説明

中空構造体の製造方法

【課題】基板からの剥離時に構造が破壊されることが無く、かつ均一なハニカム構造体を製造することが可能な中空構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】複数の凹部を形成した基板10の上面にハニカム材料層30を形成して凹部を密閉する密閉工程と、凹部内の気体を膨張させてハニカム層を延伸させて、複数のセルを形成するセル形成工程と、ハニカム材料層20を硬化させハニカム構造体40を形成する構造体形成工程と、構造体40を基板10から剥離する剥離工程と、を有し、密閉工程の前に、基板10とハニカム材料層20との密着力がセル形成工程よりも剥離工程の方が小さくなるように変化させる密着力可変材料30を基板10とハニカム材料層20との間に形成し、構造体形成工程と剥離工程との間に、基板の下面又はハニカム材料層の上面に各セルと連通する開口部を形成し、その開口部から密着力可変材料30の物性を変化させる材料を注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の微細な部材で構成される高精度な中空構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
規則的に配列した細孔を持つハニカム構造体(正六角形に限らず、多角形状の中空体(セル)が集合した中空構造体)は、ディスプレイのコントラスト向上のための隔壁や、のぞき見防止用の視野角制御フィルム(ルーバー)、高性能フィルタや細胞培養場など、様々な用途に用いることが期待されている。
なかでも、ミクロンオーダーやナノオーダーの中空構造体の製造方法としては、ドライエッチング法や印刷法、キャスト法、圧力制御法などがあり、そのうち、圧力制御による中空構造体の製造方法は、例えば特許文献1に記載されている。
すなわち、独立した微小凹部を密に設けた基板の上面にハニカム材料を薄く塗布・密着して基板上の微小凹部を密閉することにより密閉空間を形成し、真空引きしたチャンバ内でこの密閉空間内のガスを膨張させるなどして、ハニカム材料を延伸させることで、隔壁(隣接する中空の間に存在する壁で、各中空を隔てている)が薄くかつ細長い無数の中空体(ハニカム構造体)を一定方向に形成し、乾燥後、この中空体を基板から剥離する。以上の工程により中空構造体が製造できる。
なお、このような、圧力制御法による中空構造体の製造工程において、均一な中空構造体を得るためには、ハニカム材料と基板間の密着力(接着力)が大きな問題となる。
【0003】
以下に、ハニカム材料と基板間の密着力について、ハニカム構造体の製造工程を2つに分けてそれぞれ説明する。
(1)ハニカム材料の延伸時
チャンバ内でハニカム材料を延伸させて中空体を形成する際、ハニカム材料と基板とで密閉された空間内部と、チャンバ内空間に圧力差が生じることにより、ハニカム材料に引っ張り応力σaが生じる。このとき、この引っ張り応力σaによりハニカム材料が基板から剥離されると、隣接するセル同士が連結してセル毎の圧力差が消失してしまうなどし、均一なハニカム構造体を得ることができない。よって、ハニカム材料の延伸時には、引っ張り応力σaよりもハニカム材料と基板間の密着力βaが大きくなければならない。すなわち、引っ張り応力と密着力との関係は、引っ張り応力σa<密着力βaとなる必要がある。
【0004】
(2)基板からのハニカム構造体の剥離
次に、基板からハニカム構造体を剥離する際には、ハニカム材料(ハニカム構造体)と基板間の密着力βbよりも、引っ張り応力σaと同じ箇所におけるハニカム構造体の機械的強度αのほうが大きいことで、基板からハニカム構造体を剥離することができる。
従って、密着力とハニカム構造体の材料強度との関係は、密着力βb<ハニカム構造体の材料強度αとなる必要がある。
この密着力βbは、ハニカム材料の硬度によって変化する。
ここで、βa=βbとなるとき、
引っ張り応力σa<密着力β<ハニカム構造体の材料強度α・・・(式1)
の関係が満たされる。ただし、基板の材料の選択や表面処理などを行い、式1を満たす密着力βに制御する必要がある。
すなわち、圧力制御法においては、ハニカム材料と基板間で、ハニカム材料の延伸時と、製造したハニカム構造体の基板からの剥離時とで、相反する密着力が要求されるのである。
【0005】
しかしながら、ハニカム構造体の製造工程において、基板に対するハニカム材料の密着力を工程(1)と(2)で変化させる場合、ハニカム材料の物性に左右され、利用できるハニカム材料の選択肢が狭いという問題がある。
延伸工程(1)の密着力は、基板の材料の選択や表面処理で意図的に増加させることができる。しかしながら工程(2)の密着力の変化は、ハニカム材料の粘度が低い(柔らかい)状態から高い(硬い)状態に変化してハニカム構造を維持することでもたらされるため、ハニカム材料の特性に大きく依存し、意図的に密着力を変化させることは容易でない。
【0006】
特許文献2には、開口率が大きいハニカム構造、すなわちセル隔壁が薄く均一なセル構造を持つハニカム構造体を製造するための基板の提供が目的で、規則的に配列した凹部を複数備えた基板の表面によって、ハニカム材料で凹部に空間が残るように被覆し、前記凹部の気体の膨張圧力によってハニカム材料そのものが変形することで複数のセルを形成することが可能な基板である。前記凹部を備えた基板の表面は、変形可能なハニカム材料に対する親和性が異なる、少なくとも2つの領域を有することで、ハニカム材料(ハニカム構造体)と基板間の密着力を意図的に変化させている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、かかる技術においても、基板からの剥離時のハニカム構造体の密着力は、依然としてハニカム材料側の物理的変化に大きく依存しており、ハニカム材料延伸時とハニカム構造体剥離時の各工程で密着力を変化させることが難しいという問題は解消できていない。よってハニカム材料の選択肢が少なく、それに対応する基板の材料(材質)も選択の制限を受ける。
そこで、本発明は、ハニカム材料の選択肢を減らすことなく、ハニカム材料の延伸時と、ハニカム構造体の基板からの剥離時で、ハニカム材料の基板に対する密着力を意図的に変化させる制御を行い、剥離時に構造が破壊されることが無く、かつ均一なハニカム構造体(中空構造体)を製造することが可能な中空構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、請求項1の発明は、上面に独立した複数の凹部を有した基板の該上面に接着層を介してハニカム材料層を積層することにより前記凹部を密閉する密閉工程と、前記各凹部内の気体を膨張させることにより該気体の圧力により該各凹部と対応する前記ハニカム材料層部分を凹状に拡張させたセルを形成するセル形成工程と、前記ハニカム材料層を硬化させてハニカム構造体を形成する構造体形成工程と、前記ハニカム構造体を前記基板から剥離する剥離工程と、を有し、前記接着層は、前記セル形成工程時に前記基板と前記ハニカム材料層とを接着させる接着力よりも、前記剥離工程時に前記基板と前記ハニカム構造体とを接着させる接着力の方が小さくなるように変化する接着力可変機能を有しており、前記構造体形成工程と前記剥離工程との間に、前記基板の下面又は前記ハニカム材料層の上面に前記各セルと連通する開口部を形成し、該開口部から前記接着層の物性を変化させる材料を注入することにより前記接着力を変化させる接着力変化工程を有する中空構造体の製造方法を特徴とする。
本発明によれば、ハニカム材料と基板との間に、ハニカム材料の延伸時と、ハニカム構造体の基板からの剥離時で、ハニカム材料の基板に対する密着力を意図的に変化させる中間層(密着力可変材料層)を設けたことにより、ハニカム材料の選択肢を減らすこともなく、剥離時に構造が破壊されること無く均一なハニカム構造体(中空構造体)を製造することが可能となる。
また、基板の下面又はハニカム構造体の上面に設けた開口部から、密着力可変材料の物性を変化させる材料を注入するようにしたので、短時間でハニカム構造体と基板とを分離(剥離)することが出来る。
【0009】
また、請求項2の発明は、前記基板を、独立した複数の貫通孔を有する基板本体と、該基板本体の下面に脱着可能に設けた、各貫通孔を閉塞するための蓋部と、により構成し、前記蓋部を前記基板本体と一体化した状態で前記密閉工程及び前記セル形成工程を行った後、前記蓋部を前記基板本体から脱離させることにより、前記基板下面に開口部を形成する請求項1に記載の中空構造体の製造方法を特徴とする。
本発明によれば、基板の下面から密着力可変材料の物性を変化させる材料を注入するようにしたので、短時間でハニカム構造体と基板とを分離(剥離)することが出来る。
また、請求項3の発明は、前記接着層は、前記セル形成工程時には固体であり、前記開口部から前記接着層を溶解させる溶媒を各セル内に注入することにより前記接着層を溶解して、前記基板と前記ハニカム構造体との間の前記接着力を低下させる請求項1又は2に記載の中空構造体の製造方法を特徴とする。
【0010】
また、請求項4の発明は、前記蓋部として、前記溶媒に溶解する材料を用いる請求項2に記載の中空構造体の製造方法を特徴とする。
本発明によれば、蓋部材を脱離する構成と、基板からのハニカム構造体の剥離工程と同時に行うことができる。
また、請求項5の発明は、前記蓋部として、相変化する材料を用いる請求項2に記載の中空構造体の製造方法を特徴とする。
本発明によれば、環境負荷を低減することが出来る。
【0011】
また、請求項6の発明は、前記蓋部として、粘接着材料を用いる請求項2に記載の中空構造体の製造方法を特徴とする。
本発明によれば、環境負荷を低減することが出来る。
また、請求項7の発明は、前記蓋部として、磁性材料を用いる請求項2に記載の中空構造体の製造方法を特徴とする。
本発明によれば、環境負荷を低減することが出来る。
【発明の効果】
【0012】
以上のように構成したので、本発明によれば、ハニカム材料と基板との間に、ハニカム材料の延伸時と、ハニカム構造体の基板からの剥離時で、ハニカム材料の基板に対する密着力を意図的に変化させる中間層(密着力可変材料層)を設けたことにより、ハニカム材料の選択肢を減らすこともなく、剥離時に構造が破壊されること無く均一なハニカム構造体(中空構造体)を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態におけるハニカム構造体の製造原理図を示す図。
【図2】密着力可変材料を溶媒に溶解させて除去する方法における基板の構造と、ハニカム構造体の製造工程について説明する図。
【図3】図2(a)、(b)における、密着力可変材料除去工程の溶媒の流れの違いについて説明する図。
【図4】基板の構成について説明する図。
【図5】各実施例における基板、密着力可変材料、ハニカム材料の詳細をまとめた図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
なお、本明細書において、ハニカム構造体とは、正六角形に限らず、多角形状の中空体(セル)が集合した中空構造体を総称した用語として用いることとする。
図1は、本実施形態におけるハニカム構造体の製造原理図を示す図である。
なお、図1において、(a)は従来工法を示し、(b)は本発明の工法を示している。
以下では、(a)に示す従来工法と比較しつつ、(b)に示す本発明の工法の概要を説明する。
(1)の密着工程では、複数の微小な凹部11を設けた、基板10の上に、後述する密着力可変材料(密着力変化層)30およびハニカム材料20を積層し、ハニカム材料20により基板10の凹部11を被覆・密閉した状態で、真空チャンバに挿入する。
(a)に示す従来工法では、基板10とハニカム材料20の間には、密着力可変材料30は設けられていない。
(2)の減圧発泡(初期)工程では、真空チャンバ内を真空引きし、密着力可変材料30及びハニカム材料20と、基板10との間に存在する気体を減圧膨張させ、ハニカム材料20を変形させて、ハニカム構造を形成する。
(3)の減圧発泡(後期)工程では、温度制御装置を用いて減圧乾燥や熱硬化を行い、またはUV照射装置を用いてUV硬化するなどして、ハニカム材料を硬化させ、ハニカム構造体40を製造する。
ここまでは、(a)の従来工法でも、特に大きな違いは見られない。
【0015】
(4)の剥離工程では、さらに、真空チャンバ内から基板10ごとハニカム構造体40を大気中に取り出し、接着層としての密着力可変材料30を各種方法(液化、気化、溶解、硬化)により除去して、基板10からハニカム構造体40を剥離する。
(a)に示す従来方法では、ハニカム構造体形成時の、基板10への密着(接着)力に重点が置かれており、剥離の際にハニカム構造体(40’)や基板10が変形・破壊するといった問題があった。
そこで本方法を用いると、ハニカム構造体40にも基板10にもダメージを与えることなく、基板10からハニカム構造体40を剥離することが出来る。
なお、密着力可変材料30としては、例えば、溶媒を加熱して溶解させるゼラチンが使用できる。
ゼラチン水溶液を基板10に塗布し、温度制御装置で乾燥させる。次にハニカム材料20を密着させ、ハニカム構造体40を形成する。
その後、基板10ごと温水に浸し、水溶性のゼラチン層を除去する。
このようにすれば、密着力可変材料30を溶媒に溶解させることのみで短時間で除去することが出来る。
【0016】
その他の密着力可変材料として、以下の材料を使用することが出来る。
(1)ハニカム材料の延伸時に固体で、剥離時に液体となる材料
加熱により固体から液体に変化するホットメルト接着剤は、ハニカム材料20の延伸時、常温で密着力の高い固体である。
ハニカム構造体40の製造後、真空チャンバ内またはチャンバから取り出した大気中において、基板10を温度制御装置で加熱することにより、ホットメルト接着剤は低粘度化し(柔らかくなり)、基板10とハニカム構造体40が剥離できる状態となる。
このときホットメルト接着剤は、ハニカム構造体40側にのみ残留しても、ハニカム構造体40と基板10の両側に残留してもよい。
ハニカム構造体40に残留したホットメルト接着剤は、ハニカム構造体40を部材の一つとして利用する際に、他の部材への接着に利用することができる。よって、コスト削減、環境負荷低減にもつながる。
【0017】
(2)ハニカム材料の延伸時に固定で、剥離時に気体または液体となる材料
加熱により固体から気体または液体に相変化する水(水蒸気、氷)が使用できる。基板10に水を塗布し、ハニカム材料延伸前に温度制御装置で冷却して氷にし、ハニカム材料20との密着力を高める。ハニカム構造体40を製造後、温度制御装置で加熱して氷を液化し剥離後、加熱して乾燥させる。または、さらに加熱して、水蒸気として気化させてから剥離する。よって、密着力変化層は最終的に存在しなくなる。使用している材料は水であるので、環境負荷が非常に低減される。
【0018】
(3)ハニカム材料の延伸時に粘着性を有し、剥離時に非粘着性を有する材料
UV(紫外線)照射前後で粘弾性が変化するUV硬化材料は、UV照射前のUV硬化材料は粘性がある高密着力を示す。UVを照射して硬化させ、密着力が低下したところで剥離する。有機溶媒を使用しないため、これも環境負荷が非常に低い。
粘弾性変化を有する材料としては、シリコンウエハのダイシング時にチップが離散するのを防止するダイシング用テープの粘着材と同様のものが利用できる。
【0019】
図2は、上記した密着力可変材料を溶媒に溶解させて除去する方法における基板の構造と、ハニカム構造体の製造工程について説明する図である。
なお、溶媒に溶解させて密着力可変材料を除去し、ハニカム構造体を基板から分離する方法に関しては、基板の構造によって2通りの製造フローがある。
【0020】
以下で各基板における工程(1)〜(6)までを説明する。
・工程(1)
(a)貫通孔が配列された基板に蓋が付くハニカム構造体の製造方法(実施例1、2、3、4)
貫通孔11が規則的に配列された基板10Aに蓋10Bを貼り付け、ハニカム材料20との密着面に密着力可変材料30を塗布、または転写する。
貫通孔を配列する基板10Aとしては、耐摩耗性やハニカム材料の接着・剥離工程に耐えうる機械強度を有する材料が望ましい。貫通孔は材料に合わせて、機械加工、ウエットエッチング、ドライエッチング、レーザ加工などを適宜用いる。
貫通基板に用いる金属としては、SUS(ステンレス鋼)、Cu(銅)、Ni(ニッケル)などがある。基板寸法は100〜300mm、孔11の配置ピッチは10〜300μmなどとする。
蓋10Bの材料としては、基板10Aの材料に合わせて、粘着または接着する材料を用いる。
【0021】
以下の(i)、(ii)、(iii)のような蓋材料が液体や半固体のものは、その支持体も蓋の材料の一部として含まれる。このとき、基板蓋10Bの材料と密着力可変材料30とは同系統の材料を使用し、ハニカム材料20の材料は、その溶媒に耐性を持つようなものを組み合わせることが望ましい。
基板蓋10Bの材料を密着力可変材料30と同系統のものに選定することにより、後述する基板から蓋を剥離する工程((a)(4))と、密着力可変材料の除去工程((a)(5))と、を1回で済ませることが可能になる。
例えば、THF(テトラヒドラフラン)に可溶である熱可塑性樹脂PC(ポリカーボネイト)のハニカム構造体40を製造する際は、THFに不溶である水溶性材料のゼラチンを、密着力可変材料30と基板蓋10Bの材料として選択、使用する。
【0022】
(i)溶媒に溶解する基板蓋材料(実施例1)
■水溶性材料■ (温)水に溶解
PVA(ポリビニルアルコール)、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、プルラン、アルブミン、CMC、ポリアクリル酸、セルロース、デンプン、ゼラチン、膠、アルギン酸塩、グアーガム、アラビアガム、カラーギナン、トラガント、ペクチン、デキストリン、カゼイン、コラーゲン、ポリビニルメチルエーテル、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、酸化エチレン、寒天、ローカストビーンガム、キサンタンガム、サイクロデキストリン、タンニン酸、カラヤガム、ジュランガム、ファーセレラン、トラントガム、レシチン、キチンキトサン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、リグニンスルホン酸、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリアクリルアマイド、ポリエチレンイミン、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ポリエチレンオキサイド、ポリアリルアミンなど
■熱可塑性樹脂■ THF(テトラヒドラフラン)やNMP(N−メチルピロリドン)、トルエン、アセトンなどに溶解
PC(ポリカーボネイト)、PMMA(ポリメチルアクリレート)、PP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)、PE(ポリエチレン)など。
【0023】
(ii)温度により相変化する材料(実施例2)
水(氷)、感温性接着剤(ホットメルト接着剤)、感温性粘着剤など。温度変化で繰り返し利用でき、環境負荷が低いという利点がある。
【0024】
(iii)粘接着材料(実施例3)
感圧性粘接着材はわずかな指圧によって粘接着が可能である。特に粘着剤は繰り返し利用でき、環境負荷が低いが、接着剤は使い捨てとなる。また、解体性接着剤(熱膨張性マイクロカプセル混入ビニルエマルジョン接着剤、通電剥離性接着剤など)、UV硬化樹脂(シリコン基板などのダイシングテープが代表例)が使用可能であるが、不可逆性のためいずれも使い捨てとなる。
【0025】
(iV)磁性材料(実施例4)
フェライトなどの磁性材料が使用可能である。基板10Aとの密着性向上のために、柔軟なシリコーンシートなどを挟み、ハニカム構造体40(ハニカム材料20)の減圧成長時に基板10Aとハニカム材料20とで密閉された凹部空間(貫通孔11)内の気体を逃がさないようにするとより効果的である。
また、繰り返し蓋として利用できるため、使い捨てにならない。
【0026】
・工程(2)
ハニカム材料20をローラーなどで基板10Aと張り合わせる。
基板10Aの凹部空間(貫通孔11)を被覆するように密着させ、真空チャンバに挿入する。
ハニカム材料20は、基板10Aの凹部とハニカム材料20に密閉された気体が、減圧膨張することにより変形が可能なものを利用する。例えばハニカム材料には以下のようなものがある。
■熱可塑性樹脂■
PC(ポリカーボネイト)、PMMA(ポリメチルアクリレート)、PP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)、PE(ポリエチレン)など。
■水溶性材料■
ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、プルラン、アルブミン、CMC、ポリアクリル酸、セルロース、デンプン、ゼラチン、膠、アルギン酸塩、グアーガム、アラビアガム、カラーギナン、トラガント、ペクチン、デキストリン、カゼイン、コラーゲン、ポリビニルメチルエーテル、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、酸化エチレン、寒天、ローカストビーンガム、キサンタンガム、サイクロデキストリン、タンニン酸、カラヤガム、ジュランガム、ファーセレラン、トラントガム、レシチン、キチンキトサン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、リグニンスルホン酸、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリアクリルアマイド、ポリエチレンイミン、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ポリエチレンオキサイド、ポリアリルアミンなど。
■UV硬化性樹脂■
ウレタンアクリル系UV硬化樹脂、エポキシアクリル系UV硬化樹脂、アルコキシアクリル系UV硬化樹脂など。
なお、以上の工程(1)(2)を、密閉工程とする。
【0027】
・工程(3)
ハニカム構造体40を、基板10A凹部の気体の減圧膨張により形成する。
真空チャンバ50内を真空引きし、密着力可変材料30及びハニカム材料20と基板10A(及び蓋10B)の間に存在する気体を減圧膨張させ、ハニカム材料20を変形させて、セル(ハニカム構造)41を形成する。
次に、図示しない温度制御装置を用いて水溶性材料および熱可塑性樹脂は減圧乾燥や熱硬化、UV硬化性樹脂はUV照射装置を用いてUV硬化するなどして、ハニカム材料20を硬化させ、ハニカム構造体40を製造する。
なお、以上の工程を、セル形成工程と称する。
【0028】
・工程(4)
基板10Aから蓋10Bを分離する。
真空チャンバ50から基板ごと取出し、基板10Aと蓋10Bを分離する。
なお、蓋10Bに用いる材料により、基板10Aと蓋10Bの分離方法が異なる。
特に、(ii)、(iii)、(iv)の蓋材料では、次の工程(5)で用いる密着力可変材料30の溶媒中で基板蓋10Bを剥離することで、減圧されていたセル内部にその溶媒が容易に浸入することが出来るという効果が期待できる。
【0029】
(i)溶媒に溶解する蓋(実施例1)
溶媒に基板10Aごと浸すことにより蓋10Bの材料が溶解し、ハニカム構造体40内部まで溶媒が浸透することで、密着力可変材料30も溶解し、ハニカム構造体40を得ることが出来る。
よって、上記したように、密着力可変材料30と同じ溶媒に溶解するような材料を基板の蓋10Bに用いることで、図2中(a)の(4)、(5)の工程を一度に行うことが出来る。
【0030】
(ii)熱可塑性樹脂の蓋(実施例2)
この場合、加熱することにより軟化し、変形が可能になる。蓋材料支持体を含む熱可塑性樹脂の蓋10Bを図示しないホットプレートなどで過熱し、剥離することにより、基板10Aの片側が開口する。
【0031】
(iii)UV硬化樹脂の蓋(実施例3)
基板蓋10B側からUV照射により、UV硬化樹脂を硬化させて剥離して、基板10Aの片側を開口させる。
(iv)磁性材料の蓋(実施例4)
フェライト磁石などの磁性材料と、基板10Aと磁石との密着性を高めていたシリコーンシートを機械的に基板10Aから分離させる。
【0032】
・工程(5)
密着力可変材料を除去する。
(実施例1、2、3、4)
溶媒に接している端面から順に基板中央へ向けて、隣接するセル(ハニカム構造41)からの横方向の流入により溶解していく。そのため、大面積になるほど基板中央のセルに溶媒が浸透するまでに時間がかかるという問題もあった。
すなわち、隣接するセルからじわじわと溶媒と接触していくため、大面積のハニカム構造体を製造する場合は、密着力可変材料30の除去に時間がかかってしまう。溶媒の温度を上げて、溶解速度を上昇させることで多少は改善されるが、溶媒と密着力可変材料の接触面積が結局小さいため、短時間での処理には限界がある。
【0033】
図3において詳述するが、本発明の場合、工程(4)において蓋10Bを剥離するようにし、蓋10Bの剥離によって生じた開口13から溶媒が侵入するようにしたので、溶媒の侵入方向と面積が拡大され、大面積のハニカム構造体でも各セルにほぼ同時に溶媒が侵入し、短時間でハニカム構造体と基板とを分離(剥離)することが出来る。
この工程を剥離工程と称する。
【0034】
・工程(6)
ハニカム構造体の完成。
以上、(1)から(5)の工程を経て、(6)に示すような片側が開口したハニカム構造体を、短時間で基板から剥離できる。
【0035】
次に、片側開口基板によるハニカム構造体の製造方法を説明する。
(b)片側開口の基板のハニカム構造体の製造方法(実施例5)
・工程(1)
片側開口の非貫通孔12が規則的に配列された基板10を用意する。詳細は図2(a)の場合と同様である。
・工程(2)、工程(3)
これらの詳細も図2(a)の場合と同様である。
・工程(4)
密着力可変材料30の溶媒を侵入させる孔を作るために、ハニカム構造体40の天井部分40Bを除去し、貫通したハニカム構造41を有するハニカム構造体40Aを得る。
具体的には、切削工具70などを用いて、ハニカム構造体40の天井部分40Bを除去して開口42を形成する。天井除去方法としては、一般的な切削、研削や、ブラスト、ウエットエッチング、ドライエッチング、レーザ加工などがある。
これらの方法は、ハニカム構造体40の材料により、除去効果やその処理時間が決まってくる。短時間で処理する場合は、機械的に、切削などにより除去する。
・工程(5)
図2(a)の場合と同様に、溶媒内で密着力可変材料30を除去する。
ハニカム構造体40を密着力可変材料の溶媒60中に浸し、ハニカム構造体40A側から溶媒を侵入させる。このようにして密着力可変材料30を除去することにより、基板10とハニカム構造体40Aを非破壊で分離することが出来る。
・工程(6)
貫通したハニカム構造体が完成する。
【0036】
図3は、図2(a)、(b)における、密着力可変材料除去工程の溶媒の流れの違いについて説明する図である。
図3(a)は、従来工法における触媒の進入経路である。
図3(b)は、図2(a)に示す本発明の工法における触媒の侵入経路を示す図である。また、図3(c)は、図2(b)に示す本発明の工法における触媒の侵入経路を示す図である。
図3(a)に示すような、従来の方法では、基板10端から隣接するセル(ハニカム構造)から順に、基板10中央へ向けて、図中横方向に溶媒が流れていく。よって、大面積のハニカム構造体を得るために非常に時間がかかるという問題があった。
密着力可変材料に厚さがない場合は特に、溶媒と密着力可変材料が接する面積が微小になり、この問題が顕著になる。
それに対し、図3(b)に示す図2(a)の場合では、蓋つき基板10Aの蓋10Bを分離することにより、基板10Aの開口13側からの溶媒の侵入を可能にする。
また、図3(c)では、片側開口の基板10で、ハニカム構造体40の天井部分40Bを除去することにより、ハニカム構造体40の開口42側からの溶媒の侵入を可能とした。
本発明は、各セルに直接溶媒をほぼ同時に流入することにより、短時間で密着力可変材料からなる中間層を除去する。従来の工法では、各セルへの溶媒流入が隣接するセルから、つまり図中横方向からのみであった剥離除去工程を、ハニカム構造体40を貫通させ(開口42を形成)、または基板10Aを貫通(開口13を形成)させることにより、図中縦方向からも溶媒が流入できるようにすることで、短時間で密着力可変材料からなる中間層を除去することが可能になる。
【0037】
図4は、基板の構成について説明する図である。
基板の孔配列パターンを6角形にすると、6角形のセル形状の中空構造体(ハニカム構造体)が得られ、千鳥配列にすると、正方形のセル形状の中空構造体が得られる。
ハニカム構造体は、多角形状などの中空体が集合した中空構造体である。基板孔の形状は円や多角形があり、その断面形状は、減圧膨張できる気体の体積が確保出来れば、柱状でも部分的な球状でもよい。
基板の材料としては、Si、Ni、SUSなどが挙げられる。孔の形成方法としては、Siにおいてはドライエッチング、Ni、SUSにおいてはケミカルエッチングが主な方法であり、それぞれ効果的にエッチングできる材料が決まってくる。
図2(a)の製造フローで用いる蓋つき基板(10A+10B)は、図4(a)に対応し、図2(b)の片側開口基板10は、図4(b)に対応する。
特に図4(b)に示す基板10は、図4(a)に示す基板で蓋10Bが貫通孔を有する基板10Aに完全に接着されている構成でも良い。
たとえば、Niなどの貫通孔金属基板と、汎用樹脂基板とを熱接合した基板がある。
【0038】
図5は、上述の各実施例における基板、密着力可変材料、ハニカム材料の詳細をまとめた図である。
基板はすべて、実施例1〜4において、蓋つき貫通孔基板を共通で用いた。
ただし、実施例5では片側開口基板となっているが、実施例4と同じシリコーンシートと磁石からなる蓋を付けたままにして、片側開口基板として用いた。
基板大きさ:□100mm、材料:Ni、ピッチ(隣接するセル中心間の距離):150μm、
隔壁幅:50μm、孔深さ:50μm
ハニカム材料は、UV硬化樹脂を共通で用いた。
実施例5におけるハニカム構造体の天井除去は、機械的(切削、研削等)に除去した。
【符号の説明】
【0039】
10 基板、10A 基板、10B 蓋、11 貫通孔、12 非貫通孔、13 開口、20 ハニカム材料、30 密着力可変材料、40 ハニカム構造体、40A ハニカム構造体、40B 天井部分、41 ハニカム構造、42 開口、50 真空チャンバ、60 溶媒、70 切削工具
【先行技術文献】
【特許文献】
【0040】
【特許文献1】特開2008−93861公報
【特許文献2】特開2008−224767公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に独立した複数の凹部を有した基板の該上面に接着層を介してハニカム材料層を積層することにより前記凹部を密閉する密閉工程と、前記各凹部内の気体を膨張させることにより該気体の圧力により該各凹部と対応する前記ハニカム材料層部分を凹状に拡張させたセルを形成するセル形成工程と、前記ハニカム材料層を硬化させてハニカム構造体を形成する構造体形成工程と、前記ハニカム構造体を前記基板から剥離する剥離工程と、を有し、
前記接着層は、前記セル形成工程時に前記基板と前記ハニカム材料層とを接着させる接着力よりも、前記剥離工程時に前記基板と前記ハニカム構造体とを接着させる接着力の方が小さくなるように変化する接着力可変機能を有しており、
前記構造体形成工程と前記剥離工程との間に、前記基板の下面又は前記ハニカム材料層の上面に前記各セルと連通する開口部を形成し、該開口部から前記接着層の物性を変化させる材料を注入することにより前記接着力を変化させる接着力変化工程を有することを特徴とする中空構造体の製造方法。
【請求項2】
前記基板を、独立した複数の貫通孔を有する基板本体と、該基板本体の下面に脱着可能に設けた、各貫通孔を閉塞するための蓋部と、により構成し、
前記蓋部を前記基板本体と一体化した状態で前記密閉工程及び前記セル形成工程を行った後、前記蓋部を前記基板本体から脱離させることにより、前記基板下面に開口部を形成することを特徴とする請求項1に記載の中空構造体の製造方法。
【請求項3】
前記接着層は、前記セル形成工程時には固体であり、前記開口部から前記接着層を溶解させる溶媒を各セル内に注入することにより前記接着層を溶解して、前記基板と前記ハニカム構造体との間の前記接着力を低下させることを特徴とする請求項1又は2に記載の中空構造体の製造方法。
【請求項4】
前記蓋部として、前記溶媒に溶解する材料を用いることを特徴とする請求項2に記載の中空構造体の製造方法。
【請求項5】
前記蓋部として、相変化する材料を用いることを特徴とする請求項2に記載の中空構造体の製造方法。
【請求項6】
前記蓋部として、粘接着材料を用いることを特徴とする請求項2に記載の中空構造体の製造方法。
【請求項7】
前記蓋部として、磁性材料を用いることを特徴とする請求項2に記載の中空構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−139855(P2012−139855A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292774(P2010−292774)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】