説明

主鎖にフッ素およびケイ素を含有するセグメント化ポリウレタン、該ポリウレタンを含む医療用器具、および、該ポリウレタンを含む生体適合性要素

【課題】 本発明は、高い抗血栓性に加え、好適な機械的特性を備えるセグメント化ポリウレタンを提供することを目的とする。
【解決手段】 セグメント化ポリウレタンにおいて、含フッ素モノマーおよび含ケイ素モノマーを構成成分として、ドメインサイズの様々に異なったミクロ相分離構造を形成することで、医療用器具として好適な表面特性、機械的特性等を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セグメント化ポリウレタンに関し、より詳細には、主鎖にフッ素およびケイ素を含有し、ミクロ相分離構造を有するセグメント化ポリウレタン、該ポリウレタンを含む医療用器具、および、該ポリウレタンを含む生体適合性要素に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、医療用材料の分野において、様々な用途に対応する新材料の開発が検討されており、その中でも、熱可塑性エラストマーの医療分野への応用が注目されている。熱可塑性エラストマーは、ゴム弾性を示すソフトセグメントと、架橋ゴムの架橋点に相当するハードセグメントから構成されるポリマーであり、架橋ゴムのように架橋剤等の配合剤が溶出することがないうえ、ハードセグメントに由来する熱可塑性によって加工性に優れるという利点があり、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリエステル系など様々な熱可塑性エラストマーが用途に応じて用いられている。
【0003】
その中でも、ポリウレタン系の熱可塑性エラストマーであるセグメント化ポリウレタンは、好適な機械的特性を有しており、さらに生体適合性が高いことから、様々な医療用器具に応用されている。
【0004】
上述した医療用器具のなかでも血液と直接接触する、人工心臓(心臓人工弁および人工心臓ポンプ)や大動脈バルーンなどには、特に高度な耐疲労性および弾性が要求され、そして何よりも特に高い抗血栓性が求められており、医療用材料としてより高い応用性を備えたセグメント化ポリウレタンの合成が求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、本発明は、高い抗血栓性に加え、好適な弾性および耐疲労性を備えるセグメント化ポリウレタンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
生体の血管内面を被覆している内皮細胞を含む内膜は、図1に示されるような、いわゆる海島構造をとっていることがわかっており、生体の血管におけるこのようなミクロドメイン構造が何らかの理由で、血漿タンパクの血管内膜への吸着を抑制し、ひいては、血漿タンパクの吸着を契機としてなされる血栓の形成を阻害していると考えられる。一方、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという)のようなフッ素を含有するポリマー、および、ポリジメチルシロキサン(以下、PDMSという)のようなケイ素を含有するポリマーは、いずれも表面エネルギーが低く、耐熱耐寒性、耐水耐薬品性、撥水撥油性、低摩擦係数、非粘着性、気体選択透過性、生体適合性、柔軟性および耐疲労性といった共通した性質を有する疎水性ポリマーとして知られている。そこで、本発明者らは、フッ素およびケイ素を含み、かつ、生体の血管内膜のドメイン構造に近似した、ドメインサイズの様々に異なったミクロ相分離構造をもつセグメント化ポリウレタンを合成することできれば、血漿タンパクの吸着をより好適に抑制して、高い抗血栓性を実現することができ、さらに加えて医療用材料としての好適な機械的特性を同時に実現しうると考えた。
【0007】
以上のような着想の下、本発明者らは、セグメント化ポリウレタンにおいて、含フッ素モノマーおよび含ケイ素モノマーを構成成分として、ドメインサイズの様々に異なったミクロ相分離構造を形成し、医療用材料として好適な表面特性、および機械的特性等を実現すべく、合成原料、組成比、合成方法を含めて様々な条件で鋭意検討を実施した。その結果、新規なセグメント化ポリウレタンの合成に成功し、本発明に至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明によれば、ジイソシアネートとフッ素を含むジオールとケイ素を含むジオールとをモノマーとするセグメント化ポリウレタンであって、ジイソシアネートとフッ素を含むジオールのウレタン重合からなるミクロドメインとジイソシアネートとケイ素を含むジオールのウレタン重合からなるミクロドメインとが相分離しているセグメント化ポリウレタンが提供される。前記ケイ素を含むジオールと前記フッ素を含むジオールの組成比(ケイ素/フッ素)は、1〜3とすることが好ましい。また、前記ケイ素を含むジオールは、オリゴジフェニルシロキサン、オリゴジメチルジフェニルシロキサン、オリゴテトラメチル−p−シルフェニレンシロキサン、オリゴトリフルオロプロピルメチルシロキサン、およびオリゴジメチルシロキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種であり数平均分子量が700〜1700のジオールとすることが好ましい。さらに、前記フッ素を含むジオールは、2,2−ビス〔4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(3−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(4−ヒドロキシブトキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(5−ヒドロキシペントキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(6−ヒドロキシヘキソキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(8−ヒドロキシオクトキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(10−ヒドロキシデコキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(4−ヒドロキシフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(3−ヒドロキシフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(ヒドロキシメチル)フタルイミド〕、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(3−ヒドロキシプロピル)フタルイミド〕、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(4−ヒドロキシブチル)フタルイミド〕、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(5−ヒドロキシペンチル)フタルイミド〕、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(6−ヒドロキシヘキシル)フタルイミド〕、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(8−ヒドロキシオクチル)フタルイミド〕、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(10−ヒドロキシデシル)フタルイミド〕、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(4−ヒドロキシフェニル)フタルイミド〕、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(3−ヒドロキシフェニル)フタルイミド〕、および4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス[N-(2-ヒドロキシエチル)フタルイミド]からなる群より選ばれる少なくとも1種のジオールとすることが好ましい。さらに加えて、前記ジイソシアネートは、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、2,6−ナフチレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネート−3,3’−ジメチルジフェニルメタン、および4,4’−ジイソシアン酸メチレンジフェニルからなる群より選ばれる少なくとも1種のジイソシアネートとすることが好ましい。
【0009】
さらに、本発明によれば、前記セグメント化ポリウレタンを含む医療用器具が提供され、さらに加えて、本発明によれば、前記セグメント化ポリウレタンを含む、心臓人工弁、血管留置カテーテル、バルーンカテーテル、大動脈バイパスチューブ、人工血管、人工心臓ポンプ、大動脈バルーン、バイオセンサ、縫合糸、生体接着剤、歯科矯正用材料、人工皮膚などに代表される生体適合性要素が提供される。
【発明の効果】
【0010】
上述したように、本発明によれば、高い抗血栓性に加え、好適な弾性および耐疲労性を備えるセグメント化ポリウレタン、該ポリウレタンを含む医療用器具、および、該ポリウレタンを含む生体適合性要素が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を具体的な実施の形態をもって説明するが、本発明は、後述する実施の形態に限定されるものではない。以下、本発明のセグメント化ポリウレタンの合成について順を追って説明する。
【0012】
本発明のセグメント化ポリウレタンは、含フッ素ジオールおよび含ケイ素ジオール、ならびに、ジイソシアネートをモノマーとして行なわれる重合反応により合成される。上記重合反応は、含ケイ素ジオール成分を含む主鎖部分を合成する工程と、含フッ素ジオール成分によって上記主鎖部分を鎖延長する工程の2段階でなされる。第1の工程において、含ケイ素ジオール成分とジイソシアネートが重合し、主鎖部分となる含ケイ素オリゴマーが形成される。続いて、第2の工程において、含フッ素ジオール成分とジイソシアネートが重合してなる含フッ素オリゴマーが、上記主鎖部分とウレタン結合して鎖延長し高重合体が形成される。この際、含ケイ素オリゴマーおよび含フッ素オリゴマーは、それぞれのセグメントごとに集まる傾向にあり、ミクロドメインを形成して相分離する。本発明のセグメント化ポリウレタンのこのミクロ相分離構造は、ドメインサイズの様々に異なったミクロ相分離構造を形成し、図1に示すような、生体の血管の内膜にみられる、いわゆる海島構造に非常に近似した構造を備えていると考えられる。
【0013】
本発明のセグメント化ポリウレタンの合成においては、ジオール成分の組成比を、含ケイ素ジオール/含フッ素ジオール(モル比)=1〜3とすることが好ましい。また、本発明においては、上記2種類のジオール成分のうち組成の比率が大きいものとジイソシアネートを先に重合して主鎖部分を合成することが好ましい。すなわち、本発明においては、含ケイ素ジオールとジイソシアネートを先に重合して主鎖部分を合成することが好ましい。ただし、組成比が、含ケイ素ジオール/含フッ素ジオール(モル比)=1の場合については、含フッ素ジオールとジイソシアネートを先に重合して主鎖部分を合成することもできる。以下、本発明のセグメント化ポリウレタンの合成工程について、含ケイ素ジオールの組成の比率が大きい場合を例にとって詳細に説明する。
【0014】
第1の工程は、両末端イソシアネートオリゴマーを合成する工程である。まず最初に、所定の触媒の存在下、ジイソシアネートと含ケイ素ジオールを所定の重合溶媒中で撹拌して、本発明のセグメント化ポリウレタンにおいて主鎖となる、ケイ素を含む両末端イソシアネートオリゴマーを合成する。本発明においては、上記触媒にジラウリン酸−n−ブチルスズ(以下、DBTDLという)を用いることができる。また、用いる触媒は、全モノマー(ジイソシアネートおよび含ケイ素ジオール)に対して0.2w/w−%((触媒重量÷全モノマーの重量)×100、以下同じ)の量とすることが好ましい。また、本発明において、上記撹拌は、100℃で2時間程度行なうことが好ましい。
【0015】
第2の工程は、第1の工程で得られたケイ素を含む両末端イソシアネートオリゴマーと含フッ素ジオールとを重合させ鎖延長する工程である。まず最初に、所定の触媒の存在下、含フッ素ジオールを所定の重合溶媒に混ぜて反応溶液を調整する。本発明においては、上記触媒にN−エチルモルホリン(以下、N−EMという)を用いることができる。また、用いる触媒は、含フッ素ジオールモノマーに対して0.2w/w−%の量とすることが好ましい。続いて、第1の工程において調整した反応溶液を、一旦室温に戻して所定の溶媒で希釈した後、上述した含フッ素ジオール溶液を加えて所定時間反応させ鎖延長する。本発明において上記鎖延長工程は、100℃で6時間程度行なうことが好ましい。
【0016】
なお、本発明においては、上述した重合溶媒として、4−メチル−2−ペンタノン(以下、MPという)を用いることができ、また使用する溶媒量は、ポリマー濃度が最終的に30−60w/v−%((全モノマーの重量÷使用した溶媒の全体積)×100、以下同じ)となるよう調整することが好ましい。さらに、本発明のセグメント化ポリウレタンの合成反応においては、ジイソシアネートの物質量と、含ケイ素ジオールと含フッ素ジオールの物質量の和とが当量になるよう調整することが望ましく、また上記重合反応はすべて窒素雰囲気下で行なうことが望ましい。本発明のセグメント化ポリウレタンの合成反応式を下記に示す。式中、Aはジイソシアネート、Bは含ケイ素ジオール、Cは含フッ素ジオールを示すものとする。
【0017】
【化1】

本発明においては、ジイソシアネートとして、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、2,6−ナフチレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネート−3,3’−ジメチルジフェニルメタンを用いることができ、4,4’−ジイソシアン酸メチレンジフェニルを用いることが好ましい。また、含ケイ素ジオールとして、オリゴジフェニルシロキサン、オリゴジメチルジフェニルシロキサン、オリゴテトラメチル−p−シルフェニレンシロキサン、オリゴトリフルオロプロピルメチルシロキサンを用いることができ、オリゴジメチルシロキサンを用いることが好ましく、含ケイ素ジオールの数平均分子量は700〜1700であることが好ましい。さらに、含フッ素ジオールとして、2,2−ビス〔4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(3−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(4−ヒドロキシブトキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(5−ヒドロキシペントキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(6−ヒドロキシヘキソキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(8−ヒドロキシオクトキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(10−ヒドロキシデコキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(4−ヒドロキシフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(3−ヒドロキシフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(ヒドロキシメチル)フタルイミド〕、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(3−ヒドロキシプロピル)フタルイミド〕、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(4−ヒドロキシブチル)フタルイミド〕、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(5−ヒドロキシペンチル)フタルイミド〕、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(6−ヒドロキシヘキシル)フタルイミド〕、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(8−ヒドロキシオクチル)フタルイミド〕、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(10−ヒドロキシデシル)フタルイミド〕、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(4−ヒドロキシフェニル)フタルイミド〕、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(3−ヒドロキシフェニル)フタルイミド〕を用いることができ、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス[N-(2-ヒドロキシエチル)フタルイミド]を用いることが好ましい。
【0018】
本発明のセグメント化ポリウレタンは、注射器ガスケット、血液バッグなどの各種医療用器具を始め、心臓人工弁、血管留置カテーテル、バルーンカテーテル、大動脈バイパスチューブ、人工血管、人工心臓ポンプ、大動脈バルーン、バイオセンサ、縫合糸、生体接着剤、歯科矯正用材料、および人工皮膚など、血液と直接接触する生体適合性要素に応用することが可能である。
【実施例】
【0019】
以下、本発明のセグメント化ポリウレタンについて、実施例を用いてより具体的に説明を行うが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0020】
(実施例1)
(1)セグメント化ポリウレタンの合成
本発明のセグメント化ポリウレタンの合成に際し、ジイソシアネート成分として、4,4’−ジイソシアン酸メチレンジフェニル(東京化成製、以下、Aという)を用いた。4,4’−ジイソシアン酸メチレンジフェニルの化学式を下記に示す。
【0021】
【化2】

また、ケイ素を含有するジオールモノマー成分として、オリゴジメチルシロキサン(チッソ(株)製・FM4411・数平均分子量1198g/mol、以下、Bという)を用いた。オリゴジメチルシロキサンの化学式を下記に示す。
【0022】
【化3】

さらに、フッ素を有するジオールモノマー成分として、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス[N-(2-ヒドロキシエチル)フタルイミド](以下、Cという)を以下の手順で合成して用いた。以下、Cの合成手順について説明する。
【0023】
ナスフラスコに4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(0.04mol,17.76g)とN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc,60ml)をとり、酸無水物が完全に溶けるまで室温でかき混ぜた。氷水温度(約5℃)に冷やした後、これにDMAc(20ml)とエタノールアミン(0.08mol,4.88g)を混ぜた溶液を滴下して加え、2時間かき混ぜてアミド酸溶液を得た。還流管とディンスタークトラップを取り付け、トルエン(160ml)を加えて、135−140度で加熱しながら水(約1.44ml)を共沸除去した。減圧ポンプを用いてDMAcおよびトルエンを留去した。残渣にエーテルを加えて粉砕し、沈殿物をろ別し、減圧乾燥してCを得た。Cの合成反応式を下記に示す。
【0024】
【化4】

上記手順で得られたCと、上述したAおよびBを用いて本発明のセグメント化ポリウレタンの合成を行った。以下、その合成手順について説明する。
【0025】
本発明のセグメント化ポリウレタンの合成を、ジオール成分BとCの仕込み組成比を変えて行った。具体的には、ジオール成分の仕込み組成比を、B:C=7:1、3:1、2:1、1:1としてそれぞれ合成を行った。なお、B:C=1:1の仕込み組成については、BとCの添加の順序を変えて2回行なった。合成に際し、重合溶媒にMPを使用し、溶媒量はポリマー濃度が最終的に30−60w/v−%となるよう反応ごとに変えた。また、すべての反応において、Aの物質量と、BとCの物質量の和とが当量になるよう正確に調整した。なお、操作はすべて窒素気流中で行い、BをAに対し先に添加して重合反応させたのち、Cを添加して反応させるという順序で行った。
【0026】
併せて、仕込み組成比(B:C)=1:0、0:1、および、仕込み組成比(B:C)=1:3、1:7についても合成を行なった。合成反応の一例として、仕込み組成比がB:C=2:1の場合の合成手順について、以下詳細に述べる。
【0027】
まず、三口フラスコにA(9mmol・2.25g)とMP(6ml)をとり、Aが完全に溶けるまで室温でかき混ぜた。これにMP(10ml)、B(6mmol・7.19g)と触媒のDBTDL(0.019g・モノマーA+Bに対して0.2w/w−%)を混ぜた溶液を滴下して加えた。還流管を取り付け、100℃で2時間かき混ぜて主鎖部分となる両末端イソシアネートオリゴマーを合成した。反応溶液を一旦室温に戻し、MP(3ml)で希釈した後、これに、MP(9ml)、C(3mmol・1.59g)と触媒のN−EM(0.003g・モノマーCに対して0.2w/w−%)を混ぜた溶液を滴下して加え、100℃で6時間かき混ぜて鎖延長した。反応溶液を多量の水−メタノール混合液に投入し、生じた沈殿物をろ過して、水およびメタノールで交互に洗浄した後、減圧乾燥して本発明のセグメント化ポリウレタンを得た。
【0028】
上述した他の仕込み組成比(B:C)=7:1、3:1、1:1についても上記と同様の条件で合成を行った。なお、仕込み組成比(B:C)=1:3、1:7の合成については、CをAに対し先に添加して重合反応させたのち、Bを添加して反応させるという順序で行い、第1の工程は、N−EMの存在下100℃で6時間、第2の工程は、DBTDLの存在下100℃で2時間、重合溶媒にはMPとDMAcの1:1混合溶液を用い、他は上記と同様の条件で反応を行った。仕込み組成比(B:C)=1:0については、DBTDLの存在下100℃で2時間、仕込み組成比(B:C)=0:1については、N−EMの存在下100℃で6時間、他は上記と同様の条件で反応を行った。
【0029】
各組成比における生成物についてゲル浸透クロマトグラフ(以下、GPCという)を行い分子量を決定した。GPC分析は、送液ポンプ(Jasco・880−PUインテリジェントHPLCポンプ)、カラムオーブン(Shimadzu・CTO−2A LC Injector SIL-1A)、カラム(Shodex・GPC KD−804)、検出器(Jasco・RI−2031 Plusインテリジェント RE detector)およびレコーダー(Shimadzu・C−R6A Chromatopac)からなる装置を用いて、溶出液:N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、流速:1.0ml/min、カラム温度:40℃の測定条件において行い、分子量の決定は、標準ポリスチレン換算で行った。下記表1に、各組成比の生成物の収率、還元粘度、およびGPC分析結果をまとめて示した。なお、表中、Mnは、数平均分子量を、Mwは、重量平均分子量を示す。
【0030】
【表1】

表1に示されるように、上述した合成手順によって、各組成比のいずれにおいても高収率で生成物が得られ、本発明のセグメント化ポリウレタンは、高重合体(数平均分子量が2×10〜3×10)であることがわかった。
【0031】
上述した手順で合成したポリウレタンにつき、各組成比における生成物の表面特性、機械的特性および熱特性を評価した。以下、詳細に説明する。
【0032】
(実施例2)
(2)セグメント化ポリウレタンの特性評価
(a)表面特性
各組成比における生成物の水に対する平衡接触角、および臨界表面張力を求め、表面特性を評価した。水に対する平衡接触角は、以下の手順で求めた。まず、合成したポリウレタンをDMAcに溶かし、これをスライドガラス上に流延した後、50℃で乾燥、さらに60℃で2日間減圧乾燥させてフィルムを作成した。次に、上記フィルム表面にイオン交換水約2μlを滴下し、1分30秒後にその接触角をエルマG−1接触角計を用いて測定した。この測定を5回以上行い、その平均値を水に対する平衡接触角とした。
【0033】
引き続き、臨界表面張力を以下の手順で、Zisman法によって求めた。フィルム表面に、後述する表面張力γ既知の有機液体約2μlを滴下し、1分30秒後にその接触角をエルマG−1接触角計を用いて測定した。この測定を5回以上行い、その平均値を表面張力γの有機液体に対する接触角θとした。以下に示す11種類の有機液体に対する接触角のcosθをそれぞれのγに対してプロットすると直線が得られた。この直線をcosθ=1(θ=0°)まで外挿して、それに対応するγを求め、そのγ値を臨界表面張力γcとした。上記有機液体には、エチレングリコール(γ=47.7)、1-ブロモナフタレン(γ=47.6)、ジエチレングリコール(γ=44.4)、ポリエチレングリコールMw=200(γ=43.5)、1,3−ブタンジオール(γ=37.8)、ヘキサクロロ−1,3−ブタジエン(γ=36.0)、ジプロピレングリコール(γ=33.9)、n−ヘキサデカン(γ=27.6)、n−テトラデカン(γ=26.7)、n−ウンデカン(γ=24.7)およびn−デカン(γ=23.9)を使用した。下記表2に、各組成比の生成物の水に対する平衡接触角、および臨界表面張力をまとめて示す。
【0034】
【表2】

表2に示されるように、本発明のセグメント化ポリウレタンの水に対する平衡接触角は、90〜92°と高い値を示し、また、臨界表面張力はPTFE(γc=18.0mN/m)とPDMS(γc=24mN/m)の中間の値を示した。以上の結果から、本発明のセグメント化ポリウレタンは、高い抗血栓性を実現するために必要な表面特性(表面エネルギーの充分な低さ)を備えていることがわかった。
【0035】
(b)機械的特性
各組成比における生成物の引っ張り試験を行い、破断強度、破断伸び、および弾性率を求めて機械的特性を評価した。引っ張り試験には、Orientec STA−1150、およびOrientec AR−6000(レコーダ)を用い、荷重レンジ:2−20 N 4−40%、引っ張り速度:5−50mm/min、チャート速度:300−1000mm/minの条件で測定した。上記引っ張り試験には、寸法が30mm(h)×3mm(w)、膜厚が0.03−0.10mmのフィルム試料を用い、上記フィルム試料は、ポリウレタンをDMAcに溶かし、その溶液をB過剰のポリウレタンについてはテフロン板上に、C過剰のポリウレタンについてはガラス板上に流延し、50℃で乾燥したのち、さらに60℃で2日間減圧乾燥させて作成した。下記表3に、各組成比の生成物の破断強度、破断伸び、および弾性率を示す。
【0036】
【表3】

表3に示されるように、本発明のセグメント化ポリウレタンは、特に、組成比(B:C)=2:1において、破断強度においては、SI rubberの約1.5倍、破断伸びにおいては、Cardiothane(Kontron Inc.)の約1.3倍の値を示し、医療用器具として応用可能な、好適な強度、耐疲労性および弾性を備えていることがわかった。
【0037】
(c)熱特性
各組成比における生成物について、熱分析を行い熱特性を評価した。熱分析は、熱重量測定および示差走査熱量測定によって行った。熱重量測定は、SII TG/DTA6200を用い、昇温速度:10K/min、雰囲気:N2(250ml/min)の条件で測定した。示差走査熱量測定は、SII DSC6200を用い、昇温速度:10K/min、雰囲気:N(30mL/min)の条件で測定した。下記表4に、各組成比の生成物における、全重量の5%重量が失われる温度(DT)および全重量の10%重量が失われる温度(DT10)、ならびに、ガラス転移温度(T)をまとめて示す。
【0038】
【表4】

表4に示されるように、本発明のセグメント化ポリウレタンは、DTおよびDT10はいずれも300℃前後の値を示し、通常の蒸気滅菌工程に対応しうる耐熱性を備えていることがわかった。また、ジオール組成(B:C)が3:1、2:1および1:1の場合において、いずれも二つのガラス転移温度(T)が測定され、生成物が相分離していることが示された。
【0039】
(溶解性)
各組成比における生成物について、以下の手順で溶解性試験を行い、種々の溶媒に対する溶解性を評価した。試験管に各組成比における生成物を約1mg入れ、これに溶媒1mlを加えて一晩放置し、溶解の度合いを目視して評価した。下記表5に、完全に溶けたものを(++)、一部溶けたもの、もしくは膨潤したものを(+)、不溶のものを(−)として、溶媒ごとにまとめて示した。
【0040】
【表5】

表5に示されるように、本発明のセグメント化ポリウレタンは、ほとんどの溶媒に可溶性を示し、成形加工性に富むことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上説明したように、本発明によれば、医療用材料として好適な表面特性(特に抗血栓性)、ならびに、好適な機械的特性、耐熱性、易加工性を併せもつ、セグメント化ポリウレタン材料が提供され、人工心臓、大動脈バルーン、大動脈バイパスチューブなどをはじめとする医療用器具のさらなる改良に資することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】生体の血管内膜のドメイン構造を概念的に示した図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジイソシアネートとフッ素を含むジオールとケイ素を含むジオールとをモノマーとするセグメント化ポリウレタンであって、ジイソシアネートとフッ素を含むジオールのウレタン重合からなるミクロドメインとジイソシアネートとケイ素を含むジオールのウレタン重合からなるミクロドメインとが相分離しているセグメント化ポリウレタン。
【請求項2】
前記ケイ素を含むジオールと前記フッ素を含むジオールの組成比(ケイ素/フッ素)が、1〜3である、請求項1に記載のセグメント化ポリウレタン。
【請求項3】
前記ケイ素を含むジオールが、オリゴジフェニルシロキサン、オリゴジメチルジフェニルシロキサン、オリゴテトラメチル−p−シルフェニレンシロキサン、オリゴトリフルオロプロピルメチルシロキサン、およびオリゴジメチルシロキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種であって数平均分子量が700〜1700のジオールである、請求項1および2のいずれか1項に記載のセグメント化ポリウレタン。
【請求項4】
前記フッ素を含むジオールが、2,2−ビス〔4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(3−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(4−ヒドロキシブトキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(5−ヒドロキシペントキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(6−ヒドロキシヘキソキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(8−ヒドロキシオクトキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(10−ヒドロキシデコキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(4−ヒドロキシフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(3−ヒドロキシフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(ヒドロキシメチル)フタルイミド〕、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(3−ヒドロキシプロピル)フタルイミド〕、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(4−ヒドロキシブチル)フタルイミド〕、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(5−ヒドロキシペンチル)フタルイミド〕、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(6−ヒドロキシヘキシル)フタルイミド〕、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(8−ヒドロキシオクチル)フタルイミド〕、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(10−ヒドロキシデシル)フタルイミド〕、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(4−ヒドロキシフェニル)フタルイミド〕、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス〔N−(3−ヒドロキシフェニル)フタルイミド〕、および4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス[N-(2-ヒドロキシエチル)フタルイミド]からなる群より選ばれる少なくとも1種のジオールである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のセグメント化ポリウレタン。
【請求項5】
前記ジイソシアネートが、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、2,6−ナフチレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネート−3,3’−ジメチルジフェニルメタン、および4,4’−ジイソシアン酸メチレンジフェニルからなる群より選ばれる少なくとも1種のジイソシアネートである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のセグメント化ポリウレタン。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のセグメント化ポリウレタンを含む医療用器具。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のセグメント化ポリウレタンを含む生体適合性要素。
【請求項8】
前記生体適合性要素は、心臓人工弁、血管留置カテーテル、バルーンカテーテル、大動脈バイパスチューブ、人工血管、人工心臓ポンプ、大動脈バルーン、バイオセンサ、縫合糸、生体接着剤、歯科矯正用材料、および人工皮膚からなる群から選択される、請求項7に記載の生体適合性要素。

【図1】
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【公開番号】特開2007−77359(P2007−77359A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−270268(P2005−270268)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年5月10日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集 54巻1号」に発表
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】