説明

中空繊維状有機ナノチューブの製造方法

【課題】 無機ナノチューブにはない特性を持ち、しかもシクロデキストリンよりも約10倍以上大きな内径と高い軸比を持つ中空繊維状有機ナノチューブ及びその簡便な合成方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)又は(2)
RCO(NH−CHR’−CO)OH (1)
H(NH−CHR’−CO)NHR (2)
(式中、Rは炭素数6〜24の炭化水素基、R’はアミノ酸側鎖、mは1〜10の整数を表す。)で表される、長鎖炭化水素とペプチド鎖の結合体からなるペプチド脂質を、アルカリ性水溶液に溶解した後に酸性化合物を加えること、又は酸性水溶液に溶解した後にアルカリ性化合物を加えることにより自己集合させてナノサイズの中空繊維状構造物を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、化成品分野などにおける包接・分離用材料、薬剤徐放材料として、あるいは高機能性材料として有用な中空繊維状有機ナノチューブとその製造方法に関し、さらに詳しくは、アルカリ性水溶液に溶解した後酸性化合物を加えること、もしくは酸性水溶液に溶解した後アルカリ性化合物を加えること、によって簡便に中空繊維状有機ナノチューブを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノテクノロジーを代表する材料として0.5〜500ナノメートル(以下nmと記す)の細孔を有するナノチューブ状材料が注目を集めている。そのなかでも人工的に初めて合成された無機系ナノチューブであるカーボンナノチューブは良く知られており(非特許文献1)、そのサイズ、形状、化学構造、等に由来する特性への期待から、ナノスケールの電子デバイス、高強度材料、電子放出、及びガス貯蔵等への用途開発とともに、実用化への要望から精力的に量産化に関する研究が進められている(特許文献1及び非特許文献2)。
また、1nm以下の細孔を有する有機環状化合物としてクロデキストリンが有名である。シクロデキストリンは、種々の低分子有機化合物をその環状中空部に内包できることから、健康食品分野、化粧品分野、抗菌消臭・家庭品分野、工業・農業・環境分野への貢献を目的に、様々なシクロデキストリン包接品が研究開発され、既に事業化されているものも多い(特許文献2、特許文献3、特許文献4)。このようなシクロデキストリンの広範な用途開発の実施は、シクロデキストリンの量産化が実現していることと、シクロデキストリンの構造がブドウ糖6〜8単位を環状に連ねたものであり、生体への安全性が確保されていることが大きな要因である。
【0003】
本発明者らは無機系ナノチューブとは違った分野での応用が見込まれ、またシクロデキストリンよりも大きな内孔サイズの中空構造を有する長鎖炭化水素基に糖残基を結合させた糖脂質を自己集合させることにより形成される中空繊維状有機ナノチューブを合成することに成功している(特許文献5、非特許文献3)。この中空繊維状有機ナノチューブは、中空シリンダー部の内孔サイズが5〜500nmであり、シクロデキストリンよりも一桁以上大きいため、シクロデキストリンでは包接が不可能である5〜500nmのタンパク質、ウイルス、金属微粒子やその他の無機微粒子等をその中空シリンダー内部に捕捉できる可能性があり、その用途開発が期待されている。このような中空繊維状有機ナノチューブの新たな用途開発を積極的に推進するためには、上記糖脂質以外の化合物による中空繊維状有機ナノチューブとその合成法が開発されることが望ましい。
【0004】
そこで本発明者らは、長鎖脂肪酸のカルボキシル基とオリゴペプチドのN端を結合させたペプチド脂質の自己集合により形成される中空繊維状有機ナノチューブの合成検討を進めた。その結果、水中でペプチド脂質と遷移金属を共存させることにより、ナノサイズの中空繊維状構造物が形成することを見出している(特許文献6)。
しかしながら、遷移金属を用いずに長鎖脂肪酸のカルボキシル基とオリゴペプチドのN端を結合させたペプチド脂質から中空繊維状有機ナノチューブを直接合成する方法、並びにその中空繊維状有機ナノチューブは、これまで知見することができなかった。
また、このペプチド脂質は分子の末端にカルボシキル基を有しているため、酸性条件下では安定であるが、アルカリ性条件下では不安定であるという欠点があった。この問題を解決できると期待される長鎖アミンのアミノ基とオリゴペプチドのC末端を結合させたペプチド脂質から中空繊維状有機ナノチューブを直接合成する方法、並びにその中空繊維状有機ナノチューブは、これまで知られていない。
【特許文献1】特表2003−535794号公報
【特許文献2】特開2005−306763号公報
【特許文献3】特開2006−1917号公報
【特許文献4】特開平7−109254号公報
【特許文献5】特開2004−224717号公報
【特許文献6】特開2004−250797号公報
【非特許文献1】S.Iijima, Nature, 1991, 354, 56
【非特許文献2】K.Hata, DonN.Futaba, K.Mizuno, T.Namai, M.Yumura, S.Iijima, Science, 2004, 306, 1362
【非特許文献3】S.Kamiya, H.Minamikawa, J.H.Jung, Y.Bo, M.Masuda, T.Shimizu, Langmuir, 2005, 21, 743
【非特許文献4】B.Yang, S.Kamiya, K.Yoshida, T.Shimizu, Chem.Comm., 2004, 500
【非特許文献5】B.Yang, S.Kamiya, N.Koshizaki, Y.Shimizu, T.Shimizu, Chem.Mater., 2004, 16, 2826
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、カーボンナノチューブに代表される無機ナノチューブにはない特性を持ち、しかもシクロデキストリンよりも約10倍以上大きな内径と高い軸比を持つ中空繊維状有機ナノチューブを、遷移金属を用いることなく簡便に合成できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、長鎖炭化水素基とペプチド鎖の結合体からなるペプチド脂質をアルカリ性水溶液に溶解した後酸性化合物を加えること、もしくは酸性水溶液に溶解した後アルカリ性化合物を加えること、により自己集合させると、遷移金属を用いることなく、ナノサイズの中空繊維状構造物を形成することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち本発明は、下記一般式(1)
RCO(NH−CHR’−CO)OH (1)
(式中、Rは炭素数6〜24の炭化水素基、R’はアミノ酸側鎖、mは1〜10の整数を表す。)で表わされるペプチド脂質を、アルカリ性水溶液に溶解させる段階、その溶液を酸性雰囲気下に放置する段階、及び溶液中で自己集合することにより生成する中空繊維状有機ナノチューブを溶液から回収し、室温で風乾又は減圧加熱乾燥させる段階から成る、中空繊維状有機ナノチューブの製造方法である。
また、本発明は、下記一般式(2)
H(NH−CHR’−CO)NHR (2)
(式中、Rは炭素数6〜24の炭化水素基、R’はアミノ酸側鎖、mは1〜10の整数を表す。)で表わされるペプチド脂質を酸性水溶液に溶解させる段階、その溶液をアルカリ性雰囲気下に放置する段階、及び溶液中で自己集合することにより生成する中空繊維状有機ナノチューブを溶液から回収し、室温で風乾又は減圧加熱乾燥させる段階から成る、中空繊維状有機ナノチューブの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、下記一般式(1)
RCO(NH−CHR’−CO)OH (1)
(式中、Rは炭素数6〜24の炭化水素基、R’はアミノ酸側鎖、mは1〜10の整数を表す。)又は下記一般式(2)
H(NH−CHR’−CO)NHR (2)
(式中、Rは炭素数6〜24の炭化水素基、R’はアミノ酸側鎖、mは1〜10の整数を表す。)で表わされるペプチド脂質からなる実用化に適した中空状の繊維構造、形態を有する中空繊維状有機ナノチューブを、遷移金属を用いることなく容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のペプチド脂質は、長鎖炭化水素基を有するペプチド脂質、すなわち下記の一般式(1)
RCO(NH-CHR’-CO)OH (1)
又は下記の一般式(2)
H(NH-CHR’-CO)NHR (2)
で表わされるペプチド脂質であり、これを原料として中空繊維状有機ナノチューブを製造することができる。
【0010】
この一般式(1)及び一般式(2)中、Rは炭素数が6〜24の炭化水素基、好ましくは炭素数2以下の側鎖が付いてもよい直鎖炭化水素である。この炭化水素基は飽和であっても不飽和であってもよく。不飽和の場合には3個以下の二重結合を含むことが好ましい。またRの炭素数は6〜24、好ましくは10〜16である。このような炭化水素基としては、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ヘネイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、及びヘキサコシル基などが挙げられる。
また、上記一般式(1)及び一般式(2)中、R’はアミノ酸側鎖であり、このアミノ酸としては、例えば、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、アラニン、アルギニン、グルタミン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、システイン、スレオニン、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン、及びセリンが挙げられ、好ましくはグリシンである。このアミノ酸側鎖はD、L型、ラセミ体のいずれであってもよいが、天然由来のものは通常L型である。
上記一般式(1)及び一般式(2)中、mは1〜10の整数であり、好ましくは2である。
【0011】
本発明のペプチド脂質の製法に特に制限はないが、一般式(1)で表されるペプチド脂質は、例えば、一般式R−COOH(式中、Rは一般式(1)のRと同じ意味をもつ)で表わされる長鎖カルボン酸又は一般式R−COCl(式中、Rは一般式(1)のRと同じ意味をもつ)で表わされる長鎖カルボン酸クロライドを、ペプチドのN端側と反応させて、ペプチド結合を形成させることによって、製造することができる。
長鎖カルボン酸として、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン産、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘネイコサン酸、ドコサン酸、トリコサン酸、テトラコサン酸、ペンタコサン酸、ヘキサコサン酸などを挙げることができる。この中でドデカン酸、テトラデカン酸、等は得られるペプチド脂質の両親媒性のバランス、天然に存在するために安価に入手可能なことなどから望ましい。
【0012】
また、一般式(2)で表されるペプチド脂質は、例えば、一般式R−NH(式中、Rは一般式(2)のRと同じ意味をもつ)で表わされる長鎖アミンを、ペプチドのC端側と反応させて、ペプチド結合を形成させることによって、製造することができる。
長鎖アミンとして、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、ノナデシルアミン、エイコシルアミン、ヘネイコシルアミン、ドコシルアミン、トリコシルアミン、テトラコシルアミン、ペンタコシルアミン、及びヘキサコシルアミンなどを挙げることができる。この中でテトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、等は得られるペプチド脂質の両親媒性のバランス、安価に入手可能なことなどから望ましい。
一般式(2)で表されるペプチド脂質のN端は、通常、ハロゲン原子を持つ酸の塩として単離する。これは、N端が各種の保護基で修飾されているのを、各種の希酸/有機溶媒を用いて脱保護を行うためである。さらに、N端アミノ基が遊離の状態で保存するより、ハロゲン原子を持つ酸の塩として保存したほうが化学的に安定である。塩としては、臭化水素酸塩、塩酸塩などが一般的であるが、一般的には、塩酸塩である。
【0013】
次に、このペプチド脂質を用いて中空繊維状有機ナノチューブを製造する方法について述べる。
(1a)一般式(1)RCO(NH-CHR’-CO)OHで表されるペプチド脂質をアルカリ性水溶液に溶解させて溶液を調製する。ペプチド脂質は、アルカリ性水溶液に溶解することにより、脂質末端にカルボキシレートアニオンが形成される。この溶液を調製するにあたっては特に加温を要しない。この溶液中のペプチド脂質の濃度は高いほど好ましく、飽和であることが最も好ましい。このアルカリ性水溶液は、アルカリ金属水酸化物やアルカリ土類金属水酸化物などの水溶液、あるいはpH7以上の緩衝溶液であり、pHが7.5〜12の範囲であることが好ましい。
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムなどを挙げることができる。
アルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどを挙げることができる。
pH7以上の緩衝溶液としては、ホウ酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩などの水溶液を挙げることができる。
【0014】
次に、この溶液に、酸性化合物を直接、好ましくは水で希釈して5重量%以下の希薄酸性水溶液として、より好ましくは1重量%以下の希薄酸性水溶液として、更により好ましくは1重量%以下の希薄酸性水溶液の蒸気拡散により加える。
この酸性化合物としては塩酸、硫酸、硝酸、臭化水素酸、を挙げることができる。更には、これら酸性化合物2種以上を混合した混合溶液を用いてもよい。
その結果、ペプチド脂質の末端に形成されたカルボキシレートアニオンが、酸性化合物由来のプロトンにより中和されてカルボン酸となり、水溶液に対する溶解度の低下に依存して、溶液から中空繊維状物質が析出してくる。
【0015】
(1b)別法として、一般式(2)H(NH-CHR’-CO)NHRで表されるペプチド脂質を酸性水溶液に溶解させて溶液を調製する。ペプチド脂質は、酸性水溶液に溶解することにより、脂質末端にアンモニウムカチオンが形成される。この溶液を調製するにあたっては特に加温を要しない。この溶液中のペプチド脂質の濃度は高いほど好ましく、飽和であることが最も好ましい。この酸性水溶液としては、希塩酸、希硝酸、希硫酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、もしくは、pH7以下の緩衝溶液(酢酸塩など)などの水溶液であり、pHが3〜6.5の範囲であることが好ましい。
【0016】
次に、この溶液にアルカリ性化合物を直接、好ましくは水で希釈して5重量%以下の希薄アルカリ性水溶液として、より好ましくは1重量%以下の希薄アルカリ性水溶液として、更により好ましくは1重量%以下の希薄アルカリ性水溶液の蒸気拡散により加える。
アルカリ性化合物としては、トリエチルアミン、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ジエチルアミン、N-エチルメチルアミン、N-メチルプロピルアミン、ジプロピルアミン、トリメチルアミン、N,N-ジメチルエチルアミン、N,N-ジメチルイソプロピルアミン、N,N-ジメチルブチルアミン、N,N-ジエチルメチルアミン、トリプロピルアミン、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、などを挙げることができる。更には、これらアルカリ性化合物2種以上を混合した混合溶液を用いてもよい。
その結果、ペプチド脂質の末端に形成されたアンモニウムカチオンが、アルカリ性化合物により脱プロトン化してアミンとなり、水溶液に対する溶解度の低下に依存して、溶液から中空繊維状物質が析出してくる。
【0017】
(2)次に、溶液から中空繊維状物質を回収し、減圧加熱乾燥することにより、空気中で安定な、平均外径が20〜700nm、好ましくは40〜400nmであり、平均内径(中空の平均径)が10〜500nm、好ましくは20〜200nmであり、長さが数百nm〜数百μmのサイズを有する中空繊維状有機ナノチューブが得られる。
減圧加熱乾燥の条件は、室温から60℃の温度範囲において減圧度20Pa以下で、2時間以上乾燥することである。加熱温度は60℃以下であれば高いほど乾燥時間が短くて済むが、ペプチド脂質の熱安定性に与える影響を考慮すると40℃以下が好ましい。より好ましい乾燥条件は、30℃で24〜48時間である。
【0018】
中空繊維状有機ナノチューブの形態やサイズ次元の確認のためには、光学顕微鏡、レーザー顕微鏡、走査電子顕微鏡、透過電子顕微鏡、原子間力顕微鏡などが用いられる。光学顕微鏡やレーザー顕微鏡では、一般には数百nm以下の外径をもつ繊維状構造体を検出するには、染色法などの技法を用いないと困難である。走査電子顕微鏡は繊維状構造体の表面観察、形態観察には非常に有効な観察手段である。繊維構造体の配向状態によっては、中空シリンダー構造の直接確認は可能であるが、万能とは言えない。透過電子顕微鏡は、中空シリンダー構造を濃淡のコントラストの差で表現できるため、中空シリンダー構造の確認は可能であるが、リボン状の構造体の横幅両端が単に少し巻き上がった状態でも同様なコントラスト像を与えるため、単独使用では、中空シリンダー構造と断定するには少し危険である。そのため、中空繊維状形態の存在確認のためには、走査電子顕微鏡と透過電子顕微鏡を併用して使用することが望ましい。
【実施例】
【0019】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
(製造例1)
[N−テトラデカノイル−グリシルグリシンの合成]
グリシルグリシンベンジルエステル塩酸塩0.57g(2.2ミリモル)にトリエチルアミン0.31ml(2.2ミリモル)を加えエタノール10mlに溶解した。ここにトリデカンカルボン酸0.46g(2ミリモル)を含むクロロホルム溶液50mlを加えた。この混合溶液を−10℃で冷却しながら1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩0.42g(2.2ミリモル)を含むクロロホルム溶液20mlを加え、徐々に室温に戻しながら一昼夜撹拌した。反応溶液を10重量%クエン酸水溶液50ml、4重量% 炭酸水素ナトリウム水溶液50ml、純水50mlで洗浄した後、ロータリーエバポレーター(圧力10KPa、蒸発温度40℃)を用いて濃縮乾固し白色固体(N−テトラデカノイル−グリシルグリシンベンジルエステル)0.57g(収率65%)を得た。得られた化合物0.43g(1ミリモル) をジメチルホルムアミド100mlに溶解し、触媒として10重量%パラジウム/炭素を0.5g加え、接触水素還元を行った。6時間後、セライトろ過した後、ロータリーエバポレーター(圧力10KPa、蒸発温度40℃)を用いて濃縮乾固することにより、一般式(1)RCO(NH-CHR’-CO)OHにおいてRがトリデシル基であり、mが2であり、R’が両方ともHである、N−テトラデカノイル−グリシルグリシン0.21g(収率60%)を得た。
融点:158℃
元素分析(C18H34N2O4
計算値(%)C63.13、H10.01、N8.18
実測値(%)C62.09、H9.65、N8.25
【0020】
(製造例2)
[N−ドデカノイル−グリシルグリシンの合成]
グリシルグリシンベンジルエステル塩酸塩0.57g(2.2ミリモル)にトリエチルアミン0.31ml(2.2ミリモル)を加えエタノール10mlに溶解した。ここにウンデカンカルボン酸0.40g(2ミリモル)を含むクロロホルム溶液50mlを加えた。この混合溶液を−10℃で冷却しながら1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩0.42g(2.2ミリモル)を含むクロロホルム溶液20mlを加え、徐々に室温に戻しながら一昼夜撹拌した。反応溶液を10重量%クエン酸水溶液50ml、4重量% 炭酸水素ナトリウム水溶液50ml、純水50mlで洗浄した後、ロータリーエバポレーター(圧力10KPa、蒸発温度40℃)を用いて濃縮乾固し白色固体(N−ドデカノイル−グリシルグリシンベンジルエステル)0.50g(収率60%)を得た。得られた化合物0.42g(1ミリモル) をジメチルホルムアミド100mlに溶解し、触媒として10重量%パラジウム/炭素を0.5g加え、接触水素還元を行った。6時間後、セライトろ過した後、ロータリーエバポレーター(圧力10KPa、蒸発温度40℃)を用いて濃縮乾固することにより、一般式(1)RCO(NH-CHR’-CO)OHにおいてRがウンデシル基であり、mが2であり、R’が両方ともHである、N−ドデカノイル−グリシルグリシン0.16g(収率50%)を得た。
融点:160℃
元素分析(C16H30N2O4 ・0.5H2O)
計算値(%)C59.41、H9.66、N8.66
実測値(%)C60.09、H9.34、N8.58
【0021】
(製造例3)
[N−ドデカノイル−グリシルグリシルバリンの合成]
グリシルグリシルバリンベンジルエステル塩酸塩0.93g(2.2ミリモル)にトリエチルアミン0.31ml(2.2ミリモル)を加えエタノール10mlに溶解した。ここにウンデカンカルボン酸0.40g(2ミリモル)を含むクロロホルム溶液50mlを加えた。この混合溶液を−10℃で冷却しながら1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩0.42g(2.2ミリモル)を含むクロロホルム溶液20mlを加え、徐々に室温に戻しながら一昼夜撹拌した。反応溶液を10重量%クエン酸水溶液50ml、4重量% 炭酸水素ナトリウム水溶液50ml、純水50mlで洗浄した後、ロータリーエバポレーター(圧力10KPa、蒸発温度40℃)を用いて濃縮乾固し白色固体(N−ドデカノイル−グリシルグリシルバリンベンジルエステル)0.45g(収率45%)を得た。得られた化合物0.45g(0.9ミリモル) をジメチルホルムアミド100mlに溶解し、触媒として10重量%パラジウム/炭素を0.5g加え、接触水素還元を行った。6時間後、セライトろ過した後、ロータリーエバポレーター(圧力10KPa、蒸発温度40℃)を用いて濃縮乾固することにより、一般式(1)RCO(NH-CHR’-CO)OHにおいてRがウンデシル基であり、mが3であり、R’が左からH、H、(CHCH−である、N−ドデカノイル−グリシルグリシルバリン0.22g(収率60%)を得た。
融点:130℃
元素分析(C21H39N3O5
計算値(%)C60.99、H9.51、N10.16
実測値(%)C61.11、H9.24、N9.68
【0022】
(製造例4)
[N−トリデシル−グリシルグリシンアミド塩酸塩の合成]
t−ブチルオキシカルボニル−グリシルグリシン0.51g(2.2ミリモル)にトリエチルアミン0.31ml(2.2ミリモル)を加えエタノール10mlに溶解した。ここにトリデシルアミン0.40g(2ミリモル)を含むクロロホルム溶液50mlを加えた。この混合溶液を−10℃で冷却しながら1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩0.42g(2.2ミリモル)を含むクロロホルム溶液20mlを加え、徐々に室温に戻しながら一昼夜撹拌した。反応溶液を10重量%クエン酸水溶液50ml、4重量% 炭酸水素ナトリウム水溶液50ml、純水50mlで洗浄した後、ロータリーエバポレーター(圧力10KPa、蒸発温度40℃)を用いて濃縮乾固しオイル(N−トリデシル−t−ブチルオキシカルボニル−グリシルグリシンアミド)を得た。得られたオイル をクロロホルム100mlに溶解し、4N塩酸/酢酸エチル10mlを加えてペプチドの脱保護を行った。4時間後、ロータリーエバポレーター(圧力10KPa、蒸発温度40℃)を用いて濃縮乾固することにより、一般式(2)H(NH-CHR’-CO)NHRにおいてRがトリデシル基であり、mが2であり、R’が両方ともHである、N−トリデシル−グリシルグリシンアミド塩酸塩0.19g(収率27%)を得た。
融点:140℃
元素分析(C17H36ClN3O2・1.5H2O)
計算値(%)C54. 6、H10.43、N11.15
実測値(%)C53.81、H10.86、N11.43
【0023】
(製造例5)
[N−テトラデシル−グリシルグリシンアミド塩酸塩の合成]
t−ブチルオキシカルボニル−グリシルグリシン0.51g(2.2ミリモル)にトリエチルアミン0.31ml(2.2ミリモル)を加えエタノール10mlに溶解した。ここにテトラデシルアミン0.43g(2ミリモル)を含むクロロホルム溶液50mlを加えた。この混合溶液を−10℃で冷却しながら1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩0.42g(2.2ミリモル)を含むクロロホルム溶液20mlを加え、徐々に室温に戻しながら一昼夜撹拌した。反応溶液を10重量%クエン酸水溶液50ml、4重量% 炭酸水素ナトリウム水溶液50ml、純水50mlで洗浄した後、ロータリーエバポレーター(圧力10KPa、蒸発温度40℃)を用いて濃縮乾固しオイル(N−テトラデシル−t−ブチルオキシカルボニル−グリシルグリシンアミド)を得た。得られたオイル をクロロホルム100mlに溶解し、4N塩酸/酢酸エチル10mlを加えてペプチドの脱保護を行った。4時間後、ロータリーエバポレーター(圧力10KPa、蒸発温度40℃)を用いて濃縮乾固することにより、一般式(2)H(NH-CHR’-CO)NHRにおいてRがテトラデシル基であり、mが2であり、R’が両方ともHである、N−テトラデシル−グリシルグリシンアミド塩酸塩0.38g(収率52%)を得た。
融点:150℃
元素分析(C18H38ClN3O2・H2O)
計算値(%)C56.60、H10.56、N11.00
実測値(%)C56.10、H10.88、N11.44
【0024】
(実施例1)
[N−ドデカノイル−グリシルグリシン中空繊維状有機ナノチューブの合成]
製造例2で得られたN−ドデカノイル−グリシルグリシン0.031gを10mMの水酸化ナトリウム水溶液100mlに溶解し、その後、1%希酢酸水溶液の蒸気拡散により溶液を中和すると白色沈殿が析出する。得られた白色粉末を更に50℃で12時間減圧加熱乾燥(10Pa)することにより、N−ドデカノイル−グリシルグリシン中空繊維状有機ナノチューブ(収量:0.025g)を得た。透過電子顕微鏡と走査電子顕微鏡観察により平均外径75nmの中空繊維状有機ナノチューブが形成していることがわかった。走査型電子顕微鏡写真を図1に示す。
【0025】
(実施例2)
[N−テトラデカノイル−グリシルグリシン中空繊維状有機ナノチューブの合成]
製造例1で得られたN−テトラデカノイル−グリシルグリシン0.033gを1mMの水酸化ナトリウム水溶液100mlに溶解し、その後、1%希酢酸水溶液の蒸気拡散により溶液を中和すると白色沈殿が析出する。得られた白色粉末を更に40℃で24時間減圧加熱乾燥(10Pa)することにより、N−テトラデカノイル−グリシルグリシン中空繊維状有機ナノチューブ(収量:0.028g)を得た。透過電子顕微鏡と走査電子顕微鏡観察により平均外径70nmの中空繊維状有機ナノチューブが形成していることがわかった。走査型電子顕微鏡写真を図2に示す。
【0026】
(実施例3)
[N−ドデカノイル−グリシルグリシン中空繊維状有機ナノチューブの合成]
製造例2で得られたN−ドデカノイル−グリシルグリシン3gを100mMの水酸化ナトリウム水溶液50mlに溶解し、その後、100mMの塩酸50mlを加えることより溶液を中和すると白色沈殿が析出する。得られた白色粉末を更に室温で48時間減圧加熱乾燥(10Pa)することにより、N−ドデカノイル−グリシルグリシン中空繊維状有機ナノチューブ(収量:2.2g)を得た。透過電子顕微鏡と原子間力顕微鏡観察により平均外径90nmの中空繊維状有機ナノチューブが形成していることがわかった。原子間力顕微鏡写真を図3に示す。
【0027】
(実施例4)
[N−ドデカノイル−グリシルグリシルバリン中空繊維状有機ナノチューブの合成]
製造例3で得られたN−ドデカノイル−グリシルグリシルバリン0.041gを10mMの水酸化ナトリウム水溶液100mlに溶解し、その後、1%希酢酸水溶液の蒸気拡散により溶液を中和すると白色沈殿が析出する。得られた白色粉末を更に室温で48時間減圧加熱乾燥(10Pa)することにより、N−ドデカノイル−グリシルグリシルバリン中空繊維状有機ナノチューブ(収量:0.035g)を得た。透過電子顕微鏡と走査電子顕微鏡観察により平均外径45nmの中空繊維状有機ナノチューブが形成していることがわかった。透過電子顕微鏡写真を図4に示す。
【0028】
(実施例5)
[N−トリデシル−グリシルグリシンアミド中空繊維状有機ナノチューブの合成]
製造例4で得られたN−トリデシル−グリシルグリシンアミド塩酸塩0.034gを水100mlに溶解し、その後、1%トリエチルアミン水溶液の蒸気拡散により溶液を中和すると白色沈殿が析出する。得られた白色粉末を更に40℃で12時間減圧加熱乾燥(10Pa)することにより、N−トリデシル−グリシルグリシンアミド中空繊維状有機ナノチューブ(収量:0.025g)を得た。透過電子顕微鏡と走査電子顕微鏡観察により平均外径180nmの中空繊維状有機ナノチューブが形成していることがわかった。走査型電子顕微鏡写真を図5に示す。
【0029】
(実施例6)
[N−テトラデシル−グリシルグリシンアミド中空繊維状有機ナノチューブの合成]
製造例5で得られたN−テトラデシル−グリシルグリシンアミド塩酸塩0.036gを水100mlに溶解し、その後、1%トリエチルアミン水溶液の蒸気拡散により溶液を中和すると白色沈殿が析出する。得られた白色粉末を更に40℃で12時間減圧加熱乾燥(10Pa)することにより、N−(グリシルグリシン)テトラデシルアミド中空繊維状有機ナノチューブ(収量:0.030g)を得た。透過電子顕微鏡と走査電子顕微鏡観察により平均外径110nmの中空繊維状有機ナノチューブが形成していることがわかった。走査型電子顕微鏡写真を図6に示す。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の中空繊維状有機ナノチューブは、例えば、ファインケミカル工業分野、医薬、化粧品分野などにおいて薬剤や有用生体分子の包接・分離用材料、ドラッグデリバリ材料として、あるいはナノチューブに導電性物質や金属をコーティングすることによりマイクロ電子部品として電子・情報分野において利用可能である。さらには、微小なチューブ構造を利用した人工血管、ナノチューブキャピラリ、ナノリアクターとして医療、分析、化学品製造分野などで有用であり、工業的利用価値が高いため、これら様々な分野へ貢献することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1の走査電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例2の走査電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例3の原子間力顕微鏡写真である。
【図4】実施例4の透過電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例5の走査電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例6の走査電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
RCO(NH−CHR’−CO)OH (1)
(式中、Rは炭素数6〜24の炭化水素基、R’はアミノ酸側鎖、mは1〜10の整数を表す。)で表わされるペプチド脂質を、アルカリ性水溶液に溶解させる段階、その溶液に酸性化合物を加える段階、及び溶液中で自己集合することにより生成する中空繊維状有機ナノチューブを溶液から回収し、室温で風乾又は減圧加熱乾燥させる段階から成る、中空繊維状有機ナノチューブの製造方法。
【請求項2】
前記一般式(1)中のmが2である請求項1に記載の中空繊維状有機ナノチューブの製造方法。
【請求項3】
前記ペプチドがグリシルグリシンである請求項2に記載の中空繊維状有機ナノチューブの製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ性水溶液が、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物を含む弱アルカリ性水溶液或いはpH7以上の緩衝溶液であり、そのpHが7.5〜12の範囲で調整してある請求項1〜3のいずれか一項に記載の中空繊維状有機ナノチューブの製造方法。
【請求項5】
前記酸性化合物が有機酸によるものである請求項1〜3いずれか一項に記載の中空繊維状有機ナノチューブの製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ性水溶液がpH7.5に調整した水酸化ナトリウム水溶液であり、前記酸性化合物が酢酸によるものである請求項1〜3いずれか一項に記載の中空繊維状有機ナノチューブの製造方法。
【請求項7】
下記一般式(2)
H(NH−CHR’−CO)NHR (2)
(式中、Rは炭素数6〜24の炭化水素基、R’はアミノ酸側鎖、mは1〜10の整数を表す。)で表わされるペプチド脂質を、酸性水溶液に溶解させる段階、その溶液にアルカリ性化合物を加える段階、及び溶液中で自己集合することにより生成する中空繊維状有機ナノチューブを溶液から回収し、室温で風乾又は減圧加熱乾燥させる段階から成る、中空繊維状有機ナノチューブの製造方法。
【請求項8】
前記一般式(2)中のmが2である請求項7に記載の中空繊維状有機ナノチューブの製造方法。
【請求項9】
前記ペプチドがグリシルグリシンである請求項8に記載の中空繊維状有機ナノチューブの製造方法。
【請求項10】
前記酸性水溶液が、酸性化合物を含む弱酸性水溶液又はpH7以下の緩衝溶液であり、そのpHが3〜6.5の範囲で調整してある請求項7〜9のいずれか一項に記載の中空繊維状有機ナノチューブの製造方法。
【請求項11】
前記アルカリ性化合物がアルキルアミンによるものである請求項7〜9のいずれか一項に記載の中空繊維状有機ナノチューブの製造方法。
【請求項12】
前記酸性水溶液が希塩酸であり、前記アルカリ性化合物がトリエチルアミンによるものである請求項7〜9のいずれか一項に記載の中空繊維状有機ナノチューブの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法によって製造された中空繊維状有機ナノチューブ。
【請求項14】
平均外径が20〜700nm、平均内径が10〜500nmである請求項13に記載の中空繊維状有機ナノチューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−31152(P2008−31152A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−136322(P2007−136322)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構委託費「超分子ナノチューブアーキテクトニクスとナノバイオ応用」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】