説明

乗物用換気装置

【課題】乗員の健康の維持を図ることができ、且つ、乗物の省燃費化を図ることが可能な乗物用換気装置を提供する。
【解決手段】乗物用換気装置2の給気調整部6は、乗員収容空間3の二酸化炭素の濃度を所定値未満に抑えるために乗員一人当たりに対して必要となる乗員収容空間への単位時間当たりの外気の供給量として予め設定された必要給気量と、乗員数センサ8が検知した乗員数とに基づいて、乗員収容空間3への単位時間当たりの外気の供給量を決定し、給気調整部6を制御して、決定した供給量の外気を乗員収容空間3へ供給させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両や航空機等、複数の乗員を収容する乗物に適用可能な換気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乗物の乗員収容空間の二酸化炭素濃度が上昇すると、乗員の健康を害するおそれがあるため、乗物内外の状態に応じて内気の循環量や外気の導入量を設定する車両用空調装置が知られている。
【0003】
特開2004−196063号公報には、二酸化炭素濃度の上昇による人体への悪影響を未然に防止することを目的とした車両用空調装置が記載されている。車両用空調装置は、回動位置によって内気又は外気を選択して空調ユニット内に取込可能とするインテークドアと、空調ユニット内に内気又は外気を取り込んで車内へと送風可能とするブロアと、エバポレータと、ヒートコアとを有する。
【0004】
車両用空調装置の空調制御では、内気循環モードの場合、圧力センサが検出した乗員数と濃度検出センサが検出した二酸化炭素濃度とに基づいて、二酸化炭素濃度が第1設定時間内に基準値に至ると予測される予測基準値を算出する。第1設定時間には、乗員数によって異なる値であって、危険回避動作を開始してから実際に二酸化炭素濃度が低下し始めるまでに要する時間を使用する。二酸化炭素濃度の基準値には、人体に何等かの悪影響を与える値であって、呼吸器・循環器・大脳等の機能に影響が見られる0.1%や、耳鳴り・頭痛・血圧上昇等の兆候が現れる4%を使用する。濃度検出センサが検出した二酸化炭素濃度が予測基準値に到達しているか否かを判断し、到達していれば危険回避動作として内気循環モードから外気導入モードに切り替える。
【0005】
また、外気循環モードの場合、排ガス等の影響を受けて車内の二酸化炭素濃度が上昇する恐れがあり、現在の二酸化炭素濃度の検出値が第2設定時間内に基準値に至ると予測される予測基準値に到達すれば、外気導入モードから内気導入モードに切り替える。
【0006】
また、特開2000−177362号公報には、乗員数に応じて車室内の二酸化炭素濃度の上昇を抑圧することを目的とした内外気切換ドア制御装置を備えた車両用空調装置が記載されている。車両用空調装置には、空調ダクトの最上流端が、外気導入口と内気導入口とに分岐されており、この分岐部分には空調ダクトへ導入する空気を選択するための内外気切換ドアが設けられている。空調ダクトの後流側には、ブロアモータ、エバポレータ、ヒートコアが配置され、空調ダクトの後端側が、車室内に複数に分岐されて開口する。内外気切換ドア制御装置では、焦電型赤外線センサや超音波センサ等による乗員検知センサの出力信号に基づいて1名〜4名の乗員数を判断し、ガスセンサの出力信号に基づいて車室外の空気の汚れ具合が低い順から状態1〜状態4の4つの状態に区分して判断し、乗員数と状態とに基づいて内外気切換ドアのドア位置の設定処理を行う。例えば、車室外の空気の汚れ具合が状態1である場合、乗員数に拘わらず、内外気切換ドアのドア位置を、外気のみを導入する位置に設定する。また、車室外の空気の汚れ具合が状態4である場合、内外気切換ドアのドア位置を、乗員数が1名のときは外気導入量が10%となる位置に設定し、乗員数の増加に応じて外気導入量を10%ずつ増加した位置に設定する。状態4で、且つ、乗員4名の場合における内外気切換ドアのドア位置は、車室外の空気の汚れ具合が最悪で、しかも車室内の乗員数が最大の状態にあっても、この程度のドア位置での外気導入は、乗員の健康等に不都合をきたすものではないという観点から定める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−196063号公報
【特許文献2】特開2000−177362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特開2004−196063号公報の構成では、外気導入モードにおいて、排ガス等の影響により車内の二酸化炭素濃度が上昇するおそれがないと判断した場合、外気導入モードが維持される。また、上記特開2000−177362号公報の構成では、車室外の空気の汚れ具合が状態1であると判断した場合、外気のみが導入される。
【0009】
しかし、例えば夏期や冬期のように外気温度と車室の最適温度とが大きく異なる場合、積極的に外気を導入すると、冷暖房装置の負荷が増大し燃費の悪化を招いてしまう。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、乗員の健康の維持を図ることができ、且つ、乗物の省燃費化を図ることが可能な乗物用換気装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成すべく、本発明の乗物用換気装置は、連通路と給気調整手段と乗員数検知手段と給気制御手段とを備える。
【0012】
連通路は、乗員を収容する乗員収容空間の内外を連通し、外気を乗員収容空間に供給可能である。給気調整手段は、連通路に設けられ、乗員収容空間への単位時間当たりの外気の供給量を変更可能である。乗員数検知手段は、乗員収容空間に収容された乗員数を検知する。給気制御手段は、乗員収容空間の二酸化炭素の濃度を所定値未満に抑えるために乗員一人当たりに対して必要となる乗員収容空間への単位時間当たりの外気の供給量として予め設定された必要給気量と、乗員数検知手段が検知した乗員数とに基づいて、乗員収容空間への単位時間当たりの外気の供給量を決定し、給気調整手段を制御して、決定した供給量の外気を乗員収容空間へ供給させる。
【0013】
二酸化炭素の濃度の所定値には、例えば、建築物における衛生的環境の確保に関する法律(ビル管理法)施行令に規定されている1000ppmを使用する。
【0014】
上記構成では、乗員収容空間の二酸化炭素の濃度を所定値未満に抑えるために乗員一人当たりに対して必要となる乗員収容空間への単位時間当たりの外気の供給量として予め設定された必要給気量と乗員数とに基づいて、乗員収容空間への単位時間当たりの外気の供給量を決定する。例えば、必要給気量と乗員数とを乗じた値を、乗員収容空間への単位時間当たりの外気の供給量として決定する。これにより、乗員数検知手段が検知した数の全ての乗員に対して、乗員収容空間の二酸化炭素の濃度を所定値未満に抑えるために必要となる乗員収容空間への単位時間当たりの外気の供給量を、給気調整手段が乗員収容空間へ供給することができる。従って、乗員収容空間の二酸化炭素の濃度が、常に所定値未満に抑えられるため、乗員の健康の維持を図ることができる。
【0015】
また、乗員収容空間に二酸化炭素の濃度を検知する機器を備えることなく、乗員収容空間の二酸化炭素の濃度を所定値未満に抑えることが可能であるため、コストを抑えることができる。
【0016】
また、乗員収容空間への外気の供給量が、給気制御手段が決定した供給量に制限される。従って、外気の温度と内気の設定温度とに差がある場合(外気の温度よりも内気の温度が低く設定される夏期や、外気の温度よりも内気の温度が高く設定される冬期など)において、内気と熱交換を行うエネルギーの消費を抑制することができるため、乗物の省燃費化を図ることができる。
【0017】
また、給気調整手段は、乗員収容空間へ外気を強制的に供給するファンを有してもよく、給気制御手段は、ファンの回転数を変更することによって、乗員収容空間への単位時間当たりの外気の供給量を変更してもよい。
【0018】
また、給気調整手段は、連通路を全開する全開位置と連通路を全閉する全閉位置との間を移動可能なダンパを有してもよく、給気制御手段は、ダンパの位置を変えて連通路の開度を変更するか、又は全開位置のダンパを全開位置に設定する単位時間当たりの時間割合を変更することによって、乗員収容空間への単位時間当たりの外気の供給量を変更してもよい。
【0019】
さらに、給気調整手段は、上記ファンと上記ダンパの双方を有してもよく、給気制御手段は、ファンの回転制御とダンパの移動制御とによって乗員収容空間への単位時間当たりの外気の供給量を変更してもよい。
【0020】
また、乗物用換気装置は、速度検出手段を備えてもよい。速度検出手段は、乗物用換気装置が設けられた乗物の移動速度を検出する。給気制御手段は、乗員数検知手段が検知した乗員数と速度検出手段が検出した移動速度とに基づいて、ファンの回転制御又はダンパの移動制御を実行する。
【0021】
通常、連通路は、ファンが乗員収容空間へ外気を強制的に供給せず且つダンパが連通路を開放した状態であっても、乗物の移動速度の増減に応じて単位時間当たりの外気の流入量が増減する。
【0022】
このため、乗物の移動速度として所定の固定値を想定してファンの回転制御又はダンパの移動制御を実行すると、所定の固定値よりも実際の移動速度が低い場合、二酸化炭素の濃度を所定値未満に抑えるために必要な外気の供給量を乗員収容空間へ供給することができず、乗員の健康の維持を図ることができないおそれがある。一方、所定の固定値よりも実際の移動速度が高い場合、二酸化炭素の濃度を所定値未満に抑えるために必要となる供給量以上の外気を乗員収容空間へ供給し、乗員収容空間の温度を変動させてしまい、例えば夏期や冬期のように外気温度と車室の最適温度とが大きく異なる場合、冷暖房装置の負荷を増大させ乗物の燃費の悪化を招いてしまうおそれがある。
【0023】
これに対して、上記構成では、乗員数と移動速度とに基づいて、ファンの回転制御又はダンパの移動制御を実行する。例えば、乗員数と乗物の移動速度と連通路への単位時間当たりの外気の流入量との関係を予め設定し、この設定された関係と検知した乗員数と検出した移動速度とに基づいて、ファンの回転制御又はダンパの移動制御を実行する。これにより、乗物の移動速度に起因する乗員収容空間への外気の供給量の過不足分が低減されるため、乗員収容空間への二酸化炭素の濃度を所定値未満に抑えるために必要となる供給量の外気をより確実に乗員収容空間へ供給することができ、乗員の健康の維持と乗物の省燃費化とを図ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、乗員の健康の維持を図ることができ、且つ、乗物の省燃費化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態を図1及び図2に基づいて説明する。
【0026】
図1は本実施形態に係る乗物用換気装置を備えた乗物(車両)1の模式図であり、図2は図1の乗物用換気装置のコントローラが実行する外気供給処理のフローチャートである。
【0027】
図1に示すように、乗物1の乗物用換気装置2は、HVAC(Heating,Ventilating and Air-Conditining)システムであり、連通路5と給気調整部6と外気状態センサ7と乗員数センサ8と速度センサ9と冷暖房装置(図示省略)とコントローラ10とを備える。
【0028】
連通路5は、開口部51と送風口部52と案内管部53とを有し、乗物1の内部に区画されて複数の乗員を収容する乗員収容空間3の内外を連通し、乗物1の外部の空気(外気)を乗員収容空間3に供給可能である。開口部51は、乗物1の外部で進行方向前方に向けて開口し、外気を受け入れる。送風口部52は、乗物1の内部に設けられ、乗員収容空間3で開口する。案内管部53は、開口部51と送風口部52とを連通し、受け入れた外気を乗員収容空間3へ案内する。
【0029】
給気調整部6は、連通路5に設けられ、乗員収容空間3への単位時間当たりの外気の供給量を変更可能な給気調整手段を構成する。本実施形態の給気調整部6は、ファン61とダンパ63とを有する。
【0030】
ファン61は、モータ62によって駆動されて回転し、連通路5内の空気を乗員収容空間3へ強制的に供給する。
【0031】
ダンパ63は、アクチュエータ64の駆動によって移動し、連通路5を全開して乗員収容空間3に供給された空気(内気)を遮断する全開位置(図1に実線で示す)と、連通路5を全閉して外気を遮断する全閉位置(図1に点線で示す)との間を移動可能である。ダンパ63が全閉位置に設定されたときは、乗物1は、乗員収容空間3に内気が循環する内気循環状態となる。また、ダンパ63が全閉位置以外の位置に設定されたときは、乗物1は、乗員収容空間3に外気が導入される外気導入状態となる。ダンパ63の位置は、ポジションセンサ65が検知する。ポジションセンサ65は、検知したダンパ63の位置の情報を含むダンパ状態信号をコントローラ10へ出力する。
【0032】
外気状態センサ7は、半導体ガスセンサが使用され、乗物1の外面に配置され、外気中のNOx(窒素酸化物)濃度やCO(一酸化炭素)濃度などを検知し、NOx濃度及びCO濃度の情報を含む外気状態信号をコントローラ10へ出力する。
【0033】
乗員数センサ8は、乗員数検知手段を構成し、圧力を検知するセンサであり、乗員収容空間3に収容された各乗員が着座するシートにそれぞれ備えられ、各シートへの乗員の着座の有無をオン又はオフとして乗員数を検知し、検知した乗員数の情報を含む乗員検知信号をコントローラ10へ出力する。
【0034】
乗員数センサ8は、圧力を検知するセンサに限らず、例えば、温度を検知する赤外線センサによって、乗員収容空間3全体を上方から検知し、温度が変化する面積や領域数をコントローラ10が演算可能な情報を含む乗員検知信号をコントローラ10へ出力してもよい。また、乗員数センサ8は、乗物1の乗降口に配置されて乗降口を通過する乗員数を検知し、検知した乗員数の情報を含む乗員検知信号をコントローラ10へ出力してもよい。
【0035】
速度センサ9は、速度検出手段を構成し、乗物1の移動速度を検出して、検出した移動速度の情報を含む速度検出信号をコントローラ10へ出力する。
【0036】
冷暖房装置は、エバポレータとヒートコアとを有し、連通路5に設けられ、乗員収容空間3に供給される空気と熱交換を行う。また、冷暖房装置は、乗員収容空間3に設けられ、内気と熱交換を行ってもよい。
【0037】
コントローラ10は、CPU(Central Processing Unit)11とROM(Read Only Memory)12とRAM(Random Access Memory)13とを有し、外気供給処理を実行する給気制御手段を構成する。外気供給処理では、外気状態センサ7、乗員数センサ8、速度センサ9、ポジションセンサ65を含む各種センサが出力する信号が入力し、入力する信号に基づいて、内気循環状態又は外気導入状態の設定と、乗員収容空間3の二酸化炭素の濃度を所定値未満に抑えるために、乗員全員に対して必要となる乗員収容空間3への単位時間当たりの外気の供給量である必要外気供給量の決定と、決定した必要外気供給量の外気を乗員収容空間3へ供給させるための給気調整手段の制御とを実行する。
【0038】
ROM12には、必要給気量が記憶される。必要給気量は、乗員収容空間3の二酸化炭素の濃度を所定値未満に抑えるために乗員一人当たりに対して必要となる乗員収容空間3への単位時間当たりの外気の供給量として予め設定される。
【0039】
本実施形態では、二酸化炭素の濃度の所定値には、建築物における衛生的環境の確保に関する法律(ビル管理法)施行令に規定されている1000ppmを使用する。そして、必要供給量として13m/hが記憶される。必要供給量13m/hの値は、乗物1において予め実験によって二酸化炭素の濃度が1000ppmを満足する値として確認したものである。また、この値に限らず、乗物用換気装置2が設けられる乗物1において、乗員収容空間3の二酸化炭素の濃度を所定値未満に抑えるために乗員一人当たりに対して必要となる乗員収容空間3への単位時間当たりの外気の供給量を、予め測定又は算出して設定したものを記憶してもよい。
【0040】
また、乗員一人当たりに必要な給気量に限らず、可能性のある乗員数に応じて必要な給気量をそれぞれ予め設定して記憶してもよい。
【0041】
また、複数人数に対して段階毎に必要な給気量を設定して記憶してもよい。具体的には、1人〜3人であるときに3人に必要な供給量、4人〜6人であるときに6人に必要な供給量というように複数人数毎に必要な供給量を予め設定して記憶してもよい。
【0042】
また、ROM12には、乗員収容空間3へ外気がファン61によって強制的に供給されることなく且つダンパ63が全開位置に設定された状態における乗物1の移動速度と連通路5への単位時間当たりの外気の流入量との関係が予め設定され記憶される。
【0043】
本実施形態では、乗物1の移動速度と、乗物1の移動速度の増加に応じて増加する連通路5への単位時間当たりの外気の流入量との関係が予め実験や演算などによって求められ、求められた関係を示すグラフが記憶される。
【0044】
CPU11は、外気状態センサ7が出力する外気状態信号に基づいて、NOx濃度又はCO濃度が予め設定された所定濃度を超えているか否かを判定し、いずれかが所定濃度を超えていると判定した場合、内気を循環する内気循環状態に設定し、いずれも所定濃度以下であると判定した場合、外気を導入する外気導入状態に設定する。
【0045】
また、CPU11は、乗員数センサ8が出力する乗員検知信号に基づいて、乗員収容空間3に収容された乗員数を算出する。具体的には、各座席シートで乗員数センサ8に検知されたオンの数を合算する。
【0046】
なお、乗員数センサ8として赤外線センサなどを使用して乗物1の乗員の乗降人数を検知したものを使用する場合、検知した乗降人数に基づいてCPU11が乗員数を算出してもよい。例えば、乗車可能な人数が多く、乗降口が少なく、乗降口から一人ずつ乗員が乗降するバスに適用してもよい。具体的には、乗口と降口とを一つずつ備えるバスにおいて、通過した人数を検知する乗員数センサ8を乗口と降口とに設け、CPU11が乗口で検知された人数と降口で検知された人数の差分で乗員数を算出する。これにより、多い乗員数を、少ない乗員数センサ8で効果的に検知することができる。
【0047】
また、算出する乗員数は、整数に限らず、小数点以下を含む数であってもよい。具体的には、乗員検知センサ8は、乗員収容空間3に収容された乗員の重量を検知してもよく、CPU11は、乗員検知センサ8が検知した重量を、成人一人の平均体重として予め設定された所定の重量で除算して、小数点以下二桁までの数で乗員数を算出してもよい。
【0048】
また、CPU11は、予め設定されてROM12に記憶された必要給気量と、乗員数センサ8が検知した乗員数とに基づいて、乗員全員に対して必要となる乗員収容空間3への単位時間当たりの外気の供給量である必要外気供給量を決定する。本実施形態では、ROM12に記憶された成人一人当たりに対して必要となる必要給気量と、算出した乗員数とを乗じて必要外気供給量を決定する。
【0049】
なお、乗物1に乗る可能性のある乗員数に応じて必要な給気量をそれぞれ予め設定してROM12に記憶させる場合は、CPU11は、乗員数に対応する給気量をROM12から読み出すことによって、必要外気供給量を決定する。
【0050】
また、複数人数に対して段階毎に必要な給気量を設定してROM12に記憶させる場合は、CPU11は、検知した乗員数が含まれる段階に応じて必要外気供給量を決定する。多人数を収容するバスや列車などでは、正確な乗員数の検知が難しいため、段階的な人数に対する供給量の設定が有効である。
【0051】
また、CPU11は、給気調整部6を制御して必要外気供給量の外気を乗員収容空間3へ供給させる。
【0052】
具体的には、モータ62の回転数を決定し、決定した回転数に応じた電圧をモータ62へ供給させてファン61を回転させることによって、乗員収容空間3への単位時間当たりの外気の供給量を変更する。また、ダンパ63の位置を決定し、決定したダンパ63の位置とポジションセンサ65から入力する現在のダンパ63の位置を示すダンパ状態信号とに基づいて、アクチュエータ64へ供給する電圧を設定してダンパ63を移動させることによって、乗員収容空間3への単位時間当たりの外気の供給量を変更する。本実施形態では、ダンパ63の位置を無段階に変えて連通路の開度を変更することによって、乗員収容空間3への単位時間当たりの外気の供給量を変更する。なお、ダンパ63の位置は、無段階ではなく、3つ以上の複数段階に設定してもよい。また、ダンパ63によって乗員収容空間3への単位時間当たりの外気の供給量を変更するためには、ダンパ63の位置を全開位置と全閉位置との2段階で設定し、全開位置のダンパ63を全開位置に設定する単位時間当たりの時間割合を変更してもよい。
【0053】
ここで、連通路5は、乗物1の外部に向けて開口する開口部51から外気を取り入れるため、ファン61が乗員収容空間3へ外気を強制的に供給せず且つダンパ63が連通路5を開放した状態であっても、乗物1の移動速度の増減に応じて連通路5への単位時間当たりの外気の流入量が増減する。
【0054】
このため、本実施形態では、予め設定された乗物1の移動速度に対する連通路5への単位時間当たりの外気の流入量と、乗員数センサ8が検知した乗員数と速度センサ9が検出した移動速度とに基づいて、必要外気供給量を乗員収容空間3へ供給させるファン61の回転制御又はダンパ63の移動制御を実行する。
【0055】
まず、CPU11は、外気がファン61によって乗員収容空間3へ強制的に供給されることなく且つダンパ63が全開位置に設定された状態における乗物1の移動速度と連通路5への単位時間当たりの外気の流入量との関係をROM12から読み出し、読み出した関係と、速度センサ9から入力する速度検出信号とに基づいて、外気がファン61によって乗員収容空間3へ強制的に供給されることなく且つダンパ63が全開位置に設定された状態における、現在の移動速度での乗員収容空間3への単位時間当たりの外気の最大の流入量である最大外気流入量を求める。
【0056】
次に、CPU11は、乗員数センサ8が検知した乗員数に基づいて決定した必要外気供給量と、速度センサ9が検出した移動速度に基づいて決定した最大外気流入量とに基づいて、必要外気供給量を乗員収容空間3へ供給させるファン61の回転制御又はダンパ63の移動制御を実行する。具体的には、必要外気供給量と最大外気流入量とが同じであれば、ファン61を停止したままダンパ63を全開位置に設定することによって、必要外気供給量の外気を乗員収容空間3へ供給させる。また、必要外気供給量が最大外気流入量よりも小さい場合は、必要外気供給量と最大外気流入量との比(必要外気供給量/最大外気流入量)に応じてダンパ63の位置を変更して連通路5の開度を狭めて超過分の流入量を抑制することによって、必要外気供給量の外気を乗員収容空間3へ供給させる。また、必要外気供給量が最大外気流入量よりも大きい場合は、ファン61の回転数を設定して不足分の供給量を補填することによって、必要外気供給量の外気を乗員収容空間3へ供給させる。
【0057】
なお、本実施形態では、ROM12には、必要給気量と、乗物1の移動速度と連通路5への単位時間当たりの外気の流入量との関係とを記憶させているがこれに限らず、例えば、乗員数と、乗物の移動速度と、乗員収容空間3へ外気がファンによって強制的に供給されることなく且つダンパ63が全開位置に設定された状態における乗員収容空間3への単位時間当たりの外気の流入量と、これらの組み合わせにおいて必要なファン61の回転制御及びダンパ63の移動制御との関係を予め設定してROM12に記憶させてもよい。CPU11は、この記憶させた関係と、乗員数センサ8が検知した乗員数と、速度センサ9が検出した移動速度とに基づいて、CPU11がROM12より必要なファン61の回転制御又はダンパ63の移動制御を読み出して、制御を実行する。
【0058】
次にコントローラ10が実行する外気供給処理について、図2のフローチャートに沿って説明する。本処理は、エンジンの始動によって開始し、所定時間毎(例えば1分毎)に実行される。本処理では、乗員一人当たり0.217m/min(13m/h)の外気を乗員収容空間3へ供給するための制御が実行される。
【0059】
本処理を開始すると、まず、ステップS1において、外気状態センサ7が出力する外気状態信号と、乗員数センサ8が出力する乗員検知信号と、速度センサ9が出力する速度検出信号と、ポジションセンサ65が出力するダンパ状態信号とを含む各種センサが出力する信号を取得し、ステップS2へ移行する。
【0060】
ステップS2では、外気状態信号に基づいて、汚染物質のいずれかの濃度が所定値を超えているか否かを判定し、汚染物質のいずれかの濃度が所定値を超えている場合、外気汚染状態であると判定し、汚染物質のいずれの濃度も所定値以下である場合、外気汚染状態でないと判定する。
【0061】
ステップS2において、外気汚染状態であると判定した場合、ステップS3でダンパ63を全閉位置に移動制御させ、内気循環状態に設定して本処理を終了する。
【0062】
一方、ステップS2において、外気汚染状態でないと判定した場合、外気導入状態にするため、ステップS4へ移行する。
【0063】
ステップS4では、乗員検知信号に基づいて乗員数を算出し、ステップS5へ移行する。
【0064】
ステップS5では、ROM12に設定された必要供給量の13m/hに、ステップS5で算出した乗員数を乗じて必要外気供給量を決定し、ステップS6へ移行する。
【0065】
ステップS6では、ROM12に設定された乗物の移動速度と連通路への単位時間当たりの外気の流入量との関係と、速度検出信号が示す移動速度に基づいて、最大外気流入量を算出し、ステップS7へ移行する。
【0066】
ステップS7では、必要外気供給量が最大外気流入量を超えているか否かを判定し、必要外気供給量が最大外気流入量を超えている場合は、ステップS8へ移行し、必要外気供給量が最大外気流入量以下である場合は、ステップS9へ移行する。
【0067】
ステップS8では、必要外気供給量に対する最大外気流入量の差分を算出し、算出した供給量の外気を乗員収容空間3へ供給させるために必要なファン61の回転数を算出し、ステップS10へ移行する。
【0068】
ステップS10では、ダンパ63を全開位置に移動制御し、ステップS11へ移行する。
【0069】
ステップS11では、ステップS8で算出された回転数に基づいてモータを駆動させる電圧を算出し、算出した電圧をモータへ供給してファン61を回転制御し、必要外気供給量の外気を乗員収容空間3へ供給させて本処理を終了する。
【0070】
ステップS9では、必要外気供給量と最大外気流入量とが同じであるかを判定し、必要外気供給量と最大外気流入量とが同じ場合は、ステップS12へ移行し、必要外気供給量が最大外気流入量未満である場合は、ステップS13へ移行する。
【0071】
ステップS12では、ダンパ63を全開位置に移動制御し、必要外気供給量の外気を乗員収容空間3へ供給させて本処理を終了する。
【0072】
ステップS13では、必要外気供給量と最大外気流入量との比を算出し、算出した比率の外気を乗員収容空間3へ流入させるために適切なダンパ63の位置を算出し、ステップS14へ移行する。
【0073】
ステップS14では、ステップS13で算出されたダンパ63の位置と、ダンパ状態信号とに基づいて、アクチュエータ64を駆動させる電圧を算出し、算出した電圧をアクチュエータ64へ供給してダンパ63を移動制御し、必要外気供給量の外気を乗員収容空間3へ供給させて本処理を終了する。
【0074】
なお、本実施形態では、必要外気供給量が最大外気流入量未満である場合は、ファン61を停止したままダンパ63を全開位置よりも狭めた位置に移動制御することによって、外気の供給量を制御するが、これに限らず、必要外気供給量が最大外気流入量未満であるときにもファン61の回転制御をダンパ63の移動制御と併せて実行してもよい。かかる制御では、ダンパ63の位置を無段階ではなく複数段階(例えば5段階)で設定する構成であっても、ファン61の回転制御によって無段階の供給量の外気を乗員収容空間3へ供給させることができるため、必要外気供給量の外気を乗員収容空間3へ供給させることができる。
【0075】
また、本実施形態では、外気供給処理において、ファン61の回転制御とダンパ63の全開位置から全閉位置までの間の移動制御を実行して必要外気供給量の外気を乗員収容空間3へ供給させるが、これに限らず、外気供給処理において、ファン61の回転制御とダンパ63の全開位置又は全閉位置への移動制御とを実行して必要外気供給量の外気を乗員収容空間3へ供給させてもよく、或いは、ダンパ63の移動制御のみを実行して必要外気供給量の外気を乗員収容空間3へ供給させてもよい。
【0076】
また、本実施形態では、外気供給処理の実行毎に速度センサ9が出力する速度検出信号を取得して使用したが、これに限らず、取得した速度の平均値を外気供給処理に使用してもよい。具体的には、外気供給処理を1分毎に実行する場合において、速度検出信号を500ミリ秒毎に取得し、取得した速度の1分間における平均値を乗物の移動速度として使用してもよく、或いは、外気供給処理を500ミリ秒毎に実行する場合において、速度検出信号を500ミリ秒毎に取得し、取得した20回分の平均値を乗物の移動速度として使用してもよい。速度の平均値を使用することにより、一時停止や急加速など短時間での移動速度の変化に応じて頻繁に制御が変更されることなく、安定した状態で供給することができる。また、一時停止の場合に速度がゼロであると判定され難くなるため、ファン61の駆動量を低減させることができる。
【0077】
以上説明したように、本実施形態では、乗員収容空間3の二酸化炭素の濃度を所定値未満に抑えるために乗員一人当たりに対して必要となる乗員収容空間3への単位時間当たりの外気の供給量として予め設定された必要給気量と乗員数とに基づいて、乗員収容空間3への単位時間当たりの外気の供給量を決定する。具体的には、必要給気量と乗員数とを乗じた値を、乗員収容空間3への単位時間当たりの外気の供給量である必要外気供給量として決定する。これにより、乗員数センサ8が検知した数の全ての乗員に対して、乗員収容空間3の二酸化炭素の濃度を所定値未満に抑えるために必要となる乗員収容空間3への単位時間当たりの外気の供給量を、給気調整部6が乗員収容空間3へ供給することができる。従って、乗員収容空間3の二酸化炭素の濃度が、常に所定値未満に抑えられるため、乗員の健康の維持を図ることができる。
【0078】
また、乗員収容空間3に二酸化炭素の濃度を検知する機器を備えることなく、乗員収容空間3の二酸化炭素の濃度を所定値未満に抑えることが可能であるため、コストを抑えることができる。
【0079】
また、乗員収容空間3への外気の供給量が、コントローラ10が決定した必要外気供給量に制限される。従って、外気の温度と内気の設定温度とに差がある場合(外気の温度よりも内気の温度が低く設定される夏期や、外気の温度よりも内気の温度が高く設定される冬期など)において、内気と熱交換を行う冷暖房装置のエネルギーの消費を抑制することができるため、乗物1の省燃費化を図ることができる。
【0080】
また、乗物1の移動速度と連通路5への単位時間当たりの外気の流入量との関係を予め設定し、設定した関係と検知した乗員数と検出した移動速度とに基づいて、ファン61の回転制御又はダンパ63の移動制御を実行する。これにより、乗物1の移動速度に起因する乗員収容空間3への外気の供給量の過不足分が低減されるため、より確実に乗員収容空間3への二酸化炭素の濃度を所定値未満に抑えるために必要となる供給量の外気を乗員収容空間3へ供給することができ、乗員の健康の維持と乗物1の省燃費化とを図ることができる。
【0081】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本実施形態に係る乗物用換気装置を備えた乗物の模式図である。
【図2】図1の乗物用換気装置のコントローラが実行する外気供給処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0083】
1:乗物
2:乗物用換気装置
3:乗員収容空間
5:連通路
6:給気調整部(給気調整手段)
7:外気状態センサ
8:乗員数センサ(乗員数検知手段)
9:速度センサ(速度検出手段)
10:コントローラ(給気制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員を収容する乗員収容空間の内外を連通し、外気を前記乗員収容空間に供給可能な連通路と、
前記連通路に設けられ、前記乗員収容空間への単位時間当たりの外気の供給量を変更可能な給気調整手段と、
前記乗員収容空間に収容された乗員数を検知する乗員数検知手段と、
前記乗員収容空間の二酸化炭素の濃度を所定値未満に抑えるために乗員一人当たりに対して必要となる前記乗員収容空間への単位時間当たりの外気の供給量として予め設定された必要給気量と、前記乗員数検知手段が検知した乗員数とに基づいて、前記乗員収容空間への単位時間当たりの外気の供給量を決定し、前記給気調整手段を制御して、前記決定した供給量の外気を前記乗員収容空間へ供給させる給気制御手段と
を備えたことを特徴とする乗物用換気装置。
【請求項2】
請求項1に記載の乗物用換気装置であって、
前記給気調整手段は、前記乗員収容空間へ外気を強制的に供給するファンを有し、
前記給気制御手段は、前記ファンの回転数を変更することによって、前記乗員収容空間への単位時間当たりの外気の供給量を変更する
ことを特徴とする乗物用換気装置。
【請求項3】
請求項1に記載の乗物用換気装置であって、
前記給気調整手段は、前記連通路を全開する全開位置と前記連通路を全閉する全閉位置との間を移動可能なダンパを有し、
前記給気制御手段は、前記ダンパの位置を変えて前記連通路の開度を変更するか、又は前記全開位置のダンパを前記全開位置に設定する単位時間当たりの時間割合を変更することによって、前記乗員収容空間への単位時間当たりの外気の供給量を変更する
ことを特徴とする乗物用換気装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の乗物用換気装置であって、
前記乗物用換気装置が設けられた乗物の移動速度を検出する速度検出手段を備え、
前記給気制御手段は、前記乗員数検知手段が検知した乗員数と前記速度検出手段が検出した移動速度とに基づいて、前記ファンの回転制御又は前記ダンパの移動制御を実行する
ことを特徴とする乗物用換気装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate