説明

乗客コンベアの異常検知システム

【課題】乗客コンベアの異常検知システムにおいて、簡単及び安価な構成によってクシ折れを検出できるようにする。また、既設の乗客コンベアに対しても容易且つ安価に適用できる異常検知システムを提供する。
【解決手段】乗客コンベアの乗降口に設けられ、踏段又は踏板の上面に形成されたクリートと噛み合う複数のクシ歯と、各クシ歯までの距離を計測する距離センサ11と、距離センサ11によって計測された各クシ歯までの距離に基づいて、クシ折れの有無を判定する異常判定手段15とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、乗客コンベアの乗降口に設置されたクシ歯の折れを検出する異常検知システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベアには、その乗降口に、踏段(踏板)上面のクリートと噛み合うクシ歯が設置されている。このクシ歯は、利用者の靴等が乗降口の床プレートの下方に引き込まれたり、異物が乗客コンベアの機械室等に進入したりすることを防止する重要な機能を有している。このため、乗客コンベアの管理者は、巡回点検等においてクシ歯の折れ(以下、「クシ折れ」ともいう)を発見すると、乗客コンベアの保守会社に連絡してくし歯の交換を依頼する等、適切な対応を行っている。
【0003】
一方、乗客コンベアに関する従来技術として、上記クシ折れを自動で検出できるようにしたものも提案されている(例えば、特許文献1参照)。
具体的に、特許文献1に記載のものでは、コムプレートに設置した光センサの受光面をクシ歯で覆うことにより、常時は光センサをクシ歯で遮光するとともに、クシ歯が折れると、上記光センサが外部の光を受光するように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−292451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のものでは、光センサの設置のために専用のコムプレートやクシ歯が必要になり、システムが高価になるといった問題があった。更に、同様の理由から、既設の乗客コンベアへの適用が難しく、また、適用可能な場合であっても、所有者側の経済的負担が大きいといった問題があった。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、簡単及び安価な構成によってクシ折れを検出することができ、既設の乗客コンベアに対しても容易且つ安価に適用できる乗客コンベアの異常検知システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る乗客コンベアの異常検知システムは、乗客コンベアの乗降口に設けられ、踏段又は踏板の上面に形成されたクリートと噛み合う複数のクシ歯と、各クシ歯までの距離を計測する距離センサと、距離センサによって計測された各クシ歯までの距離に基づいて、クシ折れの有無を判定する異常判定手段と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係る乗客コンベアの異常検知システムによれば、簡単及び安価な構成によってクシ折れを検出することができるようになる。また、既設の乗客コンベアに対しても容易且つ安価に適用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1における乗客コンベアの異常検知システムを示す構成図である。
【図2】図1に示す異常検知システムを備えた乗客コンベアを示す側面図である。
【図3】図2に示す乗客コンベアの要部側面図である。
【図4】図2に示す乗客コンベアの要部平面図である。
【図5】この発明の実施の形態1における乗客コンベアの異常検知システムの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明をより詳細に説明するため、添付の図面に従ってこれを説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0011】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1における乗客コンベアの異常検知システムを示す構成図、図2は図1に示す異常検知システムを備えた乗客コンベアを示す側面図、図3は図2に示す乗客コンベアの要部側面図、図4は図2に示す乗客コンベアの要部平面図である。なお、図3は図2のA部詳細図に、図4は図2のA部平面図に相当する。
以下においては、乗客コンベアの一例として、下階から上階への移動の際に利用される上りのエスカレーターの構成について具体的に説明し、下りのエスカレーターや動く歩道等の他の例については、その説明を省略する。
【0012】
図1乃至図4において、1は上下階床間に架け渡されたエスカレーターの主枠、2はエスカレーターの下部乗降口(本実施の形態においては乗り口)、3はエスカレーターの上部乗降口(本実施の形態においては降り口)である。4はエスカレーターの利用者が上下階床間を移動する際に乗る踏段(動く歩道等においては踏板ともいう)、5は踏段4と同期するように駆動される移動手摺、6は踏段4や移動手摺5の走行制御等、エスカレーター全体の運行制御を司る制御盤である。
【0013】
降り口3には、その床面を形成する床プレートの一縁部に、複数のクシ歯7が設けられている。このクシ歯7は、利用者の靴等が降り口3の床プレートの下方に引き込まれたり、異物が床プレート下方の機械室8に進入したりすることを防止するために設置されたものである。このような機能を有するため、各クシ歯7は、先端部が、床プレートの上記一縁部よりも乗り口2側及び下方に突出するように配置され、その一部が、下方を通過する踏段4上面のクリート4aと噛み合うように構成されている。
【0014】
なお、上記床プレートは、例えば、降り口3の床面の要部を形成するランディングプレート9と、このランディングプレート9の一縁部に設けられたコムプレート10とから構成される。上記コムプレート10は、クシ歯7を支持するためのものであり、ランディングプレート9に固定された側と反対側の一縁部に、上記クシ歯7が幅方向に渡って一列に取り付けられている。
【0015】
11はクシ歯7が折れたこと(クシ折れ)を検出するために備えられた距離センサである。この距離センサ11は、その設置位置から各クシ歯7までの距離を計測する機能を有している。
【0016】
具体的に、距離センサ11は、床プレートの裏面(下面)に設けられており、床プレートの裏側から上記距離を計測する。即ち、距離センサ11からの検出光は、床プレートの下方を通過した後、クシ歯7の上記先端部のうち、床プレートの下面側(主枠1の端部側)を向いた後方部分7aに照射される。そして、この後方部分7aで反射した光が距離センサ11によって検出されることにより、その経過時間等に基づいて、クシ歯7までの距離が算出される。
【0017】
また、距離センサ11は、例えば、その検出部が回転可能な所定の機構を有している。そして、距離センサ11は、所定の角度毎に検出光を出射することにより、受光したその反射光に基づいて、所定の範囲内に存在するクシ歯7までの各距離を計測する。図4は、一例として、複数台(例えば、2台)の距離センサ11によって全てのクシ歯7までの距離を計測するものを示している。即ち、各距離センサ11は、位置aからB方向に回転しながら所定角度毎に検出光を照射し、その反射光を検出する。そして、各距離センサ11は、検出した反射光に基づいて、所定の角度θ内に存在するクシ歯7までの各距離を計測する。
【0018】
なお、乗り口2側も、降り口3側と同様の構成を有している。
【0019】
12はエスカレーターの利用者に対して文字等を表示して情報を提供する表示手段(LEDディスプレイ等)、13は利用者に対して音声によって情報を提供するアナウンス手段である。表示手段12及びアナウンス手段13は、乗り口2や降り口3、中間傾斜部の上方等に適宜設置されるものであり、エスカレーター利用者に対して種々の情報を報知する機能を有している。なお、表示手段12及びアナウンス手段13は、利用者に対してエスカレーターに関する情報を報知する手段の一例として示したものである。即ち、可能であれば、表示手段12及びアナウンス手段13の何れか一方によって上記機能を実現しても良いし、利用者に情報を提供する他の手段によって上記機能を実現しても良い。
【0020】
14は制御盤6や距離センサ11、表示手段12、アナウンス手段13が接続された制御装置である。この制御装置14は、距離センサ11の計測結果に基づいてクシ折れの有無を判定する機能、並びに、その判定結果に応じた各機器の動作を制御する機能を備えている。具体的に、上記各機能を実現するため、制御装置14には、異常判定手段15、記憶手段16、制御手段17、通報手段18、警告手段19が備えられている。
【0021】
異常判定手段15は、距離センサ11によって計測された各クシ歯7までの距離に基づき、クシ折れの有無を判定する機能を有する。具体的に、異常判定手段15は、距離センサ11によって計測された距離を、正常時の距離と比較することにより、各クシ歯7について、クシ折れの有無を判定する。なお、距離センサ11から各クシ歯7までの正常時の距離等、異常判定手段15がクシ折れの有無を判定するために必要な各種パラメーターは、記憶手段16に予め記憶されている。
【0022】
また、異常判定手段15は、所定の条件に基づいてクシ折れの発生を検出すると、制御手段17、通報手段18、警告手段19に対して動作指令を出力し、クシ折れの発生に対応した所定の動作を各種機器に行わせる。
【0023】
具体的に、制御手段17は、制御盤6を制御する機能を、通報手段18は外部への通報機能を、警告手段19はエスカレーターの利用者に対して注意や警告を行う機能をそれぞれ有している。例えば、異常判定手段15から動作指令が入力されることにより、制御手段17は、エスカレーターを緩停止させる等の動作を実施する。また、通報手段18は、異常判定手段15から動作指令が入力されることにより、クシ折れが発生した旨をエスカレーターの管理者や保守会社等に対して通報し、警告手段19は、表示手段12やアナウンス手段13を制御して、クシ折れ発生時の注意或いは警告を利用者に対して報知する。
【0024】
次に、図5も参照して、上記構成を有する異常検知システムの具体的な動作について説明する。図5はこの発明の実施の形態1における乗客コンベアの異常検知システムの動作を示すフローチャートである。
【0025】
管理者等によってエスカレーターを起動させるための操作(例えば、キースイッチ操作)が行われると、制御装置14は、先ず、制御盤6から所定の起動操作情報を取得し(S101)、その起動操作情報に基づいて、エスカレーターが現在クシ折れ検出中であるか否かを判定する(S102)。例えば、前日のエスカレーターの運転においてクシ折れが発生し、クシ歯7の交換が行われずにエスカレーターの運転が終了されると、次回の起動の際に、S102においてクシ折れ検出中である旨が判定される。
【0026】
なお、S102においてクシ折れ検出中である旨が判定されると、制御装置14は、警告手段19によってアナウンス手段13から注意喚起アナウンスを出力するとともに、制御手段17によってエスカレーターの起動を阻止する(S103、S104)。かかる場合、クシ折れの発生箇所によってアナウンスの内容を切り替え、例えば、「上部(下部)のクシ折れを検知したため起動できません。クシ歯を交換して下さい。」等のアナウンスを実施する。
【0027】
一方、S102においてクシ折れが検出されなければ、制御装置14は、制御手段17による起動阻止を解除して、エスカレーターを起動させる(S105、106)。そして、制御装置14は、エスカレーターの運転中、所定周期毎に、クシ折れの発生の有無を判定するための所定の処理を開始する。
【0028】
具体的に、制御装置14では、距離センサ11から、計測によって得られた各クシ歯7までの距離データ(計測データ)を、記憶手段16から上記計測データに対応する距離データ(正常時データ)を取得する(S107、S108)。そして、異常判定手段15は、取得した計測データと正常時データとを比較し、その差が許容範囲内か否かによって、クシ折れの発生の有無を判定する(S109、S110)。なお、クシ折れ有りを判定するための基準値(上記許容範囲)は、予め記憶手段16に記憶されている。
【0029】
ここで、所定のクシ歯7に関して、計測した距離と正常時の距離との差が所定の基準値を超える場合、異常判定手段15は、次に、上記所定のクシ歯7について、上記差が基準値を超える状態の継続時間(継続周期C)を計測(継続周期Cのカウントを開始、或いは、それまでに継続周期Cのカウントが開始されていればカウントを継続)する(S111)。そして、異常判定手段15は、継続周期Cに対する基準値Cを記憶手段16から取得し、上記継続周期Cと基準値Cとの比較を行う(S112、S113)。
【0030】
ここで、継続周期Cが基準値Cを超える場合、異常判定手段15は、距離センサ11に誤検出等は生じていないと判断して、クシ折れの発生を検出する(S114)。かかる場合、異常判定手段15は、通報手段18に対して動作指令を出力することにより、クシ折れが発生した旨を管理者や保守会社等に通報させる(S115)。また、異常判定手段15は、必要に応じて警告手段19及び制御手段17に対しても動作指令を出力し、例えば、「上部のクシ折れを検出しました。エスカレーターを停止させます。」等の注意喚起アナウンスをアナウンス手段13から出力させ、エスカレーターを緩停止させる(S116、S117)。
【0031】
一方、S110において、各クシ歯7に関して、計測した距離と正常時の距離との差が所定の基準値を超えていなければ、異常判定手段15は、クシ折れは発生していないと判断し、上記継続周期Cをクリアして異常検出を解除する(S118、S119)。
また、S113において継続周期Cが基準値C以下であると判定されると、異常判定手段15は、継続周期CのカウントをクリアすることなくS107の手順に戻り、上記処理を繰り返し実施する。
【0032】
この発明の実施の形態1によれば、簡単な構成によってエスカレーターの乗降口のクシ折れを検出することができ、システムを安価に構成することが可能となる。即ち、クシ歯7までの距離を計測することによってクシ折れの有無を判断できるため、ランディングプレート9やコムプレート10、クシ歯7として専用のものが不要となる。このため、既設のエスカレーターに対しても、容易且つ安価に適用することが可能である。
【0033】
また、クシ歯7までの距離の計測を床プレートの裏側から行うことにより、距離センサ11を機械室8等に配置でき、その設置及び配線作業を容易化できる。更に、距離センサ11自体や必要なケーブル類が利用者の視界に入ることも防止でき、エスカレーターの意匠性が損なわれる恐れもない。また、このような計測方法であれば、エスカレーターの運転中であっても、距離センサ11とクシ歯7との間に異物(例えば、利用者の荷物)等が進入する恐れがなく、常に正確な距離データを取得することが可能となる。
【0034】
なお、利用者の靴等によってクシ歯7に過大な負荷が作用すると、一般に、クシ歯7には、その先端部分7b(図3参照)側から欠けや折れが発生する。即ち、クシ歯7の上記先端部の後方部分7aのみが損傷することは、通常の運転においては発生し難い。このため、この後方部分7aを距離センサ11の検出位置に設定しておけば、踏段4とクシ歯7との間に所定の空間が形成されたことを、確実に検出できるようになる。即ち、クシ歯7の先端部分7bのみに僅かな欠けが発生した場合には、異常として検出することはなく、靴等の引き込まれ(挟まれ)が生じ得る空間の発生のみを、適切に検出することが可能となる。
【符号の説明】
【0035】
1 主枠、 2 下部乗降口(乗り口)、 3 上部乗降口(降り口)、 4 踏段、
4a クリート、 5 移動手摺、 6 制御盤、 7 クシ歯、 7a 後方部分、
7b 先端部分、 8 機械室、 9 ランディングプレート、
10 コムプレート、 11 距離センサ、 12 表示手段、
13 アナウンス手段、 14 制御装置、 15 異常判定手段、
16 記憶手段、 17 制御手段、 18 通報手段、 19 警告手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアの乗降口に設けられ、踏段又は踏板の上面に形成されたクリートと噛み合う複数のクシ歯と、
前記各クシ歯までの距離を計測する距離センサと、
前記距離センサによって計測された前記各クシ歯までの距離に基づいて、クシ折れの有無を判定する異常判定手段と、
を備えたことを特徴とする乗客コンベアの異常検知システム。
【請求項2】
前記クシ歯は、乗降口の床面を形成する床プレートの一縁部に設けられ、その先端部が、前記床プレートの前記一縁部よりも下方に突出するように配置され、
前記距離センサは、前記クシ歯の前記先端部までの距離を、前記床プレートの裏側から計測する
ことを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベアの異常検知システム。
【請求項3】
前記距離センサは、前記床プレートの裏面に設けられたことを特徴とする請求項2に記載の乗客コンベアの異常検知システム。
【請求項4】
前記距離センサは、所定の角度毎に検出光を出射することにより、その反射光に基づいて、所定の角度の範囲内に存在する前記クシ歯までの各距離を計測することを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の乗客コンベアの異常検知システム。
【請求項5】
前記距離センサから前記各クシ歯までの正常時の距離が記憶された記憶手段と、
を備え、
前記異常判定手段は、前記記憶手段に記憶された正常時の距離と前記距離センサによって計測された距離とに基づいて、前記各クシ歯について、クシ折れの有無を判定することを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の乗客コンベアの異常検知システム。
【請求項6】
前記異常判定手段は、前記記憶手段に記憶された所定のクシ歯までの距離と前記距離センサによって計測された前記所定のクシ歯までの距離との差が所定の基準値を超え、且つ、その状態が所定期間以上継続した場合に、前記所定のクシ歯について、クシ折れ有りを判定することを特徴とする請求項5に記載の乗客コンベアの異常検知システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−57411(P2011−57411A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210748(P2009−210748)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】