説明

乳化塩類を含まないカルシウム強化プロセスチーズおよびその調製工程

本発明は、乳化塩類を用いずにプロセスチーズを調製する方法を提供する。該方法は、(a)少なくともその一部がナトリウムイオンまたはカリウムイオンと置換した、カルシウムイオンを含む二価イオンをある割合で有するカゼインを含む液状乳製品組成物またはゲル化乳製品組成物もしくは両方を供給することと;(b)該組成物または複数の組成物の組み合わせを加熱して、エマルションを得ることと;(c)加熱した該組成物を冷却してプロセスチーズを得ることとを含み;ステップ(c)においてプロセスチーズを形成する前のいずれかの時点で、実質的に不溶性のカルシウム源が該組成物のうちの少なくとも1つと混合されることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロセスチーズを調製する方法およびその方法によって作られるプロセスチーズに関する。
【背景技術】
【0002】
低温殺菌プロセスチーズを作るための従来の製造手法は、乳化剤、余分な塩、食品着色料および/またはホエーを用いるチェダーなどの伝統的なチーズを加熱することおよび溶融することを含む。
【0003】
プロセスチーズには、未加工チーズに対して3つの主要な技術的優位性がある。すなわち、保存期間の延長、加熱する際の、遊離脂肪の分離と乳清の分離とに対する抵抗性、および他のチーズ製造加工からのスクラップと、切りくずと流出物とを再利用できることである。
【0004】
伝統的なチーズ製造は、スーパーマーケットの陳列に受け入れられない「スクラップ」部分を必ず作り出してしまい、チーズスクラップからプロセスチーズを作り出すことによって、チーズ製造者はさもなければ商品にならないスクラップに付加価値をつけることができる。加工することによって、これらのチーズスクラップを、リパッケージおよび販売のためのリパッケージ形状用の新たな体裁のよい形状に変えることができる。
【0005】
乳化塩類の使用
プロセスチーズで乳化剤を使用により、加熱すると、チーズが滑らかに溶融することになる。長時間にわたり加熱すると、未加工チーズは溶融したタンパク質ゲルと遊離した液体脂とに分離するが、ナチュラルチーズ・カゼイン凝固物は破裂して、遊離乳清をもたらすことになる。プロセスチーズは、このように分離しない。通常は、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、酒石酸塩またはクエン酸塩の乳化剤は、チーズ中の小さい脂肪球が溶融したチーズの表面に融合して溜まる傾向を軽減させる。
【0006】
プロセスチーズは溶融すると分離しないので、種々の料理で材料として使用される。プロセスチーズは加熱されても、流れ出ず、またはテクスチャもしくは味が変わらないので、ハンバーガーにのせるかなり一般的な調味料である。
【0007】
乳化塩類は、プロセスチーズ製造中に分離して、ナトリウムなどの一価カチオン、およびリン酸塩またはクエン酸塩などの結合アニオンを放出する。続いて、かなりの量の一価カチオンが、通常カゼインミセルに結合したカルシウムなどの二価カチオンの一部と交換される。カゼインミセルは乳中の主要なタンパク質を構成し、かつレンネットによって凝固されてナチュラルチーズ凝塊を生成する。しかし、カゼインミセルを作製するために二価カチオンによって複数のカゼイン分子を結合させることは、脂肪を乳状にするこれらのタンパク質の能力を著しく減少させることになる。添加した乳化塩によってカチオン交換が促進され、一価カチオンをカゼインに挿入し、ミセルカゼインを分散させて、個々のカゼインの形状を極性化した、両親媒性の特性を有する構造に変える。カゼインミセル内の二価カチオンと一価カチオンとの交換によって生ずる構造変化は、脂肪を乳状にする有用なカゼインの能力を大きく強化する形状にカゼインの構造を変え、それによって加熱中に遊離脂肪が形成されないようにする。
【0008】
イオン交換の機序は、すべての乳化塩類に対して同じである。しかし、種々の乳化塩類間のアニオンの違いは、完成したプロセスチーズの風味、溶融能、濃度、およびテクスチャにおいて特色のある違いを作り出す。
【0009】
乳化塩類の使用によって、プロセスチーズ製造業は世界的な主要産業に転換したがが、食品表示法のもとで乳化塩類を含有するチーズをオーガニックまたはナチュラルとして表示することはできないので、乳化塩類の使用によって、潜在的なマーケティング機会は限定されている。
【0010】
加えて、プロセスチーズは、狭い範囲の風味でのみ製造されることができ、そのすべては非常にマイルドである。これは、乳化塩類の風味を容易に隠すことができなく、かつこれらの化合物を除去することによってのみ排除されるからである。加えて、リン酸乳化塩を用いる場合、リン酸塩が不十分だと生成物を生成することは難しい。
【0011】
乳化塩類に依存することは、以下によっても加工効率が限定される:
1.プロセスチーズを生成するために必要とされる材料の数が増え、それによってより複雑な配合、材料在庫品目の増加、およびさらなる加工ステップが余儀なくされ、および
2.乳化塩類の価格がチーズの価格を上回ると、配合経費が増加する。
【0012】
カルシウムの処置
プロセスチーズの効果的な製造方法は、効果的な乳化剤および所望のゲルを同時に生成するために、チーズカゼイン内のカルシウムとリン酸カルシウムとの化学結合を有利に処置する必要がある。
【0013】
カゼインは乳中の主要なタンパク質群であって、一般的にチーズ中のタンパク質の最高99%を占める。固有の特性によって、多くの個々のカゼインが大きなコロイド状凝集体内で大量のイオンカルシウムと不溶性カルシウム塩に結合することが可能になり、ミセルと呼ばれる。ミセルが作られると個々のカゼインおよび不溶性リン酸カルシウム塩類が安定なコロイドに変わるが、これらの構造が強剛のために、脂肪を乳化するだけでなく、所望の濃度およびテクスチャを生成するのに必要な所望のゲルタイプを形成するカゼインの能力を大幅に限定することになる。
【0014】
低温殺菌プロセスチーズを作るための従来の製造方法は、クエン酸三ナトリウムおよび/または特定化リン酸ナトリウムなどの乳化塩類の添加を必要とする。乳化塩類を使用せずに、プロセスチーズを加熱するために用いられる熱処理は、以下によって生成物をだめにする:
1.ナチュラルチーズ中に存在するエマルションを破壊して遊離脂肪を作り出す、および
2.ナチュラルチーズ中のカゼイン凝塊を破裂させて遊離乳清を生成する。
【0015】
乳化塩類は、プロセスチーズの製造中に、分解して一価カチオンを放出し、一価カチオンは、ナチュラルチーズ凝塊のカゼインミセル内に結合した、主にカルシウムである二価カチオンの特定の部分と交換する。結果として生じるカチオン交換によって、カゼインの形状は、乳脂肪を乳化し、次いで冷却するとゲル化する構造に変わる。脂肪を乳化する有用なカゼインの能力を強化することによって、加熱の間に、遊離脂肪の形成を防止する。しかし、ミセル内のカゼインに結合したカルシウムの特定の部分は、冷却すると、所望のゲルを作るよう保持されなければならない。このゲルは利用できる水分に結合し、同時に完成したプロセスチーズの濃度およびテクスチャを作りながら、遊離乳清の形成を防止する。
【0016】
カゼインからカルシウムを単に除去するだけでは、高品質プロセスチーズ生成物を作り出せない。たとえばカゼインナトリウムなどの低カルシウム含有量を有する種々のカゼイン生成物は、脂肪を確実に乳化する。しかし、かかる生成物は、冷却すると、所望のゲルを形成しない。したがって、成功する工程は、所望のエマルションを作り出すだけでなく、同時に、冷却すると所望のゲル化を維持するために、二価カルシウムの正確な量だけを一価ナトリウムまたはカリウムと交換しなければならない。
【0017】
プロセスチーズは、必要栄養素であるカルシウムの主要な食餌源である。カルシウムを除去すると、チーズ製品の栄養価を著しく低下させる。しかし、チーズおよび/または適切な液状乳製品のカルシウム含有量が著しく減少しない限り、プロセスチーズおよび関連製品は乳化塩類を用いずに製造されることはできない。
【0018】
従来のプロセスチーズにカルシウムを添加することは、雑味が出ることに関連し、かつ通常、許容される溶融特性を有するプロセスチーズを作るためにさらなる乳化塩類の使用を必要とする。
【0019】
これらの問題の一部もしくはすべてを解決したプロセスチーズ製品を作り出すことが、望ましい。
【0020】
本発明の目的は、乳化塩類に依存することなく、栄養価の高いチーズを提供することに役立つこと、および/または一般の人々に有用な選択を提供することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、プロセスチーズ製造において乳化塩類を排除するための方法を提供する。本発明は、乳化塩類を用いずに製造されるが、通常のカルシウムレベルまたは強化カルシウムレベルを有するプロセスチーズおよび関連製品も提供する。カルシウム除去カゼイン源を用いることで、実質的に添加した不溶性カルシウム源を補充したときでも、良好な官能特性および溶融特性を有するプロセスチーズを提供する。
【0022】
本発明の一態様は、乳化塩類を用いずにプロセスチーズを調製するために、
(a)少なくともその一部が、カルシウムイオンを含むナトリウムイオンまたはカリウムイオンと置換されたその二価イオンをある割合で有するカゼインを含む液状乳製品組成物またはゲル化乳製品組成物もしくは両方を提供することと、
(b)該組成物または複数の組成物の組み合わせを加熱して、エマルションを得ることと、
(c)該加熱した組成物を冷却して、プロセスチーズを得ることとを含み、
実質的に不溶性カルシウム源は、ステップ(c)でプロセスチーズを形成する前のいずれかの時点で、該組成物のうちの少なくとも1つと混合される、方法を提供する。
【0023】
好適な実施形態では、液状乳製品組成物は、膜技術。好ましくは限外ろ過を用いて、乳を加工することによって生成されるリテンテートである。
【0024】
好適な実施形態では、加熱される組成物は、チーズまたは限外ろ過チーズを含む。
【0025】
好ましくは、加熱される組成物は、(a)チーズまたは限外ろ過チーズと、(b)少なくともその一部が、カルシウムイオンを含むナトリウムイオンまたはカリウムイオンと置き換えられたその二価イオンをある割合で有するカゼインを含むカルシウム除去液状乳製品組成物との両方を含む。
【0026】
一般的に、チーズまたは限外ろ過チーズは、総固形物の20%から80%を含む。カルシウム除去乳濃縮物または乳タンパク質濃縮物は一般的に、全固形物の5%から30%を含む。一般的に、プロセスチーズは30〜60%の水分を含む。諸成分とそれらの割合を選択して、かかる含水率をもたらす。蒸気による加熱を用いる場合、水分の一部は凝縮水となり得る。必要に応じて、水分は成分として含まれ得る。プロセスチーズの水分と脂肪の含有量を有用に変えて、溶解性、濃度、テクスチャ、およびスプレッダビリティなどのプロセスチーズの特性を調整することができる。
【0027】
エマルションは、高い剪断を使用せずに、形成されることが好ましい。たとえば、加熱ステップ間にエマルションは、攪拌せずに、または少なくとも2000rpm未満、好ましくは500rpm未満、より好ましくは200rpm未満で攪拌して形成する。
【0028】
「プロセスチーズ」(「プロセス・チーズ」としても知られている)とは、加熱して溶融し、続いて冷却することでチーズまたは限外ろ過チーズから調製された組成物である。プロセスチーズは、水和タンパク質の連続相での乳脂肪小滴からなり、高温ではエマルションであり、低温では懸濁液である。プロセシング塩類の存在下でナチュラルチーズを溶融および混合のプロセスにかけて、プロセスチーズは作られる。プロセシング塩類は、不溶性タンパク質(カルシウムパラカゼイン)をイオン交換プロセスを介して可溶性カゼインナトリウムに変換し、安定な連続相をもたらす(Stephen Dixon)。高温のプロセスチーズが形成されると、該チーズは均質のポンプ送可能な、流体のチーズ材料になり、シート状、スライス状、または他の所望の形状に形成され得る。先行技術では、プロセシング塩類は通常、乳化塩類である。本発明では、ナトリウムカゼイン塩およびカリウムカゼイン塩を用いる。プロセスチーズは通常は、70℃まで、好ましくは90℃まで加熱されて、液状の遊離脂肪を分離させることなく溶融チーズを形成することができる。
【0029】
「限外ろ過チーズ」とは、チーズを生成するために酸性化して加熱された限外ろ過乳から調製されたチーズである。限外ろ過チーズは、凝固酵素を使用することなく作られ得る。限外ろ過チーズは、製造のためのチーズベースまたはチーズとしても知られている。
【0030】
「乳化塩」とは、脂肪球が融合して溶融チーズの表面にたまる傾向を減少させるために、従来のプロセスチーズの製造で使用された塩である。これらの塩類には、リン酸塩類および有機酸塩類が含まれる。例としては、リン酸塩、酒石酸塩またはクエン酸塩であるナトリウム塩とカリウム塩である。好ましい乳化塩類は、以下のうちの2つ以上の1混合または任意の混合からなる群から選択され得る:リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸三ナトリウム、メタリン酸ナトリウム(ヘキサメタリン酸ナトリウム)、酸性ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、リン酸ナトリウムアルミニウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、酒石酸ナトリウム、および酒石酸ナトリウムカリウム。塩化ナトリウムおよび塩化カリウムは、乳化塩類ではない。
【0031】
「液状乳製品組成物」は、チーズ製造またはプロセスチーズ製造に役立ついずれかの乳の源または乳成分である。ヒツジ、ヤギおよび特にウシからの乳が好ましい。該組成物はタンパク質、特にホエータンパク質を変性させる(それ自体で、またはカゼインの存在下でのいずれかで)ために、熱処理されていることもある。乳濃縮物および乳タンパク質濃縮物は、本発明で用いられる特に好ましい液状乳製品組成物である。
【0032】
液状乳製品組成物は、ナトリウムイオンまたはカリウムイオンと置き換えた、カルシウムイオンを含むその二価イオンをある割合で有するカゼインを含み得る。かかる組成物は、カルシウムのナトリウムまたはカリウムによる置き換えに続いて、調製された液状乳製品に由来する粉末乳製品を懸濁することによって調製されることもある。該組成物は、この粉末乳製品と実質的に不溶性のカルシウム源との混合物から、または(a)カルシウムがナトリウムもしくはカリウムによって置換された液状乳製品と、(b)実質的に不溶性のカルシウム源との混合物を乾燥させることで形成された粉末からも調製され得る。この混合物の使用は、不溶性カルシウムを添加する好ましい方法である。カルシム除去液状乳製品と、実質的に不溶性のカゼイン源との乾燥混合物を使用することが特に好ましい。
【0033】
用語「乳濃縮物」とは、濃縮物が、カゼイン対ホエーの比が重量によって1:9から9:1の間にあり、かつカゼイン含有率が3%(w/v)を超えるように、乳、脱脂乳、もしくは乳タンパク質を含む液状乳製品もしくは乾燥乳製品をベースにしたいずれの濃縮物を意味する。乳タンパク質濃縮物は、本発明で用いる好ましい乳濃縮物である。
【0034】
用語「乳タンパク質濃縮物」(MPC)は、その無脂固形物(SNF)の40%超、好ましくは55%超、最も好ましくは70%超(水分を含まない重量に基づいて)が乳タンパク質であり、かつカゼインタンパク質対ホエータンパク質の重量比が、それが調製された乳の重量比と実質的に同じである乳タンパク質製品をいう。かかる濃縮物は、当技術分野で知られている。MPCは、「MPC」に追加される乳タンパク質としてパーセンテージ乾物で記述されることが多い。たとえば、MPC70は、乳タンパク質として乾物の70%を有するMPCである。
【0035】
「ゲル化乳製品組成物」は、ゲル化され、かつチーズまたは限外ろ過チーズを含む任意の液状乳製品組成物である。
【0036】
用語「カルシウムイオン」とは、文脈上他のことを要求していない限り、広範に二価カチオンをいい、かつイオンカルシウムまたはイオンマグネシウムおよびコロイド状のカルシウムもしくはマグネシウムを含む。
【0037】
用語「マグネシウムイオン」とは、文脈上他のことを要求していない限り、広範に用いられ、イオンマグネシウムおよびコロイド状のマグネシウムを含む。
【0038】
「実質的に不溶性のカルシウム源」とは、(純)水に溶解させたとき、10g/L未満、好ましくは<5g/L、より好ましくは<2g/Lの溶解度を有するカルシウム源である。
【0039】
「カルシウム除去」成分とは、カルシウムまたはマグネシウムの含有量が対応する非除去組成物または成分よりも低い乳組成物および成分をいう。これらの成分は通常、低い含有量の二価カチオン、たとえば対応する非除去成分よりも低いカルシウムまたはマグネシウムを有する。さらに、一価カチオンの濃度は、出発乳のそれと異なる。カルシウム除去は、従来の乳成分の調製に由来するカゼインに結合してないカルシウムの偶発的損失を含まないが、限外ろ過によるまたはpH6.0を超えるダイアフィルトレーションによるカルシウムの損失を含む。カルシウム除去は通常、イオン交換クロマトフラフィーまたはpH4.5〜6.0の酸性透析を用いて、もしくは電気透析によって行われる。
【0040】
用語「含むこと」とは、本明細書で用いる場合、「少なくとも一部からなる」を意味する。すなわち、その用語を含む本明細書および請求項における記述を解釈するとき、各記述においてその用語によって始められる特徴は、すべて存在する必要があるが、別の特徴もまた存在し得ることを意味する。
【0041】
乳または液状乳製品中の乳リテンテート等の天然カゼインミセル内で二価カチオンを一価カチオンに交換することによって、脂肪を乳化する改変カゼインの能力を高める。プロセスチーズ製造のために改変乳またはリテンテートを成分に加工することによって、以前は乳化塩類の添加を必要とした方法で加熱する間に、乳を乳化させることができる成分を作りだす。カルシウムを除去した乳または液状乳製品は、特定の種類のナチュラルチーズ、製造用特定チーズ、乾燥乳製品、または膜技術によって作られるリテンテートを含むプロセスチーズの製造で用いる成分に加工され得る。次いで、調製されたリテンテートは、ナチュラルチーズ、製造用チーズ、乳タンパク質濃縮物、および/または乳タンパク質分離物を含むプロセスチーズの製造のための成分に加工される。
【0042】
ミセル内で二価カチオンとの交換のために乳に導入された一価カチオンは、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンまたは両イオンであるが、他の一価イオンも、ナトリウムおよび/またはカリウム、たとえば水素イオン、H+とともに含まれ得る。好ましい実施形態では、添加された一価カチオンは、カゼインミセル内で結合される二価カチオン、カルシウム、Ca++と置き換えられる。
【0043】
所望の一価カチオンは、乳化塩類を追加しない外部方法によって、乳に導入される。いずれのプロセスチーズ配合から乳化塩類を除去することによって、完成製品からかかる塩類のアニオン部分を取り除く。乳化塩類を用いることなく、アニオンは、完成したプロセスチーズの風味、溶融能、濃度、およびテクスチャに直接影響を及ぼすことはない。
【0044】
イオン交換は、調製された乳および/またはリテンテートの天然のカゼインミセルで二価カチオンを一価カチオンと交換するための好ましい方法である。イオン交換は、たとえば機能性ゲルポリマーまたは樹脂などを適切に充填された媒体または活性化媒体を用いて乳および/またはリテンテートを加工することによって行われるのが好ましい。これらの方法は、公開されたPCT出願第WO01/41579号およびWO01/41578号、ならびに米国特許出願第2003/0096036号および第2004/0197440号に開示されているものを含み、それら全体を参照によって本明細書に組み込まれる。現在は、加熱される組成物中で、乳成分を用いることが好ましい。該乳成分は、好ましくは強酸性基、たとえばスルホン酸基(ナトリウムまたはカリウムの形で)を有する樹脂上で、カチオン交換クロマトグラフィーを用いることでカルシウムを除去して調製される。イオン交換処理に先立って、カルシウム除去を受ける乳材料のpHは、6.0〜6.5の範囲になるように調整されるのが好ましい。認可された弱酸性のいかなる食物を用いてもよいが、乳酸および乳酸源またはクエン酸が好ましい。酢、酢酸およびリン酸も、用いてもよい。液状成分としてカルシウム除去乳製品を用いてまたは乾燥させて、乾燥成分を生成してもよい。カルシウム除去の程度は、樹脂の性質と容積、乳材料の性質と量、空間速度(体積流量対樹脂総容量の比)、処置乳と未処置乳の混合、温度、pHなどを変えることによる、クロマトグラフィーの条件を変えることによって、変えることが可能である。
【0045】
あるいは、電気透析は、乳で所望のカチオン交換を行うための別の好ましい方法である。乳は、適切な電位に維持させた適切な膜系を用いて加工される。
【0046】
別の実施形態では、電気透析および別の好ましい膜方法を、ダイアフィルトレーションと組み合わせる。ダイアフィルトレーションは、リテンテートのカゼイン部分の純度を高める。規定量の塩または塩化ナトリウムを水に加えると、ダイアフィルトレーションはカゼインミセル内の二価カチオンの一価カチオンとの所望の交換も促進する。
【0047】
さらなる実施形態では、たとえば米国特許出願第2003/0096036号および国際公開第WO01/41579号に記述されているように、二価イオンは、低pH限外ろ過および/またはダイアフィルトレーションを用いて除去される。さらなる実施形態では、加熱される組成物は、遠心分離され、熱処理され、中和されたカゼインタンパク質およびホエータンパク質から調製される。
【0048】
本発明の好ましい実施形態では、カゼインに結合して、二価でミセルを結び付けている二価カチオンの少なくとも5%から95%が、より好ましくは30%から90%、最も好ましくは65%から85%が一価カチオンと交換する。これらのパーセンテージは、加熱される乳材料中のカゼインのパーセンテージである。好ましくは、二価カチオンはナトリウムもしくはカリウムまたは両方と、好ましくはナトリウムと置き換わる。
【0049】
さらなる実施形態では、乳またはリテンテートは、カチオン交換の前に、または後に、選択されたタンパク質分解酵素または酵素によってタンパク質分解を受ける。より好ましい実施形態では、乳またはリテンテートは、カチオンイオン交換および二価カチオンの除去、特にイオンカルシウムの除去に続いて、キモシン(EC3.4.23.1)で、または同様のチーズ凝固酵素によって処理される。キモシンすなわちレンネットは、アミノ酸残基Phe105〜Met106で、またはその近くでκ−カゼインを切断して、チーズ製造のための凝乳の第一の段階としてパラκ−カゼインおよびグリコマクロペプチドを作る。
【0050】
レンネットを作用させた低カルシウム乳タンパク質を調製する方法は、米国特許第2007/0082086号に記述されており、その全体は参照によって本明細書に組み込まれる。
【0051】
極めて好ましい実施形態では、リテンテートは、連続的に処理される。先ずカゼインミセル内の二価カチオンを一価カチオンと交換することによってカチオン交換を促進する。次いで、該リテンテートは、膜処理およびダイアフィルトレーションを用いて、遊離した二価カチオンを除去するために処理される。次いで、処理されたリテンテートは、処理された二価遊離リテンテートを液体として維持する温度で、キモシンまたは関連したプロテアーゼによってタンパク質分解を受ける。最終的に、調製されたリテンテートは濃縮され、および/または乾燥されて改変乳タンパク質濃縮物または乳タンパク質分離物を生成する。
【0052】
実質的に不溶性のカルシウム源は、液状乳製品成分またはゲル化乳製品成分または複数の成分の混合物と混合され得る。不溶性カルシウム源は、加熱する間、または加熱した後に該混合物に加えてもよいが、最終生成物が形成される(静置する)前に、加える必要がある。
【0053】
カルシウムは、上記に定義したように実質的に不溶性であるカルシウムが豊富な任意の食用源を用いて加えてもよい。好ましいカルシウム塩類は、リン酸三カルシウム(TCP)(別名第三リン酸カルシウム)、ヒドロキシアルパタイト、炭酸カルシウムおよび硫酸カルシウムである。カルシウム塩は、熱処理ステップ(iii)の前または後のいずれかで加えてもよい。他のカルシウム源としては、種々の天然に存在するミネラル、たとえば石灰石、白雲石、珊瑚、貝、霰石および骨を含む。リン酸カルシウムが豊富な天然物としては、Fonterra Co-operative Group Limited, Aucklandが販売するALAMIN(商標)がある。石膏は、さらに有用なカルシウム源である。好ましくは、カルシウム成分は、400番篩を通る、より好ましくは少なくとも60重量%が通るのに十分に細かい粉にする。より好ましくはすべての成分は、公称粒径が10マイクロメータ未満である粉体の形状である。小粒子の公称粒径は、容易に入手可能な計器類を用いて、一般的に光散乱法を用いて測定され得る。粒径の測定に適したそのような計器は、Mastersizer 2000(Malvern Instruments Ltd.,Malvern, Worcestershire, United Kingdom)がある。
【0054】
添加される実質的に不溶性のカルシウムの量は、カルシウム除去の程度およびチーズ製品中の所望のカルシウムレベルによって変わる。通常、該量は、添加されるカルシウムのレベルがプロセスチーズ中のカルシウムの少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%のいずれかになるように、またはカルシウム除去カゼイン源がカルシウム除去されていない場合、冷却される混合物中のカルシウム濃度を対応する混合物のレベルまでもっていくのに十分な量であるように選択される。あるいは、添加される量は、対応する非除去混合物の該レベルをおおむね1〜40%、好ましくは5〜20%を超えることもある。
【0055】
さらに好ましい実施形態では、カルシウムを除去した、濃縮したまたは乾燥した乳タンパク質濃縮物もしくは乳タンパク質分離物が、プロセスチーズおよび関連する製品の製造における成分として用いられる。一実施形態では、低カルシウム乳タンパク質濃縮物(20〜100%、好ましくは20〜80%のカルシウムが除去された)の乾物含有量は、加熱される混合物中のチーズの10〜35重量%(好ましくは10〜30重量%)である。
【0056】
好ましい実施形態では、処置され、濃縮したもしくは乾燥した乳タンパク質濃縮物または乳タンパク質分離物は、プロセスチーズ配合物の成分として加えられ、かつ該配合物はすべての脂肪が十分に乳化されるまで加熱を介して加工される。カルシウムまたはマグネシウムなどの適切な二価カチオンの特定量を、加熱した、乳化プロセスチーズ混合物に加えて、冷却後、カゼインゲルの形成を触媒する。極めて好ましい実施形態では、添加する正確な量の二価カチオン、混合pH、および冷却温度は、正確に制御されて、完成したプロセスチーズまたは関連する製品の所望の溶融能、濃度、およびテクスチャを生成する。通常、混合pHは、4.6〜6.4、好ましくは5.0〜6.0、より好ましくは5.4〜5.9の範囲内である。これらのpH範囲も、本発明の別の実施形態において加熱される組成物に対して好ましい。
【0057】
加熱条件も、かなり変動し得る。スライスしたプロセスチーズなどの用途の場合、加熱した混合物は、1〜2分内で6℃まで冷却され得る。別の用途の場合、冷却はその場の周囲温度まで、数日間にわたり行われる。適切な加熱条件は、かなり変動する。65℃〜150℃の温度が好ましい。より高い温度の場合、より短い冷却時間が好ましい。したがって65℃〜110℃では、1〜30分間の加熱時間が好ましく、1〜10分間がより好ましく、2〜5分間が最も好ましい。130℃〜150℃で加熱する場合、好ましい加熱時間は、0.1〜50秒間であり、10〜30秒間がより好ましく、15〜25秒間が最も好ましい。110℃〜130℃では、加熱は、10秒〜5分間が好ましい。加熱ステップの終了後、組成物はエマルションになる。これは、チーズがカルシウム除去したカゼイン源を用いずに加熱され、脂肪からの分離が起こる状況と対照をなす。
【0058】
他の成分がプロセスチーズで用いられることもある。これらの成分は、以下のうちの1つまたは複数を現在選択する「低温殺菌プロセスチーズ」に対して米国で許容されているものから選択され得る:
・以下のうちの2つ以上の1混合物または任意の混合物からなる酸性化剤:
低温殺菌プロセスチーズのpHが5.3未満にならないいずれの量の酢、乳酸、クエン酸、酢酸およびリン酸;
・それに由来する脂肪の重量が、低温殺菌プロセスチーズの5重量%未満になる量のクリーム、無水乳脂肪、脱水クリームまたはこれらのうちの2つ以上の任意の組み合わせ;
・水、塩、無害な人工着色剤、スパイスまたは香味料。
【0059】
米国で「低温殺菌プロセスチーズ食品」または「低温殺菌プロセスチーズスプレッド」用にさらに許容されたものから選択される成分も想定される。低温殺菌プロセスチーズ食品とは:
・より多くの水分を含むこともあり、および
・乳、脱脂乳、バターミルク、チーズホエー、水分を一部除去した前述のいずれか、チーズ、チーズホエー由来のアルブミンを含んでもよく、
・該食品のpHが5.0未満にならぬように、0.2%のソルビン酸、ソルビン酸カリウム、および/またはソルビン酸ナトリウムを含む酸性下剤を含んでもよい。
【0060】
さらに、たとえばイナゴマメ、カラヤゴム、トラガカントゴム、グアー、ゼラチンなどのガム、およびたとえば糖、ブドウ糖、コーンシュガー、コーンシロップ、コーンシロップ固体、グルコース、グルコースシロップ、グルコースシロップ固体、マルトース、マルトシロップ、および加水分解されたラクトースの甘味剤が想定される。
ナイシンが含まれることもある。
【0061】
これらが現地の規制当局に容認されない場合、他の成分が使用され得る。かかる成分としては、粉乳、ホエー、およびホエータンパク質濃縮物が挙げられる。
【0062】
この工程の重要な特徴は、チーズのカゼインミセル内のカゼインに結合した特定量のカルシウムおよびリン酸カルシム塩類を、ナトリウムなどの適切な一価イオンと置き換えることである。十分なカルシウムがカゼインミセル構造内に保持され、冷却すると所望のゲルを作り出す。さらに、カゼインミセル内で一価イオンと置き換えられたカルシウムは、好ましくは、完成したプロセスチーズ内で実質的に不溶性のカルシウム源によって少なくとも置き換えられる、または置き換えられるだけでなく、完成したプロセスチーズまたは関連製品の栄養的および機能的な特性を維持するまたは強化することになる。本発明のさらなる優位性は、乳化塩を使用することなく、該製品のナトリウム含有量が低減され得ることである。
【0063】
本発明は、本発明の方法によって調製されるプロセスチーズも提供する。
【0064】
また、実質的に不溶性のカゼイン源と混合した後に乾燥させた、カチオン交換でナトリウムイオンまたはカリウムイオンによって置き換えられたカルシウムイオンを有した乳タンパク質濃縮物または乳濃縮物を含む乾燥粉末を含有する成分を提供する。この成分は、本発明のプロセスチーズを調製する際に使用され得る。好ましくは、成分は噴霧乾燥によって乾燥される。
【0065】
好ましい実施形態では、プロセスチーズは、
(a)チーズ、乳タンパク質濃縮物、乳脂肪源、および実質的に不溶性のカルシウム源ならびに水を含む混合物を供給することと、
(b)65℃と150℃との間で該混合物を加熱して滑らかなエマルションを得ることと;
(c)加熱した混合物を冷却してプロセスチーズを得ることとを含み、
該乳タンパク質濃縮物がカチオン交換クロマトグラフィーで処置されて、そのカルシウムの20〜80%をナトリウムイオンまたはカリウムイオンによって置き換えられ、かつチーズの10〜30重量%である含有量の乾物を有する方法において乳化塩類を用いずに調製される。好ましくは、乳タンパク質濃縮物は、不溶性カゼイン源との混合物として供給される。より好ましくは、乳タンパク質濃縮物は、不溶性カルシウム源とともに乾燥された乾燥濃縮物として供給される。
【0066】
本明細書において、特許明細書および他の諸文書を含む外部の情報源に対して参照がなされている場合、これは概して、本発明の特徴を述べるための状況を提供することを目的とする。特に明記しない限り、かかる情報源の参照は、いかなる権限においても、かかる情報源が先行技術であるか、または当技術分野で共通の一般知識の一部を形成することを承認するものとして解釈されないものとする。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、一般的な加工順序を示す。乳または液状乳製品中のタンパク質はカチオン交換を受けて、カゼインミセルに結合した二価カチオンの外部から供給される一価カチオンとの置き換えを促進する。次いで、二価カチオンは不活性塩類、特に、ヒドロキシルアパタイトなどの不活性リン酸カルシウム塩類を形成するように加工される、または不活性カルシウム塩もしくはリン酸カルシム塩類が加えられる。それに続いて改変乳またはリテンテートが適切なプロセスチーズ成分に加工される。
【図2】図2は、一般的な工程の好ましい改変を示す。まずリテンテートがカチオン交換を受けて、カゼインミセル内の二価カチオンと外部から供給される一価カチオンとの置き換えを促進する;膜処理によって、場合によりダイアフィルトレーションによって補助されて二価カチオンは除去される;次いで改変リテンテートは適切な酵素によるタンパク質分解を受ける。カゼインミセルから除去された二価カチオンは、同時に不活性塩類、特にヒドロキシルアパタイトのようなリン酸カルシウム塩類に加工され得る、あるいは別個の源から調製リテンテートに付加され得る。調製リテンテートに不活性カルシウムを組み込むことは、酵素処理の間か、または処理のあとのいずれかで生じ得る。続いて、処置されたリテンテートは濃縮され、および/または乾燥されて、プロセスチーズ成分としての乳タンパク質濃縮物もしくは乳タンパク質分離物を生成する。
【図3】図3は、プロセスチーズ成分として新規工程によって生成され得る範囲の成分を示す。該成分は、乾燥全乳、脱脂粉乳、ナチュラルチーズの標準化種類、膜技術によって生成されたリテンテートとチーズの種類、乳タンパク質濃縮物、またはリテンテートから生成され得る乳タンパク質分離物を含む。
【図4】図4は、プロセスチーズの製造において乳化塩類を用いずに、同等または強化カルシウム含有量での種々の成分の使用を示す。
【実施例】
【0068】
以下の非限定的な実施例は、本発明の実施をさらに例示する。
【0069】
実施例1
完成製品において乳化塩を含まないが、同等または強化カルシウム含有量を含む、プロセスチーズおよび関連製品を製造するための基本的特徴を、以下の同等の配合物から作られた低温殺菌プロセスアメリカンチーズ食品の調製によって示す:
(a)低温殺菌プロセスアメリカンチーズ食品のための代表的な製造方法を用いて、乳化塩類を用いずに作られた対照生成物;
(b)低カルシウムカゼイン源として、低カルシウム乳タンパク質濃縮物で作られた、乳化剤を含まない対照生成物;
(c)乳タンパク質濃縮物で作られた、乳化剤を含まない低温殺菌プロセスアメリカンチーズ食品、低温殺菌加工米国チーズ食品中に本来は存在するカルシウムをすべて含有するように作られた;および
(d)乳タンパク質濃縮物で作られた、乳化剤を含まない低温殺菌加工米国チーズ食品、低温殺菌プロセスアメリカンチーズ食品のカルシウム含有量を強化するように作られた。
【0070】
種々の低温殺菌プロセスアメリカンチーズ食品のための配合物を表1.1に示す。表1.2は、それぞれの完成製品に対して予想される配合した完成生成物の組成と、米国農務省(USDA)によって報告された低温殺菌プロセスチーズ食品の代表的な組成を表1.2に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
NZMP(商標)乳タンパク質濃縮物4864(Fonterra Co-operative Group, Ltd.,Auckland, New Zealand)は、市販されている低カルシウム製品であり、通常は、タンパク質81.5%、水分5.8%、脂肪3.5%、ナトリウム1700mg/100g、およびカルシウム800mg/100gを含む。相対的な乳タンパク質濃縮物、NZMP(商標)485(Fonterra Co-operative Group, Ltd.)は、タンパク質81.3%、水分5.7%、脂肪1.6%、ナトリウム70mg/100g、およびカルシウム2230mg/100gを含む。
【0073】
【表2】

【0074】
低温殺菌プロセスアメリカンチーズ食品は、20kg容量の双軸スクリュー・プロセスチーズ加熱装置(Blentech CC45、Petaluma,CA)で作られた。最初に、300mmバレルと6mmオリフィス板を備えたReitzグラインダー(Santa Rosa,CA)でチーズとバターをすりつぶした。
【0075】
100kgのNZMP(商標)4864に第三リン酸カルシウム[Ca3(PO42]を2.9kgまたは5.6kgのいずれかの量で加えることによって、NZMP(商標)乳タンパク質濃縮物4864(Fonterra Co-operative Group, Ltd.)のカルシウム含有量を強化した。第三リン酸カルシウムをNZMP(商標)に乾式混合させ、それによって、配合物CおよびDそれぞれの必要に応じて完成生成物の全カルシウム含有量を増やした。
【0076】
低温殺菌プロセスチーズ食品の製造は、チーズ加熱装置のジャケットを40℃まで加熱することで開始し、すりつぶした(加塩)バターを加え、次いで溶融するまで混ぜた。
次いでチーズ、甘性ホエー粉末、塩、およびソルビン酸を加熱装置に入れて、配合物Aの場合は、50rpmで30秒間混ぜた。それ以外は、配合物B、CおよびDそれぞれの場合、NZMP(商標)乳タンパク質濃縮物4864またはカルシウム強化NZMP(商標)4864乳タンパク質濃縮粉末を加えて、50rmpで30秒間、溶融バターに混合させた。配合物B、C、およびDの場合は、次いでチーズ、甘性ホエー粉末、塩、およびソルビン酸を、加熱装置内の成分混合物に加えて、50rpmで30秒間混合させた。次いで、すべての配合物の場合、50rmpで混合させながら、成分混合物に1分間かけて水をゆっくりと加えた。すべての配合物の場合、次いで完成した混合物を20分間、静置させた。
【0077】
同じ加熱工程を用いて、すべての配合物を調製した。調製した混合成分を直接蒸気噴射によって87℃の温度まで加熱し、蒸気凝縮水として配合物に水分が加えられることを可能にする。温度の上昇を制御することによって、オーガー速度を150rpmに調整して、5分間の全加熱時間が可能になった。加熱した混合物を1分間、87℃で保持し、次いで直ちに、ローフ形のバタータブ型容器に注ぎ分け、成形台上でスライスとして成形した。スライスを、76×76mm、1.75mmの厚さの寸法に加工した。ローフおよびスライスを冷却して、分析まで5℃の冷蔵温度で保持した。
【0078】
表1.3は、分析によって測定した、完成した生成物の組成を示す。表1.4は、USDAによって報告された低温殺菌プロセスアメリカンチーズのカルシウムおよびナトリウムのそれぞれの含有量についての直接比較のために、同等の含水量に変換した表1.3のデータを示す。
【0079】
【表3】

【0080】
乳化塩類を用いずに代表的な工程によって作られた低温殺菌プロセスアメリカンチーズの含水量(44.7%)は、識別基準に記載された法定最大値(44%を超えない)を超えていた。加熱が完了すると、この生成物は、粘着性の高い非均質なペーストを形成した。このため許容されるスライスのダイカストにとって大きな妨げとなった。均質性に欠けるために、水分分析のための代表的な試料を得る能力がなく、妨げとなったと思われる。
【0081】
加熱した生成物は目にみえる遊離脂肪を形成しなかったが、大量の遊離脂肪を押し出すために親指と他の指の間で一度軽く擦るとエマルションは崩れた。このエマルションは極めて脆弱なために、完成生成物中で遊離脂肪の形成を促進させ、かつ商業プロセスチーズ製造では受け入れられない。加熱した生成物の高粘着性は、有効なカゼインが必要に応じてゲル化しなかったことを示している。必要な弾力、濃度、およびテクスチャを有する均一のゲルを形成することができなく、冷却すると該生成物は、正常なローフまたはスライスも生成することができなかった。該完成生成物の食感は、受け入れがたい粒状で粘質であった。この生成物の受け入れがたい乳化安定性および機能性は、プロセスチーズタイプ製品の製造において伝統的な方法による乳化塩類を用いることの有利性を明らかに示している。
【0082】
【表4】

【0083】
NZMP(商標)4864を加えて作られたすべての生成物は同様の組成を維持しており、識別基準に記載されている水分および脂肪の必要条件を完全に満たした。加熱完了時にこれらの生成物のそれぞれの外観は、乳化塩類を用いて作られた、同様に加熱した高品質の低温殺菌プロセスアメリカンチーズに非常に似ていた。NZMP(商標)4864を加えて作られたいずれの生成物上でも、遊離脂肪は観察されなかった。これらの生成物のそれぞれのエマルションを崩すためには、親指と他の指との間で6回以上擦ることが必要であり、商業的に許容される乳化安定性を主観的に示していた。
【0084】
NZMP(商標)を含有するすべての配合物に由来する加熱した生成物は、成形台に広げてから30秒から1分以内に直ちにゲル化した。NZMP(商標)で作られたゲル化した生成物はすべて、容易にきれいに切れて、完ぺきに受け入れられるスライスを形成した。これらを成形台から容易に移して、所望の形を崩すことなく、または成形台もしくはフィルムの表面に固着することなく、フィルムで包装した。
【0085】
強化された量のカルシウムを含有するように改変されたNZMP(商標)で作られ、加熱した生成物(配合物D)の粘性は、非処理NZMP(商標)4864で作られた生成物(配合物B)の粘性よりも低いようだった。粘性が低いと通常、多くの成形操作にとってかなり有利であり望ましく、大抵のタイプの成形装置の操作を向上させる。
【0086】
乳化塩類で作られたプロセスチーズスプレッドと比較すると、乳化塩類を用いずに作られた低温殺菌プロセスアメリカンチーズ食品スライスの風味は、ナチュラルチェダーチースに極めて似ていると、訓練された判定者は判定した。したがって、プロセスチーズスプレッドの製造でこれらの乳化塩類の使用を排除することで、これらの化合物が完成生成物に与える付随した風味を大いに低減させたことになる。
【0087】
表1.5は、生成された低温殺菌プロセスアメリカンチーズ食品の溶融能および硬度を示す。溶融する試料の能力は、Schreiber試験(Zehren, V. L. およびD. D. Nusbaum. 1992. Process Cheese(プロセスチーズ). Cheese Reporter Publishing Co., Inc. Madison, WI. Pp.294-295)によって測定した。チーズの硬度は、テクスチャープロフィール機械分析によって測定した(Drake, M. A., V. D. TruongおよびC. R. Daubert. 1999.Rheological and sensory properties of reduced-fat processed cheeses containing lecithin(レシチンを含有する低脂肪プロセスチーズのレオロジー特性と知覚特性).J. Food Sci. 64: 744-747)。
【0088】
【表5】

【0089】
大部分の商業的用途は、>3〜4の溶融能を有する低温殺菌プロセスアメリカンチーズ食品を必要とする。すべての処置によって作られたスライスの溶融能は、代表的な最小溶融必要条件を上回る。すべての処置によって作られたチーズの平均硬度は、大体同等である。しかし、乳化塩類を用いずに配合物Aで作られた低温殺菌プロセスアメリカンチーズの硬度測定は、さらに大きな偏差を示した。配合物Aで作られた試料の硬度測定間の大きな偏差は、作られた生成物の非均質性質を示している。
【0090】
乳化塩類を用いずに作られた低温殺菌プロセスアメリカンチーズ食品のカルシウム含有量は、USDAによって報告された代表的な製品におけるカルシウム含有量(すなわち、それぞれ562〜574mg/100g)と、特に表1.4の同等の含水量に調整した場合(すなわち、それぞれ578〜574mg/100g)、ほぼ同等である。配合物Aによって作られた生成物のナトリウム含有量は、代表的な製品で報告されたよりもかなり低い(すなわち、それぞれ、704または724から1189mg/100)。
【0091】
乳化塩類およびNZMP(商標)4864を用いずに作られた低温殺菌プロセスアメリカンチーズのカルシウムおよびナトリウムの両含有量は、USDAによって報告されたこの製品の代表的なものよりも低い(すなわち、それぞれ、461〜574mg/100gおよび890〜1189mg/100g)。しかし、非処理NZMP(商標)4864による生成物のカルシウム含有量は、配合物Aから作られた対照生成物よりも低い(すなわち、459〜578mg/100g)が、この生成物のナトリウム含有量は、配合物Aから作られた生成物に対して表1.4で観察されたものよりも高い(すなわち、886〜724mg/100g)。
【0092】
第三リン酸カルシムで強化されたNZMS(商標)4864による低温殺菌プロセスアメリカンチーズの生成によって、代表的な製品に対して報告されたカルシウム含有量と同等であるかまたは上回るカルシウム含有量の受け入れられる生成物が作られた。カルシウム強化NZMS(商標)4864を用いて作られた生成物のナトリウム含有量は、非処置NZMP(商標)4864で作られた生成物のナトリウム含有量と基本的に同等であり、かつ代表的な生成物よりも低い。したがって、本実験の結果は、完成生成物中のカルシウム含有量の減少を生じることなく、独特の成分を有する低温殺菌プロセスチーズタイプの生成物が生成されることを示す。
実施例2
【0093】
以下の非限定的な実施例は、同等または強化されたカルシウム含有量を有するが、乳化塩類を用いずに、本発明によるプロセスチーズを作る能力をさらに示す。表2.1は、以下を含むプロセスチーズを調製するために用いた配合物を示す。
(A)乳化塩類を用いてプロセスチーズを作るための代表的な製造実施を示す陽性対照として乳化塩類で作られたプロセスチーズ;
(B)乳化塩類を用いずに代表的な方法を用いる結果を示すために、乳化塩類を用いずに代表的な製造方法によって作られたプロセスチーズ;
(C)低カルシウムとして低カルシム乳タンパク質濃縮物を、低カルシウムプロセスの対照例としてカゼイン源を用いて、乳化塩類を用いずに作られたプロセスチーズ;および
(D)乳化塩類を用いずに作られた低温殺菌プロセスチーズのカルシウム含有量に匹敵するまたは該含有量を増加させるための本発明の能力を具体的に示す、強化カルシウム含有量を有する独特に調製された乳タンパク質濃縮物で作られたプロセスチーズ。
【0094】
すべての生成物の配合物は、プロセスチーズおよびスプレッドタイププロセスチーズのCodex一般基準に適合する(Codex基準A−8(b)−1978、Codex規格、乳および乳製品、第1版、国連世界保健機関、食糧農業機関、Rome,2007)。表2.2は、ニュージーランド産のプロセスチーズおよび米国産の低温殺菌プロセスアメリカンチーズの代表的な組成による配合物から作られる想定される完成生成物の組成を示す。表2.3は、ニュージーランドおよび米国の代表的な製品の含水量と同等に調整した場合の、各配合プロセスチーズの想定されるカルシウムおよびナトリウムの含有量を示す。
【0095】
【表6】

【0096】
【表7】

【0097】
【表8】

【0098】
市販の乳タンパク質濃縮物NZMP(商標)4864(Fonterra Co-operative Group, Ltd.,Auckland, New Zealand)は、一般的にタンパク質81.5%、水分5.8%、脂肪3.5%、ナトリウム100mg/100g、およびカルシウム800mg/100gを含有する。対照的に、NZMP(商標)乳タンパク質濃縮物485(Fonterra Co-operative Group, Ltd.)は、タンパク質81.3%、水分5.7%、脂肪1.6%、ナトリウム70mg/100g、およびカルシウム2230mg/100gを含有する。
【0099】
新規のNZMP(商標)乳タンパク質濃縮物の製造は、生全乳を5℃で分離することから開始して、0.06%乳脂肪を有する脱脂粉乳を生成した。続いて、生の脱脂乳を72℃で16秒間低温殺菌し、10℃まで冷却して、Koch(商標)S4HFK131膜を用いる限外ろ過によって分画した。タンパク質分画がリテンテート中で約60%の総固形分を構成するまで、膜処理を続けた。カルシウム除去リテンテートを生成する、認可された食品加工用強酸カチオン交換樹脂であるAMBERLITE(商標)SRILNaを含有するイオン交換カラムに、限外ろ過リテンテートの適合する部分を導入した。カルシウム除去リテンテートを、非処理リテンテートと混合して混合型リテンテートを生成した。混合型リテンテートを蒸発によって凝縮して、スプレー乾燥機の適切な噴霧ノズルにポンプで注入した。粉末状の第三リン酸カルシウム[Ca3(PO42]は、噴霧ノズル出口で微粒化されたリテンテートの流れの中にインジェクトされ、乳タンパク質濃縮物の乾燥の間に、微粒化リテンテートスプレーへの該リン酸カリウムの混和が可能になる。生成物の包装の前に、乳タンパク質濃縮物が乾燥すると直ちに、さらなる第三リン酸カルシウム[Ca3(PO42]が該濃縮物に乾式混合される。乾燥乳タンパク質濃縮物を包装して、使用まで保持した。表2.4は、比較のために、新規のNZMP(商標)乳タンパク質濃縮物の組成、ならびにNZMP(商標)4864、NZMP(商標)470、およびNZMP(商標)456の組成を示す。
【0100】
【表9】

【0101】
低温殺菌プロセスアメリカンチーズは、20kg容量の双軸スクリュー・プロセスチーズ加熱装置(Blentech CC45、Petaluma、CA)で作った。最初に、300mmのバレルと6mmオリフィス板を備えたReitzグラインダー(Santa Rosa, CA)でチーズおよびバターをすりつぶした。
【0102】
低温殺菌プロセスチーズの製造は、配合物AおよびBを用いて、すりつぶしたチーズおよびバターを加熱装置に加えることで開始した。直接蒸気インジェクションは、加熱装置内のすりつぶしたチーズ−バター混合物を120rpmで混合しながら、温度を47℃まで上昇させた。次いで、配合物Aの場合は、乳化塩類、塩、およびソルビン酸を加熱装置内の混合物に加え;配合物Bを加工するときは、塩およびソルビン酸を該混合物に加えた。次いで、両配合物の混合物を5分以内に85℃(185oF)まで加熱し、次いで1分間保持した。加熱する間、オーガー速度を120rpmで維持した。加熱して溶融した生成物の適合する部分を500gモールドに注ぎ、冷却して500gの「ローフ」を作製した。加熱して溶融した残り生成物を、冷たい台の上で厚さ1.75mmに成形した後に、76×76mmのスライスに切断し、次いで個々のスライスとしてラップした。包装されたローフおよびスライスの生成物を分析まで冷蔵貯蔵で保持した。
【0103】
配合物CおよびDを用いる低温殺菌プロセスチーズの製造は、チーズ加熱装置のジャケットを40℃まで加熱することから開始し、すりつぶしたバターを加えて、バターが完全に溶融するまで50rpmで混合した。配合物CのためのNZMP(商標)4864または配合物DのためのNZMP(商標)新規乳タンパク質濃縮物のそれぞれの乳タンパク質濃縮物を55rpmで3〜5分間、溶融バターに完全に混合して、滑らかなペーストを作った。次いで、チーズを加えて、55rpmで2〜3分間、該混合物に完全に混合した。次いで、配合物CおよびDそれぞれに対して、塩およびソルビン酸を加熱装置内の成分混合物に加えて、該混合物を50rpmで30秒間混合した。次いで、1分間にわたり両配合物の成分混合物に水をゆっくりと加えながら、50rpmで混合させた。次いで配合物CおよびDのそれぞれの完成した混合物を、20分間静置させておいた。
【0104】
それぞれの配合物CおよびDの調製した混合成分を、直接蒸気インジェクションによって85℃の温度まで加熱し、さらに水分を加えて、配合物は蒸気濃縮物にした。温度の上昇を制御することで、オーガー速度を150rpmに調整して、合計5分間の加熱時間が可能になった。加熱した混合物を85℃で1分間保持し、次いで分割して直ちにローフ型のモールドに注ぎ分け、または成形台上でスライスとして成形した。スライスを76×76mmの大きさ、1.75mmの厚さに加工した。ローフとスライスを冷却して、分析まで5℃の冷凍温度で保持した。
【0105】
乳化塩類を用いて配合物Aによるプロセスチーズの製造は、十分に乳化された滑らかな生成物を生成した。配合物Aで用いた乳化塩類は、冷却すると所望のカゼインゲルを作り、所望の濃度およびテクスチャを有する完成したプロセスチーズを生成した。対照的に、配合物Bは、一般的な方法で処理すると、乳化を維持できなく、それによって過量の遊離脂肪を作り出した。さらに、カゼインは適切にゲル化できなく、完成した生成物は粘性のある粒状のペースト様であり、プロセスチーズの所望の濃度およびテクスチャに欠ける。乳化塩類を用いずに配合物Bで作られた生成物は、成形台上でスライスを完全に作れなく、受け入れがたいものであった。
【0106】
配合物Cで用いた低カルシウム乳タンパク質濃縮物、NZMP(商標)4864から生成されたプロセスチーズは、有効な乳脂肪の乳化に成功した。しかし、配合物Cは、薄いカゼインゲルを作っただけであり、辛うじて受け入れられるから受け入れがたいまでの濃度およびテクスチャを作り出した。
【0107】
配合物Dでカルシウム強化NZMP(商標)乳タンパク質濃縮物を用いたプロセスチーズの製造は、有効な乳脂肪の乳化に成功した。カルシウム強化乳タンパク質濃縮物を用いて生成した強いエマルションは、崩すためには親指と他の指との間で6回以上擦ることが必要であった。さらに、完成したプロセスチーズは、所望の濃度およびテクスチャを作り出すための所望の堅い弾力性のあるカゼインゲルを形成した。加熱した生成物は、成形台上で30秒〜1分以内に容易にゲル化した。ゲル化した生成物は、きれいに切れて完ぺきに受け入れられるスライスを形成し、成形台から容易に移して、所望の形を崩すことなく、または成形台もしくはフィルムの表面に固着することなく、フィルムで包装された。加熱完了時に完成した生成物は、同様に加熱した、乳化塩類で作られた高品質の低温殺菌プロセスチーズに極めて似ていた。
【0108】
表2.5は、分析によって測定した、完成した生成物の組成を示す。表2.6は、ニュージーランド産の代表的なプロセスチーズおよびUSDAによって報告された低温殺菌プロセスアメリカンチーズのカルシウムおよびナトリウムのそれぞれの含有量についての直接比較のために、同等の含水量に変換した表2.6のデータを示す。
【0109】
【表10】

【0110】
【表11】

【0111】
すべての生成物の水分、脂肪、および一般組成物は、Codex一般基準に適合する。
配合物Dでカルシウム強化NZMP(商標)乳タンパク質濃縮物で作られたプロセスチーズのカルシウム含有量は、他の配合物によって作られたプロセスチーズのカルシウム含有量、ならびにニュージーランド産のプロセスチーズおよび米国産の低温殺菌プロセスアメリカンチーズの標準的基準によって与えられた含有量を明らかに上回る。すなわち、カルシウム強化NZMP(商標)乳タンパク質の濃縮物を686mg/100gで用いて作られたプロセスチーズのカルシウム含有量は、乳化塩類を556mg/100で用いて作られた対照プロセスチーズ、乳化塩類を用いずに420で作られた対照プロセスチーズ、低カルシウム配合物Cを421mg/100gで用いて作られたプロセスチーズのカルシウム含有量、またはニュージーランド産の620mg/100gで作られたプロセスチーズに関して代表的に報告されたカルシウム含有量、および米国産の616mg/100gで作られた低温殺菌プロセスアメリカンチーズに関して代表的に報告されたカルシウム含有量を上回った。表2.6は、配合物Dによって作られたプロセスチーズのカルシウム強化含有量が、完成した生成物で測定したとき、ならびに代表的なニュージーランドおよびUSDAの製品の同等の含水量にカルシウム含有量を調整したときの両方ですべての生成物において生じたことを示している。
【0112】
配合物Dでカルシウム強化NZMP(商標)乳タンパク質濃縮物を用いて作られたプロセスチーズのナトリウム含有量は、乳化塩類を用いて作られた対照プロセスチーズのナトリウム含有量よりも低く、かつニュージーランド産のプロセスチーズおよび米国産の低温殺菌プロセスアメリカンチーズの両方の標準的基準で報告されるナトリウム含有量よりも低かった。すなわち、乳化塩類を1410mg/100で用いて作られた対照プロセスチーズのナトリウム含有量、またはニュージーランド産の1130mg/100gで作られたプロセスチーズに関して代表的に報告されるナトリウム含有量、および米国で1430mg/100gで作られた低温殺菌プロセスアメリカンチーズに関して代表的に報告されるナトリウム含有量はすべて、998mg/100gの配合物Dによってカルシウム強化乳タンパク質濃縮物を用いて作られたプロセスチーズのナトリウム含有量を上回った。配合物Dを用いて作られたプロセスチーズのナトリウム含有量の減少は、ニュージーランド産に関して報告されるまたは米国産の低温殺菌プロセスアメリカンチーズに関してUSDAによって報告される両参照プロセスチーズの同等の含水量にナトリウム含有量を調整したとき、同様に生じた。配合物Dを用いて作られたプロセスチーズのナトリウム含有量は、配合物BおよびCの両方を用いて、乳化塩類を用いずに作られたプロセスチーズのナトリウム含有量を上回った。
【0113】
表2.7は、選択される濃度およびテクスチャ特性で溶融する完成した試料の能力を示す。溶融性は、Schreiber溶融試験で測定された(Zehren, V. L.およびD. D. Nusbaum. 1992.Process Cheese(プロセスチーズ). Cheese Reporter Publishing Co., Inc. Madison, WI. Pp.294-295.)。チーズの硬度は、テクスチャプロファイル機器分析によって測定した(Drake, M. A., V. D. TruongおよびC. R. Daubert. 1999. Rheological and sensory properties of reduced-fat processed cheeses containing lecithin(レシチンを含有する低脂肪プロセスチーズのレオロジー特性と知覚特性). J. Food Sci. 64:744-747)。エマルションが崩れ、濃度およびテクスチャが不十分なために受け入れられるローフおよびスライスのダイカスト成形が出来なかったので、配合物Bによって生成されたプロセスチーズの濃度およびテクスチャ特性は測定できなかった。
【0114】
【表12】

【0115】
プロセスチーズの溶融性は通常、Schreiber溶融試験スコアの3〜4に等しいかまたは上回らなければならない。すべての処置によって作られたスライスの溶融能は、代表的な溶融最小必要条件を上回る。カルシウム強化配合物Dによって作られたプロセスチーズは、かなり良好に溶融し、配合物Aを使用して乳化塩類を用いて作られた対照試料の溶融性を上回った。カルシウム含有量を有するプロセスチーズ成分は、一般的にプロセスチーズの溶融を減少させるので(Kosikowski, F. V.およびV. V. Mistry. 1997 Cheese and Fermented Milk Foods(チーズおよび発酵乳食品). Vol. 1. Origins and Principles. 3rd Ed. F. V. Kosikowski, L.L.C. Westport, CT)、強化カルシウム含有量で作られたプロセスチーズの溶融性が維持されたことは予想外のことである。
【0116】
貫入法およびベーン法による生成物の濃度およびテクスチャの測定は、配合物Dでカルシウム強化NZMP(商標)乳タンパク質濃縮物を用いて作られたプロセスチーズが、乳化塩類を用いて作られた対照生成物および低カルシウム乳タンパク質濃縮物NZMP(商標)4864を用いて作られたプロセスチーズよりも柔らかいことを示した。濃度およびテクスチャデータの分析は、生成物の含水量に依存する。しかし、配合物Dを用いて作られたプロセスチーズの硬度および強化カルシウム含有量は、多くのプロセスチーズ用途で受け入れられる。
【0117】
配合物Dでカルシウム強化NZMP(商標)乳タンパク質濃縮物によるプロセスチーズは、代表的な製品に関して報告されたカルシウム含有量を上回るカルシウム含有量を有する極めて受け入れられる生成物を生成した。代表的な製品と比較すると、配合物DでNZMP(商標)乳タンパク質濃縮物を用いてプロセスチーズを生成することで、同時にナトリウム含有量を減少させた。したがって、この結果は、代表的な製品のカルシウム含有量と等しいまたはそれを上回るカルシウム含有量で、低温殺菌プロセスチーズタイプの生成物が作られることを示している。
【0118】
上記の実施例は、本発明の実施の説明である。本発明は、多数の改変およびバリエーションで実行され得ることを当業者には理解されるであろう。たとえば、使用されるカルシウム強化MPCはタンパク質濃度およびカルシウム含有量のバリエーションを示すことができ、カルシウムを除去する方法は変えることができ、カルシウム除去パーセンテージおよび乾燥方法も変えることができる。同様に、脂質成分および水性成分の割合および性質も変えられ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化塩類を用いずにプロセスチーズを調製する方法であって、
(a)少なくともその一部が、ナトリウムイオンもしくはカリウムイオンと置き換えられた、カルシウムイオンを含むその二価イオンをある割合で有するカゼインを含む液状乳製品組成物もしくはゲル化乳製品組成物または両方を供給するステップ;
(b)前記組成物または複数の組成物の組み合わせを加熱して、エマルションを得るステップ;及び
(c)前記加熱した組成物を冷却して、プロセスチーズを得るステップ;
を含み、ここでステップ(c)において前記プロセスチーズが形成される前のいずれかの時点で、実質的に不溶性のカルシウム源が前記組成物のうちの少なくとも1つと混合される方法。
【請求項2】
液状乳製品組成物がステップ(a)で供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
液状乳製品組成物が限外ろ過リテンテートである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
加熱される組成物がチーズまたは限外ろ過チーズを含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
(a)カルシウムのナトリウムまたはカリウムによる置換を受けた液状乳製品、と
(b)実質的に不溶性のカゼイン源、
との混合物を乾燥させることによって形成された粉末乳製品の懸濁によって調製される液状乳製品組成物が供給される、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
加熱するステップが攪拌を含まない、または含まれる攪拌が2000rpm未満である、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
加熱するステップが攪拌を含まない、または含まれる攪拌が200rpm未満である、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
加熱される組成物中の乳成分が、カチオン交換クロマトグラフィーを使用してカルシウム除去によって調製される、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
カゼインに結合し且つ二価でミセルを結び付けている二価カチオンの5%から95%が、加熱される組成物中の一価カチオンと交換される、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
パーセンテージが30%から90%である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
パーセンテージが65%から85%である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
加熱される組成物が、カチオン交換の前後にチーズ凝固酵素にさらされた乳またはリテンテートを含む、請求項9から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
実質的に不溶性のカルシウム源が、リン酸三カルシウム、ヒドロキシルアパタイト、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、石灰石、白雲石、珊瑚、シェル、霰石、骨および石膏の群から選択される、請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
実質的に不溶性のカルシウム源が、リン酸三カルシウム、ヒドロキシルアパタイト、炭酸カルシウム、および硫酸カルシウムの群から選択されるカルシウム塩を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
実質的に不溶性のカルシウム源の少なくとも60重量%が、公称粒径で10マイクロメートル未満である粒子の形状である、請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
カルシウム源が、公称粒径で10マイクロメートル未満である粒子の形状である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
実質的に不溶性のカルシウムの添加される量が、添加されたカルシウムのレベルがプロセスチーズ中のカルシウムの少なくとも5%になるように、またはカルシウム除去カゼイン源がカルシウム除去されていない場合、冷却される混合物中のカルシウム濃度を対応する混合物のレベルまでもっていくのに十分な量であるように選択される、請求項1から16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
実質的に不溶性のカルシウムの添加される量が、加熱される組成物中のカルシウム濃度が対応する非除去混合物のレベルを1〜40%上回るように選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
液状乳製品組成物がカルシウム除去、濃縮もしくは乾燥した、乳タンパク質濃縮物または乳タンパク質分離物を含む、請求項1から18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
低カルシウム乳タンパク質濃縮物の乾物の含有量が、加熱される混合物中のチーズの10重量%から35重量%であり、かつ低カルシウム乳タンパク質濃縮物が20〜100%のカルシウムが除去されている、請求項1から19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
加熱される組成物が4.6から6.4の範囲にpH値を有する、請求項1から20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
加熱温度が65℃から150℃である、請求項1から21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
温度が65℃から110℃であり、かつ加熱時間が1分から30分である、請求項22に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2012−528589(P2012−528589A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513897(P2012−513897)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【国際出願番号】PCT/NZ2010/000109
【国際公開番号】WO2010/140905
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(509059549)フォンテラ コ−オペレイティブ グループ リミティド (5)
【Fターム(参考)】