説明

両親媒性スルファミド化合物及び該化合物を用いた洗浄剤組成物

【課題】優れた両親媒性を有し、かつ分子認識機能や生体細胞適合機能、更には刺激応答機能などの高次機能の発現も期待できる新規な両親媒性スルファミド化合物および該化合物を用いた洗浄剤組成物を提供する。
【解決手段】本発明の両親媒性スルファミド化合物は、下記一般式(I):
【化1】


(式(I)中、Rは炭素数C〜C17のアルキル基であり、Rは炭素数C〜C10のアルキレン基であり、Rは水素原子またはメチル基であり、nはオキシエチレン鎖の平均付加モル数を表す5〜30の整数である。)
で示される化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両親媒性を有する新規なスルファミド化合物及び該化合物を用いた洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一つの分子の中に親水性の部分と疎水性の部分を併せ持つ両親媒性化合物は、機能面に着目して、界面活性剤と呼称される場合もある物質である。石けんや乳化剤は両親媒性を有する物質であり、細胞膜など生体膜の構成成分となるリン脂質や膜タンパクも両親媒性物質である。
【0003】
周知のように、両親媒性化合物の代表である界面活性剤は、分子集合性に基づく界面化学的機能によって、化粧品、香粧品、トイレタリー、医薬、農薬の基剤として用いられているのを始めとして、洗浄、食品、塗料、切削油、潤滑剤、接着剤、帯電防止剤など、極めて広範囲に利用されている。
このように、両親媒性化合物は、産業分野においても、また、生命活動そのものにとっても、きわめて重要な物質である。
【0004】
近年に至っては、両親媒性化合物に関して、上述の分子集合性に基づく界面化学的機能に加えて、分子集合性機能の延長線にある分子認識機能や生体適合機能、更には刺激応答機能などの高次機能が発現できる新規な両親媒性化合物の開発への期待が高まっている。
【0005】
本発明は、後述のように、疎水部と親水部を有する新規な非対称置換スルファミド誘導体(本発明では、両親媒性スルファミド化合物と記す)を提供するものである。これに対して、従来提供されているスルファミド化合物は、医薬、化粧料の有効成分として用いるものに限られており、両親媒性を有していない(例えば、特許文献1、2、3)。このように、従来、両親媒性を有するスルファミド化合物は提供されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2005/077354号
【特許文献2】特開2006−151982号公報
【特許文献3】特表2009−524614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の事情に鑑みてなされたもので、その課題は、優れた両親媒性を有し、かつ分子認識機能や生体適合機能、更には刺激応答機能などの高次機能の発現も期待できる新規な両親媒性スルファミド化合物および該化合物を用いた洗浄剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、下記一般式(I)で示される、疎水部と親水部を有する新規な両親媒性スルファミド化合物が、疎水部に基づく分子間疎水性相互作用のみならず、スルファミド基に基づく分子間水素結合性によって、これまでの界面活性剤にはなかった新規界面機能を発現し得ることを見出した。
【0009】
【化1】

(式(I)中、Rは炭素数C〜C17のアルキル基であり、Rは炭素数C〜C10のアルキレン基であり、Rは水素原子またはメチル基であり、nはオキシエチレン鎖の平均付加モル数を表す5〜30の整数である。)
【0010】
そこで、まず、該両親媒性スルファミド化合物における両親媒性の制御性について評価するとともに、洗浄剤組成物への応用を確認した。その結果、該両親媒性スルファミド化合物は、疎水性および親水性の程度を任意に制御することができ、また、該両親媒性スルファミド化合物を界面活性剤成分として用いることにより洗浄性能に優れた洗浄剤組成物が得られることも確認された。
【0011】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、下記構成を採用した両親媒性スルファミド化合物および該化合物を用いた洗浄剤組成物を提供する。
[1]下記一般式(I):
【0012】
【化2】

(式(I)中、Rは炭素数C〜C17のアルキル基であり、Rは炭素数C〜C10のアルキレン基であり、Rは水素原子またはメチル基であり、nはオキシエチレン鎖の平均付加モル数を表す5〜30の整数である。)
で示される両親媒性スルファミド化合物。
[2]前記式(I)中のRが炭素数C〜C15のアルキル基であり、Rが炭素数C〜Cのアルキレン基であり、nが8〜30の整数であり、かつ水溶性を有することを特徴とする、上記[1]に記載の両親媒性スルファミド化合物。
[3] 上記[1]または[2]に記載の両親媒性スルファミド化合物を界面活性剤成分として含有する洗浄剤組成物。
【0013】
なお、本発明において、ある化合物が「水溶性を有する」とは、25℃の水に対して、25℃のある化合物が少なくとも1質量%濃度で均一に溶解することを意味する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る新規な両親媒性スルファミド化合物は、スルファミド骨格の一方の末端に疎水部が修飾され、他の末端に親水部が修飾されている化合物である。この化合物では、スルファミド骨格が互いに正反対の特性である親水部と疎水部を担うスペーサーの役割を果たしている。スペーサーの両端に存在する疎水部および親水部はいわゆる修飾基であり、各修飾基を構成する炭素数や繰り返し構造の数を選択することが可能である。疎水性基、親水性基の炭素数や繰り返し構造の数によって、スルファミド化合物全体の疎水性の度合い又は/及び親水性の度合いを制御することができる。したがって、本発明に係る新規な両親媒性スルファミド化合物は、両親媒性の制御が容易であり、界面活性剤として広範な応用が期待できる。また、本発明に係る洗浄剤組成物は、本発明の両親媒性スルファミド化合物を界面活性剤成分として有するので、優れた洗浄性を発揮する。また、両親媒性化合物については、先に述べたように、近年、分子集合性機能の延長線にある分子認識機能や生体適合機能、更には刺激応答機能などの高次機能が発現できる新規界面機能性材料への開発期待が高まっているが、本発明に係る両親媒性スルファミド化合物は、かかる期待に応え得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施例1で得たN−テトラデシル−N’−(3−ポリエチレングリコキシプロピル)−スルファミド(両親媒性スルファミド化合物)のFAB−MS[質量分析法(MS)におけるFAB(Fast Atom Bombardment:高速原子衝突)法]スペクトルを示す図である。
【図2】図2は、実施例1で得たN−テトラデシル−N’−(3−ポリエチレングリコキシプロピル)−スルファミド(両親媒性スルファミド化合物)のH−NMR(CDCl)スペクトルを示す図である。
【図3】図3は、実施例1で得たN−テトラデシル−N’−(3−ポリエチレングリコキシプロピル)−スルファミド(両親媒性スルファミド化合物)の臨界ミセル濃度(Critical Micelle Concentration:CMCと略記する場合もある)の測定値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(両親媒性スルファミド化合物)
本発明に係る両親媒性スルファミド化合物は、下記一般式(I):
【0017】
【化3】

(式(I)中、Rは炭素数C〜C17のアルキル基であり、Rは炭素数C〜C10のアルキレン基であり、Rは水素原子またはメチル基であり、nはオキシエチレン鎖の平均付加モル数を表す5〜30の整数である。)
で示される化合物である。
【0018】
本発明の両親媒性スルファミド化合物の単分子は、隣接する他の両親媒性スルファミド化合物の単分子と、スルファミド骨格同士が水素結合により相互に結びつくことにより二次元的形状の両親媒性集合体を構成する特徴機能を有する。
【0019】
本発明の両親媒性スルファミド化合物の両親媒特性は、式(I)中のRおよびRの各炭素数、およびnの数によって、以下のように変化する。
【0020】
の炭素数が7未満では非水系物質との親和性が低下し、17を超えると親水性が著しく低下する。したがって、本発明の両親媒性スルファミド化合物の両親媒性を維持するためには、Rの炭素数は、C〜C17であることが好ましく、より好ましくはC〜C15であり、さらに好ましくは、C〜C13である。
【0021】
の炭素数が1未満では、極性溶媒によって上述のスルファミド骨格の水素結合が切断される恐れがあり、10を超えると親水性が著しく低下する。したがって、本発明の両親媒性スルファミド化合物の集合体としての安定性および両親媒性を維持するためには、Rの炭素数は、C〜C10であることが好ましく、より好ましくはC〜Cであり、さらに好ましくは、C〜Cである。
【0022】
nが5未満では親水性が低下し、30を超えると、親水性が高くなりすぎて洗浄性能が低下する。したがって、本発明の両親媒性スルファミド化合物の両親媒性を実用上適切な範囲とするためには、nの数は、5〜30であることが好ましく、より好ましくは、8〜30であり、さらに好ましくは、8〜25である。
【0023】
上記好適な範囲に属し、かつ水溶性を有する両親媒性スルファミド化合物としては、例えば、後述の実施例1において調製したN−テトラデシル−N’−(3−ポリエチレングリコキシプロピル)−スルファミドを挙げることができる。N−テトラデシル−N’−(3−ポリエチレングリコキシプロピル)−スルファミドは、式(I)中のRで示されるアルキル基がミリスチル基であり、Rで示されるアルキレン基がプロピル基であり、Rがメチル基であり、nの平均が10である場合の両親媒性スルファミド化合物である。
【0024】
(洗浄剤組成物)
本発明に係る洗浄剤組成物は、上記両親媒性スルファミド化合物を界面活性剤成分として含有することを特徴とする。
【0025】
本発明に係る洗浄剤組成物は、界面活性剤成分として上記両親媒性スルファミド化合物を配合し、必要に応じて、その他の界面活性剤、その他の成分などを含有してもよい。
また、調製のしやすさや、保存安定性および水への溶解性などの観点から、水を含有するのが好ましい。
【0026】
(界面活性剤(両親媒性スルファミド化合物)の配合量)
両親媒性スルファミド化合物の配合量としては、好ましくは1〜50質量%である。しかしながら、界面活性剤濃度が最大80質量%となる高濃縮組成物の調製可能性を否定するものではない。
【0027】
(その他の成分)
上記両親媒性スルファミド化合物はノニオン界面活性剤に分類されるが、必要に応じて組成物に含有させるその他の界面活性剤としては、上記両親媒性スルファミド化合物以外のノニオン界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤などの公知のものが利用できる。好ましい界面活性剤として、石鹸、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、炭素数8〜14の飽和又は不飽和のα−スルホ脂肪酸塩又はそのメチル、エチルもしくはプロピルエステルが挙げられる。
【0028】
陽イオン界面活性剤としては、従来から洗剤において使用されるものであれば、特に限定されることなく使用することができる。例えば、ジアルキルジ短鎖アルキル型4級アンモニウム塩、モノアルキルトリ短鎖アルキル型4級アンモニウム塩。トリアルキルモノ短鎖アルキル型4級アンモニウム塩などが挙げられる。
【0029】
両性界面活性剤としては、従来から洗剤において使用されるものであれば、特に限定されることなく、各種の両性界面活性剤を使用することができる。
【0030】
塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の塩;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の塩;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン塩;アンモニウム塩が挙げられ、これらが混在していてもよい。
【0031】
界面活性剤以外のその他の成分として、パラトルエンスルホン酸、安息香酸塩、並びに尿素等の減粘剤及び可溶化剤を含むことができる。また、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、ジグリコール酸、酒石酸、クエン酸等の金属イオン捕捉剤を含むことができる。その他の成分として、さらに、酵素も含むことができる。殺菌成分、抗菌成分、酸化防止成分、消臭成分、香料、pH調整剤、水溶性溶剤なども使用目的に応じて、任意に選択して添加することができる。
【0032】
(殺菌成分)
殺菌成分としては、例えば、イソプロピルメチルフェノール、トリクロサン、塩化セチルピリジニウム、フェノール性化合物、安息香酸塩、ポリヘキサメチレングアニジン塩を挙げることができる。
【0033】
(抗菌成分)
抗菌成分としては、例えば、1−ヒドロキシ−2−ピリドン系化合物及びその塩、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、イソプロピルメチルフェノール、ヒノキチオール、トリクロロカルバニリド、ジンクピリチオンを挙げることができる。
【0034】
上記殺菌成分および抗菌成分の中でも、より好ましいものは、イソプロピルメチルフェノール、トリクロサン、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ヒノキチオール、トリクロロカルバニリドであり、さらに好ましいものは、イソプロピルメチルフェノール、塩化ベンザルコニウムである。
【0035】
(酸化防止成分)
酸化防止成分としては、例えば、アスコルビン酸、アスコルビン酸パルミテート、BHT(ブチル化ヒドロキシトルエン)、BHA(ブチル化ヒドロキシアニソール)、没食子酸プロピル、及びクエン酸の混合物、ヒドロキノン、三級ブチルハイドロキノン、天然のトコフェロール系化合物、没食子酸の長鎖エステル(炭素数8〜22)、没食子酸ドデシル、チバスペシャルティケミカル(株)から入手可能なイルガノックス系化合物、クエン酸及び/またはクエン酸イソプロピル、4,5−ジヒドロキシ−m−ベンゼンスルホン酸/ナトリウム塩、ジメトキシフェノール、カテコール、メトキシフェノール、カロチノイド、フラン類、アミノ酸類等が挙げられる。
【0036】
上記酸化防止成分の内、より好ましいものは、ヒドロキノン、BHT、没食子酸プロピル、没食子酸ドデシル、ジメトキシフェノール、カテコールであり、さらに好ましいものは、BHTである
【0037】
(消臭成分)
消臭成分としては、例えば、トウダイグサ科コミカンソウ(Phylantus)属植物、キク科センダングサ(Bidens)属植物、キク科ヒヨドリバナ(Eupatorium)属植物、キク科ツルギク(Mikania)属植物、クマツヅラ科イワダレソウ(Lippia)属植物、キョウチクトウ科アスピドスペルマ(Aspidosperma)属植物、アカネ科ハリフタバ(Borreria)属植物、ブドウ科セイシカズラ(Cissus)属植物、シソ科ヤンバルツルハッカ(Leucas)属植物、シソ科ヒゲオシベ(Pogostemon)属植物、マツグミ科フチルサ(Phthirusa)属植物、クワ科クワ(Morus)属植物、マメ科エンジュ(Sophora)属植物からなる群より選ばれた植物又はその抽出物、ゲラニオール、シトロネロール、シトラール、オイゲノール、フェネチルアルコール、チモール、リナロール、青葉アルコール、メントール、ベンジルアルコール、ヘキシルシナムンアルデヒドなどが挙げられる。
【0038】
上記消臭成分の内、より好ましいものは、メントール、ベンジルアルコールであり、さらに好ましいのはベンジルアルコールである。
【0039】
(香料)
香料としては、例えば、特開2002−146399号公報に記載されているような、香料成分、溶剤および安定化剤等を含有する香料組成物などが挙げられる。
【0040】
(pH調整剤)
pH調整剤としては、例えば、クエン酸、クエン酸3ナトリウム、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、グルコン酸などの食品用有機酸、炭酸塩、塩酸、硫酸、水酸化ナトリウム、ジエタノールアミンなどが挙げられる。
【0041】
(水溶性溶剤)
水溶性溶剤としては、例えば、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ソルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0042】
上記その他の成分についての記載は、主に洗浄剤組成物が衣料用の液体洗浄剤組成物である場合に好適な例示記載であるが、本発明に係る洗浄剤組成物は、衣料用に限られるものではなく、トイレ、キッチンなどにおける硬質面の洗浄に用いられる洗浄剤組成物や、工業用の洗浄剤組成物にも好適に用いることができる。本発明に係る洗浄剤組成物を衣料用以外の洗浄剤組成物とする場合には、各種用途に適したその他の成分を選択して成分調整することにより、実現することができる。
【実施例】
【0043】
以下に、本発明の実施例を詳細に説明する。なお、以下に示す実施例により本発明が限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)両親媒性スルファミド化合物の合成
本実施例では、本発明の両親媒性スルファミド化合物の代表例としてN−テトラデシル−N’−(3−ポリエチレングリコキシプロピル)−スルファミドを、以下の合成例1〜3により、調製した。
【0045】
(合成例1:末端に疎水部を有するスルファミド化合物の合成)
下記[化4]のスキームに示す(手順1a(proc.1a))、(手順1b(proc.1b))にしたがって、1−[{(4−ニトロフェニル)スルフォニル}アミノ]テトラデカン(末端に疎水部を有するスルファミド化合物)を合成した。
【0046】
【化4】

【0047】
(手順1a)
窒素雰囲気下の300mLの2口ナスフラスコに、塩化スルフリル10mL(123mmol)およびジエチルエーテル(EtO)100mLを入れ、−78℃に冷却した。その後、前記冷却混合液に、p−ニトロフェノール14.3g(103mmol)、ピリジン(CN)8.3mL(103mmol)、ジエチルエーテル(EtO)100mLの混合液を滴下し、室温に戻して18時間反応させた。反応後、淡黄色の上澄み液を濃縮し、ヘキサンで再沈殿させることにより、4−ニトロフェニルクロロサルフェート(淡黄色微結晶体)21.8gを得た。収率は89%であった。
【0048】
(手順1b)
上記4−ニトロフェニルクロロサルフェート2.89g(12.2mmol)およびジクロロメタン(CHCl)100mLを、窒素雰囲気下の300mLの2口ナスフラスコに入れ、−78℃に冷却した。その後、前記冷却混合液に、テトラデシルアミン0.649g(3.0mmol)、p−ニトロフェノール4.23g(30.4mmol)、トリエチルアミン(NEt)5.1mL、ジクロロメタン(CHCl)40mLの混合液を滴下し、室温に戻してカラム精製によって、1−[{(4−ニトロフェニル)スルフォニル}アミノ]テトラデカン(白色粉末)1.08gを得た。収率は86%であった。
この1−[{(4−ニトロフェニル)スルフォニル}アミノ]テトラデカンは、その一方の末端に疎水基を有する疎水基片末端スルファミド化合物である。
この合成例1で得た1−[{(4−ニトロフェニル)スルフォニル}アミノ]テトラデカン(白色粉末)を、以下の記載において、原料1と記す場合もある。
【0049】
(合成例2:親水性アミンの合成)
下記[化5]のスキームに示す(手順2a(proc.2a))、(手順2b(proc.2b))、(手順2c(proc.2c))にしたがって、ポリエチレングリコール−(3−アミノプロピル)−メチルエーテル(親水性アミン)を合成した。
【0050】
【化5】

【0051】
(手順2a)
窒素雰囲気下の300mLの2口ナスフラスコに、水素化ナトリウム(NaH:AI50−72%)1.44g(30mmol)、テトラヒドロフラン(THF)40mLを入れ、0℃に冷却した。この冷却混合液に、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル[オキシエチレン鎖の繰り返し数n=8(平均):ライオン株式会社製、商品名「レオソルブPEM400H」]9.62g(25mmol)およびテトラヒドロフラン(THF)40mLの混合液を滴下し、室温に戻した。さらに3−ブロモプロピオニトリル4.02g(30mmol)およびテトラヒドロフラン(THF)20mLの混合液を滴下し、16時間反応させた。カラム精製により、ポリエチレングリコール−(2−シアノエチル)−メチルエーテル(無色液体)8.3gを得た。収率は76%であった(オキシエチレン鎖の繰り返し数n=8(平均)換算)。
【0052】
なお、上記ポリエチレングリコールモノメチルエーテルのオキシエチレン鎖の繰り返し数n=8(平均)は、水酸基価の値から求めた。
【0053】
また、上記ポリエチレングリコール−(2−シアノエチル)−メチルエーテルが生成されたことは、生成物(無色の液体)のH−NMR(CDCl)スペクトル分析により確認した。生成物(無色の液体)のH−NMR(CDCl)スペクトルには、3.7〜3.4ppmのシグナルと2.6ppmのシグナルが現れており、3.7〜3.4ppmのシグナルからオキシエチレン鎖が含まれることが示され、2.6ppmのシグナルからシアノ基(−C≡N)が含まれることが示され、生成物[ポリエチレングリコール−(2−シアノエチル)−メチルエーテル]は、上記2種の原料がカップリングしたものであることが確認された。
【0054】
(手順2b)
窒素雰囲気下の300mLの2口ナスフラスコに、上記ポリエチレングリコール−(2−シアノエチル)−メチルエーテル8.04g(18.4mmol)、メタノール(MeOH)200mLを入れ、0℃に冷却した。冷却後、ジ−tert−ブチルジカルボネート(BocO)8.02g(36.8mmol)、塩化ニッケル(NiCl)2.63g(12.8mmol)を添加したのち、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)4.87g(129mmol)を30分かけて添加し、室温に戻して2時間反応させた。カラム精製により、ポリエチレングリコール−{3−(N−ブトキシカルボニル)アミノプロピル}−メチルエーテル(無色液体)7.36gを得た。収率は74%であった(オキシエチレン鎖の繰り返し数n=8(平均)換算)。
【0055】
また、上記ポリエチレングリコール−{3−(N−ブトキシカルボニル)アミノプロピル}−メチルエーテルが生成されたことは、生成物(無色の液体)のH−NMR(CDCl)スペクトル分析により確認した。生成物(無色の液体)のH−NMR(CDCl)スペクトルには、3.7〜3.4ppmのシグナルと1.4ppmのシグナルが現れており、3.7〜3.4ppmのシグナルからオキシエチレン鎖が含まれることが示され、1.4ppmのシグナルからBoc(tert-ブトキシカルボニル)基(−(C=O)OC(CH)が含まれることが示され、生成物が2種の原料がカップリングしたものであることが確認された。また、原料であるポリエチレングリコール−(2−シアノエチル)−メチルエーテルにみられた2.6ppmのシグナルは消失しており、シアノ基がすべて還元されたことが確認された。
【0056】
(手順2c)
窒素雰囲気下の100mLの2口ナスフラスコに、上記ポリエチレングリコール−{3−(N−ブトキシカルボニル)アミノプロピル}−メチルエーテル4.02g(7.41mmol)を入れ、0℃に冷却した。冷却後、1規定の塩酸30mLを添加し、室温に戻して13時間反応させた。1規定の水酸化ナトリウム水溶液で中和し、カラム精製により、ポリエチレングリコール−(3−アミノプロピル)−メチルエーテル(淡赤色液体)7.2gを得た。収率は65%であった(オキシエチレン鎖の繰り返し数n=8(平均)換算)。
この合成例2で得たポリエチレングリコール−(3−アミノプロピル)−メチルエーテル(親水性アミン)を、以下の説明において、原料2と記す場合もある。
【0057】
また、上記ポリエチレングリコール−(3−アミノプロピル)−メチルエーテルが生成されたことは、生成物(淡赤色液体)のH−NMR(DMSO−d)スペクトル分析により確認した。生成物(淡赤色液体)のH−NMR(DMSO−d)スペクトルには、3.5〜3.2ppmのシグナルと2.8ppmのシグナルが現れており、3.5〜3.2ppmのシグナルからオキシエチレン鎖が含まれることが示され、2.8ppmのシグナルからアミノ基(−NH)が含まれることが示され、生成物[ポリエチレングリコール−(3−アミノプロピル)−メチルエーテル]が、上記2種の原料がカップリングしたものであることが確認された。また、一方の原料であるポリエチレングリコール−{3−(N−ブトキシカルボニル)アミノプロピル}−メチルエーテルにみられた1.4ppmのシグナルは消失しており、Boc基がすべて脱離したことが確認された。
【0058】
(合成例3:両親媒性スルファミド化合物の合成)
先に示した[化5]のスキームに示す(手順3(proc.3))にしたがって、N−テトラデシル−N’−(3−ポリエチレングリコシプロピル)−スルファミド(両親媒性スルファミド化合物)を合成した。このN−テトラデシル−N’−(3−ポリエチレングリコキシプロピル)−スルファミドは、前記[化5]のスキームに示す(手順3(proc.3))において化学式1で示される化合物である。
【0059】
100mLのナスフラスコに、前記合成例1で得た原料1:1−[{(4−ニトロフェニル)スルフォニル}アミノ]テトラデカン0.882g(2.13mmol)、前記合成例2で得た原料2:ポリエチレングリコール−(3−アミノプロピル)−メチルエーテル0.938g(2.13mmol)、およびテトラヒドロフラン(THF)50mLを入れて溶解させた。この溶液に、トリエチルアミン(NEt)0.3mLを添加し、14時間反応させた。カラム精製と分液精製により、N−テトラデシル−N’−(3−ポリエチレングリコキシプロピル)−スルファミド(白色の固体)0.703gを得た。収率は39%であった(オキシエチレン鎖の繰り返し数n=10(平均))。
【0060】
上記N−テトラデシル−N’−(3−ポリエチレングリコキシプロピル)−スルファミドのFAB−MSスペクトルを図1に示す。
【0061】
上記FAB−MSスペクトルとは、質量分析法(MS)におけるFAB(Fast Atom Bombardment:高速原子衝突)法により求められたスペクトルである。このFAB−MS法は、試料をマトリックス(グリセリンなど)に混ぜ、ここに高速で中性原子(Ar、 Xeなど)を衝突させることでイオン化して質量分析する方法である。試料を気化する必要が無いため、広範囲の物質に使用できる。適用できる試料の分子量範囲は200〜5000程度である。測定装置としては、例えば、日本電子株式会社製の「JMS600」などを挙げることができる。
【0062】
図1に示したFAB−MSスペクトルのm/z629.6(n=6)、m/z717.8(n=8)、m/z805.8(n=10)、m/z893.4(n=12)、およびm/z981.9(n=14)の測定ピークから、オキシエチレン鎖の繰り返し単位が6〜14であることが確認された。
【0063】
また、上記N−テトラデシル−N’−(3−ポリエチレングリコキシプロピル)−スルファミドのオキシエチレン鎖の繰り返し数n=10(平均)は、上述のH−NMR(CDCl)により求めた。
【0064】
また、上記N−テトラデシル−N’−(3−ポリエチレングリコキシプロピル)−スルファミドが生成されたことは、生成物(白色の固体)のH−NMR(CDCl)スペクトル分析により確認した。図2に、測定されたH−NMR(CDCl)スペクトルを示す。図2に示すように、生成物(淡赤色液体)のH−NMR(CDCl)スペクトルには、3.7〜3.5ppmのシグナルと0.9〜1.3ppmのシグナルが現れており、3.7〜3.5ppmのシグナルからオキシエチレン鎖が含まれることが示され、0.9〜1.3ppmのシグナルからテトラデシル基が含まれることが示され、生成物が2種の原料の反応生成物であることが確認された。得られたN−テトラデシル−N’−(3−ポリエチレングリコキシプロピル)−スルファミドは、後述のように、両親媒性化合物であり、かつ水溶性である。
【0065】
上記実施例1では、式(I)中のRで示されるアルキル基がミリスチル基であり、Rで示されるアルキレン基がプロピル基であり、Rがメチル基であり、nが10である場合の合成例を示した。式(I)中のR、Rの炭素数が上記以外である場合などの他の組み合わせ構成(例えば、Rが炭素数C13のアルキル基、Rが炭素数Cのアルキレン基、Rがメチル基、nが10である組み合わせ構成;Rが炭素数Cのアルキル基、Rが炭素数Cのアルキレン基、Rがメチル基、nが10である組み合わせ構成;Rが炭素数Cのアルキル基、Rが炭素数Cのアルキレン基、Rがメチル基、nが10である組み合わせ構成)についても、上記実施例1における手順と同様の手順により合成することができる。
【0066】
(比較例1:疎水性スルファミド化合物の合成)
疎水性スルファミド化合物であるN−テトラデシル−N’−ヘキシル−スルファミドを以下のようにして合成した。
【0067】
この比較例1では、実施例1の両親媒性スルファミド化合物を得るための二つの原料(原料1、原料2)の内、原料2(合成例2で得たポリエチレングリコール−(3−アミノプロピル)−メチルエーテルを用いず、その代わりにヘキシルアミン(C13NH)を用いた。
【0068】
100mLのナスフラスコに、合成例1で得た原料1:1−[{(4−ニトロフェニル)スルフォニル}アミノ]テトラデカン0.9g、ヘキシルアミン0.2g、テトラヒドロフラン(THF)50mLを入れて溶解させた。この溶液にトリエチルアミン300μLを添加し、3時間反応させた。カラム精製と分液精製により、N−テトラデシル−N’−ヘキシル−スルファミド0.6gを得た(収率73%)。
【0069】
(比較例2:親水性スルファミド化合物の合成)
親水性スルファミド化合物であるN,N’−ジ(3−オクタエチレングリコキシプロピル)−スルファミドを以下のようにして合成した。
【0070】
この比較例2では、実施例1の両親媒性スルファミド化合物を得るための二つの原料(原料1、原料2)の内、原料1(合成例1で得た1−[{(4−ニトロフェニル)スルフォニル}アミノ]テトラデカン)を用いず、その代わりに塩化スルフリルを用いた。したがって、本比較例2で得たスルファミド化合物は、一般式(I)で示す両親媒性スルファミド化合物に対して一般式(I)中のRが異なる。
【0071】
窒素雰囲気下の100mLのナスフラスコに塩化スルフリル200μL、合成例2の手順2bにて得たポリエチレングリコール−{3−(N−ブトキシカルボニル)アミノプロピル}−メチルエーテル2.1g、テトラヒドロフラン(THF)50mLを入れて溶解させた。この溶液にトリエチルアミン700μLを添加し、4時間反応させた。カラム精製により、N,N’−ジ(3−オクタエチレングリコキシプロピル)−スルファミド1.7gを得た(収率70%)。
【0072】
[水溶性評価]
上記実施例1で得たN−テトラデシル−N’−(3−ポリエチレングリコキシプロピル)−スルファミド(両親媒性スルファミド化合物)と、比較例1で得たN−テトラデシル−N’−ヘキシル−スルファミド(疎水性スルファミド化合物)と、比較例2で得たN,N’−ジ(3−オクタエチレングリコキシプロピル)−スルファミド(親水性スルファミド化合物)の3種のスルファミド化合物(評価サンプル)のそれぞれの水溶性を、以下のようにして評価した。
【0073】
(水溶性評価方法)
実施例1、および比較例1,2で得た各スルファミド化合物(評価サンプル)0.1gに、それぞれ水10gを混合し、この混合物を25℃で10分間撹拌した。撹拌後の混合物をろ過することにより、不溶分の質量を測定した。測定された不溶分質量の初期質量に対する割合から各スルファミド化合物の水溶性の相対的ランクを下記4段階(ランク1〜4)の基準に従って評価した。ランク数が小さい程、より水溶性が高いことを示す。先に説明した水溶性の定義に照らすと、ランク1が「水溶性あり」の評価となり、ランク2〜4は「水溶性なし」の評価となる。その結果を下記(表1)に示す。
【0074】
(水溶性評価基準)
不溶分割合
ランク1(水溶性あり):0質量%
ランク2(水溶性なし):0質量%超5質量%未満
ランク3(水溶性なし):5質量%以上10質量%未満
ランク4(水溶性なし):10質量%以上
【0075】
【表1】

表1に見るように、実施例1と比較例2のスルファミド化合物は水溶性があり、比較例1のスルファミド化合物は水溶性がないとの結果となっている。本明細書で定義の水溶性あり/なしの2段階評価では見えてこないが、上記評価では4段階の評価を行っており、比較例1は最も水溶性が低いレベルにあり、実施例1及び比較例2は最も水溶性が高いレベルにあることが分かる。
【0076】
[界面物性評価]
実施例1で得たN−テトラデシル−N’−(3−ポリエチレングリコキシプロピル)−スルファミド(両親媒性スルファミド化合物)の界面物性を、溶液の曇点の測定結果と、臨界ミセル濃度(Critical Micelle Concentration:CMCと略記する場合もある)の測定結果とに基づいて、評価した。
【0077】
(曇点の測定)
実施例1で得たN−テトラデシル−N’−(3−ポリエチレングリコキシプロピル)−スルファミドを水に溶解させ(濃度:10g/L)、ヒートブロックで温度を1℃ずつ徐々に加熱した。溶液が濁る温度を確認し、この温度を曇点して記録した。曇点は77℃であった。
【0078】
比較対照として、文献に記載の下記の5種のノニオン界面活性剤の曇点を以下に示す。
(a)ラウリン酸ポリエチレングリコール(オキシエチレン鎖の繰り返し数11.2)メチルエーテル
曇点=74℃
開示文献:中川,栗山,通,日本化学会誌,78,1573,(1957)
(b)ポリエチレングリコール−メチル−ラウリル−エーテル(オキシエチレン鎖の繰り返し数n=12(平均))
曇点=78℃
開示文献:P.Sax and M.Donbrow,JAOCS.,55,748(1978)
(c)デカ(オキシエチレン)ラウリルエーテル
曇点=94.4℃
開示文献:Tenside Det.,4,161(1967)
(d)ポリ(オキシエチレン)パルミチルエーテル(オキシエチレン鎖の繰り返し数n=9.9(平均))
曇点=75℃
開示文献:油化学会誌,24,176(1975)
(e)デカ(オキシエチレン)ステアリルエーテル
曇点=68℃
開示文献:A.N.Wrigley,F.D.Smith and A.J.Srirton,JAOCS.,39,80(1962)
【0079】
(臨界ミセル濃度(CMC)の測定)
実施例1で得たN−テトラデシル−N’−(3−ポリエチレングリコキシプロピル)−スルファミド(両親媒性スルファミド化合物)の臨界ミセル濃度(CMC)を、自動表面張力測定装置(KRUSS社製、商品名「K−12」)を用い、Wilhelmyプレート法(25℃)により、測定した。測定は、N−テトラデシル−N’−(3−ポリエチレングリコキシプロピル)−スルファミドの濃度を0.1ppmから1000ppmの範囲で変化させ、調整した濃度毎の表面張力(mN/m)の変化を測定した。表面張力の測定値を濃度(横軸)に対してプロットしたグラフを図3に示した。
【0080】
図3に見るように、表面張力値の曲線には二つの屈曲点が観察される。最初の屈曲点は濃度が2.3ppm(0.003mM)に現れ、2番目の屈曲点は濃度が36ppm(0.044mM)に現れている。最初の屈曲点では、プレミセルが形成され、2番目の屈曲点では、ミセルが形成されていることが確認された。
プレミセルの形成は、スペーサーであるスルファミド骨格同士の水素結合が寄与しているものと推定された。すなわち、実施例1で得られた両親媒性スルファミド化合物は、低濃度(2.3ppm)で水素結合性の会合体を形成し、これにより二次元的形状の両親媒性集合体を容易に形成するものと思われる。
【0081】
測定した曇点及びCMCデータについて、文献値と比較した情報をまとめて示すと、下記(表2)のようになる。
【0082】
【表2】

【0083】
表2から分かるように、実施例1で得た両親媒性スルファミド化合物のCMC値は、対照例のノニオン界面活性剤のCMC値と比較してやや低めである。即ち、分子集合性がより低濃度で発現される。また、プレミセル形成が観察される。曇点については、骨格が非常に近い(a)と比較して炭素鎖長が長いにも関わらず曇点が高い、即ち、水溶性が高いことがわかる。
【0084】
これらの物性は、スルファミド骨格同士の水素結合の関与が起因していると推定でき、従来にない高機能な界面物性の発揮を期待させるものである。
【0085】
(実施例2)
(洗浄剤組成物の調製)
下記(表3)に示すように、実施例1で得たN−テトラデシル−N’−(3−ポリエチレングリコキシプロピル)−スルファミド(両親媒性スルファミド化合物)を主成分として、この両親媒性スルファミド化合物にその他の成分を混合して衣料用の液体洗浄剤組成物を調製した。この調製は、液体洗浄剤組成物を調製するための慣用の手順に従って行ったので、その詳細は省略する。
【0086】
(比較例3)
(洗浄剤組成物の調製)
下記(表3)に示すように、比較例1で得たN−テトラデシル−N’−ヘキシル−スルファミド(疎水性スルファミド化合物)を主成分として、この疎水性スルファミド化合物にその他の成分を混合して液体洗浄剤組成物を調製した。この調製は、上記実施例2と同様に、液体洗浄剤組成物を調製するための慣用の手順に従って行ったので、その詳細は省略する。
【0087】
(比較例4)
(洗浄剤組成物の調製)
下記(表3)に示すように、比較例2で得たN,N’−ジ(3−オクタエチレングリコキシププロピル)−スルファミド(親水性スルファミド化合物)を主成分として、この親水性スルファミド化合物にその他の成分を混合して液体洗浄剤組成物を調製した。この調製は、上記実施例2と同様に、液体洗浄剤組成物を調製するための慣用の手順に従って行ったので、その詳細は省略する。
【0088】
上記実施例2、比較例3、および比較例4のそれぞれの洗浄剤組成物を構成する「その他の成分」は、各例に共通に同一の組成および組成量(重量部)である。「その他の成分」の具体的化合物名および入手先は、以下の通りである。
ポリエチレングリコール:日本油脂株式会社製、商品名「PEG#1000」
エタノール:試薬1級エタノール(甘糟化学産業株式会社製)
ジエタノールアミン:株式会社日本触媒製
クエン酸3ナトリウム:扶桑化学工業株式会社製
【0089】
(洗浄剤組成物の評価)
上記実施例2、比較例3、および比較例4の各洗浄剤組成物の皮脂汚れ洗浄力を、下記に示す試験方法により、評価した。結果を(表3)に併記した。
【0090】
(洗浄処理方法)
10cm角に裁断した100番手の綿平織り布(新品の未汚染布)に、男性ボランティアの顔面の皮脂汚れを擦りつけて作製した皮脂汚れ布(汚染布)10枚を用意した。この汚染布サンプルに対して、未汚染布サンプルとして、新品の市販のTシャツ(綿100%、B.V.D社製)2kgを用意した。
【0091】
上記汚染布サンプル10枚と未汚染布サンプル(Tシャツ)2kgとを、全自動洗濯機(松下電気産業(株)製、商品名「NA−F802P」)に入れ、浴比20倍に合わせ、20℃の水道水(硬度3°DH)40Lに液体洗浄剤組成物28gを溶かし、洗浄時間10分、脱水1分、その後、溜めすすぎ5分、脱水1分からなる選択操作を1工程行った。
【0092】
(洗浄力の評価方法)
上述の洗濯操作を1工程実施した後、汚染布サンプルと、未汚染布サンプルのそれぞれの反射率(R)を、色差計(日本電色(株)製、商品名「SE200型色差計」)を用いて測定し、各洗浄剤組成物による洗浄率(%)を以下の式を用いて算出した。
【0093】
【数1】

(式中、K/S=(1−R/100)/(2R/100)、ただし、Rは反射率(%)である。)
【0094】
【表3】

【0095】
実施例2の洗浄剤組成物の洗浄率は、従来の洗浄剤組成物のうち優れた洗浄力を有する洗浄剤組成物とほぼ同等の洗浄率である。これに対して、同じスルファミド骨格を有するスルファミド化合物である比較例1、比較例2のスルファミド化合物を主成分として用いた比較例3、比較例4の洗浄剤組成物では、実用的な洗浄率を持ち得ないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
以上のように、本発明に係る新規な両親媒性スルファミド化合物は、両親媒性の制御が容易であり、界面活性剤として広範な応用が期待できる。また、本発明に係る両親媒性スルファミド化合物は、分子集合性機能の延長線にある分子認識機能や生体適合機能、更には刺激応答機能などの高次機能を発現し得るものである。
また、本発明に係る洗浄剤組成物は、本発明の両親媒性スルファミド化合物を界面活性剤成分として有するので、優れた洗浄性を発揮する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
【化1】

(式(I)中、Rは炭素数C〜C17のアルキル基であり、Rは炭素数C〜C10のアルキレン基であり、Rは水素原子またはメチル基であり、nはオキシエチレン鎖の平均付加モル数を表す5〜30の整数である。)
で示される両親媒性スルファミド化合物。
【請求項2】
前記式(I)中のRが炭素数C〜C15のアルキル基であり、Rが炭素数C〜Cのアルキレン基であり、nが8〜30の整数であり、かつ水溶性を有することを特徴とする請求項1に記載の両親媒性スルファミド化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の両親媒性スルファミド化合物を界面活性剤成分として含有する洗浄剤組成物。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−25702(P2012−25702A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166839(P2010−166839)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】