説明

乳タンパク質含有容器詰野菜飲料

【課題】美味しくて飲みやすく健康にも良く、且つ経時劣化しにくい容器詰野菜飲料や容器詰野菜・果実飲料の提供。
【解決手段】乳タンパク質を0.13〜0.6重量%、プロビタミンAを1000〜2500μg/100gの範囲で含有することを特徴とする容器詰野菜飲料や、乳タンパク質を0.13〜0.6重量%、プロビタミンAを1000〜2500μg/100gの範囲にそれぞれ調整することを特徴とする容器詰野菜飲料の劣化抑制方法や、乳タンパク質を0.13〜0.6重量%、プロビタミンAを1000〜2500μg/100gの範囲にそれぞれ調整することを特徴とする容器詰野菜飲料の呈味改善方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳タンパク質を含有する容器詰野菜飲料や、乳タンパク質を含有する容器詰野菜飲料の劣化抑制方法や、乳タンパク質を含有する容器詰野菜飲料の呈味改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜飲料は、年齢や性別を問わず多くの人に愛飲されている嗜好性飲料の一つである。容器詰された野菜飲料は、人々の健康志向を背景として急速に市場が伸張している飲料カテゴリーの一つであり、これを背景として工業的に生産された容器詰野菜飲料が数多く上市されている。
【0003】
野菜飲料が健康に良いと広く認知されてきている一方で、野菜由来の臭みやエグ味により野菜をそのまま搾汁しただけでは飲みにくい。栄養性や健康性を担保しながらも、美味しく飲みやすい野菜飲料や野菜・果実飲料を開発することがこれまで野菜飲料を工業的に製造する上で大きな課題であった。
【0004】
野菜飲料の呈味性を向上させる方法としては、エリスリトールやトレハロース等の甘味料を添加する方法(例えば特許文献1、2)や、微生物等を用いて野菜を発酵させる方法(例えば特許文献3、4)や、モロヘイヤ等の野菜搾汁液に有機酸を添加する方法(例えば特許文献5)等がすでに知られている。
【0005】
また、マスキング効果を有する添加物を加えることにより、野菜由来の臭みやエグ味を抑制する方法についても様々な研究がなされている。なかでも豆乳等を用いて野菜由来の臭みやエグ味を抑制することがこれまでに研究されている。
【0006】
例えば特許文献6では、トマトジュース、トマトピューレおよびトマトペーストからなる群から選ばれたトマト加工食品素材の少なくとも1種以上を含む野菜汁と、はっ酵乳とを混合後、均質化して得られることを特徴とする発酵乳入り野菜飲料について記載しており、これにより風味良好で品質安定した発酵乳入りトマト飲料が得られることが指摘されている。
【0007】
また、特許文献7では、野菜汁や果実汁と発酵豆乳とを配合する容器詰飲料が記載されており、野菜由来の不快な風味を抑制する方法が記載されている。
【0008】
しかし、特許文献6で指摘されているように、トマト加工食品独特の不快臭を抑制する方法は知られていたが、プロビタミンAによる不快臭、殊にニンジン由来の不快臭を抑制する方法については指摘されていない。トマトジュースはβ−カロテン量が310μg/100gと比較的少ないことが知られているが(例えば「すぐに役立つ五訂食品成分表」池田書店、菅原明子監修、2002年、第114〜115頁)、1000μg/100gを超える高プロビタミンA含有の野菜飲料の不快臭を抑制する方法は知られていない。
【0009】
また、野菜汁に発酵乳や発酵豆乳を添加した容器詰飲料では含まれるタンパク質は極めて劣化しやすい。容器詰野菜飲料が搬送工程や倉庫や店頭で比較的長期間保管されることを想定すると、前記タンパク質の劣化を効果的に抑制しない限り商品として成立し得ない。
【0010】
【特許文献1】特開平09−117262
【特許文献2】特開2000−116362
【特許文献3】特開平07−170933
【特許文献4】特開2004−254528
【特許文献5】特開平10−191922
【特許文献6】特開2007−61060
【特許文献7】特開2008−043280
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、美味しくて飲みやすく健康にも良く、且つ経時劣化しにくい容器詰野菜飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、乳タンパク質とプロビタミンAの含有量を一定範囲内に調整することにより上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、
1. 乳タンパク質を0.13〜0.6重量%、プロビタミンAを1000〜2500μg/100gの範囲で含有することを特徴とする容器詰野菜飲料、
2. 前記容器詰野菜飲料がさらに食物繊維を0.05〜0.55重量%の範囲で含有することを特徴とする上記1記載の容器詰野菜飲料、
3. 前記乳タンパク質が発酵乳由来であることを特徴とする、上記1又は2記載の容器詰野菜飲料、
4. 前記プロビタミンAが野菜由来であることを特徴とする、上記1〜3のいずれか記載の容器詰野菜飲料、
5. 前記容器詰野菜飲料が果実汁を含むことを特徴とする、上記1〜4のいずれか記載の容器詰野菜飲料、
6. 前記野菜飲料がリコペン、アントシアニン及びクロロフィルからなる群から選ばれるいずれか1種又は2種以上の成分を含有することを特徴とする、上記1〜5のいずれか記載の容器詰野菜飲料、
7. 前記リコペン、アントシアニン及びクロロフィルが野菜及び/又は果実由来であることを特徴とする、上記6記載の容器詰野菜飲料、
8. 乳タンパク質を0.13〜0.6重量%、プロビタミンAを1000〜2500μg/100gの範囲にそれぞれ調整することを特徴とする容器詰野菜飲料の劣化抑制方法、
9. 前記乳タンパク質が発酵乳由来であることを特徴とする、上記8記載の容器詰野菜飲料の劣化抑制方法、
10. 前記容器詰野菜飲料が果実汁を含むことを特徴とする、上記8又は9記載の容器詰野菜飲料の劣化抑制方法、
11. 前記容器詰野菜飲料がリコペン、アントシアニン及びクロロフィルからなる群から選ばれるいずれか1種又は2種以上の成分を含むことを特徴とする、上記8〜10のいずれか記載の容器詰野菜飲料の劣化抑制方法、
12. 乳タンパク質を0.13〜0.6重量%、プロビタミンAを1000〜2500μg/100gの範囲にそれぞれ調整することを特徴とする容器詰野菜飲料の呈味改善方法、
13. 前記乳タンパク質が発酵乳由来であることを特徴とする、上記12記載の容器詰野菜飲料の呈味改善方法、
14. 前記容器詰野菜飲料が果実汁を含むことを特徴とする、上記12又は13記載の容器詰野菜飲料の呈味改善方法、
15. 前記容器詰野菜飲料がリコペン、アントシアニン及びクロロフィルからなる群から選ばれるいずれか1種又は2種以上の成分を含むことを特徴とする、上記12〜14のいずれか記載の容器詰野菜飲料の呈味改善方法、
に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、美味しくて飲みやすく健康にも良く、且つ経時劣化しにくい容器詰野菜飲料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の野菜飲料としては、搾汁可能な野菜を用いたものであれば特に種類は限定されない。搾汁可能な野菜としては、例えばニンジン、トマト、ナス、カボチャ、ピーマン、ゴーヤ、ナーベラ、トウガン、オクラ、トウガラシ、トウモロコシ、キュウリ等の果菜類、ニンジン、ゴボウ、タマネギ、タケノコ、レンコン、カブ、ダイコン、ジャガイモ、サツマイモ、サトイモ、ニンニク、ショウガ等の根菜類、モロヘイヤ、アスパラガス、セロリ、ケール、チンゲンサイ、ホウレンソウ、コマツナ、キャベツ、レタス、ハクサイ、ブロッコリー、カリフラワー、ミツバ、パセリ、ネギ、シュンギク、ニラ等の葉茎類等を挙げることができるがニンジンが特に好ましい。また、上記野菜のいずれか1種又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、本願発明の効果を享受するためには、野菜搾汁中のプロビタミンAを1000〜2500μg/100gの範囲内に調節しなければならない。
【0016】
また野菜飲料の原料としては、煮る、焼く、温める、蒸す等の加熱処理や、十分な水洗い、水にさらす、薬品処理する等の非加熱処理を搾汁前後に施すなどして得られた野菜汁を用いることができる。さらに、前記野菜汁を特定の樹脂に通液するなどして野菜汁に含まれる特定の成分を除去した野菜汁も原料として用いることができる。また、これらの工程で得られた野菜汁を単独で用いることができるが、2種以上を適宜用いることもできる。
【0017】
本発明の野菜飲料における野菜搾汁液の配合量は、その目的により調整することができる。本発明の野菜飲料の呈味性や劣化防止効果を総合的に考慮すると、野菜搾汁液の配合量を30〜100重量%、好ましくは40〜100重量%、より好ましくは45〜100重量%、さらに好ましくは50〜100重量%、最も好ましくは50〜90重量%とするのが好ましい。また、使用する野菜の種類は1種類でもよいが、2種以上の野菜から得た搾汁液を混合して用いてよい。複数種類の野菜を配合した場合には、その全体に占める各種野菜の割合は適宜調整することができる。
【0018】
本発明における野菜飲料には果汁を添加して実施してもよく、本発明における野菜飲料には野菜汁のみ、野菜汁と果汁を適宜混合したもの(野菜果汁飲料)の両方を包含する。本発明において用いることができる果実としては、例えば柑橘類果実(オレンジ、温州ミカン、レモン、グレープフルーツ、ライム、マンダリン、ユズ、タンジェリン、テンプルオレンジ、タンジェロ、カラマンシー等)、リンゴ、ブドウ、モモ、パイナップル、グアバ、バナナ、マンゴー、カシス、ブルーベリー、アセロラ、プルーン、パパイヤ、パッションフルーツ、ウメ、ナシ、アンズ、ライチ、メロン、西洋ナシ、スモモ類等が挙げられるが、本発明品の主要野菜原料であるニンジンとの相性を考慮すると、リンゴ、赤ブドウ、白ブドウ、マンゴー、カシス、ブルーベリー等が好ましい。本発明における果汁飲料は、上記果実のいずれか単独でも2種以上混合して用いてもよい。
【0019】
本発明における野菜飲料では、野菜や果実由来の各種色素成分を利用して色彩鮮やかにすることにより、商品価値をより一層向上させることができる。関与成分としては、例えば赤色に関与するリコペン、黄色に関与するカロテノイド類(例えば、β−カロテン、β−クリプトキサンチン等)、緑色に関与するクロロフィル、紫色に関与するアントシアニン等が挙げられる。これらの成分は野菜及び/又は果実由来の成分をそのまま利用する方法と、関与成分の抽出物や濃縮物を用いて別途添加する方法とがあり、いずれか又は両方を用いることができるが、自然な呈味性を保持するためには野菜及び/又は果実由来の成分をそのまま利用するのが好ましい。
【0020】
本発明において乳タンパク質とは、乳に含まれる高分子化合物であってアミノ酸が重合したものをいうが、かかる高分子化合物を酵素等で処理して得られた各種ペプチドや各種アミノ酸をも含む。本発明の野菜飲料において、乳タンパク質を0.13〜0.6重量%、好ましくは0.189〜0.567重量%、さらに好ましくは0.2〜0.5重量%、最も好ましくは0.3〜0.4重量%含有することが望ましい。
【0021】
乳タンパク質は、カゼインとホエー(乳清)タンパク質とにほぼ大別される。カゼインは、α−カゼイン(αs1−カゼイン,αs2−カゼイン)、β-カゼイン、γ-カゼイン、κ-カゼインにさらに分類できる。一方、ホエー(乳清)タンパク質は、血清アルブミン、β−ラクトグロブリン、α−ラクトアルブミン、免疫グロブリン、プロテオース・ペプトン等にさらに分類できる。本発明において、乳タンパク質中のカゼイン量は、65〜95重量%、好ましくは70〜90重量%、さらに好ましくは75〜85重量%であるとよい。
【0022】
乳に含まれるアミノ酸としては、例えばヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、シスチン、フェニールアラニン、チロシン、スレオニン、トリプトファン、バリン等が挙げられる。
【0023】
乳タンパク質を野菜飲料に添加するには、各種液状乳類(例えば牛乳、やぎ乳、加工乳、脱脂乳、乳飲料)や、粉乳類(例えば全粉乳、脱脂粉乳、調整粉乳)、練乳類(例えば無糖練乳、加糖練乳)、クリーム類(例えばホイップクリーム、コーヒーホワイトナー)、発酵乳(例えば全脂無糖ヨーグルトや脱脂加糖ヨーグルトやドリンクタイプ・ヨーグルト等のヨーグルト、乳酸菌飲料)、チーズ類(例えば各種ナチュラルチーズ、プロセスチーズ)、アイスクリーム類(例えばアイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、ソフトクリーム)、シャーベット、乳タンパク質精製物(例えばカゼインやホエーパウダー)やこれらを含む組成物等を適宜用いることができる。本発明において規定される乳タンパク量を担保することができれば、上記のいずれか1種又は2種以上を適宜割合で用いることができる。ちなみに、発酵乳1gには乳タンパク質で約0.063gが含まれており、乳固形分では0.17gにほぼ相当する。
【0024】
本発明においてプロビタミン(provitamin)Aとは、ビタミンAの前駆体を指す。プロビタミンとは、生体内に入ると化学的な変化を受けてビタミンに変化しうる天然化合物のことをいう。プロビタミンAの具体的な例としては、例えばα−カロテン、β−カロテン、γ−カロテン、β−クリプトキサンチン、エキネノン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を適宜割合にて用いることができる。
【0025】
プロビタミンAの測定は公知方法で行うことができる(例えば、「五訂 日本食品標準成分表 分析マニュアルの解説」(財団法人日本食品分析センター(編)、中央法規出版)を参照)。測定方法としては、例えば高速液体クロマトグラフィーにて行うことができる。この場合、標準品には市販品でもよく、例えばα−カロテン標準品(Sigma社製)やβ−カロテン標準品(Merck社製)を用いることができる。また測定機については、例えばLC−10AS(島津製作所製)を用いることができ、検出器については、例えばSPD−10AV(島津製作所製)を用いることができる。
【0026】
本発明におけるプロビタミンAとしては、野菜及び/又は果実の搾汁液や抽出物由来でもよいが、これらをさらに濃縮した濃縮液や濃縮物、あるいは合成により得られるものを使用してもよい。いずれの場合においても、本発明におけるプロビタミンAは公知の方法で取得することができる。本発明における野菜飲料には、プロビタミンAを1000〜8000μg/100g、好ましくは1100〜4500μg/100g、より好ましくは1100〜4000μg/100g、さらに好ましくは1100〜2500μg/100g、最も好ましくは1500〜2000μg/100gである。
【0027】
乳タンパク質の測定は公知方法で行うことができ、例えばケルダール法、デュマ法及びこれらの改変型・改良型にて行うことができる(例えば、「五訂 日本食品標準成分表 分析マニュアルの解説」(財団法人日本食品分析センター(編)、中央法規出版)を参照)。また、ケルダー法に用いる分解促進剤等の試薬には市販品を適宜用いることができる。また測定機については市販品を用いることができる。
【0028】
本発明の野菜飲料には、さらに食物繊維を添加することができる。食物繊維は、植物性、藻類性、菌類性食物の細胞壁を構成する成分であって、化学的には多糖類であることが多い。食物繊維は、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維とに大別されるが、本発明の野菜飲料として許容可能なものであればいずれの食物繊維を用いて良い。具体的に水溶性食物繊維とは、ペクチン、グアーガム、アガロース、グルコマンナン、ポリデキストロース、アルギン酸ナトリウムなどを用いることができ、不溶性食物繊維としては、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、キチン、キトサンなどが挙げられる。本発明の野菜飲料においては、上記食物繊維から選ばれる1種又は2種以上を0.01〜0.7重量%、好ましくは0.05〜0.55重量%、さらに好ましくは0.1〜0.5重量%、もっとも好ましくは0.2〜0.4重量%含有するのがよい。さらに、食物繊維の種類としてはペクチンが好ましい。
【0029】
本発明に用いる容器としては、金属缶(スチール缶、アルミニウム缶など)、PETボトル、紙容器、壜等であってよく、これら容器の形状や色彩は問わないが、市場性や簡便性を考慮すると、金属缶、PETボトル、紙容器を用いるのが好ましい。
【0030】
本発明において劣化とは、野菜飲料の品質が製造時よりも低下していることをいい、野菜飲料の呈味性、香味性、色、沈殿物発生等の1又は2種以上の指標において品質が製造時よりも低下又は商品としての適正が低下したものをいう。飲料中の成分の化学的変化や物理的変化が関与していると考えられ、その因子として熱や光がある。
【実施例】
【0031】
以下に本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0032】
実施例1:β−カロテンの臭気評価
β−カロテンの臭気が、原料由来で異なるか否かを調べた。具体的には、ニンジン濃縮汁、カボチャ濃縮汁、β−カロテン製剤水溶液の3種類について比較した。さらに、サンプル飲料全体に対するβ−カロテン含有量が臭気に影響を与えるか否か確認した。
(サンプルの調製)
サンプル1:ニンジン濃縮汁含有サンプル
β−カロテン量が、280μg/100g、840μg/100g、1400μg/100g、1960μg/100g、2520μg/100gとなるように、ニンジン濃縮汁(ヌーガン社製、Bx42)をそれぞれ調製した。レモン果汁を加えてpH4.19以下に調整し、加水して容器に充填(ホットパック充填)してから巻締めし、これを常温になるまで冷却してニンジン濃縮汁含有サンプルとした。
【0033】
サンプル2:カボチャ濃縮汁含有サンプル
β−カロテン量が、675μg/100g、1350μg/100gとなるように、かぼちゃペースト(ダンフーズ社製)を用いてそれぞれ調製した。加水して容器に充填(ホットパック充填)してから巻締めし、これを常温になるまで冷却してカボチャ濃縮汁含有サンプルとした。
【0034】
サンプル3:β−カロテン製剤配合サンプル
β−カロテン量が、600μg/100g、1200μg/100g、2400μg/100gとなるように、β−カロテン製剤(三菱化学フーズ社製、品名:MFC β−カロテンクリア、βカロテン含量1%)を用いてそれぞれ調製した。レモン果汁を加えてpH4.19以下に調整し、加水して容器に充填(ホットパック充填)してから巻締めし、これを常温になるまで冷却してβ−カロテン製剤配合サンプルとした。
【0035】
(試験方法)
β−カロテンが有する臭気が、原料由来で異なるか否かを調べた。専門パネリスト6名が、上記サンプルを常温にて風味評価した。各サンプルにおけるβ−カロテン臭気の評価方法として、3:β−カロテン臭気が全くない、2:β−カロテン臭気が僅かにある、1:β−カロテン臭気がある、の3段階で評価した。
【0036】
(試験結果)
ニンジン汁由来のβ−カロテン臭気評価の結果として、β−カロテン1000μg/100g程度含量からβ−カロテン臭気が若干感じられ、さらには、1800μg/100g程度含量するとさらにβ−カロテン臭気が出てくるという結果が得られた。表1にニンジン由来のβ−カロテン臭気の確認試験結果を示す。
【0037】
【表1】

【0038】
カボチャ由来のβ−カロテン臭の評価としては、β−カロテン量600μg/100g程度含量することでβ−カロテン臭が感じられた。表2にカボチャ由来のβ−カロテン臭の確認試験結果を示す。
【0039】
【表2】

【0040】
β−カロテン製剤を用いた場合、600μg/100g程度の含有量からβ−カロテン臭が感じられた。表3にβ−カロテン製剤由来のβ−カロテン臭の確認試験結果を示す。
【0041】
【表3】

【0042】
以上から、ニンジン由来のβ−カロテンだけでなく、カボチャ由来やβ−カロテン製剤由来でも不快なカロテン臭が感じられるという結果がえられた。
【0043】
実施例2:β−カロテン臭の抑制効果
(サンプル調整)
サンプル1:ニンジン濃縮汁含有サンプル
ニンジン汁由来のβ−カロテンを1400μg/100g含有するニンジン飲料サンプルに、発酵乳(くじらい乳業社製、無脂固形分8%以上)を用いて乳タンパク質含有量が0%、0.063%、0.189%、0.315%、0.441%、0.567%、0.693%、0.819%、0.945%、1.071%(いずれも重量%)となるようにそれぞれ調整した。次にレモン果汁を加えてpH4.19以下に調整、加水し、これを容器にホットパック充填、巻締め、常温になるまで冷却して乳タンパク質含有ニンジン飲料を調整した。
【0044】
サンプル2:カボチャ濃縮汁含有サンプル
サンプル1と同様の方法でのβ−カロテン量を調整したカボチャ飲料サンプルに、発酵乳(くじらい乳業社製、無脂固形分8%以上)を用いて乳タンパク質含有量が0%、0.189%(いずれも重量%)となるようにそれぞれ調整した。次にこれらに加水し、容器にホットパック充填、巻締めし、常温になるまで冷却して乳タンパク質含有カボチャ飲料を調整した。
【0045】
サンプル3:β−カロテン製剤配合サンプル
サンプル1と同様の方法でのβ−カロテン量を調整したβ−カロテン製剤調整品に、発酵乳(くじらい乳業社製、無脂固形分8%以上)を用いて乳タンパク質含有量が0%、0.189%(いずれも重量%)となるようにそれぞれ調整した。次にレモン果汁を加えてpH4.19以下に調整、加水し、これを容器にホットパック充填、巻締め、常温になるまで冷却して発酵乳入りβ−カロテン製剤配合飲料とした。
【0046】
(試験方法)
上記配合にて調製したサンプルを、専門パネリスト6名が風味評価した。β−カロテン臭の抑制効果についての評価方法は、3:β−カロテン臭が全くない、2:β−カロテン臭が僅かにある、1:β−カロテン臭がある、の3段階とした。各サンプルにについて合計点から平均値を求め、平均値が2.4以上であれば○、平均値が1.7〜2.3であれば△、平均値が1.6以下であれば×とした。
【0047】
さらにニンジン汁と発酵乳のバランス及び乳臭の面での評価を行った。評価方法は、3:ちょうどバランスがよい、2:少しバランスが悪い、1:バランスが悪い、の3段階とした。各サンプルにについて合計点から平均値を求め、平均値が2.4以上であれば○、平均値が1.7〜2.3であれば△、平均値が1.6以下であれば×とした。
【0048】
なお、試験試料は、充填直後のものと、25℃の恒温層内、5℃蛍光灯下(5000lux)にて2週間静置したものを使用した。
【0049】
(試験結果)
乳タンパク質を0.189重量%以上加えることで、β−カロテン臭の抑制効果がみられた。しかし、乳タンパク質とニンジン汁との呈味バランスの観点からは、0.189〜0.567重量%、好ましくは0.315〜0.441重量%であるのが好ましいという結果が得られた(表4)。
【0050】
【表4】

【0051】
さらに表5に示すように、乳タンパク質を加えることにより劣化抑制効果があることがわかった。この結果によると、乳タンパク質の添加量が0.063〜0.693重量%の範囲であると効果が得られ、さらに乳タンパク質の添加量が0.315〜0.693重量%の範囲であると顕著な効果が得られることがわかった。
【0052】
【表5】

【0053】
乳タンパク質を加えることにより、カボチャ飲料においても劣化抑制効果があることがわかった(表6)
【0054】
【表6】

【0055】
β−カロテン製剤を用いたサンプルでは、ニンジン飲料と同程度のマスキング効果が得られた。
【0056】
【表7】

【0057】
以上から、乳タンパク質を0.189重量%以上加えることで、ニンジン飲料、カボチャ飲料やβ−カロテン臭の抑制効果がみられた。しかし、乳タンパク質とニンジン汁との呈味バランスの観点からは、0.189〜0.567重量%、好ましくは0.315〜0.441重量%であるのが好ましいという結果が得られた。
【0058】
実施例3:ニンジン、製剤調整品の色安定性の確認
上記配合にて調整した試料飲料を容器詰して冷却した直後、25℃の恒温層内、5℃蛍光灯下(5000lux)にて2週間静置後、試験飲料を全て20℃の一定条件に調整した。該試験飲料を、分光色差計(SE2000 日本電色工業社製)を用いて測定して色差を求め、乳固形量の添加によるβ−カロテン由来の色の差について確認した。
【0059】
なお、指標として用いた色差とは、色彩計にてL、a、bを測定することにより、色と色との違い(色差)をデルタEの数値を用いて色差を表すものである(図1)。
【0060】
(試験結果)
ニンジン汁由来のβ−カロテンの違いによる色差と乳タンパク質含有量による色差の抑制効果
β−カロテン含有量が1100μg/100gである場合を基準として、β−カロテン含有量が1400μg/100gのサンプル(左欄)と、2500μg/100gのサンプル(右欄)とを比較した(図2)。各欄の左側の棒グラフが乳タンパク質含有(発酵乳なし)を、各欄の右側の棒グラフが乳タンパク質含有(発酵乳あり)をそれぞれ示す。
【0061】
β−カロテン含有量が1400μg/100gについては、乳タンパク質を配合しないサンプル(左)と乳タンパク質を配合するサンプル(右)とでは色調変化はいずれも小さかった。これに対して、β−カロテン含有量が2500μg/100gについては、乳タンパク質を配合しないサンプル(左)と比較して、乳タンパク質を配合するサンプル(右)では色調変化は大幅に抑制された。
【0062】
比較例1:β−カロテン製剤による含量の違いにおける色差について
β−カロテン製剤容液のβ−カロテン含有量の違いによる色差及び、乳タンパク質を加えることによる色差抑制効果について調べた。
【0063】
β−カロテン含有量が600μg/100gである場合を基準として、β−カロテン含有量が1200μg/100gのサンプル(左欄)と、2400μg/100gのサンプル(右欄)とを比較した(図3)。各欄の左側の棒グラフが乳タンパク質含有(発酵乳なし)を、各欄の右側の棒グラフが乳タンパク質含有(発酵乳あり)をそれぞれ示す。
【0064】
β−カロテン含有量が1200μg/100gについては、乳タンパク質を配合しないサンプル(左)と乳タンパク質を配合するサンプル(右)とでは色調変化はいずれも小さかった。これに対して、β−カロテン含有量が2400μg/100gについては、乳タンパク質を配合しないサンプル(左)と比較して、乳タンパク質を配合するサンプル(右)では色調変化は大幅に抑制された。
【0065】
(経時による色差変化試験)
ニンジン汁由来のβ−カロテン含量が1120μg/100g、1400μg/100g、2500μg/100gであるものをそれぞれ準備し、これらに発酵乳3%を加えたサンプル(右)と、発酵乳を加えないサンプル(左)とを作製した。さらに各サンプルにつき、25℃で暗所にて2週間保管した場合と、25℃で光照射状態にて2週間保管した場合とにおける、色調変化(色差)を調べた。その結果、β−カロテン含量が1400μg/100gや、2500μg/100gである野菜飲料の場合、発酵乳を添加したサンプルの色調変化は、発酵乳を添加しないサンプルの色調変化と比較して小さかった。このことから、発酵乳を添加することによりβ−カロテン含有野菜飲料の色調変化が抑制されることが明らかとなった。
【0066】
実施例4:ニンジン由来のβ−カロテン量の安定性
(試験方法)
ニンジン由来のβ−カロテン量が1400μg/100gになるように調整してニンジン汁を作製した。該ニンジン汁に発酵乳を加えることにより、乳タンパク含有量をそれぞれ0%、0.063%、0.189%、0.315%(いずれも重量%)に調整したサンプルを作製した。これらを充填直後および25℃の恒温層内、5℃蛍光灯下(5000lux)にて2週間静置した時点でのβ−カロテンを測定した。充填直後のβ−カロテン含有量を基準値(100)として、2週間経過後のβ−カロテンの減少量を調べた(図5)。
【0067】
(試験結果)
25℃での保管では、いずれのサンプル間において殆ど違いは見られなかった。一方、光照射によるサンプルにおいては、発酵乳を添加したサンプルの方が、発酵乳を加えない又は含有量が少ない(1%)のサンプルと比較してより多くのβ−カロテンが残存していた。
【0068】
実施例5:マンゴー配合サンプルの調整
ニンジン濃縮汁(Bx42)を50重量%と、リンゴ果汁、白ブドウ、マンゴー果汁(ピューレ)を合計して47.5重量%と、ヨーグルト2.5重量%を混合し、加水して容器に充填(ホットパック充填)してから巻締めし、これを常温になるまで冷却してマンゴー配合容器詰発酵乳含有野菜飲料のサンプル(サンプル1)とした。また、比較サンプルとしてニンジン濃縮汁(Bx42)を50重量%と、リンゴ果汁及び白ブドウを合計して47.5重量%と、ヨーグルト2.5重量%を混合し、加水して容器に充填(ホットパック充填)してから巻締めし、これを常温になるまで冷却してマンゴー非配合容器詰発酵乳含有野菜飲料のサンプル(サンプル2)とした。
【0069】
マンゴー配合容器詰発酵乳含有野菜飲料のサンプル(サンプル1)における乳タンパク質は0.1575重量%、乳固形分量は0.425重量%、β−カロテン含有量は1414μg/100gであった。サンプル2も風味良好であったが、サンプル1はサンプル2と比べてさらに風味が向上し、飲みやすくなった。
【0070】
実施例6:マンゴー配合サンプルの経時劣化効果
上記サンプル1と同様の処方でさらにサンプルを用意し、経時劣化による呈味性と色調との変化を調べた。試験区分としては、5℃(暗所)、25℃(暗所)、37℃(暗所)、45℃(暗所)及び25℃(光照射)で行った。この結果から、マンゴー配合容器詰発酵乳含有野菜飲料は、45℃で3週間の暗所保管サンプルと1週間の光劣化試験サンプルとで僅かに呈味性の劣化が観察された以外には、いずれの温度においても呈味性及び色調において変化は見られなかった。これにより、乳タンパク質の量とβ−カロテンの量とを本願発明の範囲内に調整すれば、マンゴー果汁を添加しても本願発明の効果を享受できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】色調変化を調べるための色差(デルタE)の計算式を示す。
【図2】乳タンパク質を添加することによるニンジン飲料の色調変化抑制効果を示す。
【図3】乳タンパク質を添加することによるβ−カロテン製剤溶液の色調変化抑制効果を示す。
【図4】乳タンパク質を添加することによる経時的な色調変化抑制効果を示す。
【図5】乳タンパク質を添加することによる光劣化による経時的なβ−カロテン残存効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳タンパク質を0.13〜0.6重量%、プロビタミンAを1000〜2500μg/100gの範囲で含有することを特徴とする容器詰野菜飲料。
【請求項2】
前記容器詰野菜飲料がさらに食物繊維を0.05〜0.55重量%の範囲で含有することを特徴とする請求項1記載の容器詰野菜飲料。
【請求項3】
前記乳タンパク質が発酵乳由来であることを特徴とする、請求項1又は2記載の容器詰野菜飲料。
【請求項4】
前記プロビタミンAが野菜由来であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか記載の容器詰野菜飲料。
【請求項5】
前記容器詰野菜飲料が果実汁を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか記載の容器詰野菜飲料。
【請求項6】
前記野菜飲料がリコペン、アントシアニン及びクロロフィルからなる群から選ばれるいずれか1種又は2種以上の成分を含有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか記載の容器詰野菜飲料。
【請求項7】
前記リコペン、アントシアニン及びクロロフィルが野菜及び/又は果実由来であることを特徴とする、請求項6記載の容器詰野菜飲料。
【請求項8】
乳タンパク質を0.13〜0.6重量%、プロビタミンAを1000〜2500μg/100gの範囲にそれぞれ調整することを特徴とする容器詰野菜飲料の劣化抑制方法。
【請求項9】
前記乳タンパク質が発酵乳由来であることを特徴とする、請求項8記載の容器詰野菜飲料の劣化抑制方法。
【請求項10】
前記容器詰野菜飲料が果実汁を含むことを特徴とする、請求項8又は9記載の容器詰野菜飲料の劣化抑制方法。
【請求項11】
前記容器詰野菜飲料がリコペン、アントシアニン及びクロロフィルからなる群から選ばれるいずれか1種又は2種以上の成分を含むことを特徴とする、請求項8〜10のいずれか記載の容器詰野菜飲料の劣化抑制方法。
【請求項12】
乳タンパク質を0.13〜0.6重量%、プロビタミンAを1000〜2500μg/100gの範囲にそれぞれ調整することを特徴とする容器詰野菜飲料の呈味改善方法。
【請求項13】
前記乳タンパク質が発酵乳由来であることを特徴とする、請求項12記載の容器詰野菜飲料の呈味改善方法。
【請求項14】
前記容器詰野菜飲料が果実汁を含むことを特徴とする、請求項12又は13記載の容器詰野菜飲料の呈味改善方法。
【請求項15】
前記容器詰野菜飲料がリコペン、アントシアニン及びクロロフィルからなる群から選ばれるいずれか1種又は2種以上の成分を含むことを特徴とする、請求項12〜14のいずれか記載の容器詰野菜飲料の呈味改善方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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