説明

中空電柱の補強用材料及び補強方法

【課題】従来の補強工法のように、補強用ロッドや補強材を均等に配置するための特殊工具等を用いたり、作業の専門性を必要とすることなく、簡単な方法で、安価且つ短時間に、老朽化した中空電柱を内部から補強することができる中空電柱の補強用材料及び補強方法を提供する。
【解決手段】縦方向に高強度繊維を用い、周方向に伸縮可能な繊維を用いて網目状に編んだ繊維袋を中空電柱の頂部の開口から内部に挿入し、繊維袋の上部を中空電柱の頂部に固定した後、中空電柱の頂部から高強度モルタルを繊維袋の内部に充填することによって、繊維袋の多数の高強度縦繊維が均等かつ効果的な配置状態となるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老朽化したコンクリート製中空電柱を内部から補強することによって再生するようにした中空電柱の補強用材料及び補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高度経済成長期のインフラ整備に伴って建柱された膨大な量のコンクリート柱は、耐用年数が経過しており、既に更新の時期に入っている。このため、今後は、急ピッチで既設電柱の更新対応を進める必要がある。
【0003】
一方、既設電柱の更新建替え作業には、作業スペースの占用面積と作業時間の問題、電柱根入れ掘削に伴う埋設物の調査や移設の問題、他企業共架設備の移設の問題など、多くの調整作業と付帯施工を伴うものである。
【0004】
ところで、既設電柱の建て替え作業を行うには、一時的に電線類を仮設柱に移設し、新たな電柱を建て替えた後、電線類を再び移設する手順がとられる。この作業には、複数の工事用特殊車両と多くの作業者を必要とし、更に作業スペースの占用時間が長期に渡るため、近隣住民との調整が困難であり、建替え工事に伴う費用の削減も課題となる。
【0005】
このような課題を解決する手段として、特許文献1に記載の工法が実用化され、コンクリート製電柱の補強方法として実施されている。しかしながら、この特許文献1の工法は、中空電柱の側面を削孔し、作業用開口部を設け、この開口部から複数本の補強用ロッドを挿入し、これらの補強用ロッドを中空電柱内にて均等に配分する必要がある。このため、中空電柱内にロッド配置用補助具やロッド配置用調整補助具等を挿入して、夫々の補助具の向き、地上高、相互間隔等を調整する必要がある。さらに、電柱側面に削孔された作業用開口部はアラミド繊維シートで補強する作業が必要となる。従って、作業が非常に複雑化し、多大なる手間と時間を要するため、膨大な量の電柱の更新を速やかに実施することは困難である。
【0006】
また、特許文献2に記載されている工法は、中空コンクリートポールの内壁に筒状の内壁補強シートを固定する工法であり、中空コンクリートポールの内壁上部に頭部固定装置を設置する工程、中空コンクリートポールの内壁底部に底部固定装置を設置する工程、内壁補強シートの内側に筒状補強部材を配列し固定する工程等を必要とする。
【0007】
従って、特許文献2の工法は、複雑な機構より構成された装置を中空コンクリートポールの内部に配置する必要があり、その作業が複雑化すると共に、コストが高騰し、修復作業に多大なる時間を要するものであり、上記の特許文献1と同様に、膨大な量の電柱の更新を速やかに実施することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4342458号
【特許文献2】特許第4157149号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、従来の補強工法のように、補強用ロッドや補強材を均等に配置するための特殊工具等を用いたり、作業の専門性を必要とすることなく、簡単な方法で、安価且つ短時間に、老朽化した中空電柱を内部から補強することができる中空電柱の補強用材料及び補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明による請求項1の中空電柱の補強用材料は、縦方向に高強度繊維を用い、周方向に伸縮可能な繊維とを用いて網目状に編んだ縦長の袋状に形成した繊維袋による補強用材料であり、中空電柱の中空内に挿入した該繊維袋の上部を中空電柱の頂部に固定することができ、該繊維袋の内部にモルタルを充填することによって該繊維袋が中空電柱の内壁側に膨出することにより、該繊維袋を構成する多数の縦繊維が中空電柱の内壁に沿って均等に配置されると共に、該繊維袋内のモルタル重量によって該繊維袋の縦繊繊が緊張状態となり電柱挿入時の弛みが解消されるようにしたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項2の中空電柱の補強用材料は、請求項1において、中空電柱の中空内に挿入した繊維袋の内部にモルタルを充填することにより、該繊維袋の網目の隙間から流れ出たモルタルによって、該繊維袋の繊維とモルタルとの付着強度が向上することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項3の中空電柱の補強用材料は、請求項1又は2において、高強度繊維は、アラミド繊維により形成されていることを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明の請求項4の中空電柱の補強方法は、縦方向に高強度繊維を用い、周方向に伸縮可能な繊維とを用いて網目状に編んだ繊維袋を中空電柱の頂部の開口から内部に挿入し、該繊維袋の上部を中空電柱の頂部に固定した後、中空電柱の頂部から供給される高強度モルタルを該繊維袋の内部に充填することによって、該繊維袋を中空電柱の内壁側に圧接するように膨出させると共に、該繊維袋の内部に充填したモルタルの重量によって該繊維袋が緊張状態となり電柱挿入時の弛みが解消されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、中空電柱の中空内に挿入された繊維袋の内部に充填したモルタルの膨出作用により、中空電柱の内壁に沿って繊維袋を構成する多数の縦繊維が均等かつ最も効果的な配置状態となる。また、繊維袋内のモルタル重量により、繊維袋の縦繊繊の弛みが解消され、プレテンション状態となり、電柱に加わる曲げ荷重に対して効率良く働く構造となる。
【0015】
さらに、本発明によれば、中空電柱の中空内に挿入された繊維袋の内部にモルタルを注入することにより、繊維袋の内部に充填したモルタル重量によって繊維袋内に外方へ向けて圧力が生じ、繊維袋の網目の隙間から適度にモルタルが中空電柱の内壁との間に流れ込むことによって、繊維袋の繊維とモルタルとの付着強度を向上することが可能となる。
【0016】
従って、本発明によれば、中空電柱の中空部に専用の繊維袋を挿入し、上端を固定した繊維袋内にモルタルを投入するだけで補強構造が構築できるため、従来の工法のように、補強用ロッドや補強材の配置用等に用いる特殊工具等を用いた作業の専門性を必要とすることなく、さらに電柱側面に削孔した作業用開口部の補強作業などを必要とせずに簡単な方法で、安価且つ短時間に、老朽化した中空電柱を内部から補強することが可能となる。
【0017】
さらに、本発明によれば、建柱用クレーン車を必要とせずに、高所作業車のみで施工が実施可能であるため、従来工法と比較し作業要員や作業スペースが減少し、電線移設などの付帯作業の必要がないため、施工時間の大幅な短縮が可能となる。また、電柱根入れ掘削に伴う埋設物の調査や移設等が不用であり、他企業共架設備の移設などの調整もまた必要がない等の利点を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例に係る繊維袋の部分斜視図と中空電柱の部分断面図である。
【図2】本発明の実施例に係る補強用材料を用いて中空電柱の内部を補強した状況を示す断面図である。
【図3】本発明の実施例に係る斜視図であり、(a)は中空電柱の上部にて繊維袋の内部にモルタルを充填する前の状況を示し、(b)は繊維袋の内部にモルタルを充填している状況を示す。
【図4】本発明の実施例に係る施工図であり、中空電柱の頂部から被せ蓋を取り外している状況を示す。
【図5】本発明の実施例に係る施工図であり、中空電柱の頂部に繊維袋挿入用ガイドを取り付けた状況を示す。
【図6】本発明の実施例に係る施工図であり、中空電柱の頂部から中空内に繊維袋を取り付けた後、繊維袋の内部にホースを挿入した状況を示す。
【図7】本発明の実施例に係る施工図であり、中空電柱の頂部から中空内の繊維袋にモルタルを注入している状況を示す。
【図8】本発明の実施例に係る施工図であり、中空電柱の頂部から中空内の繊維袋にモルタルを注入し、該モルタルが繊維袋の下部を膨出している状況を示す。
【図9】本発明の実施例に係る施工図であり、中空電柱の上部まで繊維袋内にモルタルが充填された状況を示す部分断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0020】
図1に示すように、本実施例の中空電柱1の補強用材料として用いる繊維袋2は、高強度繊維を伸縮自在の網目状に編むことによって縦長の袋状に形成したものである。従って、この繊維袋2は上方から吊下げたとき、下端が閉塞され、上方が開口された形状を有する。ただし、その繊維袋2の長さや外径は、補強すべき中空電柱1の内径や長さ等の規格によって設定すべきものである。
【0021】
具体的には、図2に示すように、繊維袋2の内部にモルタル3を充填した状態で、少なくとも、繊維袋2が補強すべき中空電柱1の内壁1a付近まで均等に拡開するような外径を有する。なお、図1及び図2において、付番12は中空電柱1の鉄筋を示す。また、図8又は図9に示すように、繊維袋2の内部にモルタル3を充填したとき、この繊維袋2がモルタル3の自重で縦方向に伸長した状態で、補強すべき中空電柱1の高さを満たす長さを有する必要がある。
【0022】
さらに、この繊維袋2を形成する高強度繊維としては、アラミド繊維を用いるのが望ましい。このアラミド繊維は、高強度且つ高弾性で耐久性に優れ、既設コンクリート部材に対してモルタル等で接着することにより、繊維間を結合し補強する機能を有し、鉄筋の増設に匹敵する効果を有するものである。
【0023】
また、上記のアラミド繊維を用いて繊維袋2を形成する際、その編組方法については限定されるものではなく、繊維袋2の内部にモルタル3を充填した状態でモルタル3が硬化した後において、繊維袋2の周囲に形成された縦繊維が、縦方向の配筋の機能を有するような編組構造とするのが望ましい。
【0024】
さらに、本実施例の繊維袋2の網目状の各隙間5は、モルタル3に使用した骨材の大きさ等を考慮し、繊維袋2の内部に充填したモルタル3が繊維袋2の網目の隙間5から外方へ適度に流れ出ることが可能な隙間径とすべきである。こうすることにより、図2に示すように、中空電柱1の内壁1aにて、繊維袋2の内部に充填したモルタル3が繊維袋2の網目の隙間5(図1参照)から外方へ流れ出ることによって、該繊維袋2の繊維とモルタル3との付着強度が向上する。
【0025】
一方、上記の繊維袋2に充填するのに用いる高強度モルタル3は、圧縮強度を高めるために重量骨材等を混入したものである。従って、上記のように、繊維袋2の内部に充填したモルタル3が繊維袋2の網目の隙間5から外方へ流れ出ることができる径の骨材等を用いて構成されるものである。
【0026】
上記の繊維袋2を用いて中空電柱1の補強施工を行う際には、図3(a)に示すように、頂部を開口した中空電柱1の上端に繊維袋挿入用ガイド6を固定し、中空電柱1の中空内に挿入した繊維袋2の上端部をガイド6の外周に巻き付けて締結用バンド7で固定する。そして、このように上端を固定した繊維袋2の内部に上方からモルタル圧入用ホース8を挿入する。
【0027】
従って、図3(b)に示すように、中空電柱1の中空内に挿入された繊維袋2の内部にモルタル3を注入することにより、繊維袋2の内部に充填したモルタル3の重量によって、該繊維袋2が縦長に伸長すると共に、該繊維袋2が中空電柱1の内壁1a側に膨出し、繊維袋2が中空電柱1の内壁1aに沿って配置される。
【0028】
上記のように本実施例の中空電柱1の補強材料を用いることにより、繊維袋2に充填したモルタル3の膨出作用により、中空電柱1の中空部の内面に沿って繊維袋2の縦繊維が均等かつ最も効果的な配置状態となる。また、繊維袋2内のモルタル重量により、繊維袋2の縦繊繊の弛みが解消され、プレテンション状態となり、曲げ荷重に対して効率良く働く構造となる。さらに、モルタル重量による繊維袋2内の圧力により、繊維袋2の網目の隙間5から適度にモルタル3が中空電柱1の内壁1aとの間に流れ込み、繊維袋2の繊維とモルタル3との付着強度を向上することが可能となる。
【0029】
ここで、本実施例の中空電柱1の補強方法について図4〜図9を参照しながら説明する。本実施例の中空電柱1の補強方法において、上記で説明した繊維袋2、即ち、縦方向に高強度繊維を用い、周方向に伸縮可能な繊維とを用いて網目状に編んだ繊維袋2を使用する。
【0030】
図4に示すように、作業員が高所作業車9に上載した状態で、補強すべき中空電柱1の頂部の被せ蓋10を開ける。次いで、図5に示すように、中空電柱1の頂部の開口11に繊維袋挿入用ガイド6を固定する。
【0031】
その後、図6に示すように、繊維袋2を中空電柱1の頂部の開口11から内部に挿入すると共に、繊維袋2の上端部を繊維袋挿入用ガイド6の外周に巻き付けて締結用バンド7で固定する。そして、このように上端を固定した繊維袋2の内部に上方からモルタル圧入用ホース8を挿入すると共に、図7に示すように、ホース8を繊維袋2の底部付近に挿入した状態で、該繊維袋2の最下端が中空電柱1の底部から所定の隙間14を有する高さまで該繊維袋2を下降する。
【0032】
この状態で、図8に示すように、地上に設置したモルタル圧入ポンプ13を稼動し、ホース8を介してモルタル3を繊維袋2の内部に注入する。この際、ホース8の注入口8aが繊維袋2内のモルタル3の充填高さhから離れないようにホース8を引上げることによって、モルタル成分の分離を防止しながらモルタル3を充填する。
【0033】
そして、繊維袋2の内部に充填したモルタル3の重量によって該繊維袋2が縦長に伸長すると共に、繊維袋2は中空電柱1の内壁側に圧接するように膨出され、図2に示すように、繊維袋2の網目の隙間5(図1参照)から流れ出たモルタル3によってモルタル層4に囲まれた該繊維袋2とモルタル3による補強構造が形成される。なお、図9に示すようにモルタル3の充填後に中空電柱1の頂部に被せ蓋10を固定して補強施工を終えることとなる。
【0034】
上記のような中空電柱1の補強方法によれば、建柱用クレーン車を必要とせずに、高所作業車のみで施工が実施可能であるため、施工に伴う占用スペースが減少し、また電線移設などの付帯作業の必要がない。さらには、電柱根入れ掘削に伴う埋設物の調査や移設等が不用であり、他企業共架設備の移設などの調整もまた必要がない等の利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の中空電柱の補強用材料及び補強方法は、従来の補強工法のように、補強用ロッドや補強材を均等に配置するための特殊工具等を用いたり、作業の専門性を必要とすることなく、簡単な方法で、安価且つ短時間に、老朽化した中空電柱を内部から補強するができる中空電柱の補強用材料及び補強方法として利用することが可能となる。
【符号の説明】
【0036】
1 中空電柱
1a 内壁
2 繊維袋
3 モルタル
4 モルタル層
5 網目の隙間
6 繊維袋挿入用ガイド
7 締結用バンド
8 モルタル圧入用ホース
8a 注入口
9 高所作業車
10 被せ蓋
11 開口
12 鉄筋
13 モルタル圧入ポンプ
14 隙間
h モルタルの充填高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦方向に高強度繊維を用い、周方向に伸縮可能な繊維とを用いて網目状に編んだ縦長の袋状に形成した繊維袋による補強用材料であり、中空電柱の中空内に挿入した該繊維袋の上部を中空電柱の頂部に固定することができ、該繊維袋の内部にモルタルを充填することによって該繊維袋が中空電柱の内壁側に膨出することにより、該繊維袋を構成する多数の縦繊維が中空電柱の内壁に沿って均等に配置されると共に、該繊維袋内のモルタル重量によって該繊維袋の縦繊繊が緊張状態となるようにしたことを特徴とする中空電柱の補強用材料。
【請求項2】
中空電柱の中空内に挿入した繊維袋の内部にモルタルを充填することにより、該繊維袋の網目の隙間から流れ出たモルタルによって、該繊維袋の繊維とモルタルとの付着強度が向上することを特徴とする請求項1記載の中空電柱の補強用材料。
【請求項3】
高強度繊維は、アラミド繊維により形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の中空電柱の補強用材料。
【請求項4】
縦方向に高強度繊維を用い、周方向に伸縮可能な繊維とを用いて網目状に編んだ繊維袋を中空電柱の頂部の開口から内部に挿入し、該繊維袋の上部を中空電柱の頂部に固定した後、中空電柱の頂部から供給される高強度モルタルを該繊維袋の内部に充填することによって、該繊維袋を中空電柱の内壁側に圧接するように膨出させると共に、該繊維袋の内部に充填したモルタルの重量によって該繊維袋が緊張状態となり電柱挿入時の弛みが解消されることを特徴とする中空電柱の補強方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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