説明

乗員保護装置

【課題】後部座席に着座した乗員を側部衝突から保護する効果を向上できる乗員保護装置を提供する。
【解決手段】前部座席11の背もたれ部112には第1乗員保護装置12が内蔵されており、後部座席13の背もたれ部132には第2乗員保護装置14が内蔵されている。第2乗員保護装置14を構成する第2サイドエアバッグ142が膨張展開した後の第2サイドエアバッグ142の厚みT2は、膨張展開した後の第1サイドエアバッグ122の厚みT1よりも大きい厚みに設定されている。第2サイドエアバッグ142が膨張展開した後の第2サイドエアバッグ142の内部圧力P2は、第1サイドエアバッグ122が膨張展開した後の第1サイドエアバッグ122の内部圧力P1よりも大きい圧力に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス発生源から発生するガスにより車両の座席に着座した乗員と車両の側部との間で膨張展開されるエアバッグを備えた乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のサイドドアに他の車両が衝突する側部衝突が発生した場合、側部衝突の規模によっては、サイドドアが室内側へ大きく侵入し、サイドドアの室内側への侵入によって乗員がサイドドアから離れる方向へ移動されることがある。相手車両のバンパ高さによっては側部衝突によるサイドドアの室内側への侵入は、サイドドアの下部側がサイドドアの上部側よりも大きくなる場合がある。この場合には、サイドドアの下部側がこのサイドドアに対応する座席に着座した乗員の腰部に向かうように、変形し易い。
【0003】
車両における側部衝突から乗員を保護する乗員保護装置は、例えば特許文献1,2に開示されている。特許文献1,2に開示される乗員保護装置は、後部座席に着座した乗員と車両のサイドドアとの間でエアバッグを膨張展開させて車両における側部衝突から乗員を保護する。これらの乗員保護装置におけるエアバッグは、側部衝突発生時に乗員の上半身とサイドドアとの間で膨張展開する。乗員の上半身とサイドドアとの間で膨張展開したエアバッグは、側部衝突によるサイドドアの室内側への侵入に伴ってサイドドアから室内側へ離れる方向へ移動する。これにより、着座している乗員もサイドドアから室内側へ離れる方向へ移動される。
【特許文献1】特開平8−40176号公報
【特許文献2】特開平8−310334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、後部座席の座部と後輪のタイヤハウスとの間の距離は、前部座席(運転座席あるいは助手席)の座部と前輪のタイヤハウスとの間の距離に比べて短い。又、前部座席に対応する前側サイドドアと後部座席に対応する後側サイドドアとの間にあるセンターピラーから後部座席の座部に至る距離は、センターピラーから前部座席の座部に至る距離に比べて長い。前部座席に着座した乗員への側部衝突では、相手車両がセンターピラーにオーバーラップした状態となることが多く、センターピラーによって前側サイドドアの室内側への侵入量が抑制される。これに対して後部座席に着座した乗員への側部衝突では、相手車両がリヤピラーにオーバーラップした状態となることが少なく、リヤピラーにオーバーラップしない後側サイドドアへの側部衝突に対して、前側サイドドアへの側部衝突と同レベルの乗員保護性能を確保するのは難しい。
【0005】
本発明は、後部座席に着座した乗員を側部衝突から保護する効果を向上できる乗員保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、ガス発生源から発生するガスにより車両の前部座席に着座した乗員と前記車両の側部との間で膨張展開される第1サイドエアバッグを有する第1乗員保護装置と、ガス発生源から発生するガスにより前記車両の後部座席に着座した乗員と前記車両の側部との間で膨張展開される第2サイドエアバッグを有する第2乗員保護装置とを備え、膨張展開した後の前記第2サイドエアバッグの車幅方向の厚みが、膨張展開した後の前記第1サイドエアバッグの車幅方向の厚みよりも大きい厚みに設定されていることを特徴とする。
【0007】
座席に着座した乗員が側部衝突によって車両の側部(例えばサイドドア)から車室内側へ離れる方向に移動される場合、座席に着座した乗員は、車両の側部から車室内側へ離れる方向へ可及的に平行移動されることが望ましい。膨張展開後の前部座席用の第1サイドエアバッグの車幅方向の厚みよりも膨張展開後の後部座席用の第2サイドエアバッグの車幅方向の厚みを大きくする構成は、後部座席に着座した乗員が側部衝突によって車両の側部から車室内側へ離れるように移動する状態を平行移動状態に近づける上で、有効である。
【0008】
好適な例では、膨張展開した後の前記第2サイドエアバッグの内部圧力は、膨張展開した後の前記第1サイドエアバッグの内部圧力よりも大きい圧力に設定されている。
第1サイドエアバッグの車幅方向の厚みよりも第2サイドエアバッグの車幅方向の厚みを大きくし、且つ第2サイドエアバッグの内部圧力を第1サイドエアバッグの内部圧力よりも大きくした構成は、後部座席に着座した乗員が側部衝突によって車両の側部から車室内側へ離れるように移動する状態を平行移動状態に近づける上で、有効である。
【0009】
好適な例では、前記第2サイドエアバッグは、乗員の腰部よりも上の上半身と前記車両の側部との間で膨張展開される。
第2サイドエアバッグは、側部衝突の発生によって乗員の腰部よりも上で膨張展開するため、乗員の腰部が膨張展開した第2サイドエアバッグによって直接押されることはない。側部衝突の発生によって膨張展開した第2サイドエアバッグによって乗員の腰部を直接押さないようにした構成は、乗員の肩部と腰部との移動量の差を少なくする上で、有効である。
【0010】
好適な例では、前記第2サイドエアバッグは、乗員の肩部と前記車両の側部との間で膨張展開される。
側部衝突の発生によって乗員の肩部と車両の側部との間で膨張展開した第2サイドエアバッグは、乗員の肩部を車両の側部から車室内側へ離れるように押す。膨張展開した第2サイドエアバッグによって乗員の肩部を車両の側部から車室内側へ離れるように押す構成は、乗員を平行移動状態に近づける上で、有効である。
【0011】
好適な例では、前記第2サイドエアバッグは、乗員の胸部と前記車両の側部との間でも膨張展開される。
側部衝突の発生によって乗員の肩部及び胸部と車両の側部との間で膨張展開した第2サイドエアバッグは、乗員の肩部及び胸部を車両の側部から車室内側へ離れるように押す。膨張展開した第2サイドエアバッグによって乗員の肩部及び胸部を車両の側部から車室内側へ離れるように押す構成は、乗員を平行移動状態に近づける上で、有効である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、後部座席に着座した乗員を側部衝突から保護する効果を向上できるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1及び図2に基づいて説明する。
図1に示すように、座部111と共に前部座席11(図示の例では運転座席)を構成する背もたれ部112には第1乗員保護装置12が内蔵されている。第1乗員保護装置12は、ガス発生源としてのインフレータ121と、エアバッグ122と、インフレータ121及びエアバッグ122を収容するケース123とから構成されている。ケース123は、背もたれ部112を構成するフレーム(図示略)に取り付けられている。図示しない側部衝突検出手段が側部衝突を検出すると、インフレータ121が作動され、インフレータ121から高圧ガスがエアバッグ122へ送られる。エアバッグ122は、インフレータ121から発生するガスにより、前部座席11に着座した乗員M1の上半身と、車両の側部である前側サイドドア15〔図2(a)に図示〕との間で膨張展開される。以下、エアバッグ122を第1サイドエアバッグ122と記す。図示の例では、第1サイドエアバッグ122は、車両の車幅方向に見て、乗員M1の腰部Yよりも上、且つ乗員M1の肩部K以下の範囲の上半身に重なって見えるように、膨張展開する。つまり、第1サイドエアバッグ122は、乗員M1の肩部K及び胸部Zと、前側サイドドア15との間で膨張展開する。
【0014】
座部131と共に後部座席13を構成する背もたれ部132には第2乗員保護装置14が内蔵されている。第2乗員保護装置14は、ガス発生源としてのインフレータ141と、エアバッグ142と、インフレータ141及びエアバッグ142を収容するケース143とから構成されている。ケース143は、背もたれ部132を構成するフレーム(図示略)に取り付けられている。図示しない側部衝突検出手段が側部衝突を検出すると、インフレータ141が作動され、インフレータ141から高圧ガスがエアバッグ142へ送られる。エアバッグ142は、インフレータ141から発生するガスにより、後部座席13に着座した乗員M2の上半身と、車両の側部である後側サイドドア16〔図2(b)に図示〕との間で膨張展開される。以下、エアバッグ142を第2サイドエアバッグ142と記す。図示の例では、第2サイドエアバッグ142は、車両の車幅方向に見て、乗員M2の腰部Yよりも上、且つ乗員M2の肩部K以下の範囲の上半身に重なって見えるように、膨張展開する。つまり、第2サイドエアバッグ142は、乗員M2の肩部K及び胸部Zと、後側サイドドア16との間で膨張展開する。
【0015】
図2(a),(b)に示すように、第2サイドエアバッグ142が膨張展開した後の第2サイドエアバッグ142の厚み(車幅方向の厚み)T2は、第1サイドエアバッグ122が膨張展開した後の第1サイドエアバッグ122の厚み(車幅方向の厚み)T1よりも大きい厚みに設定されている。厚みT1は、膨張展開した後の第1サイドエアバッグ122の最も大きい厚み部位の厚み(車幅方向の厚み)である。厚みT2は、膨張展開した後の第2サイドエアバッグ142の最も大きい厚み部位の厚み(車幅方向の厚み)である。又、第2サイドエアバッグ142が膨張展開した後の第2サイドエアバッグ142の内部圧力P2は、第1サイドエアバッグ122が膨張展開した後の第1サイドエアバッグ122の内部圧力P1よりも大きい圧力に設定されている。
【0016】
第1サイドエアバッグ122の厚みT1は、例えば50mm〜150mmの範囲で設定される。比率T2/T1は、例えば2.5〜3.5の範囲で設定され、第2サイドエアバッグ142の厚みT2は、300mmを上限とする。比率P2/P1は、1.5〜2.5の範囲で設定される。
【0017】
本実施形態では、膨張展開した後の第1サイドエアバッグ122の厚みT1と、膨張展開した後の第2サイドエアバッグ142の厚みT2との比率T2/T1は、3.07に設定されている。又、膨張展開した後の第1サイドエアバッグ122の内部圧力P1と、膨張展開した後の第2サイドエアバッグ142の内部圧力P2との比率P2/P1は、2.44に設定されている。
【0018】
第2サイドエアバッグ142の厚みT2をT1に設定すると共に、第2サイドエアバッグ142の内部圧力P2をP1に設定した第1条件の場合と、第2サイドエアバッグ142の厚みT2を3.07×T1に設定すると共に、第2サイドエアバッグ142の内部圧力P2を2.44×P1に設定した第2条件の場合とのそれぞれにおいて、後側サイドドア16における側部衝突の実験を行なった。第2サイドエアバッグ142は、人体ダミーDの肩部及び胸部と、後側サイドドア16との間で膨張展開する。
【0019】
前記第1条件のもとに行われた側部衝突実験において計測された人体ダミーDの第12脊椎の曲げモーメントを1とすると、前記第2条件のもとに行われた側部衝突実験において計測された人体ダミーDの第12脊椎の曲げモーメントは、小さくなる。前記第1条件のもとに行われた側部衝突実験では、後側サイドドア16から車室内側へ離れる方向へ人体ダミーDの腰部が移動する移動量が肩部よりも大きくなるように、人体ダミーDが傾く。しかし、前記第2条件のもとに行われた側部衝突実験では、後側サイドドア16から車室内側へ離れる方向へ人体ダミーDの腰部が移動する移動量が肩部とあまり違わないように、人体ダミーDが後側サイドドア16から車室内側へ離れる方向へ移動する。つまり、前記第2条件のもとに行われた側部衝突実験では、人体ダミーDは、図2(b)に鎖線で示すように後側サイドドア16から車室内側へ離れる方向へ平行移動状態に近い状態で移動する。
【0020】
本実施形態では以下の効果が得られる。
(1)後部座席13に着座した乗員が後側サイドドア16から車室内側へ離れる方向に移動されるような規模の側部衝突が発生した場合、後部座席13に着座した乗員は、後側サイドドア16から車室内側へ離れる方向へ可及的に平行移動されることが望ましい。側部衝突によって後側サイドドア16から車室内側へ離れる方向へ移動される際の乗員の上半身の傾きが大きいほど、第12脊椎の曲げモーメントは、大きくなる傾向にある。
【0021】
前記した実験結果から明らかなように、膨張展開後の前部座席11用の第1サイドエアバッグ122の厚みT1よりも膨張展開後の後部座席13用の第2サイドエアバッグ142の厚みT2を大きくした構成は、後部座席13に着座した乗員が側部衝突によって後側サイドドア16から車室内側へ離れる方向へ移動する状態を平行移動状態に近づける上で、有効である。つまり、膨張展開後の前部座席11用の第1サイドエアバッグ122の厚みT1よりも膨張展開後の後部座席13用の第2サイドエアバッグ142の厚みT2を大きくした構成は、側部衝突から乗員を保護する効果を高める上で有効である。
【0022】
さらに、第2サイドエアバッグ142の内部圧力P2を第1サイドエアバッグ122の内部圧力P1よりも大きくした構成は、後部座席13に着座した乗員が側部衝突によって後側サイドドア16から車室内側へ離れる方向へ移動する状態を平行移動状態に近づける上で、有効である。
【0023】
(2)第2サイドエアバッグ142は、乗員M2の腰部Yよりも上の上半身(肩部Kと胸部Z)と後側サイドドア16との間で膨張展開される。つまり、側部衝突の発生によって膨張展開した第2サイドエアバッグ142によって乗員M2の腰部Yが直接押されることはない。
【0024】
一般的に、後側サイドドア16への側部衝突によって乗員M2の腰部Yが車室内側へ押されるモードとなっているため、第2サイドエアバッグ142によって乗員M2の腰部Yを押すと、乗員M2の上半身の傾きを助長する結果となる。側部衝突の発生によって膨張展開した第2サイドエアバッグ142によって乗員M2の腰部Yを直接押さないようにした構成は、乗員M2の肩部Kと腰部Yとの移動量の差を少なくする上で、有効である。
【0025】
本発明では、以下のような実施形態も可能である。
○第2サイドエアバッグ142は、乗員M2の肩部Kと後側サイドドア16との間でのみ膨張展開するようにしてもよい。つまり、側部衝突の発生によって膨張展開した第2サイドエアバッグ142が乗員M2の肩部Kのみを押すようにしてもよい。
【0026】
○第2サイドエアバッグ142は、乗員M2の胸部Zと後側サイドドア16との間でのみ膨張展開するようにしてもよい。つまり、側部衝突の発生によって膨張展開した第2サイドエアバッグ142が乗員M2の胸部Zのみを押すようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】一実施形態を示す側面図。
【図2】(a)は前部座席の正面図。(b)は後部座席の正面図。
【符号の説明】
【0028】
11…前部座席。12…第1乗員保護装置。121…ガス発生源としてのインフレータ。122…第1サイドエアバッグ。13…後部座席。14…第2乗員保護装置。141…ガス発生源としてのインフレータ。142…第2サイドエアバッグ。15…車両の側部としての前側サイドドア。16…車両の側部としての後側サイドドア。M1,M2…乗員。K…肩部。Z…胸部。Y…腰部。T1,T2…厚み。P1,P2…内部圧力。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス発生源から発生するガスにより車両の前部座席に着座した乗員と前記車両の側部との間で膨張展開される第1サイドエアバッグを有する第1乗員保護装置と、
ガス発生源から発生するガスにより前記車両の後部座席に着座した乗員と前記車両の側部との間で膨張展開される第2サイドエアバッグを有する第2乗員保護装置とを備え、
膨張展開した後の前記第2サイドエアバッグの車幅方向の厚みは、膨張展開した後の前記第1サイドエアバッグの車幅方向の厚みよりも大きい厚みに設定されている乗員保護装置。
【請求項2】
膨張展開した後の前記第2サイドエアバッグの内部圧力は、膨張展開した後の前記第1サイドエアバッグの内部圧力よりも大きい圧力に設定されている請求項1に記載の乗員保護装置。
【請求項3】
前記第2サイドエアバッグは、乗員の腰部よりも上の上半身と前記車両の側部との間で膨張展開される請求項1又は2に記載の乗員保護装置。
【請求項4】
前記第2サイドエアバッグは、乗員の肩部と前記車両の側部との間で膨張展開される請求項3に記載の乗員保護装置。
【請求項5】
前記第2サイドエアバッグは、乗員の胸部と前記車両の側部との間でも膨張展開される請求項4に記載の乗員保護装置。

【図1】
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【図2】
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