説明

丸棒鋼の超音波探傷方法および装置

【課題】振動子数が少ない簡易で安価な装置構成で円周全体の探傷ができるようにすると共に、メンテナンスを容易化する。
【解決手段】水浸超音波探傷による丸棒鋼30の内部欠陥探傷に際し、前記丸棒鋼に対向し該丸棒鋼の中心軸を中心とした略円周面状の探触子面に複数の励起素子が整列し、前記探触子面と前記丸棒鋼の表面とが所定の水距離を有するように配置されたアレイ探触子1を用い、該アレイ探触子から前記丸棒鋼内部へ超音波を送受して集束超音波ビームを形成し、内部欠陥の探傷を行ないながらアレイ探触子と前記丸棒鋼との丸棒鋼長さ方向の相対位置を変化させて丸棒鋼長さ方向毎の探傷結果を保存し、前記長さ方向の探傷を、前記集束超音波ビームが前記丸棒鋼内部で形成される位置がそれぞれ異なるように前記アレイ探触子と前記丸棒鋼周方向の相対位置を変化させつつ複数回行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探傷方法および装置に関する。特に、軸受鋼のような転がり疲労寿命が求められる高清浄度丸棒鋼の微小(<φ100μm)介在物の電子走査式アレイ探触子を用いた探傷に用いるのに好適な、丸棒鋼の超音波探傷方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種機械装置の高性能化にともない、転がり疲労寿命が求められる軸受鋼などを用いた機械部品や装置の使用環境は非常に厳しくなり、寿命の向上ならびに信頼性の向上が強く求められている。このような要求に対し、鋼材面からの対策としては、鋼成分の適正化や不純物元素の低減が行われ、寿命の向上ならびに信頼性の向上が図られている。
【0003】
特許文献1によれば、20μm以上程度の非金属介在物が転がり疲労寿命に影響を及ぼすとされており、従ってこれらの介在物と同等サイズの欠陥探傷が求められている。ここで、特に転がり疲労寿命に優れた鋼においては20μmを超える非金属介在物の発生は極めてまれであり、従ってこれを検出するためには大きな体積、例えば一定深さの全領域を探傷する必要がある。
【0004】
これに対し、丸棒鋼の欠陥探傷において、一定深さの全領域を高速に探傷する方法として、特許文献2に電子走査式超音波アレイ探触子(以降、アレイ探触子と表記)を用いた水浸超音波探傷法が提案されている。
【0005】
また、最小で20μm程度の微小介在物を検出するための検出能向上としては、特許文献3や特許文献4にあるような超音波ビームの集束化が有効である。
【0006】
ここで、例として点集束ビームの音圧について説明する。この場合、非特許文献1の47頁によれば、振動子から発せられる音圧をP0、焦点での音圧をPとすると、次式(非特許文献1の47頁(2.108)式参照)が成り立つ。
【0007】
P/P0=π・J (1)
ここで、Jは集束係数で、次式(非特許文献1の47頁(2.109)式参照)で定義される。
J=D2/(4・λ・fOP) (2)
(D:振動子幅、λ:超音波の波長、fOP:焦点距離)
【0008】
即ち、この場合、集束係数Jに比例して焦点での音圧Pを高めることができ(非特許文献1の48頁の図2.50参照)、これによって焦点での欠陥検出能も高めることができる。
【0009】
上記の議論は送信についてであるが、非特許文献2の45頁1.4.4節によれば、一般に超音波伝搬について送信と受信でほぼ同様の議論が可能であることが知られており、従って受信についても集束係数Jに比例して焦点での欠陥検出能が高まることが知られている。
【0010】
超音波ビームの集束化は、特許文献2や特許文献4に記載があるようにアレイ探触子を用いた電子フォーカスによっても実行可能であり、従って、アレイ探触子と集束ビームを用いることにより微小介在物を大きな体積にわたって検査することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−121035号公報
【特許文献2】特開2010−133856号公報
【特許文献3】特開2005−84036号公報
【特許文献4】特開2007−170871号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】社団法人日本非破壊検査協会 超音波探傷試験III 2001年版 47-48頁
【非特許文献2】株式会社日刊工業新聞社 超音波技術便覧(1980) 45頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、上記に示したようなアレイ探触子と集束ビームの組合せには、探傷装置を構成する上で、次のような問題点があった。
【0014】
非特許文献1によれば、(1)式と(2)式で記述されるビーム集束において、焦点におけるビーム太さdWは以下のように記述できる(非特許文献1の48頁(2.111)式参照)。
【0015】
W=(fOP・λ)/D (3)
【0016】
従って、(2)式と(3)式から以下の関係が得られる。
【0017】
J=D/(4・dW) (4)
【0018】
即ち、集束係数Jを大きくして検出能を向上させようとするとビーム太さdWを細くする必要がある。
【0019】
ここで、探傷を隙間無く行なうためには、ビームピッチをビーム太さ以下にする必要がある。
【0020】
また、アレイ探触子による探傷においては一般に振動子ピッチと同じピッチでビームが形成されるため、つまり振動子ピッチをビーム太さ以下にする必要がある。
【0021】
従って、直径Wの丸棒試験片全周の表面直下を隙間無く一回で探傷するためには、アレイ探触子の振動子数nは次式を満たす必要がある。
【0022】
n≧(π・W)/dW (5)
【0023】
ここで、例として特許文献2を参考にD=10mm、λ=0.074mm(周波数20MHzに対応(水中))、fOP=20mm、W=30mmとすると、dW=0.15mm、n≧628となるため、628個以上の振動子で構成されるアレイ探触子が必要ということになる。
【0024】
しかし、アレイ探触子のコストは振動子の個数におおよそ比例するため、一般的なアレイ探触子(特許文献2の段落0019では128個の振動子でアレイ探触子が構成されている。)と比べて高コストとなってしまうという問題があった。
【0025】
また、全円周方向から探傷するためにアレイ探触子は被検体全円周方向を被う形となり、そのためメンテナンスがしにくいという問題もある。
【0026】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、振動子数が少ない簡易で安価な装置構成で円周全体の探傷ができるようにすると共に、メンテナンスを容易化することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、水浸超音波探傷による丸棒鋼の内部欠陥探傷方法であって、前記丸棒鋼に対向し該丸棒鋼の中心軸を中心とした略円周面状の探触子面に複数の励起素子が整列し、前記探触子面と前記丸棒鋼の表面とが所定の水距離を有するように配置されたアレイ探触子を用い、該アレイ探触子から前記丸棒鋼内部へ超音波を送受して集束超音波ビームを形成し、内部欠陥の探傷を行ないながらアレイ探触子と前記丸棒鋼との丸棒鋼長さ方向の相対位置を変化させて丸棒鋼長さ方向毎の探傷結果を保存し、前記長さ方向の探傷を、前記集束超音波ビームが前記丸棒鋼内部で形成される位置がそれぞれ異なるように前記アレイ探触子と前記丸棒鋼周方向の相対位置を変化させつつ複数回行なうことにより、前記課題を解決したものである。
【0028】
本発明は、又、水浸超音波探傷による丸棒鋼の内部欠陥探傷装置であって、前記丸棒鋼内部へ超音波を送受して集束超音波ビームを形成するための、前記丸棒鋼に対向し該丸棒鋼の中心軸を中心とした略円周面状の探触子面に複数の励起素子が整列し、前記探触子面と前記丸棒鋼の表面とが所定の水距離を有するように配置されたアレイ探触子と、該アレイ探触子を用いて内部欠陥の探傷を行ないながら該アレイ探触子と前記丸棒鋼との丸棒鋼長さ方向の相対位置を変化させて丸棒鋼長さ方向毎の探傷結果を保存する手段と、前記長さ方向の探傷を、前記集束超音波ビームが前記丸棒鋼内部で形成される位置がそれぞれ異なるように前記アレイ探触子と前記丸棒鋼周方向の相対位置を変化させつつ複数回行なう手段と、を備えたことを特徴とする丸棒鋼の超音波探傷装置を提供するものである。
【0029】
ここで、前記集束超音波ビームは、前記丸棒鋼内部において、該丸棒鋼の中心軸を中心とした円周面に対してビーム半径以下の間隔毎に形成され、かつ、前記複数回の長さ方向の探傷の結果として、前記円周面上のどの点においても少なくとも1回以上ビームが形成されるようにすることができる。
【0030】
又、前記複数回の長さ方向の探傷結果を合成することにより、丸棒鋼の全長及び全周についての欠陥分布を表示することができる。
【0031】
又、前記探傷結果の合成において、各々の探傷結果において前記丸棒鋼被検体長さ方向の端部を検出して、該端部の位置を基準に整列して合成することができる。
【0032】
又、前記集束超音波ビームの前記丸棒鋼内部における集束深さを変えることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、丸棒鋼(被検体とも称する)の円周の一部を探傷可能なアレイ探触子を用い、探傷する毎に丸棒鋼とアレイ探触子を相対的に回転させて複数回探傷することによって円周全体を探傷するようにしたので、振動子数が少ない簡易で安価な装置構成で円周全体の探傷ができるようになる。また、アレイ探触子は円周の一部角度に設置されるのみであるため、プローブの交換や調整など、メンテナンスも容易である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の概要を示す図
【図2】本発明の実施形態の構成を示す(a)横断面図及び(b)平面図
【図3】同じく集束深さを変える技術の概要を示す図
【図4】同じく詳細を示す図
【図5】同じく考え方を示す説明図
【図6】同じく信号合成部の動作を示す説明図
【図7】前記実施形態の処理手順を示すフローチャート
【図8】同じく1領域探傷データの概要を示す図
【図9】同じく探傷データ結合の概要を示す図
【図10】同じくビーム形成の略図
【図11】実施例による探傷結果を示す平面図
【図12】従来技術におけるビーム形成の略図
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して、本発明に係る実施の形態について詳細に説明する。
【0036】
図1に本発明の概念図を示す。本発明では、被検体30の円周の一部を探傷可能な、振動子数が少ないアレイ探触子1を用いて、1回の探傷で被検体30の円周方向の一部を探傷する。ここで、円周方向のビームピッチはビーム太さの半分以下とし、探傷領域内では探傷もれのないようにする。図1においては被検体30の表面から中心まですべての領域を探傷しているものとしているが、本発明はこれに限るものではなく、ある深さ領域のみ探傷するものでも良い。ただし、例えば特許文献4に記載の方法を用いて、異なる深さに対してビーム集束を行なうことができれば、より広い深さ領域において高検出能で探傷することが可能となる。1回の探傷領域は、円周方向の1/4以下程度にしておくと、構成上アレイ探触子の振動子数が少なくできることと、被っている角度が小さくなるのでアレイ探触子の交換等に有利である。探傷領域の下限については特に制約は無いが、必要以上に狭すぎると探傷回数が増えてしまうため、望ましくない。入手しやすく、探傷装置と接続する上でも扱いやすい振動子数(例えば96個)をまず選び、探傷したい欠陥の大きさにより決まる必要なビームピッチから、これと同じ振動子ピッチを決めるようにすれば探傷領域は自動的に決まる。
【0037】
図2に本発明の実施形態に用いる装置構成の一例の概略図を示す。図2(a)の横断面図に示す如く、被検体30とアレイ探触子1は、共に接触媒質である水が充満された水槽32中に浸漬される。水槽32中の被検体30を移動させる被検体移動機構34があり、これによって被検体30が図中右側の開始位置から図中左側の終了位置まで直線移動する。これにより、アレイ探触子1によって長さ方向全体を探傷することが可能である。図2においては被検体30が移動するものとしたが、本発明はこれに限るものではなく、アレイ探触子1を移動させたり、被検体30とアレイ探触子1の両方を移動させても良い。探傷装置36ではアレイ探触子1と超音波信号送受を行なうとともに被検体移動機構34から信号を取得することにより被検体30の長さ方向位置を取得する。
【0038】
一方、深さ方向に関しては、図3に概要を示す如く、アレイ探触子1の一部または全ての超音波振動子から超音波を送波し、該送波された超音波によって生起された反射波を、前記アレイ探触子1の一部または全ての超音波振動子を用いて受波し、該受波された信号をディジタルの波形信号へ変換し、前記アレイ探触子1の中から選択された複数の超音波振動子で構成される超音波振動子群の各振動子と前記被検体30内部に形成するn個(n≧2)の受波焦点との距離に基づき、前記各振動子のディジタル化された受波信号から、前記n個の焦点毎に、その焦点形成に寄与する信号を抽出して、前記n個の焦点毎に抽出した信号を加算合成することにより、集束深さを変えて広い深さ範囲での探傷を可能とする。
【0039】
なお、図3〜図5においては、簡単のため、アレイ探触子1が直線的に配列されているが、実際には円弧状に配置する。
【0040】
ここでは、素子(超音波振動子)総数96個、受波集束ビームの形成に用いる1組の素子数を24個とした場合について説明する。本実施形態では、24個の素子を用いて、その配列の下方にビーム径が小さい1つの受波ビーム(以下、ニードルビーム)を形成し、更に96個の全素子から選択が可能な24個の素子群の配列下方に受波ニードルビームを同時に形成することにより、アレイ探触子1の下に受波ニードルビームが密に並んだ受波ニードルビームカーテンを形成する例を示している。なお、本実施形態では、前記受波ニードルビームを形成するため、アレイ探触子1からの距離が異なる8個(n=8)の位置にビームが集束して焦点となるように、各素子が受波した信号から、その焦点の近傍(ビーム焦点位置を中心とした所定領域)のみの信号を抽出して、それらを加算合成することにより、前記受波ニードルビームによる受波を実現している。
【0041】
図3(単純化図)及び図4(全体図)に示すように、本実施形態では、アレイ探触子1、該アレイ探触子1の各素子11〜196から超音波を送波するため、各素子11〜196に電気パルスを印加するパルサ21〜296、各素子11〜196が受波した超音波による信号を増幅するための受波増幅器31〜396、増幅後の受波した超音波による信号をディジタル信号へ変換するA/D変換器41〜496、ディジタル化された受波信号から受波ビーム焦点の受波信号のみを抽出する信号抽出部71〜796、抽出した信号を格納する波形メモリ81〜896、及び、記憶された抽出信号を加算合成して、一点(受波ビーム焦点ともいう)に集束した受波ビームにより受波するのと等価な受波合成信号を生成する加算合成処理部9、加算合成処理部9からの信号を時間的につなぎ合わせることにより、素子1iと1i+1との間の下に形成される1つのニードルビームによって受波するのと等価な受波信号を生成する信号合成部10を有する。即ち本実施形態では、アレイ探触子11〜196の素子毎に、パルサ21〜296、受波増幅器31〜396、A/D変換器41〜496、信号抽出部71〜796、及び、波形メモリ81〜896が備えられている。但し、パルサ21〜296、受波増幅器31〜396、A/D変換器41〜496、信号抽出部71〜796、波形メモリ81〜896、加算合成処理部91〜996、信号合成部101〜1096のうち、動作の説明に用いない構成要素の図示を略している。以下の図面でも動作の説明に用いない構成要素の図示を略した。
【0042】
図5は本実施形態における受波ニードルビーム形成の考え方を示している。アレイ探触子1の全素子11〜196から超音波を送波する。また、被検体30からの超音波の反射信号(エコー)を、アレイ探触子1の全素子11〜196を用いて受波する。各素子11〜196によって受波された超音波による信号は、それぞれ図3に示した受波増幅器31〜396によって増幅された後、A/D変換器41〜496によってディジタル信号に変換される。これらディジタル化された信号の位相合わせを行ったのち、加算合成を行うことにより、図5に示したような受波集束ビームを形成できる。本実施形態では、被検体30の断面を分解能高く検査するためには、図5に破線の丸印で示した部位からの反射信号のみを抽出すればよいことに着目した。具体的には、A/D変換器41〜496によって変換された受波ディジタル信号から、信号抽出部71〜796を用いて、各素子1i-12〜1i+11と円形領域との距離に相当する時間範囲に受波された信号のみを抽出して、加算合成を行えばよい。なお、信号抽出部7は、設定部20から入力された各素子1i-12〜1i+11と円形領域との距離、および媒体中の音速などの情報にもとづき、抽出条件パラメータを設定される。図5における一点鎖線上で、破線の丸印で示した領域を複数とり、図3に示すような円形領域が切れ目なく、並ぶようにした上で(領域が切れ目なく並ぶように複数の焦点距離FRを設定する)、これら複数の領域から受波される信号のみを抽出して、加算合成を行えば、前記一点鎖線の近傍のみからの信号を受波することができる。このとき、形成される受波ビームは一点鎖線を中心とした集束ビーム径に対応した細い領域に局在するニードルビームといえる。
【0043】
図3は、上記の一点鎖線を中心とした細い領域に局在する受波ニードルビームを1本形成する単純化された構成を示している。アレイ探触子1の素子1i-12〜1i+11から距離FRS〜FREの間に受波ニードルビームを形成できるよう、受波ビームが集束する8個の領域(実線で示した円形領域)を設定している。具体的な動作は以下のとおりである。アレイ探触子1の全素子11〜196から超音波を送波する。また、被検体からの超音波の反射信号(エコー)を、アレイ探触子1の全素子11〜196を用いて受波する。各素子1i-12〜1i+11によって受波された超音波による信号は、それぞれ受波増幅器3i-12〜3i+11によって増幅された後、A/D変換器4i-12〜4i+11によってディジタル信号に変換される。信号抽出部7i-12〜7i+11は、8個の領域の中心に集束された受波ビームを形成するため、それぞれの領域から受波された信号を抽出して波形メモリ8i-12〜8i+11へ送付する。波形メモリ8i-12〜8i+11は、8個の領域(図3では8種類の模様を用いて表示)に分かれており、8個の領域から受波された信号をそれぞれ記憶するようになっている。波形メモリ8i-12〜8i+11に記録された信号は、加算合成処理部9へ送られて、加算合成される。図3において、同じ模様の波形メモリを1本の線を用いて加算合成処理部9の同じ模様の箇所へ接続しているのは、同じ領域から受波された信号を加算合成処理部9へ導いていることを表している。なお、加算合成処理においては、各素子1i-12〜1i+11と焦点との位置関係に応じて、波形メモリ8i-12〜8i+11に記憶された信号に重み付けを行なってから加算合成してもよい。このようにして加算合成処理によって得られた8個の領域に集束した受波ビームによる受波信号が信号合成部10へ送られて、1つの受波信号にまとめられる。
【0044】
次に、図6を用いて信号合成部10の動作を説明する。8個の領域のそれぞれを領域k(k=1、2、3、‥、8)と表示して識別すると、各領域kに集束した受波ビームによって得られた信号は、例えば、図6のk=1〜k=8までに示したような抽出した領域の大きさに相当する時間幅をもった信号となる。アレイ探触子1とそれぞれの領域との距離が異なるため、各領域からアレイ探触子1により受波される信号は、時間的に異なるタイミングであらわれる。信号合成部10は、これら信号を加算することにより、1つの受波信号を生成する。このようにして距離FRS〜FREの間に形成された受波ニードルビームによって受波された信号が得られる。
【0045】
図4は、アレイ探触子1の素子の下方に受波ニードルビームを同時に並べて受波ニードルビームカーテンを形成する構成を示している。この構成では、アレイ探触子1のうち、素子1j〜1j+1(j=12、13、14、‥‥、82、83、84)の下方に合計73本の受波ニードルビームが形成される。図4では、図面の煩雑化を避けるため、素子1i-13〜1i+10、素子1i-12〜1i+11、および素子1i-11〜1i+12の3箇所の位置それぞれの下に受波ニードルビームを形成する様子を示している。素子1i-13〜1i+10により形成される受波ニードルビームをNBi-1、素子1i-12〜1i+11により形成される受波ニードルビームをNBi、素子1i-11〜1i+12により形成される受波ニードルビームをNBi+1とする。アレイ探触子1、パルサ2、受波増幅器3、およびA/D変換器4の動作は既に図3を用いて説明したものと同等である。アレイ探触子1の1つの素子が同時に24箇所の位置での24本の受波ニードルビーム形成に用いられるため、合計24×8個の受波ビーム焦点近傍からの信号を各素子に接続された波形メモリに記憶する必要がある。このため、波形メモリ81〜896は24×8個の領域に分かれている。波形メモリ8へ受波信号を送り出す信号抽出部7は、各素子と24×8個の受波ビームを集束させる領域との距離に応じて、受波信号から24×8個の信号を取り出して波形メモリ8へ送付する。波形メモリ8に記録された受波信号から、例えば受波ニードルビームNBi-1による受波信号を得るためには、波形メモリ8i-13〜8i+10に記録された受波信号の中から、素子1i-13〜1i+10の下(詳しくは、素子1i-2と素子1i-1との中間の下)に設定した8個の受波ビーム焦点近傍(焦点位置を基準とした所定領域)からの信号を加算合成処理部9へ送る。これら信号は加算合成処理部9において、加算合成される。このようにして得られた8個の領域に集束した受波ビームによって得られた信号が信号合成部10へ送られて、1つの受波信号にまとめられる。このようにして距離FRS〜FREの間に形成された受波ニードルビームNBi-1によって受波された信号が得られる。他の受波ニードルビームにより受波された信号も同様のプロセスを用いて得ることができる。
【0046】
本実施形態では、説明の煩雑化を避けるため、1種類の媒体のなかで前記受波ニードルビームによる受波を行う構成を示した。金属材料の水浸探傷などのように媒体が2種類以上ある場合には、上記した距離の計算において、超音波の屈折を考慮することは言うまでもない。
【0047】
又、本実施形態では、24個の素子の下に8個の受波ビーム焦点を設定して受波ニードルビームを形成する方法を示した。これは一例であって、ビーム形成に用いる素子の数は4以上であればいくつでもよい。また、設定する受波ビーム焦点の数も被検体の厚さや必要とされる分解能・検出能に応じて自由に変更することができる。
【0048】
更に、本実施形態では、受波ビームの焦点をほぼ等間隔に一定に設定している。これも一例であって、設定する受波ビームの焦点間の距離を不等間隔とすることも可能である。一般に受波ビームの送波方向での集束範囲は、焦点とアレイ探触子との距離に応じて大きくなるので、これに応じて受波ビーム焦点間の距離を定めるようにするとよい。
【0049】
なお、焦点位置における超音波のビーム太さdWは、概ね次式のように表される。
【0050】
W=(λ・fOP)/D’ (6)
ここに、λ:超音波の波長、fOP:集束ビームの焦点距離、D’:グループ化された振動子の幅(素子ピッチ×素子数に相当)
【0051】
従って、振動子幅D’を一定としたまま、焦点距離fOPを大きくすると、ビーム太さdWが大きくなるので、焦点距離fOPに応じて所望のビーム径となるように振動子幅D’を変更する構成も可能である。具体的には、焦点距離fOPに応じて受波ニードルビーム形成に用いる素子の数を変更するとよい。
【0052】
図7に本発明における探傷の一例の手順を示す。
【0053】
まず、ステップ100で、被検体30に対する角度マーキング(図1参照)を行なう(必要な場合のみ)。これは被検体30の角度設定を手動で行なう場合に必要となるものであり、探傷回数毎の角度設定をマーキングしておく。
【0054】
次いで、ステップ110で、被検体30を、図2(b)中に例示した所定開始位置に配置・設定する(角度設定含む)。この配置・設定は手動でも自動でも良い。自動化すれば作業を簡略化・高速化できる。一方、手動で行なうことにすれば、被検体移動機構34による動作を被検体30又は/及びアレイ探触子1の直線動作のみとすることができ、装置を簡素化できる。
【0055】
次いで、ステップ120で、被検体30又は/及びアレイ探触子1を移動させて被検体30全長をスキャンする。
【0056】
次いで、ステップ110、120を、被検体30全周の探傷が完了するまで行なう。
【0057】
全周分の探傷データが取得できたら、ステップ140で、そのデータを結合する(必要な場合のみ)。データの結合は角度毎のデータ取得後に行なっても良いし、角度毎のデータ取得と同時に行なっても良い。
【0058】
ここで、探傷を繰り返し行なう上で、探傷方向については往復で探傷しても良いし、1方向でのみ探傷することとしても良い。
【0059】
次にステップ140のデータ結合の方法の一例を、図8、図9を用いて詳細に説明する。
【0060】
図8は1回のスキャンで得られる1領域データの平面表示を示したものである。この表示は、被検体の長さ方向位置及び円周方向位置(角度)(アレイ探触子の使用振動子により決定)毎に欠陥エコー高さを抽出し、表示することにより得られる。欠陥エコーの検出ゲートは、例えば表面エコーを基準に設定する。また、図8では表面エコーの有無により被検体端部を検出している。即ち、被検体が存在しない図8(a)では表面エコーが存在せず、被検体内に欠陥が存在しない図8(b)では表面エコーのみが存在し、被検体内に欠陥がある図8(c)では表面エコーと欠陥エコーが存在する。
【0061】
図9は領域毎のデータを結合する方法の概要である。領域毎のデータを円周方向に結合することによって全円周の探傷データの平面図が得られる。このとき、図9では、被検体端部を基準にデータの整列(平行移動+伸縮)を行なっている。これにより、各領域毎に長さ方向位置にずれがあっても正しくデータを結合することができ、従って図2における被検体スキャン開始位置等にずれがあっても正しくデータを結合することができる。
【0062】
なお、ステップ140のデータ結合については必須ではなく、1領域データ毎に別々に評価しても良い。又、長さ方向についても、用途によっては全長を探傷しなくても良い。
【実施例】
【0063】
図10に本発明の一実施例におけるビーム形成の略図を示す。図11に前記実施例により取得した被検体の全長・半周の探傷結果を示す。
【0064】
本実施例において使用したアレイ探触子は、周波数50MHz、φ58mm、0.29mmピッチ、振動子数96である。図3〜図6に示される方法を用い、32個の振動子による受信ビームを、被検体中心に向けて65本形成している。ビームピッチは角度で表すと0.57°であり、1回の探傷での円周方向探傷領域は37.2°である。被検体はφ32mm×1000mmの丸棒鋼試験片であり、φ0.3mm、φ0.5mm、φ1.0mmの平底穴人工欠陥を複数作製している。
【0065】
本実施例では円周方向を図1と同様に10分割して、それぞれの領域に対して探傷を行ない、結果を結合した。結合したデータのピッチは、長さ方向0.062mm,円周方向0.57°であり、データ点数は長さ方向16501点(被検体端部外を含む)×円周方向650点(円周方向領域37.2°>36°による重複を含む)である。
【0066】
ゲートは表面より深さ2mm(表面不感帯分を除く)〜16mmと設定した。この場合、深さ2mmでの円周方向データピッチは0.14mmとなる。
【0067】
図11において、一部の欠陥指示が円周方向に広がっているのは、人工欠陥が中心に近く、どの角度でも検出されるためである。円周方向の探傷を半周としたのは、ドリルで反対側から形成した人工欠陥の側面からの反射を避けるためである。
【0068】
図12に従来技術によるビーム形成の略図を示す。従来技術では全周に振動子を配置する必要があるため、本実施例と同等のビームピッチで探傷するためには、全周アレイの場合632個(=360°÷0.57°)の振動子が、特許文献1に記載の千鳥配置では960個(=96×10)の振動子が必要になる。振動子が増えれば各振動子に対する配線や送受信装置、信号変換装置(A/D変換など)なども比例して増えていくため、従来技術による探傷では装置構成は非常に繁雑かつ高コストとなる。
【符号の説明】
【0069】
1…アレイ探触子
30…被検体(丸棒鋼)
32…水槽
34…被検体移動機構
36…探傷装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水浸超音波探傷による丸棒鋼の内部欠陥探傷方法であって、
前記丸棒鋼に対向し該丸棒鋼の中心軸を中心とした略円周面状の探触子面に複数の励起素子が整列し、前記探触子面と前記丸棒鋼の表面とが所定の水距離を有するように配置されたアレイ探触子を用い、
該アレイ探触子から前記丸棒鋼内部へ超音波を送受して集束超音波ビームを形成し、
内部欠陥の探傷を行ないながらアレイ探触子と前記丸棒鋼との丸棒鋼長さ方向の相対位置を変化させて丸棒鋼長さ方向毎の探傷結果を保存し、
前記長さ方向の探傷を、前記集束超音波ビームが前記丸棒鋼内部で形成される位置がそれぞれ異なるように前記アレイ探触子と前記丸棒鋼周方向の相対位置を変化させつつ複数回行なうことを特徴とする丸棒鋼の超音波探傷方法。
【請求項2】
前記集束超音波ビームは、前記丸棒鋼内部において、該丸棒鋼の中心軸を中心とした円周面に対してビーム半径以下の間隔毎に形成され、かつ、
前記複数回の長さ方向の探傷の結果として、前記円周面上のどの点においても少なくとも1回以上ビームが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の丸棒鋼の超音波探傷方法。
【請求項3】
前記複数回の長さ方向の探傷結果を合成することにより、丸棒鋼の全長及び全周についての欠陥分布を表示することを特徴とする請求項2に記載の丸棒鋼の超音波探傷方法。
【請求項4】
前記探傷結果の合成において、各々の探傷結果において前記丸棒鋼被検体長さ方向の端部を検出して、該端部の位置を基準に整列して合成することを特徴とする請求項3に記載の丸棒鋼の超音波探傷方法。
【請求項5】
前記集束超音波ビームの前記丸棒鋼内部における集束深さを変えることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の丸棒鋼の超音波探傷方法。
【請求項6】
水浸超音波探傷による丸棒鋼の内部欠陥探傷装置であって、
前記丸棒鋼内部へ超音波を送受して集束超音波ビームを形成するための、前記丸棒鋼に対向し該丸棒鋼の中心軸を中心とした略円周面状の探触子面に複数の励起素子が整列し、前記探触子面と前記丸棒鋼の表面とが所定の水距離を有するように配置されたアレイ探触子と、
該アレイ探触子を用いて内部欠陥の探傷を行ないながら該アレイ探触子と前記丸棒鋼との丸棒鋼長さ方向の相対位置を変化させて丸棒鋼長さ方向毎の探傷結果を保存する手段と、
前記長さ方向の探傷を、前記集束超音波ビームが前記丸棒鋼内部で形成される位置がそれぞれ異なるように前記アレイ探触子と前記丸棒鋼周方向の相対位置を変化させつつ複数回行なう手段と、
を備えたことを特徴とする丸棒鋼の超音波探傷装置。
【請求項7】
前記集束超音波ビームは、前記丸棒鋼内部において、該丸棒鋼の中心軸を中心とした円周面に対してビーム半径以下の間隔毎に形成され、かつ、
前記複数回の長さ方向の探傷の結果として、前記円周面上のどの点においても少なくとも1回以上ビームが形成されていることを特徴とする請求項6に記載の丸棒鋼の超音波探傷装置。
【請求項8】
前記複数回の長さ方向の探傷結果を合成することにより、丸棒鋼の全長及び全周についての欠陥分布を表示することを特徴とする請求項7に記載の丸棒鋼の超音波探傷装置。
【請求項9】
前記探傷結果の合成において、各々の探傷結果において前記丸棒鋼被検体長さ方向の端部を検出して、該端部の位置を基準に整列して合成することを特徴とする請求項8に記載の丸棒鋼の超音波探傷装置。
【請求項10】
前記集束超音波ビームの前記丸棒鋼内部における集束深さを変える手段を備えたことを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の丸棒鋼の超音波探傷装置。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−2961(P2013−2961A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134406(P2011−134406)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】