説明

不織布の製造方法及びこの方法により製造された不織布

【課題】繊維の表面に機能性無機粉末が、その多くの部分が露出した状態で保持されており、粉末の機能が十分に発現される不織布の製造方法及び不織布を提供する。
【解決手段】本発明の不織布の製造方法は、熱可塑性樹脂繊維の表面に機能性無機粉末が保持された粉末保持繊維を用いた不織布の製造方法であって、熱可塑性樹脂繊維(ポリプロピレン繊維等)の表面に、溶媒に機能性無機粉末(シリカ粉末等)が分散されてなる分散液を付着させる分散液付着工程と、加熱により溶媒を除去する溶媒除去工程と、を備える。また、本発明の不織布3は、本発明の方法により製造され、繊維11の径が30〜70μmであり、フィルタとして用いられることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布の製造方法及びこの方法により製造された不織布に関する。更に詳しくは、本発明は、不織布を構成する繊維に機能性無機粉末が保持され、且つこの機能性無機粉末の多くの部分が露出した状態で保持されており、機能性無機粉末が有する機能が十分に発現される不織布の製造方法及びこの方法により製造された不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、消臭、抗菌、芳香及び遠赤外線作用等の各種の機能を有する不織布が開発されている。そして、このような特定の機能を不織布に付与するための各種の方法が提案されている。例えば、表面にバインダ等によって機能性粉末を付着させた繊維を用いて製造された不織布が知られている。また、予め機能性粉末が配合された樹脂からなる繊維を用いて製造された不織布も知られている。更に、機能性粉末が配合された樹脂と、配合されていない樹脂とを同時に溶融紡糸し、鞘部のみに機能性粉末が含有された芯鞘型繊維を用いて製造された不織布が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−41438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、バインダ等によって機能性粉末を付着させたときは、機能性粉末がバインダにより覆われてしまい、粉末の有する機能性が十分に発現されないことがある。また、機能性粉末が配合された樹脂からなる繊維を用いたときは、機能性粉末の多くの部分が繊維に埋没してしまって、十分に機能が発現されないことがある。この場合、より多量の機能性粉末を樹脂に配合し、機能を十分に発現させようとすると、紡糸が容易ではなく、且つ繊維の引張強さ等が低下し、十分な強度等を有する不織布とすることができないという問題がある。更に、芯鞘型繊維の鞘部のみに機能性粉末を含有させたときは、鞘部に機能性粉末が埋没してしまうことがあり、機能の更なる向上が必要になる場合がある。
【0005】
本発明は、上記の従来の問題を解決するものであり、機能性無機粉末が分散、含有された分散液を繊維に付着させ、その後、溶媒を除去するという簡便な工程で成形された粉末保持繊維を用いた不織布の製造方法を提供することを目的とする。
また、機能性無機粉末の多くの部分が露出した状態で保持された繊維を用いて製造され、粉末が有する機能が十分に発現され、且つ繊維の引張強さ等が低下しないため、十分な強度等を有し、特にフィルタの用途において有用な不織布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のとおりである。
1.熱可塑性樹脂繊維の表面に機能性無機粉末が保持された粉末保持繊維を用いた不織布の製造方法であって、
上記熱可塑性樹脂繊維の表面に、溶媒に上記機能性無機粉末が分散、含有されてなる分散液を付着させる分散液付着工程と、加熱により該溶媒を除去する溶媒除去工程と、を備えることを特徴とする不織布の製造方法。
2.上記加熱の温度が、差動走査熱量計により測定した上記熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の融解曲線における融解開始温度以上である上記1.に記載の不織布の製造方法。
3.上記溶媒の沸点が、上記加熱の温度未満である上記1.又は2.に記載の不織布の製造方法。
4.上記熱可塑性樹脂繊維は溶融紡糸により製造され、紡糸ノズルの内部の溶融樹脂の周囲に上記分散液が供給されて付着され、その後、上記溶媒の少なくとも一部が除去されて溶媒除去繊維となる上記1.に記載の不織布の製造方法。
5.上記溶媒除去繊維を再加熱する再加熱工程を更に備える上記4.に記載の不織布の製造方法。
6.上記再加熱の温度が、差動走査熱量計により測定した上記熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の融解曲線における融解開始温度以上である上記5.に記載の不織布の製造方法。
7.上記溶媒の沸点が、上記再加熱の温度未満である上記5.又は6.に記載の不織布の製造方法。
8.紡糸用ダイに設けられた上記紡糸ノズルの全数のうちの5〜50%の紡糸ノズルでは上記分散液が供給されない上記4.乃至7.のうちのいずれか1項に記載の不織布の製造方法。
9.上記分散液が供給されない紡糸ノズルが、上記紡糸用ダイの紡糸ノズル配列面において均等に配置されている上記8.に記載の不織布の製造方法。
10.上記機能性無機粉末を構成する粒子の径が30nm〜1μmである上記1.乃至9.のうちのいずれか1項に記載の不織布の製造方法。
11.上記1.乃至10.のうちのいずれか1項に記載の製造方法により製造された不織布であって、
上記繊維の径が30〜70μmであり、フィルタとして用いられることを特徴とする不織布。
【発明の効果】
【0007】
本発明の不織布の製造方法によれば、簡便な工程により、機能性無機粉末の有する機能が十分に発現され、且つ優れた強度等を有する不織布を容易に製造することができる。
また、加熱の温度が、差動走査熱量計により測定した熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の融解曲線における融解開始温度以上である場合は、繊維の表面近傍が溶融するため、表面に溶媒とともに付着していた機能性無機粉末が繊維に少し埋め込まれた状態で保持される。従って、機能性無機粉末の多くの部分が露出した状態で保持され、この粉末が有する機能が十分に発現される。
更に、溶媒の沸点が、加熱の温度未満である場合は、この加熱により溶媒が十分に、且つ容易に除去され、機能性無機粉末を繊維により強固に保持させることができる。
また、熱可塑性樹脂繊維は溶融紡糸により製造され、紡糸ノズルの内部の溶融樹脂の周囲に分散液が供給されて付着され、その後、溶媒の少なくとも一部が除去されて溶媒除去繊維となる場合は、溶媒の除去が十分であれば、この機能性粉末が保持された繊維を用いて連続的に不織布を製造することができ、より簡便な工程で、機能が十分に発現され、且つ強度等に優れた不織布を製造することができる。
この紡糸ノズルの内部の溶融樹脂に分散液を供給し、機能性無機粉末を保持させた繊維を用いる方法は、従来からの不織布の製造方法であるメルトブロー法及びスパンボンド法等において適用することができる。
更に、溶媒除去繊維を再加熱する再加熱工程を更に備える場合は、より確実に溶媒を除去することができ、機能性無機粉末を繊維により強固に保持させることができる。
また、再加熱の温度が、差動走査熱量計により測定した熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の融解曲線における融解開始温度以上である場合は、前記と同様の理由で、機能性無機粉末の多くの部分が露出した状態で保持され、この粉末が有する機能が十分に発現される。
更に、溶媒の沸点が、再加熱の温度未満である場合は、この加熱により溶媒が十分に、且つ容易に除去され、機能性無機粉末を繊維により強固に保持させることができる。
また、紡糸用ダイに設けられた紡糸ノズルの全数のうちの5〜50%の紡糸ノズルで分散液が供給されない場合は、表面に機能性無機粉末が保持された繊維と、保持されていない繊維との混合繊維を用いて不織布が製造される。そのため、より多くの繊維間を、容易に接合させることができ、強度が大きく、且つ所定形状が安定して保持される不織布とすることができる。
更に、分散液が供給されない紡糸ノズルが、紡糸用ダイの紡糸ノズル配列面において均等に配置されている場合は、繊維間の接合点を不織布の全面に渡って形成することができるため、所定形状がより安定して保持される不織布とすることができる。
また、機能性無機粉末を構成する粒子の径が30nm〜1μmである場合は、この微粒子を繊維の表面の略全面に均等に、且つ繊維から十分に露出させて保持させることができる。従って、保持された機能性無機粉末の繊維に対する質量割合が少量であっても、機能性無機粉末の機能が十分に発現される不織布とすることができる。
本発明の不織布は、繊維の径が不織布に用いられる繊維としては大径であっても、その表面に多くの機能性無機粉末が保持されている。従って、この粉末が有する機能が十分に発現され、且つ通気抵抗の低い不織布とすることができる。そのため、この不織布は、例えば、車両のエアフィルタ等の各種のフィルタとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を、例えば、図1〜6及び図8を用いて詳しく説明する。
本発明の不織布の製造方法は、熱可塑性樹脂繊維の表面に機能性無機粉末が保持された粉末保持繊維を用いた不織布の製造方法であって、熱可塑性樹脂繊維の表面に、溶媒に機能性無機粉末が分散、含有されてなる分散液を付着させる分散液付着工程と、加熱により溶媒を除去する溶媒除去工程と、を備えることを特徴とする。
即ち、熱可塑性樹脂を紡糸してなる熱可塑性樹脂繊維の表面に、溶媒に機能性無機粉末が分散、含有されてなる分散液を付着させる分散液を付着させ、その後、加熱により溶媒を除去して粉末保持繊維を製造し、この粉末保持繊維を用いて不織布を製造することを特徴とする。
【0009】
上記「熱可塑性樹脂繊維」は、熱可塑性樹脂を紡糸してなる繊維である。熱可塑性樹脂は特に限定されない。この熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂及びポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂などが挙げられる。また、紡糸方法も特に限定されないが、熱可塑性樹脂の場合、通常、溶融紡糸法により紡糸される。更に、繊維の形態は、繊維を不織布にするときの方法により選択することができる。即ち、ニードルパンチ法及びサーマルボンド法では長めの短繊維が用いられる。また、メルトブロー法及びスパンボンド法では、紡糸されたモノフィラメントがそのまま用いられる。これらの繊維の径は特に限定されず、100μm以下、特に30〜70μmとすることができる。
尚、不織布は、バインダにより繊維の交絡点を接着して結合させるケミカルボンド法により製造してもよいが、繊維の表面に保持された機能性無機粉末の多くがバインダによって覆われてしまないように条件を設定する必要がある。
【0010】
上記「機能性無機粉末」は、繊維の表面に保持され、不織布に機能性を付与する粉末である。機能性無機粉末は特に限定されず、不織布に特定の機能を付与することができる各種の材質の粉末を用いることができる。この機能性無機粉末としては、シリカ、ゼオライト、活性炭等の脱臭、消臭機能を有する無機粉末、チタニア、酸化亜鉛、硫化カドミウム等の光触媒機能を有する無機粉末、銀、銅、亜鉛等がシリカ、ゼオライト等に担持された抗菌機能を有する無機粉末、アルミナ、ムライト、コージェライト等の遠赤外線放射機能を有する各種のセラミック粉末等が挙げられる。これらの機能性無機粉末は、不織布の用途等により選定することができる。
【0011】
機能性無機粉末を構成する粒子の粒径も特に限定されず、繊維径及び繊維への保持させ易さ等を勘案して選定することができる。繊維の表面の多くの部分に機能性無機粉末が保持され、且つ機能性無機粉末の多くの部分が露出している粉末保持繊維、即ち、機能性無機粉末の機能が十分に発現される粉末保持繊維とするためには、機能性無機粉末は微細な粉末であることが好ましい。この粒径は30nm〜1μmであることが好ましく、35nm〜0.7μmであることがより好ましく、40nm〜0.5μmであることが特に好ましい。粒径が30nm〜1μmと微細な粉末であれば、繊維の表面の多くの部分に機能性無機粉末を容易に、且つ十分に保持させることができる。
【0012】
上記「溶媒」は、機能性無機粉末を分散、含有させる媒体である。溶媒は、繊維を溶解、膨潤及び変質等させず、且つ機能性無機粉末を溶解、変質等させない溶媒であればよく、水及び各種の有機溶媒を用いることができる。この溶媒は繊維の材質により選択して用いることができるが、粉末保持繊維に含有される溶媒量は少量であるほど好ましく、加熱により容易に、且つ略全量が除去される溶媒であることが好ましい。また、溶媒は加熱により除去されるため、安全性の高い溶媒であることが好ましく、この観点から水を用いることが好ましい。更に、熱可塑性樹脂の融点は、通常、水の沸点より高く、加熱により機能性無機粉末を繊維に保持させる観点からも、溶媒としては水が好ましい。即ち、繊維を加熱する温度で水は略全量を容易に除去させることができる。
【0013】
上記「分散液」は溶媒に機能性無機粉末が分散、含有された液状体である。分散液における機能性無機粉末の含有量は特に限定されないが、分散液を100質量%とした場合に、1〜5質量%、特に2〜4質量%とすることができる。例えば、溶媒として水を使用し、且つ機能性無機粉末の含有量を2〜4質量%とした場合、特にその粒径が上記の範囲内であるとき、分散液は粘度の低いペースト状とすることができ、繊維表面に分散液を容易に、且つ繊維の周方向に均等に付着させることができる。
【0014】
上記「分散液付着工程」は、分散液を熱可塑性樹脂繊維の表面に付着させる工程である(図1、2参照)。付着方法は特に限定されず、(1)繊維を容器に投入された分散液中を通過させる方法、(2)繊維を容器に投入された分散液中に浸漬する方法、及び(3)スプレーガン等を用いて繊維に分散液を吹き付ける方法などが挙げられる。これらの付着方法のうちでは、(1)の付着方法が好ましい。特に、繊維を一定の速度で移動させた場合は、繊維の長さ方向において分散液を均等に付着させることができ、より好ましい。
【0015】
繊維に対する分散液の付着量は特に限定されないが、繊維に所定量の機能性無機粉末が保持されるように調整することが好ましい。即ち、繊維に付着した分散液に含有される機能性無機粉末は、溶媒を除去した後、実質的に全量が繊維の表面に付着したままとなるため、必要とされる機能性無機粉末の保持量によって分散液の付着量を調整することが好ましい。この分散液の付着量は、繊維の径及び分散液における機能性無機粉末の含有量等により調整することができる。
【0016】
上記「溶媒除去工程」は、分散液が付着した繊維を加熱し、溶媒を除去する工程である(図3、4参照)。加熱方法は特に限定されず、(1)分散液が付着した繊維を加熱炉中を通過させる方法、(2)分散液が付着した繊維を加熱炉に収容して加熱する方法、及び(3)分散液が付着した繊維に熱風を吹き付ける方法などが挙げられる。これらの加熱方法のうちでは、(1)の加熱方法が好ましい。特に、加熱温度と、溶媒の沸点及び分散液の付着量等とを勘案し、分散液が付着した繊維の移動速度を調整することで、溶媒の実質的に全量を除去することができ、より好ましい。
【0017】
加熱温度は特に限定されないが、機能性無機粉末を繊維の表面に十分に保持させることができ、且つ粒子が繊維に埋没することなく、その多くの部分が露出した状態で保持される温度とすることが好ましい。この加熱温度は、差動走査熱量計により測定した熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の融解曲線における融解開始温度以上であることが好ましい。また、融点を50℃上回る温度以下であることがより好ましい。
尚、融解開始温度は、融解曲線における低温側のベースラインの延長線と、融解曲線の低温側の延長線との交点に対応する温度軸の読みである。
【0018】
加熱温度が熱可塑性樹脂の融解開始温度以上であり、且つ融点を50℃上回る温度以下であれば、繊維の表面近傍が溶融して軟化し、粉末を構成する個々の粒子の一部のみが繊維に埋没され、且つ多くの部分が露出して保持される。従って、粒子が繊維表面から脱落することなく固着されるとともに、機能性無機粉末の有する機能が十分に発現される不織布とすることができる。また、加熱温度を上記の範囲とし、且つ沸点が加熱温度未満である溶媒を用いることがより好ましい。このような溶媒を使用すれば、所定温度における加熱により容易に、且つ十分に溶媒を除去することができる。
尚、加熱温度は、加熱炉を用いるときは、加熱炉の中央部の温度、熱風を吹き付ける方法では、分散液付着繊維の表面に到達した熱風の温度であるとする。これらの温度は非接触の測温機器により測定することができる。
【0019】
本発明の不織布の製造方法は、分散液付着工程及び溶媒除去工程の他に、熱可塑性樹脂を繊維に成形する紡糸工程及び粉末保持繊維を不織布に加工する不織布形成工程を備える。熱可塑性樹脂の場合、通常、前記のように溶融紡糸により繊維に成形される。また、繊維を不織布にするための加工方法は特に限定されず、ニードルパンチ法、サーマルボンド法及びケミカルボンド法等が挙げられるが、前記の理由でニードルパンチ法及びサーマルボンド法が好ましく、ケミカルボンド法は条件設定によっては好ましくないことがある。
【0020】
不織布形成工程では、粉末保持繊維のみを用いてもよく、粉末保持繊維と粉末が保持されていない繊維とを混合して用いてもよいが、混合繊維を用いることが好ましい。このような混合繊維を使用すれば、多くの繊維を十分に融着させることができ、強度が大きく、且つ形状保持性に優れた不織布とすることができる。粉末が保持されていない繊維の混合割合は特に限定されないが、粉末保持繊維との合計を100質量%とした場合に、5〜50質量%、特に5〜30質量%とすることが好ましい。
【0021】
以上、(1)紡糸工程と、(2)分散液付着工程と、(3)溶媒除去工程と、(4)不織布形成工程とを、この順で実施し、不織布を製造する方法について詳述したが、(1)〜(4)の全工程を連続して実施することもできる。このような不織布の連続製造法としては、例えば、メルトブロー法(図5参照)及びスパンボンド法が挙げられる。即ち、熱可塑性樹脂繊維は溶融紡糸により製造され、紡糸ノズルの内部の溶融樹脂の周囲に分散液が供給されて付着され、その後、溶媒の少なくとも一部が除去されて溶媒除去繊維とする方法が挙げられる。この連続製造法の場合の熱可塑性樹脂、分散液及び溶媒については前記の記載をそのまま適用することができる。
【0022】
この連続製造法では、紡糸ノズルの内部の溶融樹脂の周囲に分散液が供給され、ノズルから吐出された時点で既に溶融樹脂の周囲には分散液が付着されている。また、吐出された時点で溶融樹脂の表面は高温であるため、この溶融樹脂が有する熱により溶媒の少なくとも一部が除去される。また、特にメルトブロー法では、ノズルから吐出される直前の溶融樹脂の周囲に熱風が供給され、この熱風により溶融樹脂がブローされて繊維が形成されるため、溶媒の除去が促進される。即ち、溶融樹脂が有する熱と、周囲に供給される熱風とによって、溶媒の実質的に全量を除去することもできる(図6参照)。
【0023】
この連続製造法の場合、溶媒の除去が十分ではないときは、繊維を再加熱して残留する溶媒を除去することが好ましい。特に、メルトブロー法のような熱風の供給がないスパンボンド法では、再加熱することが好ましい。この再加熱の温度は特に限定されないが、前記と同様に、差動走査熱量計により測定した熱可塑性樹脂の融解開始温度以上であり、且つ融点を50℃上回る温度以下であることが好ましい。
【0024】
再加熱温度が熱可塑性樹脂の融解開始温度以上であり、且つ融点を50℃上回る温度以下であれば、前記と同様に、粒子の一部のみが繊維に埋没され、且つ多くの部分が露出して保持され、粒子の脱落が防止されるとともに、機能性粉末の有する機能が十分に発現される不織布とすることができる。また、再加熱温度を上記の範囲とし、且つ沸点が再加熱温度未満である溶媒を使用すれば、前記と同様に、容易に、且つ十分に溶媒を除去することができる。
尚、再加熱は前記の加熱と同様の方法で実施することができる。また、この再加熱温度の意味は前記の加熱の意味と同様であり、この温度は前記と同様にして測定することができる。
【0025】
更に、連続製造法の場合も、粉末保持繊維のみを用いてもよく、粉末保持繊維と粉末が保持されていない繊維との混合繊維を用いてもよい。これらのうちでは混合繊維を用いることが好ましい。この連続製造法であるメルトブロー法及びスパンボンド法では、紡糸用ダイに設けられた紡糸ノズルの全数のうちの5〜50%、特に5〜30%の紡糸ノズルに分散液を供給しないことで、混合繊維からなる不織布を製造することができる。また、分散液が供給されない紡糸ノズルをどのように配置するかは特に限定されないが、紡糸用ダイの紡糸ノズル配列面において均等に配置させることが好ましい。このようにすれば、多くの繊維を十分に融着させることができ、形状保持性に優れ、且つより均質な不織布とすることができる。
尚、上記の均等とは、紡糸ノズル配列面に分散液が供給されない紡糸ノズルが規則的に配置されていることを意味する。例えば、紡糸ノズル配列面の一方向に配置された紡糸ノズルのうちの2本に1本、3本に1本、4本に1本、5本に1本の紡糸ノズルを分散液が供給されない紡糸ノズルとする等の配置とすることができる。分散液が供給されない紡糸ノズルの本数は特に限定されないが、4本に1本とすることが好ましい。
【0026】
以上、詳述した、各々の工程を順次実施する方法及び連続製造法のいずれであっても、不織布の製造に用いられる粉末保持繊維では、繊維の表面の多くの部分に粉末が付着し(図8参照)、且つこの粉末を構成する個々の粒子の多くの部分が露出して保持されている(図3、4参照)。
【0027】
上記のように繊維には多くの粉末が付着し、且つ個々の粒子の多くの部分が露出しているため、この繊維を用いて本発明の方法により製造された不織布では、機能性無機粉末の多くが有効に利用される。従って、従来の方法により製造された不織布に比べて、繊維に対する粉末の質量割合が同程度であるときは、機能性が大きく向上する。
【0028】
本発明の方法により製造された不織布の用途は特に限定されず、フィルタ、自動車用の内装材及びシート表皮材等が挙げられる。これらの用途のうちではフィルタの用途において特に有用である。即ち、本発明の不織布は、本発明の方法により製造され、繊維の径が30〜70μmであり、フィルタとして用いられることを特徴とする。
この不織布では、繊維の径が30〜70μmであり、特に40〜60μmであることが好ましい。この繊維径は不織布に用いられる繊維の径としては大きく、このように径の大きい繊維を用いてなる不織布であるため、フィルタとして有用であり、剛性が高く、且つ通気抵抗が小さく、濾過性能に優れたフィルタとすることができる。
【0029】
更に、機能性無機粉末として、この粉末を構成する粒子の粒径が、30nm〜1μm、特に35nm〜0.7μm、更に40nm〜0.5μmである微細な粉末を用いた場合、従来の方法では、上記のように径の大きい繊維に保持させることは容易ではなかった。しかし、本発明の不織布の製造方法によれば、機能性無機粉末が微細な粉末であっても、径の大きい繊維の表面の多くの部分に粉末を付着させ、且つ個々の粒子の多くの部分を露出させて保持させることができる。従って、この粉末保持繊維を用いて製造された本発明の不織布は、剛性が高く、且つ通気抵抗が小さく、濾過性能に優れたフィルタとして用いることができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例1
ポリプロピレン樹脂を溶融紡糸し、径が50μmのモノフィラメントを成形した。その後、このモノフィラメントを、水に3質量%のシリカ粉末(粒径は40〜60nmである。)が分散、含有された分散液が投入された容器中を通過させてモノフィラメントに分散液を付着させた。次いで、分散液が付着したモノフィラメントを加熱炉に収容し、5分間加熱して溶媒である水を除去し、粉末保持繊維を作製した。この加熱炉の中央部の温度を赤外線温度計により測定したところ160℃であった。その後、この粉末保持繊維に、粉末が保持されていないモノフィラメントを10質量%(全量を100質量%とする。)混合して混合繊維とし、この混合繊維を用いてサーマルボンド法により不織布を製造した。
【0031】
また、粉末保持繊維を光学顕微鏡により観察し、撮影した写真を用いて繊維の面積と機能性無機粉末の面積との合計のうちの機能性無機粉末の面積の割合を算出したところ、90%であった。このように多くの粉末が繊維の表面に露出しており、この繊維を用いて製造した不織布によれば十分な機能性が発現されることが推察される。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の不織布の製造方法は、フィルタ、内装材等の多くの製品分野において利用することができる。例えば、エアフィルタ、キャビンフィルタ等の車両用フィルタ、エアコン用フィルタ、及び天井表皮材、トリム表皮材等の車両用内装材、車両用シート表皮材などの多くの用途において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】繊維の表面に機能性無機粉末が分散、含有された分散液が付着した分散液付着繊維の縦断面の模式図である。
【図2】図1のA−A’における断面であり、繊維の表面に機能性無機粉末が分散、含有された分散液が付着した分散液付着繊維の横断面の模式図である。
【図3】繊維の表面に機能性無機粉末が保持された粉末保持繊維の縦断面の模式図である。
【図4】図3のB−B’における断面であり、繊維の表面に機能性無機粉末が保持された粉末保持繊維の横断面の模式図である。
【図5】メルトブロー法式の不織布製造装置に、機能性無機粉末が分散、含有された分散液のタンクと、分散液を供給するための定流量ポンとが付設された装置の説明図である。
【図6】溶融樹脂に分散液を供給するための流路が形成された紡糸ノズルの断面の模式図である。
【図7】機能性無機粉末が保持されていない繊維を用いて製造された通常の不織布の説明図である。
【図8】表面の多くの部分に機能性無機粉末が保持された繊維を用いて製造された本発明の不織布の説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1;粉末保持繊維、11;繊維、12;機能性無機粉末を構成する粒子、2;溶媒(水)、3;本発明の方法により製造された不織布、4;粉末が保持されていない繊維のみを用いてなる不織布、100;メルトブロー法式不織布製造装置、101;樹脂用タンク、102;押出機、103;紡糸ヘッド、1031;紡糸ノズル、1031a;分散液供給路、1031b;熱風流路、104;分散液用タンク、1041;分散液供給管、1042;定流量ポンプ、105;ベルトコンベア、111;溶融樹脂。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂繊維の表面に機能性無機粉末が保持された粉末保持繊維を用いた不織布の製造方法であって、
上記熱可塑性樹脂繊維の表面に、溶媒に上記機能性無機粉末が分散、含有されてなる分散液を付着させる分散液付着工程と、加熱により該溶媒を除去する溶媒除去工程と、を備えることを特徴とする不織布の製造方法。
【請求項2】
上記加熱の温度が、差動走査熱量計により測定した上記熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の融解曲線における融解開始温度以上である請求項1に記載の不織布の製造方法。
【請求項3】
上記溶媒の沸点が、上記加熱の温度未満である請求項1又は2に記載の不織布の製造方法。
【請求項4】
上記熱可塑性樹脂繊維は溶融紡糸により製造され、紡糸ノズルの内部の溶融樹脂の周囲に上記分散液が供給されて付着され、その後、上記溶媒の少なくとも一部が除去されて溶媒除去繊維となる請求項1に記載の不織布の製造方法。
【請求項5】
上記溶媒除去繊維を再加熱する再加熱工程を更に備える請求項4に記載の不織布の製造方法。
【請求項6】
上記再加熱の温度が、差動走査熱量計により測定した上記熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の融解曲線における融解開始温度以上である請求項5に記載の不織布の製造方法。
【請求項7】
上記溶媒の沸点が、上記再加熱の温度未満である請求項5又は6に記載の不織布の製造方法。
【請求項8】
紡糸用ダイに設けられた上記紡糸ノズルの全数のうちの5〜50%の紡糸ノズルでは上記分散液が供給されない請求項4乃至7のうちのいずれか1項に記載の不織布の製造方法。
【請求項9】
上記分散液が供給されない紡糸ノズルが、上記紡糸用ダイの紡糸ノズル配列面において均等に配置されている請求項8に記載の不織布の製造方法。
【請求項10】
上記機能性無機粉末を構成する粒子の径が30nm〜1μmである請求項1乃至9のうちのいずれか1項に記載の不織布の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のうちのいずれか1項に記載の製造方法により製造された不織布であって、
上記繊維の径が30〜70μmであり、フィルタとして用いられることを特徴とする不織布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−297744(P2007−297744A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−127957(P2006−127957)
【出願日】平成18年5月1日(2006.5.1)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】