説明

中空糸型モジュールの製造方法、及び中空糸型モジュール

【課題】 中空糸束を固定する封止部の切断面にバリが発生し難く、また、製造効率の向上を図ることができる中空糸型モジュールの製造方法、及び中空糸型モジュールを提供する。
【解決手段】
中空糸束装填工程と、ケーシング開口部閉塞工程と、ケーシング内に樹脂組成物を流し込んで中空糸束の両端部を固定封止する封止工程と、ケーシングの端部から突出した部分を切断する切断工程とを含む血液浄化器の製造方法において、中空糸束には疎水性の膜素材により紡糸した素の中空糸膜12を用い、封止工程では樹脂組成物を中空糸膜の膜基材内に含浸させて硬化させ、切断工程では、膜基材内に含浸した樹脂組成物が硬化した状態で切断し、切断工程後、中空糸膜の内側空間へグリセリン水溶液を注入する親水化処理液注入工程と、中空糸膜の内側空間と外側空間との間に圧力差を生じさせ、該圧力差によりグリセリンを中空糸膜に保持させる膜通液工程とを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体液処理や水処理などに使用される中空糸型モジュールの製造方法、及び中空糸型モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
中空糸型モジュールは、医療分野や工業分野を始めとする幅広い分野で用いられている。例えば、医療分野においては血液浄化器として腎臓や肝臓に疾患を持つ患者の血液浄化などに使用され、工業分野においては水処理装置としてジュースなど飲料物の濃縮や精製等に使用されている。そして、この中空糸型モジュールに用いられる半透膜には、表面処理(表面からの処理を意味し、表面そのものの処理に加えて膜基材内部の処理も含まれる。以下同様。)が施されたものがある。また、表面処理が施された半透膜の一種に親水化膜がある。この親水化膜は、疎水性の膜基材に対して親水性を付与したものである。ここで、疎水性の膜基材を用いているのは、この膜基材の紡糸が容易で、強度が高く、耐熱性、及び耐薬品性に優れているからである。しかし、膜基材が疎水性のままでは、本来の透過能を直ちに発揮することが困難である。また、血液浄化器の材料として使用する前に賦活処理を行わなければならず、煩雑である。このため、膜基材本来の透過能を直ちに発揮させるべく、さらには、治療の準備段階での操作性や生体適合性を改善すべく、膜基材に表面処理を行って親水性を付与している。
【0003】
親水性を付与する方法としては、例えば、疎水性高分子であるポリスルホン系樹脂の原液に対して親水性高分子であるポリビニルピロリドンを混入し、この液を製膜原液として紡糸する方法が提案されている(特許文献1、特許文献2)。また、紡糸した中空糸膜を膜透過能維持剤(親水化剤)が含まれる処理液に浸漬した後に乾燥して中空糸束にすることも一般的に行われている。
なお、膜透過能維持処理液(親水化処理液)としては、グリセリン水溶液、ポリビニルピロリドン水溶液、ポリエチレングリコール水溶液、エタノールなどが挙げられるが、取り扱い易さや低コスト、また、中空糸型モジュールの使用時に親水化剤が血液中へ溶出し難いなどの点を重要視すると、グリセリン水溶液を用いることが好ましい。
【0004】
この様な従来の血液浄化器は、親水化剤で予め処理した中空糸束を、端部がケーシング本体から突出した状態で樹脂組成物からなるシーリング材(例えばウレタン系接着剤)によりケーシング本体の端部に接着固定し、その後中空糸束の端部をシーリング材とともに切断除去して各中空糸膜の端部を開口している。そして、この切断面は、平滑な状態で形成されることが望ましい。これは、液体処理作業において処理対象液体中の成分、例えば浄化処理対象である血液中の血球成分が切断面で傷ついたり、切断面に血液が残ってしまったりする不具合を避けるためである。
【特許文献1】特公平5−54373号公報
【特許文献2】特開平7−289863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の中空糸型血液浄化器は、シーリング材の切断面が粗く、特に、中空糸膜の切り口(断面)にバリが少なからず発生している。この原因を追求したところ、中空糸膜の細孔内にグリセリンなどの親水化剤が浸透しているために、シーリング材が細孔内まで入り込めないことに起因することが判明した。したがって、従来の血液浄化器においては、中空糸膜とその周囲のシーリング材層との硬度が異なり、このため、ケーシングの端部から突出した余分なシーリング材を切断して中空糸膜を開口する際に、硬いシーリング材は平滑な面で切断することができても柔らかな中空糸膜は撓んで切り口にバリが生じてしまう。
【0006】
また、グリセリンにより親水化処理された中空糸束をシーリング材でケーシング本体に接着固定する際に、樹脂組成物の成分(ウレタン残基)が硬化していない状態でグリセリンと反応してしまうことがある。この反応により生成された物質は、血液に悪影響を及ぼす虞があるため、中空糸束の端部をシーリング材とともに切断除去後、洗浄液により十分に洗い流す必要がある。したがって、血液浄化器(中空糸型モジュール)の製造効率の向上に改善の余地を残している。
【0007】
さらに、中空糸膜をグリセリン等の親水化剤に浸漬した後に乾燥して中空糸束にしているので、中空糸束の準備に時間が掛かってしまい、血液浄化器の製造時間の短縮を図り難い。
【0008】
本発明は、上記に鑑み提案されたもので、ケーシングの端部から突出した余分なシーリング材を切断して中空糸膜を開口する際に、中空糸膜の切り口にバリが発生し難く、また、製造効率の向上を図ることができる中空糸型モジュールの製造方法、及び中空糸型モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1に記載のものは、吸着能を備えた疎水性高分子を主たる膜素材とした中空糸膜を束にした中空糸束をケーシング内に装填して、中空糸束の端部をケーシングの端部よりも突出させる中空糸束装填工程と、
突出した中空糸束の端部を囲む状態でケーシングの両端開口部を閉塞するケーシング開口部閉塞工程と、
前記ケーシング開口部閉塞状態でケーシング内に液状の樹脂組成物を流し込んでケーシングを回転しながら樹脂組成物を硬化させて中空糸束の両端部をケーシングに対して樹脂組成物で固定封止するとともに、ケーシング内を中空糸膜の内側の第1通液空間と外側の第2通液空間とに区画する封止工程と、
該封止工程後、ケーシングの端部から突出した部分を切断することにより中空糸の端部を開口させる切断工程と、
を含む中空糸型モジュールの製造方法において、
前記中空糸束装填工程でケーシング内に装填する中空糸束の各中空糸膜には親水化剤を含まない疎水性の膜素材により紡糸した中空糸膜であって、且つ親水化処理をしていない素の中空糸膜を用い、
前記封止工程では、流し込んだ樹脂組成物を中空糸膜の膜基材内に含浸させ、
前記切断工程では、膜基材内に含浸した樹脂組成物が硬化した状態で切断し、
前記切断工程後、開口した端部から第1通液空間へグリセリンを含有した親水化処理液を注入する親水化処理液注入工程と、
前記第1通液空間と第2通液空間との間に圧力差を生じさせ、該圧力差により親水化処理液の溶媒成分を第1通液空間から第2通液空間へ移動させることでグリセリンを中空糸膜に保持させる膜通液工程と、
を行うことを特徴とする中空糸型モジュールの製造方法である。
【0010】
請求項2に記載のものは、少なくともケーシング内の第2通液空間を減圧する減圧工程を前記親水化処理液注入工程よりも前に行い、
前記膜通液工程は、減圧工程により減圧状態となった第2通液空間と、親水化処理液注入工程により親水化処理液が注入された第1通液空間との圧力差により行われることを特徴とする請求項1に記載の中空糸型モジュールの製造方法である。
【0011】
請求項3に記載のものは、前記親水化処理液のグリセリン濃度を5〜50%、温度を20〜80℃に設定したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の中空糸型モジュールの製造方法である。
【0012】
請求項4に記載のものは、吸着能を備えた疎水性高分子を主たる膜素材とした中空糸膜を束にした中空糸束をケーシング内に装填し、ケーシング内に流し込んだ液状の樹脂組成物を硬化させて中空糸束の両端部をケーシングに対して固定し、ケーシングの端部で切断した樹脂組成物の切断面に中空糸の端部を開口させた中空糸型モジュールにおいて、
前記樹脂組成物によりケーシングに固定された中空糸膜の両端部は、親水化剤を含まない疎水性の膜素材により紡糸され、且つ親水化処理をしていない素の中空糸膜であって、樹脂組成物が膜基材内に含浸され、
前記中空糸膜のうち両端部の間の部分にはグリセリンを保持していることを特徴とする中空糸型モジュールである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以下のような優れた効果を奏する。
すなわち、中空糸束装填工程でケーシング内に装填する中空糸束の各中空糸膜には親水化剤を含まない疎水性の膜素材により紡糸した中空糸であって、且つ親水化処理をしていない素の中空糸膜を用いるので、封止工程で流し込んだ樹脂組成物が中空糸膜の膜基材内に含浸し、切断工程では膜基材内に含浸した樹脂組成物が硬化した状態で切断するので、ケーシングの両端部に中空糸束を固定する樹脂組成物の硬さに中空糸膜の硬さを近づけた状態で中空糸膜の両端部を樹脂組成物と共に切断することができる。したがって、切断した際の断面、特に、中空糸膜の切り口にバリ等が生じ難くなり、切断面を平滑な状態に仕上げることができる。このため、本発明により製造した中空糸型モジュールは、透析などの血液処理を行う場合に、血小板など血液成分への悪影響や、中空糸型モジュール内の残血を抑制することができる。
【0014】
また、樹脂組成物を硬化させて中空糸束の両端部をケーシングに対して樹脂組成物で固定封止した後、中空糸膜にグリセリンを保持するので、樹脂組成物の成分が硬化していない状態でグリセリンと反応することを防ぐことができ、樹脂組成物の成分とグリセリンとの反応物を洗い流す作業を行わずに済む。したがって、中空糸型モジュールの製造効率の向上を図ることができる。そして、従来のグリセリンによる親水化処理を施した中空糸型モジュールと同等の賦活性能を得ることができる。
【0015】
さらに、中空糸束をケーシングに装填する前に、中空糸膜にグリセリンによる親水化処理を施す必要がない。したがって、中空糸膜の製造工程において、従来のグリセリンによる親水化処理、およびその後の乾燥作業を省略することができ、中空糸束の準備時間、ひいては中空糸型モジュールの製造時間の短縮を図ることができる。
【0016】
そして、親水化処理注入工程において、親水化処理液のグリセリン濃度を5〜50%、温度を20〜80℃に設定することにより、親水化処理液を中空糸膜の第1通液空間へ注入するのに適した流動状態に設定することができる。したがって、親水化処理液注入工程をスムーズに行うことができ、中空糸型モジュールの製造効率の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下は、代表的な中空糸型モジュールである透析器、具体的には血液浄化器を例に挙げて説明する。
まず、図1及び図2に基づいて血液浄化器1の構成について説明する。例示した血液浄化器1は、ケース2の内部に中空糸束3を備えた構成である。
【0018】
ケース2は、前記中空糸束3を収納可能な筒状のケーシング4と、このケーシング4の一端(図1中左端)の開口部に螺合装着される排出側のキャップ部材5と、ケーシング4の他端(図1中右端)の開口部に螺合装着される注入側のキャップ部材6とを備えている。ケーシング4は、筒長手方向の両端部に拡径部7を設けた円筒状部材であり、例えばポリカーボネイトにより構成されている。そして、筒長手方向の一端側(左端側)に位置する拡径部7には、ケーシング4の内部空間に連通した透析液(浄化液)注入用のポート8を筒の側方に向けて突設し、他端側(右端側)に位置する拡径部7には、ケーシング4の内部空間に連通した透析液排出用のポート9を筒の側方に向けて突設している。
【0019】
このケーシング4における筒長手方向の両端部には封止部10を設けている。封止部10は、中空糸束3の端部をケーシング4に接着固定して封止するための部分であり、例えば、シーリング材によって構成される。このシーリング材としては樹脂組成物、例えばウレタン系の接着剤が用いられる。そして、シーリング材は、図2(a)に示すように、中空糸束3とケーシング4との間、及び、中空糸束3を構成する中空糸膜12同士の間に充填されている。これにより、ケーシング4の両端面は、端部が開口した複数の中空糸膜12…が密集した状態となるとともに、シーリング材が中空糸膜12同士の間隙を塞いだ封止状態となる。
【0020】
そして、この封止部10は、透析液注入ポート8や透析液排出ポート9の開口位置よりも筒長手方向の端部側に設けられる(図1参照)。このため、中空糸膜12及び封止部10によってケーシング4の内部空間は、中空糸膜12の内側空間と外側空間とに区画される。さらに、中空糸膜12の外側空間は、透析液注入ポート8及び透析液排出ポート9を通じてケーシング4の外部に連通される。そして、中空糸膜12の内側空間は、血液などの被浄化液を通じるための第1通液空間として機能し、中空糸膜12の外側空間は、透析液などの浄化液を通じるための第2通液空間として機能する。
【0021】
排出側キャップ部材5は、血液排出ポート13を有する略漏斗形状のキャップ部材であり、筒長手方向他端側に螺合装着される。そして、この排出側キャップ部材5には、封止部外表面の外周部分に密着可能なOリング14を配設している。このOリング14は、封止部外表面に密着することで、ケーシング4と排出側キャップ部材5との境界部分を液密にシールしている。また、注入側キャップ部材6は、排出側キャップ部材5と同様な構造であり、血液注入ポート15を設けた略漏斗形状のキャップ部材である。そして、この注入側キャップ部材6は、ケーシング4の筒長手方向一端側に螺合装着され、装着状態においてOリング16が封止部外表面に密着し、ケーシング4と注入側キャップ部材6との境界部分を液密にシールする。
【0022】
なお、血液排出ポート13は血液などの被浄化液を排出するための第1排出ポートとして機能し、血液注入ポート15は被浄化液を注入するための第1注入ポートとして機能する。そして、キャップ部材5,6の装着状態において、排出側キャップ部材5の内部空間、及び、注入側キャップ部材6の内部空間は、各中空糸膜12の内側空間と共に血液が通る血液流路を構成する。
【0023】
中空糸膜12は、図2(b)に示すように、中空糸状に紡出した半透膜であり、膜基材の肉厚が5〜50マイクロメートル、内径が100〜500マイクロメートル程度の極めて細いものである。また、樹脂組成物で固定された両端部には、封止部10が形成されている。なお、親水化剤の保持処理(親水化処理)については、後で詳細に説明する。
【0024】
そして、膜基材は、ポリエステル系樹脂とポリスルホン系樹脂を主たる膜素材とした疎水性高分子製の半透膜である。ここで、前記ポリエステル系樹脂は、例えば、次式(1)で表される繰り返し単位を有するポリアリレート樹脂である。
【0025】
【化1】

【0026】
また、前記ポリスルホン系樹脂は、例えば、次式(2)で表される繰り返し単位、及び、次式(3)で表される繰り返し単位の少なくとも何れかを有するポリスルホン樹脂である。
【0027】
【化2】

【0028】
【化3】

【0029】
この疎水性膜基材を紡糸するための製膜原液は、ポリエステル系樹脂(A)とポリスルホン系樹脂(B)との混合重量比(A/B)を0.1〜10の範囲で定めると共に、両樹脂の合計量(A+B)が10重量%〜25重量%の割合となるように有機溶媒に溶解することで調製される。なお、本発明においては、前記した製膜原液に親水化剤を一切含まない。
【0030】
このように調製された製膜原液を、二重管紡糸口金を用いて芯液とともに凝固液中に吐出すると、ポリエステル系ポリマーアロイを膜素材とした中空糸状の膜基材、すなわち中空糸膜12が得られる。そして、この中空糸膜12は3000〜15000本程度を一単位として束ねられ、所定の長さに切断されて中空糸束3となる。なお、中空糸束3に束ねたならば、その両端を加熱するなどして各中空糸膜12の両端開口を熔封する、すなわち両端開口を閉塞しておくことが望ましい。
【0031】
この中空糸膜12は、その内側表面に緻密層が形成されていると共に、この緻密層の外側を覆うように多数の細孔を有する多孔質層が形成されている。緻密層は、この中空糸膜(膜基材)において、物質の選択透過性並びに透過速度を規定する部分であり、例えば、500オングストローム未満の平均孔径を有する孔、具体的には、孔半径30〜200オングストロームの孔が形成されている。また、多孔質層は緻密層を支持し膜の強度を保つ支持層として機能しており、緻密層よりもかなり粗い孔が形成される。
【0032】
なお、中空糸膜12は、図3に示す分子量分画特性を有している。この図に示すように、例えば、分子量35,000の物質については、篩係数(SC)が約0.5、即ち、全体量の約50%がこの膜基材を透過し(具体的には、緻密層に形成された孔を通過してしまい)、分子量70,000の物質については、篩係数が約0.05、即ち全体量の約5%がこの膜基材を透過し、残りの約95%が透過できないことが判る。さらに、分子量100,000以上の物質については、ほぼ全量(100%)が膜基材を透過できない。
【0033】
次に、前記した血液浄化器1の製造方法について説明する。
まず、図4(a)に示すように、前記した中空糸束3、即ち、親水化剤を含まない疎水性の膜素材により紡糸した中空糸膜であって、且つ親水化処理をしていない素の中空糸膜12をケーシング4内に装填し、この中空糸束3の両端部をケーシング4の両端部よりも突出させる(中空糸束装填工程)。なお、中空糸束3は、ケーシング4の長さよりも少し長い所定の長さに切断されている。
【0034】
次に、図4(b)に示すように、突出した中空糸束3の端部を囲む状態でケーシング4の両端開口部にポッティング用キャップ20を被せて開口部を閉塞する(ケーシング開口部閉塞工程)。なお、ケーシング4の両端開口部を閉塞するには、前記したポッティング用キャップ20を被せる手法に限定されるものではなく、後述するターンテーブル上で回転する際にセットする治具(図示せず)の凹部内にケーシング4の端部を嵌合し、この凹部により両端開口部を閉塞してもよい。要するに、突出した中空糸束3の端部を囲む状態でケーシング4の両端開口部を閉塞できればどのような手段でもよい。
【0035】
ケーシング4の両端開口部を閉塞したならば、この閉塞状態でターンテーブル上にセットし、図4(c)に示すように、ケーシング4の軸方向の中央をターンテーブルの中心に位置させて回転し、両ポート8,9からケーシング4内に液状のウレタン系接着剤(本発明の樹脂組成物に相当)を流し込む。この樹脂組成物は、遠心力を受けるのでケーシング4の両端に移動して溜まり、中空糸束3とケーシング4の内面との間、及び中空糸膜12同士の隙間に充填される。そして、この状態、すなわちケーシング4を回転しながら樹脂組成物を硬化させ、これにより中空糸束3の両端部をケーシング4に対して樹脂組成物で固定封止するとともに、ケーシング4の内部空間を中空糸膜12の内側空間と外側空間とに区画する(封止工程)。
【0036】
この封止工程では、各中空糸膜12に親水化剤が含まれておらず、また、中空糸膜12の細孔内にグリセリン等の膜透過能維持剤や親水化剤が入り込んでいないので、さらには、ケーシング4を回転したことによる遠心力を受けてウレタン系接着剤が大気圧以上に加圧された状態になっているので、良好な流動性を有する液状のウレタン系接着剤10′が中空糸膜12の両端部分の外側表面から膜基材内、具体的には外側表面から細孔内に含浸して硬化する(図2(c)参照)。したがって、各中空糸膜12の両端部分(溜まった樹脂組成物に浸漬した部分)は、膜基材(膜厚部分)の内部の硬さが外側表面に近いほど高められ、膜基材全体で比較しても従来以上の硬さが発現して、中空糸膜同士の隙間で硬化したウレタン樹脂の硬さと比較しても大差のない硬さになる。
【0037】
なお、中空糸束3の両端に開口している各中空糸膜12の開口を閉塞しておくと、液状の樹脂組成物が中空糸膜12の内側空間に入り込まないので、後述する切断長さを短縮でき、廃棄する部分を減少することができる。さらに、樹脂組成物が中空糸膜12の内側空間に入り込まない状態でターンテーブルの回転数を高めて遠心力を強めると、樹脂組成物が中空糸膜12の膜基材の細孔内へ迅速に、且つ深く浸透する。したがって、中空糸膜12の両端部分の硬さを、硬化した樹脂組成物の硬さに近づけることができ、後述する切断工程における切断面を一層平滑にすることができる。
【0038】
封止工程が終了したならば、ターンテーブルからケーシング4を取り外し切断工程に移行する。この切断工程では、図4(d)に示すように、ケーシング4の端部から突出した部分をケーシング4の端部に合わせてカッターにより切断し、これにより中空糸膜12の端部を切断面に開口させることができる(切断工程)。この切断の際、中空糸膜12の膜基材内で硬化したウレタン樹脂(樹脂組成物)により硬さが高められているので、カッターが中空糸膜12に接触しても膜基材が容易に撓むことが無く、これにより中空糸膜12の切り口にバリが発生することを抑制でき、切断面が平滑に仕上がる。なお、この切断面の粗さは、以下の通りであることが望ましい。
0.01μm<Ra(算術平均粗さ)<0.15μm
0.01μm<Ry(最大高さ)<1.0μm
0.01μm<Rz(十点平均粗さ)<1.0μm
この表面粗さは、JIS B0601−1994に準拠したものである。なお、算術平均粗さ(Ra)は、粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さLだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線か測定曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均した値である。また、最大高さ(Ry)は、粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さLだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から最も高い山頂までの高さYpと最も低い谷底までの深さYvとの和である。さらにまた、十点平均粗さ(Rz)は、粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さLだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から、最も高い山頂から5番目までの山頂の標高(Yp)の絶対値の平均値と、最も低い谷底から5番目までの谷底の標高(Yv)の絶対値の平均値との和である。
そして、切断面の粗さの範囲に上記した上限を設定した理由は、切断面粗さが上記上限を超えた血液浄化器1を使用すると、中空糸束3のうち残血が生じる中空糸膜12の本数が多くなってしまうためである。また、切断面の粗さの範囲に上記した下限を設定した理由は、切断面粗さを上記下限までの値で仕上げれば中空糸束3内に残血がほとんど生じなくなり、さらに切断面粗さを低く仕上げたとしても、加工コストが高くなるだけで、中空糸束3内の残血発生の防止に寄与し難いためである。
【0039】
切断工程を終了したならば、ケーシング4の両端にキャップ部材5,6を螺合装着する。この状態では、中空糸膜12の内側表面が疎水性のままなので親水化処理を施して賦活性能を付与することが望ましい。以下、親水化処理の一例を説明する。
【0040】
まず、図5(a)に示すように、透析液注入ポート8、透析液排出ポート9、血液排出ポート13、および血液注入ポート15を減圧ポンプ(図示せず)に配管を介して接続し、ケーシング4内、すなわち中空糸膜12の内側空間および外側空間を減圧する(減圧工程)。なお、減圧工程においては、ケーシング4内を−90kPa以下に減圧することが好ましい。これは、減圧度合(真空度)が高いと、親水化処理が中空糸膜12の全体に亘って均一に行われるため、また、親水化処理の進み具合が早くなり、作業効率が向上するためである。
【0041】
ケーシング4内が減圧されたならば、図5(b)に示すように、血液排出ポート13および血液注入ポート15に接続された配管を切り換えて親水化液供給源(図示せず)に連通し、ポート13,15からグリセリンを含有する親水化処理液(例えばグリセリン水溶液)を注入して中空糸膜12の内側空間に通液して内側表面に接触させる(親水化処理液注入工程)。すると、中空糸膜12の内側空間(親水化処理液が注入された空間)と外側空間(中空糸膜同士の隙間)との間に圧力差が生じ、この圧力差により親水化処理液の溶媒成分(水)が膜基材を透過して膜基材の外側へ移動し、親水化処理液の濾過が開始される。そして、親水化処理液中の親水化剤であるグリセリンが膜基材の内側表面、または膜基材の細孔内に付着保持される(膜通液工程)。
【0042】
ここで、グリセリンを含有する親水化処理液は、グリセリン濃度を1〜100%、好ましくは5〜50%に設定し、温度を20〜80℃に設定することが好適である。これは、親水化処理液を中空糸膜12の内側空間内へ注入するのに適した流動状態に設定するためであり、これにより、親水化処理液注入工程をスムーズに行うことができる。したがって、血液浄化器1の製造効率の向上を図ることができる。また、グリセリン濃度を極端に高く設定しなくても、5〜50%のグリセリン濃度であれば中空糸膜12の親水化を十分に行うことができ、消費するグリセリンの量やコストを抑えることができる。
【0043】
膜通液工程を所定時間行ったならば、通液を止め、図5(c)に示すように、血液排出ポート13または血液注入ポート15の何れか一方(図5(c)では血液排出ポート13)から中空糸膜12の内側空間へ空気を通すことにより余剰処理液を除去すると共に、不安定な保持状態(保持力が弱く容易に離脱し得る状態)の親水化剤も除去する(第1パージ工程)。
【0044】
第1パージ工程が終了したならば、図5(d)に示すように、透析液注入ポート8または透析液排出ポート9の何れか一方(図5(d)では透析液注入ポート8)から中空糸膜12の外側空間へ空気を通すことで、中空糸膜12の内側空間から移動してきたものを除去する(第2パージ工程)。この第2パージ工程の終了により親水化処理は終了する。
【0045】
この様にして親水化処理が施された血液浄化器1は、中空糸膜12のうち両端部(封止部10)の間の部分、すなわち樹脂組成物により固定されていない部分の膜基材に親水化剤としてのグリセリンを付着保持する。したがって、血液浄化器1は、従来の製造方法で製造された血液浄化器、具体的には、グリセリン処理済みの中空糸束をケーシングに装填し、封止工程および切断工程を経て製造された血液浄化器とほぼ同等の賦活性能を備えることができる。また、上記した親水化処理では、親水化処理液を濾過する過程で親水化剤が中空糸膜12に保持されるので、親水化処理液中の親水化剤を効率よく保持させることができる。さらに、不溶化処理をすることなく簡素な処理で膜基材に親水化剤を保持することができる。
【0046】
そして、予め血液浄化器1内の空気を抜いて減圧してから親水化処理液を注入するので、親水化処理液注入時に気泡が膜基材の表面に残ることがない。したがって、気泡により親水化処理液と膜表面との接触が邪魔されず、中空糸膜12の全体に亘って親水化処理が均一に行われる。このことから、膜基材の親水化処理を効率よく行うことができる。また、過度な機械的ストレスを膜基材に付与することなく親水化処理を行うことができる。
【0047】
さらに、樹脂組成物を硬化させて中空糸束3の両端部をケーシング4に対して樹脂組成物で固定封止した後、中空糸膜12にグリセリンを保持するので、樹脂組成物の成分が硬化していない状態でグリセリンと反応することを防ぐことができ、樹脂組成物の成分とグリセリンとの反応物を洗い流す作業を行わずに済む。したがって、血液浄化器1の製造効率の向上を図ることができる。そして、従来のグリセリンによる親水化処理を施した血液浄化器と同等の賦活性能を得ることができる。
【0048】
また、中空糸束3をケーシング4に装填する前に、中空糸膜12にグリセリンによる親水化処理を施す必要がない。したがって、中空糸膜12の製造工程において、従来のグリセリンによる親水化処理、およびその後の乾燥作業を省略することができ、中空糸束3の準備時間、ひいては血液浄化器1の製造時間の短縮を図ることができる。
【0049】
上記した実施形態では、第1パージ工程の後に第2パージ工程を行ったが、第2パージ工程の後に第1パージ工程を行い、まず中空糸膜12の外側に移動したものを血液浄化器1の外へ排出し、その後血液流路に残った親水化処理液を排出するようにしてもよい。これらのパージ工程を行う順序は、中空糸膜12の強度によって変えるのが好ましい。すなわち、中空糸膜12が内圧により伸び易く、細孔の大きさが変わり易いものである場合には、第2パージ工程(膜外パージ工程)を行う前に第1パージ工程(膜内パージ工程)を行うのが好適である。この順にすると、中空糸膜12の内部に空気圧がかかる時は、外側空間の親水化処理液で中空糸膜12が伸びて細孔の大きさが変わってしまうのを抑えることができる。
【0050】
また、グリセリンを含有する親水化処理液は、水を溶媒としたもの(グリセリン水溶液)に限定されない。要は、中空糸束や樹脂組成物などの血液浄化器1の構成要素に悪影響を与えない溶媒にグリセリンを含有させたものであればどのようなものでもよい。
【0051】
さらに、上記実施形態の親水化処理では、中空糸膜12の内側空間および外側空間を減圧したが、本発明はこれに限定されない。例えば、中空糸膜12の外側空間のみを減圧するようにして、中空糸膜12の内側空間と外側空間との間に圧力差を生じさせ、この状態で中空糸膜12の内側空間に親水化処理液を注入してもよい。
【0052】
そして、上記実施形態においては血液浄化器1を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ジュースなど飲料物の濃縮や精製等に使用する水処理用の中空糸型モジュールでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】長手方向の途中を部分的に切断して示した中空糸型血液浄化器の断面図である。
【図2】(a)はケーシングの端部における中空糸束の切断面の説明図、(b)は(a)の部分拡大図、(c)は中空糸膜への樹脂組成物の含浸状態の説明図である。
【図3】製膜した膜基材の分子量分画特性を説明する図である。
【図4】血液浄化器の製造工程を示す説明図であり、(a)は中空糸束装填工程、(b)はケーシング開口部閉塞工程、(c)は封止工程、(d)は切断工程の概略説明図である。
【図5】親水化処理の説明図であり、(a)は減圧工程、(b)は親水化処理液注入工程、(c)は第1パージ工程、(d)は第2パージ工程を示す説明図である。
【符号の説明】
【0054】
1 血液浄化器
2 ケース
3 中空糸束
4 ケーシング
5 排出側のキャップ部材
6 注入側のキャップ部材
7 拡径部
8 透析液注入ポート
9 透析液排出ポート
10 封止部
12 中空糸膜
13 血液排出ポート
14 Oリング
15 血液注入ポート
16 Oリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着能を備えた疎水性高分子を主たる膜素材とした中空糸膜を束にした中空糸束をケーシング内に装填して、中空糸束の端部をケーシングの端部よりも突出させる中空糸束装填工程と、
突出した中空糸束の端部を囲む状態でケーシングの両端開口部を閉塞するケーシング開口部閉塞工程と、
前記ケーシング開口部閉塞状態でケーシング内に液状の樹脂組成物を流し込んでケーシングを回転しながら樹脂組成物を硬化させて中空糸束の両端部をケーシングに対して樹脂組成物で固定封止するとともに、ケーシング内を中空糸膜の内側の第1通液空間と外側の第2通液空間とに区画する封止工程と、
該封止工程後、ケーシングの端部から突出した部分を切断することにより中空糸の端部を開口させる切断工程と、
を含む中空糸型モジュールの製造方法において、
前記中空糸束装填工程でケーシング内に装填する中空糸束の各中空糸膜には親水化剤を含まない疎水性の膜素材により紡糸した中空糸膜であって、且つ親水化処理をしていない素の中空糸膜を用い、
前記封止工程では、流し込んだ樹脂組成物を中空糸膜の膜基材内に含浸させ、
前記切断工程では、膜基材内に含浸した樹脂組成物が硬化した状態で切断し、
前記切断工程後、開口した端部から第1通液空間へグリセリンを含有した親水化処理液を注入する親水化処理液注入工程と、
前記第1通液空間と第2通液空間との間に圧力差を生じさせ、該圧力差により親水化処理液の溶媒成分を第1通液空間から第2通液空間へ移動させることでグリセリンを中空糸膜に保持させる膜通液工程と、
を行うことを特徴とする中空糸型モジュールの製造方法。
【請求項2】
少なくともケーシング内の第2通液空間を減圧する減圧工程を前記親水化処理液注入工程よりも前に行い、
前記膜通液工程は、減圧工程により減圧状態となった第2通液空間と、親水化処理液注入工程により親水化処理液が注入された第1通液空間との圧力差により行われることを特徴とする請求項1に記載の中空糸型モジュールの製造方法。
【請求項3】
前記親水化処理液のグリセリン濃度を5〜50%、温度を20〜80℃に設定したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の中空糸型モジュールの製造方法。
【請求項4】
吸着能を備えた疎水性高分子を主たる膜素材とした中空糸膜を束にした中空糸束をケーシング内に装填し、ケーシング内に流し込んだ液状の樹脂組成物を硬化させて中空糸束の両端部をケーシングに対して固定し、ケーシングの端部で切断した樹脂組成物の切断面に中空糸の端部を開口させた中空糸型モジュールにおいて、
前記樹脂組成物によりケーシングに固定された中空糸膜の両端部は、親水化剤を含まない疎水性の膜素材により紡糸され、且つ親水化処理をしていない素の中空糸膜であって、樹脂組成物が膜基材内に含浸され、
前記中空糸膜のうち両端部の間の部分にはグリセリンを保持していることを特徴とする中空糸型モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−785(P2007−785A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−184371(P2005−184371)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】