説明

中華食品用生地

【課題】餃子、ワンタン、シュウマイ、春巻き、中華まん等の中華食品をチルドや冷凍保存すると皮の水分が蒸発したり生地の老化等が生じ、保存後に加熱調理すると皮部分のソフトさが失われ、硬い食感となったり皮が破損したりするという問題があった。本発明は歯切れ、しとり感等の食感に優れ、冷凍保存した際に硬化したり乾燥して白色化やひび割れを生じる虞がなく、冷凍保存した後に加熱調理した際の食感低下を生じることのない中華食品用生地を提供する。
【解決手段】本発明の中華食品用生地は、食用油脂、重合度2〜4のマルトオリゴ糖及びラクトース、乳化剤としてポリグリセリン縮合リシノール酸エステルとグリセリン有機酸脂肪酸エステルとを含むO/W型エマルションを乾燥粉末化した粉末油脂を、小麦粉100重量部あたり、0.5〜20重量部含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は中華食品の皮として用いることのできる中華食品用生地に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、餃子、ワンタン、シュウマイ、春巻き、中華まん、小龍包等の中華食品は、様々な形態で流通している。例えば未加熱あるいは一度加熱調理した状態でチルドや冷凍流通し、家庭等において加熱調理して食用に供することが広く普及してきている。このような中華食品はチルド、冷凍保存中に皮の水分が蒸発したり、生地の老化等が生じ、保存後に加熱調理した場合、皮部分のソフトさが失われ、硬い食感となり、餃子、ワンタン、シュウマイ、春巻き等の薄い皮で具材を包あんするもの等は、流通時に皮の先端部分が欠けたり、皮が白濁化し、この白濁化は加熱調理しても元に戻らないため商品価値を損なう要因となっていた。また中華まん等では、表面が乾燥すると、加熱調理時に具材の蒸気の抜け場がなくなり、破裂してしまうという問題があった。このような問題を解決するために、生地中に馬鈴薯澱粉等の澱粉、糖類、油脂を加えて特定温度で熟成させる方法(特許文献1)や、特定の構成脂肪酸とエステル化率である粉末状のポリグリセリン脂肪酸エステルを生地に配合する方法(特許文献2)、HLB値が8以上のショ糖脂肪酸エステル、油脂、糖類を含む水中油型乳化物を噴霧乾燥して得られる粉末油脂を配合する方法(特許文献3)等が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−270796号公報
【特許文献2】特開2007−289073号公報
【特許文献3】特開2000−236830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1のように、油脂を生地にそのままの形態で添加したのでは油脂が均一に分散しにくく、チルドや冷凍保存時の生地の老化、乾燥を抑制する効果が不十分であり、チルド、冷凍保存後に加熱調理した場合、しとり感を維持することは困難であった。また特許文献2記載の粉末状の乳化剤を添加する方法は、生地への分散性はよく、老化防止効果はあるものの、乾燥を抑制する効果が低く、ひび割れたり、しとりと歯切れのある食感を得ることが出来ない。特許文献3記載の方法は、改良効果のあるショ糖脂肪酸エステルを多配すると噴霧乾燥しにくくなり、また粉体として吸湿性が高くなってしまい保存中にケーキングを起こして中華生地に均一に分散し難くなるという問題がある。このように上記従来の方法で調製した生地を用いた中華食品は低温耐性が不十分であり、冷凍保存後に加熱調理した場合、満足のいく食感を維持することは困難であった。本発明はこのような従来の問題点に鑑みなされたもので、チルドや冷凍保存後に加熱調理した場合でも、保存前に調理したものと同様の優れた食感や形状を維持することのできる中華食品用生地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち本発明は、
(1)食用油脂、重合度2〜4のマルトオリゴ糖及びラクトース、乳化剤としてポリグリセリン縮合リシノール酸エステルとグリセリン有機酸脂肪酸エステルとを含むO/W型エマルションを乾燥粉末化した粉末油脂を、小麦粉100重量部あたり、0.5〜20重量部含有することを特徴とする中華食品用生地、
(2)粉末油脂に含有されるマルトオリゴ糖とラクトースの割合が、重量比でマルトオリゴ糖:ラクトース=80:20〜20:80である上記(1)の中華食品用生地、
(3)粉末油脂に含まれるグリセリン有機酸脂肪酸エステルを構成する有機酸がジアセチル酒石酸である上記(1)又は(2)の中華食品用生地、
を要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の中華食品用生地を用いると、歯切れが良く、しとり感のある中華食品を得ることができ、低温保存した際に硬化したり乾燥して白濁やひび割れを生じる虞がなく、また冷凍保存した後に加熱調理した際の食感の低下も生じる虞がない等の効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の中華食品用生地に用いる粉末油脂は、食用油脂、特定の粉末化基材、乳化剤を含む水中油型乳化物を噴霧乾燥して得られる。粉末油脂における食用油脂としては、液体、固体の動植物油脂、硬化した動植物油脂、動植物油脂のエステル交換油、分別した液体油又は固体脂等、食用に適するものであれば全て使用可能である。具体的には、ナタネ油、コーン油、大豆油、綿実油、サフラワー油、パーム油、ヤシ油、米油、ゴマ油、カカオ脂、オリーブ油、パーム核油等の植物性油脂、魚油、豚脂、牛脂、鶏脂、乳脂等の動物性油脂及び、これらの油脂の硬化油又はエステル交換油、或いはこれらの油脂を分別して得られる液体油、固体脂等が挙げられ、これらより選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0008】
粉末化基材としては、重合度2〜4のマルトオリゴ糖とラクトースとが用いられる。粉末化基材として用いる重合度2〜4のマルトオリゴ糖は、グルコース同士がα−1,4グリコシド結合で2〜4重合した少糖類で、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオースが挙げられる。重合度5以上の糖類はその保水力や澱粉への老化抑制力が低下するので好ましくない。本発明に用いる粉末油脂は、上記マルトオリゴ糖とラクトースとを重量比で、マルトオリゴ糖:ラクトース=80:20〜20:80の割合で含有することが好ましいが、特にマルトオリゴ糖:ラクトース=70:30〜30:70の割合で含有することが、生地に添加した際にその物性や保水力が良好であり、かつ保存後に加熱調理し、喫食した際の生地の歯切れや口溶けなどの食感に効果がより発揮されるため好ましく、さらには、マルトオリゴ糖:ラクトース=70:30〜50:50であることが好ましい。またマルトオリゴ糖が粉末油脂中に1重量%以上含有されることが望ましい。
【0009】
粉末油脂には、上記マルトオリゴ糖、ラクトースとともに、他の粉末化基材を併用することができる。他の粉末化基材としては、乳蛋白、大豆蛋白、小麦蛋白、全脂粉乳、脱脂粉乳、小麦粉、デンプン、ゼラチン、ガム質、デキストリン等が挙げられる。またマルトオリゴ糖、ラクトース以外の糖類を併用することもできる。乳蛋白としては酸カゼイン、レンネットカゼイン、カゼインナトリウム、ホエー蛋白等が、デンプンとしては、オクテニルコハク酸デンプン、馬鈴薯デンプン、コーンスターチ、小麦デンプン、タピオカデンプン等が挙げられる。ガム質としてはキサンタンガム、アラビアガム、トラガントガム、ジェランガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、カラギーナン、寒天、LMペクチン、HMペクチン等が、デキストリンとしては、サイクロデキストリン、分岐サイクロデキストリン、マルトデキストリン等が挙げられる。またマルトオリゴ糖、ラクトース以外の糖類は、粉末化特性、粉体特性等を損なわない程度に使用することができ、グルコース、フルクトース、ガラクトース等の単糖類、ショ糖、水飴、トレハロース等が挙げられる。上記他の粉末化基材のなかでも、デキストリン及びカゼインナトリウムを、マルトオリゴ糖、ラクトースと併用すると、粉末油脂の劣化が生じにくく保存安定性がより高まるため好ましい。マルトオリゴ糖、ラクトースとともに他の粉末化基材を併用する場合、他の粉末化基材の使用量はマルトオリゴ糖、ラクトースの合計量の10〜50重量%が好ましい。
【0010】
乳化剤として用いるポリグリセリン縮合リシノール酸エステルは、リシノール酸同士が縮合したエステルと、ポリグリセリンとがエステル化したものであり、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを構成するポリグリセリンとしては、重合度4〜10量体が好ましい。また縮合リシノール酸としては3〜6量体がエステル結合しているものが好ましい。またグリセリン有機酸脂肪酸エステルは、グリセリンに脂肪酸と有機酸の両方がそれぞれ1個から2個エステル結合した構造の化合物で、グリセリンモノ脂肪酸エステルと有機酸との反応、油脂と有機酸とのエステル交換、又はグリセリンと有機酸と脂肪酸との反応などにより得ることができる。有機酸として例えば、酢酸、乳酸、コハク酸、ジアセチル酒石酸、クエン酸等が挙げられる。グリセリン有機酸脂肪酸エステルの構成脂肪酸は、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれでも良い。グリセリン有機酸脂肪酸エステルは、有機酸や脂肪酸の種類の異なるものを混合して用いることもできる。本発明において用いるグリセリン有機酸脂肪酸エステルは、有機酸がコハク酸、ジアセチル酒石酸であるものが食感、風味等の点から好ましく、特に有機酸がジアセチル酒石酸であると生地の保水性が向上し更に好ましい。これらのエステルを構成する脂肪酸は、ステアリン酸等の飽和脂肪酸であることが好ましい。ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの粉末油脂中の含有量は0.1〜10.0重量%が好ましく、0.5〜5.0重量%がより好ましい。またグリセリン有機酸脂肪酸エステルの粉末油脂中の含有量は0.01〜10.0重量%が好ましいが、より好ましくは0.1〜10.0重量%である。ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル含有量が0.1重量%未満の場合、その添加効果が十分得られない虞があり、10.0重量%を超えると風味が悪くなる虞がある。またグリセリン有機酸脂肪酸エステル含有量が、0.01重量%未満の量の場合、再溶解後の乳化安定性が悪くなる虞があり、10.0重量%を超える量の場合、添加した中華食品の食感にねちゃつき感があったり、歯切れや口溶けが悪くなる虞がある。また、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルとグリセリン有機酸脂肪酸エステルの配合比は、重量比で1:0.5〜3が好ましく、さらに好ましくは、1:0.5〜2である。
【0011】
本発明において用いる粉末油脂は、食用油脂、粉末化基材としてのマルトオリゴ糖及びラクトース、乳化剤としてのポリグリセリン縮合リシノール酸エステル及びグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含むO/W型エマルションを、乾燥粉末化して得られる。O/W型エマルションは、まず、水相に油相を添加し、ホモミキサー等で攪拌後、ホモゲナイザー等を使用し、均質化して得ることができる。O/W型エマルションを調製する際に、乳化剤は水相、油相の両方、またはいずれか一方に含有されていれば良い。また、粉末化基材は水相に添加して用いることができる。O/W型エマルションを調製するに際し、粉末化基材は10〜60重量%配合することが好ましい。O/W型エマルションを乾燥粉末化する方法としては、一般的に知られている噴霧乾燥法、真空凍結乾燥法、真空乾燥法等用いることができる。
【0012】
上記粉末油脂中には、更に香料や酸化防止剤等を含有していても良い。またポリグリセリン縮合リシノール酸エステル及びグリセリン有機酸脂肪酸エステル以外の他の乳化剤を併用することもできる。他の乳化剤としては、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等を用いることができるが、グリセリンモノ脂肪酸エステル、レシチンが好ましい。ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル及びグリセリン有機酸脂肪酸エステル以外の他の乳化剤を併用する場合、粉末油脂中の他の乳化剤の割合は5〜20重量%が好ましい。
【0013】
本発明の中華食品用生地は、上記粉末油脂を小麦粉100重量部あたり、0.5〜20重量部含有するが、小麦粉100重量部あたり1〜10重量部が好ましい。粉末油脂が0.5重量部未満ではその効果が十分現れず、20重量部を超えると良好な食感を損なう虞れがある。特に粉末油脂の含有量は、餃子、ワンタン、春巻、シュウマイの場合、2〜5重量%が好ましく、小龍包、中華まん等の包子の場合、5〜10重量%が好ましい。
【実施例】
【0014】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
実施例1〜5、比較例1〜8
以下に示す油相、水相より粉末油脂を調製した。油相は、油脂を70℃に調温後、乳化剤を添加して調製した。水相は、水を60℃に調温し、糖類、タンパク質等の粉末化基材を添加し調製した。油相を70℃で、水相を60℃で保持し、ホモミキサーで攪拌しながら水相に油相の全量を添加し、O/W型に乳化させた後、ホモジナイザーで150kgf/cmの圧力をかけて均質化し、均質化後、スプレードライヤーにより粉末化して表1に示す組成の粉末油脂を得た。小麦粉100重量部あたり、表1に示す粉末油脂を3重量部、水35重量部、食塩2重量部を加え、ミキサーにて10分間ミキシングし餃子生地を得た。得られた生地をローラーで圧延した後、丸型で抜き餃子皮とした。また、粉末油脂4を用いて、小麦粉100重量部当たり、粉末油脂の添加量が0.1重量部と25重量部の餃子皮を作製した。この餃子皮を用いて挽肉、野菜、調味料等よりなる餡を包み餃子を作製し、これを10個ずつチャック付ビニール袋に入れて1週間冷凍した。冷凍保存後、その状態(ひび、欠け、白濁化など)を評価した。また、この餃子をフライパンで加熱調理し、これについて10人のパネラーで官能評価をおこなった。結果を使用した粉末油脂の種類とともに表2に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
※1:ポリグリセリン縮合度4、リシノレイン酸縮合度4
※2:ショ糖ステアリン酸エステル(HLB3)
【0017】
(表2)

【0018】
※5:パネラー10人による官能試験により、皮のかたさを評価した。
10人中、8人以上が良好であると評価・・・◎
10人中、5〜7人が良好であると評価・・・○
10人中、3〜4人が良好であると評価・・・△
10人中、8人以上が良好でないと評価・・・×
として評価した。
【0019】
※6:冷凍保存後の製品の白濁化を目視により比較し、
白濁化は認められない・・・・・・・・・・・○
先端部に白濁化が認められる・・・・・・・・△
ひだ全体に白濁化が認められる・・・・・・・×
として評価した。
【0020】
※7:袋に10個詰めて1週間冷凍保存後の状態を観察し、
ひび割れ、欠け等の破損なし・・・・・・・・○
ひび割れ、欠け等の破損が1〜4個に発生・・△
ひび割れ、欠け等の破損が5個以上に発生・・×
として評価した。
【0021】
実施例6〜10、比較例9〜16
表1に示す粉末油脂を用い、小麦粉100重量部あたり、粉末油脂8重量部、上白糖12重量部、食塩1重量部、ドライイースト2.5重量部、ベーキングパウダー1重量部、水50重量部を加えて定法により中華まん生地を調製し、この生地で挽肉、野菜、調味料等よりなる餡を包み、蒸して中華まんを作製した。また、粉末油脂4を用いて、小麦粉100重量部当たり、粉末油脂の添加量が0.1重量部と25重量部の生地を調製し、同様に中華まんを作製した。この中華まんを5℃の冷蔵庫で3日間保管した。保管の後、蒸し器で15分間蒸し、これについて10人のパネラーで官能評価をおこなった。結果を使用した粉末油脂の種類とともに表3に示す。
【0022】
(表3)

【0023】
※8:パネラー10人による官能試験により、しとり感を評価した。
10人中、8人以上がしとりがあると評価・・・◎
10人中、5〜7人がしとりがあると評価・・・○
10人中、3〜4人がしとりがあると評価・・・△
10人中、8人以上がしとりがないと評価・・・×
【0024】
※9:パネラー10人による官能試験により、歯切れを評価した。
10人中、8人以上が歯切れがよいと評価・・・◎
10人中、5〜7人が歯切れがよいと評価・・・○
10人中、3〜4人が歯切れがよいと評価・・・△
10人中、8人以上が歯切れが悪いと評価・・・×

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用油脂、重合度2〜4のマルトオリゴ糖及びラクトース、乳化剤としてポリグリセリン縮合リシノール酸エステルとグリセリン有機酸脂肪酸エステルとを含むO/W型エマルションを乾燥粉末化した粉末油脂を、小麦粉100重量部あたり、0.5〜20重量部含有することを特徴とする中華食品用生地。
【請求項2】
粉末油脂に含有されるマルトオリゴ糖とラクトースの割合が、重量比でマルトオリゴ糖:ラクトース=80:20〜20:80である請求項1記載の中華食品用生地。
【請求項3】
粉末油脂に含まれるグリセリン有機酸脂肪酸エステルを構成する有機酸がジアセチル酒石酸である請求項1又は2記載の中華食品用生地。