説明

不飽和第四級アンモニウム塩を得るための方法

不飽和第四級アンモニウム塩を、第1容器中、水の存在下で、塩化メチルを化学量論的に過剰な不飽和第三級アミンと反応させることにより、不飽和第四級アンモニウム塩および残留不飽和第三級アミンを含む反応混合物を形成することを含む方法により製造する。この反応混合物は、第2容器に移送され、相分離されることにより、不飽和第四級アンモニウム塩が濃縮された第1画分と、残留不飽和第三級アミンが濃縮された第2画分とを生成する。第2画分の少なくとも一部は、塩化メチルとの反応に使用するために、第2容器から第1容器に再循環される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド(Cl(CHCHCHOC(O)CH=CH;CAS登録番号44992−01−0)等の不飽和第四級アンモニウム塩は、水処理用高分子凝集剤の合成に幅広く使用されているコモノマーである。通常、不飽和第四級アンモニウム塩は、対応する第三級アミンを塩化メチル等のハロゲン化アルキルでアルキル化することにより調製される。このような反応を実施するための多くの具体的な手順が文献に記載されている。こうした手順においては、通常は塩化メチルが第三級アミンに対しモル過剰で用いられる。例えば、Schneiderらに付与された米国特許第4,520,210号明細書、Hessらに付与された米国特許第4,745,214号明細書、Lacroixらに付与された米国特許第5,260,480号明細書、Riondelらに付与された米国特許第5,912,383号明細書、Riondelらに付与された米国特許第6,521,782号明細書、Druzkowskiらに付与された米国特許第6,683,203B2号明細書、Riondelらに付与された米国特許第7,151,190号明細書、Baanらに付与された米国特許第7,183,434B2号明細書;日本国特許出願公開である稲垣らによる特開平01−249749A号明細書、岩崎らによる特開平02−212457A号明細書、増田らによる特開平06−032768号明細書;Ascherlらによる欧州特許出願公開第428970A1号明細書;およびRiondelらによる国際公開第00/43348号パンフレットを参照されたい。化学量論的に過剰な塩化メチルの存在下に実施される反応では、第三級アミンの転化率が高くなるのが通常であり、したがって生成物である不飽和第四級アンモニウム塩を、残存する第三級アミン反応体から分離することに付随する問題が大幅に回避される。しかしながら、このような反応には、(周囲条件下で気体である塩化メチルの高濃度溶液を生成させるために)比較的高い反応圧力が必要となること、余剰の塩化メチルを再循環させるための特殊な手順および設備が必要となること、余剰の塩化メチルを生成物溶液から除去しながら十分な酸素濃度を維持する(酸素は不飽和第四級アンモニウム塩の望ましくない重合を阻止する)ための特殊な手順および設備が必要となることなどの欠点がある。したがって、不飽和第四級アンモニウム塩の不飽和第三級アミンからの、難易度の高い分離を回避しながら、余剰の塩化メチルの取扱いに付随する問題を低減または解消する不飽和第四級アンモニウム塩の製造方法が望ましいであろう。
【発明の概要】
【0002】
発明の簡単な説明
上述の欠点は、不飽和第四級アンモニウム塩の製造方法であって、第1容器中、水の存在下で、塩化メチルを化学量論的に過剰な不飽和第三級アミンと反応させることにより、不飽和第四級アンモニウム塩および残留不飽和第三級アミンを含む反応混合物を形成することと;反応混合物の一部を第2容器に移送することと;第2容器中、反応混合物の一部を相分離させることにより不飽和第四級アンモニウム塩および水を含む第1画分と、残留不飽和第三級アミンを含む第2画分とを得ることと;第2容器から第1画分の一部を抜き出して第四級アンモニウム塩生成物を回収することと;塩化メチルと化学量論的に過剰な不飽和第三級アミンとの上記反応に使用するために、第2画分の一部を第2容器から第1容器に再循環させることとを含み、不飽和第三級アミンは、式、
【化1】

(式中、Rは、水素またはメチルである)で示されるものであり、不飽和第四級アンモニウム塩は、式、
【化2】

(式中、Rは、水素またはメチルである)で示されるものである方法によって軽減される。
【0003】
本発明者らは、塩化メチルに対し化学量論的に過剰な不飽和第三級アミン反応体を使用し、生成物である不飽和第四級アンモニウム塩および過剰の不飽和第三級アミンを第2反応容器(例えば、デカンター)中で相分離させ、そこから生成物である第四級アンモニウム塩を回収し、過剰の不飽和第三級アミンを塩化メチルとの反応に使用するために再循環させる方法を用いることによって、不飽和第四級アンモニウム塩を効率的に製造することが可能であることを見出した。本方法は、比較的低い反応圧力で実施することが可能であり、気体の塩化メチルを再循環させる必要性をなくし、塩化メチルを不飽和第四級アンモニウム塩生成物から除去する必要性を減らすかまたはなくすなど、従来技術の方法に勝る幾つかの利点を有している。本方法には特に驚くべき面が少なくとも2つある。第1に、不飽和第三級アミンおよび不飽和第四級アンモニウム塩の両方が水溶性である場合に、生成物である不飽和第四級アンモニウム塩を過剰の不飽和第三級アミンから効率的に相分離できることは、驚くべきことである。実施例に示すように、このことは以下の特許請求の範囲に記載する比較的狭い種類の不飽和第三級アミン構造にのみ当てはまるようである。第2に、過剰の第三級アミンが存在する反応条件下において本反応を実施しても、塩基が触媒して生成物が加水分解するという、既に知られた問題が悪化しなかったことは驚くべきことである。運転が高温で行われることと、反応器内の滞留時間が短いこととによって、加水分解の程度が最小限に抑えられ、許容可能な程度になるようである。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【図1】本方法を実施するための装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0005】
発明の詳細な説明
本明細書においては以下の略語を用いる:
AETAC=アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、CAS登録番号44992−01−0
CSTR=連続撹拌槽型反応器
DMAEA=アクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル、CAS登録番号2439−35−2
DMAEMA=メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル、CAS登録番号2867−42−2
MAETAC=メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、CAS登録番号5039−78−1
【0006】
本発明は、不飽和第四級アンモニウム塩の製造方法であって、第1容器中、塩化メチルを水の存在下に、化学量論的に過剰な不飽和第三級アミンと反応させることにより、不飽和第四級アンモニウム塩および残留不飽和第三級アミンを含む反応混合物を形成することと;反応混合物の一部を第2容器に移送することと;第2容器中、反応混合物の一部を相分離させることにより、不飽和第四級アンモニウム塩および水を含む第1画分と、残留不飽和第三級アミンを含む第2画分とを得ることと;第1画分の一部を第2容器から抜き出すことにより第四級アンモニウム塩生成物を回収することと;上記塩化メチルと化学量論的に過剰な不飽和第三級アミンとの反応に使用するために、第2画分の一部を第2容器から第1容器に再循環させることとを含み、不飽和第三級アミンは、式、
【化3】

(式中、Rは、水素またはメチルである)で示され、不飽和第四級アンモニウム塩は、式、
【化4】

(式中、Rは、水素またはメチルである)で示される方法を包含する。
【0007】
本方法は、好ましくは、装置の生産性を最大限にするために、連続運転される。本文脈における「連続」とは、従来の感覚で、反応体流が常時第1容器(例えば、反応器)に導入されるとともに、生成物流が常時第2容器(例えば、デカンター)から抜き出されることを意味する。好ましい実施形態においては、反応、移送、相分離、抜き出し、および再循環ステップはすべて連続的に実施される。連続プロセスと比較すると効率が劣るが、本方法をバッチ式またはセミバッチ式で運転することも、あるいはプロセス流を連続的ではなく間欠的に導入および/または除去することも可能である。
【0008】
塩化メチルと不飽和第三級アミンとの反応は、化学量論的に過剰な不飽和第三級アミンを用いて実施される。これは、塩化メチル1モル当たり1モルを超える不飽和第三級アミンが使用されることを意味する。不飽和第三級アミン対塩化メチルのモル比は、最も好都合には、第1容器への投入(仕込み)量を用いて決定される。具体的には、本方法が連続運転される場合、不飽和第三級アミン対塩化メチルのモル比とは、第1容器に単位時間当たりに追加される塩化メチルのモル数対(1)第1容器に単位時間当たりに追加される新鮮な不飽和第三級アミンのモル数および(2)単位時間当たりに第2容器から第1容器に移送される(再循環される)不飽和第三級アミンのモル数の合計の比である。幾つかの実施形態においては、不飽和第三級アミンが化学量論的に過剰であるとは、第1容器への投入量について測定される不飽和第三級アミン対塩化メチルのモル比が1.05:1〜5:1であることに相当する。このモル比は、1.1:1〜4:1、または1.2:1〜3:1、または1.3:1〜2:1であり得る。
【0009】
以下の実施例に説明するように、本方法はごく限られた範囲の不飽和第三級アミン構造に対し有用である。この種の構造を有するものの1つがアクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチルである。それ以外にはメタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチルがある。これらの分子は、低圧条件下でも塩化メチルと有効な反応速度を示すとともに、これらを用いることによって、不飽和第四級アンモニウム塩生成物を残留不飽和第三級アミンから効率的に相分離することが可能になる。
【0010】
本方法の連続運転を行うための非常に具体的な一連の条件においては、第1容器に、塩化メチルを6〜20重量パーセント、(新鮮な)不飽和第三級アミンを18〜57重量パーセント、水を6〜19重量パーセント、および第2画分の再循環分を3〜70重量パーセント、連続供給する。ここで、重量パーセントはすべて、第1容器への投入物の総重量を基準とする。6〜20重量パーセントの範囲内で塩化メチルの量は、8〜15重量パーセントとすることができる。(新鮮な)不飽和第三級アミンの量は、18〜57重量パーセントの範囲内で、30〜50重量パーセントとすることができる。水の量は、6〜19重量パーセントの範囲内で、9〜15重量パーセントとすることができ、再循環される第2画分の量は、3〜70重量パーセントの範囲内で、10〜50重量パーセントとすることができる。幾つかの実施形態においては、反応は、第1容器の滞留時間を0.25〜3時間、具体的には0.25〜2時間、より具体的には0.5〜1.5時間として実施される。この時間は、幾つかある要素の中でも特に、反応温度および圧力に応じて、短縮または延長することも可能である。幾つかの実施形態においては、反応は、30〜90℃、具体的には40〜90℃、より具体的には50〜90℃、よりさらに具体的には60〜90℃、よりさらに具体的には65〜85℃、よりさらに具体的には70〜85℃の温度で実施される。この温度は、幾つかある要素の中でも特に、反応圧力および反応器滞留時間に応じて、高くまたは低くすることも可能である。
【0011】
過剰の塩化メチルを用いて運転されるプロセスと本方法とを比較した場合の重要な一つの利点は、反応を減圧下で実施できることにある。幾つかの実施形態においては、反応は、全(絶対)圧力が100〜800キロパスカル、具体的には150〜600キロパスカル、より具体的には200〜500キロパスカル、よりさらに具体的には200〜400キロパスカルで実施される。「全圧力」という用語は、塩化メチルに加えて他に存在する任意の気体または蒸気(例えば、酸素や窒素)により生じる圧力を指す。
【0012】
第1容器(すなわち反応器)として使用される装置の種類に、特定の制限はない。例えば、第1容器として連続式撹拌槽型反応器またはプラグフロー型反応器を用いることができる。現時点では、連続式撹拌槽型反応器を使用することが好ましい。
【0013】
本方法は、反応混合物の一部を第1容器から第2容器に移送するステップを含む。移送は、ポンプまたは類似の移送手段により実施することができる。通常、本方法が連続運転される場合、第1容器から第2容器への反応混合物の移送速度(例えば、単位時間当たりの質量)は、第1容器への移送速度の合計(すなわち、塩化メチルの添加速度、新鮮な不飽和第三級アミンの添加速度、および再循環される第2画分の添加速度の合計)とほぼ等しくなるであろう。
【0014】
本方法は、第2容器中、移送された分の反応混合物を相分離するステップを含む。相分離は、デカンターまたは類似の容器内で自発的に進行させることができるが、液−液遠心分離または類似の相分離装置を用いて促進してもよい。幾つかの実施形態においては、相分離は−5〜15℃、特には0〜10℃の温度で実施される。本方法は、好ましくは有機溶媒の非存在下に実施される。第2容器において、基本的に水および不飽和第四級アンモニウム塩からなる水相と、基本的に未希釈の不飽和第三級アミンからなる有機相とへの相分離を効率的に達成するためには、溶媒は必ずしも必要でない。しかしながら、分離された有機層中の不飽和第三級アミンを希釈するために、非水溶性共溶媒を利用することが可能であり、このような共溶媒を使用することによって、水相から有機不純物を抽出することと、このような不純物を、有機相のうち第1容器に再循環されない分に相当するパージ流を介して系外に除去することとを促進することが可能になる。
【0015】
相分離によって、不飽和第四級アンモニウム塩および水を含む第1画分と、残留不飽和第三級アミンを含む第2画分とが得られる。通常、相分離は、第2容器の条件下で自発的に起こる。本発明者らは、不飽和第四級アンモニウム塩を不飽和第三級アミンから分離するためには、相分離が非常に効率的な手段であることを見いだした。不飽和第三級アミンの既に知られた水溶性を考慮すると、このことは驚くべきことであった。具体的には、第1画分は、第2容器中の不飽和第四級アンモニウム塩の少なくとも75%を含有することができ、この割合は、少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも98%、または少なくとも99%とすることができる。同様に、第2画分は、第2容器中の不飽和第三級アミンの少なくとも75%を含有することができ、この割合は、少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも98%とすることができる。幾つかの実施例においては、第1画分には、実質的に全部の不飽和第四級アンモニウム塩と2%以下の不飽和第三級アミンが含まれ、一方、第2画分には少なくとも98%の不飽和第三級アミンが含まれ、第四級アンモニウム塩は実質的に含まれていなかったことが見いだされた。
【0016】
本方法は、第2(不飽和第三級アミン含有)画分の一部を、塩化メチルと過剰の不飽和第三級アミンとの反応に使用するために、第2容器から第1容器に再循環させるステップを含む。再循環される第2画分の一部は、例えば、第2画分の少なくとも50重量パーセントであるか、または第2画分の少なくとも60、70、80、または90重量パーセントであってもよい。第2画分のうち第1容器に再循環されない分は、通常、不飽和第三級アミン中に蓄積される不純物を最小限にする手段として、プロセス系外に廃棄される。ある種の不純物は第2容器でエマルション形成を促進させる可能性があり、それによって第1および第2画分の相分離が阻害されるので、不純物の蓄積防止が重要となる可能性がある。
【0017】
本方法は、第2容器から第1画分の一部を抜き出して、第四級アンモニウム塩生成物を回収するステップを含む。一般に、第2容器から第1画分を抜き出す速度(例えば、単位時間当たりの質量)は、第2容器中の第1画分が一定の質量(または体積)を維持するように調整される。
【0018】
本方法の非常に具体的な実施形態において、不飽和第三級アミンが化学量論的に過剰であるとは、不飽和第三級アミン対塩化メチルのモル比が1.1:1〜4:1であることに相当し;上記反応は、第1容器に塩化メチルを6〜20重量パーセント、(新鮮な)不飽和第三級アミンを18〜57重量パーセント、水を6〜19重量パーセント、および第2画分の再循環分を3〜70重量パーセント、連続供給することを含み、ここで、重量パーセントはすべて第1容器の投入物の総重量を基準とし;上記反応は、第1容器の滞留時間を0.25〜3時間として実施され;塩化メチルと不飽和第三級アミンとの上記反応は30〜90℃の温度で実施され;上記反応は、(全)圧力を150〜600キロパスカルとして実施され;上記分離は−5〜15℃の温度で実施され;第1画分は第2容器中の不飽和第四級アンモニウム塩の少なくとも95パーセントを含み、第2画分は第2容器中の残留不飽和第三級アミンの少なくとも95パーセントを含む。
【0019】
本発明は少なくとも以下の実施形態を包含する。
【0020】
実施形態1:不飽和第四級アンモニウム塩の製造方法であって:第1容器中、塩化メチルを水の存在下に、化学量論的に過剰な不飽和第三級アミンと反応させることにより、不飽和第四級アンモニウム塩および残留不飽和第三級アミンを含む反応混合物を形成することと;反応混合物の一部を第2容器に移送することと;第2容器中、反応混合物の一部を相分離させることにより、不飽和第四級アンモニウム塩および水を含む第1画分と、残留不飽和第三級アミンを含む第2画分とを得ることと;第2容器から第1画分の一部を抜き出して第四級アンモニウム塩生成物を回収することと;塩化メチルと化学量論的に過剰な不飽和第三級アミンとの上記反応に使用するために、第2画分の一部を第2容器から第1容器に再循環させることとを含み、不飽和第三級アミンは、式、
【化5】

(式中、Rは、水素またはメチルである)を有し、不飽和第四級アンモニウム塩は、式、
【化6】

(式中、Rは、水素またはメチルである)を有する方法。
【0021】
実施形態2:連続運転される、実施形態1の方法。
【0022】
実施形態3:化学量論的に過剰な不飽和第三級アミンが、第1容器の投入物に対して定められた、不飽和第三級アミン対塩化メチルのモル比が1.05:1〜5:1であることに相当する、実施形態1または2の方法。
【0023】
実施形態4:不飽和第三級アミンが、アクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチルである、実施形態1〜3のいずれかの方法。
【0024】
実施形態5:不飽和第三級アミンが、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチルである、実施形態1〜3のいずれかの方法。
【0025】
実施形態6:上記反応が、第1容器に、塩化メチルを6〜20重量パーセント、不飽和第三級アミンを18〜57重量パーセント、水を6〜19重量パーセント、および第2画分の再循環分を3〜70重量パーセント、連続供給することを含み、重量パーセントはすべて第1容器への投入物の総重量を基準とする、実施形態1〜5のいずれかの方法。
【0026】
実施形態7:上記反応が、第1容器の滞留時間を0.25〜3時間として実施される、実施形態1〜6のいずれかの方法。
【0027】
実施形態8:上記反応が、全圧力を100〜800キロパスカルとして実施される、実施形態1〜7のいずれかの方法。
【0028】
実施形態9:塩化メチルと不飽和第三級アミンとの上記反応が、30〜90℃の温度で実施される、実施形態1〜8のいずれかの方法。
【0029】
実施形態10:上記相分離が、−5〜15℃の温度で実施される、実施形態1〜9のいずれかの方法。
【0030】
実施形態11:第1画分が、第2容器中の不飽和第四級アンモニウム塩の少なくとも95パーセントを含み、第2画分が、第2容器中の残留不飽和第三級アミンの少なくとも95パーセントを含む、実施形態1〜10のいずれかの方法。
【0031】
実施形態12:化学量論的に過剰な不飽和第三級アミンが、不飽和第三級アミン対塩化メチルのモル比が1.1:1〜4:1であることに相当し;不飽和第三級アミンがアクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチルを含み;上記反応が、第1容器に、塩化メチルを6〜20重量パーセント、不飽和第三級アミンを18〜57重量パーセント、水を6〜19重量パーセント、および第2画分の再循環分を3〜70重量パーセント、連続供給することを含み(重量パーセントはすべて第1容器への投入物の総重量を基準とする);上記反応が第1容器の滞留時間を0.25〜3時間として実施され;塩化メチルと不飽和第三級アミンとの上記反応が30〜90℃の温度で実施され;上記反応が(全)圧力を150〜600キロパスカルとして実施され;前記分離が−5〜15℃の温度で実施され;第1画分が第2容器中の不飽和第四級アンモニウム塩の少なくとも95パーセントを含み、第2画分が第2容器中の残留不飽和第三級アミンの少なくとも95パーセントを含む、実施形態1の方法。
【0032】
以下の非限定的な実施例を用いて、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0033】
比較例1
この例は、過剰の塩化メチルの存在下に実施される、バッチ式プロセスを例示するものである。
【0034】
600ミリリットルのインコネルParr高圧反応器にアクリル酸ジメチルアミノエチル(DMAEA)200.00グラムを加え、メチルヒドロキノン(MEHQ)800重量百万分率(ppm)および脱イオン水20.36グラム(水の総量の30%)で安定化させた。反応器を密閉し、塩化メチル72.3グラム(2.5モルパーセント過剰)を、温度を21℃に維持しながら30分間かけて加えた。次いで反応物を40℃に加熱し、残りの水47.45グラムを30分間かけて加えた。水を加えた後、系の圧力(絶対圧)を360キロパスカルに到達させた。反応を40℃でさらに3時間維持し、その間に圧力をゆっくりと降下させて190キロパスカルで一定にした。反応物を25℃に冷却し、圧力を15分間かけて開放すると同時に、溶解している酸素が重合を阻止するのに十分な量を確実に維持するように、空気を拡散させた。最終生成物のpHは7.6であり、アクリル酸の量は0.25%であった。
【0035】
ラボスケール(実験室規模)の連続反応のための一般手順
本方法を実施するための装置を図に示す。装置10は、不飽和第三級アミンを水の存在下に塩化メチルと反応させる連続式撹拌槽型反応器(CSTR)20と、生成物である不飽和第四級アンモニウム塩を過剰の不飽和第三級アミンから分離するデカンター30とを含む。CSTR20およびデカンター30は、反応混合物(生成物である第四級アンモニウム塩、過剰のアミン反応体、および水を含む)をCSTR20からデカンター30に移送する生成物流40と、アミン反応体を含有する第2画分をデカンター30からCSTR20に移送する(再循環させる)アミン再循環流50とによって、相互に連結されている。また、反応器の撹拌機21、反応器の温度制御浴22、デカンターの温度制御浴31、塩化メチル流23(塩化メチルをCSTR20に移送する)、アミン流24((新鮮な)アミン反応体をCSTR20に移送する)、水流25(水をCSTR20に移送する)、ベントライン26(圧力トランスデューサ、可変圧力リリーフ弁、50psigのラプチャーディスク、および大気圧にするための弁を含むマニホールド(図示せず)に接続されている)、アミンパージ51(これを介して、過剰のアミン反応体が系外にパージされる)、および生成物流60(これを介して、生成物である第四級アンモニウム塩および水を含有する第1画分が抜き出される)も図示されている。
【0036】
典型的な反応手順においては、試験対象に関し、化学量論的に理想的な定常状態の組成に基づく量の、不飽和第三級アミン反応体(例えば、DMAEA)および不飽和第四級アンモニウム塩生成物(例えばAETAC)を、CSTRに入れた。デカンターにも、不飽和第三級アミン反応体および不飽和第四級アンモニウム塩生成物を、それぞれ約10:90の重量比で入れた。
【0037】
定常状態に到達させるためには、反応速度を試薬の供給速度に合致させることが必要である。塩化メチルの分圧を制御することにより塩化メチル溶液の濃度が制御されるので、反応速度制御の鍵は、塩化メチルの分圧を制御することにあった。したがって、所定の反応速度(目標とする滞留時間により定められる)を達成するのに必要な塩化メチル分圧が、所与の温度および反応器のアミン量毎に存在する。
【0038】
反応速度と供給速度が合致しない場合の結果は、デカンター内で明らかとなる。反応速度が遅すぎる場合、アミン反応体が、再循環速度およびパージ速度によって相殺される量を超えて蓄積し、デカンターがアミン反応体で一杯になる。これとは逆に、反応速度が速すぎる場合は、アミン反応体が使い果たされてしまい、デカンターが不飽和第四級アンモニウム塩生成物で一杯になる。定常状態においては、デカンター内の不飽和第四級アンモニウム塩生成物(第1画分)およびアミン反応体(第2画分)の量は一定のままである。
【0039】
データ収集システムを用いて目標とする流速を確立した後、系のベントを閉じ、塩化メチルをできるだけ速やかに、目標とする圧力にまで反応器に装入した。次いで塩化メチルの供給速度を調整し、アミン反応体の供給速度とのモル/モル比が1:1に一致するようにした。運転中、定常状態に到達するまで、デカンター内で観測されるアミン反応体の蓄積または欠乏を補うように、反応器中の塩化メチルの分圧および/またはアミン反応体の濃度を調整した。
【0040】
実施例1
本実施例は、本発明による連続方法を例示するものである。反応温度を40℃、反応器の滞留時間を2.21時間とし、DMAEA対塩化メチルの定常状態のモル比を1.6とした。
【0041】
2リットルのCSTRに、AETACの80重量パーセント水溶液を1033グラム、およびDMAEAを367グラム加えた。デカンターに、AETACを295グラム、およびDMAEAを41グラム加えた。反応器を40℃に加熱し、デカンターを5℃に冷却し、系を密閉した。その後、以下の流速を確立させた:DMAEA:4.60グラム/分;HO:1.56グラム/分;CSTR生成物:10.54グラム/分;DMAEA再循環:2.76グラム/分;AETACデカンター生成物:7.78グラム/分。
【0042】
次いで、系の絶対圧が240キロパスカル(20ポンド毎平方インチゲージ(psig)に相当)に到達するまで、塩化メチルを高速で加えた後、1.62グラム/分(DMAEA供給に対し等モル)に減速した。合計10時間の間、系の圧力は240キロパスカル(20psig)〜260キロパスカル(23psig)の範囲にあり、最後の7時間はデカンター界面が静止していた。定常状態においては、反応器圧は260キロパスカル(23psig)、デカンターは160キロパスカル(8psig)に安定した。溶解した塩化メチルの脱気を必要とすることなく、生成物をデカンターから大気圧中に排出した。得られた生成物中のアクリル酸の量は、0.42重量パーセントであることがわかった。
【0043】
実施例2
本実施例は、本発明による連続方法を例示するものである。
【0044】
反応温度を50℃、反応器の滞留時間を1.11時間とし、以下の流速を用いたことを除いて実施例2の手順を採用した:DMAEA:9.20グラム/分;HO:3.11グラム/分;CSTR生成物:21.08グラム/分;DMAEA再循環:5.52グラム/分、およびAETACデカンター生成物:15.56グラム/分。系の圧力が240キロパスカル(20psig)に到達するまで塩化メチルを高速で加えた後、塩化メチルの流速を3.24グラム/分(DMAEA供給と等モル)に減速した。定常状態において、反応器圧力は190キロパスカル(13psig)、デカンターは115キロパスカル(2psig)に安定した。溶解した塩化メチルの脱気を必要とすることなく、生成物をデカンターから大気圧中に排出した。得られた生成物中のアクリル酸の量は、0.28%であった。
【0045】
実施例3
本実施例は、本発明による連続方法を例示するものである。
【0046】
反応温度を60℃、反応器滞留時間を0.74時間とし、以下の流速を用いたことを除いて実施例2の手順に従った:DMAEA:13.80グラム/分;HO:4.67グラム/分;CSTR生成物:31.62グラム/分;DMAEA再循環:8.28グラム/分、およびAETACデカンター生成物:23.33グラム/分。系の圧力が240キロパスカル(20psig)に到達するまで塩化メチルを高速で加えた後、塩化メチルの流速を4.87グラム/分(DMAEA供給と等モル)に減速した。定常状態において、反応器の圧力は210キロパスカル(16psig)、デカンターは115キロパスカル(2psig)に安定した。溶解した塩化メチルの脱気を必要とすることなく生成物をデカンターから大気圧中に排出した。得られた生成物中のアクリル酸の量は、0.25%であった。
【0047】
実施例4および5、比較例2〜4
これらのバッチ式反応は、アミン反応体構造をわずかに変化させることで、反応速度および定常状態の反応混合物を相分離させる能力に、驚くほど大きな影響があることを示している。反応速度および相分離速度が低圧連続方法に好適かどうかを決定するために、アミン転化率を75%(アミン反応体対塩化メチルのモル比1.33:1)として、5種類のアミノアクリレートについてバッチ式反応を実施した。連続方法を効率的に実施するためには、反応が60℃で容易に行えて、不飽和第三級アミンと水性不飽和第四級アンモニウム塩が良好に相分離することが好ましい。試験したアミノアクリレートの場合、アクリル酸ジメチルアミノエチルおよびメタクリル酸ジメチルアミノエチルのみが、これらの両方の基準を満たしていた。アクリル酸ジメチルアミノエチルおよびメタクリル酸ジメチルアミノエチルは、水溶性が高いことが知られているので、上述したように良好な相分離が達成できたことは驚くべきことであった。
【表1】

【0048】
この発明の詳細な説明における実施例は、最良の実施形態を含む本発明を開示するとともに、あらゆる当業者に対し本発明の製造および使用を可能にすることを目的として用いられている。本発明の特許範囲は、特許請求の範囲により定義されるものであり、当業者が思い付く他の実施例も包含することができる。このような他の実施例として、特許請求の範囲の文言と差異がない構造要素を有するか、または特許請求の範囲の文言と実質的に差異がない均等な構造要素を含むものも、特許請求の範囲に包含されるものとする。
【0049】
引用したすべての特許、特許出願、および他の参考文献の全体が、本明細書に組み込まれる。しかしながら、本出願に使用した用語が、組み込まれた参考文献の用語と相反するかまたは矛盾する場合は、組み込まれた参考文献の矛盾する用語よりも本出願の用語を優先する。
【0050】
本明細書に開示した範囲はすべて、終点を包含し、この終点は独立に、互いに組み合わせることができる。
【0051】
本発明の説明の文脈における不定冠詞および定冠詞(a、an、およびthe)ならびに類似の指示語の使用は、(特に以下に示す特許請求の範囲の文脈においては)本明細書に特に指定されていないか、または明らかに文脈と相反していない限り、単数形および複数形の両方を包含すると解釈される。さらに、本明細書における「第1」、「第2」等の用語は、いかなる順序、量、または重要性を示すものでもなく、他の要素と互いに区別するために用いられていることにさらに留意すべきである。量に関連して用いられる「約」という修飾語は、指定した値を包含し、文脈で指示される意味を有する(例えば、特定の量の測定に付随する程度の誤差を包含する)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和第四級アンモニウム塩の製造方法であって、
第1容器中、水の存在下で、塩化メチルを化学量論的に過剰な不飽和第三級アミンと反応させることにより、前記不飽和第四級アンモニウム塩および残留不飽和第三級アミンを含む反応混合物を形成することと、
前記反応混合物の一部を第2容器に移送することと、
前記第2容器中、前記反応混合物の前記一部を相分離させることにより、前記不飽和第四級アンモニウム塩および水を含む第1画分と、前記残留不飽和第三級アミンを含む第2画分とを得ることと、
前記第2容器から前記第1画分の一部を抜き出して前記第四級アンモニウム塩生成物を回収することと、
塩化メチルと化学量論的に過剰な不飽和第三級アミンとの前記反応に使用するために、前記第2画分の一部を前記第2容器から前記第1容器に再循環させることと
を含み、前記不飽和第三級アミンが、式、
【化1】

(式中、Rは、水素またはメチルである)で示され、前記不飽和第四級アンモニウム塩が、式、
【化2】

(式中、Rは、水素またはメチルである)で示される、方法。
【請求項2】
連続運転される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化学量論的に過剰な不飽和第三級アミンが、前記第1容器の投入物について測定された不飽和第三級アミン対塩化メチルのモル比が1.05:1〜5:1であることに相当する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記不飽和第三級アミンが、アクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチルである、請求項1〜3に記載の方法。
【請求項5】
前記不飽和第三級アミンが、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチルである、請求項1〜3に記載の方法。
【請求項6】
前記反応が、前記第1容器に、塩化メチルを6〜20重量パーセント、不飽和第三級アミンを18〜57重量パーセント、水を6〜19重量パーセント、および前記第2画分の前記再循環分を3〜70重量パーセント、連続供給することを含み、重量パーセントはすべて前記第1容器の投入物の総重量を基準とする、請求項1〜5に記載の方法。
【請求項7】
前記反応が、第1容器の滞留時間を0.25〜3時間として実施される、請求項1〜6に記載の方法。
【請求項8】
前記反応が、全圧を100〜800キロパスカルとして実施される、請求項1〜7に記載の方法。
【請求項9】
塩化メチルと不飽和第三級アミンとの前記反応が、30〜90℃の温度で実施される、請求項1〜8に記載の方法。
【請求項10】
前記相分離が、−5〜15℃の温度で実施される、請求項1〜9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1画分が、前記第2容器中の前記不飽和第四級アンモニウム塩の少なくとも95パーセントを含み、かつ前記第2画分が、前記第2容器中の前記残留不飽和第三級アミンの少なくとも95パーセントを含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載方法。
【請求項12】
前記化学量論的に過剰な不飽和第三級アミンが、前記第1容器の投入物について測定される不飽和第三級アミン対塩化メチルのモル比が1.1:1〜4:1であることに相当し;
前記反応が、前記第1容器に、塩化メチルを6〜20重量パーセント、不飽和第三級アミンを18〜57重量パーセント、水を6〜19重量パーセント、および前記第2画分の前記再循環分を3〜70重量パーセント、連続供給することを含み、重量パーセントはすべて前記第1容器の投入物の総重量を基準とし;
前記反応が、第1容器の滞留時間を0.25〜3時間として実施され;
塩化メチルと不飽和第三級アミンとの前記反応が、30〜90℃の温度で実施され;
前記反応が、150〜600キロパスカルの圧力で実施され;
前記分離が、−5〜15℃の温度で実施され;かつ
前記第1画分が、前記第2容器中の前記不飽和第四級アンモニウム塩の少なくとも95パーセントを含み、かつ前記第2画分が、前記第2容器中の前記残留不飽和第三級アミンの少なくとも95パーセントを含む、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2012−533634(P2012−533634A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−521717(P2012−521717)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【国際出願番号】PCT/US2010/042510
【国際公開番号】WO2011/011352
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(504186286)ケミラ ユルキネン オサケイティエ (18)
【氏名又は名称原語表記】KEMIRA OYJ
【Fターム(参考)】