説明

中胚葉、内胚葉及び中内胚葉細胞の細胞運命を指定する方法

万能性幹細胞においてWntシグナル伝達経路を活性化するステップを含む、万能性幹細胞から中胚葉又は内胚葉細胞を作製する方法が開示される。いくつかの実施形態において、万能性幹細胞は、Wntシグナル伝達経路が活性化される時間の少なくとも一部において、実質的に2次元配置(例えば単細胞層)の状態である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
初期胚形成中、胚は2つの主要系列、すなわち万能性内部細胞塊と栄養膜に分裂する。次に、万能性内部細胞塊は、全3つの胚葉を形成し、これらは、最終分化した組織特異的細胞へとさらに分化することができる。
【0002】
胚性幹細胞は、芽細胞段階の胚の内部細胞塊に由来する自己再生細胞であり、胚性幹細胞は、前記3つの胚系列のいずれか1つに分化する能力を有する(すなわち、これらは万能性である)。万能性胚性幹細胞には、再生医療及び化学療法の分野など、臨床環境において実用的用途がある。
【0003】
当分野では、万能性胚性幹細胞の発生、具体的には、特定の好ましい系列に沿った万能性幹細胞の分化をモジュレートすることができる方法及び化合物が必要とされている。
【背景技術】
【0004】
進化的に保存されているWntシグナル伝達経路は、胚形成における多数の事象を制御すると同時に、腫瘍形成にも中心的な役割を果たすものである。Wntシグナル伝達経路は、β-カテニンのリン酸化及び分解を調節し、これによって、β-カテニン依存性遺伝子の発現を調節するタンパク質集団のシグナル伝達カスケードである。
【0005】
Wnt遺伝子は、無脊椎動物から脊椎動物までの複数種において発現されるプロトオンコジーンのファミリーに属する。これらの遺伝子は、システインを豊富に含む20以上の分泌糖タンパク質をコードするが、この糖タンパク質は、標的細胞に存在するFrizzled(Fz)受容体に結合することにより、Wntシグナル伝達経路を活性化する。
【0006】
WntリガンドとFrizzled受容体の結合によって、Dishevelled(Dsh/Dvl1)タンパク質が活性化され、これにより、該タンパク質は、β-カテニン、Axin−大腸腺腫性ポリポーシス(APC)及びグリコーゲンシンターゼキナーゼ(GSK)-3βを含む複数タンパク質複合体の活性を阻害することができる。β-カテニン/APC/GSK-3β複合体の阻害によって、GSK-3βによるβ-カテニンのリン酸化が妨げられる。リン酸化β-カテニンは、プロテオソームにより、ユビキチン媒介の分解の標的となるため、WntとFrizzled 受容体の結合により、細胞質にβ-カテニンの蓄積が起こる。
【0007】
安定化β-カテニンは核に転位した後、タンパク質のT細胞因子(Tcf)/リンパ球エンハンサー(Lef)ファミリーと結合することにより、Wnt標的遺伝子の転写を引き起こす。
【0008】
Rayら(2003)Nature 423 (6938):409-14は、造血幹細胞(非万能性幹細胞)の自己再生におけるWntシグナル伝達の役割について開示している。従って、造血幹細胞におけるWntシグナル伝達経路の活性化によって、これら細胞の万能性が維持される。
【0009】
対照的に、従来の技術に関する多数の文献が、非万能性幹細胞におけるWntシグナル伝達の活性化によって分化が起こると示唆している。
【0010】
そのため、Lakoら(2001, Mechanism of Development 103, 49-59)は、胚様体の分化を促進する上でWntシグナル伝達が果たす役割について記載している。胚様体における細胞は多能性ではあるが、万能性ではない。すなわち、胚様体は3つの胚葉すべてを発生させることはできない。具体的に、Lakoは、Wnt3の過剰発現によるWntシグナル伝達の活性化によって、胚様体の造血分化が起こることを開示している。
【0011】
国際特許公開WO2004/113513号には、成体幹細胞、具体的には造血CD45+Sca1+幹細胞の集団の増殖又は分化のモジュレーションにおけるWntポリペプチドの使用が記載されている。
【0012】
WO2005/052141号には、胎児肺幹細胞の分化を誘導又は阻害する多数の方法が提供されている。WO2005/052141号に開示されている具体的な一方法は、胎児肺幹細胞におけるWnt経路のin vitroアップレギュレーションにより、分化の阻害をもたらすものである。
【0013】
これらの文献が、多能性幹細胞の分化の誘導におけるWntシグナル伝達の役割を教示しているにもかかわらず、Wntシグナル伝達は、万能性胚性幹細胞における万能性/分化間の選択の調節に反対の役割を持っているようである。従って、胚性幹細胞においてWntシグナル伝達を活性化すれば、万能性状態の維持及び分化の阻害が起こると考えられる。
【0014】
そのため、Satoら(2004 Nature Medicine 10:55-63)は、ヒト及びマウス胚性幹細胞におけるWntシグナル伝達の活性化によって、このような幹細胞の万能性の維持及び分化の阻害が起こることを開示している。これを支持して、US2004/0014209 A1には、Wntシグナル伝達経路の阻害が、幹細胞(胚性幹細胞を含む)の心臓細胞への分化の刺激に役割を果たすことが開示されている。
【発明の開示】
【0015】
万能性の維持におけるWnt経路の関与を示唆するSatoら(2004)による研究とは対照的に、本発明者のデータは、Wnt経路の持続的活性化がES細胞の分化を誘導することを決定的に証明している。本発明者は、ES細胞におけるWntシグナル伝達経路の活性化が、細胞を中内胚葉、中胚葉若しくは内胚葉経路に沿って分化させる、あるいは、そのように誘導することを見い出した。
【0016】
複数回の継代にわたって細胞を培養し、様々なマーカーを分析した。本明細書において、細胞がたとえ第21日に万能性マーカーviz Ocy4及びNanogを保持していたとしても、これら細胞が、Wnt経路活性化に応答した中胚葉及び内胚葉両方の誘導の確証である様々な中/内胚葉マーカーを獲得することを明らかにする。さらに、外胚葉の誘導は取得していない。
【0017】
本発明の第1の態様においては、万能性幹細胞においてWntシグナル伝達経路を活性化するステップを含む、万能性幹細胞から中胚葉又は内胚葉細胞を作製する方法が提供される。
【0018】
本発明の第2の態様においては、本発明の第1の態様に従って作製された中胚葉又は内胚葉細胞が提供される。
【0019】
本発明の第3の態様においては、本発明の第1の態様に従って作製された中内胚葉細胞が提供される。
【0020】
本発明の第4の態様においては、前記中胚葉若しくは内胚葉細胞、又は前記中内胚葉細胞と、薬学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤とを含む医薬組成物が提供される。
【0021】
本発明の第5の態様においては、治療、例えば再生医療における、前記中胚葉若しくは内胚葉細胞、又は前記中内胚葉細胞、又は前記医薬組成物の使用が提供される。
【0022】
本発明の第6の態様においては、前記中胚葉若しくは内胚葉細胞、又は前記医薬組成物、あるいは、本発明の第1の形態に従う方法により作製されるものを個体に導入することを含む、個体における疾患の治療方法が提供される。
【0023】
本発明の第7の態様では、万能性幹細胞、Wntシグナル伝達経路のアクチベーターと、中胚葉又は内胚葉細胞を作製するための使用説明書とを含むキットが提供される。
【0024】
本発明の第8の態様においては、万能性幹細胞におけるWntシグナル伝達経路を活性化するステップを含む、中胚葉特異的マーカーの発現を誘導する方法が提供される。
【0025】
本発明の第9の態様においては、万能性幹細胞におけるWntシグナル伝達経路を活性化するステップを含む、内胚葉特異的マーカーの発現を誘導する方法が提供される。
【0026】
発明の詳細な説明
本発明は、Wntシグナル伝達経路が胚性幹細胞の細胞運命の選択に重要な役割を果たすという知見に基づくものである。具体的には、Wntシグナル伝達経路が、胚性幹細胞が潜在的に行うことのできる様々な運命又は系列の選択、具体的には、3つの胚葉、すなわち、中胚葉、内胚葉及び外胚葉の選択を調節することを説明する。
【0027】
従って、実施例において、マウス胚性幹細胞とヒト胚性幹細胞の両方について、Wntシグナル伝達経路が様々な手段により活性化されると、胚性幹細胞が、2つの特定の経路、すなわち、中胚葉経路又は内胚葉経路に沿って分化するが、外胚葉経路に沿っては分化しないことを明らかにする。
【0028】
そのため、本発明の方法は、総じて、規定されかつ限定された系列の万能性幹細胞、特に、分化した幹細胞からの分化細胞の作製に関する。具体的には、万能性幹細胞におけるWntシグナル伝達経路のモジュレーション(例えば、活性化)により、万能性幹細胞から中胚葉若しくは内胚葉系列、又はその両方の分化細胞を作製する方法を提供する。
【0029】
従って、万能性幹細胞のWntシグナル伝達経路活性の操作により、中胚葉/内胚葉系列と外胚葉系列間の細胞運命の選択の操作を広範に可能にする。さらに、本明細書に記載する方法により作製された分化及び部分的分化細胞も提供する。
【0030】
以下にさらに詳しく記載するように、Wntシグナル伝達経路のいずれかの成分を活性化して、中胚葉又は内胚葉分化をもたらすことができる。Wntシグナル伝達経路の活性化とは、該経路のいずれかのメンバーの活性、あるいは、Wntシグナル伝達経路を調節するいずれかの細胞機構又はその他の機構の活性のモジュレーションを意味し、このようなモジュレーションにより、TCF調節遺伝子(すなわち、そのプロモーター内にTcf/LEFコンセンサス配列結合部位を含む遺伝子)、例えば、TCF1、TCF2、TCF3、LEF1及びLEF2などの転写の活性化が起こる。TCF/LEFは、Clevers及びvan de Wetering, 1997, Trends Genet. 1997 Dec;13(12):485-9に記載されている。しかし、実施形態によっては、Wntシグナル伝達経路の活性化によって、Wnt標的遺伝子の転写の活性化が起こる。Wnt標的遺伝子については、以下にさらに詳しく記載する。
【0031】
特定の実施形態では、Wntシグナル伝達経路の活性化によって、β-カテニンの活性増大、例えば、細胞質における活性β-カテニンの蓄積(例:細胞質におけるリン酸化β-カテニンの量の増加)が起こる。
【0032】
Wntシグナル伝達経路活性の操作を用いて、万能性幹細胞を分化の中胚葉又は内胚葉経路に最初から進入させる、あるいはそのように誘導できることは明らかであろう。すなわち、本明細書に記載するWntシグナル伝達の活性化を用いて、3つの細胞運命のいずれかを同様に選択する可能性がある胚性幹細胞を、分化の中胚葉又は内胚葉経路に進入させることができる。
【0033】
さらに、幹細胞の経路の変更以外にも、Wntシグナル伝達活性の活性化を用いて、幹細胞の細胞運命の確定又は選択を強化することも可能である。すなわち、胚性幹細胞においてWntシグナル伝達活性を活性化することにより、中胚葉又は内胚葉経路に沿った分化の過程にある幹細胞を、外胚葉経路ではなく、前記経路に向けて偏向させることができる。
【0034】
あるいは、Wntシグナル伝達経路の活性化を用いて、まだ万能性であるが、特定の経路(例えば、外胚葉経路)に沿った分化に既に部分的に確定された胚性幹細胞を、その経路ではなく、中胚葉又は内胚葉経路に進入させることもできる。
【0035】
さらにまた、万能性であるが、外胚葉及び中胚葉系列に部分的に確定された胚性幹細胞において、Wntシグナル伝達を活性化することにより、内胚葉又は中胚葉経路に向けた分化を引き起こすこともできる。
【0036】
いくつかの実施形態では、別の経路、例えば、外胚葉経路への分化を引き起こすようなシグナルに胚性幹細胞が暴露された場合でも、胚性幹細胞が中胚葉又は内胚葉分化経路にとどまる程度まで、Wntシグナル伝達経路の活性を増大(あるいは、そのレベルに維持)させる。
【0037】
また、Wntシグナル伝達経路活性の検出を用いて、胚性幹細胞の状態、すなわち、該細胞が、中胚葉又は内胚葉経路に沿った分化の過程にある、あるいはそれに確定されているか否か、を決定することも可能である。
【0038】
本明細書に記載する方法及び組成物により処理した胚性幹細胞、分化中の細胞及び分化細胞は、以下に詳しく説明するように、医療を含む様々な目的のために用いることができる。
【0039】
Wntシグナル伝達活性を増大するためのいずれの方法(直接及び間接的モジュレーションの両方を含む)を用いてもよい。このような方法としては、例えば、Wntシグナル伝達経路のいずれかのメンバーの内因性遺伝子の発現を転写、翻訳若しくは翻訳後レベルでモジュレートする、例えば、Wntシグナル伝達経路のメンバーのメッセンジャーRNAの持続性又は分解をモジュレートする、タンパク質の持続性又は分解をモジュレートするなどが挙げられる。また、上記方法には、例えば、アゴニストの使用による、Wntシグナル伝達経路のメンバーの活性のモジュレーションも含まれる。さらに、Wntシグナル伝達経路のいずれかのメンバーのアクチベーターの発現及び/又は活性をモジュレートすることにより、Wntシグナル伝達活性をモジュレートすることもできる。これらについては、以下に詳しく説明する。
【0040】
特定の実施形態では、胚性幹細胞におけるWntシグナル伝達の活性を10%、20%、30%、40%、50%若しくは60%又はそれ以上増大させることにより、中胚葉又は内胚葉系列に向かう幹細胞の分化を達成する。いくつかの実施形態では、このような分化を起こすために、Wntシグナル伝達活性を50%を超えて増大させる。このような実施形態では、Wntシグナル伝達経路の活性又は活性化は、後述する「Wntシグナル伝達経路の活性化のアッセイ」に記載のようにアッセイする。
【0041】
ES細胞におけるWntシグナル伝達経路は12時間を超えて、例えば、24時間を超えて活性化することができる。いくつかの実施形態では、2日以上、例えば、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上若しくは7日以上にわたりWntシグナル伝達経路を活性化する。いくつかの実施形態では、ES細胞におけるWntシグナル伝達経路を8〜10日間にわたり活性化する。Wntシグナル伝達経路の活性化は、用途に応じて、例えば、2週間、3週間、4週間など、必要な時間だけ実施されることは明らかであろう。このような実施形態では、上記の時間にわたって連続的にWntシグナル伝達経路を活性化してもよい。
【0042】
特に、本発明では、Wntシグナル伝達経路のモジュレーションを目的とするWntシグナル伝達のアゴニストの使用を提供する。このようなWntシグナル伝達のアゴニストは、スクリーニング及びアッセイによりさらに識別することができ、また、以下にも詳述する。
【0043】
本発明の実施には、特に記載のない限り、当業者の能力の範囲内にある、化学、分子生物学、微生物学、組換えDNA及び免疫学の通常の技術を用いるものとする。このような技術については文献に記載されている。例えば、以下に挙げる文献を参照されたい:J. Sambrook, E. F. Fritsch、及びT. Maniatis, 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版、第1〜3巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press; Ausubel, F. M.ら、(1995及び定期増刊;Current Protocols in Molecular Biology、第9、13及び16章、John Wiley & Sons, New York, N.Y.);B. Roe, J. Crabtree、及びA. Kahn, 1996, DNA Isolation and Sequencing: Essential Techniques, John Wiley & Sons;J. M. Polak及びJames O’D. McGee, 1990, In Situ Hybridization: Principles and Practice;Oxford University Press;M. J. Gait(編)、1984, Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, Irl Press;D. M. J. Lilley及びJ. E. Dahlberg, 1992, Methods of Enzymology: DNA Structure Part A: Synthesis and Physical Analysis of DNA Methods in Enzymology, Academic Press;Using Antibodies : A Laboratory Manual : Portable Protocol NO. I, Edward Harlow, David Lane, Ed Harlow (1999, Cold Spring Harbor Laboratory Press, ISBN 0-87969-544-7);Antibodies : A Laboratory Manual, Ed Harlow (編)、David Lane(編)(1988, Cold Spring Harbor Laboratory Press, ISBN 0-87969-314-2), 1855, Lars-Inge Larsson “Immunocytochemistry: Theory and Practice”, CRC Press inc., Baca Raton, Floriida, 1988, ISBN 0-8493-6078-1, John D. Pound (編);“Immunochemical Protocols, vol 80”, “Methods in Molecular Biology”のシリーズ, Humana Press, Totowa, New Jersey, 1998, ISBN 0-89603-493-3, Handbook of Drug Screening, Ramakrishna Seethala, Prabhavathi B. Fernandes編 (2001, New York, NY, Marcel Dekker, ISBN 0-8247-0562-9);Lab Ref: A Handbook of Recipes, Reagents, and Other Reference Tools for Use at the Bench, Jane Roskams及びLinda Rodgers編、2002, Cold Spring Harbor Laboratory, ISBN 0-87969-630-3;ならびにThe Merck Manual of Diagnosis and Therapy (第17版、Beers, M. H.、及びBerkow, R, 編、ISBN: 0911910107, John Wiley & Sons)。これら一般文献の各々は参照として本明細書に組み込むものとする。
【0044】
Wntシグナル伝達経路
Wntシグナル伝達経路の成分のいずれかをモジュレートすることにより、該経路を活性化することができる。
【0045】
Wntシグナル伝達経路を図7に示し、該経路の成分、並びにそれらの登録番号を付属書類Bに記載する。従って、Wntシグナル伝達経路が活性化されている限り、本明細書に記載の方法及び組成物によって図7又は付属書類Bに記載したいずれかのタンパク質又は成分の活性をモジュレートすることにより、胚性幹細胞を中胚葉又は内胚葉経路に沿って分化させることができる。Wntシグナル伝達経路が活性化されているか否かを決定する方法については以下に詳しく説明する。
【0046】
いくつかの実施形態では、Wntシグナル伝達経路とは、「古典的」Wntシグナル伝達経路、すなわち、Wnt受容体(Fizzled)からβ-カテニンへのシグナル伝達を含む経路である(Veeman ら、2003, Dev Cell. 5(3):367-77及びStrutt D. 2003, Development 130(19):4501-13に記載及び論考されているような、Wnt又はβ-カテニンを含まない非古典的経路とは反対である)。
【0047】
Wntシグナル伝達経路については、Thorstensenら、(2003), Atlas Genet Cytogenet Oncol Haematol. April 2003(http://www.infobiogen.fr/services/chromcancer/Deep/WntSignPathID20042.html)に記載されている。Wntシグナル伝達及び作用の詳細な総説が、Logan及びNusse (2004), Annu. Rev. Cell Dev. Biol. 20, 781-810、並びにWodarz及びNusse (1998), Annu. Rev. Cell Dev. Biol. 14, 59-88に記載されている。後者の文献は、Wntシグナル伝達に関する多数のアッセイも記載している。また、http://www.stanford.edu/~rnusse/wntwindow.htmlも参照されたい。
【0048】
Wntシグナル伝達経路の活性化のアッセイ
胚性幹細胞におけるWntシグナル伝達経路の活性化は、当分野で周知のように、多数の方法で評価することができる。一般に、このようなアッセイは、標的成分、又は活性化の標的である成分の下流成分のモジュレーションを検出しようとするものである。
【0049】
いくつかの実施形態では、Wntシグナル伝達経路の活性化のアッセイは、GSK-3βの低減した活性の検出を含む。GSK-3β活性は、多数の方法、例えば、「GSK-3βキナーゼアッセイ」の項で詳述するような方法で評価することができる。このようなアッセイは、特に、Wntシグナル伝達経路を活性化する手段として、GSK-3β活性を阻害のためにターゲッティングする場合に好適であるといえる。
【0050】
前記以外に、又はこれに加えて、Wntシグナル伝達経路の活性化のアッセイは、細胞質、若しくは核、又はその両者におけるβ-カテニンの蓄積を検出することを含んでもよい。従って、前記位置のいずれか又は両方におけるβ-カテニンの量又は数量(amount, quantity)の増大をWntシグナル伝達経路の活性化の指度として評価することができる。これは、当分野で周知の手段を用いて、目的とする細胞(例えば、胚性幹細胞又は分化中の細胞)の核又は細胞質抽出物を作製し、抗体ウエスタンブロットによりβ-カテニンタンパク質を検出することにより、達成することができる。特に有用なアッセイとして、例えば、活性β-カテニン、すなわち、β-カテニンの非リン酸化形態を、このような形態に特異的な抗体を用いて検出するものが挙げられる。
【0051】
β-カテニンの活性非リン酸化形態を特異的に検出することができるモノクローナル抗体は、van Noortら、(2002) J Biol Chem. 2002 May 17;277(20):17901-5に記載されており、また、Upstate(Charlottesville, VA 22903, USA)からカタログ番号05-601の「抗β-カテニン(非ホスホ)、クローン8E4」として市販もされている。
【0052】
Wntシグナル伝達経路の活性化はまた、例えば、抗Axin2抗体を用いたウエスタンブロットを使用して、Axin2の発現の増大の検出により検出することもできる。Axin2は、17q23-q24に位置し、登録番号AF205888、AF078165及びNM_004655を有する。
【0053】
Wntシグナル伝達経路の活性化を測定する手段として、Dishevelledのリン酸化、又はLRPテイルのリン酸化(Tamai 2004 Mol Cell. 2004 Jan 16;13(1);149-56)を検出することもできる。
【0054】
いくつかの実施形態では、目的とする細胞にトランスフェクトした適切なリポータープラスミドを用いてWntシグナル伝達経路の活性化を検出する。リポーターの発現は、例えば、応答エレメントを含むリポーターに対するプロモーターの結果として、Wntシグナル伝達の活性化に対して感受性である。
【0055】
このようなアッセイで用いることのできるリポーターの1つとして、Molenaarら(1996)Cell 86(3):391-9に記載のような、TOP Flashリポーターがあり、これはUpstate Biotech(Charlottesville, VA22903, USA;カタログ番号21-170)から入手可能である。TOP-Flashは、チミジンキナーゼ(TK)最小プロモーター及びルシフェラーゼオープンリーディングフレームの上流のTCF結合部位の3コピーからなる2つのセットを有するTCFリポータープラスミドを含む。制御プラスミドは、突然変異した不活性のTCF結合部位を含むFOP-Flash(カタログ番号21-169)である。
【0056】
リポフェクタミン2000(Invitrogen)のような好適なトランスフェクション試薬を用いて、胚性幹細胞のような好適な受容体細胞にTOPFlashを一過性トランスフェクトする。ルシフェラーゼ発現は、当分野で周知のように、例えば、光度計を用いて、検出することができる。
【0057】
このようなアッセイで用いることができる別のリポーターは、Super8XTOPFlashであり、これは、β-カテニン媒介転写活性化のルシフェラーゼリポーターを含む。このリポーターについては、M. Veemanら、Current Biology 13:680 (2003)に詳細に記載されている。Super8XTOPFlashリポーターは、TOPFlashより高いSN比を有する。HEK細胞の場合、このリポーターの最大活性化は、約100倍(Wntによる活性化)から約1,000倍(β-カテニンのリン酸化突然変異体による活性化)までである。適切なコントロールプラスミドは、クローンM51、Super8XFOPFlashであり、これは、突然変異体TCF/LEF結合部位を有する。
【0058】
Super8XTOPFlashのバックボーンはClontechのpTA-Lucベクターであり、これは、ホタルルシフェラーゼ遺伝子の発現を駆動する最小TAウイルスプロモーターを提供する(詳細については同社刊行物を参照)。8つのTCF/LEF結合部位をこのベクターのMlu1部位にクローン化した(8コピーのAGATCAAAGGgggta;TCF/LEF結合部位は大文字で表し、また、TCF/LEF部位の各コピーを分離するスペーサーは小文字で表す)。
【0059】
Wntシグナル伝達経路の活性化の検出は、トランスジェニックリポーターを含むように作製された動物個体で実施することができる。これらのリポーターは、多量体化TCF結合部位に基づき、LacZの発現を駆動する(TOP-GALと呼ばれることもある)。2つのトランスジェニックマウス系、すなわち、1つは、DasGupta及びFuchs、(1999), Development, 126(20):4557-68により、もう1つは、Marettoら (2003) Proc Natl Acad Sci U S A.100(6):3299-304により記載されている。TOPdGFPゼブラフィッシュ系が Dorsky及びMoon (2002)により作製され、また、Hurlstone ら (2003) Nature 425(6958):633-7によっても記載されている。Axin2の発現は多くの組織においてWntシグナル伝達の制御下にあるため、Axin2プロモーター及びGFPに基づき、Jhoら (2002) Mol Cell Biol.22(4):1172-83により作製されたトランスジェニック系も動物における有用なWntリポーターである。同様に、Lustigら (2002) Mol Cell Biol. 22(4):1184-93は、内因性Axin2/Conductin遺伝子にLacZを挿入することにより、動物におけるこのWnt標的の発現を可視化した。
【0060】
動物個体アッセイは、本明細書に記載する方法及び組成物に用いることができるWntシグナル伝達経路のアクチベーターを検出するのに有用である。
【0061】
Wnt受容体の活性化
Frizzled受容体
具体的には、Wntシグナル伝達のための受容体のいずれか、すなわち、Wnt受容体を活性化することにより、Wntシグナル伝達経路の活性化を達成する。例えば、Frizzled受容体のいずれかを活性化することにより、Wntシグナル伝達経路を活性化することができる。Frizzled受容体の例を以下の表に示す。
【表1】

【表2】

【0062】
受容体活性化は、多くの方法で、例えば、受容体の発現をアップレギュレートすることにより達成することができる。これは、例えば、受容体を発現させる好適な発現ベクターを胚性幹細胞にトランスフェクトすることにより達成することができる。さらに、構成的活性Frizzled受容体を胚性幹細胞に導入する、例えば、上記構成的活性受容体をコードする発現ベクターとして、胚性幹細胞にトランスフェクトすることにより達成することも可能である。
【0063】
Wntリガンド
また、Frizzled受容体のようなWnt受容体は、Wntリガンドの結合によって活性化することもできる。従って、Wntシグナル伝達経路は、Wntリガンドの活性又は発現を増大させる、あるいは、Wnt又はFrizzledのアンタゴニストの活性又は発現を低減することにより、活性化させることができる。
【0064】
Wntリガンドは当分野で周知であり、例えばWNT1、WNT2、WNT2B/13、WNT3、WNT3A、WNT4、WNT5A、WNT5B、WNT6、WNT7A、WNT7B、WNT8A、WNT8B、WNT9A(以前のWNT14)、WNT9B(以前のWNT15)、WNT10A 、WNT10B、WNT11及びWNT16である。Wntリガンドの例として、Wnt1、Wnt2、Wnt2b、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt8a、Wnt8b、Wnt9a、Wnt9b、Wnt10a、Wnt10b、Wnt11及びWnt16が挙げられる。このようなWntリガンド、並びにその登録番号を付属書類Aに記載する。これらのいずれか1つ以上を用いて、胚性幹細胞におけるWntシグナル伝達を活性化することができる。
【0065】
WntリガンドはR&D Systems(米国ミネソタ州)及びPeproTech, Inc(米国ニュージャージー州)から入手することができる。
【0066】
いくつかの実施形態では、Wntリガンドは、Wnt1又はWnt3A、例えばWnt3Aを含む。Wntリガンドは、ヒトWNT1(PAL1)(ATCC 57198/57199)、ヒトWNT1(MGC 30915522)、ヒトWNT3(pHP1)(ATCC MBA-174)、マウスWnt3(ATCC MBA-175)又はマウスWnt3A(ATCC MBA-176)を含んでもよい。
【0067】
加えて、高アフィニティーでFrizzledに結合するNorrinリガンド(Xuら、2004, Vascular development in the retina and inner ear: control by Norrin and Frizzled-4, a high-affinity ligand-receptor pair. Cell 116(6):883-95)を用いて、Wntシグナル伝達経路を活性化することもできる。R-spondin2タンパク質(Kazanskayaら、(2004) Dev Cell. 7(4):525-34及びKimら、(2005) Science 309(5738):1256-9)もFrizzled受容体に結合するため、同様に、本明細書に記載の方法及び組成物に用いることができる。
【0068】
胚性幹細胞を周知のWntリガンドのいずれか、例えば、精製したポリペプチドに暴露してもよい。Wntリガンドは、Calbitochemから市販されており、組換え法、例えば、好適な宿主細胞でのWnt核酸を含む発現ベクターの発現により、作製することもできる。
【0069】
上記に代わり、又はこれに加えて、Wntリガンドを含む培地に胚性幹細胞を暴露することにより、Wntシグナル伝達経路を活性化させることもできる。このような培地の例として、「条件培地」、すなわち、Wnt発現ベクターでトランスフェクトした細胞などのWnt分泌細胞が増殖する培地である。条件培地における好適なWntリガンドの存在は、ウエスタンブロットのような周知の手段により確認することができる(また、図1Cも参照)。
【0070】
活性Wnt及びWinglessタンパク質として以下のものを産生する細胞がある:マウスWnt3A(ATCC CRL-2647)、マウスWnt5A(ATCC CRL-2814)及びショウジョウバエWingless(ショウジョウバエゲノムリソースセンター、DGRC 165)。
【0071】
いくつかの実施形態では、Wnt3A条件培地をFrizzled受容体として用いる。これは、実施例19及びShibamotoら、Gene Cells 3:659-670に記載のように作製することができる。Lakoら、2001も、Wnt3A及びWnt4条件培地の作製について記載している。
【0072】
Wnt3A条件培地
Lakoら、2001から改変したWnt3A及びWnt5条件培地の作製プロトコルの一例を以下に示す:
下記プライマーを用いた未分化CGR8細胞からの増幅により、マウスWnt3及びWnt5a cDNAを取得する:Wnt3:50-ACCATGGAGCCCCACCTGCT- 30; 50-TGCAGGTGTGCACATCGTAG-30;Wnt5a:50-ACCATGAAGAAGCCCATTGG-30 50-TGCACACGAACTGATCCACA- 30。製造者の指示に従い、これらのcDNAをpcDNA3.1/CT-GFP-TOPO(Invitrogen)にクローン化し、Qiagenミディプレップキットを用いてDNAを作製する。増幅ステップ中にヌクレオチド変更が一切起こらなかったことを確認するため、各遺伝子につき3つのクローンを完全に配列決定する。37℃で5%CO2の加湿インキュベーターにおいて、10%胎児ウシ血清を補充したDMEM(Gibco BRL)においてCOS7細胞を維持する。
【0073】
条件培地を作製するため、製造者の指示に従い、Fugeneトランスフェクションキット(Boehringer Mannheim)を用いて、Wnt3及びWnt5a発現構築物でCOS7細胞をトランスフェクトする。また、CMVプロモーターの制御下で、緑色蛍光タンパク質(GFP)を含むコントロール構築物をCOS7細胞にトランスフェクトする。いずれかのDNAの非存在下でMockトランスフェクションを実施する。これらトランスフェクションの各々から得られた培地を72時間かけて条件付けし、3,000 x gで遠心分離した後、ろ過滅菌する。Wnt-GFP融合タンパク質の分泌を確認するため、トランスフェクションから72時間後にトランスフェクトしたCOS7細胞から条件培地(CM)を回収し、Cytofluor Multiwell Plateリーダー(Perseptive Biosystems)を用いた蛍光定量試験を行う。
【0074】
Wntリガンドの過剰発現
他の実施形態では、Wntリガンドの発現を増大させることにより、Wntシグナル伝達経路を活性化する。例えば、Wnt過剰発現によるWntシグナル伝達経路の活性化が、WO 2004/0014209号に詳しく記載されている。この文献の教示を用いて、Wnt配列を含む発現構築物及びプラスミドからmRNAを作製し、これを胚性幹細胞に注入することにより、分化を誘導することができる。さらに、同じ目的を達成するために、胚性幹細胞に発現ベクターを一過性又は持続性トランスフェクトしてもよい。
【0075】
グリコーゲンシンターゼキナーゼ3βの阻害
本発明では、概して、酵素活性の阻害又はタンパク質濃度の低減のいずれかによる、Wntシグナル伝達経路のアンタゴニスト又は負の調節因子若しくは成分(例えば、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β)のダウンレギュレーションによって、該経路の活性化を可能にする。また、例えば、RNAiの使用により、Wntシグナル伝達の負の調節因子(例えば、Axin及びAPC)を阻止することによってもWnt経路を活性化しうる。
【0076】
特定の実施形態では、全能性幹細胞におけるキナーゼ活性、特にグリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)活性の阻害により、Wntシグナル伝達経路の活性化を可能にする。
【0077】
いくつかの実施形態では、阻害するキナーゼ活性は、GSK-3βキナーゼ活性である。例えば、以下に記載するように、競合的又は非競合的いずれかの化学阻害剤又はアンタゴニストを用いて、GSK-3βの酵素活性を阻害することにより、GSK-3β活性を阻害することができる。このような阻害剤として、キナーゼ阻害剤が挙げられる。
【0078】
さらに、例えば、アンチセンスRNA、又はRNAi、若しくはsiRNAを用いて、GSK-3βタンパク質の発現をダウンレギュレートする、あるいは、GSK-3βの不活性形態から活性形態への変換を阻害する、あるいはまた、GSK-3βの分解速度を高めることにより、GSK-3β活性をダウンレギュレートすることもできる。本明細書に記載する方法及び組成物では、GSK-3βにおける機能の欠失及びドミナントネガティブ突然変異を用いてもよく、これは、例えば、Hedgepeth ら (1997) Activation of the Wnt signaling pathway: a molecular mechanism for lithium action. Dev Biol. 185(1):82-91に記載されている。例えば、Crowder及びFreeman, 2000, J. Biol. Chem. 275 (2000)、pp. 34266-34271に記載されているGSK-3βのキナーゼ欠失変異体を胚性幹細胞にトランスフェクトすることにより、中胚葉/内胚葉分化を達成することもできる。
【0079】
Hashimotoら、2002, J. Biol. Chem. 277 (2002), pp. 32985-32991に記載されているように、繊維芽細胞増殖因子(FGF)への暴露によりAktを活性化し、これによってGSK-3βを阻害する。従って、FGFはWntシグナル伝達のアクチベーターとして用いることができる。
【0080】
また、GSK-3βの負の調節因子であるFRAT1のアップレギュレーション、例えば、過剰発現により、Wntシグナル伝達を活性化してもよい。これについては、Crowder及びFreeman, 2000, J. Biol. Chem. 275 (2000), pp. 34266-34271、並びにCulbertら、2001, FEBS Lett. 507 (2001), pp. 288-294に記載されている。
【0081】
GSK-3β活性を阻害するのに好適な方法及び化合物については以下に詳しく記載する。
【0082】
本明細書で用いる用語「キナーゼ阻害剤」とは、以下に記載するように、約100μM以下、さらに典型的には約50μM以下、又はそれより少ない当該キナーゼ(例えば、GSK-3β)に対し、IC50を示す化合物を意味する。酵素活性は、本明細書に記載のようなアッセイにより測定することができる。「IC50」は、酵素(例えば、GSK-3β)の活性を最大レベルの半分まで低減する阻害剤の濃度を意味する。GSK-3βに対して阻害活性を発揮することがわかっている化合物を本明細書に記載の方法及び組成物に用いることができる。
【0083】
有用な化合物は、無細胞GSK-3βキナーゼアッセイで測定した場合に、約10μM以下、例えば、約5μM以下、約1μM以下、又は約200 nM以下の当該キナーゼ(例えば、GSK-3β)に対してIC50を示しうる。いくつかの実施形態では、このような化合物は、約100 nM以下、例えば、約50 nM以下のGSK-3βに対し、IC50を示す。いくつかの実施形態では、本明細書で用いる「GSK-3β阻害剤」とは、以下に概説するGSK-3β阻害活性の無細胞アッセイで測定した場合に、約100pM以下、さらに典型的には、約50μM以下のGSK-3βに対し、IC50を示す化合物を指す。上記に代わり、又はこれに加えて、上記化合物は、以下に記載するように、最大活性の50%以下、35%、25%若しくは15%以下までキナーゼ活性を阻害することができるものでもよい。
【0084】
グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK-3β)
グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK-3)は、47 kDaのモノマー構造を有するセリン/トレオニンタンパク質キナーゼである。これは、zeste-white-3/shaggyとしても知られている。
【0085】
GSK-3はグリコーゲンシンターゼをリン酸化する数種のタンパク質キナーゼの1つである(Embiら、1980, Eur. J. Biochem., 107:519-527;Hemmingsら、1982, Eur. J. Biochem. 119:443-451)。GSK-3はまた、タンパク質ホスファターゼであるFcをリン酸化するその能力に関して、文献では因子A(FA)と呼ばれる(Vandenheedeら、1980, J. Biol. Chem. 255:11768-11774)。GSK-3及びそのホモログの別名として、zeste-white-3/shaggy(zw3/sgg;キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)ホモログ)、ATP-クエン酸リアーゼキナーゼ(ACLK又はMFPK;Ramakrishnaら、1989, Biochem. 28:856-860;Ramakrishnaら、1985, J. Biol. Chem. 260:12280-12286)、GSLA(キイロタマホコリカビホモログ;Harwoodら、1995, Cell 80:139-48)、及びMDSI、MCK1、並びにその他(酵母ホモログ;Hunterら、1997, TIBS 22:18-22)が挙げられる。
【0086】
GSK-3をコードする遺伝子は、多様な門において高度に保存されている。GSK-3は、脊椎動物において2つのイソ型、すなわち、GSK-3α及びGSK-3βで存在する。脊椎動物の場合、ホモログ間のアミノ酸同一性は、GSK-3の触媒ドメイン内で98%を超える(Plyteら、1992, Biochim. Biophys. Acta 1114:147-162)。無脊椎動物では1つの型のGSK-3しかないことが報告されており、それは、GSK-3αよりGSK-3βに類似しているようである。粘菌類及び分裂酵母のタンパク質と、ヒトGSK-3βの触媒ドメインとのアミノ酸類似性(保存的置換を可能にする)はそれぞれ、81%及び78%である(Plyteら、1992、前掲)。系統発生スペクトル全体にわたる顕著に高度の保存は、細胞過程におけるGSK-3の基本的役割を示唆している。
【0087】
GSK-3はin vitroで多種のタンパク質をリン酸化することが証明されている。このようなタンパク質として、限定するものではないが、以下のものが挙げられる:グリコーゲンシンターゼ、ファスファターゼ阻害剤I-2、cAMP依存性タンパク質キナーゼのII型サブユニット、ホスファターゼ-1のG-サブユニット、ATP-クエン酸リアーゼ、アセチル補酵素Aカルボキシラーゼ、ミエリン塩基性タンパク質、微小管結合タンパク質、ニューロフィラメントタンパク質、N-CAM細胞接着分子、神経成長因子受容体、c-Jun転写因子、JunD転写因子、c-Myb転写因子、c-Myc転写因子、L-myc転写因子、腺腫様多発結腸ポリープ症腫瘍抑制タンパク質、tauタンパク質、及びβ-カテニン((Plyteら、1992, Biochim. Biophys. Acta 1114:147-162;Korinekら、1997, Science 275:1784-1787;Millerら、1996, Genes & Dev. 10:2527-2539)。GSK-3によって認識されたリン酸化部位が、これらタンパク質の複数で決定されている(Plyteら、1992、前掲)。これらタンパク質の多様性は、細胞の代謝、成長及び発生の制御におけるGSK-3の広範な役割が矛盾することを示している。GSK-3は、プロリンが豊富な環境では、セリン及びトレオニン残基をリン酸化する傾向があるが、マイトジェン活性化タンパク質(MAP)キナーゼ又はキナーゼ酵素のcdc2ファミリーのメンバーであるタンパク質キナーゼが示す、これらアミノ酸への絶対的依存は示さない。
【0088】
GSK-3によりリン酸化されるタンパク質のうち、c-Junは、c-junプロトオンコジーンの発現産物であり、トリ肉腫ウイルスのv-junオンコジーンの細胞ホモログである(Dentら、1989, FEBS Lett. 248:67-72)。Junはアクチベータータンパク質-1(AP-1)転写因子複合体の成分として作用し、該複合体はパリンドロームコンセンサス結合部位(AP-1部位)に結合する。c-Junは、AP-1部位を有する遺伝子の転写を誘導するのに必要かつ十分である(Angelら、1988, Nature 332:166-171;Angelら、1988, Cell: 55:875-885;Chiuら、1988, Cell 54:541-552;Bohmannら、1989, Cell 59:709-717;Abateら、1990, Mol. Cell. Biol. 10:5532-5535)。AP-1部位を有する遺伝子の転写は、Fos-Junヘテロ二量体又はJun-Junホモ二量体のいずれかによって開始されうるが、Fos-Junヘテロ二量体はJun-Junホモ二量体より安定してDNAに結合することから、より強力な転写アクチベーターである。Fosは別のプロトオンコジーン、c-fosの発現産物である(Schonthalら、1988, Cell 54:325-334;Sassone-Corsi, 1988, Nature 334:314-319)。GSK-3によるc-Junのリン酸化によって、AP-1部位におけるJun-Junホモ二量体の結合アフィニティーが著しく低減する(Boyleら、1991, Cell 64:573-584;Plyteら、1992、前掲)。
【0089】
GSK-3は、wntシグナル伝達経路の負の調節因子である。wnt経路は高度に保存されたシグナル伝達経路であり、脊椎動物及び無脊椎動物の両方において細胞運命の決定を調節する(Perrimon, 1994, Cell 76:781-784;Perrimon, 1996, Cell 86:513-516;Millerら、1996, Genes & Dev. 10:2527-2539)。経路の多くがショウジョウバエの詳細な遺伝子分析から決定されている。現在、このシグナル伝達経路の同定された成分として、wnt(分泌されたリガンド)、frizzled(wnt受容体)、並びに細胞内メディエーターdisheveled、GSK-3(ショウジョウバエではzw3/sggと表示)、及びβ-カテニン(ショウジョウバエではarmadilloと表示)が挙げられる。10T1/2細胞において、wntシグナル伝達はGSK-3 p酵素活性を阻害する(Cookら、1996, EMBO J. 15:4526-4536)。この結果は、ショウジョウバエにおけるエピスタシス実験と一致しており、これは、wnt経路におけるGSK-3β/zw3/sggの阻害作用を示唆するものである。wntシグナル伝達により、ショウジョウバエ(Peiferら1994, Dev., 120:369-380;van Leeuwenら、1994, Nature 368:342-344)並びにアフリカツメガエル(Yostら、1996, Genes & Dev., 10:1443-1454)におけるβ-カテニンタンパク質の安定化がもたらされる。また、LiClによるショウジョウバエS2細胞の処理により、armadilloタンパク質の蓄積が起こることも証明されている(Stambolicら、1996, Curr. Biol. 6:1664-1668)。β-カテニンの安定化は、wntシグナル伝達に応答する細胞の核へのβ-カテニンの移行を伴う(Funayamaら、1995, J. Cell Biol., 128:959-968;Schneiderら、1996, Mech. Dev., 57:191-198;Yostら、1996、前掲)。加えて、保存遺伝子(wnt、disheveled、及びβ-カテニンなど)の異所性発現により、アフリカツメガエルにおける第2軸形成が起こる。アフリカツメガエルにおける第2軸形成はまた、リチウム処理後にも観察される。β-カテニンは、初めカドヘリン結合タンパク質として発見されたが、近年、DNA結合タンパク質のTcfファミリーのメンバーと複合体形成すると、転写アクチベーターとして機能することが明らかにされた(Molenaarら、1996, Cell 86:391;Behrensら、1996, Nature 382:638)。
【0090】
前記及び本明細書の他所で用いる次の用語は、以下に定義する意味を有する:「グリコーゲンシンターゼキナーゼ3」及び「GSK-3」は、本明細書では置き換え可能に用いられ、ヒトGSK-3βアミノ酸配列(Genbank登録番号L33801)に対し、60%以上、例えば、70%以上、80%以上、90%又は95%以上の配列相同性を有するいずれかのタンパク質、例えば、上記配列の56位から340位の間にあるアミノ酸の配列を意味する。GSK-3α及びGSK-3βの配列はまた、それぞれ登録番号P49840及びP49841としても開示されており、「グリコーゲンシンターゼキナーゼ3」及び「GSK-3」は、さらに、これら2つの配列に対し60%以上の配列相同性を有する配列を示すのに用いられることもある。
【0091】
2つのアミノ酸配列又は2つの核酸の相同性(%)を決定するために、配列を最適な比較のためにアラインメントする(例えば、他のポリペプチド又は核酸との最適なアラインメントのためにあるポリペプチド又は核酸の配列にギャップを導入することができる)。次に、対応するアミノ酸位置又はヌクレオチド位置でのアミノ酸残基又はヌクレオチドを比較する。一方の配列における特定の位置を、他方の配列において対応する位置と同じアミノ酸残基又はヌクレオチドが占めていれば、分子はその位置で相同である(すなわち、本明細書で用いるアミノ酸又は核酸の「相同性」は、アミノ酸又は核酸の「同一性」と同等である)。2つの配列間の相同性(%)は、両配列が共有する同一位置の数の関数である(すなわち、相同性(%)=同一位置数/位置の総数×100)。
【0092】
GSK-3βキナーゼアッセイ
一般に、無細胞GSK-3キナーゼアッセイは、(1)ペプチド基質、放射性標識ATP(例えば、γ33P-又はγ32P-ATP;両方とも、Amersham(イリノイ州アーリントンハイツ)から入手可能)、マグネシウムイオン、そして随意に1以上の候補阻害剤と一緒にGSK-3をインキュベートし;(2)混合物を一定時間インキュベートすることにより、GSK-3活性によりペプチド基質に放射性標識リン酸塩を組み込ませ;(3)酵素反応混合物の全部又は一部を個別の容器、典型的にはペプチド基質上のアンカーリガンドに結合することができる均一量の捕捉リガンドを含むマイクロタイターウェルに写し;(4)洗浄することにより、非反応の放射性標識ATPを除去した後、(5)各ウェルに残る33P又は32Pの量を定量することにより、容易に実施することができる。この量は、ペプチド基質に組み込まれた放射性標識リン酸塩の量を表す。阻害は、ペプチド基質への放射性標識リン酸塩の組込みの減少として観察される。
【0093】
無細胞アッセイに用いるのに好適なペプチド基質は、適切な量のATPの存在下でGSK-3βによりリン酸化することができるあらゆるペプチド、ポリペプチド又は合成ペプチド誘導体である。好適なペプチド基質は、GSK-3又は他の酵素の様々な天然タンパク質基質の配列の一部をベースとするものであってもよいし、スペーサー配列及びアンカーリガンドを含むN末端又はC末端修飾又は伸長部を含むものでもよい。従って、ペプチド基質はさらに大きなポリペプチド内に存在するものでもよいし、あるいは、GSK-3βによるリン酸化などのために設計された単離ペプチドであってもよい。
【0094】
例えば、Wangら、Anal. Biochem., 220: 397-402 (1994)(参照として本明細書に組み込む)に記載のCREB DNA結合タンパク質内のSGSG結合CREBペプチド配列のようなDNA結合タンパク質CREBの部分配列をベースとして、ペプチド基質を設計することができる。Wangらにより報告されたアッセイでは、CREBペプチドのSXXXSモチーフにおけるC末端セリンは、cAMP依存性タンパク質キナーゼ(PKA)により酵素的に前リン酸化されるが、これは、該モチーフ中のN末端セリンがGSK-3によりリン酸化されるのに必要なステップである。これに代わり、同じSXXXSモチーフを有すると同時に、N末端アンカーリガンドも含むが、その前リン酸化されたC末端セリンを含むように合成された、改変CREBペプチド基質(このような基質はChiron Technologies PTY Ltd.(オーストラリア、クレイトン)から市販されている)を用いることもできる。ペプチド合成中のSXXXSモチーフ中の第2セリンのリン酸化により、個別のステップとして、PKAによるその残基の酵素的リン酸化の必要がなくなり、また、アンカーリガンドの組込みによって、GSK-3との反応後のペプチド基質の捕捉が容易になる。
【0095】
一般に、キナーゼ活性アッセイに用いられるペプチド基質は、GSK-3βによりリン酸化可能な1以上の部位と、当該キナーゼではなく、他のキナーゼによりリン酸化可能な1以上の部位を含みうる。従って、キナーゼによりリン酸化可能なモチーフを作製するために、これら他の部位を前リン酸化することができる。用語「前リン酸化された(した)」とは、基質ペプチドを用いたキナーゼアッセイを実施する前に、非放射性標識リン酸塩で該基質ペプチドをリン酸化することを意味する。
【0096】
このような前リン酸化は、ペプチド基質の合成中に実施するのが好都合である。
【0097】
SGSG結合CREBペプチドをアンカーリガンド(例えば、ビオチン)に結合させるが、その際、P及びY間のC末端付近のセリンは前リン酸化されている。本明細書で用いる用語「アンカーリガンド」とは、ペプチド基質に結合することにより、捕捉リガンド上のペプチド基質の捕捉を容易にすることができるとともに、洗浄ステップ中にペプチド基質を適切な位置に保持する機能を果たし、さらには、非反応の放射性標識ATPの除去を可能にするリガンドを意味する。アンカーリガンドの一例として、ビオチンが挙げられる。用語「捕捉リガンド」とは、本明細書において、高アフィニティーでアンカーリガンドに結合することができ、しかも、固体構造に結合する、分子を意味する。結合した捕捉リガンドの例として、例えば、アビジン−又はストレプトアビジンでコーティングしたマイクロタイターウェル又はアガロースビーズが挙げられる。捕捉リガンドを担持するビーズをさらにシンチラントと結合させることにより、捕捉された放射性標識基質ペプチドを検出する手段をもたらすことができる。あるいは、シンチラントを後のステップで捕捉ペプチドに添加してもよい。
【0098】
捕捉された放射性標識ペプチド基質は、周知の方法を用いたシンチレーションカウンターで定量することができる。ペプチド基質の限定部分(例えば、20%未満)しかリン酸化されない条件下で酵素反応を実施した場合、シンチレーションカウンターで検出されるシグナルはGSK-3βキナーゼ活性に比例するはずである。上記の反応中に阻害剤が存在すれば、当該キナーゼ活性は低減するため、ペプチド基質に組み込まれる放射性標識リン酸塩の量も減少することになる。
【0099】
従って、検出されるシンチレーションシグナルが低ければ、反応中に阻害剤が存在しないネガティブコントロールで観測したものと比較して、GSK-3β阻害活性は、シンチレーションシグナルの低減として検出されることになる。
【0100】
細胞を用いたGSK-3βキナーゼ活性アッセイは典型的に、GSK-3βとGSK-3β基質の両方を発現することができる細胞、例えば、GSK-3βとその基質をコードする遺伝子(遺伝子の発現のための調節制御配列を含む)で形質転換した細胞を利用することができる。細胞を用いたアッセイを実施する際、遺伝子を発現することができる細胞を特定の化合物の存在下でインキュベートする。細胞を溶解させ、リン酸化形態の基質の比率を決定するが、これは、例えば、SDS PAGE上の非リン酸化形態についてのその移動度を観察する、又は基質のリン酸化形態に特異的な抗体により認識された基質の量を決定することにより実施する。基質のリン酸化の量は、上記化合物の阻害活性の示度である。すなわち、阻害は、阻害剤の非存在下で実施したアッセイと比較したリン酸化の低減として検出される。細胞を用いたアッセイで検出されたGSK-3阻害活性は、例えば、GSK-3の発現の阻害、又はGSK-3のキナーゼ活性の阻害によるものと考えられる。
【0101】
GSK-3β活性の化学阻害剤
前述のように、Wntシグナル伝達経路は、GSK-3β活性の阻害により活性化することができる。いくつかの実施形態では、これを達成するために、GSK-3βをその化学阻害剤に暴露する。
【0102】
例えば、米国特許第6,441,053号に記載のように、GSK-3β活性の多数の化学阻害剤が当分野では周知である。上記文献にはGSK-3β活性の阻害剤を同定する方法も記載されている。このような方法は、典型的に、GSK-3、リン酸塩供給源、及びGSK-3基質を含む混合物を用意し、試験化合物の存在下又は非存在下で混合物をインキュベートし、該混合物におけるGSK-3の活性を評価することを含む。試験化合物の存在下で混合物をインキュベートした後にGSK-3活性が低減すれば、その試験化合物がGSK-3の阻害剤であることを示している。
【0103】
リチウム
一実施形態では、本発明の方法及び組成物は、Wntシグナル伝達経路の活性化のためにリチウムとその塩(塩化リチウムなど)を用いる。このようなリチウムの使用は、Hedgepethら、(1997) Activation of the Wnt signaling pathway: a molecular mechanism for lithium action. Dev Biol. 185(1):82-91、Daviesraら、(2000), Biochem. J. 351, pp. 95-105、並びにPatelら、(2002), J. Mol. Biol. 315 (2002), pp. 677-685に記載されている。
【0104】
リチウムは、1マイクロモル〜500ミリモルの濃度で用いることにより、分化のためのWntシグナル伝達を活性化することができる。好適な濃度は10 mM以上である。
【0105】
インジルビン
いくつかの実施形態では、GSK-3β活性の化学阻害剤は、インジルビン、例えば、Meijerら、(2003). GSK-3-Selective Inhibitors Derived from Tyrian Purple Indirubins. Chemistry & Biology, Vol. 10, 1255-1266に記載されているようなチリアンパープルインジルビンを含む。特に、6-ブロモインジルビンの使用、例えば、5位又は6位で置換されたインジルビンの使用を提供する。インジルビンは6位で置換されてもよい。
【0106】
6-ブロモインジルビン-3’-オキシム(BIO)
いくつかの実施形態では、GSK-3β阻害剤は、図6に示すように、6-ブロモインジルビン-3’-オキシム(BIO)を含む。中胚葉/内胚葉経路に沿った分化を達成するために、1nM〜1mM、例えば、500 nM以上、750 nM以上、500μM未満、100μM未満、50μM未満、又は25μM未満の濃度のインジルビン(例えば、6-ブロモインジルビン-3’-オキシム(BIO))に胚性幹細胞を暴露することができる。いくつかの実施形態では、上記濃度は0.1μM〜10μM、例えば、1μM〜10μMの範囲にあり、例えば、5μM以下(例:およそ1μM又は2μM)である。
【0107】
別の実施形態では、本発明の方法及び組成物では、iGSK-3β及びその変異体を含むGSK-3βの化学阻害剤を使用する。BIOの場合、iGSK-3βは前記濃度で用いることができる。
【0108】
GSK-3の他の阻害剤
Coghlanら、Chem Biol. 2000 Oct;7(10):793-803は、構造的に異なるマレイミドである2つの分子、すなわちSB-216763とSB-415286をGSK-3の阻害剤として記載している。Paiら、Mol Biol Cell. 2004 May;15(5):2156-63は、低濃度のデオキシ−コール酸(DCA、5及び50マイクロモル)がβ-カテニンのチロシンリン酸化を増大させ、ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(uPA)、uPA受容体(uPAR)及びサイクリンD1の発現を誘導し、結腸癌細胞の増殖及び侵潤を増強することを報告している。Parkら、Biochem Biophys Res Commun. 2005 Mar 4;328(1):227-34は、ケルセチンがTCFのレベルでWntシグナル伝達を阻害することを示唆している。Liuら、Angew Chem Int Ed Engl. 2005 Mar 18;44(13):1987-90は、Wntシグナル伝達のアゴニストとしての、2-アミノ-4-[3,4-(メチレンジオキシ)ベンジル-アミノ]-6-(3-メトキシフェニル)ピリミジンについて報告している。従って、万能性幹細胞におけるWntシグナル伝達経路を活性化するために、前記化合物のいずれを用いてもよい。
【0109】
別の実施形態では、本明細書に記載する方法及び組成物では、GSK-3βの阻害剤、例えば、Calbiochem(米国サンディエゴ)から市販されているものを用いる。このような阻害剤として、以下のものが挙げられる:1-Azakenpaullon(Calbiochemカタログ番号191500)、Alsterpaullone(Calbiochem カタログ番号126870)、FRATtide(Calbiochemカタログ番号344265)、GSK-3b阻害剤VII(Calbiochemカタログ番号361548)、GSK-3b阻害剤XI(Calbiochemカタログ番号361553)、GSK-3bカタログ番号I(Calbiochem カタログ番号361540)、GSK-3b阻害剤II(Calbiochemカタログ番号361541)、GSK-3b阻害剤III(Calbiochemカタログ番号361542)、GSK-3 阻害剤IX(Calbiochemカタログ番号361550)。
【0110】
Calbiochemから入手可能なその他のGSK-3β阻害剤を以下に挙げる:InSolutionTMGSK-3阻害剤IX(Calbiochemカタログ番号361552)、GSK-3阻害剤X(Calbiochemカタログ番号361551)、GSK-3阻害剤XIII(Calbiochemカタログ番号361555)、GSK-3阻害剤XIV、コントロール、MeBIO(Calbiochemカタログ番号361556)、GSK-3b阻害剤VI(Calbiochemカタログ番号361547)、GSK-3b阻害剤XII、TWS119(Calbiochemカタログ番号361554)、GSK-3b阻害剤VIII(Calbiochem カタログ番号361549)、GSK-3bペプチド阻害剤(Calbiochemカタログ番号361545)、GSK-3bペプチド阻害剤、細胞透過性(Calbiochemカタログ番号361546)、インジルビン-3’-モノオキシム(Calbiochemカタログ番号402085 )、ケンパウロン(Kenpaullon:Calbiochemカタログ番号422000)。GSK-3β阻害剤は、任意の有効濃度、例えば、一般に1μM〜10μMの濃度で用いることができる。
【0111】
別の実施形態では、Leclercら、(2001), J. Biol. Chem. 276 (2001), pp. 251-260、及びKnockaertら、(2002), J. Biol. Chem. 277 (2002), pp. 25493-25501に記載のサイクリン依存性キナーゼ(CDK)阻害剤の使用により、Wntシグナル伝達を活性化することができる。
【0112】
β-カテニン
本明細書に用いる用語β-カテニンは、NCBI遺伝子番号93703を有する配列を指す。リン酸化形態のβ-カテニンを破壊のためにターゲッティングし、非リン酸化形態は活性のままとする。細胞質中のβ-カテニンの蓄積は核内での蓄積を招き、その結果、Wnt応答性遺伝子又はWnt標的遺伝子の転写の活性化が起こる。
【0113】
従って、本発明ではβ-カテニンの活性化によるWntシグナル伝達の活性化を達成するが、これは、最終的に、細胞におけるβ-カテニン活性の増大、例えば、細胞内での活性(非リン酸化)β-カテニンの蓄積をもたらすあらゆる方法を意味する。このような方法としては、β-カテニンの発現又は活性を増大させるあらゆるもの、例えば、β-カテニン(又は、以下に記載するように、その構成的活性形態)を発現する発現ベクターを用いた胚性幹細胞のトランスフェクションなどが挙げられる。このような方法には、上記に代わり、又はこれに加えて、β-カテニンの分解の阻害又はダウンレギュレーション、例えば、キナーゼ阻害剤若しくはホスファターゼなどの使用によるβ-カテニンのリン酸化のダウンレギュレーションも含まれる。
【0114】
本明細書に記載の方法及び化合物では、Wntシグナル伝達を活性化するのに、β-カテニンを使用してもよい。このような構成的活性β-カテニン形態として、例えば、リン酸化できないようにすることにより、分解することができないβ-カテニンが挙げられる。β-カテニンの非リン酸化可能形態は、リン酸化に必要な1以上の部位(キナーゼ結合部位又はリン酸結合部位のいずれでも)を欠損したものでよい。このような突然変異形態が、Munemitsuら、(1996) Mol Cell Biol. 16(8):4088-94、並びにYostら、(1996) Genes Dev. 10(12):1443-54に記載されている。また、発現構築物のトランスフェクションによるβ-カテニンの過剰発現も、Reyaら、(2003) Nature 423(6938):409-14に記載されている。いくつかの実施形態では、β-カテニン構築物は、Reyaらに記載されているようなN末端切断形態である。
【0115】
突然変異型β-カテニンの形態はさらに、Wnt signaling and cancer. Genes Dev. 2000 Aug 1;14(15):1837-51に記載された1以上の残基を別のアミノ酸、例えば、アラニンに突然変異させた突然変異体を含む。さらにこのような突然変異体には、N末端の50〜90アミノ酸、すなわち、GSK-3b、APC、Dsh複合体によりリン酸化される残基を欠損する欠失突然変異体も含まれる。
【0116】
このような突然変異形態は、Wnt非応答性であり、これを胚性幹細胞(培地において外部から、又は発現産物として内部からのいずれでも)に供給することにより、中胚葉又は内胚葉経路に沿って分化させることができる。
【0117】
配置
いくつかの実施形態では、目的とする集団の実質的に全ての細胞をシグナルに暴露して、Wntシグナル伝達経路の活性化を同時に起こす。これらの細胞は、実質的に同じレベルのシグナルを、例えば、実質的に同じ時間量にわたり受けることになる。いくつかの実施形態では、このような目的を達成するように、細胞は、互いに対して、またそれらが増殖する容器に対して配置される。
【0118】
例えば、シグナルへの均一暴露を可能にするように2次元配置の状態に細胞を配置することができる。従って、特定の実施形態では、Wntシグナル伝達経路が活性化される時間の少なくとも一部において万能性幹細胞が実質的に二次元配置の状態である。いくつかの実施形態では、Wntシグナル伝達経路が活性化される時間の実質的に全てにおいて万能性幹細胞がこのような配置の状態である。
【0119】
2次元配置とは、実質的に3次元に増殖することなく、2次元に沿って細胞を増殖させる配置を意味する。いくつかの実施形態では、細胞の上に他の細胞が「積み重なる」ことは実質的に一切ない。細胞の少なくとも一部、例えば、大部分、あるいは全細胞を、直接又は間接的に基質に付着させることができる。細胞を基質に直接付着させ、その上で増殖させてもよい。基質に直接付着している細胞に付着させることにより、細胞を間接的に基質に付着させてもよい。細胞は基質と接触していてもよい。
【0120】
基質は、容器の表面、又は支持細胞層を含んでもよい。細胞を基質に付着させてもよい。いくつかの実施形態では、細胞は平面配置の状態である。
【0121】
配置例として単細胞層が挙げられる。いくつかの実施形態では、細胞は胚様体の形態で配置しない。集団における細胞の少なくとも70%、例えば、少なくとも80%が同じ経路に沿って分化すると考えられる。
【0122】
胚性幹細胞及び前駆細胞
本明細書に記載の方法は、中胚葉又は内細胞系列の部分的に分化した前駆細胞、及びその細胞系を産生することができる。
【0123】
胚性幹細胞が分化すると、これらは一般に、複雑な早期哺乳動物発生を反復し、その際、胚性幹細胞は一連の系列決定を通過して、分化能が低減した前駆細胞を産生した後、最後に、3つの胚葉全てを提示する最終分化細胞を産生する(Wiles, Methods in Enzymology. 1993;225:900-918)。
【0124】
典型的には、幹細胞は中間細胞型(1又は複数種)を産生した後、前駆細胞(precursor or progenitor cell)と呼ばれるその完全に分化した状態を達成する。胎児又は成体組織における前駆細胞は部分的に分化した細胞であり、これは分裂した後、分化細胞をもたらす。このような細胞は通常、特定の細胞発生経路に沿って分化することが「確定された」とみなされる。従って、前駆細胞は「確定された幹細胞」と呼ばれることがある。
【0125】
本方法は、様々なタイプ、特に中胚葉又は内胚葉タイプの前駆細胞及び細胞系を作製することができる。
【0126】
例えば、本明細書では、末梢血前駆細胞(PBPC)、造血前駆細胞、骨髄前駆細胞、骨髄間質細胞、骨格筋前駆細胞、膵島前駆細胞、間葉前駆細胞、心臓中胚葉幹細胞、肺及び肝前駆細胞を作製する方法を開示する。
【0127】
本明細書に記載の方法に従い作製された中胚葉又は内胚葉タイプの前駆細胞は、商業的に重要な研究、診察及び治療など多様な目的に用いることができる。これらの使用は当分野において一般に周知であるが、本明細書に簡単に記載する。
【0128】
例えば、本明細書に記載の方法及び組成物を胚性幹細胞に対して用いて、再生治療のための中胚葉又は内胚葉前駆細胞集団を作製することができる。前駆細胞は、ex vivo増殖により作製しても、あるいは、患者に直接投与してもよい。また、外傷を受けた後の損傷組織の再生(re-population)のために該細胞を用いることも可能である。
【0129】
従って、造血前駆細胞を骨髄移植に用いたり、心臓前駆細胞を心不全の患者に用いたりすることができる。患者の皮膚移植片を増殖するために皮膚前駆細胞を、また、ステント又は人工心臓のような人工器官の内皮化のために内皮前駆細胞を用いることができる。
【0130】
胚性幹細胞は、糖尿病、アルツハイマー病、パーキンソン病などの変性疾患の治療を目的とする、中胚葉又は内胚葉前駆細胞の供給源として用いることもできる。癌の免疫療法のために、NK又は樹状細胞のための中胚葉又は内胚葉前駆細胞の供給源として胚性幹細胞を用いてもよく、これらの中胚葉又は内胚葉前駆細胞は本明細書に記載の方法及び組成物により作製することができる。
【0131】
本明細書に記載の方法及び組成物は、中胚葉又は内胚葉前駆細胞の作製を可能にするが、言うまでもなく、当分野で周知の方法を用いて、これらの前駆細胞をさらに最終分化細胞まで分化させることもできる。従って、最終分化細胞のあらゆる使用は、供給源である中胚葉又は内胚葉前駆細胞にも同様に付随することになる。
【0132】
本明細書に記載の方法及び組成物により作製された中胚葉又は内胚葉前駆細胞は、疾患の治療のために、又はそのような治療を目的とする医薬組成物の調製のために用いることができる。このような疾患としては、再生医療により治療可能な疾患が含まれ、例えば、心不全、骨髄疾患、皮膚病、熱傷、また、糖尿病、アルツハイマー病、パーキンソン病などの変性疾患、並びに癌が挙げられる。
【0133】
前駆細胞の特徴
本明細書に記載の方法及び組成物を用いて、部分的に分化した中胚葉又は内胚葉前駆細胞への胚性幹細胞の分化を誘導することができる。
【0134】
いくつかの実施形態では、前駆細胞及び細胞系(又はそれらに由来する分化細胞)は、胚性幹細胞の1以上の特徴を提示しない。このような特徴として、OCT4遺伝子の発現及びアルカリ性ホスファターゼ活性が挙げられる。前駆細胞系は、全能性に特有の1以上のマーカーの発現低減を示す。このような全能性マーカーについては以下に詳しく記載するが、Nanog、BMP4、FGF5、Oct4、Sox-2及びUtf1がある。
【0135】
本明細書に記載の方法により作製された前駆細胞は、非腫瘍形成性と考えられる。この前駆細胞を免疫低下又は免疫不全の宿主動物に移植すると、腫瘍形成を引き起こす親胚性幹細胞の移植と比較して、腫瘍を形成しない。免疫低下又は免疫不全の宿主動物は、SCIDマウス又はRag1-/マウスである。いくつかの実施形態では、移植から長い期間にわたって、例えば、2週間以上又は2ヶ月以上、例えば、9ヶ月以上、前駆細胞は腫瘍を形成しない。
【0136】
本明細書に記載の方法により作製した前駆細胞は、1以上の下記の特徴を示してもよい。該前駆細胞は、少なくとも10世代にわたり細胞培地に維持した場合、染色体数により評価すると、実質的に安定な核型を有すると考えられる。これらはまた、世代から世代への実質的に安定な遺伝子発現パターンを呈示すると考えられる。これは、選択した遺伝子セットの1以上、例えば、実質的に全ての発現レベルが、ある世代の前駆細胞と、次世代の前駆細胞の間で実質的に変動しないことを意味する。
【0137】
遺伝子セットは、以下に挙げるものの1以上、これらのサブセット、又は全てを含みうる:cerberus(GenBank登録番号:NM_009887、AF031896、AF035579)、FABP(GenBank登録番号:NM_007980、M65034、AY523818、AY523819)、Foxa2(GenBank登録番号:NM_010446、X74937、L10409)、Gata-1(GenBank登録番号:NM_008089、X15763、BC052653)、Gata-4(GenBank登録番号:NM_008092、AF179424、U85046、M98339、AB075549)、Hesx1(GenBank登録番号:NM_010420、X80040、U40720、AK082831)、HNF4a(GenBank登録番号:NM_008261、D29015、BC039220)、c-kit(GenBank登録番号:NM_021099、Y00864、AY536430、BC075716、AK047010、BC026713、BC052457、AK046795)、PDGFRα(NM_011058、M57683、M84607、BC053036)、Oct4(GenBank登録番号:NM_013633、X52437、M34381、BC068268)、Runx1(GenBank登録番号:NM_009821、D26532、BC069929、AK051758)、Sox17(GenBank登録番号:NM_011441、D49474、L29085、AK004781)、Sox2(GenBank登録番号:NM_011443、U31967、AB108673)、 Brachyury(NM_009309、X51683)、TDGF1(GenBank登録番号:NM_011562、M87321)及びTie-2(GenBank登録番号:NM_013690、X67553、X71426、D13738、BC050824)。
【0138】
本明細書に記載の方法により、前駆細胞及び前駆細胞系、並びに完全分化細胞(前駆細胞のクローン子孫を含む)の作製が可能になる。細胞の「クローン子孫」という用語は、形質転換処理又は遺伝子改変を実質的に全く受けていない細胞の子孫を意味する。実質的なゲノム改変を受けていないこのようなクローン子孫は、親細胞、又は祖先、例えば、胚性幹細胞と遺伝子が実質的に同一である(低減した分化能を除いて)。また、用語「前駆細胞」も、前駆細胞に由来する細胞系、すなわち、前駆細胞系を含むと解釈されることもあり、その逆もありうる。
【0139】
中胚葉及び内胚葉
中胚葉及び内胚葉細胞(最終分化細胞、並びに中胚葉及び内胚葉経路に確定された細胞)の同定は当分野において周知である。
【0140】
中胚葉分化又は確定のマーカーとして、T-brachyury、Gata2、Nkx2.5、アルブミン、Flk1、Runx1、Runx2、Hand1,2及びTbx5が挙げられる。これらマーカーのいずれか1以上の発現を検出することにより、中胚葉細胞を検出することができる。内胚葉分化又は確定のマーカーとして、Sox17、Foxa2、Gata4-6、AFP、MixL1、Goosecoid、Sox7、IPF1が挙げられる。これらマーカーのいずれか1以上の発現を検出することにより、内胚葉細胞を検出することができる。
【0141】
いくつかの態様では、本明細書に記載の方法及び組成物は、Wntシグナル伝達経路の活性化によるES細胞からの中内胚葉細胞の作製を達成する。
【0142】
解剖学的近接及び共通のシグナル伝達網が最も早期の中胚葉及び内胚葉細胞を結合させて、外胚葉とは異なる原始中内胚葉を形成する(Kimelman及びGriffin 2001, Rodaway and Patient 2001)。原始中内胚葉は、ある程度の発生上の可塑性を有するため、これを利用して、適切な誘導物質に応答して中胚葉又は内胚葉細胞に分離させることができる。
【0143】
「中内胚葉」細胞とは、中胚葉又は内胚葉経路に沿って発生する分化能を有する細胞を意味する。このような細胞は、二能性細胞である。いくつかの実施形態では、このような細胞は、外胚葉経路に沿って分化せず、しかも、分化することができない。いくつかの実施形態では、中内胚葉細胞は、本明細書の他所に記載するように、1以上の中胚葉及び/又は内胚葉マーカーを発現する。
【0144】
分化した中胚葉又は内胚葉細胞
本明細書に記載の方法に従って作製した前駆細胞又は細胞系から、分化した細胞、例えば、部分的に分化した、若しくは最終的に分化した細胞を誘導することができる。従って、本明細書では、前述のように前駆細胞又は細胞系を作製するステップと、これらから分化細胞を誘導するステップとを含む、分化細胞を作製する方法を開示する。
【0145】
本明細書に記載の方法に従って作製することができる分化細胞は、以下に挙げるもののいずれか又は全部を含みうる:
i)脂肪細胞:身体全体、特に皮下に存在する、脂肪、又は脂肪組織の機能的細胞型。脂肪細胞は、エネルギー、熱調節、及び機械的衝撃に対する緩衝のための脂肪を貯蔵及び合成する;
ii)心筋細胞:心臓を連続的かつ律動的に拍動させる、心臓の機能的筋細胞型;
iii)軟骨細胞:関節、耳道、気管、咽頭蓋、咽頭、脊椎と肋骨末端の間の円板の軟骨を構成する機能的細胞型;
iv)繊維芽細胞:身体のほとんどの組織内に存在する結合又は支持細胞。繊維芽細胞は、指令支持骨格を供給して、特定器官の機能的細胞型が適正に動作するのを助ける;
v)肝細胞:代謝廃棄物を脱酸素し、赤血球を破壊して、それの成分を回収して、血漿用のタンパク質を合成するための酵素を製造する肝臓の機能的細胞型;
vi)造血細胞:血液を製造する機能的細胞型。造血細胞は、成体の骨髄中に存在する。胎児の場合、肝臓、脾臓、骨髄、並びに子宮内の胎児を取り囲む支持組織中に造血細胞は存在する;
vii)筋細胞:筋肉の機能的細胞型;
viii)骨芽細胞:骨を製造するのに必要な機能的細胞型;
ix)膵島細胞:インスリン、グリコーゲン、ガストリン及びソマトスタチンを分泌させる膵臓の機能的細胞。これらの分子は一緒に、炭水化物及び脂肪代謝、血液グルコースレベル、並びに胃への酸分泌など、多数の過程を調節する。
【0146】
いくつかの実施形態では、Wnt活性化ES細胞の分化をin vitroで実施する。
【0147】
本明細書に記載する方法及び組成物を用いて作製したWnt活性化細胞は、中胚葉及び内胚葉を産生できることがわかった。従って、これらの細胞は、中胚葉及び内胚葉に由来し、治療に関して重要な細胞型を産生する細胞の改善された供給源を提供する。
【0148】
目的とする内胚葉由来の細胞として、膵及び肝細胞型が挙げられる。これら細胞の中胚葉分化能によって、この系列から、例えば、心筋細胞、内皮細胞、軟骨細胞、及び骨芽細胞などの細胞の作製が可能になる。
【0149】
他の方法との組合せ
本明細書に記載する万能性細胞のWnt経路活性化の方法は、単独で用いても、あるいは、中及び内胚葉誘導体並びに/又は分化細胞を作製する既知の方法のいずれかと組み合わせてもよく、このような方法の例を以下に記載する。Wnt経路の活性化は、これら方法の前、後又は同時のいずれに実施してもよい。
【0150】
具体的には、万能性幹細胞におけるWntシグナル伝達経路を活性化するステップを含む方法により、万能性幹細胞から中胚葉又は内胚葉細胞を誘導することができる。次に、以下に記載する公知の方法のいずれかを用いて、得られた中胚葉又は内胚葉細胞から特定の分化細胞型を誘導させることができる。
【0151】
従って、例えば、Kania, Blyszczukら、2003;Kania, Blyszczukら、2004に記載の方法と、本明細書に記載するWnt経路活性化を組み合わせることにより、肝細胞を作製することができる。
【0152】
さらに、Assady、Maorら、2001;Segev, Fishmanら、2004に記載の方法と、本明細書に記載するWnt経路活性化を組み合わせることにより、膵細胞を作製することができる。
【0153】
さらにまた、Yamashita、Itohら、2000に記載の方法と、本明細書に記載するWnt経路活性化を組み合わせることにより、内皮細胞を作製することができる。
【0154】
さらには、Mummery, Wardら、2002;Xu, Policeら、2002;Kehat, Amitら、2003;Mummery, Ward-van Oostwaardら、2003に記載の方法と、本明細書に記載するWnt経路活性化を組み合わせることにより、心筋細胞を作製することができる。
【0155】
さらにまた、Buttery、Bourneら、2001;Cao、Hengら、2005に記載の方法と、本明細書に記載するWnt経路活性化を組み合わせることにより、骨形成細胞を作製することができる。
【0156】
さらには、Kramer、Bohrnsenら、2006に記載の方法と、本明細書に記載するWnt経路活性化を組み合わせることにより、軟骨細胞を作製することができる。
【0157】
これらの確立された方法は、マウス及び/又はヒトES細胞分化における可能性が明らかにされている。しかし、分化過程の効率は限られている。本明細書に記載の方法及び組成物に従って、本明細書に記載のようにWnt経路活性化により誘導した前駆細胞の処理によって、前記の確立された方法を改善することが可能である。このような細胞は、中及び内胚葉に向けて確定されるため、所望の細胞型を産生する効率が向上すると考えられる。
【0158】
前駆細胞及び分化細胞の使用
本明細書に記載の方法及び組成物に従い作製した中胚葉又は内胚葉前駆細胞系及び分化細胞は、商業的に重要な研究、診断及び治療などの多様な目的に用いることができる。
【0159】
例えば、分化した中胚葉又は内胚葉細胞の集団を用いて、その分化表現型に特異的な抗体及びcDNAライブラリーを作製することができる。抗体の作製、精製及び改変に用いる一般的方法、並びに免疫アッセイ及び免疫単離方法での抗体の使用については、Handbook of Experimental Immunology(Weir & Blackwell編);Current Protocols in Immunology(Coliganら編);並びにMethods of Immunological Analysis(Masseyeffら編、Weinheim: VCH Verlags GmbH)に記載されている。mRNA及びcDNAライブラリーの調製に関する一般的方法は、RNA Methodologies: A Laboratory Guide for Isolation and Characterization(R. E. Farrell, Academic Press, 1998);cDNA Library Protocols(Cowell & Austin編、Humana Press);及びFunctional Genomics(Hunt & Livesey編、2000)に記載されている。薬物スクリーニング及び治療用途における使用には、比較的均質の細胞集団が特に適している。
【0160】
中胚葉又は内胚葉前駆細胞系、並びに中胚葉又は内胚葉分化細胞の前記及びその他の使用については以下にさらに詳しく説明し、また本明細書の他所にも記載する。前駆細胞系及び分化細胞は、特に、疾患の治療用の医薬組成物の調製に用いることができる。このような疾患として、再生治療により治療可能な疾患、例えば、心不全、骨髄疾患、皮膚病、熱傷、変性疾患(例えば、糖尿病、アルツハイマー病、パーキンソン病など)及び癌が挙げられる。
【0161】
薬物スクリーニング
また、本明細書に記載する方法及び組成物に従い作製した中胚葉又は内胚葉前駆細胞系、並びに中胚葉又は内胚葉分化細胞を用いて、分化細胞の特徴に影響を与える因子(例えば、溶剤、小分子薬物、ペプチド、ポリヌクレオチドなど)又は環境条件(例えば、培養条件若しくは操作)についてスクリーニングすることができる。
【0162】
いくつかの用途では、前駆細胞系及び分化細胞を用いて、長期培養におけるこのような細胞の成熟を促進する、又は増殖及び維持を促進する因子をスクリーニングする。例えば、候補成熟因子又は増殖因子の試験は、これら因子を様々なウェル中の前駆細胞又は分化細胞に添加した後、後に行なう細胞の培養及び使用について望ましい基準に従い、得られた表現型の変化を決定することにより実施する。
【0163】
さらに、中胚葉又は内胚葉前駆細胞系、並びに分化中胚葉又は内胚葉細胞の遺伝子発現プロファイリングを利用して、上記細胞において特有な、又は該細胞において高度に発現された受容体、転写因子、及びシグナル伝達分子を確認することができる。前記受容体、転写因子、及びシグナル伝達分子に対する特異的なリガンド、小分子阻害物質、又はアクチベーターを用いて、前駆細胞系及び分化細胞の分化及び特性をモジュレートすることができる。
【0164】
特定のスクリーニング用途は、薬物研究における医薬化合物の試験に関する。概要については、標準テキスト:In vitro Methods in Pharmaceutical Research, Academic Press, 1997、及び米国特許第5,030,015号、並びに本明細書の他所における薬物スクリーニングの概説を参照されたい。候補医薬化合物の活性の評価は、一般に、分化細胞を候補化合物と混合し、該化合物が原因と考えられる細胞の形態、マーカー表現型又は代謝活性における何らかの変化(非処理細胞、又は不活性化合物で処理した細胞と比較して)を決定した後、化合物の効果と観察された変化を相関させる。
【0165】
化合物を中胚葉又は内胚葉細胞型に薬理学的作用を与えるように設計するため、あるいは、その他に影響を与えるように設計された化合物は意図しない副作用を有することがあるため、スクリーニングを実施する。2種以上の薬物を組み合わせて試験する(同時又は順次のいずれかで細胞と混合する)ことにより、考えられる薬物−薬物相互作用を検出することができる。いくつかの用途では、潜在的な毒性について化合物を最初にスクリーニングする(Castellら、pp. 375-410 "In vitro Methods in Pharmaceutical Research," Academic Press, 1997)。まず最初に、細胞生存能、形態、並びに特定のマーカー、受容体若しくは酵素の発現又は放出に対する作用により、細胞傷害性を決定することができる。DNA合成又は修復を測定することにより、染色体DNAに対する薬物の作用を決定することができる。特に細胞周期における予定外の時点での、又は細胞複製に必要なレベルを超える、[3H]チミジン又はBrdU取込みは、薬物作用と一致している。不要な作用には、中期の分裂により測定される姉妹染色分体交換の異常な速度も含まれる。さらに詳しくは、A. Vichers(PP 375-410 "In vitro Methods in Pharmaceutical Research," Academic Press, 1997)を参照されたい。
【0166】
組織再生
また、本明細書に記載の方法及び組成物に従い作製した中胚葉又は内胚葉前駆細胞系、並びに中胚葉又は内胚葉分化細胞は、必要とするヒト患者における組織再構成又は再生に用いることもできる。上記細胞の投与は、これらの細胞が意図する組織部位に接着し、機能的に欠損した領域を再構成又は再生させるような方法で実施する。
【0167】
例えば、本明細書に記載の方法及び組成物を用いて、中胚葉又は内胚葉細胞型への幹細胞の分化をモジュレートすることができる。組織作製、例えば、皮膚移植片の増殖のために前駆細胞系及び分化細胞を用いることもできる。人工器官若しくは組織の生物学的操作、又はステントのような人工装具のために、幹細胞分化のモジュレーションを用いることも可能である。
【0168】
本発明の方法を用いて作製した肝細胞及び肝細胞前駆体を用いて、肝臓損傷を修復することができる。このような例の1つとして、D-ガラクトサミンの腹腔内注射によって起こる損傷がある(Dabevaら、Am. J. Pathol. 143:1606, 1993)。治療薬の効能は、肝細胞マーカーの免疫組織化学染色、増殖中の組織に細管構造が形成されているか否かの顕微鏡決定、並びに、治療薬が肝特異的タンパク質の合成を回復する能力により、決定することができる。肝細胞を、直接投与により、あるいは、劇症肝不全後の被検者の肝組織がそれ自体で再生する間の一時的肝機能を賦与する生体補助デバイスの一部として、治療に用いることができる。
【0169】
さらに、治療を行わないと左心室壁組織の55%が瘢痕組織となる心臓凍結傷害の治療のために、本明細書に記載の方法に従い作製した心筋細胞を用いることもできる(Liら、Ann. Thorac. Surg. 62:654, 1996;Sakaiら、Ann. Thorac. Surg. 8:2074, 1999, Sakaiら、J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 118:715, 1999)。治療が成功すれば、瘢痕の面積が減少し、瘢痕の拡大を制限すると共に、収縮期、拡張期、及び上昇血圧により決定される心機能を改善する。左冠状動脈の前室間動脈の遠位部分に塞栓コイルを用いて、心臓損傷をモデル化することも可能であり(Watanabeら、Cell Transplant. 7:239, 1998)、治療の効能は組織学及び心臓機能により評価することができる。心筋を再生させ、不十分な心臓機能を治療するための治療に心筋細胞作製物を用いてもよい(米国特許第5,919,449号及びWO 99/03973号)。
【0170】

本明細書に記載の方法及び組成物により作製した中胚葉又は内胚葉前駆細胞系、並びに分化細胞は、癌の治療に用いることもできる。
【0171】
用語「癌」及び「癌性」とは、一般に、非調節細胞増殖を特徴とする、哺乳動物における生理学的状態を指す、又は表す。癌の例として、限定するものではないが、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、及び白血病などが挙げられる。
【0172】
このような癌のさらに具体的な例として、以下のものが挙げられる:扁平上皮癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、胃癌、膵癌、グリア細胞腫(例えば、グリア芽細胞腫及び神経繊維腫症)、子宮頚癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、肝癌、乳癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、唾液腺癌、腎臓癌、腎癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、肝臓癌腫、並びに様々な種類の頭部及び頚部癌。別の例として、結腸癌、乳癌、肺癌及び前立腺癌などの充実性癌、白血病及びリンパ腫のような造血器悪性疾患、ホジキン病、再生不良性貧血、皮膚癌並びに家族性大腸腺腫症が挙げられる。さらに別の例として、脳腫瘍、結腸直腸腫瘍、乳房腫瘍、子宮頚部腫瘍、眼腫瘍、肝腫瘍、肺腫瘍、膵腫瘍、卵巣腫瘍、前立腺腫瘍、皮膚腫瘍、精巣腫瘍、新生物、骨腫瘍、栄養膜腫瘍、ファロピオ管腫瘍、直腸腫瘍、結腸腫瘍、腎腫瘍、胃腫瘍、並びに上皮小体腫瘍が挙げられる。また、乳癌、前立腺癌、膵癌、結腸直腸癌、肺癌、悪性黒色腫、白血病、リンパ腫、卵巣癌、子宮頚癌、並びに胆管癌も含まれる。
【0173】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物に従い作製した中胚葉又は内胚葉前駆細胞系並びに分化細胞を用いて、T細胞リンパ腫、黒色腫又は肺癌を治療する。
【0174】
また、本明細書に記載の方法及び組成物に従い作製した中胚葉又は内胚葉前駆細胞系並びに分化細胞は、エンドスタチン及びアンギオスタチン又は細胞傷害性物質若しくは化学療法薬などの抗癌薬と一緒に用いてもよい。例えば、アドリアマイシン、ダウノマイシン、シスプラチン、エトポシド、タキソール、タキソテールなどの薬剤、ビンクリスチンのようなアルカロイド、並びにマトトレキセートのような代謝拮抗剤が挙げられる。本明細書で用いる用語「細胞傷害性物質」とは、細胞の機能を阻害若しくは阻止する、及び/又は細胞の破壊を引き起こす物質を意味する。この用語は、放射性同位元素(例:I、Y、Pr)、化学療法薬、並びに細菌、真菌、植物若しくは動物由来の酵素活性を有する毒素、又はそれらの断片を包含する。
【0175】
この用語はまた、癌遺伝子産物/チロシンキナーゼ阻害剤、例えば、WO 94/22867号に開示の二環式アンサマイシン;欧州特許第600832号に開示の1,2-ビス(アリールアミノ)安息香酸誘導体;欧州特許第600831号に開示の6,7-ジアミノ-フタラジン-1-オン誘導体;欧州特許第516598号に開示の4,5-ビス(アリールアミノ)-フタリミド誘導体;又はチロシンキナーゼとSH2含有基質タンパク質の結合を阻害するペプチド(例えば、WO 94/07913号を参照)も包含する。「化学療法薬」とは、癌の治療に有用な化学化合物である。化学療法薬の例として、以下のものが挙げられる:アドリアマイシン、ドキソルビシン、5-フルオロウラシル(5-FU)、シトシンアラビノシド(Ara-C)、シクロホスファミド、チオテパ、ブスルファン、サイトキシン、タキソール、メトトレキセート、シスプラチン、メルファラン、ビンブラスチン、ブレオマイシン、エトポシド、イフォスファミド、マイトマイシンC、ミトキサントロン、ビンクリスチン、VP-16、ビノレルビン、カルボプラチン、テニポシド、ダウノマイシン、カルミノマイシン、アミノプテリン、ダクチノマイシン、マイトマイシン、ニコチンアミド、エスペラミシン(米国特許第4,675,187号)、メルファラン及びその他の関連ナイトロジェンマスタード、並びに内分泌治療薬(例えば、ジエチルスチルベストロール(DES)、タモキシフェン、LHRH拮抗薬、プロゲスチン、抗プロゲスチンなど)。
【0176】
幹細胞
本明細書で用いる用語「幹細胞」とは、分裂時に2つの発生上の選択肢、すなわち娘細胞が本来の細胞と同一となる(自己再生)か、又はさらに専門化した細胞型の前駆細胞になる(分化)をもつ細胞を指す。従って、幹細胞は、これらの一方又は他方の経路を採用することができる(各細胞型の一方を形成することができる別の経路が存在する)。このように、幹細胞は、最終分化しておらず、他の型の細胞を産生することができる細胞である。
【0177】
本明細書で幹細胞と呼ぶとき、全能性(totipotent)幹細胞、万能性(pluripotent)幹細胞、及び多能性(multipotent)幹細胞を含みうる。
【0178】
全能性幹細胞
用語「全能性細胞」とは、成体におけるあらゆる細胞型、又は胚体外膜(例えば、胎盤)のあらゆる細胞になる能力を有する細胞を意味する。従って、唯一の全能性細胞は、受精卵、並びにその卵割により生じる最初の4個前後の割球である。
【0179】
万能性幹細胞
「万能性幹細胞」は、身体においてあらゆる分化細胞を製造する能力を有する真の幹細胞である。しかし、これらは、栄養膜に由来する胚体外膜の製造に寄与することはできない。数種の万能性幹細胞が見い出されている。いくつかの実施形態では、万能性幹細胞は胚性幹細胞を含む。
【0180】
胚性幹細胞
胚性幹(ES)細胞は、胚盤胞の内部細胞塊(ICM)から単離することができ、これは、着床が起こるときの胚発生の段階である。
【0181】
胚性生殖細胞
胚性生殖(EG)細胞は、流産(中絶)した胎児の性腺の前駆体から単離することができる。
【0182】
胚性癌細胞
胚性癌(EC)細胞は、胎児の性腺に起こりうる腫瘍である奇形癌腫から単離することができる。最初の2つとは違い、これは通常、異数体である。これら3つのタイプの万能性幹細胞はすべて、胚性又は胎児組織から単離することができ、培地で増殖することができる。これらの万能性細胞が分化するのを阻止する方法は、当分野において公知である。
【0183】
成人幹細胞
成人幹細胞は、神経、皮膚及び血液形成幹細胞を含む多様な細胞型を含み、これらは骨髄移植における活性成分である。後者の幹細胞型は、臍帯由来の幹細胞の主要な特徴でもある。成人幹細胞は、実験室及び身体のいずれにおいても、機能的で、さらに専門化した細胞型に成熟しうるが、細胞型の正確な数は、選択した幹細胞の型により限定される。
【0184】
多能性幹細胞
多能性幹細胞は真の幹細胞であるが、限られた数の型にしか分化することができない。例えば、骨髄は、血液の全ての細胞を産生するが、他の細胞型は産生しない多能性幹細胞を含む。多能性幹細胞は、成体動物に見い出される。身体におけるあらゆる器官(脳、肝)はこれらを含み、そこで、死滅又は損傷細胞を置換することができる。
【0185】
幹細胞を識別する方法は当分野において周知であり、そのような方法として、クローンアッセイ、フローサイトメトリー、長期培養、並びに分子生物工学、例えば、PCR、RT-PCR及びサザンブロッティングなどの標準的アッセイ方法の使用が挙げられる。
【0186】
形態学的相違のほかに、ヒト及びマウス万能性幹細胞は、多数の細胞表面抗原(幹細胞マーカー)の発現が異なっている。発達段階特異的胎児性抗原1及び4(SSEA-1及びSSEA-4)並びに腫瘍拒絶抗原1-60及び1-81(TRA-1-60、TRA-1-81)などの幹細胞マーカーを確認するための抗体は、例えば、Chemicon International, Inc(Temecula、米国カリフォルニア州)から市販のものを入手することができる。モノクローナル抗体を用いたこれら抗原の免疫学的検出は、万能性幹細胞を識別するために広く用いられている(Shamblott M.J.ら、(1998) PNAS 95: 13726-13731;Schuldiner M.ら、(2000). PNAS 97: 11307-11312;Thomson J.A.ら、(1998). Science 282: 1145-1147;Reubinoff B.E.ら、(2000). Nature Biotechnology 18: 399-404;Henderson J.K.ら、(2002). Stem Cells 20: 329-337;Pera M.ら、(2000). J. Cell Science 113: 5-10)。
【0187】
万能性幹細胞の供給源
胚性幹細胞など、様々なタイプの万能性幹細胞(以下に挙げる非制限的例を含む)を本明細書に記載の方法及び組成物に用いて、中胚葉又は内胚葉前駆細胞、中胚葉又は内胚葉前駆細胞系、並びに中胚葉又は内胚葉分化細胞を作製することができる。
【0188】
いずれの脊椎動物種に由来する万能性幹細胞を用いてもよい。そのようなものとして、ヒト、並びにヒト以外の霊長類、飼育動物、家畜、及びその他ヒト以外の哺乳動物由来の幹細胞が挙げられる。
【0189】
本発明での使用に適した幹細胞としては、妊娠後に形成される組織に由来する霊長類万能性幹細胞(pPS)(例えば、胚盤胞)、あるいは、妊娠中いずれかの時点で採取した胎児又は胚性組織などが挙げられる。非制限的例として、胚性幹細胞の一次培養物又は樹立細胞系が挙げられる。
【0190】
培地及び支持細胞
pPS細胞を単離及び増殖させるための培地は、得られた細胞が所望の特徴を有し、しかもさらに増殖することができれば、複数の異なる配合物のいずれを含むものでもよい。好適な供給源を以下に挙げる:ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、Gibco#11965-092;ノックアウトダルベッコ改変イーグル培地(KO DMEM)、Gibco#10829-018;200 mM L-グルタミン、Gibco#15039-027;非必須アミノ酸溶液、Gibco11140-050;β−メルカプトエタノール、Sigma#M7522;ヒト組換え塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、Gibco#13256-029。血清含有胚性幹(ES)培地の1例として、80%DMEM(典型的には、KO DMEM)、熱不活性化していない20%規定ウシ胎仔血清(FBS)、0.1 mM非必須アミノ酸、1mM L-グルタミン、及び0.1 mMβ−メルカプトエタノールを用いて調製するものがある。培地を濾過し、4℃で2週間以下の期間にわたり貯蔵する。無血清胚性幹(ES)培地は、80%KO DMEM、20%血清置換物、0.1 mM非必須アミノ酸、1mM L-グルタミン、及び0.1 mMβ−メルカプトエタノールで調製する。有効な血清置換物はGibco#10828-028である。培地を濾過し、4℃で2週間以下の期間にわたり貯蔵する。使用の直前に、ヒトbFGFを最終濃度4ng/mLまで添加する(Bodnarら、Geron Corp、国際特許公開WO 99/20741号)。
【0191】
支持細胞(用いる場合)を、90%DMEM(Gibco#11965-092)、10%FBS(Hyclone#30071-03)、及び2mMグルタミンを含むmEF培地で増殖させる。T150フラスコ(Coming#430825)中でmEFを増殖させ、トリプシンを用いて1日置きに細胞を1:2に分割し、細胞を準密集状態に維持する。支持細胞層を作製するために、増殖を阻害するが、ヒト胚性幹細胞を支持する重要な因子の合成は可能にする線量(約4,000ラドのγ線)で細胞に照射する。1ウェル当たり1mL 0.5%ゼラチンと一緒に37℃で一晩インキュベートすることにより、6ウェル培養プレート(例えば、Falcon#304)をコーティングし、1ウェル当たり375,000個の照射済mEFを平板培養する。一般に、平板培養から5時間〜4日後の支持細胞層を用いる。pPS細胞を接種する直前に、培地を新鮮なヒト胚性幹(hES)培地に交換する。
【0192】
他の幹細胞を培養する条件は公知であり、細胞型に応じて適切に最適化することができる。前節で挙げた特定の細胞型についての培地及び培養方法は、引用する参照文献に記載されている。
【0193】
胚性幹細胞
胚性幹細胞は、霊長類種のメンバーの胚盤胞から単離することができる(Thomsonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:7844, 1995)。ヒト胚性幹(hES)細胞は、Thomsonら、(米国特許第5,843,780号;Science 282:1145, 1998; Curr. Top. Dev. Biol. 38:133 ff., 1998)及びReubinoffら、Nature Biotech. 18:399,2000に記載の方法を用いて、ヒト胚盤胞細胞から作製することができる。
【0194】
簡単に説明すると、ヒトin vivo前移植胚からヒト胚盤胞を取得する。そのほかに、人工授精(IVF)胚を用いてもよいし、あるいは1細胞のヒト胚を胚盤胞段階まで発育させてもよい(Bongsoら、Hum Reprod 4:706, 1989)。G1.2及びG2.2培地においてヒト胚を胚盤胞段階まで培養する(Gardnerら、Fertil. Steril. 69:84, 1998)。発育する胚盤胞を選択して、胚性幹細胞を単離する。プロナーゼ(Sigma)に短時間暴露することにより、胚盤胞から透明帯を除去する。内部細胞塊を免疫外科により単離するが、その際、ウサギ抗ヒト脾細胞抗血清の1:50希釈物に上記胚盤胞を30分暴露し、次に、DMEMで5分ずつ3回洗浄した後、モルモット補体(Gibco)の1:5希釈物に3分暴露する(Solterら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 72:5099, 1975を参照)。DMEMでさらに2回洗浄した後、溶解した栄養外胚葉細胞をインタクトな内部細胞塊(ICM)から穏やかなピペット操作により除去し、ICMをmEF支持層上で平板培養する。
【0195】
9〜15日後、1mM EDTAを含むカルシウム及びマグネシウム非含有リン酸緩衝食塩水(PBS)への暴露、ジスパーゼ若しくはトリプシンへの暴露、又はマイクロピペットを用いた機械的解離のいずれかにより、内部細胞塊由来の増殖物を凝集塊に解離させた後、新鮮な培地中のmEF上で再度平板培養する。解離した細胞は新鮮な胚性幹(ES)培地中のmEF支持層上で再度平板培養し、コロニー形成を観察する。未分化形態を示すコロニーをマイクロピペットで個別に選択し、機械的に凝集塊に解離させてから、再度平板培養する。胚性幹細胞様形態は、明らかに高い核対細胞質比と顕著な仁を有する緻密コロニーとして識別される。得られた胚性幹細胞を1〜2週間毎に、短時間のトリプシン処理、ダルベッコPBS(カルシウム又はマグネシウム非含有で、2mM EDTAを含む)への暴露、IV型コラゲナーゼ(約200 U/mL;Gibco)への暴露、あるいはマイクロピペットによる個々のコロニーの選択によって、通常の方法で分割する。細胞約50〜100個の凝集塊サイズが最適である。
【0196】
自己再生及び分化
自己再生
自己再生する幹細胞は、当分野で公知の各種手段、例えば、形態学、免疫組織化学、分子生物学などにより識別することができる。
【0197】
このような幹細胞は、Oct4及び/又はSSEA-1の発現増大を呈示すると考えられる。Flk-1、Tie-2及びc-kitのいずれか1以上の発現は低減する可能性がある。自己再生する幹細胞は、自己再生しない幹細胞と比較して短い細胞周期を呈示すると考えられる。
【0198】
例えば、標準的顕微鏡イメージの2次元では、ヒト胚性幹細胞は、イメージ面において高い核/細胞質比、顕著な核、細胞結合がほとんど認識できない緻密コロニー形成を呈示する。標準的G−バンド形成技術(カリフォルニア州オークランドのCytogenetics Labなど、通常の核型分類サービスを提供する多数の臨床診断学研究所で入手可能である)を用いて、細胞系を核型分類し、公開されたヒト核型と比較することができる。
【0199】
ヒト胚性幹細胞及びヒト胚性生殖細胞もまた、発現した細胞マーカーにより識別することができる。一般に、好適な免疫学的技術、例えば、膜結合マーカーについてはフローサイトメトリー、細胞内マーカーについては免疫組織化学、そして培地に分泌されるマーカーについては酵素結合免疫アッセイを用いて、本明細書に開示した組織特異的マーカーを検出することができる。また、マーカー特異的プライマーを用いて、逆転写酵素−PCRにより、タンパク質マーカーの発現をmRNAレベルで検出することもできる。さらに詳しくは、米国特許第5,843,780号を参照されたい。
【0200】
発生段階特異的胚性抗原(SSEA)は、特定の胚性細胞型に特有である。SSEAマーカーの抗体は、Developmental Studies Hybridoma Bank(メリーランド州ベセスダ)から入手可能である。Tra-1-60及びTra-1-81と呼ばれる抗体(Andrewsら、Cell Linesfrom Human Gern Cell Tumors, E. J. Robertson, 1987、前掲)を用いて、その他の有用なマーカーが検出可能である。ヒト胚性幹細胞は典型的にSSEA-1陰性及びSSEA-4陽性である。hEG細胞は典型的にSSEA-1陽性である。in vitroでのpPS細胞の分化により、SSEA-4、Tra-1-60、及びTra-1-81発現の消失と、SSEA-1発現の増大が起こる。pPS細胞はまた、アルカリ性ホスファターゼ活性の存在によっても識別することができ、これは、4%パラホルムアルデヒドで細胞を固定した後、製造者(Vector Laboratories、カリフォルニア州バリンガム)による記載に従い、基質としてベクターレッドと一緒に発生させることにより検出できる。
【0201】
胚性幹細胞はまた、典型的にテロメラーゼ陽性及びOCT-4陽性でもある。テロメラーゼ活性は、市販のキット(TRAPeze.RTM. XKテロメラーゼ検出キット、カタログ番号s7707;Intergen Co., Purchase N.Y.;又はTeloTAGGG.TM.テロメラーゼPCR ELISAプラス、カタログ番号2,013,89;Roche Diagnostics、インディアナポリス)を用いて、TRAP活性アッセイ(Kimら、Science 266:2011, 1997)により決定することができる。また、hTERT発現は、RT-PCRによりmRNAレベルで評価することもできる。LightCycler TeloTAGGG.TM. hTERT 定量キット(カタログ番号3,012,344;Roche Diagnostics)が研究目的のために市販されている。
【0202】
分化
分化中の細胞(これに由来する前駆細胞系及び分化細胞を含む)は、4E-BP1及び/又はSK6K1の脱リン酸化の増大を呈示すると考えられる。また、これらの細胞は、Oct4及び/又はSSEA-1の発現の低減を呈示すると考えられる。Flk-1、Tie-2及びc-kitのいずれか1以上の発現は増大しうる。Brachyury、AFP、ネスチン及びnurr1発現のいずれか1以上の発現も増大する可能性がある。自己再生中の幹細胞は、自己再生中ではない幹細胞と比較して、長い細胞周期を示すと考えられる。
【0203】
分化中の幹細胞、すなわち、分化の経路に向けて開始した、又は該経路に確定された細胞は、多数の表現型基準(特に、転写物の変化など)に従い、識別することができる。このような基準として、限定するものではないが、形態学的特徴の特性決定、発現した細胞マーカー及び酵素活性の検出又は定量、遺伝子発現、並びにin vivoでの細胞の機能特性の決定が挙げられる。一般に、分化中の幹細胞は、分化過程の最終産物である細胞型、すなわち、分化細胞の1以上の特徴を有する。例えば、標的細胞型が筋細胞であれば、このような細胞に分化する過程にある幹細胞は、例えば、ミオシン発現の特徴を有することになる。
【0204】
従って、多くの点で、基準は、分化中の幹細胞の運命に左右される。以下に様々な細胞型について概説する。
【0205】
分化した又は分化中の神経細胞の場合に興味深いマーカーとして、以下のものが挙げられる:ニューロンに特有のβ−チューブリンEIII又はニューロフィラメント;星状細胞に存在するグリア繊維酸性タンパク質(GFAP);オリゴデンドロサイトに特有のガラクトセレブロシド(GaIC)又はミエリン塩基性タンパク質(MBP);未分化ヒト胚性幹細胞に特有のOCT-4;神経前駆体及びその他の細胞に特有のネスチン。A2B5及びNCAMは、それぞれグリア前駆細胞及び神経前駆細胞に特有である。また、特有の生物活性物質の分泌について細胞を試験することもできる。例えば、グルタミン酸デカルボキシラーゼ又はGABAの産生により、GABA分泌ニューロンを識別することができる。ドーパミン作動性ニューロンは、ドーパデカルボキシラーゼ、ドーパミン、若しくは又はチロシンヒドロキシラーゼの産生により識別することができる。
【0206】
分化した又は分化中の肝細胞について興味深いマーカーとしては以下のものが挙げられる:α−フェトプロテイン(肝前駆細胞);アルブミン、α1-抗トリプシン、グルコース-6-ホスファターゼ、シトクロームp450活性、トランスフェリン、アシアロ糖タンパク質受容体、及びグリコーゲン蓄積(肝細胞);CK7、CK19、及びγ−グルタミルトランスフェラーゼ(胆管上皮)。肝細胞分化には、転写因子BNF-4αが必要であることが報告されている(Liら、Genes Dev. 14:464, 2000)。HNF-4α発現とは独立のマーカーとして、α1-抗トリプシン、α−フェトプロテイン、apoE、グルコキナーゼ、インスリン増殖因子1及び2、IGF-1受容体、インスリン受容体、並びにレプチンが挙げられる。HNF-4α発現依存性マーカーとして、アルブミン、apoAI、apoAII、apoB、apoCIII、apoCII、アルドラーゼB、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、L型脂肪酸結合タンパク質、トランスフェリン、レチノール結合タンパク質、並びにエリスロポイエチン(EPO)が挙げられる。
【0207】
pPS細胞に由来する混合細胞集団における細胞型は、特有の形態と、それらが発現するマーカーによって認識することができる。骨格筋の場合、myoD、ミオゲニン、及びmyf-5である。内皮細胞の場合には、PECAM(血小板内皮細胞接着分子)、Flk-1、tie-i、tie-2、血管内皮(VE)カドヘリン、MECA-32、及びMEC-14.7が挙げられる。平滑筋細胞の場合には、特異的ミオシン重鎖である。心筋細胞の場合には、GATA-4、Nkx2.5、心臓トロポニンI、α−ミオシン重鎖、及びANFが挙げられる。膵細胞については、pdx及びインスリン分泌が挙げられる。造血細胞及びその前駆細胞については、GATA-1、CD34、AC133、β−主要グロブリン、β−主要グロブリン様遺伝子PH1が挙げられる。
【0208】
本明細書に記載の又は当分野で公知の特定の組織特異的マーカーは、免疫学的方法、例えば、細胞表面マーカーについては免疫フローサイトケミストリー、細胞内又は細胞表面マーカーについては免疫組織化学(例えば、固定細胞又は組織切片に対して)、細胞抽出物又は培地に分泌される産物の場合には、細胞抽出物のウエスタンブロット分析、及び酵素結合免疫アッセイが挙げられる。組織特異的遺伝子産物の発現は、ノーザンブロット分析、ドットブロットハイブリダイゼーション分析、又は標準的増幅方法における配列特異的プライマーを用いた逆転写酵素開始ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によりmRNAレベルで検出することもできる。本明細書に挙げた具体的マーカーについての配列データは、GenBank(URL www.ncbi.nlm.nih.gov:80/entrez)のような公式データベースから入手することができる。
【実施例1】
【0209】
材料と方法
細胞溶解物の調製とウエスタンブロット
冷PBSで細胞を2回洗浄した後、25mMフッ化ナトリウム(NaF)、1 mM オルトバナジン酸ナトリウム(Na3VO4)、1%DOC、1%NP40及びプロテアーゼ阻害剤カクテル錠剤(Roche)を添加したCell Signaling製の溶解バッファーを用いて、全タンパク質を抽出する。細胞溶解物を氷上で20分インキュベートし、4℃、13,000 rpmで15分遠心する。
【0210】
上清についてタンパク質推定を実施する。40μgのタンパク質をレーン毎にロードし、12%SDS-PAGE上で分離される。分離したタンパク質をニトロセルロース膜に移す。一次抗体、β−アクチン(Chemicon)、Oct4、Nanog、Wnt-3A(Santa Cruz Biotechnology)、SSEA 4(DHSB)、活性β-カテニン(UBI)並びに5%脱脂乳に希釈した好適なHRP結合二次抗体(Pierce)と一緒に、ブロットをインキュベートする。ECLウエスタンブロット検出試薬(Pierce)を用いて、ブロットを発色させる。
【0211】
RNA抽出
MESCをトリプシン処理し、トリゾールに再懸濁させる。トリゾール試薬(Gibco)を用いて、全RNAを抽出する。スピンカラムを製造者(Qiagen)の指示に従って用いて、RNAをさらに精製する。バッファー液、ランダムプライマー、逆転写酵素及びdNTP(Promega)を含むArchiveキットを用いて、製造者の指示に従い、1μgの全RNAをcDNAに変換する。cDNAを1:10に希釈して、リアルタイムPCRで用いる。
【0212】
通常のPCR
前述のように、1μgのE14の全RNAをcDNAに変換する。E14 cDNA、10Xバッファー(Invitrogen)、2.5 mM dNTP(Promega)、1.5 mM MgCl2(Invitrogen)、1μMのフォワード及びリバースプライマー(Proligos)及びTaqポリメラーゼを用いて、PCR混合物を調製する。用いたPCR熱プロフィールは次の通りである:1)95℃で10分、2)95℃で1分、55℃でアニーリング温度、及び72℃で1分の伸長を30サイクル、3)72℃で5分、そして4℃で冷却維持。
【0213】
frizzled遺伝子配列は次の通りである:frizzled 2フォワード配列は、5’-ACA TCG CCT ACA ACC AGA CC-3’;frizzled 2リバース配列は、5’-GAG ATA GGA CGG CAC CTT GA-3’;frizzled 5フォワード配列は、5’-GGC ATC TTC ACC CTG CTC TA-3’;frizzled 5リバース配列は、5’-GCCTCCAGGCCTTCCTATAC-3’;frizzled 7フォワード配列は、5’-TCT GTC CCT CAC TTG CTT CC-3’;並びにfrizzled 7リバース配列は、5’-AAG TAG CAG GCC AAC ACG AT-3’。
【0214】
ルシフェラーゼアッセイ
ルシフェラーゼアッセイは293-T細胞及びmES細胞において実施する。TOPFlash及びFOPFlashプラスミドは、Upstate Biotech Inc.から購入する。Lipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて、細胞をプラスミドで一過性トランスフェクションする。Renillaルシフェラーゼをコードするプラスミド(pRL-TK)を用いて、トランスフェクション効率を正規化する。製造者の指示に従ってPromegaキットを用いて、ルシフェラーゼアッセイを実施する。
【0215】
リアルタイムPCR
製造者の指示に従い、希釈cDNA(前記RNA抽出を参照)、マスターミックス(Applied Biosysytems)及びプローブを混合することにより、PCR混合物を調製する。処理細胞に対するコントロールとして、非処理mES又はhES細胞から適当な日に作製したcDNAを用いる。
【0216】
ABI7900HT配列検出機を用いてサンプルを処理する。SDS2.2を用いて結果を分析する。結果は、非処理マウス又はヒトES細胞に対する増大倍率として表す。
【0217】
蛍光細胞分析分離(FACS)
HESCをトリプシン処理し、サンプル毎に細胞5×105個ずつアリコートに分ける。FIX 及びPERM細胞キット(Caltag Laboratories)を用いて、細胞を固定し、透過性にする。抗SSEA-4抗体(DHSB)と一緒に室温(RT)で15分間にわたり細胞をインキュベートする。1%ウシ血清アルブミン(BSA)含有PBSで細胞を2回洗浄する。FITC結合ヤギ−抗マウス二次抗体と一緒に室温で15分間にわたり細胞をインキュベートする。1%BSAを含むPBSで細胞を再度2回洗浄した後、FACS分析装置(BD)を用いて分析する。一次抗体を含まないコントロール実験を行うが、その他の手順は前述と同様である。
【0218】
6-ブロモインジルビン-3’-オキシム(BIO)
6-ブロモインジルビン-3’-オキシム(BIO)はAli Brivanlou(Rockefeller University)から取得する。
【実施例2】
【0219】
マウス胚性幹細胞
マウス胚性幹細胞(mESC)-E14TG2aはATCCから取得する。mESCは、DMEM、15%ES用のFCS、1mM非必須アミノ酸、0.1 mM 2-メルカプトエタノール及び1mM L-グルタミン(すべてInvitrogen製)を含む増殖培地と一緒に、白血病阻害因子(LIF)の存在下で、0.1%ゼラチン塗布皿において、支持細胞を用いずに培養する。
【実施例3】
【0220】
ヒト胚性幹細胞
ヒト胚性幹細胞(hESC)-H1は、Wi Cell Research Institute(ウィスコンシン州マジソン)(Thomsonら、1998)から取得する。照射済マウス胚性繊維芽細胞(MEF)上でH1細胞を培養し、20%ノックアウト血清置換、1mM L-グルタミン、1mM非必須アミノ酸、0.1 mMβ−メルカプトエタノール及び4ng/ml塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)(すべてInvitrogen製)を添加したDMEM/F12培地を含む増殖培地中で維持する。
【0221】
ヒト胚性腎(293T)細胞をDMEM及び10%FCS(すべてInvitrogen製)と一緒に培養する。細胞を5%CO2にて37℃でインキュベートする。
【実施例4】
【0222】
Wnt3A条件培地
Shibamotoら、1998に記載のように、Wnt-3Aを過剰発現し分泌するL細胞からWnt-3A条件培地(CM)及びコントロールCMを調製する。
【実施例5】
【0223】
マウス胚性幹細胞におけるWntシグナル伝達の活性化
LIFの存在下の0.1%ゼラチン塗布皿上で、増殖培地のみ(コントロール)と、あるいは1μM GSK-3β阻害剤(iGSK-3β、Eli Lilly)又は50%増殖培地及び50%Wnt-3A CMの存在下のいずれかで、マウスES細胞を3週間まで連続的に培養する。一日おきに培地を交換しながら、隔日に0.25%トリプシンを用いて細胞を継代する。
【実施例6】
【0224】
ヒト胚性幹細胞におけるWntシグナル伝達の活性化
同様に、bFGFの存在下における照射済MEF上で、増殖培地のみ(コントロール)と、あるいは2μM GSK-3β阻害剤(iGSK-3β、Eli Lilly)又は50%Wnt-3A CM及び50%増殖培地の存在下のいずれかで、H1細胞を3週間にわたり連続的に培養する。培地を毎日交換し、コラゲナーゼタイプIV(Gibco)を用いて、1週間に1回細胞を継代させる。
【実施例7】
【0225】
未分化マウス及びヒトES細胞に存在するWntシグナル伝達経路の成分
未分化マウス及びヒトES細胞の総合的トランスクリプトームプロファイリングから、これらの細胞はWntシグナル伝達経路の全細胞内成分(アンタゴニストであるsFPRを含む)を発現することがわかっている(Brandenbergerら、2004)。これらの結果は、ES細胞がWntリガンドに応答する準備にあることを示唆している。
【0226】
未分化マウス及びヒトES細胞溶解物を用いてウエスタンブロット分析を実施し、Wntシグナル伝達分子であるLRP受容体、disheveled及びβ-カテニン並びにアンタゴニストsFRPの存在を確認した(図1A)。未分化E14 RNAについて実施したRT PCR分析により、3つのfrizzled(Fz)受容体viz Fz 2、Fz 5及びFz 7の存在を確認した(図1B)。シグナル伝達タンパク質及びアンタゴニストの存在は、ES細胞が、分化を制御する手段として、Wntシグナル伝達を制御/阻害していることを示唆するものである。
【実施例8】
【0227】
Wntシグナル伝達アクチベーターの活性
Wnt経路の活性化に応答したES細胞の分化を評価した。Wntシグナル伝達の誘導は、2つの方法、すなわち、活性Wnt-3Aの添加及びGSK-3βの選択性阻害剤の添加により実施する。
【0228】
Wnt3A
Wnt-3A過剰発現及び分泌L細胞から、Wnt-3A条件培地(CM)を作製する(Shibamotoら、1998)。L細胞から作製した条件培地をコントロールCMとして用いる。抗Wnt-3A抗体を用いたウエスタンブロッティングにより、CMにおけるWnt-3Aタンパク質の存在を確認する(図1C)。
【0229】
CMに存在するWnt-3Aタンパク質の生物活性を決定するために、ルシフェラーゼリポーターアッセイ系を用いるが、その際、ルシフェラーゼ発現は、TCF結合部位(TOP flash)又は突然変異した非応答性結合部位(FOP Flash)の制御下にある。Wnt-3A CMは、293T細胞及びマウスES細胞に添加すると、TOP FLASHアッセイにおけるルシフェラーゼリポーター活性を増大した(図1D)。Wnt-3A CMは、市販の供給源から取得した精製Wnt-3A(100 ng/ml)より活性が高く、L細胞由来のコントロールCMはルシフェラーゼアッセイに何の影響ももたらさなかった(図1D)。
【0230】
iGSK-3β
Wnt経路の細胞内アクチベーターとして、Eli Lilly製のGSK-3βの特異的阻害剤(iGSK-3βと呼ばれる)を用いた。本発明者のiGSK-3β及びBIOを用いて、ルシフェラーゼリポーターアッセイを実施し、これらの化合物がWnt経路を活性化する特異性及び能力を比較する(Satoら、2004)。iGSK-3βは、リポーターアッセイにおいてルシフェラーゼ活性を有意に増大したが(図1E)、これは、同じ濃度のBIO化合物を用いて達成されるものより50%高く、BIOに比べてiGSK-3βの高い能力を示している。
【実施例9】
【0231】
活性β-カテニンの蓄積
Wnt経路の活性化により、細胞質における脱リン酸化β-カテニンの蓄積が起こる(Shibamotoら、1998)。
【0232】
マウス及びヒトES細胞へのWnt-3A CM 及びiGSK-3βの添加により、活性/脱リン酸化β-カテニンに対する抗体を用いたウエスタンブロッティングで分析したところ活性β-カテニンの蓄積が起こった(図1F)。L細胞由来のコントロールCMには、β-カテニンレベルを高める何の影響もなかった(図1F)。これは、ES細胞には活性Wntシグナル伝達があることを示している。
【実施例10】
【0233】
Wntシグナル伝達経路の短期活性化は、マウス胚性幹細胞の中/内胚葉分化を誘導する
ES細胞におけるWntシグナル伝達の活性化はES細胞の分化を誘導するのか、又はその万能性を維持するのかを分析するために、Wnt-3A CM、コントロールCM及びiGSK-3βを用いて、E14細胞(マウス胚性幹細胞)の短期間(4〜8日)の分化を実施した。リアルタイムPCR分析を実施することにより、マーカー遺伝子発現の変化を評価する。
【0234】
第4日という早期に分化のマーカー(Mixl1、Foxa2、T-brachyury)のアップレギュレーション(5〜100倍)で確認されるように(図1G)、E14細胞へのWnt-3A CMとiGSK-3βの添加は、細胞の分化を誘導する。Mixl1は内胚葉発生に関与している(Hartら、2002)。分化中の細胞が、Foxa2及びT-brachyuryの両方を発現させたため、これらは、二系統分化能性中胚葉細胞に向けて分化している可能性がある(Kuboら、2004)。コントロールCMは、第8日でもE14細胞の分化誘導に影響しなかったことから、観察されるE14細胞の分化は、CMに存在するWnt-3Aによるものであることがわかる。
【0235】
ヒトES細胞の短期(4日)処理によっても同様の結果が得られ、やはり、コントロールCMはヒトES細胞の分化誘導に何の影響ももたらさなかった。これらの結果は、CMに存在する生物活性Wnt-3AがES細胞の中/内胚葉分化を誘導することを示唆しており、マウス及びヒトES細胞においてWnt経路の長期活性化を実施することによって、これをさらに調べた。
【実施例11】
【0236】
Wntシグナル伝達経路の長期活性化は、マウス胚性幹細胞の中/内胚葉分化を誘導する(21日)
未分化ES細胞におけるWntシグナル経路の長期活性化の作用を証明するために、支持細胞なしのE14細胞(マウス胚性幹細胞)をWnt-3A及び1μM iGSK-3βで個別に3週間処理する。
【0237】
これら処理細胞の分化状態を追跡するために、コントロールとして非処理E14 cDNAを用いて、リアルタイムPCR分析を実施し、非処理E14細胞に対する増大倍率としてデータを表示する。ネスチン、Sox4、Pax6の発現が観察されないことから、外胚葉/神経外胚葉に沿った分化は起こらなかった。
【0238】
第10日及び第21日の両方で、多くの中胚葉(T-brachyury、Runx1、Pitx2)及び内胚葉(Gata4、Foxa2、Sox17)特異的転写因子の発現に実質的増大(10〜100倍)が見とめられる(図2A、B)。β-カテニンの直接標的であるT-brachyury及びPitx2の20〜100倍のアップレギュレーション(図2A、2B)から、実際にWnt経路が両方の処理細胞において活性化されていることがわかる。Pitx2のアップレギュレーションは、強力な中胚葉分化能を示すものである。アフリカツメガエルにおいては、Veg TがSox17の発現を誘導し、次にSox17及びβ-カテニンは共同して、Foxa2、Edd、Foxa1のような内胚葉遺伝子の転写を調節する(Sinner Dら、2004)。これによれば、本発明者の細胞におけるWnt活性化に応答して、T-brachyury(Veg Tオーソログ)はSox17を介してFoxa2のような内胚葉遺伝子を調節している可能性がある。
【0239】
第10日に、10個のiGSK-3β処理細胞が、Wnt-3A処理細胞と比較してマーカー遺伝子発現のレベルのより大きな増大を示した(図2A)が、第21日までには、両細胞のマーカー遺伝子発現の増大は同等になった(図2B)。第10日及び第21日の両方に、最終的な内胚葉のマーカー(内臓内胚葉によっても発現される)であるFoxa2及びSox17の強力なアップレギュレーション(10〜100倍)(図2A、2B)がある(Keller 2005)。同じ細胞におけるT-brachyury(内臓内胚葉では発現されない)の20倍アップレギュレーション(図2A、2B)により、細胞が最終的な内胚葉に沿って分化することが確認された(Keller 2005)。
【0240】
IPF1の誘導がないことは、細胞が膵臓内胚葉に沿った分化中ではないことを示している。GATAファミリーの転写因子であるT-brachyuryは通常、分化の初期に、二系統分化能性中胚葉前駆細胞によって発現される。これらの前駆細胞は後に、適切な刺激に応答して、T-brachyury、Nkx2.5及びtwist又はFoxa2、Sox17及びGATA4-6のいずれかをそれぞれ発現させることにより、中胚葉又は内胚葉のいずれかを指定するが、これは、本発明者の処理細胞の最終的な細胞運命を特定の細胞型に向けてさらに操作できることを示唆している(詳しくは、Technau及びScholz 2003を参照)。
【0241】
第21日までに、Wnt-3A及びiGSK-3β処理細胞は、主として中/内胚葉分化を示したが、Wnt-3A処理細胞は、iGSK-3β処理細胞に比べ、T-brachyury発現が低減(5倍)し、Pitx2発現が増大(110倍)した。従って、古典的Wnt経路は両方のケースで活性化されるが、細胞が様々なアクチベーターに応答する様式には微妙な相違がある。形態学的には、Wnt-3A及びiGSK-3βで処理したE14細胞は、非処理細胞とは異なって見えた。処理細胞は、未分化ES細胞の典型的な緻密形態に比べて、平板で広がっている。iGSK-3β処理細胞は、明瞭な形状をした個々の細胞の存在や、胚様体様構造の外観など、はっきりとした分化の兆候を示した(図2C)。
【0242】
ES細胞の分化により、一般に、万能性マーカーであるOct4及びNanogのダウンレギュレーションが起こる。ウエスタンブロット分析(図2D)及びリアルタイムPCRにより、未分化E14細胞は、Wnt活性化に応答して分化した細胞と同様に高レベルのOct4及びNanogを発現したが、これらは第21日でもOct4及びNanogを保持した(図2D)。分化中の細胞にNanogが存在すると、内臓内胚葉に沿った分化が再度妨げられる(Mitsuiら、2004)。Oct4の存在は、余剰胚分化の抑制によるものと考えられる(Hayら、2004)。
【0243】
実施例11A.Wntシグナル伝達経路の長期活性化は、マウス胚性幹細胞の中/内胚葉分化を誘導する(30日)
前記実施例11に記載した実験を30日間にわたり同様に実施した。同じ結果が得られた。
【0244】
中胚葉及び内胚葉のマーカーと一緒に起こる万能性マーカーの発現から、持続的Wntシグナル伝達は、中/内胚葉指定を伴う多能性集団への未分化E14細胞の分化を誘導することがわかる。以前、Rathjenら、1999は、HepG2 CMでES細胞を誘導して分化させた際に、同様の知見を報告した。
【実施例12】
【0245】
ヒト胚性幹細胞における持続的Wnt経路活性化は、中/内胚葉分化を誘導する
マウス及びヒトES細胞は、多くの点で類似しているが、例えば、ヒトES細胞には活性LIFシグナル伝達経路が欠失しているなど、多数の重要な相違点がある(Ginisら、2004)。
【0246】
ヒトES細胞におけるWnt経路の長期活性化の役割を証明するために、照射済マウス胚性繊維芽細胞上で培養したH1細胞(Wi細胞)をWnt-3A及びiGSK-3βで個別に21日間処理する。処理細胞の分化状態は、リアルタイムPCR、ウエスタンブロッティング及びFACS分析により分析する。リアルタイムPCRは、コントロールとして非処理H1 cDNAを用いて実施し、データは、非処理H1細胞に対する増大倍率で表す。
【0247】
第8日のH1細胞におけるマーカー遺伝子のmRNAレベルの絶対増大は、同様の時点について、同じ化合物で処理したマウスES細胞(30倍以下)(図2A)よりはるかに強力(500以下)である(図3A)が、これは、Wnt経路活性化に対するヒトES細胞の高い感受性を示している。Wnt経路活性化に応答して、H1細胞は、第15日でも、外胚葉/神経外胚葉を示すマーカーviz Pax6、Sox4及びネスチンを発現しなかった(図3A及び図3B)。T-brachyury、Gata2、Nkx2.5、Hand1の10〜500倍のアップレギュレーションは、第8日までの中胚葉分化を示すものであった(図3A)。しかし、分化中の細胞は、第8日にFoxa2、AFP、Gata4、Sox17のような内胚葉マーカーのレベルを増大させた(100倍以下)(図3B)ことから、これらの細胞が上記系列の両方に沿って分化していることがわかる。
【0248】
Mixl1は通常、内胚葉形成の早期に発現され(Hartら、2002、Shivdasani 2002)、内胚葉分化に最も重要である。持続的Wnt活性化は、8日以内にH1細胞において100倍までMixl1の発現を誘導し、そして予想通り、この発現は第15日までには5倍まで低下した。分化中のH1細胞は、万能性マーカーOct4及びNanogを保持した(図3C)ため、それ以上の胚性又は内臓内胚葉分化を妨げた(Hayら、2004、Mitsuiら、2003)。Nanogのレベルは、コントロールH1細胞に比べて低下しなかったが、iGSK-3β処理H1細胞におけるOct4レベルに部分的低下が認められる(図3C)。分化のマーカーと共に万能性マーカーが存在するのは、持続的Wntシグナル伝達が中/内胚葉に向かうH1細胞の分化を誘導することを示唆している。
【0249】
形態学的には、H1細胞は、緻密なコロニー形態の喪失や、コロニー内で明瞭な形状をした細胞の出現など、はっきりとした分化の兆候を呈示している(図3D)。第21日の終了時に残っている万能性細胞の割合(%)を分析するため、万能性特異的細胞表面マーカーであるSSEA4に対する抗体で染色した細胞を用いたFACS分析を実施した。図4からわかるように、非処理H1細胞はSSEA4染色細胞の明瞭なピークを示した(図4A)。しかし、Wnt活性化時に、Wnt-3A、そしてiGSK-3β処理細胞ではさらに著しく、SSEA4染色細胞の有意な喪失が認められる(それぞれ、図4B及び4C)。SSEA4染色細胞の喪失によって、Wnt経路の活性化がES細胞の分化を誘導することが再度確認された。
【0250】
万能性を維持する上でのWnt経路の関与を示唆するSatoら、2004による研究とは対照的に、これらのデータは、Wnt経路の持続的活性化がES細胞の分化を誘導することを決定的に示している。
【実施例13】
【0251】
胚性幹(ES)細胞における構成的活性β-カテニン突然変異体の発現
構成的活性を有する様々なβ-カテニン突然変異体が多種のヒト癌でみいだされている。これらの突然変異は非常に特異的で、タンパク質のアミノ末端ドメイン内の残基にある。このような残基はリン酸化されると、タンパク質の不安定化を助けることになる。上記突然変異はリン酸化を阻止するため、β-カテニンタンパク質の安定性を高める。
【0252】
Wnt signaling and cancer. Genes Dev. 2000 Aug 1;14(15):1837-51には、β-カテニンにおける点突然変異の頻度及び位置の一覧を示す表が記載されている。Polakis(2000)によるこの表に記載されたアラニンまでのアミノ酸各々の部位指定突然変異誘発を実施することにより、構成的活性β-カテニン突然変異体を作製する。また、N末端の50〜90アミノ酸を欠損する(すなわちGSK-3b、APC、Dsh複合体によりリン酸化された残基すべてが欠如している)β-カテニンの欠失突然変異体も構築する。
【0253】
突然変異体をコードする核酸構築物を哺乳動物トランスフェクションベクターにサブクローン化する。このようにして得られた構築物を、リポフェクタミンのような脂質を用いて、哺乳動物、マウス及びヒト細胞にトランスフェクションする。また、トランスフェクションは、製造者のプロトコルに従ってエレクトロポレーションを用いても実施する。発現構築物を、トランスフェクション又はエレクトロポレーションした宿主細胞は、突然変異型構成的活性β-カテニンを過剰発現する。また、β-カテニンの突然変異型だけを発現する安定なES細胞系も作製する。
【0254】
中胚葉及び内胚葉分化のマーカーを用いて、中胚葉及び内胚葉経路に沿ったES細胞の発生を評価及び観察する。
【0255】
再生医療におけるES細胞の有望性(promise)は、身体内のあらゆる細胞型を生じさせるそれらの分化能にある。しかし、ES細胞は、自発的に様々な系列に分化する(例えば、胚様体形成)ことができるため、治療に用いる特定の細胞型を作製する上での主な障害は、分化細胞の均質かつ純粋な集団の獲得が困難なことである。早期段階で系列確定(lineage commitment)を理解することは、再生医療においてES細胞を用いる上で非常に重要である。
【0256】
本明細書では、中/内胚葉発生におけるWnt経路の役割についての確証を初めて提供する。特定の経路の活性化によりこれら中/内胚葉細胞を中胚葉又は内胚葉のいずれかに形成(mould)させることができるため、実際に、上記細胞の最終的運命を微調整して、再生医療で有用な所望の系列特異的細胞型を作製することができる。
【実施例14】
【0257】
GSK-3b阻害剤を用いた持続的Wnt経路活性化を実施したmES細胞集団からの単細胞クローンの単離
連続培養においてマウスES細胞をGSK-3b阻害剤で処理することにより、Wnt経路を活性化する。集団から単細胞クローンを単離するために、BD FACS Ariaセルソーターを用いた。
【0258】
簡単に説明すると、マウス胚性支持細胞を96ウェルの皿に接種する。GSK-3b阻害剤処理マウスES細胞をトリプリシン処理することにより、単細胞懸濁液を取得し、FACS Ariaセルソーターを用いて、単細胞選別を実施する。支持細胞(マウス胚性繊維芽細胞)がすでに樹立されている96ウェル皿の各ウェルにmES単細胞を接種する。
【0259】
選別後、GSK-3b阻害剤の存在下でES細胞を2週間かけて増殖させ、96ウェル皿から、徐々に、支持細胞のない10 cmプレートへとさらに増大させる。
【実施例15】
【0260】
単細胞クローンの分析
RNAを単細胞クローンから抽出し、Q-RT-PCRで分析することにより、様々な中/内胚葉マーカーのアップレギュレーションを確認する。
【0261】
図8に示すように、T-brachyury、Foxa2、Sox17、goosecoid、Gata4、Gata6、AFP、Pitx2などの主要な中/内胚葉マーカーは、400倍もアップレギュレートしている。
【0262】
これら分化マーカーのいくつかのアップレギュレーションを確認するために、免疫細胞化学を実施した(図9参照)。
【0263】
次に、クローンが内皮、心臓、骨形成及び軟骨形成のような中胚葉細胞型に分化する能力を分析した。
【実施例16】
【0264】
内皮分化
Wnt経路活性化クローンをトリプシン処理及び凝集させて、胚様体(EB)を形成させ、内皮細胞形成に必要な増殖因子の存在下で、メチルセルロースにおいて11日間平板培養する(Choi Kら、1998, Development 125:725-732;Balconiら、2000, Atherioscler Thromb Vasc Biol 20:1443-1451)。
【0265】
第11日には、EBを回収し、増殖因子の存在下及び非存在下でコラーゲンゲル中に再懸濁させる。コラーゲンゲルにおける培養から2〜3日後、内皮芽の出現を評価する。
【0266】
クローン23及び38が、コントロールの非処理E14細胞より有意に多くの芽をEBに発生させたことがわかった(図10)。
【0267】
3〜4日後、芽を有するEBを回収し、RNAを抽出することにより、主要な内皮マーカーのアップレギュレーションを確認する(図11)。また、芽を有するEBをチェンバースライドに接種し、内皮細胞の主要マーカーに対する抗体を用いて、免疫染色を実施する。
【実施例17】
【0268】
心臓分化
クローンをトリプシン処理し、1ml当たり25,000個の細胞で再懸濁させる。ペトリ皿を用いて、十分に確立されたハンギングドロップ法により、2日間かけてEBを作製する。2日の終了時に、EBを回収し、培地中に3日間再懸濁させる。3日の終了時に、ゼラチンを塗布した皿にEBを付着させる。各EBについて観察される3以上の拍動領域を基準として、心臓系列の能力を評点する。
【0269】
クローン23及び38は、コントロールE14細胞より高い比率(%)の拍動EBを示した(図12)。
【実施例18】
【0270】
骨形成及び軟骨形成分化
ゼラチン塗布した皿にクローンを接種し、Zuk PAら、2001, Tissue Engineering、Vol.17、number 2、pg 211-227に記載されているように、骨形成及び軟骨形成に必要な各種増殖因子の存在下で3週間培養する。3週間の終了時に、RNAを抽出し、Zukらに記載されているように、RT-PCR及び染色プロトコルを用いて、分化状態を確認する。
【実施例19】
【0271】
マイクロアレイ分析
Iluminaマウス遺伝子発現分析装置を用いて、E14細胞及びクローンから抽出したRNAを用いたマイクロアレイ分析を実施した。0.03のFDR(False Discovery Rate)を用いたGene Springソフトウエアにより、得られたデータを分析する。取得したデータは、マンホイットニーU検定を用いて、統計的に確認する。次に、統計的に有意な遺伝子を、PANTHER遺伝子腫瘍学データベース(Applied Biosystems)との比較により、機能及び系統関係について評価する。
【0272】
出発未分化ES細胞と比較して、クローンにおいて(統計的に)有意に変化(アップ及びダウンレギュレート)した700の遺伝子をみいだした。アップレギュレートした遺伝子の分析から、これらの大部分が、例えば、中胚葉誘導、骨格発生、ECMシグナル伝達、増殖因子シグナル伝達、細胞接着などの多様な発生過程に属していることがわかる(以下の表E1を参照)。
【表3】

【0273】
参照文献
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【図面の簡単な説明】
【0274】
【図1A】図1は、胚性幹細胞におけるWntシグナル伝達を示す。図1Aは、未分化マウス及びヒトES細胞にWnt経路タンパク質が存在することを示す。抗dishevelled、β-カテニン、LRP及びcFRP抗体を用いた、ES細胞溶解物に対するウエスタンブロット分析を示す。
【図1B】図1Bは、E14細胞におけるfrizzled受容体の存在を示す。未分化E14 cDNAに対して実施したRT-PCR分析から、frizzled受容体2、5及び7の存在がわかる。下部パネルにRTなしのコントロールを示す。
【図1C】図1Cは、条件培地(CM)にWnt-3Aタンパク質が存在することを示す。抗Wnt-3A 抗体を用いた25μLの非濃縮コントロール及びWnt-3A CMに対するウエスタンブロット分析を示す。
【図1D】図1Dは、CMに存在するWnt-3Aは活性であることを示す。表示のCM又は精製Wnt-3A で処理した、一過性トランスフェクト293T細胞からの溶解物(100 ng/ml)を用いて実施したルシフェラーゼリポーターアッセイを示す。
【図1E】図1Eは、CMに存在するWnt-3Aは細胞質β-カテニンレベルを増大させることを示す。H1細胞を表示のCM又はiGSK-3βで処理し、抗活性β-カテニン抗体で溶解物を免疫ブロットする。
【図1F】図1Fは、ルシフェラーゼリポーターアッセイにより、Wnt経路を活性化するiGSK-3βの特異性を確認するものである。アッセイは、前記図1Dで説明したように実施する。iGSK-3βがBIOより強力であることに留意されたい。
【図1G】図1Gは、E14細胞におけるWnt経路の短期活性化は分化を誘導することを示す。方法の項に記載のように、コントロールCM、Wnt-3A CM、iGSK-3βで個別にE14細胞を4〜8日間処理する。マーカー遺伝子発現のリアルタイムPCR分析を示す。
【図2A】図2は、E14細胞におけるWnt経路の長期活性化は中内胚葉分化を誘導することを示す。方法の項に記載のように、コントロールCM、Wnt-3A CM、iGSK-3βで個別にE14細胞を21日間処理する。図2Aは、10日間の処理後、主要な系列特異的マーカー遺伝子プライマー(ABI)を用いたリアルタイムPCR分析を示す。
【図2B】図2Bは、21日間の処理後、主要な系列特異的マーカー遺伝子プライマー(ABI)を用いたリアルタイムPCR分析を示す。
【図2C】図2Cは、分化中のE14細胞は万能性マーカーを保持することを示す。Oct4及びNanog抗体を用いて、表示した日に細胞溶解物について実施したウエスタンブロット分析を示す。ローディングコントロールとして、β−アクチンを示す。
【図2D】図2Dは、E14細胞(コントロール)と、培地中で14日間にわたりWnt-3及びiGSK-3βで処理したE14細胞の明視野写真を示す。全ての時間経過の実験を3回繰返し、再現性のある結果を取得する。ここでは、一回の実験の結果を示す。
【図3A】図3は、ヒトES細胞における持続的Wnt経路の活性化は中内胚葉分化を誘導することを示す。方法の項に記載のように、コントロールCM、Wnt-3A CM、iGSK-3βで個別にH1細胞を21日間処理する。図3Aは、8日間の処理後、主要な系列特異的マーカー遺伝子プライマー(ABI)を用いて、分化中のH1細胞から抽出したRNAについて実施したリアルタイムPCR分析を示す。
【図3B】図3Bは、15日間の処理後、主要な系列特異的マーカー遺伝子プライマー(ABI)を用いて、分化中のH1細胞から抽出したRNAについて実施したリアルタイムPCR分析を示す。
【図3C】図3Cは、分化中のH1細胞は万能性マーカーを保持することを示す。Oct4及びNanog抗体を用いて、表示した日に細胞溶解物についてウエスタンブロット分析を実施する。ローディングコントロールとして、β−アクチンを示す。
【図3D】図3Dは、H1細胞(コントロール)と、培地中で15日間にわたりWnt-3及びiGSK-3βで処理したH1細胞の明視野写真を示す。
【図4A】H1細胞におけるWnt経路の長期活性化により、SSEA 4染色の喪失が起こる。方法の項に記載のように、コントロールCM、Wnt-3A CM、iGSK-3βで個別にE14細胞を21日間処理する。方法の項に記載のように、第21日に、細胞をトリプシン処理し、SSEA4抗体(DHSB)で染色する。FACS Bioanarayzer(BD)を用いて、FACS分析を実施する。
【図4B】H1細胞におけるWnt経路の長期活性化により、SSEA 4染色の喪失が起こる。方法の項に記載のように、コントロールCM、Wnt-3A CM、iGSK-3βで個別にE14細胞を21日間処理する。方法の項に記載のように、第21日に、細胞をトリプシン処理し、SSEA4抗体(DHSB)で染色する。FACS Bioanarayzer(BD)を用いて、FACS分析を実施する。
【図4C】H1細胞におけるWnt経路の長期活性化により、SSEA 4染色の喪失が起こる。方法の項に記載のように、コントロールCM、Wnt-3A CM、iGSK-3βで個別にE14細胞を21日間処理する。方法の項に記載のように、第21日に、細胞をトリプシン処理し、SSEA4抗体(DHSB)で染色する。FACS Bioanarayzer(BD)を用いて、FACS分析を実施する。
【図5】iGSK-3β(Eli Lilly)の構造を示す図である。
【図6】BIO及びMeBIOの構造を示す図である。
【図7】Wntシグナル伝達経路を示す図である。
【図8】mESクローンのリアルタイムPCR分析の結果を示す図である。
【図9A】mESクローン23を用いた分化のマーカーに対する免疫染色の結果を示す図である。
【図9B】mESクローン23を用いた分化のマーカーに対する免疫染色の結果を示す図である。
【図9C】mESクローン23を用いた分化のマーカーに対する免疫染色の結果を示す図である。
【図10】内皮系列に沿ったE14細胞及びクローンの分化の分析結果を示す図である。
【図11】クローン#23及び38についての内皮系列のマーカーに関するRT-PCT分析結果を示す図である。
【図12】心臓系列に沿ったE14細胞及びクローンの分化の分析結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
万能性幹細胞においてWntシグナル伝達経路を活性化するステップを含む、万能性幹細胞から中胚葉又は内胚葉細胞を作製する方法。
【請求項2】
Wntシグナル伝達経路が活性化される時間の少なくとも一部において万能性幹細胞が実質的に2次元配置の状態である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
Wntシグナル伝達経路が活性化される時間の実質的に全てにおいて万能性幹細胞が実質的に2次元配置の状態である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
2次元配置が単細胞層である、請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】
Wntシグナル伝達経路が少なくとも4日間、例えば少なくとも10日間にわたり活性化される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
万能性幹細胞が胚性幹細胞、例えばヒト胚性幹細胞を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
中胚葉又は内胚葉細胞が中胚葉前駆細胞又は内胚葉前駆細胞を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
中胚葉又は内胚葉細胞が、多能性、二能性又は単能性である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
中胚葉又は内胚葉細胞を最終分化させるステップをさらに含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記ステップが、中胚葉又は内胚葉細胞を増殖因子又はホルモンに暴露することを含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
万能性幹細胞におけるWntシグナル伝達経路の活性化が、該万能性幹細胞を中胚葉又は内胚葉経路に沿って分化させる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
万能性幹細胞におけるWntシグナル伝達経路の活性化が、該万能性幹細胞を中胚葉又は内胚葉細胞に分化させる、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
中胚葉細胞が、T-brachyury、Runx1及びPitx2からなる群より選択される中胚葉マーカーを発現する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
内胚葉細胞が、Gata4、Foxa2、Sox17、AFP及びMixL1からなる群より選択される内胚葉マーカーを発現する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
万能性細胞におけるWntシグナル伝達経路の活性化が中内胚葉細胞を生じる、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
中内胚葉細胞が内胚葉マーカー及び中胚葉マーカーを発現する、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
外胚葉細胞を産生しないものである、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
Frizzled(Fz)受容体を活性化してWntシグナル伝達経路を活性化することを含む、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
万能性幹細胞を、Wntリガンド、又はFrizzled(Fz)受容体と結合しそれを活性化することが可能なWntリガンドの変異体に暴露することを含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
WntリガンドがWnt 3A(マウスゲノムインフォマティクスMGI ID 98956)を含む、請求項18又は19記載の方法。
【請求項21】
万能性幹細胞におけるグリコーゲン合成酵素キナーゼ(EC番号 2.7.1.37.GSKタンパク質キナーゼ(GSK-3))の活性を低減してWntシグナル伝達経路を活性化することを含む、請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
GSKがGSK-3β(NCBI GeneID 433548)を含む、請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
グリコーゲン合成酵素キナーゼの活性が、万能性幹細胞をGSK-3βの化学阻害剤に暴露することにより低減される、請求項21又は22記載の方法。
【請求項24】
化学阻害剤が、iGSK-3β若しくはBIO、又はGSK活性を低減可能なそれらの変異体を含む、請求項1〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
万能性幹細胞におけるβ-カテニンの活性を増大させてWntシグナル伝達経路を活性化することを含む、請求項1〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
β-カテニンの活性が、万能性幹細胞において構成的活性β-カテニン、例えばリン酸化不可能β-カテニンを供給することにより増大される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
構成的活性β-カテニンが、アミノ末端の最初の50〜90残基を欠損するβ-カテニンをコードする発現ベクターを万能性幹細胞にトランスフェクトすることにより供給される、請求項26記載の方法。
【請求項28】
請求項1〜27のいずれか1項により作製された中胚葉又は内胚葉細胞。
【請求項29】
請求項15又はそれに従属する請求項16〜18のいずれか1項により作製された中内胚葉細胞。
【請求項30】
請求項28記載の中胚葉若しくは内胚葉細胞、又は請求項29記載の中内胚葉細胞と、薬学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤とを含む医薬組成物。
【請求項31】
治療、例えば再生医療における、請求項28記載の中胚葉若しくは内胚葉細胞、又は請求項29記載の中内胚葉細胞、又は請求項30記載の医薬組成物の使用。
【請求項32】
請求項28若しくは29記載の中胚葉若しくは内胚葉細胞、又は請求項30記載の医薬組成物、又は請求項1〜27のいずれか1項に記載の方法により作製されるものを個体に導入することを含む、個体における疾患の治療方法。
【請求項33】
万能性幹細胞が、中胚葉又は内胚葉細胞が導入される個体の自家細胞である、請求項31記載の使用、又は請求項32記載の方法。
【請求項34】
中胚葉又は内胚葉細胞が、中胚葉又は内胚葉細胞が導入される個体から採取された万能性細胞に由来するものである、請求項31若しくは33記載の使用、又は請求項32若しくは33記載の方法。
【請求項35】
万能性幹細胞、Wntシグナル伝達経路のアクチベーターと、中胚葉又は内胚葉細胞を作製するための使用説明書とを含むキット。
【請求項36】
万能性幹細胞と、Wnt 3A、iGSK-3β及びBIOの任意の組み合わせとを含む、請求項35記載のキット。
【請求項37】
万能性幹細胞においてWntシグナル伝達経路を活性化するステップを含む、中胚葉特異的マーカーの発現を誘導する方法。
【請求項38】
中胚葉特異的マーカーが、T-brachyury、Runx1及びPitx2からなる群より選択される、請求項37記載の方法。
【請求項39】
万能性幹細胞においてWntシグナル伝達経路を活性化するステップを含む、内胚葉特異的マーカーの発現を誘導する方法。
【請求項40】
内胚葉特異的マーカーが、Gata4、Foxa2、Sox17、AFP及びMixl1からなる群より選択される、請求項39記載の方法。
【請求項41】
添付の図面の図1〜7を参照して詳述されかつ図1〜7に示される、方法、細胞、医薬組成物、使用又はキット。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図1G】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2009−512458(P2009−512458A)
【公表日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−537652(P2008−537652)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【国際出願番号】PCT/SG2006/000313
【国際公開番号】WO2007/050043
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【出願人】(506205103)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (26)
【氏名又は名称原語表記】AGENCY FOR SCIENCE,TECHNOLOGY AND RESEARCH
【Fターム(参考)】