説明

中空ばねおよびその製造方法

【課題】耐久性の向上を図ることができるのはもちろんのこと、ばね材の内面研磨の効率化を図ることができる中空ばねおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】ブラスト装置100には、直線状でかつ中空状のばね材Wを用いる。ばね材Wの長さは、1.5m以上3.5m以下、内径は10mmΦ以下に設定されている。ばね材Wの内面研磨では、第1ブラスト処理および第2ブラスト処理を順次行う。第1ブラスト処理では、研磨材を、ばね材Wの開口部Waへ吐出するとともに開口部Wbから吸引し、第2ブラスト処理では、研磨材を、ばね材Wの開口部Wbへ吐出するとともに開口部Wbから吸引する。これにより、ばね材Wの内面がラッパ状になることを防止することができる。吐出圧力や吸引圧力等を適宜設定することにより、ばね材Wの内面の中央部と両端部とで研削量差が生じることを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空ばねおよびその製造方法に係り、特に内面の研磨技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の軽量化を図るために、ばね部品として中空コイルばね等の中空ばねを用いることが提案されている(たとえば特許文献1)。特許文献1の中空コイルばねは、たとえば熱間静水圧押し出し工程、皮削り工程、圧延工程、コイル成形工程、熱処理工程、端面研削工程、ショットピーニング工程、セッチング工程、および、塗装工程を順次行うことにより製造される。熱間静水圧押し出し工程では、シームレスのばね鋼管を形成している。中空コイルばねでは、シームレスのばね鋼管等のばね材を用いているから、ねじり応力および曲げ応力に対する疲労強度の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−127227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、中空コイルばねの素材として、径が小さくて、かつ肉厚が厚いばね材が用いられるから、加工時に表面に細かい傷が生じやすい。そのような傷は製品強度を低下させるため、傷を除去する必要がある。特に、近年、耐久性を向上させるために、中空コイルばねの内面の傷の除去が要求されており、たとえば表面粗さRaを20μm以下に低減することが望まれている。
【0005】
そこで、表面に研磨紙を貼付したベルトをばね材内に挿入し、そのベルトをばね材内で往復させることにより、ばね材内面を研磨することが考えられる。しかしながら、この手法では、非常に時間がかかり、量産には適さない。
【0006】
したがって、本発明は、耐久性の向上を図ることができるのはもちろんのこと、ばね材の内面研磨の効率化を図ることができる中空ばねおよびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ブラスト処理による内面研磨を中空ばねのばね材に適用することについて鋭意検討を行った。従来のブラスト処理による内面研磨は、長さが長く、かつ内径が小さな中空ばねのばね材等の細径管に適用することができなかったが、本発明者は、ブラスト処理の手法を工夫することにより、長さが1.5m以上3.5m以下、内径が10mmΦ以下(0を含まない)であるばね材にブラスト処理を適用することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の中空ばねの製造方法は、直線状でかつ中空状のばね材を準備し、ばね材の内面に向けて研磨材を吐出して吸引するブラスト処理を行うことにより、ばね材の内面を研磨し、ばね材の準備では、ばね材の長さを1.5m以上3.5m以下、内径を10mmΦ以下(0を含まない)に設定し、研磨では、ブラスト処理として第1ブラスト処理および第2ブラスト処理を順次行い、第1ブラスト処理では、研磨材を、ばね材の一端部へ吐出するとともに他端部から吸引し、第2ブラスト処理では、研磨材を、ばね材の他端部へ吐出するとともに一端部から吸引することを特徴とする。
【0009】
本発明の中空ばねの製造方法では、ばね材の内面に向けて研磨材を吐出して吸引するブラスト処理を行うことにより、ばね材の内面を研磨しているから、ばね材の内面の傷を除去することができ、この場合、表面粗さRaを20μm以下に低減することができる。したがって、中空ばねの耐久性の向上を図ることができる。また、ブラスト処理を用いているから、ばね材の内面研磨の効率化を図ることができ、その結果、量産可能となる。
【0010】
ここで研磨では、ばね材が長い場合、ばね材の一端部のみから研磨材を吐出するとき(すなわち、研磨材の吐出方向を1方向に設定するとき)、ばね材の内面の他端部側(吸引側)が一端部側(吐出側)よりも大きく研削され、ばね材の内面がラッパ状になる虞がある。
【0011】
これに対して本発明の中空ばねの製造方法では、第1ブラスト処理において、研磨材をばね材の一端部へ吐出するとともに他端部から吸引し、次いで、第2ブラスト処理において研磨材をばね材の他端部へ吐出するとともに一端部から吸引している。このように研磨材の吐出方向を2方向に設定しているから、ばね材の内面がラッパ状になることを防止することができる。ここで本発明の中空ばねの製造方法では、第1ブラスト処理および第2ブラスト処理において、ばね材の内面の平行度および表面粗さや加工速度等に応じて、吐出圧力や、吸引圧力、研磨材の密度および粒度、処理時間等を適宜設定することにより、ばね材の内面の中央部と両端部とで研削量差が生じることを抑制することができる。
【0012】
具体的には、第1ブラスト処理および第2ブラスト処理の処理時間が短い場合、両端部が中央部よりも大きく削れる。そこで、表面が滑らかになるほど研削効果が小さくなるから(すなわち、表面が粗くなるほど研削効果が大きくなるから)、それら処理時間を長くすると、両端部よりも表面が粗い中央部を、両端部よりも大きく研削することができるから、内面の中央部と両端部とでの研削量差を小さくすることができる。第1ブラスト処理および第2ブラスト処理の処理時間を適宜設定することにより、たとえばばね材の内面の中央部の内径研削量を190μmとし、両端部の内径研削量を200μmとすることができ、中央部と両端部とで内径研削量差を10μmとすることができ、中央部と両端部での内径研掃量の差を顕著に小さくすることができる。
【0013】
以上のように本発明の中空ばねの製造方法では、ブラスト処理の手法を工夫することにより、従来技術ではブラスト処理を行うことができなかった細径管であるばね材に、ブラスト処理による内面研磨を行うことができ、その内面全体で研削量の均一性を向上させることができる。
【0014】
本発明の中空ばねの製造方法は、種々の構成を用いることができる。たとえばばね材に研磨を行った後、ばね材をコイル状に成形することができる。
【0015】
本発明の中空ばねは、本発明の中空ばねの製造方法により製造されることを特徴とする。本発明の中空ばねは、たとえば中空コイルばねに限定されず、種々の変形が可能である。たとえば、直線状の中空ばねでもよいし、曲げ部を有する中空ばねでもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の中空ばねの製造方法によれば、耐久性の向上を図ることができるのはもちろんのこと、ばね材の内面研磨の効率化を図ることができ、内面全体で研削量の均一性を向上させることができる。本発明の中空ばねによれば、耐久性の向上を図ることができるのはもちろんのこと、内面全体で研削量の均一性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る内面研磨方法が適用されるブラスト装置の概略構成を表す図である。
【図2】第1実施例での渦流探傷試験結果を表し、各試料の最大信号Vp-pのデータを表すグラフである。
【図3】第1実施例での断面観察結果を表し、各試料の内面傷の深さのデータを表すグラフである。
【図4】第1実施例での断面観察結果を表し、各試料の内面傷のアスペクト比のデータを表すグラフである。
【図5】第1実施例の試料11の表面観察結果を表すSEM写真である。
【図6】第1実施例の試料12の表面観察結果を表すSEM写真である。
【図7】第1実施例の試料13の表面観察結果を表すSEM写真である。
【図8】第1実施例の試料14の表面観察結果を表すSEM写真である。
【図9】第1実施例の比較試料11の表面観察結果を表すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(1)ブラスト装置の構成
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る内面研磨方法が適用されるブラスト装置の概略構成を表す図である。ブラスト装置100は、たとえばコンプレッサ用配管101を通じて圧縮空気が供給される加圧タンク102を備えている。加圧タンク102では、研磨材と圧縮空気が混合される。加圧タンク102には吐出側バルブ103が設けられ、吐出側バルブ103には、たとえば中空状のばね材Wの一端部の開口部Waが接続される。ばね材Wの開口部Waへは、吐出側バルブ103から研磨材が吐出される。吐出圧力は、たとえばコンプレッサ用配管101を通じて供給される圧縮空気の圧力や吐出側バルブ103の内径等により調整される。
【0019】
吐出側バルブ103とは所定間隔をおいて吸引側バルブ104が設けられ、吸引側バルブ104には、たとえばばね材Wの他端部の開口部Wbが接続される。研磨材は、ばね材Wの内面への衝突を繰り返しながら移動し、吸引側バルブ104から吸引される。この場合、ばね材Wの内面への研磨材の衝突により研削屑が生じ、研削屑等の塵埃は、研磨材とともに吸引される。吸引圧力は、たとえば真空ポンプや吸引側バルブ104の内径等により調整される。たとえば吸引側バルブ104は、そこに吸引される気体の流れを渦流とする機能を有する。
【0020】
吸引側バルブ104は、受け部105に取り付けられている。受け部105には、回収用配管106、耐摩耗ホース107、および、回収用配管108を介してサイクロンセパレータ109が接続されている。
【0021】
サイクロンセパレータ109は、研磨材と塵埃とを負圧気体流により分離する装置である。サイクロンセパレータ109の上端部には、集塵用配管110を介して高真空集塵機111が接続されている。高真空集塵機111には、真空用配管112を介して真空ポンプ(図示略)が接続されている。高真空集塵機111には、塵埃が排出される。サイクロンセパレータでの負圧気体流は、真空ポンプの作用により得られる。
【0022】
サイクロンセパレータ109の下端部には、加圧タンク102が接続され、サイクロンセパレータ109で分離された研磨材は、加圧タンク102に供給される。加圧タンク102は、台車121に固定されている。台車121は、基台122上で左右方向に移動可能となっており、台車121の位置は、ばね材Wの長さに応じて設定することができる。
【0023】
(2)ブラスト装置による内面研磨方法
ブラスト装置100に適用される中空状のばね材Wは、たとえば直線状のばね材である。ばね材の長さは、1.5m以上3.5m以下、内径は10mmΦ以下(0を含まない)に設定されている。ばね材としては、たとえばシームレスのばね鋼管が用いられる。内面研磨では、研削量の安定化を図るために、研磨材の粒度を所定値に保つ必要がある。
【0024】
ブラスト装置100を用いた内面研磨方法では、まず第1ブラスト処理を行う。第1ブラスト処理では、図1に示すように、ばね材Wの開口部Waを吐出側バルブ103に接続し、ばね材Wの開口部Wbを吸引側バルブ104に接続する。
【0025】
次いで、コンプレッサ用配管101を通じて圧縮空気を供給し、その圧縮空気によって加圧タンク102内を加圧する。加圧タンク102内の研磨材は、所定の吐出圧力値で開口部Waへ吐出される。ばね材Wの内部では、吸引側バルブ104による渦流が生じているので、開口部Waから投入された研磨材は、ばね材Wの内面への衝突を繰り返しながら、吸引側バルブ104へ向けて移動する。研磨材は、真空ポンプ等の作用によって、所定の吸引圧力値で開口部Wbから吸引される。このように研磨材は、ばね材Wの内面全体の研磨を行う。研磨により生じた研削屑等の塵埃は、研磨材とともに吸引側バルブ104から吸引される。
【0026】
研磨材および塵埃は、受け部105、回収用配管106、耐摩耗ホース107、および、回収用配管108を通じてサイクロンセパレータ109に到達する。サイクロンセパレータ109は、研磨材と塵埃とを分離する。分離された研磨材は、加圧タンク102に供給されて再使用され、分離された塵埃は、高真空集塵機111に排出される。
【0027】
このような第1ブラスト処理を所定時間行った後、第2ブラスト処理を行う。第2ブラスト処理では、ばね材Wの設置方向を図1に示す方向とは逆に設定し、ばね材Wの開口部Wbを吐出側バルブ103に接続し、開口部Waを吸引側バルブ104に接続する。次いで、たとえば第1ブラスト処理と同様な条件で第2ブラスト処理を行う。このようなブラスト処理による内面研磨をばね材Wに行った後、たとえばコイル成形によりばね材Wをコイル形状にしてもよいし、あるいは、曲げ成形によりばね材Wに曲げ部を形成してもよい。続いて、必要に応じて、熱処理や塗装等の各種処理を行うことにより、中空ばねが製造される。
【0028】
本実施形態では、ばね材Wの内面に向けて研磨材を吐出して吸引するブラスト処理を行うことにより、ばね材Wの内面を研磨しているから、ばね材Wの内面の傷を除去することができ、この場合、表面粗さRaを20μm以下に低減することができる。したがって、中空ばねの耐久性の向上を図ることができる。また、ブラスト処理を用いているから、ばね材Wの内面研磨の効率化を図ることができ、その結果、量産可能となる。
【0029】
ここで研磨では、研磨材の吐出方向を2方向に設定しているから、ばね材Wの内面がラッパ状になることを防止することができる。ここで本実施形態では、第1ブラスト処理および第2ブラスト処理において、ばね材Wの内面の平行度および表面粗さや加工速度等に応じて、吐出圧力や、吸引圧力、研磨材の密度および粒度、処理時間等を適宜設定することにより、ばね材の内面の中央部と両端部とで研削量差が生じることを抑制することができる。たとえばばね材Wの内面の中央部の内径研削量を190μmとし、両端部の内径研削量を200μmとすることができ、中央部と両端部とで内径研削量差を10μmとすることができ、中央部と両端部での内径研掃量の差を顕著に小さくすることができる。
【0030】
以上のように本実施形態では、ブラスト処理の手法を工夫することにより、従来技術ではブラスト処理を行うことができなかった細径管であるばね材Wに、ブラスト処理による内面研磨を行うことができ、その内面全体で研削量の均一性を向上させることができる。
【実施例】
【0031】
以下、具体的な実施例を参照して本発明の実施形態をさらに詳細に説明する。
【0032】
(1)第1実施例
第1実施例では、実施形態の構成を有するブラスト装置を用い、各種条件のもとでブラスト処理による内面研磨を行った。具体的には、試料11〜14では、ばね材として鋼管(内径8mm、肉厚4mm)を用い、表1に示すように、ブラスト処理の条件を変えて内面研磨を行った。比較試料11としては、ブラスト処理を行わなかった鋼管を用いた。研磨材としてアルミナ砥粒を用いた。なお、表1および図2〜4の表記について、“有”は刻印のある箇所、“無”は刻印のない箇所での実験条件および測定結果を表している。表1の処理条件について、“#20×3分”との表記は、アルミナ砥粒(粒度:#20)を用いたブラスト処理を3分間行ったことを表し、“#20×2分−#80×1分”との表記は、アルミナ砥粒(粒度:#20)を用いたブラスト処理を2分間行い、次いで、アルミナ砥粒(粒度:#80)を用いたブラスト処理を1分間行ったことを表している。
【0033】
【表1】

【0034】
[肉厚測定]
試料11〜14について、ばね材の端部の肉厚をマイクロメータで測定した。試料11,12では、ブラスト処理前の肉厚が平均4.00mm、ブラスト処理後の肉厚が平均3.93mm、研削量が70μmであった。試料13,14では、ブラスト処理前の肉厚が平均3.99mm、ブラスト処理後の肉厚が平均3.91mmであり、研削量は80μmであった。このように試料11〜14の全てにおいて、肉厚が50〜100μm程度減少していた。また、ブラスト処理を行った場合でも、偏肉率に大きな変化が生じなかった。これにより、偏肉率に対するブラスト処理による影響は、ばね材自体の影響よりも小さいことが判った。また、肉厚および偏肉率について、ブラスト処理条件による明瞭な差異は認められなかった。
【0035】
[渦流探傷検査]
試料11〜14および比較試料11について、渦流探傷検査を行った。渦流探傷検査では、試験周波数を300kHzに設定した。その結果を図2に示す。図2は、各試料のECTの最大信号Vp-pのデータを表すグラフである。図2から判るように、試料11〜14のベースノイズレベルは、比較試料11のものに比べ、1/3程度に低減された。このように試料11〜14でベースノイズレベルが低下したのは、上記のようにばね材の内面が50〜100μm程度研削された結果、表層脱炭起因の組織のばらつきが軽減されたからであると考えられる。また、ベースノイズレベルについて、ブラスト処理条件による明瞭な差異は認められなかった。さらに、ベースノイズレベルは、#600の研磨紙を用いて内面研磨を行った場合と同等であることを確認した。
【0036】
[断面観察]
試料11〜14および比較試料11について、光学顕微鏡を用いて断面観察を行った。その結果を図3,4に示す。図3は、各試料の内面傷の深さのデータを表すグラフである。図4は、各試料の内面傷のアスペクト比のデータを表すグラフである。
【0037】
図3から判るように、比較試料11の内面傷深さは52.9μmであった。これに対してアルミナ砥粒(粒度:#20)で表面仕上げを行った試料11,12の内面傷深さは、平均19.3μmとなり、20μm以下となった。また、アルミナ砥粒(粒度:#80)で表面仕上げを行った試料13,14の内面傷深さは、平均3.7μmとなり、5μm以下となった。このように試料11〜14では、内面傷深さが大幅に低減したことを確認した。また、アルミナ砥粒(粒度:#80)で表面仕上げを行った試料13,14の内面傷深さは、アルミナ砥粒(粒度:#20)で表面仕上げを行った試料11,12のものよりも低減したことを確認した。
【0038】
また、図4から判るように、比較試料11の内面傷のアスペクト比(=傷形状の深さ/傷形状の幅)は、4.6であった。これに対して試料11,12の内面傷のアスペクト比は、平均0.5となった。また、試料13,14の内面傷のアスペクト比は、平均0.3となった。これにより、試料11〜14では、傷形状の幅が広く、比較試料11と比較してアスペクト比が小さくなることを確認した。また、アルミナ砥粒(粒度:#80)で表面仕上げを行った試料13,14のアスペクト比は、アルミナ砥粒(粒度:#20)で表面仕上げを行った試料11,12のものよりも小さくなることを確認した。
【0039】
[SEM観察]
試料11〜14および比較試料11について、SEMによる内面の表面観察を行った。その結果を図5〜9に示す。図5は、試料11の表面観察結果を表すSEM写真、図6は、試料12の表面観察結果を表すSEM写真、図7は、試料13の表面観察結果を表すSEM写真、図8は、試料14の表面観察結果を表すSEM写真である。図9は、比較試料11の表面観察結果を表すSEM写真である。表面観察では、SEMによる観察倍率を1000倍に設定した。
【0040】
比較試料11では、図9に示すように、大きなしわ傷が観察されたが、試料11〜14では、図5〜8に示すように、そのようなしわ傷は観察されなかった。試料11〜14においてしわ傷が除去されたのは、上記のように内面が50〜100μm程度研削されたからである。また、アルミナ砥粒(粒度:#80)で表面仕上げを行った試料13,14の表面粗度は、アルミナ砥粒(粒度:#20)で表面仕上げを行った試料11,12のものよりも小さかった。
【0041】
以上のような結果から、ブラスト処理による内面研磨をばね材に行うことにより、内面傷の低減を図ることができ、その傷深さ(表面粗度Ra)を20μm以下にすることができることを確認した。特に、アルミナ砥粒(粒度:#80)で表面仕上げを行った場合、傷深さ(表面粗度Ra)を5μm以下にすることができることを確認した。また、ブラスト処理による内面研磨では、傷の幅を小さくすることができることを確認した。その結果、検査精度の向上およびばねの耐久性向上を図ることができることが判った。また、アルミナ砥粒(粒度:#80)で表面仕上げを行った場合は、アルミナ砥粒(粒度:#20)で表面仕上げを行った場合よりも耐久性向上に有利であることが判った。
【0042】
(2)第2実施例
第2実施例では、実施形態の構成を有するブラスト装置を用い、各種条件のもとで内面研磨を行い、内径研掃量を調べた。
【0043】
試料21,22および比較試料21,22では、ばね材として長い鋼管(内径8mm、厚さ4mm、長さ2000mm)を用い、研磨材としてアルミナ砥粒(粒度:#24)を用い、表2に示すように、吐出圧力、処理時間、研磨材の吐出方向を変えて内面研磨を行った。内面研磨後に測定した内径研掃量を表2に示す。内径研掃量は、内面研磨による内径の増大量(内面研磨後の内径−内面研磨前の内径)である。内径研掃量の目標値は100μm以上に設定した。
【0044】
表2に示す処理時間について、たとえば“120秒(1方向)”の表記は、アルミナ砥粒の吐出方向を1方向のみに設定し、実施形態の第1ブラスト処理のみ120秒間行ったことを表し、“60秒×2(2方向)”の表記は、アルミナ砥粒の吐出方向を2方向に設定し、実施形態の第1ブラスト処理を60秒間行い、実施形態の第2ブラスト処理を60秒間行ったことを表している。
【0045】
【表2】

【0046】
表2から判るように、第1ブラスト処理のみを行った場合、吐出圧力を0.1MPaに設定した比較試料21では、内径研掃量が30μmで、目標値を大幅に下回った。そこで吐出圧力を0.5MPaに設定した比較試料22では、内径研掃量が60〜70μmで、大きくなったものの、吸引側端部の内径研掃量が、吐出側端部のものよりも大きくなり、吸引側端部と吐出側端部とでは内径研掃量に顕著な差が生じた。
【0047】
これに対して試料21では、第1ブラスト処理および第2ブラスト処理を行い、吐出圧力を比較試料22と同様に設定し、第1ブラスト処理および第2ブラスト処理の合計処理時間を比較試料22と同様に設定した。その結果、吸引側端部と吐出側端部とでは内径研掃量に差が生じなく、かつ内径研掃量は、端部において100μm、中央部において70μmであった。このように内径研掃量は、大きくなったものの、端部と中央部での差が、30μmであった。
【0048】
そこで、表面が滑らかになるほど研削効果が小さくなる(すなわち、表面が粗くなるほど研削効果が大きくなる)という考えのもと、試料22では、第1ブラスト処理および第2ブラスト処理のそれぞれの処理時間を長くした結果、中央部の内径研掃量は190μm、端部の内径研掃量は200μmであった。このように端部よりも表面が粗い中央部では、端部よりも大きく研削され、端部と中央部での内径研掃量の差が10μmとなり、顕著に小さくなった。
【0049】
以上のような結果から、内面研磨では、研磨材の吐出方向を途中で変更して、第1ブラスト処理および第2ブラスト処理を行い、第1ブラスト処理および第2ブラスト処理の処理時間を適切に設定することにより、ばね材の内径研掃量の均一性を内面全体で向上させることができることを確認した。特に、処理時間の適切な選択により、中央部の内径研掃量は190μm、端部の内径研掃量は200μmとなり、端部と中央部での内径研掃量の差を顕著に小さくすることができることを確認した。
【符号の説明】
【0050】
100…ブラスト装置、101…コンプレッサ用配管、102…加圧タンク、103…吐出側バルブ、104…吸引側バルブ、105…受け部、106…回収用配管、107…耐摩耗ホース、108…回収用配管、109…サイクロンセパレータ、110…集塵用配管、111…高真空集塵機、112…真空用配管、W…ばね材、Wa,Wb…開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線状でかつ中空状のばね材を準備し、
前記ばね材の内面に向けて研磨材を吐出して吸引するブラスト処理を行うことにより、前記ばね材の内面を研磨し、
前記ばね材の準備では、前記ばね材の長さを1.5m以上3.5m以下、内径を10mmΦ以下(0を含まない)に設定し、
前記研磨では、前記ブラスト処理として第1ブラスト処理および第2ブラスト処理を順次行い、
前記第1ブラスト処理では、前記研磨材を、前記ばね材の一端部へ吐出するとともに他端部から吸引し、
前記第2ブラスト処理では、前記研磨材を、前記ばね材の前記他端部へ吐出するとともに前記一端部から吸引することを特徴とする中空ばねの製造方法。
【請求項2】
前記ブラスト処理により、前記ばね材の前記内面の中央部の内径研削量を190μmとし、両端部の内径研削量を200μmとすることを特徴とする請求項1に記載の中空ばねの製造方法。
【請求項3】
前記ばね材に前記研磨を行った後、前記ばね材をコイル状に成形することを特徴とする請求項1または2に記載の中空ばねの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により製造されることを特徴とする中空ばね。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−117652(P2012−117652A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270818(P2010−270818)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】