説明

両性イオン性固定相上でのHILICを用いたメチルマロン酸およびコハク酸の質量分析的定量的検出

本発明は、コハク酸およびホモシステインをも含み得る臨床試料中のメチルマロン酸を定性的かつ定量的に検出するための方法であって、前記方法が、液体クロマトグラフィー分離段階、続いて質量分析検出段階を含み、前記方法が、以下の段階:a)メチルマロン酸および/またはコハク酸および任意にホモシステインを含み得る試料を提供すること;b)多量の水混和性有機溶媒を含む移動相中に前記試料を注入すること;c)固定相として担体と共有結合した両性イオン性基を含む液体クロマトグラフィーカラムを通して、前記試料を含む前記移動相を溶出させること;d)質量分析検出により、メチルマロン酸およびコハク酸および任意にホモシステインの可能な存在を検出すること;ならびにe)較正データを用いて前記有機分子の存在および任意に量を決定することを含む、前記方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数の試料中の有機小分子を分析する方法に関する。特に、本発明は、臨床的に興味深い有機小分子であるメチルマロン酸、コハク酸および任意にホモシステインを、生物学的基質、例えば全血、血漿、血清および尿から大規模にアッセイするための方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
技術的背景
本明細書中に開示するすべての参考文献を、参照により援用する。
臨床実験室において用いられる分析手法は、迅速であり、単純でありかつしっかりとしているが、それでも高感度かつ選択的である必要がある。異なる基質(即ち尿、血漿、血清、全血など)中の膨大な量の試料には、単純な方法を休止時間をほとんど、または全く伴わずに、自動的様式において進行および使用可能な技術が必要である。しばしば用いられる技術は、その自動化の容易さのために人気がある酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)に基づく。しかし、時折、交差反応性または抗体の欠如により、試料において臨床的に重要であり得る複数の化合物をモニタリングするために、数種のELISAキットを用いることが必要になる。これにより費用が増大し、試料の処理量が減少する。
【0003】
したがって、液体クロマトグラフィー(LC)そして特に高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、混合物をその構成成分に分離し、個別の化合物を定量的に決定する優れた方法として注目を集めた。HPLCは、単に移動相および固定相の適切な選択を行うことにより、このような物質の予備修飾を何ら伴わずに、脂溶性または水溶性物質のいずれかをその構成成分に分離することができる。しかし、HPLC用の伝統的な検出器システムは、特定の化学構造を感知するものではなく、紫外線領域における吸収といった一般的なパラメーターを用いる。
【0004】
例えば、比較的低いUV吸収を有する化合物の決定において、保持性を得るため、クロマトグラフィー分離選択性を強化するためおよび臨床的に関連する濃度に対する十分高い感度を達成するために、プレカラム(pre-column)誘導体化手順が必要であった(Pastore A., et al Clin. Chem. 44, 825-32, 1998)。したがって、ますます用いられている手段は、質量分析検出であり、US 4,298,795には、検出を質量分析法によって行うHPLCシステムが開示されている。質量分析法、および液体クロマトグラフィーと組み合わせた質量分析法の一般的な概要は、“Introduction to mass spectrometry” (Watson, J. Throck, Lippincott-Raven Publisher, Philadelphia, 第3版、1997)中に見出すことができ、質量分析エレクトロスプレーイオン化の基礎は、Nadja B. ChechおよびChristie G. Enkeにより、Mass Spectrometry Reviews, 20, 362-87, 2001中に記載されている。
【0005】
HPLCと質量分析的(MS)検出との組み合わせを含むシステムはまた、多数の臨床試料の日常的な分析用としても開発されており、臨床的実験室における使用が増大することは、最近になって予測されている(Kinter M., Clin. Chem., 50, 1500-2, 2004)。試料調製および較正プロトコルならびに自動化ルーチンは、HPLC−MS法のために最適化され、採用されている。MS技術における進歩により、高い分解能のMS機器を伴う強力な機器が得られた。実際に、いくつかの場合において、先のクロマトグラフィー分離は省略され、必要でないと主張された。
【0006】
US 6,541,263には、HPLCおよび質量分析を用いた、ヒト血漿中の副腎皮質ステロイドの決定が記載されている。HPLCとMSとの組み合わせは、低い濃度の構造的に類似した化合物を定量的かつ定性的に分析することを可能にする。しかし、US 6,541,263の手法によって分析されるすべての化合物は、かなり大きく、疎水性の物質である。臨床的に重要な、小さく、極性のおよび/または親水性の分子を分析する必要性もある。
【0007】
このような小さく、極性および/または親水性分子の臨床的に重要な分析の典型的な例は、任意にホモシステインと一緒の、メチルマロン酸およびコハク酸の定量である。メチルマロン酸(MMA)(およびホモシステイン)は、B12欠乏症のための診断マーカーであり、一方コハク酸は、しばしば前者の化合物の定量を妨げるMMAの生理的に豊富な異性体である。前者の化合物は、スペクトルデータのデコンボリューションまたは強力な分解能、即ち同一試行内のMS/MS検出システムの使用によってではなく、クロマトグラフィーベースでコハク酸から良好に分離されるが、MMAの迅速かつ正確な定量を可能にすることを全体的な目標として、長年にわたり、種々の分析手法による種々の方法が試験されたものの無駄であった。
【0008】
WO 03/079008には、液体クロマトグラフィーおよびタンデムMSを用いて小分子、例えばMMAおよびコハク酸を検出することが開示されている。この方法は複雑であり、多大な時間を必要とし、アッセイ前の試料の誘導体化および結果を得る前の高度な計算を伴う。
WO 2006/090428には、小分子を分析するための逆相法が提示されている。MMAとコハク酸との間で明確な分離を達成することが困難であることは、添付されたクロマトグラムから明白である。
【0009】
したがって、臨床試料中の医学的に興味深い有機小分子の存在を定性的に、および/または定量的に分析するための改善された方法に対する必要性が、依然として存在する。理想的には、このようなアッセイ方法は、迅速であり、最小限の量の試料前処理を必要とし、自動化するのが容易であるべきであり、結果は解釈するのが容易であるべきである。
【発明の概要】
【0010】
発明の概要
MMAの迅速で正確な定量を得るという前述の課題は、本発明にしたがって、メチルマロン酸を、任意にホモシステインおよびコハク酸と共に、検出するための方法であって、前記方法が、液体クロマトグラフィー分離段階、続いて質量分析検出段階を含み、前記方法が、以下の段階:
【0011】
a)メチルマロン酸および/またはコハク酸および任意にホモシステインを含み得る試料を提供すること;
b)多量の水混和性有機溶媒を含む移動相中に前記試料を注入すること;
c)固定相として担体と共有結合した両性イオン性基を含む液体クロマトグラフィーカラムを通して、前記試料を含む前記移動相を溶出させること;
d)質量分析検出により、メチルマロン酸および/またはコハク酸および任意にホモシステインの可能な存在を検出すること;ならびに
e)較正データを用いて前記有機分子の存在および任意に量を決定すること
を含む、前記方法を提供することにより、解決される。
【0012】
試料前処理プロトコルが希釈係数により分かるため、元の試料濃度を計算し、臨床的または薬学的評価のための研究における対象(患者)の他の観察と関連づけることができる。
好ましくは、水混和性有機溶媒はアセトニトリルである。これはまた、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトンおよびTHFまたはこれらの混合物からなる水溶性溶媒の群から選択し得る。アセトニトリルが好ましい。
【0013】
さらに、移動相が、アセトニトリルおよび水性緩衝液、例えば塩、弱酸および弱塩基の水溶液の混合物から構成されるのが好ましい。緩衝物質は、好ましくは酢酸アンモニウムなどの塩であるが、ギ酸アンモニウムおよび、ギ酸または酢酸などの弱酸も用いてよい。いくつかのHILIC/MSアプリケーションにおいて、アンモニアおよび炭酸アンモニウムを水性緩衝液中に包含させることが可能である。水性緩衝液は、わずかに酸性ないしわずかに塩基性のpH、好ましくは4.0〜7.5の範囲内、好ましくは4.0〜7.0の範囲内、および特に4.0〜5.0の範囲内のpHを有していてもよく、移動相の全体的なイオン強度は、好ましくは5〜60mMの範囲内である。
【0014】
さらに、移動相が、95/5〜60/40、好ましくは85/15〜65/35および最も好ましくは80/20〜65/35の範囲内のアセトニトリル/水性緩衝液の組成を有するのが好ましい。
【0015】
さらに、また、固定相の両性イオン性基が、CH−N(CH−CH−CH−CH−SOまたは−O−PO−CH−CH−N(CH、好ましくはCH−N(CH−CH−CH−CH−SOであるのが好ましい。本発明を実施する際に用いることができる固定相は、US 2005/0064192 A1およびWO 00/27496に開示されている。
【0016】
これらの両性イオン性固定相の、極性および親水性化合物を分離するための選択性および適合性は、固定相担体化学または物理的フォーマットとはむしろ無関係であることが、明らかになった。例えば、移動相pHの変化をペプチドに対する分離選択性を最適化するために用い得ることがシリカ担体上の両性イオン性固定相を用いて示され(P. J. Boersema, N. Divecha, A. J. R. Heck, S. Mohammed J. Proteome Res., (2007) in press)、同様のパターンが、ポリマー性メタクリレートをベースとする両性イオン性モノリス上の一連の安息香酸について見られた(Z. Jiang, N.W. Smith, P.D. Ferguson, and M.R. Taylor, Anal. Chem.79,1243-1250, 2007)。これらの研究において、担体物質に帰する影響はなかったが、容量因子と選択性との両方に影響する解離および対応する分析物の親水性における変化に帰する影響はあった。固定相官能基および担体の影響は、HILICについての最近の総説で論じられた(P. Hemstroem, K. Irgum J. Sep. Sci., 29, 1784-1821, 2006)。
【0017】
本発明との関連において適する担体の例は、多孔性シリカ、ジルコニウム、グラファイトおよび1〜30μm、好ましくは3.5〜10μmの範囲内の大きさ、および50〜300Åの孔を有する球状粒子の形状であるポリマーまたはコポリマー物質、または前記物質のモノリシック構造、または代替的に細い口径のキャピラリーの内壁である。
【0018】
合成または天然起源のポリマーまたはコポリマー担体は、モノまたはオリゴビニルモノマー単位、例えばスチレンおよびこの置換誘導体、アクリル酸またはメタクリル酸、アルキルアクリレートおよびメタクリレート、ヒドロキシアルキルアクリレートおよびメタクリレート、アクリルアミド類およびメタクリルアミド類、ビニルピリジンおよびこの置換誘導体、ジビニルベンゼン、ジビニルピリジン、アルキレンジアクリレート、アルキレンジメタクリレート、5つまでのエチレングリコール繰り返し単位を有するオリゴエチレングリコールジアクリレートおよびオリゴエチレングリコールジメタクリレート、アルキレンビス(アクリルアミド)類、ピペリジンビス(アクリルアミド)、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびテトラアクリレート、ならびにこれらの混合物を含んでいてもよい。
【0019】
好ましい態様において、両性イオン性官能性リガンドは、グラフト共重合によって、あるいは両性イオン性モノマーまたは両性イオン性リガンドの前記担体表面上への多段階反応連結によって、あるいは両性イオン性官能基を含むモノリス担体を形成する、前記モノマーまたはリガンドおよび架橋剤モノマーおよび希釈剤の共重合によって、前記担体に結合している。
【0020】
本方法を、臨床試料において任意にホモシステインおよびコハク酸と一緒のメチルマロン酸を定量的にまたは定性的に決定するために適用するのが特に有利である。このような臨床試料は、好ましくは体液、例えば尿、血液、血漿、血清および脳脊髄液である。臨床試料を、前記試料に含まれ得るタンパク質の沈殿をもたらすアセトニトリルと混合する。沈殿したタンパク質を除去した後に、残りの上澄みを、直接移動相中に注入し、溶出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本発明を、添付の図面を参照してさらに説明する。
【図1】図1は、MMA、コハク酸およびホモシステインの構造を示す。
【図2】図2は、ZIC−HILICカラムの両性イオン性ベタイン官能基を示す。
【0022】
【図3a】図3aは、単一イオンモニタリングネガティブエレクトロスプレーMSと組み合わせたHILICを用いた、50nMのMMAでスパイクされたヒト血漿試料からの、重水素化MMA内部標準の存在下でのMMAの分離を図解するクロマトグラムを示す。
【図3b】図3bは、単一イオンモニタリングネガティブエレクトロスプレーMSと組み合わせたHILICを用いた、476nMのMMAでスパイクされたヒト血漿試料からの、重水素化MMA内部標準の存在下でのMMAの分離を図解するクロマトグラムを示す。
【図3c】図3cは、単一イオンモニタリングネガティブエレクトロスプレーMSと組み合わせたHILICを用いた、1000nMのMMAでスパイクされたヒト血漿試料からの、重水素化MMA内部標準の存在下でのMMAの分離を図解するクロマトグラムを示す。
【0023】
【図4】図4は、50〜1000nMでの6つの互いに独立した濃度レベルでスパイクされたヒト血漿試料中のMMAの較正曲線を示す。
【図5】図5は、50〜200,000nMでの13個の互いに独立した濃度レベルでスパイクされたヒト血漿試料中のMMAの較正曲線を示す。
【0024】
【図6】図6は、それぞれ、ホモシステイン、メチルマロン酸およびコハク酸の完全ベースライン(full baseline)HILIC分離、続いてUV(a)およびMS(b)による検出のクロマトグラムを示す。これらの実験において用いた実験条件は、最適なMMA定量のために用いたものとは異なっており、臨床試料におけるホモシステインおよびコハク酸と一緒の、メチルマロン酸の定量的なまたは定性的な決定を達成する可能性を例示する。
【0025】
発明の詳細な説明
本発明は、逆相HPLC法および標準的なHPLCおよび質量分析の十分知られている組み合わせに対する実現可能な代替法、即ち質量分析検出と組み合わせた親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)を提供する。HILICは、極性化合物、および親水性化合物に適した分離手法であり、分析物と親水性固定相との間の親水性相互作用を促進するために、水混和性有機溶媒(アセトニトリル、プロパノール、エタノール、メタノール、THF、アセトン)を高い含量(40〜99% v/v)で含む溶離剤を用いる。
【0026】
HILICに用いる移動相がESI−MS検出に良好に適すること(Guo Y., Gaiki S., J. Chromatogr. A, 1074, 71-80, 2005)、および特に親水性化合物を分析している間、および最終的な移動緩衝液塩濃度を合理的な濃度レベル、典型的には50mMより低いレベルに保持することができる際に、逆相法と比較して検出限界をしばしば増大させる(Bengtsson J., Jansson B., Hammarlund-Udenaes M., Rapid Commun. Mass Spectrom., vol. 19 (2005), 2116 - 2122)ことが、一般的に見出されている。
【0027】
商業的に入手できる他のHILIC固定相はあるが、いずれも、WO, A1, 00/27496およびUS 2005/0064192 A1に開示されている固定相に真に匹敵するものはない。かかる固定相は、登録商標ZIC(登録商標)-HILICおよびZIC(登録商標)-pHILIC相(SeQuant AB, Sweden)の下で販売されている。これらの高度に極性の両性イオン性固定相を含むカラムは、極性のおよび帯電した化合物を溶媒和させることが特に可能な独特の環境を提供し、これにより高速HILIC分離が可能になる。
【0028】
両性イオン性固定相、図2は、弱い静電的相互作用を介して帯電した分析物と相互作用することができ、実際にはこれは、方法の進行において緩衝塩類とイオン強度を選択する際に、クロマトグラフィー専門家に一層大きい程度の自由度を提供し、したがって、カラムをLC−MS分析に対して理想的に選択させる。本特許出願のこの特定の注記(note)は、効率的な分離と高感度の検出原理とを組み合わせた際の利点を例証するものであり、臨床試料においてコハク酸およびホモシステインからメチルマロン酸を分離することができるアイソクラチックなHILIC分離により例示される。
【0029】
ZIC(登録商標)−HILICカラム(SeQuant AB, Sweden)は、3.5、5または10μmのいずれかの粒径を有するシリカをベースとする固定相であり、一方ZIC(登録商標)-pHILICカラム(SeQuant AB, Sweden)は、5μmの粒径を有するポリマーをベースとする固定相であるが、共にスルホベタイン(sulfobetaine)タイプの両性イオン官能基を有する。
【0030】
例1
実験の章
試薬および化学物質
アセトニトリル(HPLC等級)および分析的等級の酢酸アンモニウムを、共にMerck (Darmstadt, Germany)から購入し、一方ギ酸(%、p.a.)は、JT BAKER (Deventer, The Netherlands)からのものであった。水をすべて、Milli-Q浄水装置 (Millipore, Bedford, MA)により精製した。25mLのアセトニトリル、続いて250マイクロリットルの濃酢酸および43マイクロリットルの196.5マイクロモーラー重水素化メチルマロン酸(d3−MMA)貯蔵溶液を50mLの容量フラスコに加え、これにさらなるアセトニトリルを標線まで加えることにより、血漿タンパク質沈殿(PPT)溶液を調製した。このPPT溶液は、99.5容量%のアセトニトリル、0.5容量%の酢酸および169nM濃度のd3−MMAを含む。
【0031】
血漿試料のタンパク質沈殿および洗浄
HILIC手法を用いることで、臨床試料の極めて効果的で直接的な試料前処理を適用することが可能である。アセトニトリルはHILICにおいて弱い溶媒であるため、干渉的な血漿タンパク質をアセトニトリル中に沈殿させることが可能である。PPT溶液(0.80mL)を先ず、2mLのガラス製オートサンプラー(autosampler)バイアル中にピペットで採取し、その後ヒト血漿(0.20mL)を加え、バイアルに、不活性バイアルキャップを装着した。次に、すべての試料を、オービタルシェーカー(orbital shaker)(Janke&Kunkel, Typ Vx8)(または同様の性能を有する他の器材)上に5分間放置して、十分な混合を促進した。血漿タンパク質沈殿プロセスに続いて、分析前にバイアルをHettich Zentrifugen Rotana 460R遠心分離機(または同様の性能を有する他の器材)中に移し、摂氏15度、6200rpmで10分間作動させた。分析的回収を決定するために、既知の量のMMAおよびMMA−d3を、タンパク質沈殿の前および後に加えた。
【0032】
クロマトグラフィーシステム
クロマトグラフィーシステムは、アセトニトリルおよび100mMの水性酢酸アンモニウム緩衝液(80:20 v/v)、pH4.7を含む移動相を、0.4mL/分の流量で送達するAgilent 1100分離モジュールからなるものであった。標準、スパイクした試料、対照およびヒト患者試料(4μL)を、Agilent 1100オートサンプラーを用いて、30℃に設定したAgilent 1100カラムオーブン中に配置された、3.5ミクロンの粒子を有する長さ100mm、内径2.1mmのZIC(登録商標)-HILIC分離カラム上に注入した。定量を、Agilent 1100 Mass Spectrometer上で、ネガティブモードのESIにおける単一イオンモニタリング(m/z 117.2および120.2)を用いて、10L/分、ガス温度:300℃に設定した乾燥ガス流および3.0KVに設定した毛細管電圧を適用して行った。すべてのクロマトグラムを、Agilent Chemstation上に記録した。
【0033】
両性イオン性固定相上でHILICモードにおいて分離した後の、ネガティブESI MS検出を用いた、ヒト血漿試料中のメチルマロン酸(MMA)の定量
作業を、MMAについての反復性、再現性、精度、線形性、LODなどについての分析的データの獲得について、標準溶液、スパイクされた血漿試料およびヒト患者試料(全体として他の箇所において提示されているとおり)を用いて行った。試料の精製操作のための単純であるけれどもしっかりした効率的な手順、続いて定量のためのネガティブESI−MS単一イオンモニタリングを、生体試料のために同位体的に標識された内部標準を用いて進行した。優れた感度および十分な線形性(r>0.998)が、現在のシステム設定で達成され、ここでMMAについてのLOQは、標準溶液について約10nMであり、LODは5nM未満である。MMAについての内因性レベルは140〜500nMの間の範囲であり、希釈剤/タンパク質沈殿を通じた本発明者らの提案する試料手順は試料を4倍に希釈するので、目標とするレベルに達している。
【0034】
結果:
図3a〜cは、それぞれa)50、b)476およびc)1000nMのMMAでスパイクされたヒト血漿試料からのMMAの分離を図解するクロマトグラムを示す。すべての試料に、重水素化標識された内部標準(MMA−d3)を加えた(図3a〜cにおける下のトレースクロマトグラムを参照)。すべての分離を、3.5ミクロンの粒子を有する100x2.1mmのZIC−HILICカラムで行い、検出を、Agilent 1100 Mass Spectrometer上でネガティブモードのESIにおける単一イオンモニタリング(m/z 117.2および120.2)を用いて行った。
【0035】
図4は、50〜1000nMでの6つの互いに独立した濃度レベルでスパイクされたヒト血漿試料中のMMAにおける較正曲線を示す。すべての試料に、一定量のd内部標準(MMA−d3)を加え、MMAおよびMMA−d3の間の面積応答比(area response ratio)をプロットした。
【0036】
図5は、50〜200,000nMでの13個の互いに独立した濃度レベルでスパイクされたヒト血漿試料中のMMAにおける較正曲線を示す。すべての試料に、一定量のd内部標準(MMA−d3)を加え、MMAおよびMMA−d3の間の面積応答比をプロットした。
【0037】
例2
実験条件
【表1】

【0038】
方法の進行は、その使用の容易性および頑健性により、一般的にUV検出を用いて行うが、当該手法にはしばしば、関連する生理的レベルにおける定量を可能にするために必要な感度が欠如している。本明細書中には、感度を上げるために暫定的な最適分離条件をUV検出により確立し、図6(a)、次にこれを容易に転換し(transferred)、わずかに修正してMS検出をより良好に適合させ得ることが例証されている。すべての化合物についてのベースライン分離を、90秒以内に達成することができ、化合物は、1.4〜3のk’で溶出する。ホモシステインとメチルマロン酸との間のディップ(dip)には、注目する価値がある。当該現象についての原理は、低い検出波長と、試料と移動相との間の緩衝液濃度のわずかな不整合との組み合わせである。
【0039】
移動相中の流量および水性比率を低下させ(30容量%から25容量%まで)、イオン強度をわずかに低下させることにより、当該方法は、LC−MS装置用に調整され、図6(b)において明らかなように、十分な分離効率が達せられた。暫定的なMS準拠条件を用いて、ホモシステインおよびコハク酸と一緒のメチルマロン酸を決定することが、生体試料において可能であるが、臨床的に関連する濃度レベルにおいては可能ではない。図6は、このように、それぞれホモシステイン、メチルマロン酸およびコハク酸の分離、続いてUV(a)およびMS(b)による検出を図解する。しかし、すべてのこれらの実験において用いられる実験条件は、最適なMMA定量のために用いられるものとは異なる。
【0040】
ZIC(登録商標)−HILICカラムは、実際にメチルマロン酸とコハク酸とを分離するのに適する手段である。比較的安価であり、単純なMS検出装置と組み合わせて、生理的に関連する濃度を、1時間あたり20までの試料を処理する可能性を伴って容易に定量することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コハク酸および/またはホモシステインをも含み得る臨床試料中のメチルマロン酸を定性的かつ/または定量的に検出するための方法であって、前記方法が、液体クロマトグラフィー分離段階、続いて質量分析検出段階を含み、前記方法が、以下の段階:
a)メチルマロン酸および/またはコハク酸および任意にホモシステインを含み得る試料を提供すること;
b)多量の水混和性有機溶媒を含む移動相中に前記試料を注入すること;
c)固定相として担体と共有結合した両性イオン性基を含む液体クロマトグラフィーカラムを通して、前記試料を含む前記移動相を溶出させること;
d)質量分析検出により、前記試料中のメチルマロン酸およびコハク酸および任意にホモシステインの可能な存在を検出すること;ならびに
e)較正データを用いて前記有機分子の存在および任意に量を決定すること
を含む、前記方法。
【請求項2】
水混和性有機溶媒がアセトニトリルであるか、または任意にメタノール、エタノール、プロパノール、アセトンおよびTHFまたはこれらの混合物からなる水溶性溶媒の群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
移動相が、アセトニトリルと水性緩衝液との混合物であり、前記水性緩衝液が、わずかに酸性ないしわずかに塩基性のpH、好ましくは4.0〜7.5の範囲内、一層好ましくは4.0〜7.0の範囲内、および特に4.0〜5.0の範囲内のpHを有しており、ここで前記移動相の全体的なイオン強度が5〜60mMの範囲内であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
水性緩衝液が、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、ギ酸、酢酸、アンモニアおよび炭酸アンモニウムの群から選択される物質の水溶液であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
移動相が、95/5〜60/40、好ましくは85/15〜65/35および最も好ましくは80/20〜65/35の範囲内のアセトニトリル/水性塩溶液の組成を有することを特徴とする、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
固定相の両性イオン性基が、CH−N(CH−CH−CH−CH−SOまたは−O−PO−CH−CH−N(CH、好ましくはCH−N(CH−CH−CH−CH−SOであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
両性イオン性基が、シリカ粒子もしくはポリマー粒子またはシリカもしくはポリマーのモノリシック構造に結合していることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
粒子が、1〜30μmの範囲内、好ましくは3.5〜10μmの範囲内の粒子の大きさを有することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
試料が、臨床試料、例えば血漿、全血、血清、尿および脳脊髄液であり、前記試料をアセトニトリルと混合し、これによりタンパク質を前記試料中で沈殿させ、前記沈殿したタンパク質を前記試料から除去し、前記沈殿したタンパク質を除去した後の残りの上澄みを、さらなる前処理を何ら伴わずに移動相中に直接注入することを特徴とする、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−519532(P2010−519532A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550681(P2009−550681)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【国際出願番号】PCT/EP2008/001484
【国際公開番号】WO2008/101736
【国際公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】