説明

不飽和ポリエステル樹脂組成物及びその成形品

【課題】難燃性を確保しつつ、従来よりも更に軽量化を図ることのできる不飽和ポリエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】不飽和ポリエステル樹脂、低収縮剤、ビニル架橋剤からなる樹脂混合物100質量部に対して、難燃剤として水酸化アルミニウムを40〜80質量部及び赤リンを7質量部以上含有すると共に、中空フィラーを30〜50質量部含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ封入・コイル封入に用いられる不飽和ポリエステル樹脂組成物及びその成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータを封入する事例はその用途や使用環境に応じて多種多様であるが、近年においては、様々な封入モータが市販されている。そして、これらのモータについては、近年のエネルギー利用の更なる高効率化のために、高出力化・小型化が求められており、現在では特に成形材料に対する軽量化の要求が高くなってきている。
【0003】
従来、成形材料を軽量化する場合には、主成分である樹脂に中空フィラーを添加する手法が用いられていた(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかし、中空フィラーの添加量が多くなるにつれて、成形品の強度が低下するため、その添加量は限られている。そのため、より一層の低比重化を達成しようとする場合には、樹脂量をある一定量以上に設定しておく必要がある。
【0005】
また、一般のHBグレードBMC(バルクモールディングコンパウンド)では、中空フィラーを自由に添加して低比重化を図ることができるが、難燃性も確保したBMCを得ようとする場合には、樹脂量に対して一定量以上の難燃剤を添加する必要がある。例えば、難燃剤として水酸化アルミニウムを用いる場合には、従来、樹脂100質量部に対して200質量部以上の水酸化アルミニウムを添加する必要があるが、この場合には、比重が1.3以下であるような難燃性低比重成形材料を得ることは困難であった。
【特許文献1】特開2001−261954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、難燃性を確保しつつ、従来よりも更に軽量化を図ることのできる不飽和ポリエステル樹脂組成物及びその成形品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係る不飽和ポリエステル樹脂組成物は、不飽和ポリエステル樹脂、低収縮剤、ビニル架橋剤からなる樹脂混合物100質量部に対して、難燃剤として水酸化アルミニウムを40〜80質量部及び赤リンを7質量部以上含有すると共に、中空フィラーを30〜50質量部含有して成ることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1において、中空フィラーとして、平均粒子径が5〜70μm、真比重が0.3〜0.6、耐圧強度が2.1MPa以上であるものを用いて成ることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2において、不飽和ポリエステル樹脂組成物100質量部に対して、樹脂混合物の合計量が30〜50質量部であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかにおいて、赤リンとして、粒子表面が樹脂でコーティングされたものを用いて成ることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の請求項5に係る成形品は、請求項1乃至4のいずれかに記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物を成形硬化して成ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1に係る不飽和ポリエステル樹脂組成物によれば、難燃性を確保しつつ、従来よりも更に軽量化が図られた成形品、具体的には、比重が1.3以下であるような成形品を得ることができるものである。
【0013】
請求項2の発明によれば、不飽和ポリエステル樹脂組成物の成形性の低下を防止することができると共に、成形品の比重の増加を防止することができるものである。
【0014】
請求項3の発明によれば、良好な成形性を得ることができると共に、強度の低下を招くことなく、成形品の比重の増加を防止することができるものである。
【0015】
請求項4の発明によれば、取り扱い上の安全性を確保することができると共に、樹脂混合物中での分散性を向上させることができるものである。
【0016】
本発明の請求項5に係る成形品によれば、難燃性を確保しつつ、比重が1.3以下となり、従来よりも更に軽量化を図ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0018】
本発明において不飽和ポリエステル樹脂としては、その種類は特に限定されるものではない。すなわち、不飽和多塩基酸又は場合により飽和多塩基酸を含む不飽和多塩基酸と多価アルコールとを反応させることによって得られるものを用いることができ、通常、成形材料として使用されているものであれば適宜使用することができる。
【0019】
また、低収縮剤としては、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、飽和ポリエステル、スチレン−ブタジエン系ゴム等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。このうち1種類のみを用いたり、2種類以上を併用したりすることができる。不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、低収縮剤は50〜150質量部の範囲で添加するのが好ましく、60〜120質量部の範囲で添加するのがより好ましい。
【0020】
また、ビニル架橋剤としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、tert−ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、メタアクリル酸メチル等を挙げることができる。中でもスチレンが好ましい。また、ビニル架橋剤は、通常、希釈剤として、上述した不飽和ポリエステル樹脂や低収縮剤にあらかじめ配合させておくか、又は個別に添加するなどして用いることができる。
【0021】
上述した不飽和ポリエステル樹脂、低収縮剤、ビニル架橋剤からなるものを以下では樹脂混合物という。
【0022】
また、難燃剤としては、水酸化アルミニウム及び赤リンを用いる。
【0023】
水酸化アルミニウムとしては、平均粒子径が3〜50μmであるものを用いるのが好ましい。平均粒子径が3μmより小さくても、あるいは50μmより大きくても、不飽和ポリエステル樹脂組成物の成形性が低下するおそれがある。また、水酸化アルミニウムの含有量は、樹脂混合物100質量部に対して、40〜80質量部に設定する。水酸化アルミニウムの含有量が40質量部より少ないと、成形品に難燃性を付与することができない。逆に水酸化アルミニウムの含有量が80質量部より多くても、成形品に難燃性を付与することができなかったり、また、成形品の比重を小さくすることができなかったりする。水酸化アルミニウムの好ましい含有量は、45〜75質量部である。
【0024】
一方、赤リンとしては、粒子表面がフェノール樹脂等の樹脂でコーティングされたものを用いるのが好ましい。粒子表面が樹脂でコーティングされていない赤リンは不安定であり、取り扱い上の安全性に問題があるおそれがある。また、赤リンの粒子表面を樹脂でコーティングすることで、樹脂混合物中での分散性が向上する。また、赤リンの含有量は、樹脂混合物100質量部に対して、7質量部以上(実質上の上限は12質量部)に設定する。赤リンの含有量が7質量部より少ないと成形品に難燃性を付与することができない。赤リンの好ましい含有量は、7〜10質量部である。
【0025】
また、中空フィラーとしては、特に限定されるものではなく、ガラスバルーン、シリカバルーン等を挙げることができる。中でも、平均粒子径が5〜70μm、真比重が0.3〜0.6、耐圧強度が2.1MPa以上(実質上の上限は3.6MPa)である中空フィラーを用いるのが好ましい。平均粒子径が5μmより小さくても、あるいは70μmより大きくても、不飽和ポリエステル樹脂組成物の成形性が低下するおそれがある。また、真比重が0.3より小さいと不飽和ポリエステル樹脂組成物の成形性が低下するおそれがあり、逆に0.6より大きいと成形品の比重を小さくすることができないおそれがある。また、耐圧強度が14MPaより小さいと混練時あるいは成形時に中空フィラーが破壊され、成形品の比重を小さくすることができないおそれがある。また、中空フィラーの配合量は、樹脂混合物100質量部に対して、30〜50質量部に設定する。中空フィラーの配合量が30質量部より少ないと成形品の比重を小さくすることができず、逆に50質量部より多いと成形品の強度が低下する。
【0026】
また、本発明においては、上述した樹脂混合物、難燃剤、中空フィラーの成分のほか、以下のような充填材、硬化触媒、離型剤、繊維強化材、また、カーボンブラック等の顔料、増粘剤等を必要に応じて添加して用いることができる。
【0027】
すなわち、充填材としては、成形材料を調製する際に一般的に用いられているものであれば使用可能である。例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、硅砂、ケイソウ土等を挙げることができる。このうち1種類のみを用いたり、2種類以上を併用したりすることができる。また、充填材の含有量は、樹脂混合物100質量部に対して、0〜120質量部に設定することができる。
【0028】
また、硬化触媒としては、次のような有機過酸化物を用いることができる。例えば、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等を挙げることができる。
【0029】
また、離型剤としては、成形材料を調製する際に一般的に用いられているものであれば使用可能である。例えば、ステアリン酸、ミスチリン酸等の脂肪酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の脂肪族酸金属塩、リン酸エステル等の界面活性剤、カルナバ等のワックス類等を用いることができる。
【0030】
また、繊維強化材としては、例えば、ガラス繊維等を用いることができるが、繊維長が1.5〜5mmであるものを用いるのが好ましい。繊維長が1.5mmより小さいと充分な補強効果を得ることができないおそれがあり、逆に5mmより大きいと不飽和ポリエステル樹脂組成物の成形性が低下するおそれがある。
【0031】
そして、上述した樹脂混合物、難燃剤、中空フィラー、必要に応じてその他の成分をニーダー等に投入し、これを混合することによって、不飽和ポリエステル樹脂組成物を調製することができる。このとき、樹脂混合物の合計量は、不飽和ポリエステル樹脂組成物100質量部に対して、30〜50質量部であることが好ましい。樹脂混合物の合計量が30質量部より少ないと、成形品の比重を充分に抑えることができないおそれがあり、逆に50質量部より多いと、材料粘度が低すぎるために良好な成形性を得ることができないおそれがあると共に、充分な成形品強度を得ることができないおそれがある。
【0032】
次に、上記のようにして得た不飽和ポリエステル樹脂組成物を成形硬化することによって、各種の成形品を製造することができる。例えば、コイルをトランスファー成形金型にセットし、上記の不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いてトランスファー成形を行うことによって、コイルを封入したコイル封入成形品を製造することができる。なお、成形品を製造するにあたっては、トランスファー成形法のほか、射出成形法や圧縮成形法(直圧成形)を行うこともできる。
【0033】
以上のように、本発明では、樹脂混合物100質量部に対して、水酸化アルミニウムの含有量が80質量部以下であるので、成形品の比重が1.3以下となり、従来よりも更に軽量化を図ることができるものである。また、水酸化アルミニウムの含有量が80質量部以下であっても、赤リンが7質量部以上含有されているので、充分な難燃性を確保することができるものである。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0035】
(不飽和ポリエステル樹脂組成物の原材料)
不飽和ポリエステル樹脂として、日本ユピカ株式会社製「ユピカ5523」を用いた。
【0036】
低収縮剤として、あらかじめビニル架橋剤が配合されたポリスチレン系低収縮剤(ポリスチレン30質量%スチレン溶液)を用いた。
【0037】
水酸化アルミニウムとして、昭和電工株式会社製「ハイジライトH32」(平均粒子径8μm)を用いた。
【0038】
赤リンとして、燐化学工業株式会社製「ノーバレッド120」を用いた。この赤リンの粒子表面は、フェノール樹脂でコーティングされている。
【0039】
中空フィラーとして、ガラスバルーンである住友スリーエム株式会社製「K−20」(平均粒子径20μm、真比重0.3、耐圧強度3.4MPa)を用いた。
【0040】
その他の成分として、炭酸カルシウムである日東粉化工業株式会社製「NSシリーズ」、硬化触媒である日本油脂株式会社製「パーブチルZ」(t-Butyl peroxybenzoate)、離型剤であるステアリン酸亜鉛、顔料であるカーボンブラック、ガラス繊維である日本硝子繊維株式会社製「RESO3BM5」(繊維長3mm)を用いた。
【0041】
(不飽和ポリエステル樹脂組成物の調製と試験片の作製)
下記[表1][表2]に示す所定量の原材料をニーダーに投入し、これを25〜30℃で20〜40分間混合することによって、不飽和ポリエステル樹脂組成物を調製した。
【0042】
次に、上記のようにして得た不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いて試験片を作製した。試験片は、比重測定用、難燃性測定用の各用途に分けて作製した。各用途の試験片を作製するのに用いた金型、成形条件、試験片の形状はそれぞれ下記のとおりである。
【0043】
(比重測定用)
金型:目的の形状の試験片金型(直圧成形)
成形条件:金型温度=145℃、圧力=10MPa、硬化時間=180秒
形状:φ5mm×30mm
(難燃性測定用)
金型:目的の形状の試験片金型(直圧成形)
成形条件:金型温度=145℃、圧力=10MPa、硬化時間=180秒
形状:127mm×12.7mm×0.8mm
(特性評価)
上記のようにして作製した比重測定用の試験片について、JIS K 6911に準拠した方法で比重を測定した。
【0044】
また、難燃性測定用の試験片について、UL−94に準拠した方法で難燃性を測定した。
【0045】
以上の測定結果を下記[表1][表2]に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
上記[表2]にみられるように、比較例1〜3については、比重は1.3以下であるものの、難燃性を確保できないことが確認される。また、比較例4、5については、難燃性は確保できるものの、比重が1.3を超えていることが確認される。
【0049】
それに対して、上記[表1]にみられるように、実施例1〜7については、難燃性を確保しつつ、比重を1.3以下にして軽量化を図ることができることが確認される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ポリエステル樹脂、低収縮剤、ビニル架橋剤からなる樹脂混合物100質量部に対して、難燃剤として水酸化アルミニウムを40〜80質量部及び赤リンを7質量部以上含有すると共に、中空フィラーを30〜50質量部含有して成ることを特徴とする不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
中空フィラーとして、平均粒子径が5〜70μm、真比重が0.3〜0.6、耐圧強度が2.1MPa以上であるものを用いて成ることを特徴とする請求項1に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
不飽和ポリエステル樹脂組成物100質量部に対して、樹脂混合物の合計量が30〜50質量部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
赤リンとして、粒子表面が樹脂でコーティングされたものを用いて成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物を成形硬化して成ることを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2006−206690(P2006−206690A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−18708(P2005−18708)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】