説明

乗客コンベアのリニューアル工法

【課題】既設トラスの内部に新設トラスを設置する空間を作るための事前作業を減らし工期を短縮することができ、しかも、リニューアル工事に必要な作業スペースを抑えることができる乗客コンベアのリニューアル工法を提供する。
【解決手段】乗客コンベアの既設トラス2内に新設のトラス50を設置する乗客コンベアのリニューアル工法において、人を運搬する往路を走行する踏段の踏段ローラを案内する上段ガイドレール13を既設トラス2から除去し、既設トラス2より幅狭のフレーム52の内部に新たな上段ガイドレール13を取り付けた幅狭上部トラス50を設け、上段ガイドレール13が取り付けられていた既設トラス2の横梁23の上方に幅狭上部トラス50を新設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、乗客コンベアのリニューアル工法に関する。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベアが老朽化しリニューアルを行う必要が生じた場合、例えば、既設トラスの横梁や既設トラスの幅方向に突出する受け部材等を切除して、既設トラスの内部に空間を作り、この空間に既設トラスより幅狭の新設トラスを設置する乗客コンベアのリニューアル工法が知られている(例えば、下記特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−314085号公報
【特許文献2】特開平10−81477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような乗客コンベアのリニューアル工法では、既設トラスの内部に新設トラスを設置する空間を作るための事前作業が多く、リニューアルの工期を短縮しにくいという問題がある。また、新設トラスも大掛かりなものとなり限られた工事作業スペースでは新設トラスを既設トラスの内部へ設置することが困難となる場合がある。
【0005】
本発明は、上記のような点を考慮してなされたもので、既設トラスの内部に新設トラスを設置する空間を作るための事前作業を減らし工期を短縮することができ、しかも、リニューアル工事に必要な作業スペースを抑えることができる乗客コンベアのリニューアル工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の乗客コンベアのリニューアル工法は、乗客コンベアの既設トラス内に新設のトラスを設置する乗客コンベアのリニューアル工法において、人を運搬する往路を走行する踏段の踏段ローラを案内する上段ガイドレールを前記既設トラスから除去し、前記既設トラスより幅狭のフレームの内部に新たな前記上段ガイドレールを取り付けた幅狭上部トラスを設け、前記上段ガイドレールが取り付けられていた前記既設トラスの横梁の上方に前記幅狭上部トラスを新設することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかるリニューアル工法が適用される乗客コンベアを示す乗客コンベアの側面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】上階側の既設トラスを示す斜視図である。
【図4】上段ガイドレールを除去した状態を示す既設トラスの断面図である。
【図5】既設トラスに幅狭上部トラスを設置した状態を示すトラスの断面図である。
【図6】既設トラスに幅狭上部トラスを設置した状態を示すトラスの斜視図である。
【図7】図5のB−B断面図である。
【図8】本発明の第1の実施形態にかかるリニューアル工法が行われた乗客コンベアの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0009】
図1に例示する乗客コンベア1は、本実施形態に係るリニューアル工法が適用されるエスカレータである。この乗客コンベア1は、図1に示すように、上階床と下階床の間に亘って配置されたトラス(既設トラス)2と、このトラス2内で、且つ、上階床と下階床の各近傍位置に配置された一対の踏段スプロケット3,4と、この一対の踏段スプロケット3,4の間に架け渡された無端状の踏段チェーン5と、この踏段チェーン5に連鎖状に支持された複数の踏段6と、この踏段6に取り付けられた踏段ローラ12が所定の無端軌道上を移動するよう案内する上段ガイドレール13及び下段ガイドレール14と、トラス2の上面の左右位置に立設された一対の欄干8と、この一対の欄干8の外周を移動軌跡とする一対の移動手摺9とを備えている。
【0010】
トラス2は、図2及び図3に示すように、踏段チェーン5の移動方向に沿って配置された左右及び上下位置のメイン梁20と、下方の左右位置のメイン梁20の間をほぼ等間隔毎に連結する複数の下段横梁21と、上下位置のメイン梁20の間をほぼ等間隔毎に連結する複数の縦梁22と、左右の縦梁22の間を連結する複数の中段横梁23とを備える。
【0011】
中段横梁23の上面には、人を運搬する往路を走行する踏段6aの踏段ローラ12aを案内する上段ガイドレール13が取り付けられている。
【0012】
中段横梁23の下方には、縦梁22からトラス2内部へ突出する支持部材24が設けられ、中段横梁23の上方には、縦梁22からトラス2内部へ突出するブラケット25が設けられている。支持部材24には、往路を走行する踏段6aの下方に設けられた復路を走行する踏段6bの踏段ローラ12bを案内する下段ガイドレール14が取り付けられている。ブラケット25には、欄干8の下方を走行する移動手摺9を案内する手摺レール26が取り付けられている。
【0013】
上方の左右位置のメイン梁20の上面には、トラス2の内向きに突出する欄干ベース27が所定間隔ごとに設けられている。欄干ベース27は、欄干8の下端部を支持してトラス2に欄干8を取り付ける。
【0014】
そして、上階側のトラス2内に設けられた機械室10には、電動機及び減速機を有する駆動装置11が配設され、駆動装置11からの出力によって上階側の踏段スプロケット3が回転駆動されることで、下階側の踏段スプロケット4との間に架け渡された踏段チェーン5によって下階側の踏段スプロケット4との間に架け渡された踏段チェーン5によって踏段ローラ12が上段ガイドレール13及び下段ガイドレール14に沿って循環移動し、踏段6上に乗っている利用者は下階から上階へ、又は、上階から下階へと運ばれる。
【0015】
次に上記のような乗客コンベア1の既設トラス2内に新設の幅狭上部トラス50を設置するリニューアルの流れについて説明する。
【0016】
まず、既設トラス2の内部に設けられた踏段チェーン5に連結支持された複数の踏段6と除去した後に、中段横梁23の上方においてメイン梁20及び縦梁22の内側(つまり、左右のメイン梁20及び縦梁22の間)に配置された部材を既設トラス2から除去する。具体的には、図4に示すように、メイン梁20、下段横梁21、縦梁22、中段横梁23、及び下段ガイドレール14などの中段横梁23の下方に配設された構成部材を残して、上方のメイン梁20に設けられた欄干ベース27と、縦梁22から内向きに突出するブラケット25とブラケット25に取り付けられた手摺レール26と、中段横梁23の上面に取り付けられた上段ガイドレール13とを既設トラス2から除去する。
【0017】
次に、図5及び図6に示すように、上段ガイドレール13が取り付けられていた既設トラス2の中段横梁23の上方に幅狭上部トラス50を設置する。
【0018】
幅狭上部トラス50は、既設トラス2の幅寸法(左右のメイン梁20及び縦梁22の間隔)より幅狭に設けられたフレーム52を備える。フレーム52は、既設トラス2のメイン梁20とほぼ平行に設けられた左右及び上下位置のメイン梁54と、下方の左右位置のメイン梁20の間をほぼ等間隔毎に連結する複数の横梁55と、上下位置のメイン梁54の間をほぼ等間隔毎に連結する複数の縦梁56とを備え、既設トラス2の上方のメイン梁20と縦梁22と中段横梁23とで囲われた空間に収まる大きさに設けられている。
【0019】
幅狭上部トラス50は、横梁55の上面に上段ガイドレール13が取り付けられ、上方の左右位置のメイン梁54の上面に欄干ベース27が取り付けられ、縦梁56にフレーム52内部へ突出するように手摺レール26を設けたブラケット25が取り付けられている。
【0020】
また、幅狭上部トラス50には、横梁55の下面に下方へ突出するストッパ部57と、既設トラス2の中段横梁23に対する上段ガイドレール13の高さ方向の位置を調節する高さ調節機構58とが設けられている。
【0021】
このような幅狭上部トラス50は、工場などで予め組み立てられた後、踏段チェーン5の移動方向に沿って複数分割された状態で既設トラス2内に搬入され、既設トラス2内において1つに連結され設置される。
【0022】
幅狭上部トラス50を既設トラス2の上方のメイン梁20と縦梁22と中段横梁23とで囲われた空間に設置するには、幅狭上部トラス50の横梁55に設けられたストッパ部57を既設トラス2の中段横梁23に係止させて幅狭上部トラス50を所定位置に配置する。このように幅狭上部トラス50を配置することで、上下階の乗降口の間に設けられた既設トラス2の傾斜部に幅狭上部トラス50を設置する場合であっても、ストッパ部57が既設トラス2の中段横梁23に係止され、幅狭上部トラス50を所定位置に位置決めした状態で保持することができる。
【0023】
そして、既設トラス2の所定位置に配置された幅狭上部トラス50は、図5及び図6に示すように、幅狭上部トラス50のメイン梁54に穿設されたボルト孔62と、既設トラス2のメイン梁20に穿設されたボルト孔28とをボルト63で共締めすることで、既設トラス2に対して固定される。
【0024】
複数に分割された幅狭上部トラス50を連結する際に、隣り合う幅狭上部トラス50に取り付けられた上段ガイドレール13を互いに滑らかに連結するため、幅狭上部トラス50の端部に高さ調節機構58が設けられている。
【0025】
この高さ調節機構58は、図7に示すように、上段ガイドレール13を貫通するジャッキボルト59と、上段ガイドレール13に固定されジャッキボルト59に螺合するナット60とを備え、ジャッキボルト59の先端が既設トラス2の中段横梁23の上面に当接する。そして、ジャッキボルト59を回転させ上段ガイドレール13から下方へ突出するジャッキボルト59の突出量を調整し、既設トラス2の中段横梁23に対する上段ガイドレール13の高さ方向の位置を調節することで、隣接する上段ガイドレール13同士を滑らかに連結することができる
次いで、踏段チェーン5に連結支持された複数の踏段6を配設した後に、既設トラス2内に新設された幅狭上部トラス50の上段ガイドレール13と、既設トラス2に残されていた下段ガイドレール14とを連結する。
【0026】
そして、図8に示すように、幅狭上部トラス50の横梁55に設けられた手摺レール26に移動手摺9を取り付けるとともに、幅狭上部トラス50のメイン梁54に設けられた欄干ベース27に欄干8の下端部を取り付けて乗客コンベア1のリニューアルを終了する。
【0027】
以上のように本実施形態の乗客コンベアのリニューアル工法では、既設トラス2に新たに設置する幅狭上部トラス50を工場などで予め組み立てておくことができるとともに、既設トラス2の中段横梁23を切断することがないため、乗客コンベア1が設置された作業現場での組み立て作業や切断作業を減らすことができ、工期を短縮することができる。
【0028】
しかも、本実施形態では、乗客の荷重が受けるため下段ガイドレール14に比べて疲労劣化しやすい上段ガイドレール13を簡便に交換することができ、効果的に乗客コンベア1をリニューアルすることができる。
【0029】
また、幅狭上部トラス50は既設トラス2の上方のメイン梁20と縦梁22と中段横梁23とで囲われた空間に収まる大きさに設けられその外形寸法が小さいため、乗客コンベア1が設置された作業現場においてリニューアル工事に必要な作業スペースを抑えることができる。
【符号の説明】
【0030】
1…乗客コンベア
2…既設トラス
3…踏段スプロケット
4…踏段スプロケット
5…踏段チェーン
6…踏段
8…欄干
9…移動手摺
10…機械室
11…駆動装置
12…踏段ローラ
13…上段ガイドレール
14…下段ガイドレール
20…メイン梁
21…下段横梁
22…縦梁
23…中段横梁
24…支持部材
25…ブラケット
26…手摺レール
27…欄干ベース
28…ボルト孔
50…トラス
50…幅狭上部トラス
52…フレーム
54…メイン梁
55…横梁
56…縦梁
57…ストッパ部
58…調節機構
59…ジャッキボルト
60…ナット
62…ボルト孔
63…ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアの既設トラス内に新設のトラスを設置する乗客コンベアのリニューアル工法において、
人を運搬する往路を走行する踏段の踏段ローラを案内する上段ガイドレールを前記既設トラスから除去し、
前記既設トラスより幅狭のフレームの内部に新たな前記上段ガイドレールを取り付けた幅狭上部トラスを設け、
前記上段ガイドレールが取り付けられていた前記既設トラスの横梁の上方に前記幅狭上部トラスを新設することを特徴とする乗客コンベアのリニューアル工法。
【請求項2】
前記既設トラスの横梁に係止するストッパが前記幅狭上部トラスに設けられていることを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベアのリニューアル工法。
【請求項3】
前記幅狭上部トラスは、前記既設トラスにボルトにより共締めされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の乗客コンベアのリニューアル工法。
【請求項4】
前記幅狭上部トラスは、前記既設トラスの横梁に対して高さ方向の位置を調節する高さ調節機構を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の乗客コンベアのリニューアル工法。
【請求項5】
欄干を取り付ける欄干ベース又は移動手摺を案内する手摺レールが、前記幅狭上部トラスに設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の乗客コンベアのリニューアル工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−171724(P2012−171724A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33671(P2011−33671)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】