説明

並列インバータ装置

【課題】1台のインバータの電力変換部が故障した場合でも、残りのインバータを継続的に運転可能としてシステム全体の非常停止を回避する。
【解決手段】並列接続されたマスターインバータ2a及びスレーブインバータ2b,2cが、電動機1を駆動する電力変換部4a,4b,4cと制御装置5a,5b,5cとを備える。制御装置5aは、速度制御部12と、電流制御部14と、電圧指令に従って電力変換部4aを制御するためのゲート駆動信号生成部8aと、を備える。制御装置5b,5cは、前記電流制御部14により演算された電圧指令Vurに従って電力変換部4b,4cを制御するためのゲート駆動信号生成部8b,8cを備える。制御装置5aは、何れかのインバータの電力変換部の故障時に、残りの電力変換部の電流容量に応じて、速度制御部12により電流指令Itrを減少させるように再設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに並列に接続された複数台のインバータによって電動機を駆動する並列インバータ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、インバータ装置は電力変換器と、この電力変換器を制御する制御装置とによって構成される。ここで、大容量の交流電動機を駆動するインバータ装置を実現するには、電力変換器を大容量化する必要があり、そのための方法の一つとして、複数台の電力変換器を並列に接続して並列インバータ装置を構成する方法が知られている。
【0003】
図4は、並列インバータ装置の従来技術としてのエレベータ制御装置であり、特許文献1に記載されている。このエレベータ制御装置は、複数台(例えば2台)の電力変換器のうち1台が故障した場合、残りの電力変換器を用いて電動機を駆動するものである。
【0004】
図4において、101は交流電源、102,105は交流リアクトル、103a,103bは互いに並列に接続された電力変換器、106は電流検出器、107は交流電動機、108はレゾルバ、109はメインシープ、110はメインロープ、111はそらせシープ、112はエレベータかご、113は荷重検出器、114は釣り合い錘である。
電力変換器103a,103bの内部構成は同一であり、116a,116bは充電抵抗、117a,117b,118a,118b,125a,125bは主回路コンタクタ、119a,119b,126a,126bは電流検出器、120a,120bはコンバータ部、121a,121bは平滑コンデンサ、122a,122bは電圧検出器、123a,123bはインバータ部、124a,124bはコンバータ制御回路である。
【0005】
コンバータ制御回路124a,124bの出力、及び、電流検出器126a,126bの出力は異常検出部150に入力されており、その出力はインバータ制御回路115に加えられている。
インバータ制御回路115において、127は速度基準発生回路、128は速度制御演算回路、129は荷重信号加算回路、130はベクトル制御回路、131は電流制御演算回路、132は正弦波PWM制御回路である。この正弦波PWM制御回路132から出力される駆動信号(PWMパルス)によりインバータ部123a,123bの半導体スイッチング素子がオン・オフ制御されるようになっている。
【0006】
図4において、通常時は、2台の電力変換器103a,103bにより電動機107に交流電力が供給され、電動機107の回転によってエレベータが駆動される。
しかし、例えば電力変換器103b内の電流検出器119bや126bによって過電流が検出されると、異常検出部150が動作して速度基準発生回路127に異常検出信号を送出する。これと同時に、異常検出部150がコンタクタ117b,118b,125bをオフし、異常が発生した電力変換器103bを主回路から切り離す。また、速度基準発生回路127では、通常運転時の速度パターンを非常運転時の速度パターンに切り替えて出力することにより、正常な電力変換器103a内のインバータ部123aを非常運転時の速度パターンに従って制御している。
【0007】
すなわち、この従来技術によれば、故障した電力変換器を切り離すと共に、正常な電力変換器を非常運転時の速度パターンに従って駆動することができる。これにより、1台の電力変換器が故障した場合にエレベータを緊急停止させる等の方法を採るのではなく、正常な電力変換器により電動機を駆動してエレベータを最寄りの階まで移動させ、乗客を救出する等の運転が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−365770号公報(段落[0008]〜[0013]、[0018]〜[0023]、図1等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図4の従来技術では、1台の電力変換器の故障時に、非常運転時の速度パターンに従って他の電力変換器を運転することになる。しかし、3台以上の電力変換器を並列に接続して並列インバータ装置を構成した場合、電力変換器が故障する状況も様々であるため、これらの状況を想定して多数の速度パターンをインバータ制御回路115に予め記憶させておく必要がある。このため、インバータ制御回路115の構成が複雑化する、大容量のメモリが必要になる、コスト高になる、等の問題があった。
【0010】
また、図4の従来技術では、単一のインバータ制御回路115により複数台の電力変換器を制御している。このため、仮にインバータ制御回路115が故障した場合、正常に動作可能な電力変換器があったとしても、システム全体の非常停止を回避することができない。更に、電力変換器の近くにインバータ制御回路115が配置されている場合には、両者の間の電気的絶縁が確保されていても、電力変換器内部の短絡故障に起因する過電流や半導体スイッチング素子の破壊に伴ってインバータ制御回路115が故障するおそれもある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、インバータの制御装置内に多数の速度パターンを予め記憶させる必要がなく、制御装置の構成を簡略化すると共に、コストの低減を可能にした並列インバータ装置を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、複数台のインバータが個々に制御装置を備えることで、仮に1台のインバータが故障した場合でも他のインバータを継続的に運転してシステム全体の非常停止を回避するようにした並列インバータ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、第1の発明は、互いに並列に接続された複数台のインバータを1台のマスターインバータとその他のスレーブインバータとに分けると共に、これらすべてのインバータに、電動機に交流電力を供給する電力変換部と、その半導体スイッチング素子を制御するための制御装置と、をそれぞれ設ける。この場合、マスターインバータの制御装置とスレーブインバータの制御装置とでは、以下に述べるように構成が異なっている。
すなわち、マスターインバータの制御装置は、電動機の速度指令と電動機速度との偏差から電流指令を演算する速度制御手段と、電流指令と電動機電流との偏差から電圧指令を演算する電流制御手段と、電圧指令に従って自己の電力変換部を制御するための駆動信号生成手段と、を備えている。
一方、スレーブインバータの制御装置は、マスターインバータ内の電流制御手段により演算された電圧指令に従って自己の電力変換部を制御するための駆動信号生成手段を備えている。
そして、マスターインバータの制御装置は、マスターインバータ及びスレーブインバータを含む何れかのインバータの電力変換部が故障した場合に、残りのインバータの電力変換部の電流容量に応じて、速度制御手段により電流指令を再設定する。この再設定の具体的内容としては、例えば、電流指令に制限値を設定することにより電流指令を減少させるものである。
また、マスターインバータの制御装置は、上述した電流指令の再設定に加えて、何れかのインバータの電力変換部が故障した場合に、残りのインバータの電力変換部の電流容量に応じて、速度指令における加減速時間を再設定しても良い。
更に、各インバータの制御装置は、すべてのインバータの出力電流の平均値と自己のインバータの出力電流との偏差に応じて電圧指令を補正する手段を備えることが望ましい。
【0013】
また、第2の発明では、複数台のインバータのうち任意の1台をマスターインバータ、その他をスレーブインバータとして選定される。つまり、第2の発明は、複数台のインバータのうち何れのインバータも、マスターインバータ及びスレーブインバータとなり得るように構成される。この場合、すべてのインバータは、電動機に交流電力を供給する電力変換部と、その半導体スイッチング素子を制御するための制御装置と、をそれぞれ備える。
そして、すべての制御装置は、電動機の速度指令と電動機速度との偏差から電流指令を演算する速度制御手段と、電流指令と電動機電流との偏差から電圧指令を演算する電流制御手段と、マスターインバータの電流制御手段により演算された前記電圧指令に従って自己の電力変換部を制御するための駆動信号生成手段と、を備える。
また、マスターインバータの制御装置は、マスターインバータを含む何れかのインバータの電力変換部が故障した場合に、残りのインバータの電力変換部の電流容量に応じて、マスターインバータの速度制御手段により電流指令を再設定するように構成される。この再設定の具体的内容は、第1の発明と同様に、電流指令に制限値を設定して電流指令を減少させるものである。
また、マスターインバータの制御装置は、マスターインバータを含む何れかのインバータの電力変換部が故障した場合に、残りのインバータの電力変換部の電流容量に応じて、速度指令における加減速時間を再設定しても良い。
更に、マスターインバータの制御装置における各種の設定値を、適宜な通信手段を介してスレーブインバータの制御装置に送信し、この制御装置に設定しても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、並列に接続された多数のインバータのうち1台が故障した場合に、電動機の電流指令や速度指令の加減速時間を再設定した上で正常なインバータに対する電圧指令を生成することにより、制御装置の負担やメモリの記憶容量が低減され、制御装置の構成の簡略化、コストの低減が可能になる。
また、各インバータが制御装置をそれぞれ備えるようにすれば、仮に1台のインバータが故障した場合でも他のインバータを継続的に運転してシステム全体の非常停止を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態を示すブロック図である。
【図2】図1における速度制御部の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第2実施形態を示すブロック図である。
【図4】従来技術を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は、第1の発明に相当する第1実施形態を示すブロック図である。この第1実施形態は、マスターインバータとしてのインバータ2aとスレーブインバータとしてのインバータ2b,2cを全て並列に接続して交流電動機を駆動する場合のものである。
ここで、インバータ2a,2b,2cは通常、何れも三相インバータとして構成されており、後述する電力変換部4a,4b,4cも三相構成となっているが、説明を簡単にするため、図1では、一相(例えばU相)分の電力変換部4a,4b,4cを示してある。
【0017】
図1において、1はインバータ2a,2b,2cによって駆動される交流電動機であり、3a,3b,3cはインバータ2a,2b,2cと電動機1との間に接続された開閉器である。電動機1には、回転子の回転角情報を得るパルスエンコーダ等の回転位置検出部10が取り付けられている。
【0018】
インバータ2a,2b,2cは、電力変換部4a,4b,4c及び制御装置5a,5b,5cによってそれぞれ構成されている。ここで、電力変換部4a,4b,4cは、IGBT等の半導体スイッチング素子によって構成された直流−交流変換用の主回路7a,7b,7cと、上記スイッチング素子をオン・オフ制御するゲート駆動回路6a,6b,6cと、によってそれぞれ構成される。
制御装置5aは、インバータ2aをマスターインバータとして動作させるためのものであり、制御装置5b,5cは、インバータ2b,2cを何れもスレーブインバータとして動作させるためのものである。これらの制御装置5a,5b,5cは、マイコンや電子回路によって構成されている。
【0019】
マスターインバータであるインバータ2a内の制御装置5aは、速度指令生成部9、回転速度検出部11、速度制御部12、電流検出部13、電流制御部14、電圧指令補償部15a、及び、ゲート駆動信号生成部8aを備えている。
ここで、速度指令生成部9は、電動機1の速度パターン(加減速パターン)からなる速度指令ωを生成する。回転速度検出部11は、回転位置検出部10により得た回転角情報から電動機速度ωを演算する。速度制御部12は、電動機速度ωが速度指令ωに一致するように、電動機1に対する電流指令(電動機1の発生トルクに相当するトルク電流指令)Itrを生成する。電流検出部13は、電流検出器16a,16b,16cによりそれぞれ検出したインバータ2a,2b,2cの出力電流(電力変換部4a,4b,4cの出力電流)Iu1,Iu2,Iu3からその平均値Iuaを演算すると共に、平均値Iuaを座標変換してU相分の電動機電流(トルク電流)Iを演算する。電流制御部14は、電動機電流Iが電流指令Itrに一致するように、各電力変換部4a,4b,4cに対する電圧指令Vurを生成する。
電圧指令補償部15aは、出力電流平均値Iua及び自己の出力電流Iu1に基づいて電圧指令Vurを補正し、電圧指令Vur1を出力する。ゲート駆動信号生成部8aは、補正後の電圧指令Vur1に基づいてゲート駆動信号を生成し、このゲート駆動信号は、電力変換部4a内のゲート駆動回路6aに与えられる。
【0020】
一方、スレーブインバータであるインバータ2b内の制御装置5bは、出力電流平均値Iua及び自己の出力電流Iu2に基づいて電圧指令Vurを補正し、電圧指令Vur2を出力する電圧指令補償部15bと、補正後の電圧指令Vur2に基づいてゲート駆動信号を生成するゲート駆動信号生成部8bと、を備えている。
同様に、スレーブインバータであるインバータ2c内の制御装置5cは、出力電流平均値Iua及び自己の出力電流Iu3に基づいて電圧指令Vurを補正し、電圧指令Vur3を出力する電圧指令補償部15cと、補正後の電圧指令Vur3に基づいてゲート駆動信号を生成するゲート駆動信号生成部8cと、を備えている。
【0021】
次に、図2は、制御装置5a内の速度制御部12の構成を示している。
図2に示すように、速度制御部12は、速度指令ωと電動機速度ωとの偏差を求める比較器12Aと、上記偏差を入力として比例・積分演算し、電流指令Itrを出力するPI調節器12Bと、入力値が所定範囲を超えた場合に出力値としての電流指令(トルク電流指令)Itrを最大値または最小値に制限する制限器12Cと、から構成されている。
【0022】
次に、この第1実施形態の動作を、図1,図2を参照しつつ説明する。
まず、電動機1の定格電流やインバータの定格容量等に応じて、並列に接続されるインバータの台数が決定され、通常運転時には、すべてのインバータ2a,2b,2cの出力電流Iu1,Iu2,Iu3の合計値が電動機1に供給される。このとき、開閉器3a,3b,3cはすべてオンされている。
【0023】
マスターインバータ(インバータ2a)の制御装置5aにおいて、速度指令生成部9は、電動機1が停止状態から加速して目的の速度まで到達し、所定の条件により減速停止するまでの速度パターンからなる速度指令ωを生成する。速度制御部12は、速度指令ωと電動機速度ωとの偏差に基づいて電流指令Itrを演算する。電流制御部14は、電流検出部13から出力される電動機電流Iが電流指令Itrに一致するように、すべてのインバータ2a,2b,2cの電力変換部4a,4b,4cに対する電圧指令Vurを生成する。
【0024】
制御装置5aにおいて、電圧指令補償部15aは、出力電流Iu1が平均値Iuaに一致するように電圧指令Vurを補正し、補正後の電圧指令Vur1をゲート駆動信号生成部8aに送出する。ゲート駆動信号生成部8aによって生成されるゲート駆動信号は電力変換部4aに与えられ、電力変換部4aからは所定の電流Iu1が出力される。
スレーブインバータ(インバータ2b,2c)側の制御装置5b,5cにおいては、マスターインバータ(インバータ2a)内の電流制御部14からの電圧指令Vurが電圧指令補償部15a,15cにより補正され、電圧指令Vur2,Vur3としてゲート駆動信号生成部8b,8cに送出される。ゲート駆動信号生成部8b,8cによって生成されるゲート駆動信号は電力変換部4b,4cに与えられ、電力変換部4b,4cからはそれぞれ所定の電流Iu2,Iu3が出力される。
よって、電動機1には、電流Iu1,Iu2,Iu3の合計値が供給されることになる。
【0025】
いま、電力変換部4a,4b,4cのうちの1台、例えばインバータ2aの電力変換部4aに故障が発生したとすると、この故障は、適宜な手段により、例えば電流検出部13によって電力変換部4aの出力電流Iu1の変化として検出される。
そこで、インバータ2aでは、上記の故障検出出力を用いて開閉器3aをオフすることにより、故障した電力変換部4aと電動機1との接続を切り離す。その際、インバータ2b,2cの電力変換部4b,4cの運転を継続するために、開閉器3b,3cはオン状態のままにしておく。
【0026】
このとき、電流指令Itrが電力変換部4aの故障前の値を維持していると、この電流指令Itrに対して実際の電動機電流Iが不足するので、電圧指令Vurが過大になるおそれがある。
従って、図2に示した速度制御部12では、制限器12Cの制限値をスレーブインバータ側の電力変換部4b,4cの電流容量(定格電流)に応じて減少させ、結果的に電流指令Itrが大きくなり過ぎないように再設定する。そして、電流制御部14は、制限値を低減させた電流指令Itrに電動機電流Iが一致するように、電圧指令Vurを演算して出力する。
【0027】
ここで、インバータ2b,2c内の電圧指令補償部15b,15cの動作は、電流検出部13が演算した出力電流平均値Iuaに各々の出力電流Iu2,Iu3が一致するように、電圧指令Vurを補正して新たな電圧指令Vur2,Vur3をそれぞれ演算する。なお、電圧指令Vurの具体的な補正動作は、例えば、出力電流平均値Iuaと出力電流Iu2,Iu3とのそれぞれの偏差に所定のゲインを乗じた値を元の電圧指令Vurに加算する、等の動作である。
補正後の電圧指令Vur2,Vur3はゲート駆動信号生成部8b,8cにそれぞれ与えられ、電力変換部4b,4cに対するゲート駆動信号が生成されることになる。
【0028】
上述した動作により、あるインバータ内の電力変換部の故障に起因して、並列インバータ装置を構成するインバータの台数が少なくなった場合(いわゆる減機運転時)に、電動機1への通流電流を制限しながら電動機1の運転を継続することができる。
なお、この第1実施形態において、例えばマスターインバータ内の電力変換部4aが故障した場合に、前述した電流指令Itrの制限動作に加えて、速度指令生成部9により生成される速度指令ω(速度パターン)における加減速時間をスレーブインバータ内の電力変換部4b,4cの電流容量に応じて再設定しても良い。
【0029】
第1実施形態では、マスターインバータ内の電力変換部4aが故障した場合を例示したが、スレーブインバータ内の電力変換部4bまたは4cが故障した場合には、故障した電力変換部に対応する開閉器3bまたは3cのみをオフする点を除けば、基本的な動作は同様である。
また、並列に接続されるインバータの台数は、4台以上でも良いのは勿論であり、その場合も、何れか1台のインバータをマスターインバータとして、前記制御装置5aに相当する制御装置を備えることになる。
【0030】
次に、第2の発明に相当する本発明の第2実施形態を説明する。
図3は、第2実施形態を示すブロック図であり、この第2実施形態も、開閉器3a,3b,3cを介して互いに並列に接続された3台のインバータ22a,22b,22cにより、交流電動機1を駆動するように構成されている。但し、この第2実施形態では、インバータ22a,22b,22cのうち任意の1台がマスターインバータとなり得るものであり、その場合、他の2台がスレーブインバータとなる。
図3において、図1と同じ構成要素には図1と同一の参照符号を付して説明を省略し、以下では、図1との相違点を中心に説明する。
【0031】
図3において、回転位置検出部10の出力信号は、切替スイッチ18を介してインバータ22a,22b,22c内の制御装置25a,25b,25cに入力されている。
インバータ22a,22b,22c内の電力変換部4a,4b,4cは図1と同一の構成であり、これらの電力変換部4a,4b,4cは、図1と同様に一相(例えばU相)分を示してある。
【0032】
次いで、制御装置25a,25b,25cの構成及び動作を説明する。制御装置25a,25b,25cの構成はすべて同一であるため、ここでは、インバータ22a内の制御装置25aについて説明し、他の制御装置25b,25cでは、制御装置25aの構成要素と同じものの参照符号に符号「b」,「c」をそれぞれ付して説明を省略する。
制御装置25a,25b,25cは、マイコンや電子回路によって構成されており、各制御装置25a,25b,25cには、これらの相互間で各種設定値等の情報を送受信するための通信部19a,19b,19cがそれぞれ設けられている。
【0033】
いま、開閉器3a,3b,3cをすべてオンし、3台のインバータ22a,22b,22cによって電動機1を駆動している状態において、インバータ22aがマスターインバータに選定され、他のインバータ22b,22cはスレーブインバータに選定されているものとする。
このとき、回転位置検出部10の出力信号は、インバータ22a側に接続された切替スイッチ18を介して、制御装置25a内の回転速度検出部11aに入力されている。また、電動機1の制御に必要な各種の設定値は、外部からマスターインバータ内の通信部19aを介して制御装置25aに送信され、この制御装置25aから、通信部19a,19b,19cを介してスレーブインバータ内の制御装置25b,25cにそれぞれ伝送される。
【0034】
速度指令生成部9aから出力された速度指令ωは、回転速度検出部11aから出力された電動機速度ωと共に速度制御部12aに入力され、この速度制御部12aにより電流指令Itrが生成される。ここで、速度制御部12a(及び12b,12c)は、第1実施形態における図2と同様に、比較器12A、PI調節器12B及び制限器12Cによって構成されている。
一方、電流検出部13aにより、出力電流Iu1,Iu2,Iu3に基づいて電動機電流Iが検出され、この電動機電流Iは、電流指令Itrと共に電流制御部14aに入力される。
【0035】
電流制御部14aは、電動機電流Iが電流指令Itrに一致するように電圧指令Vurを演算し、この電圧指令Vurを、オン状態のスイッチ17aを介して各インバータ22a,22b,22cのゲート駆動信号生成部8a,8b,8cに送出する。なお、スイッチ17a,17b,17cのうち、マスターインバータ内のスイッチ17aのみがオンされ、スレーブインバータ内のスイッチ17b,17cはオフされている。
上記の動作により、マスターインバータ内の電流制御部14aにより生成された電圧指令Vurに基づき、ゲート駆動信号生成部8a,8b,8cがゲート駆動信号をそれぞれ生成し、これらのゲート駆動信号に従って電力変換部4a,4b,4cの半導体スイッチング素子がオン・オフ制御される。
【0036】
いま、仮にマスターインバータ内の電力変換部4aが故障したとすると、その故障検出出力を用いて適宜な方法により開閉器3aをオフし、インバータ22aと電動機1との接続を切り離す。同時に、残りのインバータ22b,22cのうちの何れか、例えばインバータ22bをマスターインバータに選定して制御装置25b内のスイッチ17bを閉じると共に、切替スイッチ18をインバータ22b側に切り替える。このとき、残ったスレーブインバータであるインバータ22cの制御装置25c内のスイッチ17cは、引き続きオフ状態に保たれている。このように、1台のインバータが故障したときに残りのインバータのうちのどれをマスターインバータとするかは、予め決定しておくものとする。
【0037】
新たにマスターインバータとなったインバータ22b内の制御装置25bでは、回転速度検出部11bにより演算した電動機速度ωが速度指令ωに一致するように速度制御部12bが動作して電流指令Itrを生成し、電動機電流Iが電流指令Itrに一致するように電流制御部14bが動作して電圧指令Vurを生成する。そして、この電圧指令Vurを、スイッチ17bを介してゲート駆動信号生成部8b,8cにそれぞれ送出する。
【0038】
インバータ22a内の電力変換部4aが故障した後に、電流指令Itrが電力変換部4aの故障前の値を維持していると、第1実施形態と同様に電流指令Itrに対して実際の電動機電流Iが不足するので、電圧指令Vurが過大になるおそれがある。
従って、図3の速度制御部12bでは、図2における制限器12Cの制限値を電力変換部4b,4cの電流容量(定格電流)に応じて低減させ、結果的に電流指令Itrが大きくなり過ぎないように制限する。そして、電流制御部14bは、制限値を低減させた電流指令Itrに電動機電流Iが一致するように、電圧指令Vurを演算して出力する。
これにより、以後は、マスターインバータとなったインバータ22b内の電流制御部14bからの電圧指令Vurに基づき、ゲート駆動信号生成部8b,8cがゲート駆動信号を生成し、これらのゲート駆動信号に従って電力変換部4b,4cが駆動されることになる。
【0039】
よって、この第2実施形態においても、あるインバータの電力変換部の故障に起因して並列に接続されるインバータの台数が少なくなった場合に、電動機1の通流電流を制限しながらその運転を継続することができる。また、例えば電力変換部4aが故障した場合に、前述した電流指令Itrの制限動作に加えて、新たなマスターインバータ内の速度指令生成部9bにより生成される速度指令ωにおける加減速時間を電力変換部4b,4cの電流容量に応じて再設定してもよい。
【0040】
ここでは、インバータ22a内の電力変換部4aが故障した場合を例示したが、他のインバータ22b,22c内の電力変換部4bまたは4cが故障した場合も基本的な動作は同様である。更に、並列接続されるインバータの台数は、4台以上でも良いのは勿論である。
また、通信部19a,19b,19cでは、上記した設定値等の送受信以外にも、例えば、電圧指令や検出電流等の情報の送受信を行うことが可能である。
【0041】
前述した第1実施形態では、マスターインバータ(インバータ2a)内の制御装置5aにおける電圧指令Vurを演算するための構成要素が故障した場合、他のインバータ2b,2cの運転は不可能になる。しかし、第2実施形態によれば、仮にマスターインバータとして動作しているインバータ22a内の制御装置25aが故障したとしても、他のインバータ22b,22c内の制御装置25b,25cが正常である限り、これらのインバータ22b,22cの動作によって電動機1を継続的に運転することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係る並列インバータ装置は、大容量の交流電動機を動力源とする各種の搬送設備、荷役設備等に利用可能である。
【符号の説明】
【0043】
1:交流電動機
2a,2b,2c,22a,22b,22c:インバータ
3a,3b,3c:開閉器
4a,4b,4c:電力変換部
5a,5b,5c,25a,25b,25c:制御装置
6a,6b,6c:ゲート駆動回路
7a,7b,7c:主回路
8a,8b,8c:ゲート駆動信号生成部
9,9a,9b,9c:速度指令生成部
10:回転位置検出部
11,11a,11b,11c:回転速度検出部
12,12a,12b,12c:速度制御部
12A:比較器
12B:PI調節器
12C:制限器
13,13a,13b,13c:電流検出部
14,14a,14b,14c:電流制御部
15a,15b,15c:電圧指令補償部
16a,16b,16c:電流検出器
17a,17b,17c:スイッチ
18:切替スイッチ
19a,19b,19c:通信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに並列に接続された複数台のインバータにより電動機を駆動する並列インバータ装置において、
複数台のインバータを、1台のマスターインバータと、その他のスレーブインバータとにより構成し、すべてのインバータは、前記電動機に交流電力を供給する電力変換部と、前記電力変換部の半導体スイッチング素子を制御する制御装置と、をそれぞれ備え、
前記マスターインバータの制御装置は、
前記電動機の速度指令と電動機速度との偏差から電流指令を演算する速度制御手段と、
前記電流指令と電動機電流との偏差から電圧指令を演算する電流制御手段と、
前記電圧指令に従って自己の電力変換部の半導体スイッチング素子を制御するための駆動信号生成手段と、を備え、
前記スレーブインバータの制御装置は、
前記電流制御手段により演算された前記電圧指令に従って自己の電力変換部の半導体スイッチング素子を制御するための駆動信号生成手段を備え、
前記マスターインバータの制御装置は、
何れかのインバータの前記電力変換部が故障した場合に、残りのインバータの前記電力変換部の電流容量に応じて、前記速度制御手段により前記電流指令を再設定することを特徴とする並列インバータ装置。
【請求項2】
請求項1に記載した並列インバータ装置において、
前記マスターインバータの制御装置は、
何れかのインバータの前記電力変換部が故障した場合に、残りのインバータの前記電力変換部の電流容量に応じて、前記速度制御手段により前記電流指令を減少させることを特徴とする並列インバータ装置。
【請求項3】
請求項2に記載した並列インバータ装置において、
前記速度制御手段は、前記速度指令と電動機速度との偏差が入力される調節器と、前記調節器から出力される前記電流指令を所定値に制限する制限器と、を備えたことを特徴とする並列インバータ装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載した並列インバータ装置において、
前記マスターインバータの制御装置は、
何れかのインバータの前記電力変換部が故障した場合に、残りのインバータの前記電力変換部の電流容量に応じて、前記速度指令における加減速時間を再設定することを特徴とする並列インバータ装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載した並列インバータ装置において、
各インバータの前記制御装置は、すべてのインバータの出力電流の平均値と自己のインバータの出力電流との偏差に応じて前記電圧指令を補正する手段を備えたことを特徴とする並列インバータ装置。
【請求項6】
互いに並列に接続された複数台のインバータにより電動機を駆動する並列インバータ装置において、
複数台のインバータのうち任意の1台をマスターインバータ、その他をスレーブインバータとして選定すると共に、すべてのインバータは、前記電動機に交流電力を供給する電力変換部と、前記電力変換部の半導体スイッチング素子を制御する制御装置と、をそれぞれ備え、
前記制御装置は、
前記電動機の速度指令と電動機速度との偏差から電流指令を演算する速度制御手段と、
前記電流指令と電動機電流との偏差から電圧指令を演算する電流制御手段と、
前記マスターインバータの前記電流制御手段により演算された前記電圧指令に従って自己の電力変換部の半導体スイッチング素子を制御するための駆動信号生成手段と、を備え、
前記マスターインバータの制御装置は、
何れかのインバータの前記電力変換部が故障した場合に、残りのインバータの前記電力変換部の電流容量に応じて、前記マスターインバータの前記速度制御手段により前記電流指令を再設定することを特徴とする並列インバータ装置。
【請求項7】
請求項6に記載した並列インバータ装置において、
前記マスターインバータの制御装置は、
何れかのインバータの前記電力変換部が故障した場合に、残りのインバータの前記電力変換部の電流容量に応じて、前記マスターインバータの前記速度制御手段により前記電流指令を減少させることを特徴とする並列インバータ装置。
【請求項8】
請求項7に記載した並列インバータ装置において、
前記速度制御手段は、前記速度指令と電動機速度との偏差が入力される調節器と、前記調節器から出力される前記電流指令を所定値に制限する制限器と、を備えたことを特徴とする並列インバータ装置。
【請求項9】
請求項6〜8の何れか1項に記載した並列インバータ装置において、
前記マスターインバータの制御装置は、
何れかのインバータの前記電力変換部が故障した場合に、残りのインバータの前記電力変換部の電流容量に応じて、前記速度指令における加減速時間を再設定することを特徴とする並列インバータ装置。
【請求項10】
請求項6〜9の何れか1項に記載した並列インバータ装置において、
前記マスターインバータの制御装置の設定値を、通信手段を介して前記スレーブインバータの制御装置に送信し、設定することを特徴とする並列インバータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−38864(P2013−38864A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171477(P2011−171477)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】