説明

中性脂肪又はコレステロールの定量方法

【課題】 各血漿リポ蛋白質に含まれる中性脂肪又はコレステロールを簡単な操作で定量可能とする。
【解決手段】 試料溶液を加水分解酵素で処理し、脂溶性色素を添加した後、電気泳動により血漿リポ蛋白質を分画し、得られるバンドの発色強度を測定する。電気泳動後に得られるバンドの発色強度から、各バンドに対応する血漿リポ蛋白質に含まれる中性脂肪又はコレステロールを定量する。加水分解酵素としては、リポ蛋白質リパーゼ又はコレステロールエステラーゼを用いる。基板と、基板の表面に形成されたゲルと、ゲルを帯状に分割する仕切り壁と、分割されたゲルの表面に各々設けられた凹部とを有する電気泳動チップを用いて電気泳動を行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気泳動を利用して中性脂肪又はコレステロールを定量する定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血中脂質とは、食物から取り込まれ、又は体内で生合成され、血液中に存在するトリアシルグリセロール、コレステロール、コレステロールエステル、及びリン脂質のことを言う。これら脂質は疎水性であり単独では水に溶けないため、親水性のアポリポ蛋白質と呼ばれる血漿蛋白質に取り囲まれ、血漿リポ蛋白質と呼ばれる球状ミセル様粒子の形態で血中に存在している。血漿リポ蛋白質の比重や大きさは様々であり、これを超遠心法等によって分離すると、比重の軽い順からカイロミクロン(chylomicron:CM)、超低密度リポ蛋白質(very low density lipoprotein:VLDL)、低密度リポ蛋白質(low density lipoprotein:LDL)、高密度リポ蛋白質(high density lipoprotein:HDL)等に分画することができる。
【0003】
ところで近年、日本人の食卓からは栄養バランスの取れた伝統的な和食が消え、食物繊維やビタミン類に乏しく高脂質、高タンパク質の洋食が並ぶようになってきている。このような食事の摂取に起因する血清脂質の増加や、運動不足及び社会生活におけるストレス等が原因となり、いわゆるメタボリックシンドロームの患者が急増している。
【0004】
メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪型肥満であり、且つ、血糖値、血圧、血中脂質のうち2項目以上の異常が同一患者に重複する病態のことを言い、動脈硬化や心筋梗塞、脳卒中などの発症リスクが健常者に比べて高いことで知られている。メタボリックシンドロームは中高年に多くみられるが、ファーストフードの普及や清涼飲料水の過剰摂取等が原因となって低年齢層にみられることもあり、大きな社会問題になっている。このため、メタボリックシンドロームの発症を防ぐことは、国民の健康維持管理に必須であることは言うまでもなく、年々増大する医療費を削減する観点からも重要である。そして、メタボリックシンドロームの病態の1つである高脂血症を早期発見し、入院加療時のモニタリングを行うため、さらには、原発性高脂血症等のある種の疾患においては特定の血漿リポ蛋白質に含まれる中性脂肪含量又はコレステロール含量が異常値を示すことがあることから、血漿リポ蛋白質を分画し、各血漿リポ蛋白質中の中性脂肪又はコレステロールを定量する方法の開発が求められている。
【0005】
超遠心法は最も古くから行われている血漿リポ蛋白質の分離操作であり、血漿リポ蛋白質の分画及び分類の基準となった方法である。また、これら血漿リポ蛋白質を分画する手段として、高速液体クロマトグラフィー(high-performance liquid chromatography:HPLC)法も報告されている。液体クロマトグラフィー法は主に血漿リポ蛋白質を精製する手段として用いられてきたが、これよりさらに分離検出能の高いHPLCによれば、迅速な定量分析が実現される。
【0006】
さらに、血漿リポ蛋白質の分画は電気泳動によって行うこともできる。例えば、電気泳動前又は泳動後に脂溶性色素を添加し、バンドの発光強度を測定することで血漿リポ蛋白質を分画定量する方法が知られている。また、脂質として中性脂肪(トリグリセリド)を定量する方法として、泳動後、トリグリセリド染色用酵素としてグリセリンキナーゼ、グリセロール−3−リン酸脱水素酵素、及びジアホラーゼを順次作用させ、専用ソフトを備えたデンシトメーターで発色強度を測定する方法も知られている(例えば特許文献2参照)。
【0007】
また、血漿リポ蛋白質を分画する操作を行うことなく各種血漿リポ蛋白質における脂質を定量する酵素法(直接法)も提案されている。例えば特許文献1においては、リポ蛋白質のうちHDL中及びVLDL中のコレステロールを優先的に反応させ、その後、LDL中のコレステロールを定量する方法が提案されている。また、特許文献2においては、例えば遊離グリセロールを消去した後、特定のリポ蛋白質中のトリグリセロールを定量する方法が提案されている。さらに、特許文献3においては、超低比重リポ蛋白及び/又は中間比重リポ蛋白に含まれるトリグリセライドを選択的に定量する方法として、選択的反応促進物質の存在下、トリグリセライドより過酸化水素又は還元型補酵素を生成させる一連の反応を触媒する酵素を作用させ、生成する過酸化水素又は還元型補酵素の測定を行うことが提案されている。これらのような直接法は、HDL及びLDL中のコレステロール等の定量が可能であることから、臨床検査の分野においては日常的な検査方法として広く用いられている。
【特許文献1】特開平9−313200号公報
【特許文献2】国際公開第00/43537号パンフレット
【特許文献3】国際公開第00/60112号パンフレット
【非特許文献1】日本生化学会編、「続生化学実験講座3 膜脂質と血漿リポタンパク質(下)」、東京化学同人、1986年、595−641頁
【非特許文献2】金井正光編、「臨床検査法提要 改訂32版」金原出版、2005年、548−551頁
【非特許文献3】Liu MY, McNeal CJ, Macfarlane RD, 2004, Electrophoresis, 25,2985-2995pp
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1〜3に記載されるような直接法(酵素法)は、複数種類の酵素が必要となり試薬代が高額になること、酵素反応による発色に基づいて定量を行うため厳密に管理された条件下で反応を進めなければならないこと、検出には分光光度計のように特殊で大掛かりな装置を要することから臨床検査センターや大病院の検査室等へ試料を集約しなければならないこと等の多くの不都合がある。
【0009】
一方、特許文献1〜3のように血漿リポ蛋白質の分画操作が必要な方法にも様々な問題がある。例えば超遠心法では、超遠心分離器が極めて高価で大型であること、分析に長時間(24〜48時間)を要すること、比較的多量のサンプル(1mL以上)が必要なこと等の問題がある。HPLC法には、用いるHPLC装置が高価であり、分析前の試料の調製が煩雑である等の問題がある。
【0010】
また、特許文献2に記載されるように、泳動後、酵素反応による発色強度を観測する方法では、例えば中性脂肪を定量する場合には複数種類の酵素を順次作用させる必要があるため、分析操作が煩雑となるばかりか、前述の分離操作を必要としない直接法(酵素法)と同様に反応条件の厳密な制御や大掛かりな装置が必要となる等の問題も生じる。
【0011】
さらに、脂溶性色素で前染色した血清サンプルを電気泳動する方法は、簡便な血清リポタンパク質の検出方法として従来から行われてきたが、血清リポタンパク質中に含まれる中性脂肪とコレステロールを分別して染色ができないという問題がある。
【0012】
本発明はこのような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、各血漿リポ蛋白質に含まれる中性脂肪又はコレステロールを簡単な操作で定量することが可能な中性脂肪又はコレステロールの定量方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述の課題を解決するために本発明者らは長期にわたり検討を重ねてきた。その結果、血漿リポタンパク質に対してリポ蛋白質リパーゼやコレステロールエステラーゼ等の加水分解酵素を作用させた後脂溶性色素にて染色したものを電気泳動により血漿リポ蛋白質を分画すると、バンド強度が中性脂肪又はコレステロール含量に応じて減衰するという予想外の知見が得られ、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明に係る中性脂肪又はコレステロールの定量方法は、試料溶液を加水分解酵素で処理し、脂溶性色素を添加した後、電気泳動により血漿リポ蛋白質を分画し、得られるバンドの発色強度を測定することを特徴とする。
【0015】
電気泳動前に加水分解酵素として例えばリポ蛋白質リパーゼによる酵素処理と脂溶性色素による染色を行い、電気泳動を行うと、各血漿リポ蛋白質中の中性脂肪濃度が高くなるにつれて各バンドの発色強度が弱くなる傾向がみられる。このため、電気泳動後のバンドの発色強度を指標として中性脂肪の定量が実現される。また、加水分解酵素としてコレステロールエステラーゼを用いると、各血漿リポ蛋白質中のコレステロール濃度が高くなるにつれて各バンドの発色強度が弱くなる傾向がみられる。このため、電気泳動後のバンドの発色強度を指標としてコレステロールの定量が実現される。
【0016】
また、本発明の定量方法に含まれる酵素処理工程は、電気泳動の前処理として行われるため、例えば検出時に酵素反応をさせるときのような厳密な条件制御は不要である。さらに、分光光度計や超遠心器に比べて電気泳動装置は小型であり、サンプル量も少量ですむ。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る中性脂肪又はコレステロールの定量方法によれば、厳密な条件制御が不要であり、各血漿リポ蛋白質に含まれる中性脂肪又はコレステロールを簡単に定量することができる。また、本発明によれば、大型な装置等が不要であるため、小規模設備やベッドサイドにて中性脂肪又はコレステロールを定量することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る中性脂肪又はコレステロールの定量方法について詳細に説明する。
【0019】
本発明では、先ず、試料溶液を加水分解酵素で処理し、脂溶性色素で染色した後、電気泳動により血漿リポ蛋白質を分画する。その後、電気泳動後に得られるバンドの発色強度から、分画された血漿リポ蛋白質に含まれる中性脂肪又はコレステロールを定量する。
【0020】
先ず、試料溶液を用意する。試料溶液としては特に限定されるものではないが、通常は血清、全血等の血液又は血液成分、さらにはこれらを含む溶液等が用いられる。
【0021】
次に、試料溶液に加水分解酵素を添加し、試料溶液中の脂質を酵素反応により分解する。このとき、定量の対象となる脂質に応じて、最適な加水分解酵素を選択する必要がある。例えば、中性脂肪を定量する場合には、加水分解酵素として、中性脂肪の主成分であるトリアシルグリセロールを脂肪酸とジアシルグリセロールとに加水分解するリポ蛋白質リパーゼ等を試料溶液に添加し、酵素反応させる。なお、コレステロールを定量する場合には、加水分解酵素として、コレステロールエステルをコレステロールと脂肪酸とに加水分解するコレステロールエステラーゼ等を用いればよい。
【0022】
酵素反応後、脂溶性色素を試料溶液に添加し、染色する。脂溶性色素としては、脂質を染色することが可能な公知の脂溶性色素を用いることができる。例えば、ズダンブラックB、ビクトリアブルーB、ナイルブルーA等が挙げられる。
【0023】
染色後、電気泳動を行う。血漿リポ蛋白質は比重によってカイロミクロン、LDL、HDL等に分類され、それぞれ脂質組成、構成タンパク質等が異なり、表面負電荷や分子量も異なっている。このため、電気泳動により、血漿リポ蛋白質をカイロミクロン、LDL、HDL等に分画することができる。電気泳動の支持体としては、アガロースゲル、ポリアクリルアミドゲル、ろ紙、酢酸セルロース膜等、公知の支持体を用いることができる。
【0024】
電気泳動後、得られたバンドの発色強度を調べる。発色強度を調べるには、例えばデンシトメーター等を用いればよい。
【0025】
目的の血漿リポ蛋白質中の中性脂肪又はコレステロールの定量は、具体的には、特定の血漿リポ蛋白質に含まれる中性脂肪濃度又はコレステロール濃度とバンド発色強度との関係を予め求めておき、実際に測定したバンドの発色強度と比較することにより行うことができる。
【0026】
ところで、加水分解酵素を作用させることなく脂溶性色素で染色し、電気泳動を行って得られるバンド強度は、そのバンドに含まれる血漿リポ蛋白質中の中性脂肪及びコレステロールの総量に比例している。
【0027】
これに対して本発明では、電気泳動の前に加水分解酵素による処理を行うことで、分画された血漿リポ蛋白質中の中性脂肪の濃度が増加するにつれて発色強度が減衰していく傾向が観察される。言い換えると、分画された血漿リポ蛋白質中の中性脂肪濃度又はコレステロール濃度が低いほど発色強度が強くなる。このように血漿リポ蛋白質中の中性脂肪濃度又はコレステロール濃度と発色強度との関係が加水分解酵素処理を行わない場合と逆になる理由は不明であるが、前記傾向は実験により確認されている。したがって、電気泳動により得られる特定のバンドの発色強度を調べることで、目的の血漿リポ蛋白質に含まれる中性脂肪又はコレステロールを定量することが可能となる。特に、血漿リポ蛋白質としてLDL中の中性脂肪を定量する場合に本発明は有効である。
【0028】
以下、前述のような定量方法の電気泳動において用いられる電気泳動チップについて説明する。図1に示す電気泳動チップ1は、アガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動等のように支持体としてゲルを用いる電気泳動に用いられるチップである。図1(a)は平面図、図1(b)は(a)中A−A線における断面図である。
【0029】
電気泳動チップ1の大きさは、定量を迅速に行う観点から、例えば面積20cm以下に小型化されていることが好ましい。このように小型化することで、試薬量を大幅に抑えることができるとともに、迅速な分析が可能となる。図1においては、例えば大きさが3cm×5cmであり、幅0.5cm程度、長さ3cm程度のレーンが7本形成された電気泳動チップ1を示したが、電気泳動チップ全体の大きさやレーン数は展開する試料等に応じて適宜定めればよい。電気泳動チップ1は、シリコン等からなる基板2の表面にゲル3が形成され、所定間隔をもって互いに平行に配列された線状の仕切り壁4によってゲル3が帯状に分割された構成とされている。帯状に分割されたゲル3の各々の表面であって、長手方向の一端近傍には、試料を注入するための凹部5が設けられている。
【0030】
この電気泳動チップ1を用いて電気泳動を行う際には、電気泳動チップ1を電気泳動装置等に上向きにセットするとともに、加水分解酵素処理及び染色後の試料を凹部5に注入し、その後、ゲル3の両端に電圧を印加し、各血漿リポ蛋白質を泳動分画する。
【0031】
図1に示す電気泳動チップ1は、以下のように作製される。先ず、基板2上にレジスト等によって仕切り壁4を形成する。また、凸部が複数形成された平板を用意する。凸部の高さ、位置、形状等は、ゲル3の表面に形成される凹部5の深さ、位置、形状等に対応させている。次に、仕切り壁4及び凸部が形成された面を内側にして基板2と平板とを対向配置し、これらの間にゲル3を作製する。このとき、仕切り壁4はスペーサとなる。その後、凸部を有する平板を剥離することで、凸部に対応した凹部5がゲル3の表面に設けらるとともに仕切り壁4によってレーン毎にゲル3が分割された電気泳動チップ1が得られる。
【0032】
以上のような電気泳動チップ1は、小型で泳動距離が短いため、本発明の定量方法を迅速に行うことができる。また、電気泳動チップ1は小型であることから、例えば一対のガラス平板間にゲルを作製するような大型電気泳動装置に比較して緩衝液等の試薬の使用量は少量でよく、分析コストを大幅に低減することができる。さらに、試料が泳動されるレーンの間に仕切り壁4が存在するため、隣り合うバンド同士の干渉が防止され、バンドの発光強度を正確に知ることができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例について、実験結果に基づいて説明する。
【0034】
<中性脂肪の分析>
以下の実験では、血漿リポ蛋白質の1種であるLDL中の中性脂肪に着目し、加水分解酵素処理による影響を調べた。
【0035】
採血した血液を37℃で1時間静置し、得られた血清を試料溶液とした。試料溶液にリポ蛋白質リパーゼ(EC.3.1.1.34)を加え、室温下で酵素処理を行った。なお、本実験においては、リポ蛋白質リパーゼとして、和光純薬社製の酵素キット(LタイプワコーTG・M 酵素発色液A465−09791)添付試薬を添加した。
【0036】
反応開始から1時間後、試料溶液に各種の脂溶性色素を添加して染色した。本実験では、脂溶性色素として、スーダンブラックB、ビクトリアブルーB、又はナイルブルーAを用いた。
【0037】
一方、一対のガラス板(10.5cm×11cm)の間に平板状の2.3%ポリアクリルアミド−1%アガロースゲルを作製した。ゲル作製の際、櫛歯状の樹脂製板を配し、各レーンを構成するゲルの端面にウェルを形成した。
【0038】
形成したウェルに染色後の試料溶液を注入し、ゲルを泳動装置にセットし、5mA定電流の条件で電気泳動を行った。電気泳動装置としては、マリソル社製の商品名マイクロスラブ電気泳動装置を用いた。なお、比較として、試料溶液(血清)にリポ蛋白質リパーゼを添加せず、脂溶性色素のみを添加した後、ゲルに設けたウェルに注入し、同様の条件で電気泳動を行った。泳動終了後のゲルの写真を図2に示す。なお、図2中、レーン1、2及び7では脂溶性色素としてズダンブラックBを添加した試料を泳動しており、このうちレーン1及び7ではリポ蛋白質リパーゼ処理無しの試料、レーン2ではリポ蛋白質リパーゼ処理有りの試料を泳動した。レーン3及びレーン4では脂溶性色素としてビクトリアブルーBを添加した試料を泳動しており、このうちレーン3ではリポ蛋白質リパーゼ処理無しの試料を、レーン4ではリポ蛋白質リパーゼ処理有りの試料を泳動した。レーン5及びレーン6では脂溶性色素としてナイルブルーAを添加した試料を泳動しており、このうちレーン5ではリポ蛋白質リパーゼ処理無しの試料を、レーン6ではリポ蛋白質リパーゼ処理有りの試料を泳動した。
【0039】
図2中、例えばレーン1に示されるように、各血漿リポ蛋白質は陽極に向かって泳動され、ウェルに近い側からカイロミクロン(CM)、低密度リポ蛋白質(LDL)、高密度リポ蛋白質(HDL)の順に対応したバンドが得られていることがわかる。この中で、脂溶性色素としてズダンブラックBを用いたレーン1,2及び7のLDLに対応したバンドに着目すると、リポ蛋白質リパーゼ処理を行っていないレーン1のLDLに対応するバンドにおいては中性脂肪が高濃度に含まれていることを示すズダンブラックBの着色が明瞭に観察されるのに対し、リポ蛋白質リパーゼ処理を行ったレーン2のLDLのバンドにおいてはズダンブラックBの着色がほとんど消失していることが確認された。他の脂溶性色素であるビクトリアブルーB又はナイルブルーAを用いた場合もスーダンブラックBと同様の傾向が認められた。なお、中性脂肪含量の高いカイロミクロンにおいて、加水分解酵素処理によってバンドの発色強度が高まった理由は明確ではないが、酵素処理によって血漿リポタンパク質と結合しない余剰の色素がゲル内へ入ることができずに元の位置にとどまっているものと推測される。
【0040】
以上のように、リポ蛋白質リパーゼ処理を行って染色した後で電気泳動を行うと、LDLに中性脂肪が含まれていることを示す脂溶性色素の発色強度が弱くなるという予想外の結果を得ることができた。したがって、この傾向に基づきLDL中の中性脂肪の定量が可能となると推測される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1(a)は電気泳動チップの平面図、図1(b)は(a)中A−A線における断面図である。
【図2】本発明の定量方法により血清中の血漿リポ蛋白質を分画した後のゲルの写真である。
【符号の説明】
【0042】
1 電気泳動チップ、2 基板、3 ゲル、4 仕切り壁、5 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液を加水分解酵素で処理し、脂溶性色素を添加した後、電気泳動により血漿リポ蛋白質を分画し、得られるバンドの発色強度を測定することを特徴とする中性脂肪又はコレステロールの定量方法。
【請求項2】
前記電気泳動後に得られるバンドの発色強度から、各バンドに対応する血漿リポ蛋白質に含まれる中性脂肪又はコレステロールを定量することを特徴とする請求項1記載の中性脂肪又はコレステロールの定量方法。
【請求項3】
前記加水分解酵素がリポ蛋白質リパーゼ又はコレステロールエステラーゼであることを特徴とする請求項1又は2記載の中性脂肪又はコレステロールの定量方法。
【請求項4】
基板と、前記基板の表面に形成されたゲルと、前記ゲルを帯状に分割する仕切り壁と、分割された前記ゲルの表面に各々設けられた凹部とを有する電気泳動チップを用いて前記電気泳動を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の中性脂肪又はコレステロールの定量方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−89363(P2008−89363A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−268856(P2006−268856)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、知的創造による地域産学官           連携強化プログラム「文部科学省 知的クラスター創成事業」委           託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出           願
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)
【Fターム(参考)】