説明

中性化合物およびその使用

【課題】有機溶剤中で可溶であり、有機的に結合されたハロゲンを含有しない中性のポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)またはその誘導体を、経済的かつ簡単な方法によって製造する。
【解決手段】一般式(I)を、一般式(II)のモノマーと、酸化剤とを反応させることによって製造し、その際、反応は、有機溶剤中でおこなわれ、酸化剤は、化学量論的要求量の50〜99.9%の量で使用することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3,4−アルキレンジオキシチオフェン、特に3,4−エチレンジオキシチオフェン(さらには2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン)に基づく中性ポリチオフェン、有機溶剤中で可溶な中性ポリチオフェンの製造、およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
π−共役ポリマーから成る化合物の群は、最近10年ほどにおいて種々の刊行物の対象となっている。またこれらは導電性高分子材料または合成金属として引用されている。
【0003】
主鎖に沿ってのπ−電子の著しい非局在化によって、これらのポリマーは重要な(非直鎖の)光学的性質を有しており、かつ酸化または還元後の良好な電気導体である。したがって、これらの化合物は、種々の適用、たとえばデータ記憶、光学信号処理、電磁障害(EMI)の抑制および太陽エネルギーの変換および充電式バッテリ、発光ダイオード、電界効果トランジスタ、回路基板、センサー、キャパシタおよび帯電防止材料中で使用することができる。
【0004】
公知のπ−共役ポリマーの例は、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレンおよびポリ(p−フェニレン−ビニレン)である。
【0005】
特に重要でありかつ工業的に使用されるポリチオフェンは、ポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)であり、この場合、これは、極めて高い導電性をそのドープされた形において有しており、これは、たとえば、EP339340A2に記載されている。ドープされたポリ(エチレン−3,4−ジオキシ−チオフェン)の製造は、EP339340A2によれば、3,4−エチレンジオキシチオフェンの酸化重合によっておこなわれる。生成物の加工性は、たとえば、水性分散液中で、対イオンとしてのポリ(スチレンスルホネート)の使用によって達成される。
【0006】
比較例において、同様に高い導電性を有するが非加工性の生成物は、たとえば、被覆の形において、電気重合(electropolymerization)によって得られる(たとえば、"Q.Pei,G.Zuccarello,M.Ahlskog and O.Inganaes,Polymer 35(1994),第1347頁〜第1351頁")。
【0007】
"T.Yamamoto & M.Abla,Synth.Met.100(1999)、第237頁〜第239頁"によれば、EP339340A2によって製造されたかまたは同様の方法で酸化重合によって製造された、ドープされたポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)のドーピングを完全に取り除き、これによって中性つまりはドープされていないポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)を製造することは不可能である。Yamamotoによるドーピングは、酸化およびそれによって生じる正の電荷のポリ(エチレン−3,4−ジオキシ−チオフェン)を生じることを意味している。
【0008】
"S.Garreau,G.Louarn,J.P.Buisson,G.Froyer,S.Ledrant,Macromolecules 32,(1999)第6807頁〜第6812頁"によれば、まさに、電気化学的に製造されたドープされたポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)を、電気化学的方法によって脱ドープ化することは全く不可能である。
【0009】
したがって、中性ポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)は、現在のところ、通常は、いわゆる還元的有機金属合成によって、2,5−ジハロゲノ−エチレン−3,4−ジオキシチオフェンから製造されている。"Synth.Met.100(1999)、第237頁〜第239頁"および"Polymer 43(2002)、第711頁〜第719頁"は、中性の、ドープされていないポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)を、2,5−ジクロロ−エチレン−3,4−ジオキシチオフェンの脱ハロゲン化重縮合によって、ビス(1,5−シクロオクタジエン)−ニッケル(0)の存在下で製造する方法を開示している。しかしながら、不溶性のポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)のみがこの方法によって得られる。
【0010】
"J.Mater.Chem.11(2001)第1378頁〜第1382頁"では、その場で(in situ)製造されたNi(0)の存在下で、2,5−ジブロモ−エチレン−3,4−ジオキシチオフェンの重縮合によってドープされていない、可溶性の中性ポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)の製造方法が記載されている。しかしながら、製造の結果、この方法で合成された材料は、有機的に結合した臭素を含有していた。HBrまたはブロミドの放出の危険性から、ポリマー上のこのような化学的に不活性化されていない(noninert)末端基は、電子工業における適用には好ましくなく、さらに、この生成物は、ジメチルアセトアミド中でのみ部分的に可溶であった。
【0011】
さらに、"Synth.Met.100(1999)、第237頁〜第239頁"、"J.Master.Chem.11(2001)、第1378頁〜第1382頁"および"Synth.Met.119(2001)、第381頁〜第382頁"において記載された方法は、2,5−ジハロゲノエチレン−3,4−ジオキシチオフェンを介しての付加的な合成工程、および高価で敏感なオルガノ金属試薬の使用によって、簡単な酸化重合方法と比較して経済的ではない。
【0012】
酸化重合によって、有機溶剤中で可溶な、ドープされていない、中性ポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)誘導体を得るための可能性の一つは、エチレン単位の、炭素原子10個またはそれ以上を含有するアルキルまたはアルコキシメチル基での置換である。相当する置換されたポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)は、"Adv.Mater.12(2000)第481頁〜第494頁"、"Polym.Mater.Sci.Eng.72,(1995)第319頁以降"、"Macromolecules30、(1997)第2582頁以降""Macromolecules29、(1996)第7629頁以降"、"Chem.Mater.10(1998)第896頁以降"、"Synth.Met.102(1999)第967頁以降"、"J.Chim.Phys.95、(1998)第1258頁以降"、"Synth.Met.101,(1999)第7頁〜第8頁"および"Chem.Mater.8.(1996)第769頁〜第776頁"に記載されている。挙げられたすべての論文に共通であるのは、有機溶剤中で可溶な、中性でありしたがってドープされていないポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)誘導体が、少なくとも10個の炭素原子を有する3,4−エチレンジオキシチオフェンのエチレン単位が置換された場合にのみ得られることである。
【0013】
"Polymer 42(2001)、第7229頁〜第7232頁"では、ドープされていない中性の2−n−ヘキシル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン単位が記載されている。しかしながら、製造は、Ni(0)の存在下で、2,5−ジクロロチオフェン誘導体の重縮合によって、"Synth.Met.100(1999)第237頁〜第239頁"中で記載された複雑な合成を介しておこなわれ、その一方で、酸化的合成は、製造方法として不適切であると示された。
【0014】
EP686662A2では、中性ポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)が挙げられている。重合は、EP339340A2およびEP440957A2にしたがって実施される。しかしながら、ドープされた、中性ではないポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)がこの方法で製造されている。また、EP686662A2によって製造されたポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)の性質と、間違いなくドープされていない"Synth.Met.100(1999)第237頁〜第239頁"または"J.Mater.Chem.11,(2001)第1378頁〜第1382頁"にしたがって製造された、中性のポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)の性質との比較は、EP686662A2が、中性のポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)を記載していないことを示している。
【0015】
今日まで、酸化的方法によってエチレン単位上でC〜C−アルキル置換基を有する、中性でありしたがってドープされていないポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)またはその誘導体を製造するための方法は知られていなかった。
【0016】
さらに有機溶剤中で可溶の、完全にハロゲン不含のポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)の製造は、今日までまったく不可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】EP339340A2
【特許文献2】EP686662A2
【特許文献3】EP440957A2
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Q.Pei,G.Zuccarello,M.Ahlskog and O.Inganaes,Polymer 35(1994),第1347頁〜第1351頁
【非特許文献2】T.Yamamoto & M.Abla,Synth.Met.100(1999)、第237頁〜第239頁
【非特許文献3】S.Garreau,G.Louarn,J.P.Buisson,G.Froyer,S.Ledrant,Macromolecules 32,(1999)第6807頁〜第6812頁
【非特許文献4】Synth.Met.100(1999)、第237頁〜第239頁
【非特許文献5】Polymer 43(2002)、第711頁〜第719頁
【非特許文献6】J.Mater.Chem.11(2001)第1378頁〜第1382頁
【非特許文献7】Synth.Met.119(2001)、第381頁〜第382頁
【非特許文献8】Adv.Mater.12(2000)第481頁〜第494頁
【非特許文献9】Polym.Mater.Sci.Eng.72,(1995)第319頁以降
【非特許文献10】Macromolecules30、(1997)第2582頁以降
【非特許文献11】Macromolecules29、(1996)第7629頁以降
【非特許文献12】Chem.Mater.10(1998)第896頁以降
【非特許文献13】Synth.Met.102(1999)第967頁以降
【非特許文献14】J.Chim.Phys.95、(1998)第1258頁以降
【非特許文献15】Synth.Met.101,(1999)第7頁〜第8頁
【非特許文献16】Chem.Mater.8.(1996)第769頁〜第776頁
【非特許文献17】Polymer42(2001)、第7229頁〜第7232頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、有機溶剤中で可溶であり、有機的に結合されたハロゲンを含有しない中性のポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)または短鎖によって置換されたポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)誘導体、および今日まで知られていなかった中性の形および有機溶剤中に溶解された形を経済的かつ簡単な方法によって製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の目的は、以下の手段によって達成される。
【0021】
本発明は、一般式(I)
【化1】

[式中、RおよびRは互いに独立して、それぞれHまたはC〜C−アルキルを示し、RがHを示す場合には、RはCH−O−Rであってもよく、その際、RはHまたはC〜C−アルキル、シクロアルキルまたはアルアルキルであり、かつ、
nは、2〜200の整数を示す]を、一般式(II)
【化2】

[式中、RおよびRは、前記の意味を有する]のモノマーと、酸化剤とを反応させることによって製造するための方法に関し、その際、反応は、有機溶剤中でおこなわれ、酸化剤を、化学量論的要求量の50〜99.9%の量で使用する。
【0022】
さらに、本発明による中性化合物は、いわゆる中性の、ドープされていない化合物である。
【0023】
およびRは、互いに独立して、それぞれ好ましくはHまたはC〜C−アルキルであり、さらにRがHである場合には、RはCH−O−Rを示していてもよく、その際、RはHまたはC〜C−アルキルである。RおよびRは互いに独立して、特に好ましくはそれぞれHまたはC〜C−アルキルを示し、さらにRがHである場合には、RはCH−O−Rを示し、その際、RはHまたはC〜C−アルキルである。RおよびRは特に好ましくはHを示す。
【0024】
本発明による反応は、有機溶剤中でおこなわれる。有機非プロトン性溶剤は、好ましくは、特にハロゲン化炭化水素から使用される。特に好ましくは、クロロホルム、塩化メチレンおよびクロロベンゼンから成る群からのハロゲン化炭化水素が使用される。
【0025】
使用される酸化剤は、チオフェンの酸化重合に通常使用され、かつ当業者に公知の酸化剤であってもよく、この場合、これは、選択された反応条件および特に選択された有機溶剤に依存して適用される一定の制限下で可能である。反応条件に関して、適した酸化条件は先行試験によって簡単に定めることができる。
【0026】
好ましくは使用される酸化剤は、鉄(III)化合物、特に塩化鉄(III)または鉄(III)トシレート、特に好ましくは塩化鉄(III)である。
【0027】
本発明による方法において重要な特徴は、酸化剤が、化学量論的量未満、すなわち必要とされる化学量論的量の50〜99.9%で使用されることである。チオフェンモノマーの重合に関して、酸化剤の化学量論的量の2等量が、モノマー1モルに対して必要とされる。本質的に本発明に関しては、酸化剤の化学量論的要求量の99.9%、好ましくは99%以下、かつ少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%で使用される。特に好ましくは、化学量論的要求量の80〜96%で使用する。
【0028】
したがって、本発明による方法を実施する場合には、反応混合物中に存在するモノマーに対して、酸化剤が1.998:1を上廻る過剰量で存在することがない程度の量で、反応体が通常反応混合物中に存在することを確実にすべきである。したがって、好ましい反応工程は、最初にチオフェンモノマーを装入し、かつ酸化剤をバッチ的にかまたは連続的に計量供給し、したがって、多くとも、1.998molを上廻る酸化剤が、モノマーに加えて、モノマー1molに対して何倍も存在することはできない。しかしながら、一般に、反応は、酸化剤とモノマーとのモル比が全反応時間において、本質的に1.998:1未満である程度に実施される。
【0029】
本発明による方法は、室温で実施されてもよい。しかしながらまた、場合によっては、低い温度、たとえば0℃でか、または高い温度、たとえば、クロロホルムの還流温度(約60℃)でか、あるいはさらに高い温度、この場合、これは、たとえば、クロロベンゼン中で、実施されてもよい。0〜100℃が好ましくは使用され、特に好ましくは15〜65℃である。
【0030】
特に、鉄(III)トシレートまたは塩化鉄(III)が酸化剤として使用される場合には、好ましい中性ポリチオフェンの収量は、酸化剤から形成される酸(p−トルエンスルホン酸またはHCl)を中性化するための反応中において、少なくとも等量で塩基が添加される場合に増加する。したがってこのような方法が好ましい。適した塩基は、たとえば、アンモニア、アミンまたは塩基性酸化金属である。しかしながら、アルカリ金属またはアルカリ土類金属炭酸塩、たとえば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムまたは炭酸カルシウムが好ましくは使用される。
【0031】
反応は、空気または不活性ガス、たとえば窒素またはアルゴンの存在下で実施されてもよい。不活性ガスの存在下での反応の実施は、収量を増加させるためには有利であるが、しかしながら本質的なものではない。
【0032】
本発明による方法で使用されるモノマーは、式(II)のエチレン−3,4−ジオキシ−チオフェンであり、この場合、これは、場合によってはエチレン単位上で置換される。IUPACによれば、このような化合物は、2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシンとされる。
【0033】
適したモノマーは、以下に、IUPAC命名法を用いて、例として挙げる。
【0034】
以下は、RがHであり、かつRがHまたはC〜C−アルキルである、式(II)の適したモノマーの例として挙げられてもよい:
2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−メチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−エチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−n−プロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン、2−n−ブチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−n−ペンチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−n−ヘキシル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−n−ヘプチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−n−オクチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−(2−エチルヘキシル)−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−ノニル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン。
【0035】
この群からの好ましい例は、2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−メチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−エチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]−ジオキシン、2−n−プロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−n−ブチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−n−ペンチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシンである。
【0036】
この群からの特に好ましい例は、2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]−ジオキシン、2−メチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−エチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシンである。
【0037】
2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシンが特に好ましい。
【0038】
以下は、RおよびRが互いに独立して、C〜C−アルキルである、式(II)の適したモノマーの例として挙げられてもよい:
2,3−ジメチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2,3−ジエチル−2,3−ジヒドロチエノ−[3,4−b][1,4]ジオキシン、2,3−ジ−n−プロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2,3−ジ−n−ブチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン。
【0039】
以下は、RがHを示し、かつRが−CH−O−Rを示し、その際、RはH、C〜C−アルキル、C〜C−シクロアルキルまたはC〜C−アルアルキルである、式(II)の適したモノマーの例として挙げられてもよい:
2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イルメタノール、2−(メトキシメチル)−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−(エトキシメチル)−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−(n−プロポキシメチル)−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−(n−ブトキシメチル)−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−(n−ペンチルオキシメチル)−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン、2−(n−ヘキシルオキシメチル)−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−(n−ヘプチルオキシメチル)−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−(n−オクチルオキシメチル)−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−(2−エチルヘキシルオキシメチル)−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−(n−ノニルオキシメチル)−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−(シクロペンチルオキシメチル)−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−(シクロヘキシルオキシメチル)−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−(ベンジルオキシメチル)−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシンである。
【0040】
この群からの好ましいモノマーは、2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]−ジオキシン−2−イル−メタノール、2−(メトキシメチル)−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−(エトキシ−メチル)−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−(n−プロポキシメチル)−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−(n−ブトキシメチル)−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−(n−ペンチルオキシメチル)−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシンである。
【0041】
この群からの特に好ましいモノマーは;2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イルメタノール、2−(メトキシメチル)−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−(エトキシメチル)−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−(n−プロポキシメチル)−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン、2−(n−ブトキシメチル)2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]−ジオキシンである。
【0042】
有機溶剤中のモノマーの濃度は、広範囲で選択されてもよい。好ましくはモノマーは、0.2〜5質量%の濃度で使用される。
【0043】
本発明の方法によって、nが2〜200、好ましくは2〜50、特に好ましくは2〜30の整数を示す式Iの中性ポリマーを製造することも可能である。
【0044】
さらに、式(III)または(IIIa)
【化3】

[式中、RおよびRは互いに独立して、それぞれHまたはC〜C−アルキルを示し、RがHを示す場合には、RはCH−O−Rであり、その際、RはHまたはC〜C−アルキル、シクロアルキルまたはアルアルキルであり、
は炭素原子1〜18個を有する直鎖または分枝鎖のアルキル基、C〜C−アルキルによって置換されていてもよい、全部で炭素原子5〜12個を有するシクロアルキル基、置換されていてもよい、炭素原子6〜10個を有するアリール基または直鎖または分枝鎖のC〜C18−アルコキシ基を示し、
は炭素原子1〜18個を有する直鎖または分枝鎖のアルキル基、場合によってはC〜C−アルキル置換された、全部で炭素原子5〜12個を有するシクロアルキル基、場合によっては置換された炭素原子6〜10個を有するアリール基または炭素原子7〜12個を有するアルアルキル基を示し、かつ、
nおよびmは、互いに独立して、1〜200の整数を示す。]
の中性コポリマーを得ることが可能である。
【0045】
この目的のために、前記に示された方法は、モノマーとして、式(II)の化合物と式(IV)
【化4】

[式中、Rは、直鎖または分枝鎖の炭素原子1〜18個を有するアルキル基、C〜C−アルキル置換されていてもよい、全部で5〜12個の炭素原子を有するシクロアルキル基、置換されていてもよい、炭素原子6〜10個を有するアリール基、または直鎖または分枝鎖のC〜C18−アルコキシ基を示し、かつ、
は、炭素原子1〜18個を有する直鎖または分枝鎖のアルキル基、C〜C−アルキル置換されていてもよい、全部で炭素原子5〜12個を有するシクロアルキル基、置換されていてもよい、炭素原子6〜10個を有するアリール基または炭素原子7〜12個を有するアルアルキル基を示す]の化合物との混合物を使用している。
【0046】
相当するチオフェンポリマーまたはコポリマーは、今日まで、有機溶剤中で可溶なドープされていない中性の形で、酸化方法によって得ることができなかった。チオフェンポリマーおよびコポリマーは、特に、有機溶剤中で可能であり、有機的に結合されたハロゲンを含まないといった事実によって特徴付けられる。
【0047】
さらに本願発明は、一般式(I)
【化5】

[式中、RおよびRは互いに独立して、それぞれHまたはC〜C−アルキルを示し、RがHを示す場合には、RはCH−O−Rであってもよく、その際、RはHまたはC〜C−アルキル、シクロアルキルまたはアルアルキルであり、かつ、
nは2〜200の整数を示す]の中性化合物に関し、この場合、これらは、有機溶剤中で可溶であり、かつ、有機的に結合したハロゲンを含まない。
【0048】
少なくとも一つの有機溶剤中で、少なくとも1質量%、好ましくは少なくとも5質量%、特に好ましくは少なくとも10質量%の量で溶解されていてもよい化合物が、この場合可溶であると定義される。有機溶剤は、たとえば、ハロゲン化脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化芳香族炭化水素、ジアルキルエーテル、環状エーテルおよび双極性有機溶剤とされる。
【0049】
本発明による化合物は、好ましくは以下の群から選択された有機溶剤中で少なくとも1質量%の量で溶解されている:クロロホルム、塩化メチレンおよびテトラヒドロフラン。これらは、好ましくは、少なくとも5質量%、特に好ましくは少なくとも10質量%の量で溶解される。
【0050】
ハロゲン不含の化合物とみなされるのは、ハロゲンを1000ppm未満、好ましくは500ppm未満、特に好ましくは100ppm未満でしか含有しない化合物である。
【0051】
およびRは、互いに独立して、HまたはC〜C−アルキルを示すか、またはRはHを示し、かつRはCH−O−Rを示し、その際、RはHまたはC〜C−アルキルを示す一般式Iの中性化合物が好ましい。
【0052】
およびRがHである式Iの化合物が特に好ましい。
【0053】
さらに、本発明は、式(III)または(IIIa)
【化6】

[式中、RおよびRは互いに独立して、それぞれHまたはC〜C−アルキルを示し、さらにRがHを示す場合にはRはCH−O−Rであってもよく、その際、RはHまたはC〜C−アルキル、シクロアルキルまたはアルアルキルであり、
は炭素原子1〜8個を有する直鎖または分枝鎖のアルキル基、C〜C−アルキル置換されていてもよい、全部で炭素原子5〜12個を有するシクロアルキル基、置換されていてもよい、炭素原子6〜10個を有するアリール基または直鎖または分枝鎖のC〜C18−アルコキシ基を示し、
は炭素原子1個〜19個を有する直鎖または分枝鎖のアルキル基、C〜C−アルキル置換されていてもよい、全部で炭素原子5〜12個を有するシクロアルキル基、置換されていてもよい、炭素原子6〜10個を有するアリール基、または炭素原子7〜12個を有するアルアルキル基を示し、かつ、
nおよびmは互いに独立して、1〜200の整数を示す]の中性化合物に関し、この場合、このコポリマーは、本発明による方法で得ることが可能であり、かつ、有機溶剤中で可溶であり、かつ有機結合ハロゲンを含まない。
【0054】
構造式(III)および(IIIa)は、任意の好ましい割合で、さらには同様のポリマー分子中で並んで存在していてもよく、モノマーおよびポリマー構造の並びは任意であるが、好ましくはランダムである。しかしながら、分子中において種々の長さのブロックが生じてもよい。
【0055】
本発明による式(III)および(IIIa)のコポリマー中において、Rは好ましくはメチル、フェニルまたはORであり、かつ、Rは好ましくはC〜C18−アルキル、特に好ましくはRはOR、すなわち、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、n−ブトキシ、n−ヘキシルオキシ、2−エチルヘキシルオキシ、n−オクチルオキシ、n−ドデシルオキシまたはn−テトラデシルオキシを示す。
【0056】
およびRは、互いに独立して、好ましくはHまたはC〜C−アルキル、またはRはHを示し、かつRはCH−O−Rを示し、その際、RはH、C〜C−アルキルであり、かつRおよびRは特に好ましくはHを示す。
【0057】
本発明による式(I)の化合物および本発明による式(III)および(IIIa)のコポリマーは、好ましくは、本発明による方法によって製造される。
【0058】
本発明による方法によって製造されるポリチオフェンまたは本発明のポリチオフェンは、強い赤茶色、赤色または紫茶色の固体であり、この場合、これは、有機溶剤、たとえば、塩化メチレン、クロロホルムまたはテトラヒドロフラン中で可溶であり、かつこれらの溶液は蛍光を発する。適用に関しては、たとえば、電子工業中で、これらは有機溶剤から簡単に加工可能である。ドープされた、カチオン性ポリチオフェンまたはポリチオフェン層は簡単に製造されるため、中程度の酸化剤を用いて、このような溶液から対イオンの存在下で簡単に製造することができる。
【0059】
したがって、本発明によって製造される中性の化合物またはコポリマー、または本発明による前記化合物またはコポリマーは、カチオン性の、すなわちドープされたポリチオフェンの製造のために使用することができ、この場合、中性の化合物またはコポリマーは、プロトン酸の存在下で酸化される。
【0060】
さらに、本発明によって製造される中性の化合物またはコポリマー、または本発明による化合物またはコポリマーは、中性の化合物またはコポリマーを基板に塗布し、かつ、たとえば、p−トルエンスルホン酸、p−n−ドデシルベンゼンスルホン酸およびポリ(スチレンスルホン酸)から成る群からの有機性スルホン酸の存在下で、大気酸素によって酸化させることによって、カチオン性ポリチオフェン層を製造するために使用されてもよい。基板への塗布は、酸化前または酸化後に、固体かまたは溶液の形で実施されてもよい。基板への固体または液体の塗布のための適した方法は、すでに公知である。ナイフ塗布、スピンコーティングまたはインキジェット法を用いての溶液の塗布が、本明細書中で例証されている。
【0061】
本発明によって製造された中性化合物またはコポリマーまたは本発明の化合物またはコポリマーは、さらに中性の形でかまたはその後にドープされた形で、電子または電気部品、たとえば、蛍光素子、光電池または有機性トランジスタの製造、電子部品のパッケージングおよびクリーンルームのパッケージングのためのプラスチックフィルムの製造、ブラウン管の静電気防止処理、写真用フィルムの静電気防止処理、透明ヒーター(transparent heating)、透明電極、回路基板としてか、あるいは電気的に着色可能な窓ガラスに使用される。
【実施例】
【0062】
例1(ポリ(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン=PEDT)
エチレン−3,4−ジオキシチオフェン(EDT) 1.422g(10mmol)=2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシンを、最初にクロロホルム100ml中に装入した。塩化鉄(III)無水物 3.083g(19mmol)を、10回分で、7.5時間に亘って、室温(23℃)で攪拌しながら計量供給した。さらに16時間に亘って室温で攪拌した後に、濃アンモニア 50mlおよび塩化メチレン 100mlを添加し、かつ攪拌を1時間に亘っておこなった、濾過後に、この方法を反復し、かつ有機相を、0.05mol エチレンジアミンテトラアセテート溶液を用いて振とうさせることによって抽出し、その後に残留するFeイオンを除去した。その後に、暗赤色の有機相を、水で数回に亘って洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させ、その後に蒸発させ、ウオータージェットバキューム中で乾燥させた。残留物(粗生成物0.7g)をエタノールを用いて還流で加熱し、さらに精製した。冷却後に、中性のPEDT 0.15gを赤茶色の粉末として単離した。生成物は、たとえば、CHCl、CHClまたはTHF中で可溶で、強い赤紫色を有し、蛍光を発していた。
【0063】
モル質量(M)を、ゲル透過型クロマトグラフィー(GPC)によって測定した:
1220(ポリスチレン キャリブレーション)
IRスペクトル(KBr ペレット):3105cm−1(チオフェン末端基のυCH)、2970、2920および2870cm−1(υCHaliph)、1480cm−1、1435cm−1、1370cm−1、1070cm−1、905cm−1
H−NMRスペクトル(σ/TMS;CDCl)4.0〜4.5ppm、aliphH;6.1〜6.4ppm、末端基のチオフェンH。
例2 (ポリ(2−メチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン)
2−メチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン 2.03g(13mmol)および塩化鉄(III) 4.007g(24.7mmol)(無水物)を、互いに、例1に記載のようにではあるが、しかしながら、N下で反応させ、かつ後処理を前記に示したようにしておこなった。粗生成物(1.4g)を2、3mlのメタノールを用いて還流下で30分に亘って加熱することによって精製した。ポリマー0.88gを、紫色の粉末の形で得た。この生成物は、たとえば、CHCl、CHClまたはTHF中で可溶であり、強い赤紫色で、蛍光を発していた。
GPCによるモル質量(M):7340(ポリスチレン キャリブレーション)
例3(ポリ(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン=PEDT;塩基の存在下で製造する)
EDT 2.844g(20mmol)を、塩化鉄(III) 6.164g(38mmol)と一緒に、例1と同様に反応させるが、N下で炭酸カルシウム 7.6g(75.9mmol)の存在下でおこない、かつ、後処理を前記に示したようにおこなった。粗生成物(0.53g)を2、3mlで、30分に亘って還流で加熱した。濾過後に、PEDT 0.39gが得られた。
【0064】
GCPによるモル質量(Mw):1150(ポリスチレン キャリブレーション)
例4(ポリ(2−(n−ブトキシメチル)−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン)
2−(n−ブトキシメチル)−2,3−ジヒドロチエニル[3,4−b][1,4]ジオキシン 2143g(10mmol)およびFeCl 3082g(19mmol)を、互いに例1と同様に反応させたが、しかしながら、N下でおこない、かつ精製を同様にしておこなった。純粋なポリ(2−(n−ブトキシメチル)−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシンを、赤茶色の粉末として得て、この場合、これは、CHCl、CHClまたはTHF中で可溶であり、強い赤紫色を有しており、蛍光を発していた。
GPCによるモル質量(Mw):8330(ポリスチレン キャリブレーション)
例5 EDTおよび3,4−ジ−n−プロポキシチオフェンのコポリマー
EDT 1.422g(10mmol)および3,4−ジ−n−プロポキシチオフェン 2003g(10mmol)を、FeCl 6.164g(38mmol)と一緒に、例1のように反応させるが、しかしながら、N下で、炭酸カルシウム 3.8gの存在下でおこなった。深い暗紫色の粉末の純粋な生成物の収量:EDT/ジプロポキシチオフェンコポリマー 1.39gは、CHCl、CHClおよびTHF中で可溶であり、かつ溶液中で蛍光を発していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤中で可溶であり、かつ有機的に結合したハロゲンを含有しないことを特徴とする、一般式(I)
【化1】

[式中、RおよびRは、互いに独立して、それぞれHまたはC〜C−アルキルを示し、RがHである場合には、RはCH−O−Rを示していてもよく、その際、RはHまたはC〜C−アルキルであり、かつ、nは2〜200の整数である]の中性化合物。
【請求項2】
請求項1記載の中性化合物を、プロトン酸の存在下で酸化することを特徴とする、カチオン性ポリチオフェンを製造するための、請求項1記載の中性化合物の使用。
【請求項3】
請求項1記載の中性化合物を、基板に塗布し、かつ有機スルホン酸の存在下で、大気酸素によって酸化することを特徴とする、カチオン性ポリチオフェンの層を製造するための、請求項1記載の中性化合物の使用。
【請求項4】
電気部品または電子部品の製造、電子部品のパッケージングおよびクリーンルームのパッケージングのためのプラスチックフィルムの処理のため、ブラウン管の静電気防止処理のため、写真フィルムの静電気防止処理のため、透明ヒーター、透明電極、回路基板としてか、あるいは電気的に着色可能な窓ガラスのための、請求項1記載の中性化合物の使用。

【公開番号】特開2010−18812(P2010−18812A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236048(P2009−236048)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【分割の表示】特願2002−381620(P2002−381620)の分割
【原出願日】平成14年12月27日(2002.12.27)
【出願人】(507239651)ハー.ツェー.スタルク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (59)
【氏名又は名称原語表記】H.C. Starck GmbH
【住所又は居所原語表記】Im Schleeke 78−91, D−38642 Goslar, Germany
【Fターム(参考)】