説明

丸編みされた結晶性炭化ケイ素系繊維構造物で強化された炭化ケイ素系複合材料

【課題】本発明は、複雑な形状に成形可能な、炭化ケイ素を結晶質炭化ケイ素系繊維構造物で強化した複合材料(SiC/SiC複合材料)、及びその製造方法を提供する
【解決手段】Si、C、O及びAlを含む非晶質炭化ケイ素系繊維が丸編みされてなる非晶質炭化ケイ素系繊維構造物、及び該非晶質炭化ケイ素系繊維構造物を用いて得られる炭化ケイ素を結晶質炭化ケイ素系繊維構造物で強化した複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、丸編みされた結晶性炭化ケイ素系繊維構造物で強化された炭化ケイ素系複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス繊維で強化されたセラミックス基複合材料は金属にはない優れた耐熱性と従来の単相のセラミックスにはない損傷許容性から次世代の耐熱材料として開発が進められている。この中でも炭化ケイ素を炭化ケイ素系繊維で強化した複合材料(以下SiC/SiC複合材料とも記す)は特に注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、炭化ケイ素質と導電性無機物質との複合層からなる繊維と、絶縁性マトリックスとの複合材料からなる電磁波吸収材が記載され、その実施例では、ドラムワインダーを用いて該繊維を巻き取り、加熱処理してプリプレグを調製することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、炭化ケイ素繊維からなるセラミック繊維又はクロスをフィラメントワインディング法により容器形状を形成することが記載されている。
【0005】
特許文献3には、結晶性炭化ケイ素系繊維を3次元織物に製織し、熱処理して炭化ケイ素系セラミックス繊維を得ることが記載されている。
【0006】
しかし、これらの繊維又は織物を補強材に用いたSiC/SiC複合材料では、その繊維方向への異方性が存在するため、得られる複合材料の耐応力や衝撃強度に難があった。また、繊維又は織物では、成形時の型がシンプルな形状に限定され、複雑な形状を有する黒鉛型には追随できないことから、SiC/SiC複合材料も複雑な形状のものを製造することができなかった。
【0007】
また、特許文献4〜6には、密度が2.7〜3.2g/cm3 であり、所定の重量割合で、Si、C、Al、及びV又はBからなる結晶性炭化ケイ素系繊維が記載されている。この繊維は極めて高い強度及び弾性率を有することが記載されている。
【0008】
しかし、この結晶性炭化ケイ素系繊維は極めて高い強度及び弾性率を有するため、平織、朱子織等の織物、そのシート状物、その積層物、不織布等の伸縮性に乏しい形態しか形成できなかった(例えば、特許文献6の段落0018、実施例4等を参照)。そのため、これらの繊維又は織物を補強材に用いたSiC/SiC複合材料は、複雑な形状のものを製造することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−133782号公報
【特許文献2】特開2006−10339号公報
【特許文献3】特開2004−277890号公報
【特許文献4】特許3417459号
【特許文献5】特許3381589号
【特許文献6】特許3979311号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、複雑な形状に成形可能な、炭化ケイ素を結晶質炭化ケイ素系繊維構造物で強化した複合材料(SiC/SiC複合材料)、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、所定のSi、C、O、Al、及び必要に応じB、Y、MgまたはV等を含む非晶質炭化ケイ素系繊維を丸編みすることにより、筒状の非晶質炭化ケイ素系繊維構造物が得られ、該構造物は伸縮自在であるため複雑な形状を有する型に追随できることを見いだした。
【0012】
また、該丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物に炭化ケイ素系粉末を含むスラリーを含浸させて、又は該非晶質炭化ケイ素系繊維構造物と炭化ケイ素系粉末を含むグリーンシートを積層してプリプレグシートを形成し、これを加熱処理(焼結)することにより、炭化ケイ素が結晶質炭化ケイ素系繊維構造物で強化された複合材料(SiC/SiC複合材料)が得られることを見いだした。該SiC/SiC複合材料は、強化材として伸縮自在の丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物を用いているため、多様性のある形状への成形が可能であり、かつ優れた耐熱性、衝撃強度、耐摩耗性、擬延性等を有することを見いだした。
【0013】
かかる知見に基づきさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。本発明は、下記の炭化ケイ素を結晶質炭化ケイ素系繊維構造物で強化した複合材料(SiC/SiC複合材料)を提供する。
【0014】
項1.Si、C、O及びAlを含む非晶質炭化ケイ素系繊維が丸編みされてなる非晶質炭化ケイ素系繊維構造物。
【0015】
項2.非晶質炭化ケイ素繊維が、Siを45〜60重量%、Cを25〜40重量%、Oを8〜20重量%、及びAlを0.05〜3重量%含有する項1に記載の非晶質炭化ケイ素系繊維構造物。
【0016】
項3.繊維表面が炭素でコーティングされてなる項1又は2に記載の丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物。
【0017】
項4.項1、2又は3に記載の丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物に炭化ケイ素系粉末を含むスラリーを含浸してなるプリプレグシート。
【0018】
項5.項1、2又は3に記載の丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物と炭化ケイ素系粉末を含むグリーンシートを積層してなるプリプレグシート。
【0019】
項6.項1、2又は3に記載の丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物を加熱処理して得られる丸編みされた結晶質炭化ケイ素系繊維構造物に、炭化ケイ素系粉末を含むスラリーを含浸してなるプリプレグシート。
【0020】
項7.項1、2又は3に記載の丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物を加熱処理して得られる丸編みされた結晶質炭化ケイ素系繊維構造物に、炭化ケイ素系粉末を含むグリーンシートを積層してなるプリプレグシート。
【0021】
項8.項4〜7のいずれかに記載のプリプレグシートを製品形状に成形してなるプリフォーム。
【0022】
項9.項8に記載のプリフォームを加熱処理して得られる、炭化ケイ素が、丸編みされたSi、C及びAlを含む結晶質炭化ケイ素系繊維構造物で強化されてなる炭化ケイ素系複合材料。
【0023】
項10.結晶質炭化ケイ素系繊維構造物が、Siを55〜70重量%、Cを27〜42重量%、Alを0.06〜3.8重量%含有する結晶質炭化ケイ素系繊維からなる項9に記載の炭化ケイ素系複合材料。
【0024】
項11.炭化ケイ素が、丸編みされたSi、C及びAlを含む結晶質炭化ケイ素系繊維構造物で強化されてなる炭化ケイ素系複合材料の製法であって、
(1)Si、C、O及びAlを含む非晶質炭化ケイ素系繊維を丸編みして非晶質炭化ケイ素系繊維構造物を製造する工程、
(2)(a)該丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物に炭化ケイ素系粉末を含むスラリーを含浸してプリプレグシートを製造する工程、又は(b)該丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物と炭化ケイ素系粉末を含むグリーンシートを積層してプリプレグシートを製造する工程、
(3)該プリプレグシートを製品形状に成形してプリフォームを製造する工程、及び
(4)該プリフォームを加熱処理する工程、
を含む製法。
【0025】
項12.炭化ケイ素が、丸編みされたSi、C及びAlを含む結晶質炭化ケイ素系繊維構造物で強化されてなる炭化ケイ素系複合材料の製法であって、
(1)Si、C、O及びAlを含む非晶質炭化ケイ素系繊維を丸編みして非晶質炭化ケイ素系繊維構造物を製造する工程、
(2)該非晶質炭化ケイ素系繊維構造物を加熱処理して丸編みされた結晶質炭化ケイ素系繊維構造物を製造する工程、
(3)(a)該丸編みされた結晶質炭化ケイ素系繊維構造物に炭化ケイ素系粉末を含むスラリーを含浸してプリプレグシートを製造する工程、又は(b) 該丸編みされた結晶質炭化ケイ素系繊維構造物と炭化ケイ素系粉末を含むグリーンシートを積層してプリプレグシートを製造する工程、
(4)該プリプレグシートを製品形状に成形してプリフォームを製造する工程、及び
(5)該プリフォームを加熱処理する工程、
を含む製法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の丸編みされた結晶質炭化ケイ素系繊維構造物で強化された炭化ケイ素系複合材料(SiC/SiC複合材料)は、丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物に炭化ケイ素系粉末を含むスラリーを含浸させて、又は該非晶質炭化ケイ素系繊維構造物と炭化ケイ素系粉末を含むグリーンシートを積層してプリプレグシートを形成し、これを加熱処理(焼結)することにより得ることができる。
【0027】
丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物は、柔軟性を有するSi、C、O及びAlを含む非晶質炭化ケイ素系繊維の段階で丸編みすることが可能であり、該構造物は複雑な形状を有する型に追随できかつ等方性を有するため、該丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物と炭化ケイ素系粉末から得られるプリフォームは多様性のある形状に成形可能である。
【0028】
次いで、該プリフォームを加熱処理して得られるSiC/SiC複合材料も多様性のある形状を有する成形品となる。また、加熱処理により、強化材である炭化ケイ素系繊維構造物は非晶質から結晶質に変換されるため、得られたSiC/SiC複合材料は優れた耐熱性、衝撃強度、耐摩耗性、擬延性等を有することになる。
【0029】
或いは、前記丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物は、一旦加熱処理して所定の形状を有する丸編みされた結晶質炭化ケイ素系繊維構造物とし、これと炭化ケイ素系粉末からプリフォームを形成することもできる。このプリフォームを加熱処理して、SiC/SiC複合材料を得ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1a】実施例1で得られる非晶質炭化ケイ素繊維からなる筒編み生地の(a)タテ伸張状態の写真を示す。
【図1b】実施例1で得られる非晶質炭化ケイ素繊維からなる筒編み生地の(b)リラックス状態の写真を示す。
【図1c】実施例1で得られる非晶質炭化ケイ素繊維からなる筒編み生地の(c)ヨコ伸張状態の写真を示す。
【図2】実施例1で得られる非晶質炭化ケイ素繊維からな筒編み生地をくびれのある管に被覆(追従)させた状態の写真を示す。
【図3】実施例1で得られる非晶質炭化ケイ素繊維からなる筒編み生地を径が変化する基材に被覆(追従)させた状態の写真を示す。
【図4】実施例1で得られる非晶質炭化ケイ素繊維からなる筒編み生地を曲管に被覆させた状態の写真を示す。
【図5】製造例3で得られる非晶質炭化ケイ素繊維の断面写真である。
【図6】実施例1で得られる結晶質炭化ケイ素繊維の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、丸編みされたSi、C、O及びAlを含む非晶質炭化ケイ素系繊維構造物と炭化ケイ素系粉末とを含む材料を成形してプリフォームとし、これを加熱処理して得られる、Si、C及びAlを含む結晶質炭化ケイ素系繊維構造物で強化されてなる炭化ケイ素系複合材料(SiC/SiC複合材料)に関する。結晶質炭化ケイ素系繊維構造物は、SiCマトリックスの強化材として働く。得られるSiC/SiC複合材料は、加熱処理前の丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物のフレキシブル性に起因して、多様性のある形状に成形することが可能となる。
【0032】
本発明で用いる非晶質炭化ケイ素系繊維は公知のものを採用することができる(例えば、特許文献4〜6を参照)。非晶質炭化ケイ素系繊維とは、例えば、Si、C、O及びAlを含む結晶質炭化ケイ素系繊維であり、その組成として重量割合で、Siを45〜60重量%(好ましくは50〜57重量%)、Cを25〜40重量%(好ましくは25〜37重量%)、O:8〜20重量%(好ましくは8〜17重量%)、Alを0.06〜3.8重量%(好ましくは0.1〜2重量%)を含む繊維が挙げられる。
【0033】
該繊維には、さらに必要に応じBを0.05〜0.4重量%(好ましくは0.05〜0.15重量%)含んでいてもよい。
【0034】
該繊維には、さらに必要に応じBを0〜0.1重量%、Yを0.05〜3重量%(好ましくは0.1〜1重量%)及び/又はMgを0.05〜3重量%(好ましくは0.1〜1重量%)含んでいてもよい。
【0035】
該繊維には、さらに必要に応じVを0.03〜3重量%(好ましくは0.06〜2.2重量%)含んでいてもよい。
【0036】
非晶質炭化ケイ素系繊維は、例えば、「有機ケイ素化合物の化学」化学同人(1972年)に記載の方法に従って調製することができる。例えば、1種類以上のジクロロシランをナトリウムによって脱塩素反応させて鎖状又は環状のポリシランを調製する。鎖状又は環状のポリシランの数平均分子量は通常300〜1000である。
【0037】
ポリシランは、上記の鎖状又は環状のポリシランを400〜700℃の範囲の温度に加熱することにより得られる。あるいは、ポリシランは上記の鎖状又は環状のポリシランにフェニル基含有ポリボロシロキサンを添加して250〜500℃の範囲の温度に加熱することによって得ることもできる。フェニル基含有ポリボロシロキサンは、特公昭53−42330号公報及び同53−50299号公報に記載の方法に従い、ホウ酸と1種類以上のジオルガノクロロシランとの脱塩酸縮合反応によって調製することができ、その数平均分子量は通常500〜10000である。
【0038】
ポリシランには、一部にカルボシラン結合を有するポリシランも包含する。ポリシランは、ケイ素の側鎖として、水素原子、低級アルキル基、アリ−ル基、フェニル基あるいはシリル基を有することができる。
【0039】
ついで、ポリシランに対して、アルミニウム化合物、必要に応じイットリウム化合物、マグネシウム化合物、及び/又はバナジウム化合物等の所定量を添加して変性有機ケイ素重合体を調製することができる。アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムのアルコキシド(例えば、アルミニウム−トリ(sec−ブトキシド)等)、アセチルアセトキシド化合物、カルボニル化合物、又はシクロペンタジエニル化合物等が挙げられる。イットリウム化合物としては、例えば、イットリウムアセチルアセトネート等が挙げられる。マグネシウム化合物としては、例えば、マグネシウムアセチルアセトネート等が挙げられる。バナジウム化合物としては、例えば、バナジウム(III)アセチルアセトネート等、その他塩化バナジウム等が挙げられる。
【0040】
上記の各化合物の使用量(添加量)については、それぞれポリシラン1g当たり、アルミニウム化合物は通常0.14〜0.86ミリモル(好ましくは0.14〜0.54ミリモル)、イットリウム化合物は通常0.04〜0.27ミリモル(好ましくは0.04〜0.15ミリモル)、マグネシウム化合物は通常0.13〜0.88ミリモル(好ましくは0.13〜0.55ミリモル)、バナジウム化合物は0.07〜0.46ミリモル(好ましくは0.07〜0.24ミリモル)である。添加後の混合物を、不活性ガス中、加熱処理(通常250〜350℃の範囲の温度で1〜10時間反応)することにより、紡糸原料である変性有機ケイ素重合体を調製することができる。
【0041】
上記の変性有機ケイ素重合体を、溶融紡糸、乾式紡糸等の公知の方法によって紡糸して、紡糸繊維を調製する。つぎに、この紡糸繊維を不融化処理して非晶質炭化ケイ素系繊維を調製する。不融化方法としては、一般に行われている空気中での加熱、あるいは空気中での加熱と不活性ガス中での加熱を組合せた方法が好ましく採用されうる。
【0042】
不融化繊維を、窒素、アルゴンのような不活性ガス中、800℃から1500℃の範囲の温度で加熱処理して、本発明の結晶性炭化ケイ素繊維の前駆繊維である、非晶質炭化ケイ素繊維が調製される。
【0043】
非晶質炭化ケイ素系繊維の密度が2.3〜3.2g/cm、好ましくは2.7〜3.1g/cmのものが挙げられる。
【0044】
より具体的な非晶質炭化ケイ素系繊維の製造方法を次に示す。
【0045】
Si、C、O及びAlを含む結晶質炭化ケイ素系繊維の製造方法としては、例えば、ポリカルボシランを溶解したキシレン溶液にアルミニウム−トリ(sec−ブトキシド)を加え、窒素ガス気流下に300〜350℃程度で熱処理して架橋反応させることによって、ポリアルミノカルボシランを得る。このアルミノカルボシランを240〜270℃程度で溶融紡糸した後、空気中で130〜170℃で加熱処理した後、さらに窒素中で280〜330℃で加熱して不融化繊維を得る。この不融化繊維を窒素中、1300〜1500℃程度で連続焼成し、非晶質炭化ケイ素繊維を得る。
【0046】
Si、C、O、Al及びBを含む結晶質炭化ケイ素系繊維の製造方法としては、例えば、ポリジメチルシラン及びフェニル基含有ポリボロシロキサンを混合し、窒素ガス雰囲気中、300〜400℃で熱縮合して、高分子量の有機ケイ素重合体を得る。この有機ケイ素重合体を溶解したキシレン溶液にアルミニウム−トリ(sec−ブトキシド)を加え、窒素ガス気流下に280〜330℃で架橋反応させることによって、ポリアルミノカルボシランを得る。このポリアルミノカルボシランを220〜270℃で溶融紡糸した後、空気中130〜170℃で加熱処理した後、さらに窒素中280〜330℃加熱して、不融化繊維を得る。不融化繊維を窒素中1400〜1600℃で連続焼成し、非晶質炭化ケイ素繊維を得る。
【0047】
Si、C、O、Al及びYを含む結晶質炭化ケイ素系繊維の製造方法としては、例えば、ポリジメチルシラン及びフェニル基含有ポリボロシロキサンを混合し、窒素ガス雰囲気中、350〜450℃で熱縮合して、高分子量の有機ケイ素重合体を得る。この有機ケイ素重合体を溶解したキシレン溶液にアルミニウム−トリ(sec−ブトキシド)及びイットリウムアセチルアセトネートを加え、窒素ガス気流下に280〜330℃で架橋反応させることによって、アルミニウム並びにイットリウムが導入された変成ポリカルボシランを得る。この変成ポリカルボシランを230〜290℃で溶融紡糸した後、空気中130〜170℃で加熱処理し、さらに窒素中280〜330℃で加熱して、不融化繊維を得る。不融化繊維をアルゴン中1400〜1500℃で連続焼成し、非晶質炭化ケイ素繊維を合成する。
【0048】
Si、C、O、Al及びMgを含む結晶質炭化ケイ素系繊維の製造方法としては、例えば、ポリジメチルシラン及びフェニル基含有ポリボロシロキサンを混合し、窒素ガス雰囲気中、350〜460℃で熱縮合して、高分子量の有機ケイ素重合体を得る。この有機ケイ素重合体を溶解したキシレン溶液にアルミニウム−トリ(sec−ブトキシド)及びマグネシウムアセチルアセトネートを加え、窒素ガス気流下に280〜330℃で架橋反応させることによって、アルミニウム並びにマグネシウムが導入された変成ポリカルボシランを得る。この変成ポリカルボシランを230〜290℃で溶融紡糸した後、空気中130〜170℃で加熱処理し、さらに窒素中280〜330℃で加熱して、不融化繊維を得る。不融化繊維をアルゴン中1400〜1500℃で連続焼成し、非晶質炭化ケイ素繊維を合成する。
【0049】
Si、C、O、Al及びVを含む結晶質炭化ケイ素系繊維の製造方法としては、例えば、ポリジメチルシランを、窒素ガス雰囲気中、450〜500℃で熱縮合して、高分子量のポリカルボシランを得る。このポリカルボシランを溶解したキシレン溶液に、アルミニウム−トリ(sec−ブトキシド)及びバナジウム(III)アセチルアセトネートを加え、窒素ガス気流下に280〜330℃で架橋反応させることによって、アルミニウム並びにバナジウムが導入された変成ポリカルボシランを得る。この変成ポリカルボシランを230〜290℃で溶融紡糸した後、空気中130〜170℃で加熱処理した後、これを更に窒素中280〜330℃で加熱して不融化繊維を得る。この不融化繊維を窒素中1200〜1300℃で連続焼成し、非晶質炭化ケイ素繊維を合成する。
【0050】
非晶質炭化ケイ素系繊維は丸編みに供されるため、編み立てのし易さの観点からは、フィラメントの平均径は、通常5〜15μm程度、特に7.5〜10μmであることが好ましい。また、フィラメント数は、通常400〜3200フィラメント程度、特に800〜1600フィラメントであることが好ましい。繊度(繊維束の太さ)を表すテックス(g/1000m)は、通常100〜350t程度、特に170〜220tであることが好ましい。
【0051】
非晶質炭化ケイ素系繊維の表面は、必要に応じてコーティングを施してもよい。コーティングする材料としては、カーボン(C)、窒化ホウ素(BN)、ケイ素(Si)等が挙げられ、好ましくはCである。緻密で均一な界面の形成が容易な点からは、例えば、CVD(化学的気相堆積法)-カーボンコーティング、CVD-BNコーティング、CVD-Siコーティングの1種あるいは2種以上の組合せのコーティングを用いることが好ましい。コーティングの厚みは、通常1μm以下、好ましくは0.05〜0.6μmである。このようなコーティングを施すことにより、焼結工程における繊維の損傷やSiC/SiC複合材料の機械的損傷に対する許容性を増大させることができる。なお、上記のコーティング処理は、非晶質炭化ケイ素系繊維に行っても良いし、又は該繊維を丸編みした後の構造物に行っても良い。
【0052】
或いは、非晶質炭化ケイ素繊維又はその丸編み構造物を加熱処理(例えば、1480℃〜1600℃程度)して、繊維内の過剰な酸素(O)と炭素(C)とを一酸化炭素(CO)ガスとして排出させて、一旦、微結晶状態の炭化ケイ素繊維又はその丸編み構造物とし、これに上記のコーティング処理を行ってもよい。
【0053】
また、非晶質炭化ケイ素繊維から加熱処理にてCOガスを排出させて得られる微結晶状態の炭化ケイ素繊維を、必要に応じ上記のコーティング処理を施した後、上記丸編みに供することも可能である。
【0054】
本発明に係る非晶質炭化ケイ素系繊維構造物は、非晶質炭化ケイ素系繊維の連続繊維束からなる緯編地が好ましく、特に緯丸編地が好ましい。丸編地は端部が存在せず、薄く均一な連続組織を得やすい点で好ましく、平編(天竺編みとも言う)やゴム編(リブ編とも言う)、パール編(リンクス編とも言う)の中から選択される組織の緯丸編地が好ましい。また、前記組織の変化組織を採用し、伸縮しやすい方向や繊維密度をコントロールすることもできる。このような緯丸編地の例として、あぜ編、スムース、かの子、テレコ、メッシュのような緯丸編地が挙げられる。本発明における丸編地の各種組織を実現する上で、ニット、タック、ミス(ウェルト)、目移し、インレイ(挿入)等の各操作を適宜組み合わせて利用することができる。なかでも、平編(天竺編)、ゴム編、パール編のいずれかから選択される編組織を全針ニット編した緯丸編地が、ループの曲率を、編地全体に渡り均一にしやすい点で、特に好ましい。
【0055】
非晶質炭化ケイ素系繊維は、特許文献4〜6に示されるような結晶質炭化ケイ素系繊維と異なりせん断に対する強度が高いため、上記丸編みに供することができる。経編地は、ループからループに渡る繊維の直線部が存在するため、ループと直線部が混在するという点で不均一な組織となりやすい。経編地は、緯編地に比較して繊維が直線的に配される部分が多いため、複雑形状に賦形する際に繊維に毛羽や折損が生じやすい傾向にあり、さらにはループの曲率が大きく(曲率半径が小さく)なりやすい傾向があり、これによっても繊維に毛羽や折損が生じやすい傾向にある。
【0056】
得られた丸編み(筒編み)生地は、一般的には度目(0.5インチ当たりの編目の数)が5〜10、好ましくは6〜8であり、目付が200〜500g/m、好ましくは250〜450g/mである。この丸編み生地では、織物やフィラメントワインディングと異なり、形状の変形がフレキシブルであり(360度いずれの方向にも伸縮可能であり)等方性を有する。そのため、得られるSiC/SiC複合材料は、多様な形状に成形可能であり、かつあらゆる方向からの衝撃強度に優れるという利点がある。
【0057】
上記の丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物からプリプレグシートの製造は、通常の方法によって実施できる。具体的には、例えば、丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物を炭化ケイ素粉体と有機バインダーと分散剤とからなるスラリー中を通過させ、該非晶質炭化ケイ素系繊維構造物に炭化ケイ素粉体と有機バインダーを含浸させ、これを巻き取り、乾燥させることにより製造できる。或いは、上記の方法で製造される丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物と炭化ケイ素系粉末を含むグリーンシートを積層(例えば、2〜10層積層)してなるプリプレグシートとすることもできる。
【0058】
炭化ケイ素粉体は、その粒子径は、通常10nm〜2μm程度、好ましくは10nm〜1.5μm程度である。炭化ケイ素は焼結助剤を配合したものが好ましく、焼結助剤とし、例えばAl2 3、Y2 3、SiO2等が挙げられる。
【0059】
この際に使用する有機バインダー及び分散剤としては、通常、炭化ケイ素成形品に用いられるものであれば、特に制限なく用いることができる。丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物とマトリックスとなる炭化ケイ素粉体の重量比は、通常25/75〜75/25であり、好ましくは40/60〜60/40である。上述したように、必要に応じて、非晶質炭化ケイ素系繊維の表面にあらかじめ、炭素、窒化ホウ素、ケイ素等を化学気相蒸着法(CVD法)等によりコーティングしておくことが望ましい。
【0060】
本発明のプリフォームは、上記プリプレグシートを所定の形状を有する黒鉛型(基材)に被覆することにより製品形状に成形される。被覆の方法は特に限定はなく、例えば、形状が角柱状、円柱状の黒鉛型の場合には、プリプレグシートを黒鉛型に巻き付ける(倦回する)ことにより被覆できる(例えば図4)。巻き付けの積層回数は特に限定はないが、通常、最終的に得られる成形品の厚みが1mm以上、特に1〜15mmになるように巻き付ければよい。
【0061】
或いは、プリフォームは、丸編みされた筒状の非晶質炭化ケイ素系繊維構造物を黒鉛型に被覆して(例えば図3)、炭化ケイ素粉体と有機バインダーと分散剤とからなるスラリーを塗布することにより成形することもできる。塗布の方法は特に限定はなく、通常、最終的に得られる成形品の厚みが1mm以上、特に1〜15mmになるように塗布すればよい。
【0062】
さらに、プリフォームは、黒鉛型に被覆した丸編みされた筒状の非晶質炭化ケイ素系繊維構造物に、又はそれにスラリーを塗布した構造物に、前記グリーンシート又はプリプレグシートを被覆することにより成形することもできる。
【0063】
炭化ケイ素成形品の前駆体であるプリフォームは、黒鉛型への被覆により形成されるため、黒鉛型の形状に応じ任意の形状に成形することができる。この黒鉛型の形状は特に限定はなく、例えば、棒状、円柱状、角柱状(三角柱、四角柱等)、円錐、角錐(三角錐、四角錐等)等が例示でき、前記形状の複数を組み合わせた形状であってもよい。
【0064】
上記のプリフォームを、ホットプレス(HP)処理、熱間等方圧プレス(HIP)処理等の加熱処理することにより、炭化ケイ素が、丸編みされた結晶質炭化ケイ素系繊維構造物で強化されてなる炭化ケイ素系複合材料(SiC/SiC複合材料)、乃至該複合材料からなる炭化ケイ素成形品を製造することができる。
【0065】
ホットプレス(HP)処理の場合は、プリフォームを、例えば、不活性ガス(例えば窒素、アルゴン等)雰囲気下、1600〜2200℃(好ましくは1700〜2000℃)で、10〜40MPa(好ましくは15〜30MPa)で処理することができる。
【0066】
熱間等方圧プレス(HIP)処理の場合は、通常、カーボンシートでプリフォームの表面を覆う。続いて、表面を覆ったプリフォームをガラスカプセルに真空封入してHIP処理を行う。ガラスカプセルの材質として、例えば、HIP処理温度が1800℃付近であれば、コーニング社の高シリカガラスである「バイコール(登録商標)」や東ソー社の石英ガラスである「クウォーツ ESグレード」を用いることができる。HIP処理は、不活性ガス(アルゴン等)雰囲気下で、通常1700〜2000℃にて、30〜60MPa程度で処理される。
【0067】
HIP処理で得られた黒鉛型を有する炭化ケイ素成形品は、酸素を含む雰囲気下で400℃以上1300℃未満の温度で加熱処理する。これにより黒鉛型を除去し炭化ケイ素成形品を得る。酸素を含む雰囲気下での加熱は、好ましくは400〜1200℃、より好ましくは700〜1150℃である。処理時間は黒鉛が焼失する程度であればよく、通常、1〜48時間、好ましくは3〜24時間である。
【0068】
炭化ケイ素系複合材料(SiC/SiC複合材料)では、プリフォーム中の非晶質炭化ケイ素系繊維構造物が加熱処理により結晶質炭化ケイ素系繊維構造物に変換されている。該結晶質炭化ケイ素系繊維構造物は、重量割合で、例えば、Si:55〜70重量%(特に62〜70重量%)、C:28〜43重量%(特に29〜37重量%)、Al:0.06〜3.8重量%(特に0.13〜1.25重量%)、B:0.06〜0.5重量%(特に0.06〜0.19重量%)の結晶質炭化ケイ素系繊維から構成される。
【0069】
さらに、イットリウム(Y)及び/又はマグネシウム(Mg)を含む場合には、例えば、Si:55〜70重量%(特に60〜70重量%)、C:27〜42重量%(特に27〜38重量%)、Al:0.06〜3.8重量%(特に0.13〜1.25重量%)、B:0〜0.2重量%(特に0.06〜0.16重量%)、 Y:0.06〜3.8重量%(特に0.13〜1.25重量%)及び/又はMg:0.06〜3.8重量%(特に0.13〜1.25重量%)の結晶質炭化ケイ素系繊維から構成される。
【0070】
さらに、バナジウム(V)を含む場合には、例えば、Si:55〜70重量%(特に60〜70重量%)、C:25〜40重量%(特に28〜38重量%)、Al:0.06〜3.8重量%(特に0.13〜1.25重量%)、V:0.03〜3重量%(好ましくは0.06〜2.2重量%)の結晶質炭化ケイ素系繊維から構成される。
【0071】
本発明の炭化ケイ素成形品は、伸縮性及び等方性を有する丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物を用いて成形及び加熱処理して製造される。加熱処理後に得られる炭化ケイ素成形品は、炭化ケイ素が結晶質炭化ケイ素系繊維構造物で強化された構造を有している。また、加熱処理前の非晶質炭化ケイ素系繊維構造物は柔軟性を有し、黒鉛型に容易に追随可能なため、黒鉛型の形状に由来して任意の形状の炭化ケイ素成形品を製造することができる。
【0072】
或いは、前記丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物は、一旦加熱処理して所定の形状を有する丸編みされた結晶質炭化ケイ素系繊維構造物とし、これと炭化ケイ素系粉末からプリプレグシートを製造し、これを製品形状に成形してプリフォームを製造することもできる。非晶質炭化ケイ素系繊維構造物から結晶質炭化ケイ素系繊維構造物への加熱処理は、不活性ガス雰囲気下(好ましくはArガス雰囲気)1800〜2200℃、好ましくは1900〜2100℃で実施することができる。得られた結晶質炭化ケイ素系繊維構造物は、非晶質炭化ケイ素系繊維構造物に比べて柔軟性が低下するため、加熱処理工程において最終製品に近い形状に成形しておくことが好ましい。プリプレグシートは、該丸編みされた結晶質炭化ケイ素系繊維構造物に炭化ケイ素系粉末を含むスラリーを含浸して製造することができ、又は、該丸編みされた結晶質炭化ケイ素系繊維構造物と炭化ケイ素系粉末を含むグリーンシートを積層して製造することができる。プリフォームは、上記プリプレグシートを所定の形状を有する黒鉛型(基材)に被覆することにより製品形状に成形される。このプリフォームを、前記と同様にHP処理、HIP処理等の加熱処理に供して、SiC/SiC複合材料を得ることができる。
【0073】
得られた成形品は、高強度かつ高耐熱性を有している。SiC/SiC複合材料からなる炭化ケイ素成形品は、目的に応じて、更にその内面又は外面を研磨してもよい。
【実施例】
【0074】
次に、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0075】
製造例1
1ナトリウム400部を含有する無水キシレンに、窒素ガス気流下にキシレンを加熱還流させながら、ジメチルジクロロシラン1034重量部を滴下し、引き続き10時間加熱還流し沈澱物を生成させた。この沈澱をろ過し、メタノ−ル、ついで水で洗浄して、白色のポリジメチルシラン420部を得た。
【0076】
製造例2
ジフェニルジクロロシラン750部及びホウ酸124部を窒素ガス雰囲気下にn−ブチルエ−テル中、100〜120℃で加熱し、生成した白色樹脂状物をさらに真空中400℃で1時間加熱することによって、フェニル基含有ポリボロシロキサン530部を得た。
【0077】
製造例3
製造例1で得られたポリジメチルシラン100部に、製造例2で得られたフェニル基含有ポリボロシロキサン4部を添加し、窒素ガス雰囲気中、350℃で5時間熱縮合して、高分子量の有機ケイ素重合体を得た。この有機ケイ素重合体100部を溶解したキシレン溶液にアルミニウム−トリ(sec−ブトキシド)7部を加え、窒素ガス気流下に310℃で架橋反応させることによって、ポリアルミノカルボシランを得た。
【0078】
このポリアルミノカルボシランを245℃で溶融紡糸した後、空気中140℃で5時間加熱処理した後、さらに窒素中300℃で10時間加熱して、不融化繊維を得た。不融化繊維を窒素中1500℃で連続焼成し、非晶質炭化ケイ素繊維(フィラメント径10μm)を得た。この非晶質炭化ケイ素繊維の化学組成は、Si:56重量%、C:30重量%、O:13重量%、Al:0.6重量%、B:0.05重量%であった。この非晶質炭化ケイ素繊維の断面写真を図5に示す。
【0079】
実施例1
製造例3で得られた非晶質炭化ケイ素繊維(前記前駆体繊維、フィラメント径10μm、フィラメント数1600本)を、一口筒編機を用いて平編の緯丸編地を一旦調製した。得られた緯丸編地は度目6.75(0.5インチ当りの編目の数;コース数)、目付400g/m2、周長390mmのチューブ状生地であった。該緯丸編地は伸縮性を有していた。
【0080】
次いで、該生地に対しCVDによりCコーティング(C膜厚;0.5μm)を行った。
【0081】
β−SiC粒子4.5部、焼結助剤(Al23)0.5部、ポリエチレンオキサイド(PEO)5.0部の配合比でエタノールに分散させた。エタノール分散液(スラリー)中のSiC粉末の含有率は約20重量%であった。該スラリーをボールミルで処理(12h)して、マトリックス用スラリーを調製した。このスラリーを、筒編み生地に塗布(刷毛塗り)してプリプレグシートを調製した。
【0082】
得られたプリプレグシートを一辺が50mmの正方形にカットして7層積層し、内寸50mm×50mmのカーボン型内へセットした。これを、アルゴンガス雰囲気下で、1810℃、20MPaで50mm×50mmの押板によりホットプレスすることにより、前記非晶質炭化ケイ素繊維を結晶化させつつSiC/SiC複合材料の成形を行った。
【0083】
その後、該SiC/SiC複合材料を取り出し、表面研磨仕上げを施し、厚み5mm、50mm×50mm大の炭化ケイ素成形品を得た。得られた炭化ケイ素成形品の結晶質炭化ケイ素繊維の断面写真を図6に示す。
【0084】
この炭化ケイ素成形品に含まれる結晶質炭化ケイ素繊維の化学組成は、Si:61重量%、C:37重量%、O:0.8重量%、Al:0.6重量%、B:0.05重量%であった。
【0085】
実施例2
製造例3で得られた非晶質炭化ケイ素繊維(前記前駆体繊維、フィラメント径10μm、フィラメント数1600本)を、1500℃で熱処理する事により繊維内のOと過剰なCをCOガスとして排出させた後に、CVDによりCコーティング(C膜厚;0.5μm)を行った。その後一口筒編機を用いて平編の緯丸編地を調製した。得られた緯丸編地は度目6.25(0.5インチ当りの編目の数;コース数)、目付440g/m2、周長65mmのチューブ状生地であった。該緯丸編地は伸縮性を有していた。
【0086】
β−SiC粒子4.5部、焼結助剤(Al23)0.5部、ポリエチレンオキサイド(PEO)5.0部の配合比でエタノールに分散させた。エタノール分散液(スラリー)中のSiC粉末の含有率は約20重量%であった。該スラリーをボールミルで処理(12h)して、マトリックス用スラリーを調製した。このスラリーを、筒編み生地に塗布(刷毛塗り)してプリプレグシートを調製した。
【0087】
得られたプリプレグシートを一辺が50mmの正方形にカットして7層積層し、内寸50mm×50mmのカーボン型内へセットした。これを、アルゴンガス雰囲気下で、1810℃、20MPaで50mm×50mmの押板によりホットプレスすることにより、前記非晶質炭化ケイ素繊維を結晶化させつつSiC/SiC複合材料の成形を行った。
【0088】
その後、該SiC/SiC複合材料を取り出し、表面研磨仕上げを施し、厚み5mm、50mm×50mm大の炭化ケイ素成形品を得た。
この炭化ケイ素成形品に含まれる結晶質炭化ケイ素繊維の化学組成は、Si:63重量%、C:36重量%、O:0.5重量%、Al:0.4重量%、B:0.05重量%であった。
【0089】
試験例1
実施例1で得られた炭化ケイ素成形品の諸物性を表1に示す。併せて、一部SUS304及びモノリシックSiCとの対比を行った。
【0090】
モノリシックSiCは次のようにして製造した。
【0091】
β−SiC粒子4.5部、焼結助剤(Al2O3)0.5部、ポリエチレンオキサイド(PEO)5.0部の配合比でエタノールに分散させた、SiC粉末の含有率が約20重量%であるエタノール分散液(スラリー)を調製した。該スラリーを200g、またはそのスラリーをグリーンシート化(厚み75μm)し50mm×50mmにカットしたもの410層を積層したものを、内寸法50mm×50mmのカーボン型内へセットした。これをアルゴンガス雰囲気下で、1810℃、20MPaで50mm×50mmの押板によりホットプレスすることにより、モノリシックSiCの焼結を行った。その後、該モノリシックSiCを取り出し、表面研磨仕上げを施し、厚み5mm、50mm×50mm大の炭化ケイ素成型品を得た。
【0092】
【表1】

【0093】
密度は試料の質量と体積から算出して求めた。
【0094】
引張強度、弾性率、及び曲げ強度は、JIS R 1656に準拠し、インストロン製デジタル万能試験機(レトロフィット5581型)を使用して求めた。
【0095】
表1より、実施例1のSiC/SiC複合材は、密度が低くかつ酸素雰囲気下でも高温強度を保つことができる。そのため、様々な部材に用いることができ、耐熱性を付与し軽量化を図ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si、C、O及びAlを含む非晶質炭化ケイ素系繊維が丸編みされてなる非晶質炭化ケイ素系繊維構造物。
【請求項2】
非晶質炭化ケイ素繊維が、Siを45〜60重量%、Cを25〜40重量%、Oを8〜20重量%、及びAlを0.05〜3重量%含有する請求項1に記載の非晶質炭化ケイ素系繊維構造物。
【請求項3】
繊維表面が炭素でコーティングされてなる請求項1又は2に記載の丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載の丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物に炭化ケイ素系粉末を含むスラリーを含浸してなるプリプレグシート。
【請求項5】
請求項1、2又は3に記載の丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物と炭化ケイ素系粉末を含むグリーンシートを積層してなるプリプレグシート。
【請求項6】
請求項1、2又は3に記載の丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物を加熱処理して得られる丸編みされた結晶質炭化ケイ素系繊維構造物に、炭化ケイ素系粉末を含むスラリーを含浸してなるプリプレグシート。
【請求項7】
請求項1、2又は3に記載の丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物を加熱処理して得られる丸編みされた結晶質炭化ケイ素系繊維構造物に、炭化ケイ素系粉末を含むグリーンシートを積層してなるプリプレグシート。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれかに記載のプリプレグシートを製品形状に成形してなるプリフォーム。
【請求項9】
請求項8に記載のプリフォームを加熱処理して得られる、炭化ケイ素が、丸編みされたSi、C及びAlを含む結晶質炭化ケイ素系繊維構造物で強化されてなる炭化ケイ素系複合材料。
【請求項10】
結晶質炭化ケイ素系繊維構造物が、Siを55〜70重量%、Cを27〜42重量%、Alを0.06〜3.8重量%含有する結晶質炭化ケイ素系繊維からなる請求項9に記載の炭化ケイ素系複合材料。
【請求項11】
炭化ケイ素が、丸編みされたSi、C及びAlを含む結晶質炭化ケイ素系繊維構造物で強化されてなる炭化ケイ素系複合材料の製法であって、
(1)Si、C、O及びAlを含む非晶質炭化ケイ素系繊維を丸編みして非晶質炭化ケイ素系繊維構造物を製造する工程、
(2)(a)該丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物に炭化ケイ素系粉末を含むスラリーを含浸してプリプレグシートを製造する工程、又は(b)該丸編みされた非晶質炭化ケイ素系繊維構造物と炭化ケイ素系粉末を含むグリーンシートを積層してプリプレグシートを製造する工程、
(3)該プリプレグシートを製品形状に成形してプリフォームを製造する工程、及び
(4)該プリフォームを加熱処理する工程、
を含む製法。
【請求項12】
炭化ケイ素が、丸編みされたSi、C及びAlを含む結晶質炭化ケイ素系繊維構造物で強化されてなる炭化ケイ素系複合材料の製法であって、
(1)Si、C、O及びAlを含む非晶質炭化ケイ素系繊維を丸編みして非晶質炭化ケイ素系繊維構造物を製造する工程、
(2)該非晶質炭化ケイ素系繊維構造物を加熱処理して丸編みされた結晶質炭化ケイ素系繊維構造物を製造する工程、
(3)(a)該丸編みされた結晶質炭化ケイ素系繊維構造物に炭化ケイ素系粉末を含むスラリーを含浸してプリプレグシートを製造する工程、又は(b) 該丸編みされた結晶質炭化ケイ素系繊維構造物と炭化ケイ素系粉末を含むグリーンシートを積層してプリプレグシートを製造する工程、
(4)該プリプレグシートを製品形状に成形してプリフォームを製造する工程、及び
(5)該プリフォームを加熱処理する工程、
を含む製法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−231438(P2011−231438A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105844(P2010−105844)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】