する荷重を3g/cmに戻してから5分間静置し、その後にダイアルゲージを使用して試片とアクリル板との厚さT測定する。
(6)次式によって、試片の嵩回復率を計算する。
嵩回復率(%)=(T−T)/(T−T)×100
【0031】
図7,8は、表1における平均繊維角度の測定手順を説明するための不織布の断面を示す写真とその断面の一部分を模式的に示す図である。
(1)測定対象とする不織布、例えば図1の不織布1を100×100mmにカットして測定用試片30とし、その試片30を70℃で30分間加熱して、試片30の取り扱い過程で生じたしわや折り癖を消して、試片30をできるだけ平坦なものにする。
(2)コクヨカッターナイフHA−7B(商品名)用の標準替え刃HA−100を使用して、試片30を交差方向CDに切断して、観察用の切断面31(図7参照)を作り、その試片30を水平な面に載せる。
(3)切断面31を電子顕微鏡(キーエンス社製リアルサーフェースビュー顕微鏡 VE−7800)で観察し、切断面31の30倍の拡大写真(図7参照)を撮る。撮影では試片における隆起部6の高さ全体を視野に入れる。
(4)撮影した画像の拡大写真において、水平な面に一致する水平線Hと隆起部6における頂点を通り水平な面Hに直交する垂直基準線Yとを引く。
(5)さらに、画像に対して、垂直基準線Yとの平行間隔が100μmとなる垂直な補助線Y,Yを垂直基準線Yの両側に引く。
(6)画像中の短繊維11それぞれについて、図8に示すように、2本の補助線Y,Yとの交点にマークM,Mをつける。
(7)2本の補助線Y,YにおけるマークM,Mを直線Sで結び、その直線Sと垂直基準線Yとの交差角度α,βを求め、α,βのうちで値の小さい方の交差角度を繊維角度θとする。
(8)画像中で焦点が合っているすべての短繊維11について繊維角度θを求め、求めた繊維角度の算術平均値を平均繊維角度θとする。
【符号の説明】
【0032】
1 不織布
2 表面
3 裏面
6 隆起部
7 谷部
11 短繊維
21 高空隙部
100 ウエブ
200 支持台(ベルト)
901 予備処理工程(第1工程)
902 第2工程
911 第1ジェットエア
921 第2ジェットエア
A 長さ方向
B 幅方向
C 厚さ方向
MD 機械方向
CD 交差方向
θ 平均繊維角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに溶着した短繊維によって形成されていて表面と裏面とを有し、前記表面には一方向へ互いに並行して延びる複数条の隆起部と前記隆起部どうしの間にあって前記一方向へ延びる複数条の谷部とが形成されている不織布であって、
前記不織布は、前記裏面の側を水平面に置いて前記一方向に直交する方向の断面を観察すると、前記隆起部における前記裏面と前記水平面との間に前記隆起部における前記短繊維どうしの間隙よりも大きな空隙である高空隙部が形成されるものであって、前記短繊維が前記隆起部のうちの少なくとも頂点付近において前記不織布の厚さ方向へ延びるように傾斜していることを特徴とする前記不織布。
【請求項2】
前記断面においては、前記隆起部の頂点を通り前記水平面に対して垂直な基準線と前記短繊維との交差角度の平均値が75度以下である請求項1記載の不織布。
【請求項3】
前記断面において、前記隆起部の断面積と前記高空隙部の断面積との合計断面積に対して、前記隆起部の断面積のうちで前記短繊維どうしの間隙が占める面積と前記高空隙部の断面積との和が占める割合である空隙部面積率が3.5〜25.0%である請求項1または2記載の不織布。
【請求項4】
前記表面に20g/cmの荷重を3分間かけてから5分間静置した後の前記隆起部の高さの弾性的な回復率が少なくとも85%である請求項1〜3のいずれかに記載の不織布。
【請求項5】
前記不織布は10〜80g/mの単位質量を有するものであり、前記短繊維は1〜11dtexの繊度と20〜80mmの繊維長とを有する親水化処理されたものである請求項1〜4のいずれかに記載の不織布。
【請求項6】
前記短繊維は、溶融温度の異なる二種類の熱可塑性合成樹脂で形成された複合繊維であって、前記二種類のうちで前記溶融温度の低い方の前記熱可塑性合成樹脂を介して互いに溶着している請求項1〜5のいずれかに記載の不織布。
【請求項7】
請求項1記載の不織布の製造工程に下記工程が含まれることを特徴とする前記不織布の製造方法;
(1)熱可塑性合成樹脂の短繊維で形成されていて表面と裏面とを有するウエブを通気性の支持台に載せて前記支持台の下方から第1サクションを作用させながら機械方向へ走行させ、加熱されたジェットエアであって前記第1サクションの吸気量の3倍未満の風量である第1ジェットエアを前記ウエブに対して前記表面から前記裏面に向かう方向へ吹き付けることにより、前記ウエブを厚さ方向において圧縮しながら前記短繊維どうしを溶着させる前記ウエブの予備処理工程である第1工程、および
(2)前記予備処理工程の後に、前記支持台の下方から第2サクションを作用させながら前記支持台に載せた前記ウエブを前記機械方向へ走行させ、前記機械方向に直交する交差方向に所要の間隔をあけて並ぶ複数のノズルから前記第2サクションの吸気量の3倍以上の風量の第2ジェットエアを前記ウエブの前記表面から前記裏面に向かう方向へ吹き付けて前記第2ジェットエアの前記風量の一部を前記支持台で反射させることにより前記機械方向へ互いに並行して延びる複数条の隆起部と、前記隆起部どうしの間にあって前記機械方向へ延びる複数条の谷部とを形成するとともに、前記隆起部における前記裏面と前記支持台との間に前記隆起部における前記短繊維どうしの間隙よりも大きい高空隙部を形成する第2工程。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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