説明

乳化材およびこれを用いた水中油型乳化食品

【課題】 乳化力に優れた改質乾燥卵白を有効成分とした乳化材およびこれを用いた水中油型乳化食品を提供する。
【解決手段】 改質乾燥卵白1部に対して、7部の清水で溶解させた水溶液のpHが9.5以上であり、前記水溶液の加熱凝固物の離水率が3%以下であり、改質乾燥卵白25gを250mL容量のバイアル瓶に密封して75℃で24時間保存した後の前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度が1%以下である、改質乾燥卵白を有効成分とした乳化材、およびこれを用いた水中油型乳化食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化力に優れた改質乾燥卵白を有効成分とした乳化材およびこれを用いた水中油型乳化食品に関する。
【背景技術】
【0002】
水中油型乳化食品として代表的なものとしては、マヨネーズや半固体状乳化ドレッシングなどがある。これらの乳化食品は、主に卵黄を乳化材として使用しており、卵黄は、卵黄蛋白と、リン脂質、コレステロールおよびトリグリセリドが複合化したリポ蛋白質であり、天然の乳化材としてはもっとも優れた乳化力を有する。
【0003】
卵黄は、優れた乳化力を有する乳化材であるが、乳化食品によっては、様々な理由により、他の乳化材と併用して乳化したり、あるいは他の乳化材のみで乳化する場合がある。他の乳化材としては、各種の蛋白質などが挙げられ、具体的には、卵白などが乳化材あるいは乳化補助材として利用されている。
【0004】
卵白を乳化材として配合した水中油型乳化食品としては、例えば、特開平9−271355号公報(特許文献1)には、水相中に生卵白として20〜60%、その他の原料として食塩、糖類および酸味料を特定量配合したスプレッドや焼成パン用のトッピング材、またドレッシングに適した水中油型エマルション食品用組成物が開示されており、同文献の実施例では、生卵白を使用した例が記載されている。また、特開平7−31415号公報(特許文献2)には、卵白の他、酸味料およびレシチンを配合し、かつ実質的に卵黄を含まない低コレステロールマヨネーズ様食品が開示されており、同文献の実施例では、乾燥卵白(卵白粉末)を使用した例が記載されている。
【0005】
しかしながら、従来使用されていた卵白は、必ずしも満足できるほどの乳化力を有した乳化材とは言い難く、乳化力に優れたものに改質された卵白の出現が要望されている。
【0006】
【特許文献1】特開平9−271355号公報
【特許文献2】特開平7−31415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、乳化力に優れた改質乾燥卵白を有効成分とした乳化材およびこれを用いた水中油型乳化食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、乾燥卵白の製造工程について鋭意研究を重ねた。その結果、既に発明し出願(特願2006−242713号)している改質乾燥卵白、つまり加熱凝固時の保水性、ゲル強度およびしなやかさに優れた前記出願に係る改質乾燥卵白が、意外にも乳化力にも優れていることを見出し本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)改質乾燥卵白1部に対して、7部の清水で溶解させた水溶液のpHが9.5以上であり、前記水溶液の加熱凝固物の離水率が3%以下であり、改質乾燥卵白25gを250mL容量のバイアル瓶に密封して75℃で24時間保存した後の前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度が1%以下である、改質乾燥卵白を有効成分とした乳化材、
(2)(1)の乳化材を配合した水中油型乳化食品、
(3)(1)の乳化材の配合量が製品に対し改質乾燥卵白として0.1〜10%である(2)の水中油型乳化食品、
(4)改質乾燥卵白1部に対して、7部の清水で溶解させた水溶液のpHが9.5以上であり、前記水溶液の加熱凝固物の離水率が3%以下であり、改質乾燥卵白25gを250mL容量のバイアル瓶に密封して75℃で24時間保存した後の前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度が1%以下である、改質乾燥卵白を配合した水中油型乳化食品、
(5)改質乾燥卵白の配合量が製品に対し0.1〜10%である(4)の水中油型乳化食品、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、乳化力に優れた改質乾燥卵白を有効成分とした乳化材およびこれをもちいた水中油型乳化食品を提供できることから、水中油型乳化食品への卵白の利用拡大が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ意味する。
【0012】
本発明において水中油型乳化食品とは、食用油脂が油滴として水相中に略均一に分散して水中油型の乳化状態が維持された乳化食品である。このような水中油型乳化食品としては、例えば、マヨネーズ、マヨネーズ類または半固体状乳化ドレッシングなどが挙げられるが、水中油型に乳化された食品であれば特に限定するものではない。また、乾燥卵白とは、液卵白を、例えば、噴霧乾燥(スプレードライ)、静置乾燥(パンドライ)、凍結乾燥(フリーズドライ)などの任意の乾燥方法により乾燥して得られた卵白をいう。
【0013】
本発明は、上記乾燥卵白および水中油型乳化食品において、特定に改質した乾燥卵白を有効成分とした乳化材およびこれを用いた上記水中油型乳化食品、並びに前記特定に改質した乾燥卵白を用いた上記水中油型乳化食品である。
【0014】
本発明に係る特定に改質した乾燥卵白の第1の特定要件は、改質乾燥卵白1部に対して、7部の清水で溶解させた水溶液のpHが9.5以上、好ましくは10以上である。水溶液のpHが前記値より低いと、後述する他の特定要件の1つである改質乾燥卵白25gを250mL容量のバイアル瓶に密封して75℃で24時間保存した後の前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度が1%以下である改質乾燥卵白は得られる場合があるものの、もう一つの他の特定要件である改質乾燥卵白1部に対して、7部の清水で溶解させた水溶液の加熱凝固物の離水率が3%以下である改質乾燥卵白は得られず、その結果、乳化力に優れた改質乾燥卵白とならず、乳化材としての機能を十分に発揮されないことから好ましくない。
【0015】
なお、改質乾燥卵白の上限のpHは、特に規定していないが、高すぎると、乾燥後の熱蔵処理条件を熱変性して不溶化するいわゆる煮えなどが発生しないように微調整しながら行う必要があり製造コストがかかって経済的でないことから、10.7以下が好ましい。
【0016】
本発明に係る特定に改質した乾燥卵白の第2の特定要件は、改質乾燥卵白1部に対して、7部の清水を溶解させた水溶液の加熱凝固物の離水率が3%以下、好ましくは2.7%以下、より好ましくは2.5%以下である。加熱凝固物の離水率が前記値より大きいと、他の特定要件である改質乾燥卵白1部に対して、7部の清水を溶解させた水溶液のpHが9.5以上、または改質乾燥卵白25gを250mL容量のバイアル瓶に密封して75℃で24時間保存した後の前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度が1%以下のいずれかの要件を満たす場合があるものの、もう1つの要件を満たすことはなく、その結果、乳化力に優れた改質乾燥卵白とならず、乳化材としての機能を十分に発揮されないことから好ましくない。
【0017】
上記加熱凝固物の離水率は、以下の手順で測定された値である。つまり、1部の改質乾燥卵白に対して、7部の清水を加えて溶解し、折径60mmのナイロン製のケーシングに充填密封して80℃で40分間加熱して加熱凝固物を製する。次いで、ケーシング詰め加熱凝固物を5℃で24時間保存後、室温(20℃)に3時間放置して加熱凝固物の品温を20℃にする。次いで、加熱凝固物をケーシングから取り出して、長さ方向に対して直角に厚さ3cmにカットする。ついで、110mm直径の濾紙(定性濾紙No.2)5枚を重ねた上にカットした加熱凝固物を、カットした面のいずれか片方が底面となるようにのせた後、1時間室温(20℃)に放置して、放置前後の加熱凝固物の質量変化から下記式により離水率を求めた。
【0018】
離水率(%)=(放置前の加熱凝固物の質量−放置後の加熱凝固物の質量)×100/(放置前の加熱凝固物の質量)
【0019】
本発明に係る特定に改質した乾燥卵白の第3の特定要件は、改質乾燥卵白25gを250mL容量のバイアル瓶に密封して75℃で24時間保存した後の前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度が1%以下、好ましくは0.8%以下である。二酸化炭素濃度が前記値より高いと、他の特定要件の1つである改質乾燥卵白1部に対して、7部の清水を溶解させた水溶液のpHが9.5以上である改質乾燥卵白は得られる場合があるものの、もう一つの他の特定要件である前記水溶液の加熱凝固物の離水率が3%以下である改質乾燥卵白は得られず、その結果、乳化力に優れた改質乾燥卵白とならず、乳化材としての機能を十分に発揮されないことから好ましくない。
【0020】
上記二酸化炭素濃度の具体的な測定方法は、改質乾燥卵白25gを250mL容量のバイアル瓶に密封して75℃の恒温機で24時間保存した後、恒温機から取り出して1分以内に前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度を二酸化炭素濃度計(PBI-Dansensor社製Check Point O2/CO2)で測定する。
【0021】
本発明は、上記3つの特定要件を満たした改質乾燥卵白を有効成分とした乳化材である。本発明の乳化材には、前記改質乾燥卵白以外に本発明の効果を損なわない範囲で、デキストリンなどの賦形剤などを配合してもよいが、乳化材としての乳化機能に優れたものとするには、改質乾燥卵白配合量を乳化材に対し70%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、改質乾燥卵白のみからなるものが更に好ましい。
【0022】
また、本発明は、上記改質乾燥卵白、あるいは上記改質乾燥卵白を有効成分とした乳化材が優れた乳化力を有することから水中油型乳化食品に用いることができる。その際の配合量は、製品に対し改質乾燥卵白として0.1〜10%が好ましく、0.5〜8%がより好ましい。配合量が前記範囲より少ないと、改質乾燥卵白が有する優れた乳化力を発揮し難く、一方、前記範囲より多いと、滑らかな食感を有した乳化食品が得られ難い場合があり好ましくないからである。
【0023】
次に、本発明で用いる改質乾燥卵白の製造方法について詳述する。なお、本発明の改質乾燥卵白は、上記3つの特定要件を満たすものであればいずれの方法によるものでもよいが、乾燥後のpHが9以上となるように液卵白を乾燥処理して乾燥卵白を製する工程と、前記乾燥卵白の二酸化炭素を散失させる工程により得ることができる。
【0024】
<乾燥卵白を製する工程>
まず、乾燥卵白に用いる液卵白を用意する。液卵白としては、例えば、卵を割卵して卵黄と分離した生液卵白、これに濾過、殺菌、冷凍、濃縮などの処理を施したものの他、卵白中の成分を除去する処理、例えば、糖分を除去する脱糖処理やリゾチームを除去する処理を行ったものなどを用いることができる。これらの液卵白の中でも、後述する熱蔵処理中に卵白蛋白質中のアミノ基と反応してメイラード反応を起こし、褐変、不快臭の発生などの品質の低下を防止することができる点で、脱糖処理を行った液卵白を用いるのが好ましい。脱糖処理は、酵母、酵素、細菌などを用いて常法により行えばよく、中でも、不揮発性の酸が産出され難く、乾燥後の乾燥卵白のpHを高く調整し易い点から、酵母を用い、具体的には、液卵白中の遊離の糖含有率が好ましくは0.1%以下となるように行うことが好ましい。
【0025】
次に、前記液卵白を乾燥処理する。本発明に用いる改質乾燥卵白の製造方法においては、乾燥処理後の乾燥卵白のpHを9以上、好ましくは9.5以上、より好ましくは10以上とする。
【0026】
一般に、液卵白を酵母脱糖、酵素脱糖などの方法で脱糖処理する際には、これらの酵母や酵素の適正pHが弱酸性から中性であるため、有機酸などの酸剤を添加して液卵白のpHを弱酸性から中性とするため、得られた乾燥卵白もpHが7前後となる。
【0027】
これに対し、本発明で用いる改質乾燥卵白の製造方法においては、前記脱糖処理の際に有機酸などの酸剤を添加しないか、またはごくわずかの添加に抑えることにより、乾燥卵白のpHを前記範囲に調製するのが好ましい。具体的には、用いる液卵白のpHや乾燥処理方法などにもよるが、有機酸などの酸剤を添加せずに酵母で脱糖処理をした場合、pH9.9〜10.1程度の乾燥卵白を得ることができる。また、本発明においては、乾燥処理後の乾燥卵白のpHが高いほうが改質効果を得やすいことから、有機酸などの酸剤を添加しないほうが好ましいが、脱糖処理効率を上げるなどの目的のために、例えば、酸剤としてクエン酸などの有機酸を用いる場合は、脱糖の際の有機酸添加量を液卵白1kgに対し1000mg以下、好ましくは500mg以下、より好ましくは200mg以下、さらに好ましくは100mg以下とする。
【0028】
脱糖処理前の液卵白のpHに比べて、脱糖処理後のpHはやや低下する傾向がある。例えば、脱糖処理前の液卵白のpHにもよるが、酵母で脱糖処理を行った場合、pHが0.1〜2.5程度低下する。一方、脱糖処理後の液卵白である乾燥処理前の液卵白のpHに比べて、乾燥処理後のpHはやや上昇する傾向がある。例えば、乾燥条件にもよるが、通常の噴霧乾燥条件である150〜200℃の熱風で乾燥した場合、pHが1〜3程度上昇する。したがって、これらを考慮し、乾燥処理後の液卵白の乾燥物のpHを上記範囲に調製すればよい。
【0029】
また、液卵白の乾燥物のpHを前記特定範囲に調製するために、リン酸三ナトリウムなどのアルカリ剤を少量添加してもよいが、アルカリ剤に由来する塩類により、熱蔵中にタンパク質が熱変性して不溶化するいわゆる煮えが生じ易くなることから、アルカリ剤の添加量は、具体的には、乾燥前の液卵白1kgに対して好ましくは300mg以下、より好ましくは150mg以下、さらに好ましくは50mg以下である。
【0030】
乾燥処理は、特に制限はなく、例えば、噴霧乾燥(スプレードライ)、静置乾燥(パンドライ)、凍結乾燥(フリーズドライ)などの種々の方法により乾燥物の水分含量が好ましくは12%以下、より好ましくは10%以下となるように常法に則り行えばよい。
【0031】
なお、pHは、液卵白などの液状物の場合は、そのまま、乾燥卵白の場合は、1部の乾燥卵白に対して7部の清水を加えて溶解したものを、pHメーターで測定したときの値である。また、乾燥物の水分含量は、赤外線水分計((株)ケット科学研究所、FD−600)によって測定したときの値である。
【0032】
以上のように、pHが9以上となるように乾燥処理した乾燥卵白は、二酸化炭素含有量が高いのに対し、前記範囲よりもpHが低い場合は、二酸化炭素の含有量が低い。これは、一般的な方法に準じて、有機酸などの酸剤を添加して脱糖処理された液卵白を乾燥処理して得られたpHが7程度の乾燥卵白は、乾燥処理時に卵白中に溶存する二酸化炭素が放出されやすく、当該乾燥卵白中には二酸化炭素がほとんど残存していないためであると推察される。
【0033】
本発明で用いる改質乾燥卵白の製造方法は、pH9以上となるように乾燥処理した乾燥卵白を後述するように熱蔵処理することにより、二酸化炭素を散失させてpHを上昇させるとともに、離水率などを改質することができる。一方、pHが7程度の乾燥卵白は、加熱しても二酸化炭素をほとんど放出しないことから、乾燥卵白を熱蔵処理して二酸化炭素を散失させることにより離水率などを改質する本発明で用いる改質乾燥卵白の製造方法を応用することが困難である。
【0034】
<二酸化炭素を散失させる工程>
本発明に用いる改質乾燥卵白の製造方法は、乾燥卵白の二酸化炭素を散失させる工程によって、乾燥卵白のpHを上昇させることができ、具体的には、pHを9.5以上にすることができる。また、乾燥卵白の二酸化炭素を散失させる工程によって、乾燥卵白中の二酸化炭素の濃度を1%以下にすること、および離水率を3%以下にすることができる。
【0035】
また、乾燥卵白の二酸化炭素を散失させる工程が、乾燥卵白を、当該乾燥卵白から雰囲気中に放出される二酸化炭素を除去しながら、熱蔵処理する工程であるとよい。すなわち、熱蔵処理により二酸化炭素を雰囲気中に放出させた後、この雰囲気中の二酸化炭素を除去することにより、乾燥卵白の二酸化炭素を散失させることができる。具体的には、例えば、以下の第1〜第3の方法が挙げられる。
【0036】
第1の方法は、乾燥卵白をバットなどの平坦な容器に厚さが1mmから10cm程度に広げ、当該容器を加熱空気が換気されている恒温機、乾燥機、熱蔵庫などに保存して熱蔵処理を行う方法である。
【0037】
第2の方法は、乾燥卵白を二酸化炭素透過性がある容器に詰めて、当該容器を加熱空気が換気されている恒温機、乾燥機、熱蔵庫などに保存して熱蔵処理を行う方法である。第2の方法は、衛生管理上好ましい。第2の方法では、例えば、好ましくは20〜80μm厚、より好ましくは30〜70μm厚のポリエチレンフィルムからなるパウチに封入し、パウチの外表面の大部分が換気されている加熱空気に接触した状態で熱蔵処理することができる。パウチの厚さが前記範囲より厚い場合、二酸化炭素の透過が十分に行われないことがあり、一方、パウチの厚さが前記範囲よりも薄い場合、強度が不十分で作業性が悪くなることがあるからである。ここで、「パウチの外表面の大部分」とは、パウチの外表面の70%以上をいうものとし、好ましくは80%以上である。
【0038】
第3の方法は、乾燥卵白から放出される二酸化炭素を二酸化炭素吸収剤に吸収させながら熱蔵処理する方法である。第3の方法は、上述した第1または第2の方法と組み合わせて行うことができる。例えば、二酸化炭素吸収剤を乾燥卵白と同一包材内に封入して熱蔵処理する方法、あるいは、乾燥卵白が封入された包材が二酸化炭素透過性の高い包材である場合、その外側に二酸化炭素吸収剤を配置させて熱蔵処理を行う方法などが挙げられる。また、二酸化炭素吸収剤は、使用量が多いほど、乾燥卵白から放出された二酸化炭素を速やかに吸収できる。具体的には、熱蔵処理温度などにもよるが、10kgの乾燥卵白に対して2〜6Lの吸収能を有する二酸化炭素吸収剤を使用すればよい。
【0039】
上記恒温機、乾燥機、熱蔵庫などに保存して熱蔵処理を行う温度は、好ましくは65℃以上、より好ましくは68℃以上、さらに好ましくは70℃以上である。上述の方法で得られた乾燥卵白は、離水率が4%以下となるが、熱蔵処理が前記温度より低いと、3%以下とならない場合があり、乳化力に優れた改質乾燥卵白とはならず、乳化材としての機能を十分に発揮され難い傾向となり好ましくないからである。また、熱蔵処理を行う温度の上限は、熱蔵温度があまり高すぎると煮えを生じる場合があり、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下である。
【0040】
また、熱蔵処理の処理日数は、好ましくは1〜30日、より好ましくは2〜20日である。熱蔵処理の処理日数が前記範囲より短いと、熱蔵処理による改質効果が発現され難い場合があり、乳化力に優れた改質乾燥卵白とはならず、乳化材としての機能を十分に発揮され難い傾向となり好ましくなく、一方、前記範囲より長いと、生産性に劣るばかりか、熱蔵処理による効果がそれ以上発現し難い傾向となるためである。
【0041】
本発明の水中油型乳化食品は、上述の改質乾燥卵白を配合する他に本発明の効果を損なわない範囲で水中油型乳化食品に通常用いられている各種原料を適宜選択し含有させることができる。例えば、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、大豆油、パーム油、魚油、卵黄油などの動植物油及びこれらの精製油、並びにMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド等のように化学的あるいは酵素的処理を施して得られる油脂などの食用油脂、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、米澱粉、これらの澱粉をアルファ化、架橋などの処理を施した化工澱粉、並びに湿熱処理澱粉などの澱粉類、キサンタンガム、タマリンド種子ガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、グアーガムなどのガム質、食酢、クエン酸、乳酸、レモン果汁などの酸味材、グルタミン酸ナトリウム、食塩、砂糖などの各種調味料、卵黄、ホスホリパーゼA処理卵黄、全卵、液卵白、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、オクテニルコハク酸化澱粉などの乳化材、動植物のエキス類、からし粉、胡椒などの香辛料、デキストリン、デキストリンアルコールなどの糖類、並びに各種蛋白質やこれらの分解物などが挙げられる。
【0042】
また、本発明の水中油型乳化食品の製造方法は、上述の乾燥卵白を一原料として配合させる以外は、水中油型乳化食品の常法に則り製造すればよく、例えば、上述の乾燥卵白を配合し均一にした水相原料をミキサーなどで攪拌させながら油相原料と注加して乳化させる方法、さらに得られた乳化物を、例えば、コロイドミル、高圧ホモゲナイザーなどで仕上げ乳化する方法などが挙げられる。また、得られた乳化食品は、チューブ容器、ガラス容器、缶などに充填密封される。また、乳化食品は、容器への充填密封前に、あるいは充填密封後に必要に応じ殺菌処理が施される。
【0043】
以下、本発明の改質乾燥卵白およびこれを用いた水中油型乳化食品について、実施例、比較例並びに試験例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0044】
[実施例1]
殻付卵を割卵分離して得られた液卵白10kgにパン用酵母20gを添加し35℃で4時間脱糖処理を行った。次に、この脱糖液卵白を170℃で噴霧乾燥し乾燥卵白(pH10.0、水分含量7%)を得た。この乾燥卵白1kgと二酸化炭素吸収剤(二酸化炭素吸収能500mL、三菱ガス化学(株)製、商品名「エージレスC−500PS」)をアルミ袋(層構成と厚さは、外側からPET12μm、ナイロン15μm、アルミ7μm、CPP70μm)に充填密封した後、この包装体を75℃の恒温機に保存して75℃、2日間の熱蔵処理を行い、改質乾燥卵白を得た。得られた改質乾燥卵白を乳化材として用いた。
【0045】
[実施例2]
殻付卵を割卵分離して得られた液卵白1000kgにパン用酵母2kgを添加し35℃で4時間脱糖処理を行った。次に、この脱糖液卵白を170℃で噴霧乾燥し乾燥卵白(pH10.0、水分含量7%)を得た。この乾燥卵白を10kgずつ厚み60μmのポリエチレン袋に充填密封し、これらの包装体を、庫内の加熱空気が換気されている庫内温度75℃の熱蔵庫に保存して75℃、14日間の熱蔵処理を行い改質乾燥卵白を得た。得られた改質乾燥卵白を乳化材として用いた。なお、熱蔵処理する際には、包装体を熱蔵庫内の金網でできた棚に一袋ずつ重ねずに並べ、各包装体の外表面の80%程度が庫内の加熱空気に接触した状態で熱蔵処理した。
【0046】
[実施例3]
殻付卵を割卵分離して得られた液卵白10kgに10%クエン酸溶液200gとパン用酵母20gを添加し35℃で4時間脱糖処理を行った。次に、この脱糖液卵白を170℃で噴霧乾燥し乾燥卵白(pH9.5、水分含量7%)を得た。この乾燥卵白を1kgを厚み60μmのポリエチレン袋に充填密封した後、この包装体を75℃の恒温機に保存して定期的に恒温機内の加熱空気を換気しながら75℃、14日間の熱蔵処理を行い改質乾燥卵白を得た。得られた改質乾燥卵白を乳化材として用いた。なお、乾燥卵白の包装体は、外表面の70%程度が恒温機内の加熱空気に接触した状態となるように静置して熱蔵処理した。
【0047】
[比較例1]
実施例1において、熱蔵処理を行わない以外は実施例1と同様の方法で製して、未熱蔵処理乾燥卵白を得た。得られた未熱蔵処理乾燥卵白を乳化材として用いた。
【0048】
[比較例2]
実施例1において、アルミ袋に二酸化炭素吸収剤を封入しないで熱蔵処理を行った以外は実施例1と同様の方法で製して、熱蔵処理乾燥卵白を得た。得られた熱蔵処理乾燥卵白を乳化材として用いた。
【0049】
[比較例3]
実施例3において、脱糖処理前の10%クエン酸溶液の添加量を350gに増やした以外は実施例3と同様に脱糖処理後、噴霧乾燥して乾燥卵白(pH7.2、水分含量7%)を得た。さらに、この乾燥卵白を実施例3と同様に熱蔵処理して、熱蔵処理乾燥卵白を得た。得られた熱蔵処理乾燥卵白を乳化材として用いた。
【0050】
[比較例4]
実施例1の原料として用いた殻付卵を割卵分離して得られた液卵白を乳化材として用いた。
【0051】
[試験例]
実施例1乃至3で得られた改質乾燥卵白からなる乳化材、比較例1で得られた未熱蔵処理乾燥卵白からなる乳化材、比較例2または3で得られた熱蔵処理乾燥卵白からなる乳化材、並びに比較例4の液卵白(原料)からなる乳化材のそれぞれの乳化力を比較した。
【0052】
つまり実施例1乃至3、および比較例1乃至3のそれぞれの乾燥卵白1部を家庭用ミキサーを用いて7倍量の清水で水戻して、比較例4の液卵白(原料)と同程度の濃度とし、これを水相とした。得られた水相60gを卓上型ホバートミキサー(Kitchen Aid Heavy
Duty, Kitchen Aid Inc.製、5コート)のボウルに量り採り、目盛8で攪拌しながら80mLの菜種油を30秒間かけて注入し、さらに30秒間攪拌した。前記油脂の注入と攪拌を繰り返し、菜種油を960mL(80mL×12回)注入し、乳化物が出来るか否か観察した。
【0053】
なお、表中、pHとは、乾燥卵白からなる乳化材(実施例1乃至3、および比較例1乃至3)は上記した7倍量の清水で水戻ししたもの、液卵白からなる乳化材(比較例4)はそのまま測定した時の値である。また二酸化炭素濃度は、段落[0020]記載の方法、離水率は、段落[0017]〜[0018]の方法でそれぞれ測定した時の値である。
【0054】
【表1】

【0055】
表1より、pHが9.5以上であり、離水率が3%以下であり、二酸化炭素濃度が1%以下の実施例1乃至3の改質乾燥卵白を有効成分とした乳化材は、そうでない比較例1乃至3の乾燥卵白、あるいは比較例4の液卵白を有効成分とした乳化材と比較し、明らかに乳化力に優れていることが理解される。特に、pHが10以上であり、離水率が2.7%以下であり、二酸化炭素濃度が0.8%以下の実施例1または2の改質乾燥卵白を有効成分とした乳化材は、油脂分離が観察されず好ましかった。
【0056】
[実施例4〜6]
実施例1乃至3で得られた改質乾燥卵白からなる乳化材を用い、下記に示す配合割合で仕上がり100kgの水中油型乳化食品を製した。つまり、サラダ油以外の原料をミキサーで均一に混合し水相部を調製した後、当該水相部を攪拌させながらサラダ油を徐々に注加して粗乳化物を製した。次いで、得られた粗乳化物をコロイドミルで仕上げ乳化し、200mL容量のナイロンポリ袋(外側からナイロン15μm、PE60μm)に150gずつ充填密封し、水中油型乳化食品を得た。なお、澱粉分解物(DE8)は、松谷化学工業(株)製の「パインデックス#1」を用いた。
【0057】
<配合割合>
サラダ油 65%
食酢(酸度5%) 10%
澱粉分解物(DE8) 4%
改質乾燥卵白なる乳化材 1.5%
食塩 1.5%
殺菌卵黄 1%
砂糖 1%
辛子粉 0.5%
グルタミン酸ナトリウム 0.3%
清水 残余
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合計 100%
【0058】
実施例1乃至3で得られた改質乾燥卵白からなる乳化材を用いた上記水中油型乳化食品は、いずれも均一な乳化状態を有していた。一方、実施例1乃至3で得られた改質乾燥卵白からなる乳化材を除いて乳化食品を製したところ、一部油脂の分離が観察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質乾燥卵白1部に対して、7部の清水で溶解させた水溶液のpHが9.5以上であり、前記水溶液の加熱凝固物の離水率が3%以下であり、改質乾燥卵白25gを250mL容量のバイアル瓶に密封して75℃で24時間保存した後の前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度が1%以下である、改質乾燥卵白を有効成分とした乳化材。
【請求項2】
請求項1記載の乳化材を配合した水中油型乳化食品。
【請求項3】
請求項1記載の乳化材の配合量が製品に対し改質乾燥卵白として0.1〜10%である請求項2記載の水中油型乳化食品。
【請求項4】
改質乾燥卵白1部に対して、7部の清水で溶解させた水溶液のpHが9.5以上であり、前記水溶液の加熱凝固物の離水率が3%以下であり、改質乾燥卵白25gを250mL容量のバイアル瓶に密封して75℃で24時間保存した後の前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度が1%以下である、改質乾燥卵白を配合した水中油型乳化食品。
【請求項5】
改質乾燥卵白の配合量が製品に対し0.1〜10%である請求項4記載の水中油型乳化食品。

【公開番号】特開2008−253192(P2008−253192A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−99252(P2007−99252)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】