説明

乗客コンベヤのハンドレール用すべり層の処理

乗客コンベヤハンドレール(30)は、少なくとも片面(38)に低摩擦被膜(40)を有するすべり布層(36)を備える。開示される例は、すべり布層(36)の片面(38)の選択された部分に低摩擦被膜(40)を備える。他の開示される例は、すべり布層(36)の両面(38,39)に被膜を備える。種々の製造技術も記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、乗客コンベヤに関する。さらに詳細には、本発明は、乗客コンベヤのハンドレールに用いられるすべり層に関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータおよび動く歩道のような乗客コンベヤは、通常、コンベヤの両端の乗り場間で乗客を運ぶ移動ステップまたは移動ベルトを備える。ハンドレールは、コンベヤに乗っている乗客が安定を保つための表面をもたらすために、ステップまたはベルトと共に移動する。典型的には、ハンドレール構造は、乗客に掴み面をもたらすゴム本体または熱可塑性本体を備える。本体の下面は、典型的には、綿またはポリエステルのようなすべり布によって覆われている。このすべり布によって、案内部に沿ったハンドレールの摺動が容易になる。
【0003】
理想的には、すべり布層は、すべり層と案内部との間に低摩擦係数をもたらす表面特性を有する。従来のハンドレール駆動アッセンブリは、ハンドレール上に低摩擦すべり層を組み込むことを制限している。従来のハンドレール駆動アッセンブリは、ハンドレールがコンベヤに乗っている乗客と共に移動するように、ハンドレールをステップまたは移動ベルトと一致して推進させるために、ハンドレールの両面と係合する摩擦ローラおよびピンチローラを用いている。ハンドレール駆動機構とハンドレールとの間の摩擦の要件は、すべり布層が余りにもすべりやすい場合、達成されない。このような「摩擦の矛盾」(例えば、すべり層が案内部上を走行する点から必要とされる低摩擦係数およびすべり層が駆動機構と係合する点から必要とされる高摩擦係数)によって、すべり布層に有用な布の選択が制限される。
【0004】
すべり布を選択する上での他の考慮事項として、ハンドレールの本体に用いられる材料と布との間の良好な接着を確実にすることが挙げられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
すべり布層の摩耗は、乗客コンベヤのハンドレールの補修または取換えが必要となる主要な要因である。ハンドレールの寿命およびこれに関連する経費節減を増大させるために、すべり布層の摩耗の量を低減する改良された装置が必要とされている。本発明は、このような必要性に対処するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
乗客コンベヤのハンドレールの少なくとも一部として用いられる例示的な物品は、片面の少なくとも一部に低摩擦被膜を有するすべり布層を備える。
【0007】
一例では、布層の片面の選択された部分が、案内部に沿った摺動を容易にするために、低摩擦被膜によって被覆される。布層の片面の他の部分は、駆動機構との適切な係合を容易にするために、被覆されない。
【0008】
他の例では、すべり布層の両面に、被膜が設けられる。一例では、2つの異なる被膜、すなわち、低摩擦をもたらすように選択された一方の被膜、およびハンドレール本体を構成するのに用いられる材料との良好な接着をもたらすように選択された他方の被膜が設けられる。
【0009】
他の例では、すべり布層の両面に、同一の被膜が設けられる。
【0010】
低摩擦被膜をすべり布層の片面の少なくとも一部に塗布する例示的な塗布技術は、低摩擦被膜に用いられる材料をブラシ、スプレー、またはローラで塗布することを含む。他の例示的な塗布技術は、すべり布層を被膜に用いられる材料内に浸漬することを含む。
【0011】
一例では、すべり布層は、布がハンドレールの本体に固定される前に、被覆される。他の例では、低摩擦被膜が塗布される前に、ハンドレールが所定位置に設けられたすべり布層と組合される。
【0012】
本発明の種々の特徴及び利点は、以下の詳細な説明および添付の図面から、当業者にとって明らかになるだろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、例示的な乗客コンベヤ20を示している。乗客を所望の方向に運ぶために、複数のステップ22が、乗場24,26間で移動する。コンベヤ20に乗る乗客に掴み面をもたらすために、ハンドレール30が、案内部(図示せず)に沿った経路を辿って移動する。
【0014】
図2は、1つの例示的なハンドレール構成を示している。ハンドレール30は、例えば、ゴム材料または熱可塑性材料からなる本体32を備える。本体32は、例えば、コンベヤ20に乗る乗客が掴む方向に面する掴み面34を有する。ハンドレール本体32の反対側の面(図では、内面)は、所定位置に固定されたすべり布層36を有する。すべり布層36は、ハンドレールが周知の方法によって移動するにつれて、従来から用いられている案内部(図示せず)に沿って摺動する。
【0015】
例示的な一実施形態によるすべり布層36が、図3に示されている。この例では、すべり布層36は、片面38および反対面39を有する。すべり布層36は、一例では、綿から構成される。他の例では、すべり布層36は、ポリエステルから構成される。
【0016】
図3から理解されるように、例示的なすべり布層36の片面38は、その片面38の少なくとも一部に塗布された被膜40を有する。被膜40は、すべり布層36とハンドレール案内部との間に低摩擦係数をもたらす低摩擦被膜である。
【0017】
本発明の種々の例示的実施形態は、低摩擦被膜40に用いられる種々の材料を含む。例示的低摩擦材料は、硬化可能な熱可塑性または溶剤系材料である。例示的被膜材料として、エポキシ、フルオロエポキシ、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、およびシリコーンが挙げられる。いくつかの例において選択された材料は、低摩擦を促進するために、ハンドレール30の全運転範囲にわたって非付着性表面を呈する堅い外皮を有する柔軟被膜をもたらす。いくつかの例示的被膜は、摩擦低減添加物、例えば、テトラポリフルオロエチレン、固体フルオロポリマー、低蒸気圧流体フルオロポリマー、脂肪酸、脂肪酸誘導体(例えば、制限されないが、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、またはパルミチン酸塩)、黒鉛、または二硫化モリブデンを含む。一例では、摩擦低減添加物は、低摩擦被膜40に用いられる材料の全体にわたって分配される。
【0018】
図4は、すべり布層36の他の実施形態を示している。すべり布層36は、被膜40によって覆われた片面38および他の被膜42によって覆われた反対面39を有する。前述の例におけるように、被膜40は、ハンドレールが移動する案内部とすべり布層36の間に低摩擦係数をもたらす低摩擦被膜を備える。この例における被膜42は、ハンドレール30の本体をもたらすために選択された材料とすべり布層36の間の接着を高めるように選択された別の材料から構成される。
【0019】
他の例では、被膜40および被膜42は、同一の材料から構成される。このような例では、片面38に低摩擦係数をもたらし、かつハンドレールの本体をもたらすために選択された材料と布層36の間の接着を妨げない材料が、選択される。いくつかの例では、被膜42は、片面38に低摩擦被膜をもたらすにも関わらず、すべり布36をハンドレールの本体に接着する能力を高める。
【0020】
ハンドレールの構成、および乗客コンベヤの運転中にハンドレールを推進するのに用いられる駆動機構に依存して、布層36の片面38に低摩擦被膜を塗布する種々のパターンが用いられてもよい。
【0021】
図5は、複数の歯48を備えるハンドレール30の例示的な一実施形態を示している。歯48は、ハンドレールを狭窄する必要のない駆動機構に係合される。すなわち、ハンドレールの駆動は、駆動機構と各歯48の端面のすべり布層36との間の摩擦に依存しない。このような例では、低摩擦被膜40は、すべり布層36の全片面38にわたって延びている。図5の例では、低摩擦被膜40は、図示されるすべり布層36の各部分の全片面38にわたって延びている。
【0022】
図6は、他の例示的な実施形態を概略的に示している。この例では、従来から用いられているハンドレール駆動機構は、すべり布層36と駆動機構との間の摩擦に依存して、ハンドレール30を要求通りに推進する。この例では、低摩擦被膜40は、すべり布層36の長さに沿って長手方向(例えば、図の紙面の奥に向かう方向)に延びる少なくとも2つの互いに横方向に離間した細片をもたらすように、塗付される。片面38の中心部分50は、ハンドレール駆動機構と係合されるために、被覆されていない。低摩擦被膜40を有する被覆部は、すべり層36とハンドレール案内部との間に良好な摩擦係数をもたらす一方、未被覆部分50は、駆動機構との適切な摩擦係合を容易にする。
【0023】
図7は、低摩擦被膜を有するすべり布層を備えるハンドレールアッセンブリを作製する例示的な一方法を概略的に示している。すべり布層36の原材料が、自動化された方法で被膜塗布ステーション60内に移動する。この例では、すべり布層36は、ハンドレールの残りの部分に固定される前に、被覆される。この例では、被膜塗布ステーションは、いくつかの方法の1つによって、被膜を塗布する。布層36の片面のみが低摩擦被膜40によって被覆される実施形態では、被膜塗布ステーション60は、低摩擦被膜材料をブラシ、スプレー、またはローラで塗布する適切な機械装置を備える。布層36の両面が同一の被膜材料によって被覆される他の例では、布層は、低摩擦被膜に用いられる未硬化材料の槽内に浸漬される。
【0024】
被膜を塗布する技術に関わらず、図7の例は、低摩擦被膜40に用いられる材料を硬化するために、適切な熱源、乾燥器、またはこれらの両方を備える硬化ステーション62を備える。低摩擦被膜材料とすべり布層との間に良好な粘着性をもたらすために、選択される具体的な被膜材料に依存して、適切な硬化技術が用いられる。いくつかの例では、硬化によって、すべり布層36が施されるハンドレールの運動を案内するのに最終的に用いられる案内部と被膜層40との間に望ましい摩擦係数をもたらす堅い不粘着性外皮を有する柔軟な被膜層が得られる。図7の例は、被覆されたすべり布層36がハンドレールの残りの部分に固定されるハンドレールアッセンブリステーション64を備える。
【0025】
図8の例では、すべり布層36は、低摩擦被膜40がすべり布層36に塗布される前に、ハンドレールアッセンブリステーション64において、ハンドレールの残りの部分に固定される。このような構成では、層36が被膜の塗布の前にハンドレール30の本体32に固定されるので、一般にすべり布層36の片面のみが被覆される。一例では、例示的なすべり布層36の面39を塗布し、布層36をハンドレール本体に固定し、次いで、低摩擦被膜40をすべり布層36の片面38に塗布することが含まれる。
【0026】
図8の例では、低摩擦被膜40は、被膜塗布ステーション70において、塗付される。このような例における被膜を塗布するブラシまたはローラ塗布技術は、例えば、スプレー塗布技術が用いられた場合のように被覆されてはならないハンドレールの部分をマスクする必要がないという利点をもたらす。一例では、低摩擦被膜材料40をすべり布層36上に押出し加工することが含まれる。一例では、説明する目的で概略的に別々に示されるハンドレールアッセンブリステーション66が被膜塗布ステーション70から物理的に切り離されず、このような押出し加工は、ハンドレール本体材料が押出し成形されるときに、同時になされる。このような例では、同時に作動する機械装置の異なる部分によって、所望の結果が得られる。
【0027】
被膜40が適切に塗布された時点で、仕上げステーション72が、被膜40の材料を硬化し、ハンドレール材料の必要な仕上げを行う。
【0028】
開示された実施例は、既存のハンドレール設計と比較して、種々の利点を有する。低摩擦被膜40を用いることによって、ハンドレールが案内部に沿って摺動する時の摩擦係数が低減される。これによって、ハンドレールの寿命が延びる。摩擦係数は、ハンドレールの寿命に影響を及ぼす主要な要因なので、本発明の例示的実施形態を用いて摩擦係数を低減させることによって、ハンドレールの寿命を延ばし、著しい経費節減をもたらす。開示された例の他の利点は、ハンドレールを移動させるのに必要な消費電力を削減することができることである。低摩擦係数によって、ハンドレールを要求通りに移動させる動力を低減させることができる。他の利点は、すべり面における発熱を少なくすることにある。これによって、ハンドレールにわたって良好な温度制御をもたらし、場合によっては、安価な材料を用いることができる。
【0029】
他の利点として、ハンドレール案内装置の複雑さを少なくすることが挙げられる。多くの従来システムは、ニュアルの位置における摩擦力を低減させるために、ニュアルと関連付けられたローラを備える。このようなローラを加えることによって、乗客コンベヤアッセンブリの複雑さおよび経費が増大する。低摩擦被膜40を用いて摩擦係数を低減させることによって、悪影響をもたらすことなく、このようなローラを排除することができ、これによって、材料および設置の観点から、経費節減を達成することができる。
【0030】
以上の説明は、単なる例示にすぎず、本質的に本発明を制限するものではない。開示された例に対する変更および修正が、本発明の本質から必ずしも逸脱することなく、なされ得ることが当業者によって明らかになるだろう。本発明に与えられる法的な保護の範囲は、特許請求の範囲を検討することによってのみ、定められる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態によって設計されたハンドレールを含む例示的な乗客コンベヤを図式的に示す図である。
【図2】図1のA−A線に沿った断面図である。
【図3】例示的な布層を概略的に示す図である。
【図4】例示的なすべり布層の他の実施形態を概略的に示す図である。
【図5】図1の線A−Aに沿った他の実施形態の断面図である。
【図6】図2,図5と同じ方向に沿った他の実施形態の断面図である。
【図7】本発明の一実施形態におけるハンドレール層に被膜を塗布する例示的な方法を概略的に示す図である。
【図8】他の例示的な方法を概略的に示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベヤのハンドレールの少なくとも一部として有用な物品であって、
片面の少なくとも一部が低摩擦被膜によって覆われたすべり布層を備えることを特徴とする物品。
【請求項2】
前記すべり布層が、前記低摩擦被膜によって覆われた第1の面と、被膜によって覆われた反対方向に面する第2の面と、を有することを特徴とする請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記第2の面の前記被膜が、前記第1の面の前記低摩擦被膜と同じであることを特徴とする請求項2に記載の物品。
【請求項4】
前記第2の面の前記被膜が、前記第1の面の前記低摩擦被膜と異なることを特徴とする請求項2に記載の物品。
【請求項5】
前記低摩擦被膜が、エポキシ、フルオロエポキシ、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、またはシリコーンの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の物品。
【請求項6】
前記低摩擦被膜が、テトラフルオロポリエチレン、固体フルオロポリマー、低蒸気圧流体フルオロポリマー、脂肪酸、脂肪酸誘導体、黒鉛、または二硫化モリブデンの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の物品。
【請求項7】
前記低摩擦被膜が、柔軟であり、堅い外皮を含むことを特徴とする請求項1に記載の物品。
【請求項8】
前記すべり布層が、綿またはポリエステルの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の物品。
【請求項9】
前記低摩擦被膜が、前記片面に設けられた横方向に離間した被覆部分を備え、前記片面が、前記横方向に離間した被覆部分の間に位置する中央の未被覆部分を備えることを特徴とする請求項1に記載の物品。
【請求項10】
乗客コンベヤのハンドレールの少なくとも一部を作製する方法であって、
低摩擦被膜をすべり布層の片面の少なくとも一部に施すことを含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
前記低摩擦被膜をブラシ、スプレー、またはローラの少なくとも1つによって施すことを含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記低摩擦被膜を前記すべり布層の前記片面の全体に施すことを含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記片面に横方向に離間した少なくとも2つの前記低摩擦被膜の部分を施し、前記片面の中心部分を未被覆状態で残すことを含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記すべり布層の反対側に面する第2の面に被膜を施すことを含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記片面および前記第2の面に、それぞれ、異なる被膜を施すことを含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記片面および前記第2の面に、同一の被膜を施すことを含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記すべり布層を、前記低摩擦被膜をもたらす材料内に浸漬することを含むことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記すべり布をハンドレールの本体部分に固定する前に、前記低摩擦被膜を施すことを含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項19】
前記すべり布をハンドレールの本体部分に固定した後に、前記低摩擦被膜を施すことを含むことを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記すべり布層の前記片面に前記低摩擦被膜を押出し加工することを含むことを特徴とする請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−522185(P2009−522185A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−548475(P2008−548475)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【国際出願番号】PCT/US2005/047057
【国際公開番号】WO2007/075162
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(591020353)オーチス エレベータ カンパニー (402)
【氏名又は名称原語表記】OTIS ELEVATOR COMPANY
【Fターム(参考)】