中性子線量計
【課題】実際の線量と表示線量との相違を抑制することが可能であり、かつコンパクトな中性子線量計を提供する。
【解決手段】本発明の中性子線量計は、3HeとCH4とが所定の混合比で混合され封入される混合ガス比例計数管100と、前記混合ガス比例計数管からの検出信号を波高レベル毎に分別する分別器224と、前記分別器で分別された波高レベル毎の検出信号をカウントするカウンタ225と、前記カウンタでカウントされたカウント値を用いて線量を求める演算器227と、を有する中性子線量計において、前記演算器227で用いる係数は、3Heの中性子検出感度特性と、CH4の中性子検出感度特性と、1cm深部の線量当量との相関に基づいて決定されることを特徴とする。
【解決手段】本発明の中性子線量計は、3HeとCH4とが所定の混合比で混合され封入される混合ガス比例計数管100と、前記混合ガス比例計数管からの検出信号を波高レベル毎に分別する分別器224と、前記分別器で分別された波高レベル毎の検出信号をカウントするカウンタ225と、前記カウンタでカウントされたカウント値を用いて線量を求める演算器227と、を有する中性子線量計において、前記演算器227で用いる係数は、3Heの中性子検出感度特性と、CH4の中性子検出感度特性と、1cm深部の線量当量との相関に基づいて決定されることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力施設や加速器施設など中性子被ばくの恐れがある様々な漏洩中性子場で中性子エネルギーを検出する混合ガス比例計数管を備え、この混合ガス比例計数管から出力される検出信号を処理して実用量である1cm深部の線量当量を表示する中性子線量計に関する。
【背景技術】
【0002】
中性子による被ばくにより人体が受ける有害な影響の度合いである実行線量当量は、人体が吸収した中性子数のみならず、入射する中性子のエネルギーにも大きく依存する。この中性子の位エネルギーに対する線量当量への寄与率は、国際放射線防護委員会(ICRP)により、中性子エネルギー(MeV)に対する換算係数の勧告値という形で与えられている。すなわち、中性子による被ばくが人体に与える影響の度合いを示す実効線量は直接には測定できない量であるため、その対応として実用量がICRP1990年勧告で導入されている。
【0003】
上記のICRPによる勧告では、1cm深部の線量当量(H*(10))という概念が
用いられている。放射線被曝による確率的影響の評価は、人体の種々の組織(臓器)により影響を及ぼす度合いが異なるため、この荷重を考慮した線量当量が実効線量当量であることが妥当であるとする考え方に基づいている。種々の条件で実効線量当量を絶対的に決定することは困難であるので、放射線の単位と測定に関する国際委員会(ICRU)では、組織等価物質で作られた直径30cmのICRU球ファントムの1cm深部の線量当量を実効線量当量として採用することを定め、その単位にSv(シーベルト)が用いられている。なお、上記のICRU球は、密度1g/cm3の組織等価物質からななる直径30
cmの球状均質ファントムのことをいい、組織等価物質は、酸素76.2%、炭素11.1%、水素10.1%、窒素2.6%の質量組成からなるものである。
【0004】
中性子の検出原理は、入射した熱中性子と比例計数管内の封入気体との核反応によって生じた荷電粒子により封入気体(BF3,3He)が電離してパルス状の検出信号を得る、というものである。このような比例系計数管による中性子の検出については、例えば特許文献1(特開2008−14947号公報)などに開示されている技術がよく知られている。図12はこのような比例系計数管による中性子エネルギーの検出感度特性と、ICRP74勧告による1cm深部の線量当量(H*(10))との関係を示す図である。図に
おいて、点線は比例系計数管などの検出機器における中性子エネルギーの検出感度を示しており、実線はICRP74勧告による1cm深部の線量当量(H*(10))を示して
いる。1cm深部の線量当量(H*(10))の線量指示値を算出するためには、図に示
す検出機器の中性子エネルギーの検出感度に対して、校正定数(線量レスポンス)を乗じ、全エネルギー領域で積分する必要がある。
【特許文献1】特開2008−14947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では、1cm深部の線量当量(H*(10))の線量指示値
を算出するためには、検出機器の中性子エネルギーに応じた1cm深部の線量当量(H*
(10))応答特性が、1cm深部の線量当量(H*(10))換算係数と、中性子のエ
ネルギー領域によって大きく異なり、実際の線量と異なる線量を示す可能性が高い、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のような問題点を解決するために、請求項1に係る発明は、3HeとCH4とが所定の混合比で混合され封入される混合ガス比例計数管と、前記混合ガス比例計数管からの検出信号を波高レベル毎に分別する分別器と、前記分別器で分別された波高レベル毎の検出信号をカウントするカウンタと、前記カウンタでカウントされたカウント値に対して所定の係数を乗ずる倍率器と、を有する中性子線量計において、前記倍率器で乗ずる係数は、3Heの中性子検出感度特性と、CH4の中性子検出感度特性と、1cm深部の線量当量との相関に基づいて決定されることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の中性子線量計において、前記混合ガス比例計数管にはArが封入されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の中性子線量計によれば、従来のように単一の検出機器の中性子検出感度に対する校正定数が用いられるのではなく、3Heの中性子検出感度特性、CH4の中性子検出感度特性などの複数の検出ガスからの中性子検出感度特性に基づいて係数が決められているので、実際の線量と表示線量との相違を抑制することが可能となる。
【0009】
また、本発明の中性子線量計によれば、混合ガス比例計数管に封入する中性子検出用のガスの組み合わせとして、3HeとCH4の混合を選択することによって、線量計をコンパクトに構成することが可能となる。
【0010】
また、本発明の中性子線量計によれば、混合ガス比例計数管における3HeとCH4の混合ガスにArを添加したので、二次反応粒子の飛程を抑制することができ、より正確な検出信号を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る中性子線量計における混合ガス比例計数管の模式的断面を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る中性子線量計のブロック構成の概要を示す図である。
【図3】本実施形態に係る混合ガス比例計数管の熱中性子場における出力を示す図である。
【図4】本実施形態に係る混合ガス比例計数管の加速中性子に対する応答試験結果(250keV中性子に対する応答)を示す図である。
【図5】本実施形態に係る混合ガス比例計数管出力における反応の弁別(250keV中性子に対する応答の場合)を示す図である。
【図6】単色エネルギー中性子に対する応答による閉凸空間を示す図である。
【図7】式(7)で表される中性子スペクトル群を示す図である。
【図8】中性子スペクトルに対する混合ガス比例計数管100の応答の計算結果を示す図である。
【図9】核分裂中性子スペクトルに対する応答の配置を示す図である。
【図10】核分裂中性子場のスペクトル例に対する応答の配置を示す図である。
【図11】京大炉における混合ガス比例計数管の出力を示す図である。
【図12】検出機器の中性子エネルギーの検出感度特性とICRP74勧告による1cm深部の線量当量(H*(10))との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の中性子線量計の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は本発明の実施形態に係る中性子線量計における混合ガス比例計数管の模式的断面を示す図
であり、図2は本発明の実施形態に係る中性子線量計のブロック構成の概要を示す図である。
【0013】
図1及び図2において、100は混合ガス比例計数管、110は減速材、111は円筒状金属体、114は端板、115は絶縁体、116は芯線、117は充填ガス、200は処理回路部、221は電源、222はプリアンプ、223は波形成形アンプ、224は多段式波形分別器、225はカウンタ、226は倍率器、227は演算器、228は表示器をそれぞれ示している。
【0014】
図2にその概要が示されている中性子線量計は例えば発電用原子炉などにて中性子を検出するものである。このような中性子線量計は、中性子の検出部である混合ガス比例計数管100を備えている。この混合ガス比例計数管100は円筒状の筒状体であり、その外周部は減速材110に覆われた円筒状金属体111から構成されている。
【0015】
この円筒状金属体111の両端部に端板114、114が設けられ、これら端板114のそれぞれの中央部にセラミックなどの絶縁体115が設けられ、これら絶縁体115、115間にて円筒状金属体110の中心軸に沿って電極である芯線16が設けられ、円筒状金属体110と端板114、114とで区画された空間S内に充填ガス117が封入されている。
【0016】
混合ガス比例計数管100の筒状金属体111は、例えばステンレスなどの導電性材料により筒状に形成されて、陰極と機能する。
【0017】
筒状金属体111の外面には、減速材110が設けられている。そして、中性子線量計は、放射線に含まれる中性子の減速材110内部で適切な減速を受けた後、充填ガス117を構成する物質と反応し、反応生成物が充填ガス117を電離させてイオン対を生成し、筒状金属体110(陰極)と芯線116との間の電界により加速され、芯線116近傍の強い電界で電子増倍されて電気信号を発生することで、中性子を検出可能となる。
【0018】
本実施形態では、混合ガス比例計数管100の形状として円筒形状を採用したが、この理由について以下に説明する。混合ガス比例計数管100の形状が、円筒形である場合には、適切な出力スペクトルが得られるが、中性子の入射方向による感度差がある。一方、混合ガス比例計数管を球形の計数管とした場合では、全方位で感度を均一にできるが、内部の電界分布により出力スペクトルが歪む。球形計数管出力の電界効果による歪みを、実機で確認した。その結果、必要な感度を持たせた球形計数管ではスペクトルの歪みと分解能劣化の相乗効果で反応の弁別が困難であった。そこで本実施形態に係る混合ガス比例計数管100では、前述したように円筒形を選択した。また、混合ガス比例計数管100の円筒の直径は2.5inchに設定した。管の長さは7inchにして、中性子入射方向に応じた感度の差を抑制した。
【0019】
次に、混合ガス比例計数管100の空間S内に封入される充填ガス117について説明する。本実施形態では、混合ガス比例計数管100の空間S内に封止される混合ガスとして、3HeとCH4(メタン)と、が所定混合比で混合され、封入されている。
【0020】
3Heガスは、中性子吸収核反応を示し、熱中性子に高い感度を示し、また中性子のエ
ネルギーが低いほど検出感度が大きい傾向を示す。
【0021】
一方、メタンガスに含まれる水素は、中性子と反跳反応をおこし、比較的高い中性子エネルギーに対する反応が検出しやすい。なお、メタンガスに代えて、エタン、または、プロパンの何れかを封入したもの、あるいは、メタン、エタン、または、プロパンの任意に
組み合わせて封入したものとすることも可能である。
【0022】
本実施形態では、混合ガス比例計数管100に封入する中性子検出用のガスの組み合わせについて検討した結果、3HeとCH4の混合を選択したが、以下にこの理由を説明する。3Heの熱中性子吸収反応は、反応断面積が大きくピーク状の出力スペクトルを形成す
る。CH4はそれに含まれる水素の反跳反応で比較的早い中性子を検出する。反跳反応の
出力は連続スペクトルを形成し、熱中性子吸収反応と弁別できる。本実施形態では、混合ガス比例計数管100に封入する3HeとCH4の混合ガスに、二次反応粒子の飛程を抑えるためのArを添加している。また、3HeとCH4の混合ガスの混合比は、Am−Be中性子に対して両反応から同程度の係数を得ることができるように設定した。また、その他の反応の抑制にも考慮し、その結果、3HeとCH4の構成比はガス分圧で1:30から1:60程度に設定した。また、混合ガス比例計数管100に封入するガスの全圧については、混合ガス比例計数管100のサイズと合わせて調整し、線量感度や二次粒子の飛程を考慮し6気圧とした。
【0023】
次に、本実施形態で用いる減速材111に係る条件設定について説明する。3HeとC
H4の両反応の線量評価への寄与のバランスを取るように、薄い減速材を混合ガス比例計
数管100に設け、計算によって最適地評価を行った。その結果、5mmから1cm程度の減速材で、両反応の線量への寄与が良いバランスになることが示された。
【0024】
本実施形態に係る混合ガス比例計数管100の仕様を表1に示す。
【0025】
【表1】
以上のように構成される本実施形態に係る混合ガス比例計数管100においては、約100keVを下回る低エネルギー中性子は、主に3He分子との衝突によって、3He(n,p)核反応により陽子pという荷電粒子を生成する。
【0026】
約100keVから約10MeVまでのエネルギーの中性子は、主にCH4分子との衝
突でH(n,n)p弾性散乱が起こって反跳陽子pという荷電粒子を生成する。
【0027】
10MeVを上回る高エネルギー中性子の場合はCH4分子との衝突でのH(n,n)
p弾性散乱による反跳陽子pに加えて、C(n,p),C(n,α),N(n,α)などの核反応による陽子pやα粒子という荷電粒子も生成する。
【0028】
これらの生成された荷電粒子が混合ガス比例計数管100中で電離作用により、イオン対を作り、それがガス増幅されることによって、電流パルスとして出力される。
【0029】
続いて中性子線量計の回路構成の概要について説明する。図2は本発明の実施形態に係る中性子線量計のブロック構成図である。中性子線量計には、図2のブロック構成図に示
すように、混合ガス比例計数管100に対して処理回路部200が接続される。処理回路部200は電源221、プリアンプ222、波形成形アンプ223、多段式波高弁別器224、カウンタ225、倍率器226、演算器227、表示器228を備えている。
【0030】
高圧電源221は、検出器の電極に対して1000V〜4000Vの高電圧を供給する。
中性子線量計の混合ガス比例計数管100の電極から取り出された電流出力による検出信号は、プリアンプ222へ入力される。
【0031】
プリアンプ222は、検出信号を波形成形アンプ223で利用できる波高とするまで増幅する。
【0032】
波形成形アンプ223は、検出信号を波高弁別器224で分別できる波高の波形となるように増幅した検出信号を出力する。これらプリアンプ222および波形成形アンプ223は本発明のアンプを構成するものである。
【0033】
波高弁別器224は、3段のディスクリレベルを有しており、入力された検出信号に対
して所定のディスクリレベル(下側の波高レベルから上側の波高レベルまで)のみの検出信号を出力する。これら第1波高弁別器224−1は3He(n,p)核反応のエネルギ
ー領域未満、第2波高弁別器224−2は3He(n,p)核反応に相当するエネルギー
領域、第3波高弁別器224−3は3He(n,p)核反応のエネルギー領域以上・の所
定範囲のディスクリレベルのみ出力するようになされている。
【0034】
この多段式波高弁別器224によりあるレベル以下の不要成分(ノイズ信号やγ線による信号)を取り除いて、中性子による所望の検出信号だけを取り出すことができる。波高レベル別に分別された複数の検出信号が出力される。
【0035】
カウンタ225は、波高レベル別に分別された複数の検出信号を入力して波高レベル別のカウント値を出力する。検出信号はパルス状であるためパルスを計数してカウント値を出力する。カウンタ225は、第1カウンタ225−1、第2カウンタ225−2、、第3カウンタ225−3という3段のカウンタを備える。これら第1カウンタ225−1、第2カウンタ225−2、第3カウンタ225−3はそれぞれ所定範囲のディスクリレベルのみカウントするようになされている。
【0036】
演算器227は、カウンタ225から出力されたカウント値から周辺線量当量(1cm線量当量)を出力する。最初に、第1カウンタ225−1と第3カウンタ225−3のカウント値を合計し、それの第2カウンタ225−2のカウント値に対する比を求める。次に
、周辺線量当量(1cm線量当量)測定のための閉凸空間にこれをあてはめ、周辺線量当量(1cm線量当量)と第2カウンタ225−2のカウント値との換算係数の範囲を求め
る。これに第2カウンタ225−2のカウント値を掛け合わせて、周辺線量当量の範囲を
出力する。
【0037】
表示器228は、演算器227からの出力を周辺線量当量(深さ1cm線量当量)の範囲として直読可能に表示される。以上説明した構成は、可搬型のケース内に収納される。このような表示器227は周辺線量当量(深さ1cm線量当量)の取り得る値の範囲を精度よく直読できるようにするものである。
以上のような本発明の中性子線量計によれば、従来のように単一の検出機器の中性子検出感度に対する校正定数が用いられるのではなく、3Heの中性子検出感度特性、CH4の中性子検出感度特性などの複数の検出ガスからの中性子検出感度特性に基づいて係数が決
められているので、実際の線量と表示線量との相違を抑制することが可能となる。
【0038】
また、本発明の中性子線量計によれば、混合ガス比例計数管100に封入する中性子検出用のガスの組み合わせとして、3HeとCH4の混合を選択することによって、線量計をコンパクトに構成することが可能となる。
【0039】
また、本発明の中性子線量計によれば、混合ガス比例計数管100における3HeとC
H4の混合ガスにArを添加したので、二次反応粒子の飛程を抑制することができ、より
正確な検出信号を得ることが可能となる。
【0040】
次に、以上のように構成される本発明の実施形態に係る中性子線量計の理論的なバックグラウンドについて説明する。本発明の実施形態に係る中性子線量計は位相ベクトル空間を用いた線量評価法に基づいている。
【0041】
一般に線量Qは、次式(1)の線形汎関数で表現される。
【0042】
【数1】
ここで、aは入射放射線の強度、q(E)はQをもたらすエネルギー依存の換算係数を示しており、φ(E)は規格化された入射放射線のエネルギースペクトルを示す。また、放射線検出器iの出力Niも次式(2)のように表現することができる。
【0043】
【数2】
ここで、gi(E)は測定量Niをもたらす検出器iの応答関数である。
いま、放射線の強度aの影響を相殺するために、QとNjの比である一次分数汎関数Kと
、NiとNjの比である一次分数汎関数Riを導入する。
【0044】
【数3】
【0045】
【数4】
これらから、(jK,jR1,jR2…jRj-1,jRj+1…jRi)を直交座標軸とする、i次
元空間Ωを導入する。Ωは任意の放射線スペクトルφ(E)に対応する点ν(E)の集合で位相空間になる。また、Ωは閉集合であり、ベクトルν(E)について加法の可換則と結合則、分配則、スカラー乗法の結合則を満足しているため、Ωはベクトル空間でもある。すなわち、Ωは位相ベクトル空間である。
【0046】
ここで、式(3)、(4)で係数aが相殺されていることから、放射線スペクトルaφ(E)に対応するベクトルν(aφ)は、放射線スペクトルφ(E)に対応するν(E)に等しい。さらに、合成スペクトルc1φ1(E)+c2φ2(E)に対応するベクトルv(φ1+2)は以下の式(5)、(6)ように示される。
【0047】
【数5】
【0048】
【数6】
これらから、点v(φ1+2)は、点v(φ1)と点v(φ2)を結ぶ線分上にある。さら
にこれを敷衍すると、あらゆるφ(E)が要素スペクトルφe(E)の線形合成で表せる
ならば、点v(φ)の全ては要素スペクトルφe(E)に対応する点v(φe)の集合で構成される閉凸空間ωに含まれることになる。φe(E)には単色エネルギースペクトルが
適用できるが、その他にも、線形合成で特定の中性子場を表現できる一連のスペクトルは要素スペクトルとなり得る。
【0049】
この閉凸空間ωにおいて、特定のjRiの集合が(i−1)次の条件を確定できるため
、ωにK軸方向の弦を特定する。この弦の範囲がjKの取り得る範囲である。これはすな
わち、各検出器出力の比によって、検出器jの出力Njから線量Qを導く換算値の範囲が、引いてはQの範囲が決まる。これが、多検出器法である。
【0050】
なお、今後の議論のために、位相ベクトル空間Ωは、複数検出器の目的線量に対する線量応答特性で構成されていることから、以下においては「レスポンス空間」とよぶ。また、特定のスペクトルに対して形成される閉凸空間ωは「閉凸空間」とよぶことにする。この方法は線量測定一般に適用できるが、本明細書では、中性子線量の評価への適用を実施形態としている。
【0051】
次に、本実施形態における混合ガス比例計数管100の応答試験について説明する。前述した混合ガス比例計数管100を実際に作成して、その応答を確認した。この混合ガス比例計数管100について、いくつかの中性子場で応答特性試験を行ったので、その結果を示す。
【0052】
熱中性子に対する応答は、東大の黒鉛パイルで確認した。図3にその結果を示す。3H
eの熱中性子吸収反応の全エネルギーピークが確認できた。エネルギー分解能が悪い点については、その後の試験では印加電圧の調整などで改善した。
【0053】
また、加速器中性子(JAEA原科研FRS)を用いて速中性子に対する応答と、2種類の反応の弁別性能の確認を行った。結果の例を図4に示す。
【0054】
分解能がやや悪いが、熱中性子の吸収ピークと適切な最大エネルギーの反跳陽子の連続スペクトルを確認することができた。また、ベースライン法により熱中性子吸収反応のスペクトルと反跳反応のスペクトルを弁別することができた。両反応の弁別の状況を図5に示す。
【0055】
次に、単色中性子に対する応答による閉凸空間について説明する。前述した混合ガス比例計数管100の応答特性をNRESP−ANTを用いた計算で詳細に評価し、レスポンス空間中に閉凸空間を描いた。最初に、単色スペクトル中性子を要素スペクトルとした。エネルギー範囲は1×10-3〜6.3×108eVとし、60群に分割した。計算結果か
ら各反応の出力スペクトルを抽出し、レスポンス空間に混合ガス比例計数管の閉凸空間を描き出した。それぞれ、3Heの吸収反応の計数を検出器出力(CT)、水素の弾性散乱の計数を別の検出器出力(CF)とした。また、評価対象値は周辺線量当量(H*(10))とした。CTを共通の分母として、レスポンス空間を形成した。図6にそのレスポンス空
間と閉凸空間を示す。単色スペクトル中性子に対する応答により、レスポンス空間中に閉凸空間を形成できた。
【0056】
図6(a)は混合ガス比例計数管100のレスポンス空間に形成した、単色エネルギー中性子に対する応答による閉凸空間であり、各プロットは、各入射中性子に対する応答で求まる点(CF/CT,H/CT)で、点線は閉凸空間の境界を表す。また、図6(b)は
図6(a)の拡大図である。
【0057】
図6(b)において、CF/CT=10の場合にH*(10)/CTの取り得る範囲は、0.002〜5となる。この条件では線量換算係のとして取り得る値の可能性が2桁の幅を有することを意味し、線量評価として好ましくない。これは、閉凸空間を数学的に求めたためであり、物理的に不適切な中性子エネルギースペクトルを評価の範囲に入れているためであると考えられる。
【0058】
次に、中性子源の特定による閉凸区間の改善について説明する。前項では汎用的な閉凸空間を描き出したが、ここでは、核分裂中性子を線源とする中性子場に評価対象を絞り込んだ。核分裂中性子が減速や増幅の作用を受けて変形していく過程を要素スペクトルとして適用してみた。
核分裂中性子のエネルギースペクトルの変形の例として、原子炉内中性子スペクトルF(u)の遷移を採用した。F(u)について小佐古が示した以下の下記(7)に示す一般式を採用した。
【0059】
【数7】
図7に、式(7)で導き出した中性子スペクトル群を示す。これらの中性子スペクトルに対する混合ガス比例計数管100の応答をNRESP−ANTで計算し、それらの結果をレスポンス空間中に配置したのが、図8である。図8(a)は、式(7)で表される中性子スペクトルを要素スペクトルとする閉凸空間であり、各プロットは図7の中性子スペクトルへの応答に対応する点である。また、閉凸空間の境界を実線で示している。点線は図6で示した閉凸空間であり、図8(b)は図8(a)の拡大図である。
【0060】
式(7)で与えられたエネルギースペクトルに対応する点は、すべて単色中性子に対する応答で形成された閉凸空間の内側に位置した。さらに、式(7)に対応するプロット群が構成する閉凸空間は大幅に縮約されていることが確認できる。例えば、CF/CT=10の場合に、H*(10)/CTの取り得る範囲は、0.02〜0.16になった。
【0061】
核分裂中性子エネルギースペクトルの変形について、別の手法でも評価した。MCNP−5を用いて、鉄とコンクリートにより核分裂中性子スペクトルが軟化していく過程の34ケースの中性子エネルギースペクトルを求めた。それらに対する計数管の応答の評価結果を同様にレスポンス空間中に配置したものを図9に示す。図9(a)はMCNPで計算された減速された核分裂中性子スペクトルに対する応答の配置である。点線は図6で示した閉凸空間の境界、また実線は図7で示した縮約された閉凸空間の境界を示す。図9(b)は図9(a)の拡大図である。すべてのケースは縮約された閉凸空間中にあることが示された。また、MCNP−5で計算した中性子スペクトルによる出力集合もまた閉凸区間を作り、さらに縮約が進んでいる。
【0062】
また、核分裂中性子を起因とする中性子スペクトルの85のデータを参照し、それぞれにおける応答を求め、結果をレスポンス空間にプロットした(図10参照)。一部を除いて、ほとんどのケースは縮約した閉凸空間の内側にあることが示された。縮約閉凸空間に入らなかったケースはいずれも(7)式の想定から外れていることが確認された。
【0063】
図10(a)核分裂中性子場のスペクトル例に対する応答の配置を示す図である。点線は図6で示した閉凸空間の境界を示し、また実線は図8で示した縮約された閉凸空間の境界を示す。図10(b)は図10(a)の拡大図である。
【0064】
以上より、CF/CTの値に基づいてH*(10)/CTが限定され、したがってH*(1
0)の取り得る範囲を決めることができた。
【0065】
次に、線量評価の検討を行う。閉凸空間を用いた線量評価では、取り得る線量値の幅が提供できたが、実用的には、一つの線量値を決めることが求められると考えられる。この測定における閉凸空間は弓状の形状をしており、測定結果はこの内部に分布すると考えられる。代表値としては、閉凸空間の上側を形成する弦の部分を使うことが適切である。
【0066】
まず、核分裂中性子を用いた応答試験について説明する。実際にいくつかの核分裂中性子場で混合ガス比例計数管の応答試験を行った。京大炉での実験結果を図11に示す。測定地点の中性子スペクトル測定結果に基づきその場に固有の線量換算係数を評価して、H/CT、CF/CTの値の関係を表2に示す。線量換算係数とH/CT値は相関を示しているように見える
【0067】
【表2】
【符号の説明】
【0068】
100・・・混合ガス比例計数管、110・・・減速材、111・・・円筒状金属体、114・・・端板、115・・・絶縁体、116・・・芯線、117・・・充填ガス、200・・・処理回路部、221・・・電源、222・・・プリアンプ、223・・・波形成形アンプ、224・・・多段式波形分別器、225・・・カウンタ、226・・・倍率器、227・・・演算器、228・・・表示器
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力施設や加速器施設など中性子被ばくの恐れがある様々な漏洩中性子場で中性子エネルギーを検出する混合ガス比例計数管を備え、この混合ガス比例計数管から出力される検出信号を処理して実用量である1cm深部の線量当量を表示する中性子線量計に関する。
【背景技術】
【0002】
中性子による被ばくにより人体が受ける有害な影響の度合いである実行線量当量は、人体が吸収した中性子数のみならず、入射する中性子のエネルギーにも大きく依存する。この中性子の位エネルギーに対する線量当量への寄与率は、国際放射線防護委員会(ICRP)により、中性子エネルギー(MeV)に対する換算係数の勧告値という形で与えられている。すなわち、中性子による被ばくが人体に与える影響の度合いを示す実効線量は直接には測定できない量であるため、その対応として実用量がICRP1990年勧告で導入されている。
【0003】
上記のICRPによる勧告では、1cm深部の線量当量(H*(10))という概念が
用いられている。放射線被曝による確率的影響の評価は、人体の種々の組織(臓器)により影響を及ぼす度合いが異なるため、この荷重を考慮した線量当量が実効線量当量であることが妥当であるとする考え方に基づいている。種々の条件で実効線量当量を絶対的に決定することは困難であるので、放射線の単位と測定に関する国際委員会(ICRU)では、組織等価物質で作られた直径30cmのICRU球ファントムの1cm深部の線量当量を実効線量当量として採用することを定め、その単位にSv(シーベルト)が用いられている。なお、上記のICRU球は、密度1g/cm3の組織等価物質からななる直径30
cmの球状均質ファントムのことをいい、組織等価物質は、酸素76.2%、炭素11.1%、水素10.1%、窒素2.6%の質量組成からなるものである。
【0004】
中性子の検出原理は、入射した熱中性子と比例計数管内の封入気体との核反応によって生じた荷電粒子により封入気体(BF3,3He)が電離してパルス状の検出信号を得る、というものである。このような比例系計数管による中性子の検出については、例えば特許文献1(特開2008−14947号公報)などに開示されている技術がよく知られている。図12はこのような比例系計数管による中性子エネルギーの検出感度特性と、ICRP74勧告による1cm深部の線量当量(H*(10))との関係を示す図である。図に
おいて、点線は比例系計数管などの検出機器における中性子エネルギーの検出感度を示しており、実線はICRP74勧告による1cm深部の線量当量(H*(10))を示して
いる。1cm深部の線量当量(H*(10))の線量指示値を算出するためには、図に示
す検出機器の中性子エネルギーの検出感度に対して、校正定数(線量レスポンス)を乗じ、全エネルギー領域で積分する必要がある。
【特許文献1】特開2008−14947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では、1cm深部の線量当量(H*(10))の線量指示値
を算出するためには、検出機器の中性子エネルギーに応じた1cm深部の線量当量(H*
(10))応答特性が、1cm深部の線量当量(H*(10))換算係数と、中性子のエ
ネルギー領域によって大きく異なり、実際の線量と異なる線量を示す可能性が高い、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のような問題点を解決するために、請求項1に係る発明は、3HeとCH4とが所定の混合比で混合され封入される混合ガス比例計数管と、前記混合ガス比例計数管からの検出信号を波高レベル毎に分別する分別器と、前記分別器で分別された波高レベル毎の検出信号をカウントするカウンタと、前記カウンタでカウントされたカウント値に対して所定の係数を乗ずる倍率器と、を有する中性子線量計において、前記倍率器で乗ずる係数は、3Heの中性子検出感度特性と、CH4の中性子検出感度特性と、1cm深部の線量当量との相関に基づいて決定されることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の中性子線量計において、前記混合ガス比例計数管にはArが封入されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の中性子線量計によれば、従来のように単一の検出機器の中性子検出感度に対する校正定数が用いられるのではなく、3Heの中性子検出感度特性、CH4の中性子検出感度特性などの複数の検出ガスからの中性子検出感度特性に基づいて係数が決められているので、実際の線量と表示線量との相違を抑制することが可能となる。
【0009】
また、本発明の中性子線量計によれば、混合ガス比例計数管に封入する中性子検出用のガスの組み合わせとして、3HeとCH4の混合を選択することによって、線量計をコンパクトに構成することが可能となる。
【0010】
また、本発明の中性子線量計によれば、混合ガス比例計数管における3HeとCH4の混合ガスにArを添加したので、二次反応粒子の飛程を抑制することができ、より正確な検出信号を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る中性子線量計における混合ガス比例計数管の模式的断面を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る中性子線量計のブロック構成の概要を示す図である。
【図3】本実施形態に係る混合ガス比例計数管の熱中性子場における出力を示す図である。
【図4】本実施形態に係る混合ガス比例計数管の加速中性子に対する応答試験結果(250keV中性子に対する応答)を示す図である。
【図5】本実施形態に係る混合ガス比例計数管出力における反応の弁別(250keV中性子に対する応答の場合)を示す図である。
【図6】単色エネルギー中性子に対する応答による閉凸空間を示す図である。
【図7】式(7)で表される中性子スペクトル群を示す図である。
【図8】中性子スペクトルに対する混合ガス比例計数管100の応答の計算結果を示す図である。
【図9】核分裂中性子スペクトルに対する応答の配置を示す図である。
【図10】核分裂中性子場のスペクトル例に対する応答の配置を示す図である。
【図11】京大炉における混合ガス比例計数管の出力を示す図である。
【図12】検出機器の中性子エネルギーの検出感度特性とICRP74勧告による1cm深部の線量当量(H*(10))との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の中性子線量計の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は本発明の実施形態に係る中性子線量計における混合ガス比例計数管の模式的断面を示す図
であり、図2は本発明の実施形態に係る中性子線量計のブロック構成の概要を示す図である。
【0013】
図1及び図2において、100は混合ガス比例計数管、110は減速材、111は円筒状金属体、114は端板、115は絶縁体、116は芯線、117は充填ガス、200は処理回路部、221は電源、222はプリアンプ、223は波形成形アンプ、224は多段式波形分別器、225はカウンタ、226は倍率器、227は演算器、228は表示器をそれぞれ示している。
【0014】
図2にその概要が示されている中性子線量計は例えば発電用原子炉などにて中性子を検出するものである。このような中性子線量計は、中性子の検出部である混合ガス比例計数管100を備えている。この混合ガス比例計数管100は円筒状の筒状体であり、その外周部は減速材110に覆われた円筒状金属体111から構成されている。
【0015】
この円筒状金属体111の両端部に端板114、114が設けられ、これら端板114のそれぞれの中央部にセラミックなどの絶縁体115が設けられ、これら絶縁体115、115間にて円筒状金属体110の中心軸に沿って電極である芯線16が設けられ、円筒状金属体110と端板114、114とで区画された空間S内に充填ガス117が封入されている。
【0016】
混合ガス比例計数管100の筒状金属体111は、例えばステンレスなどの導電性材料により筒状に形成されて、陰極と機能する。
【0017】
筒状金属体111の外面には、減速材110が設けられている。そして、中性子線量計は、放射線に含まれる中性子の減速材110内部で適切な減速を受けた後、充填ガス117を構成する物質と反応し、反応生成物が充填ガス117を電離させてイオン対を生成し、筒状金属体110(陰極)と芯線116との間の電界により加速され、芯線116近傍の強い電界で電子増倍されて電気信号を発生することで、中性子を検出可能となる。
【0018】
本実施形態では、混合ガス比例計数管100の形状として円筒形状を採用したが、この理由について以下に説明する。混合ガス比例計数管100の形状が、円筒形である場合には、適切な出力スペクトルが得られるが、中性子の入射方向による感度差がある。一方、混合ガス比例計数管を球形の計数管とした場合では、全方位で感度を均一にできるが、内部の電界分布により出力スペクトルが歪む。球形計数管出力の電界効果による歪みを、実機で確認した。その結果、必要な感度を持たせた球形計数管ではスペクトルの歪みと分解能劣化の相乗効果で反応の弁別が困難であった。そこで本実施形態に係る混合ガス比例計数管100では、前述したように円筒形を選択した。また、混合ガス比例計数管100の円筒の直径は2.5inchに設定した。管の長さは7inchにして、中性子入射方向に応じた感度の差を抑制した。
【0019】
次に、混合ガス比例計数管100の空間S内に封入される充填ガス117について説明する。本実施形態では、混合ガス比例計数管100の空間S内に封止される混合ガスとして、3HeとCH4(メタン)と、が所定混合比で混合され、封入されている。
【0020】
3Heガスは、中性子吸収核反応を示し、熱中性子に高い感度を示し、また中性子のエ
ネルギーが低いほど検出感度が大きい傾向を示す。
【0021】
一方、メタンガスに含まれる水素は、中性子と反跳反応をおこし、比較的高い中性子エネルギーに対する反応が検出しやすい。なお、メタンガスに代えて、エタン、または、プロパンの何れかを封入したもの、あるいは、メタン、エタン、または、プロパンの任意に
組み合わせて封入したものとすることも可能である。
【0022】
本実施形態では、混合ガス比例計数管100に封入する中性子検出用のガスの組み合わせについて検討した結果、3HeとCH4の混合を選択したが、以下にこの理由を説明する。3Heの熱中性子吸収反応は、反応断面積が大きくピーク状の出力スペクトルを形成す
る。CH4はそれに含まれる水素の反跳反応で比較的早い中性子を検出する。反跳反応の
出力は連続スペクトルを形成し、熱中性子吸収反応と弁別できる。本実施形態では、混合ガス比例計数管100に封入する3HeとCH4の混合ガスに、二次反応粒子の飛程を抑えるためのArを添加している。また、3HeとCH4の混合ガスの混合比は、Am−Be中性子に対して両反応から同程度の係数を得ることができるように設定した。また、その他の反応の抑制にも考慮し、その結果、3HeとCH4の構成比はガス分圧で1:30から1:60程度に設定した。また、混合ガス比例計数管100に封入するガスの全圧については、混合ガス比例計数管100のサイズと合わせて調整し、線量感度や二次粒子の飛程を考慮し6気圧とした。
【0023】
次に、本実施形態で用いる減速材111に係る条件設定について説明する。3HeとC
H4の両反応の線量評価への寄与のバランスを取るように、薄い減速材を混合ガス比例計
数管100に設け、計算によって最適地評価を行った。その結果、5mmから1cm程度の減速材で、両反応の線量への寄与が良いバランスになることが示された。
【0024】
本実施形態に係る混合ガス比例計数管100の仕様を表1に示す。
【0025】
【表1】
以上のように構成される本実施形態に係る混合ガス比例計数管100においては、約100keVを下回る低エネルギー中性子は、主に3He分子との衝突によって、3He(n,p)核反応により陽子pという荷電粒子を生成する。
【0026】
約100keVから約10MeVまでのエネルギーの中性子は、主にCH4分子との衝
突でH(n,n)p弾性散乱が起こって反跳陽子pという荷電粒子を生成する。
【0027】
10MeVを上回る高エネルギー中性子の場合はCH4分子との衝突でのH(n,n)
p弾性散乱による反跳陽子pに加えて、C(n,p),C(n,α),N(n,α)などの核反応による陽子pやα粒子という荷電粒子も生成する。
【0028】
これらの生成された荷電粒子が混合ガス比例計数管100中で電離作用により、イオン対を作り、それがガス増幅されることによって、電流パルスとして出力される。
【0029】
続いて中性子線量計の回路構成の概要について説明する。図2は本発明の実施形態に係る中性子線量計のブロック構成図である。中性子線量計には、図2のブロック構成図に示
すように、混合ガス比例計数管100に対して処理回路部200が接続される。処理回路部200は電源221、プリアンプ222、波形成形アンプ223、多段式波高弁別器224、カウンタ225、倍率器226、演算器227、表示器228を備えている。
【0030】
高圧電源221は、検出器の電極に対して1000V〜4000Vの高電圧を供給する。
中性子線量計の混合ガス比例計数管100の電極から取り出された電流出力による検出信号は、プリアンプ222へ入力される。
【0031】
プリアンプ222は、検出信号を波形成形アンプ223で利用できる波高とするまで増幅する。
【0032】
波形成形アンプ223は、検出信号を波高弁別器224で分別できる波高の波形となるように増幅した検出信号を出力する。これらプリアンプ222および波形成形アンプ223は本発明のアンプを構成するものである。
【0033】
波高弁別器224は、3段のディスクリレベルを有しており、入力された検出信号に対
して所定のディスクリレベル(下側の波高レベルから上側の波高レベルまで)のみの検出信号を出力する。これら第1波高弁別器224−1は3He(n,p)核反応のエネルギ
ー領域未満、第2波高弁別器224−2は3He(n,p)核反応に相当するエネルギー
領域、第3波高弁別器224−3は3He(n,p)核反応のエネルギー領域以上・の所
定範囲のディスクリレベルのみ出力するようになされている。
【0034】
この多段式波高弁別器224によりあるレベル以下の不要成分(ノイズ信号やγ線による信号)を取り除いて、中性子による所望の検出信号だけを取り出すことができる。波高レベル別に分別された複数の検出信号が出力される。
【0035】
カウンタ225は、波高レベル別に分別された複数の検出信号を入力して波高レベル別のカウント値を出力する。検出信号はパルス状であるためパルスを計数してカウント値を出力する。カウンタ225は、第1カウンタ225−1、第2カウンタ225−2、、第3カウンタ225−3という3段のカウンタを備える。これら第1カウンタ225−1、第2カウンタ225−2、第3カウンタ225−3はそれぞれ所定範囲のディスクリレベルのみカウントするようになされている。
【0036】
演算器227は、カウンタ225から出力されたカウント値から周辺線量当量(1cm線量当量)を出力する。最初に、第1カウンタ225−1と第3カウンタ225−3のカウント値を合計し、それの第2カウンタ225−2のカウント値に対する比を求める。次に
、周辺線量当量(1cm線量当量)測定のための閉凸空間にこれをあてはめ、周辺線量当量(1cm線量当量)と第2カウンタ225−2のカウント値との換算係数の範囲を求め
る。これに第2カウンタ225−2のカウント値を掛け合わせて、周辺線量当量の範囲を
出力する。
【0037】
表示器228は、演算器227からの出力を周辺線量当量(深さ1cm線量当量)の範囲として直読可能に表示される。以上説明した構成は、可搬型のケース内に収納される。このような表示器227は周辺線量当量(深さ1cm線量当量)の取り得る値の範囲を精度よく直読できるようにするものである。
以上のような本発明の中性子線量計によれば、従来のように単一の検出機器の中性子検出感度に対する校正定数が用いられるのではなく、3Heの中性子検出感度特性、CH4の中性子検出感度特性などの複数の検出ガスからの中性子検出感度特性に基づいて係数が決
められているので、実際の線量と表示線量との相違を抑制することが可能となる。
【0038】
また、本発明の中性子線量計によれば、混合ガス比例計数管100に封入する中性子検出用のガスの組み合わせとして、3HeとCH4の混合を選択することによって、線量計をコンパクトに構成することが可能となる。
【0039】
また、本発明の中性子線量計によれば、混合ガス比例計数管100における3HeとC
H4の混合ガスにArを添加したので、二次反応粒子の飛程を抑制することができ、より
正確な検出信号を得ることが可能となる。
【0040】
次に、以上のように構成される本発明の実施形態に係る中性子線量計の理論的なバックグラウンドについて説明する。本発明の実施形態に係る中性子線量計は位相ベクトル空間を用いた線量評価法に基づいている。
【0041】
一般に線量Qは、次式(1)の線形汎関数で表現される。
【0042】
【数1】
ここで、aは入射放射線の強度、q(E)はQをもたらすエネルギー依存の換算係数を示しており、φ(E)は規格化された入射放射線のエネルギースペクトルを示す。また、放射線検出器iの出力Niも次式(2)のように表現することができる。
【0043】
【数2】
ここで、gi(E)は測定量Niをもたらす検出器iの応答関数である。
いま、放射線の強度aの影響を相殺するために、QとNjの比である一次分数汎関数Kと
、NiとNjの比である一次分数汎関数Riを導入する。
【0044】
【数3】
【0045】
【数4】
これらから、(jK,jR1,jR2…jRj-1,jRj+1…jRi)を直交座標軸とする、i次
元空間Ωを導入する。Ωは任意の放射線スペクトルφ(E)に対応する点ν(E)の集合で位相空間になる。また、Ωは閉集合であり、ベクトルν(E)について加法の可換則と結合則、分配則、スカラー乗法の結合則を満足しているため、Ωはベクトル空間でもある。すなわち、Ωは位相ベクトル空間である。
【0046】
ここで、式(3)、(4)で係数aが相殺されていることから、放射線スペクトルaφ(E)に対応するベクトルν(aφ)は、放射線スペクトルφ(E)に対応するν(E)に等しい。さらに、合成スペクトルc1φ1(E)+c2φ2(E)に対応するベクトルv(φ1+2)は以下の式(5)、(6)ように示される。
【0047】
【数5】
【0048】
【数6】
これらから、点v(φ1+2)は、点v(φ1)と点v(φ2)を結ぶ線分上にある。さら
にこれを敷衍すると、あらゆるφ(E)が要素スペクトルφe(E)の線形合成で表せる
ならば、点v(φ)の全ては要素スペクトルφe(E)に対応する点v(φe)の集合で構成される閉凸空間ωに含まれることになる。φe(E)には単色エネルギースペクトルが
適用できるが、その他にも、線形合成で特定の中性子場を表現できる一連のスペクトルは要素スペクトルとなり得る。
【0049】
この閉凸空間ωにおいて、特定のjRiの集合が(i−1)次の条件を確定できるため
、ωにK軸方向の弦を特定する。この弦の範囲がjKの取り得る範囲である。これはすな
わち、各検出器出力の比によって、検出器jの出力Njから線量Qを導く換算値の範囲が、引いてはQの範囲が決まる。これが、多検出器法である。
【0050】
なお、今後の議論のために、位相ベクトル空間Ωは、複数検出器の目的線量に対する線量応答特性で構成されていることから、以下においては「レスポンス空間」とよぶ。また、特定のスペクトルに対して形成される閉凸空間ωは「閉凸空間」とよぶことにする。この方法は線量測定一般に適用できるが、本明細書では、中性子線量の評価への適用を実施形態としている。
【0051】
次に、本実施形態における混合ガス比例計数管100の応答試験について説明する。前述した混合ガス比例計数管100を実際に作成して、その応答を確認した。この混合ガス比例計数管100について、いくつかの中性子場で応答特性試験を行ったので、その結果を示す。
【0052】
熱中性子に対する応答は、東大の黒鉛パイルで確認した。図3にその結果を示す。3H
eの熱中性子吸収反応の全エネルギーピークが確認できた。エネルギー分解能が悪い点については、その後の試験では印加電圧の調整などで改善した。
【0053】
また、加速器中性子(JAEA原科研FRS)を用いて速中性子に対する応答と、2種類の反応の弁別性能の確認を行った。結果の例を図4に示す。
【0054】
分解能がやや悪いが、熱中性子の吸収ピークと適切な最大エネルギーの反跳陽子の連続スペクトルを確認することができた。また、ベースライン法により熱中性子吸収反応のスペクトルと反跳反応のスペクトルを弁別することができた。両反応の弁別の状況を図5に示す。
【0055】
次に、単色中性子に対する応答による閉凸空間について説明する。前述した混合ガス比例計数管100の応答特性をNRESP−ANTを用いた計算で詳細に評価し、レスポンス空間中に閉凸空間を描いた。最初に、単色スペクトル中性子を要素スペクトルとした。エネルギー範囲は1×10-3〜6.3×108eVとし、60群に分割した。計算結果か
ら各反応の出力スペクトルを抽出し、レスポンス空間に混合ガス比例計数管の閉凸空間を描き出した。それぞれ、3Heの吸収反応の計数を検出器出力(CT)、水素の弾性散乱の計数を別の検出器出力(CF)とした。また、評価対象値は周辺線量当量(H*(10))とした。CTを共通の分母として、レスポンス空間を形成した。図6にそのレスポンス空
間と閉凸空間を示す。単色スペクトル中性子に対する応答により、レスポンス空間中に閉凸空間を形成できた。
【0056】
図6(a)は混合ガス比例計数管100のレスポンス空間に形成した、単色エネルギー中性子に対する応答による閉凸空間であり、各プロットは、各入射中性子に対する応答で求まる点(CF/CT,H/CT)で、点線は閉凸空間の境界を表す。また、図6(b)は
図6(a)の拡大図である。
【0057】
図6(b)において、CF/CT=10の場合にH*(10)/CTの取り得る範囲は、0.002〜5となる。この条件では線量換算係のとして取り得る値の可能性が2桁の幅を有することを意味し、線量評価として好ましくない。これは、閉凸空間を数学的に求めたためであり、物理的に不適切な中性子エネルギースペクトルを評価の範囲に入れているためであると考えられる。
【0058】
次に、中性子源の特定による閉凸区間の改善について説明する。前項では汎用的な閉凸空間を描き出したが、ここでは、核分裂中性子を線源とする中性子場に評価対象を絞り込んだ。核分裂中性子が減速や増幅の作用を受けて変形していく過程を要素スペクトルとして適用してみた。
核分裂中性子のエネルギースペクトルの変形の例として、原子炉内中性子スペクトルF(u)の遷移を採用した。F(u)について小佐古が示した以下の下記(7)に示す一般式を採用した。
【0059】
【数7】
図7に、式(7)で導き出した中性子スペクトル群を示す。これらの中性子スペクトルに対する混合ガス比例計数管100の応答をNRESP−ANTで計算し、それらの結果をレスポンス空間中に配置したのが、図8である。図8(a)は、式(7)で表される中性子スペクトルを要素スペクトルとする閉凸空間であり、各プロットは図7の中性子スペクトルへの応答に対応する点である。また、閉凸空間の境界を実線で示している。点線は図6で示した閉凸空間であり、図8(b)は図8(a)の拡大図である。
【0060】
式(7)で与えられたエネルギースペクトルに対応する点は、すべて単色中性子に対する応答で形成された閉凸空間の内側に位置した。さらに、式(7)に対応するプロット群が構成する閉凸空間は大幅に縮約されていることが確認できる。例えば、CF/CT=10の場合に、H*(10)/CTの取り得る範囲は、0.02〜0.16になった。
【0061】
核分裂中性子エネルギースペクトルの変形について、別の手法でも評価した。MCNP−5を用いて、鉄とコンクリートにより核分裂中性子スペクトルが軟化していく過程の34ケースの中性子エネルギースペクトルを求めた。それらに対する計数管の応答の評価結果を同様にレスポンス空間中に配置したものを図9に示す。図9(a)はMCNPで計算された減速された核分裂中性子スペクトルに対する応答の配置である。点線は図6で示した閉凸空間の境界、また実線は図7で示した縮約された閉凸空間の境界を示す。図9(b)は図9(a)の拡大図である。すべてのケースは縮約された閉凸空間中にあることが示された。また、MCNP−5で計算した中性子スペクトルによる出力集合もまた閉凸区間を作り、さらに縮約が進んでいる。
【0062】
また、核分裂中性子を起因とする中性子スペクトルの85のデータを参照し、それぞれにおける応答を求め、結果をレスポンス空間にプロットした(図10参照)。一部を除いて、ほとんどのケースは縮約した閉凸空間の内側にあることが示された。縮約閉凸空間に入らなかったケースはいずれも(7)式の想定から外れていることが確認された。
【0063】
図10(a)核分裂中性子場のスペクトル例に対する応答の配置を示す図である。点線は図6で示した閉凸空間の境界を示し、また実線は図8で示した縮約された閉凸空間の境界を示す。図10(b)は図10(a)の拡大図である。
【0064】
以上より、CF/CTの値に基づいてH*(10)/CTが限定され、したがってH*(1
0)の取り得る範囲を決めることができた。
【0065】
次に、線量評価の検討を行う。閉凸空間を用いた線量評価では、取り得る線量値の幅が提供できたが、実用的には、一つの線量値を決めることが求められると考えられる。この測定における閉凸空間は弓状の形状をしており、測定結果はこの内部に分布すると考えられる。代表値としては、閉凸空間の上側を形成する弦の部分を使うことが適切である。
【0066】
まず、核分裂中性子を用いた応答試験について説明する。実際にいくつかの核分裂中性子場で混合ガス比例計数管の応答試験を行った。京大炉での実験結果を図11に示す。測定地点の中性子スペクトル測定結果に基づきその場に固有の線量換算係数を評価して、H/CT、CF/CTの値の関係を表2に示す。線量換算係数とH/CT値は相関を示しているように見える
【0067】
【表2】
【符号の説明】
【0068】
100・・・混合ガス比例計数管、110・・・減速材、111・・・円筒状金属体、114・・・端板、115・・・絶縁体、116・・・芯線、117・・・充填ガス、200・・・処理回路部、221・・・電源、222・・・プリアンプ、223・・・波形成形アンプ、224・・・多段式波形分別器、225・・・カウンタ、226・・・倍率器、227・・・演算器、228・・・表示器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3HeとCH4とが所定の混合比で混合され封入される混合ガス比例計数管と、
前記混合ガス比例計数管からの検出信号を波高レベル毎に分別する分別器と、
前記分別器で分別された波高レベル毎の検出信号をカウントするカウンタと、
前記カウンタでカウントされたカウント値を用いて線量を求める演算器、を有する中性子線量計において、
前記演算器で用いる係数は、3Heの中性子検出感度特性と、CH4の中性子検出感度特性と、1cm深部の線量当量との相関に基づいて決定されることを特徴とする中性子線量計。
【請求項2】
前記混合ガス比例計数管にはArが封入されることを特徴とする請求項1に記載の中性子線量計。
【請求項1】
3HeとCH4とが所定の混合比で混合され封入される混合ガス比例計数管と、
前記混合ガス比例計数管からの検出信号を波高レベル毎に分別する分別器と、
前記分別器で分別された波高レベル毎の検出信号をカウントするカウンタと、
前記カウンタでカウントされたカウント値を用いて線量を求める演算器、を有する中性子線量計において、
前記演算器で用いる係数は、3Heの中性子検出感度特性と、CH4の中性子検出感度特性と、1cm深部の線量当量との相関に基づいて決定されることを特徴とする中性子線量計。
【請求項2】
前記混合ガス比例計数管にはArが封入されることを特徴とする請求項1に記載の中性子線量計。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−276561(P2010−276561A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131722(P2009−131722)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】
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