説明

中空繊維膜、その製造方法、及びその使用

本発明は、特に透析物質の有用性を利用するための合成中空繊維毛細管膜、及び、特に心膜透析及び腹膜透析におけるその使用、更にその製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空繊維毛細管膜及びその製造方法、更に、特に心膜透析及び腹膜透析における透析物質の有用性を利用するための中空繊維毛細管膜の使用に関する。
【0002】
特に透析における使用の増加に起因して、様々な構成の毛細管膜が知られている。透析における膜、特に毛細管膜の使用及び製造は、例えば、「Samtleben and Lysaght in:Horl et al.Replacement of Renal Function by Dialysis 第5版」(Kluwer出版,2004 P709〜724参照)に開示されている。
【0003】
中空繊維膜の製造技術は、例えば「M.Mulder,Basic Principles of Membrane Technology 第2版」(Kluwer出版,1996 P71〜91参照)に開示されている。代表的な製造方法は、溶融紡績法や乾湿紡績法(例えば「Hao et al.J.Appl.Polym.Science 62」(1996)P129〜133参照)といった、いわゆる相転換法(下記参照)を含むものである。
【0004】
いわゆる中空繊維紡糸口金は、特に相転換法による毛細管膜の製造でしばしば使用される。中空繊維紡糸口金による中空繊維膜の製造を行う際には、凝結するポリマーが紡糸口金に配列された環状スリットから現れる、いわゆる凝結紡績プロセスで製造され、対応する凝結剤が中央の凝結剤孔から流される。有名な形状の中空繊維紡糸口金としては、例えばDE 10211051 A1に開示されている。
【0005】
異なる機能を有する複数の層から構成される合成中空繊維膜は、従来技術として既に知られている。
【0006】
WO 00/78437には、ポリマー繊維が編み込まれて構成された支持層を備える支持された中空繊維膜が開示されている。編み込まれたポリマー繊維は、寿命の増加、摩擦抵抗、及び、精密濾過法又は限外濾過法で使用されている間の張力を全ての繊維に与える。焼成されたα酸化アルミニウムの粒子が内部に分散されて形成されたポリマー被膜は、この支持構造に適用される。
【0007】
US 2007/0213665では、腎臓透析の間、透析物質を再生するためのカートリッジを構成する着用可能な腎臓が開示されている。カートリッジ中には、詳細には説明されていないが酢酸セルロースでコーティングされたポリスルホン層からなる膜が用意されている。
【0008】
EP 418 432 A1には、支持された親水性の合成膜が開示されている。かかる親水性の合成膜中には、例えば、ポリプロピレン、フッ化ビニリデン樹脂等の支持層上に銅アンモニウム再生セルロースが沈着されている。銅アンモニウム再生セルロースは、自然界で非化学的に誘導されたセルロースである。その中空繊維膜は、内表面ではなく外表面が被覆されている。
【0009】
US 4,276,172には、銅アンモニウムセルロースを使用する血液透析のための被覆されていないセルロース膜が開示されている。銅アンモニウムセルロースは、少なくとも1つの層がジアルキルアミノセルロースで被覆されている。ここには各層間の結合強度についての問題がある。記載されている膜の細孔は、非常に大きいので、その膜は、低分子量有機化合物又は尿素を備えるカチオンに対して非特異的である。そのような膜の内層の壁厚みは、中空繊維膜の全壁厚みの10〜50%である。
【0010】
EP 286 091 B1には、工業的なプロセスにおける流体分離で使用するためのエチルセルロース溶液で被覆されたポリスルホン中空繊維膜が開示されている。
【0011】
EP 359 834 B1には、ポリスルホン層及び酢酸セルロース層からなる多層の中空繊維膜が開示されている。酢酸セルロースは、溶液からの析出によって、予め準備された(予備的に形成された)工業的なプロセスで使用するためのポリスルホン中空繊維膜に積層される。
【0012】
US 5,156,740には、浸透気化法のプロセスで使用するためのポリスルホンの支持層のみならず、架橋されたポリビニルアルコールの通気性のない分離層から構成された合成膜が開示されている。
【0013】
腹膜透析及び心膜透析のような医療行為では、高純度の透析物質溶液の消費量を最小限にして例えば着用可能な透析システムを提供するために、尿毒症毒素が負荷された透析物質が例えば吸着物質を使用することで再利用される。
【0014】
日々の人間の代謝に起因する約20〜30gの尿素量の大半は、吸着物質が使用されることによって消費される。一般的に、カチオン交換体が水相で使用されるか、又は、上述した従来技術のように、選択的な尿素透過性を備える中空繊維毛細管膜が使用される。該中空繊維毛細管膜は、透析物質の有用性を利用する携帯用の透析システムとして特に有効である(US 2007/0213665 A1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】DE 10211051 A1号公報
【特許文献2】WO 00/78437号公報
【特許文献3】US 2007/0213665号公報
【特許文献4】EP 418 432 A1号公報
【特許文献5】US 4,276,172号公報
【特許文献6】EP 286 091 B1号公報
【特許文献7】EP 359 834 B1号公報
【特許文献8】US 5,156,740
【特許文献9】US 2007/0213665 A1号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】「Samtleben and Lysaght in:Horl et al.Replacement of Renal Function by Dialysis 第5版」(Kluwer出版,2004)
【非特許文献2】「M.Mulder,Basic Principles of Membrane Technology 第2版」(Kluwer出版,1996)
【非特許文献3】「Hao et al.J.Appl.Polym.Science 62」(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上述のシステムでは、1価又は2価のカチオンと比較して、尿素選択性が十分ではなく、以下の膜が配置された吸着材料上で競合反応を引き起こす。これは、吸着容量を減少させると共に、逆に言えば大量の吸着材料が必要となり、吸着材料の重量もより重くなるため好ましくない。
【0018】
これまでは、不便さを伴う被覆によって製造された合成膜が知られており、それらの製造、特にそれらの構造は、複雑でコストのかかるプロセス工程によってのみ構成されていた。
【0019】
更に、従来から知られている中空繊維膜では、選択層、特に尿素に対して選択的である層の非常に薄い層厚みを得ることができない。従って、それらの選択性、即ち、望ましい物質の分離を最大化すること及び選択的な層を通過する望まない化合物を最小化することに限界が設定されていた。特に、尿素の分離においてこれまで知られていた合成中空繊維膜では、尿素の拡散経路が長すぎ、その結果、分離が不完全であると共に分離に長時間を要していた。
【0020】
従って、目的は、例えば、カチオンのような電荷を有する物質の代わりに、特に、溶液からの尿素の選択的な分離に有効な多層(合成)中空繊維毛細管膜を利用できるようにすることを目的とする。更に、膜は、1価又は2価金属カチオンと比較して、尿素の選択的な分離性を有すべきである。1価又は2価金属カチオンは、特に人体に対して必須のアルカリカチオン及びアルカリ土類カチオンである。この膜は、特に、分離される物質の拡散経路を最小化させ、その結果、物質、特に尿素の分離効率を向上させるために選択層の厚みが薄いものあるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の目的は、支持層及び選択層から構成された同時押出材から構成された支持された合成中空繊維膜によって達成される。選択層は、中空側又は外表面側に配置される。
【0022】
「同時押出材」とは、同時押し出し成形プロセスによって同時に形成された支持層及び選択層であると共に、両方の層が互いに強固な結合(合成)を形成するものを意味する。
【0023】
支持層及び選択層から構成される同時押出材は、単一のプロセス工程で支持層及び選択層が同時形成され、支持層と選択層との間に機械的に強固な結合を引き起こす。
【0024】
「選択層」とは、この層が物質の混合物(液体状)から選択された少なくとも1つの物質に対して選択的な浸透性を有し、他の物質に対しては浸透性を有さないことを意味する。
【0025】
その上、同時押出材の使用は、800nm未満の極めて薄い層の形成を可能にする。分離効率は、それによって向上する。本発明による薄層は、分離される物質の拡散経路が最小化されることを意味する。選択層の壁厚みは、中空繊維膜の全壁強度の2〜5%であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】同時押出材から構成される二層合成繊維を介した極低温破断のREM写真。
【図2】図1の極低温破断のREM写真の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の好ましい実施形態では、選択層は、尿素選択性である。即ち、選択層を透過できないNa+,K+,Ca2+,Mg2+等のようなアルカリ金属カチオン及びアルカリ土類金属カチオンと比較して、尿素のみに対して浸透性を有する。その結果、本発明の中空繊維膜は、透析物質の再生のために心膜透析及び腹膜透析で使用されることが特に好ましい。これらのカチオンのうち、検出限界以下又は検出限界である非常に少量が拡散することが分かっている。
【0028】
高い尿素の膜選択性によって、より少ない量の吸着材が要求されるので、本発明の膜を精密濾過システムで使用した時に、着用可能な透析装置において実質的な重量の利点が達成される。
【0029】
本発明では、特に尿素選択性の選択層の厚みは、100nm〜5μmの範囲であり、好ましくは200〜800nm、より好ましくは300〜600nm、特に好ましくは約500nmである。その結果、例えば尿素や他の電荷のない物質の拡散経路は、最小化され、それによって尿素の輸送率が最適化される。
【0030】
選択層の壁厚みは、二つの相反する条件に基づくものである。高い選択性は、選択層の最大厚みによって引き起こされる。しかしながら、拡散経路も選択層の厚みにつれて長くなるので、分離プロセスが遅くなって、効果が低くなる。従って、本発明によれば、最適な層の厚さは、上記の範囲であり、選択性も拡散も過度に制限され過ぎることはない。
【0031】
本発明の特に好ましい実施形態では、選択層は、エステル化セルロース、特に好ましくはアセチルセルロースから構成される。一般的に、不連続のプロセスにおいて、強酸として使用される酢酸や塩化メチレン中でセルロースと無水酢酸との反応によって工業的に製造されるセルロースエステルは、アセチルセルロースである。完全なアセチル化物(44.8%のアセチル基及び62.5%の結合酢酸をそれぞれ含む三酢酸塩)は、素早く特有の効果を生じさせる。例えば、プロピオニルエステルやブチリルエステルのような他のアシル基を備えるエステルも使用される。更に、好ましい実施形態では、混合エステルは、異なるアシル基と共に使用される。アシル基としては、例えばアセチル基、プロピオニル基、長鎖又は分岐アシル基等が挙げられる。一例としては、アセチル−ブチリルセルロースエステルやプロピオニルブチリルセルロースエステルである。
【0032】
アセチル化と同時に、酸触媒によるセルロース骨格の脱重合が生じるため、一般的に使用されるセルロースのみが約100〜350の重合の度合となる。
【0033】
本発明における好ましいアセチルセルロース又は混合エステル化セルロースは、0.5〜3、好ましくは2〜3のアシル化度又はエステル化度となる。アシル化度が3であることは、例えば三酢酸セルロースに該当し、アシル化度が2であることは、例えば二酢酸セルロースに該当する。アシル化度の平均は、反復単位ごとにアシル基がセルロースの自由なOH基に平均的に幾つ結合されるかを示す。理論的に最大限可能なアシル化度に至るまでの高いアシル化度又はエステル化度は、3であることが好ましく、特に尿素選択層の選択性は、アシル化又はエステル化によって向上することが見出された。例えば三酢酸セルロースまでの高い置換度合によって、アシルセルロース層の尿素に対する選択性を更に向上させることが見出された。上記の混合エステルについても同様である。
【0034】
選択層、好ましくはアセチルセルロース層又は混合エステルセルロース層は、一般的に、一日当り10〜80g/m2、特に好ましくは11〜60g/m2の尿素透過性を有する。ナトリウム透過性、即ち一価に帯電したカチオンに対する透過性は、一日当り0〜112mmol/m2である。本発明で使用される選択層は、通常の測定精度において、例えばCa2+,Mg2+のような二価のカチオンに対して不浸透性である。選択層は、一般的に、緻密で細孔のない層である。細孔がないとは、選択層の体積に応じて高分子物質に対する排除境界を選択層が有することを意味する。この排除境界は、最小限の体積で既に効果的であることが好ましく、単分子物質のみがそれらのサイズによって選択層を透過することが可能である。
【0035】
塩化ナトリウム透過性又は一価のカチオンに対する通常の透過性は、アシル化度やエステル化度によって変化する。例えば、エステル化度の増加によって、ナトリウム保持力の改善が観測される。
【0036】
本発明による選択層の極めて薄い層は、機械的に不安定であり、その結果、支持層が必要である。同時押出材としての選択層と支持層との存在は、従来の合成膜と比較して、本発明による合成中空繊維膜の機械的強度の増加を引き起こす。
【0037】
支持層の材料としては、ポリビニールピロリドン(PVP),ポリエーテルスルホン(PES),ポリエーテルイミド(PEI),ポリアミド(PA),ポリカーボネート(PC),ポリスチレン(PS),ポリメチルメタクリレート(PMMA),フッ化ビニリデン(PVDF),ポリアクリロニトリル(PAN),ポリイミド(PI),ポリスルホン(PSU)、及び/又は、ポリウレタン(PU)、及びこれらの混合物が好ましい。一例として、好ましい実施形態では、支持層内には、親水性成分としてPVPが含有されていることが好ましい。
【0038】
支持層の材料を選択する際には、十分に高い透過性と親水性があることが重要である。その結果、支持層を貫通する同等に長い搬送経路の間、例えば尿素のような通過する化合物によって、拡散抵抗が全く誘発されない、又は、僅かのみ誘発される。
【0039】
本発明による支持層の好ましい材料としては、ポリスルホン,ポリビニールピロリドン、及びこれらの混合物が挙げられる。例えばポリスルホン膜の形成のための条件は、十分に良く検討されており、既知のプロセスパラメーターを通じて透過性の異なるレベルが選択的に設定される。従って、ポリスルホンが特に好ましい。ポリスルホンは、任意で、PVPを伴うものである。PVPには、例えば精密濾過システムで使用される繊維束(モジュール)を形成するためのポリウレタンと共に、良好な熱力学的適合性が推測される。
【0040】
支持層の厚みとしては、一般的に20〜50μm、好ましくは30〜40μmであり、上述のように、ポリスルホンを用いることでその厚みに達する。
【0041】
本発明の中空繊維毛細管膜の特有の内径は、20μm〜1mmである。中空繊維毛細管膜の全壁厚みは、20〜100μmである。
【0042】
本発明の目的は、
a)2つの紡績剤溶液A及びBを提供する工程、ここで、溶液Aがエステル化セルロースの溶液であり、溶液Bがポリビニールピロリドン(PVP)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンイミド(PEI)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、フッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)、ポリスルホン(PSU)、及び/又は、ポリウレタン(PU)、及びこれらの混合物を含む群から選択されるポリマーを含む溶液であり、
b)凝結槽の温度を40〜95℃に設定する工程、
c)中空繊維紡糸口金によって、内部凝結剤と溶液A及びBとを接触させる工程、
d)溶液A及びB中で溶解した物質から構成される押出材を凝固させ、凝結させる工程、を含む中空繊維膜の製造方法によって達成される。
【0043】
本発明による紡績プロセスを使用することにより、特に、同時押出材や同時押出材を形成する2つの層の厚みを選択的に設定することができるため、選択層に対する高い尿素透過性及び一価又は二価のカチオンの良好な保持性が得られ、同時に、濾過の間、尿素が通過することによる拡散抵抗を増加させることがないように支持層を薄く又は小さく形成することができる。
【0044】
上述した本発明の紡績方法のプロセスによって、これが特に良好に得られる。既述のように、支持層の材料は、ポリスルホン,ポリビニールピロリドン,又はこれらの混合物から構成される。特に好ましくは、支持層の材料は、ポリスルホンから構成される。
【0045】
好ましい実施形態では、セルロースアセテートを含む紡績剤溶液Aの粘度は、10000〜約17000mPa・s(Haake社製 回転マイクロメーター(VTSSO)及び計量カップシステム(MV−ST)によって決定される値)である。粘度は、例えばジメチルアセトアミド中における25〜40wt%のセルロースアセテートの含有量によって、一般的に維持される。
【0046】
支持層のためのポリマーを含む紡績剤溶液Bの粘度は、一般的に、7000〜13000mPa・sである。
【0047】
200〜400mm/sの紡績速度の水が本発明の方法における内部凝結剤として使用されることが好ましい。
【0048】
「内部凝結剤」とは、中空側の凝結剤を意味する。本発明によると、水が凝結槽中で凝結剤として使用される。水は、例えばナトリウム,カリウム,マグネシウム,又は、カルシウムなどの一価又は二価のカチオンに対して増加された不透過性を内部に備える膜をもたらす、いわゆる「ハード」凝結剤として作用する。ブロック表面と水表面との間のエアギャップを使用することだけでなく、セルロースアセテートの内側層を通過する非常にゆっくりな水の運搬によっても、いわゆる「ソフト」凝結が外側層で生じる。その結果、外側に細孔が形成される。凝結は、一般的に、外側から内側への水による通過凝結を意味し、内側(一般的に無細孔)から外側(多数の細孔)への細孔勾配が得られる。
【0049】
エアギャップ、及び、例えば溶剤を含む凝結槽中での凝結なしで、内側と外側とから同時に凝結された中空繊維が得られるが、その結果、本発明による中空繊維膜の目的に対しては好ましくない多数の細孔が繊維の中央に形成される。
【0050】
紡績ブロック温度は、5〜90℃に設定されることが好ましく、凝結槽の温度は、40〜95℃、好ましくは約40℃に設定される。このようにして、一価又は二価のカチオンに対して増加された保持能力を備え、且つ極めて高い尿素透過性を更に備える選択層を有する同時押出材が得られる。好ましいブロック温度は、5〜40℃である。
【0051】
本発明は、本発明の製造方法によって得られる中空繊維膜だけでなく、例えば、DE 10 2004 020 226 A1に記載されているように、本発明の複数の中空繊維膜を含む膜フィルタに関する。
【0052】
本発明の特に好ましい膜フィルタは、ナノ濾過及び限外濾過、特に好ましくは透析処置、例えば、透析物質を再生するための心膜透析及び腹膜透析のような透析処置における分離プロセスで使用される。
【0053】
本発明による膜が、糖分子、例えばグルコースに対して良好な透過性を有することも見出された。本発明による膜は、例えばバイオエタノール製造における反応混合物からのグルコースの分離に好適に使用することができる。
【実施例】
【0054】
本発明の詳細について図及び実施例を用いて説明する。
【0055】
<実施例1>
本発明の中空繊維は、いわゆる位相反転プロセスによって製造される。
初めに、2つの紡績剤溶液A及びBを作製する。第1の紡績剤溶液Aは、中空繊維膜の中空側選択層の材料を含み、第2の紡績剤溶液Bは、支持層の材料を含む。
【0056】
支持層(外側層)のための紡績剤溶液は、20wt%ポリスルホン(Udel3500)及び、5wt%ポリビニルピロリドン(K90)だけでなく、ジメチルアセトアミド中で溶解される1wt%水から構成される。この溶液の粘度は、約11500mPa・sであった。
【0057】
中空側選択層のための紡績剤は、29kDの分子量を備えるジアセテート30wt%とアセチル基含有物(シグマーアルドリッチ社製)40%から構成される。ジメチルアセトアミド中で撹拌することでこれを溶解する。この溶液の粘度は、15000mPa・sであった。
【0058】
両方の紡績剤溶液を従来から知られる中空繊維紡糸口金で、適当な体積割合で紡いだ。内側及び外側の紡績剤の同軸押出し成形を行う互いに同軸の金型溝を通して両方の溶液を案内した。2つの同軸金型溝は、2つの紡績剤層を凝固させるための凝結剤が案内される軸溝を囲むように形成されている。内部凝結剤としては水を使用した。
【0059】
金型ブロック(紡績ブロック)の温度は、20℃であったが、本発明の方法の範囲内でさらに変化させることができる。
【0060】
低温(30℃未満)で紡糸された繊維は、ナトリウム,カリウムなどのいわゆる一価カチオンに比較して、高い尿素選択性を有することが見出された。
【0061】
紡績ブロックから離れた後、中空繊維は、42℃の水で満たされた凝結槽に浸される前に、約250mmのエアギャップを通り抜ける。そして、このようにして得られた合成中空繊維を75℃に調節された洗浄槽で洗浄処理した。繊維の供給速度は250mm/sとした。
【0062】
そして、このようにして得られた中空繊維を約95℃で乾燥させた。
【0063】
無溶媒の一定な中空繊維が得られるように、凝結槽及び洗浄槽の体積、供給速度を設定した。
【0064】
そして、乾燥した繊維を風にさらした。中空繊維の束は、全表面積が0.4m2である繊維2300本から構成される。繊維の内径は200μmであった。繊維の外径は261μmであった。
【0065】
選択層の厚みは、約500nmであった。
【0066】
繊維中空側と繊維外側の独立した流入が確保されるように、繊維を筐体中へ成形し、ポリウレタンと共にモジュールに成形した。
【0067】
そのようなモジュールは、心膜透析の当業者に一般的に知られている。
【0068】
図1には、250倍に拡大したREM画像を示し、図2には、図1を部分的に20000倍に拡大した画像を示す。
【0069】
「極低温破断」は、本発明の中空繊維膜を液体窒素に浸し、手作業で横方向に破壊することを意味する。
【0070】
ポリスルホン支持層の多孔性の構造が図2の右側から明確に見られるだけでなく、薄いセルロースジアセテート選択層の殆ど無細孔の構造が図2の左側に見られる。
【0071】
<実施例2>
本発明の膜における必須の物理的なパラメーターの測定
【0072】
実施例1で得られた中空繊維膜の限外濾過率を試験した。また、尿素及び様々な塩の透過性を試験した。
【0073】
含水限外濾過率を決定するために、37℃で過剰な圧力を中空繊維の中空側にかけ、中空側から外側に漏れ出た水量を測定した。
【0074】
測定された実施例1の膜の限外濾過率は、0.1〜0.3ml/h torr m2である。
【0075】
尿素及び塩の透過性を決定するために、尿素含有塩の溶液500〜700mlを使用した。かかる溶液は、25mMの尿素,141mMのNaCl,2.5mMのCaCl2,249mMのグルコースを含み、50ml/分で中空繊維を通過し、中空側で再循環された。
【0076】
中空繊維の中空側の溶液を加圧シールされた管内に入れた。その結果、試験溶液量が試験時間を超えても変化しなかった。
【0077】
膜の外側では、538mMのグルコース溶液を50ml/分の流速で流した。
【0078】
室温で2時間後、中空側を循環している溶液からサンプルを取り除き、市販の分析装置(Roche社製、Cobas Integra 400)で検査した。
【0079】
膜の透過性及び選択性は、試験された最初の溶液の濃度から算出される。
【0080】
上述した尿素含有溶液の分離の間、実施例1の膜について下記の結果が得られた。
【0081】
【表1】

【0082】
測定の変動係数は、ナトリウムに対して1%、カルシウムに対して3.5%、尿素に対して1.8%であった。
【0083】
測定値から見ることができるように、本発明の中空繊維膜によって尿素は良好に分離されるが、ナトリウム及びカルシウムは、大部分が保持される。
【0084】
<実施例3>
さらに膜を特徴付けるために、純粋なガスを用いて浸透テストを実施した。このために、約1barのガスで中空繊維の中空側に過剰の圧力をかけ、膜上のガスの流量を測定した。結果は、下記の表に示す。
【0085】
【表2】

【0086】
通常の膜の通過流が一般的に数リットルであるので、これらの結果は、本発明の膜には僅かな細孔しかないことを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持層と選択層を含む同時押出材から構成されることを特徴とする支持された中空繊維膜。
【請求項2】
選択層が尿素選択性であることを特徴とする請求項1に記載の中空繊維膜。
【請求項3】
選択層の厚みが100nm〜5μmであることを特徴とする請求項2に記載の中空繊維膜。
【請求項4】
選択層がエステル化セルロースから構成されていることを特徴とする請求項3に記載の中空繊維膜。
【請求項5】
エステル化セルロースがアセチルセルロースであることを特徴とする請求項4に記載の中空繊維膜。
【請求項6】
アセチルセルロースのアシル化度が0.5〜3であることを特徴とする請求項5に記載の中空繊維膜。
【請求項7】
選択層が一日当り10〜80g/m2の尿素透過性を有することを特徴とする請求項6に記載の中空繊維膜。
【請求項8】
選択層が無細孔であることを特徴とする請求項7に記載の中空繊維膜。
【請求項9】
支持層の材料がポリビニールピロリドン(PVP),ポリエーテルスルホン(PES),ポリエーテルイミド(PEI),ポリアミド(PA),ポリカーボネート(PC),ポリスチレン(PS),ポリメチルメタクリレート(PMMA),フッ化ビニリデン(PVDF),ポリアクリロニトリル(PAN),ポリイミド(PI),ポリスルホン(PSU)、及び/又は、ポリウレタン(PU)、及びこれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の中空繊維膜。
【請求項10】
支持層の材料がポリスルホン(PSU),ポリビニールピロリドン(PVP)及びこれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項9に記載の中空繊維膜。
【請求項11】
支持層の厚みが20〜50μm、好ましくは30〜40μmであることを特徴とする請求項9又は10に記載の中空繊維膜。
【請求項12】
中空繊維膜は、内径が20μm〜1mmであることを特徴とする請求項11に記載の中空繊維膜。
【請求項13】
全壁厚みが20〜100μmであることを特徴とする請求項12に記載の中空繊維膜。
【請求項14】
請求項1乃至13の何れか1項に記載の中空繊維膜を製造する方法であって、以下の工程、
a)2つの紡績剤溶液A及びBを提供する工程、ここで、溶液Aがエステル化セルロースの溶液であり、溶液Bがポリビニールピロリドン(PVP)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンイミド(PEI)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、フッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)、ポリスルホン(PSU)、及び/又は、ポリウレタン(PU)、及びこれらの混合物を含む群から選択されるポリマーを含む溶液であり、
b)凝結槽の温度を40〜95℃に設定する工程、
c)中空繊維紡糸口金によって、内部凝結剤と溶液A及びBとを接触させる工程、
d)溶液A及びB中で溶解した物質から構成される押出材を凝固させ、凝結させる工程、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項15】
紡績剤溶液Aの粘度が10000〜17000mPa・sであることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
紡績剤溶液Aが25〜40wt%のセルロースジアセテートをジメチルアセトアミド中に含んでいることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
紡績剤溶液Aの粘度が7000〜13000mPa・sであることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項18】
紡績剤溶液Bが15〜35%、好ましくは4〜8%のポリビニールピロリドンをジメチルアセトアミドの他に含んでいることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
凝結剤として水を使用することを特徴とする請求項14乃至18の何れか1項に記載の方法。
【請求項20】
紡績速度が200〜400mm/sであることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
紡績ブロックの温度を5〜90℃に設定することを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項22】
請求項14乃至21の何れか1項に記載の方法によって製造されることを特徴とする中空繊維膜。
【請求項23】
請求項1乃至13及び22の何れか1項に記載された中空繊維膜を複数用いて構成されていることを特徴とする膜フィルタ。
【請求項24】
ナノ濾過及び限外濾過における分離プロセスのために請求項23に記載の膜フィルタを使用することを特徴とする膜フィルタの使用。
【請求項25】
透析処置のために膜フィルタを使用することを特徴とする請求項24に記載の膜フィルタの使用。
【請求項26】
使用済みの透析物質を再生するために膜フィルタを使用することを特徴とする請求項24に記載の膜フィルタの使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−509174(P2011−509174A)
【公表日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−541033(P2010−541033)
【出願日】平成20年12月30日(2008.12.30)
【国際出願番号】PCT/EP2008/011149
【国際公開番号】WO2009/083260
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(599117152)フレゼニウス メディカル ケアー ドイチュラント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (50)
【氏名又は名称原語表記】Fresenius Medical Care Deutschland GmbH
【Fターム(参考)】