説明

乳化重合体水分散液の製造方法

【課題】優れた成膜特性を有する低分子量の乳化重合水分散体が製造可能になる乳化重合体水分散液の製造方法を提供すること。
【解決手段】熱重合開始剤と乳化剤が存在する水性媒体中に、過酸化水素を開始剤の一部または全部として使用し、不飽和基含有重合性単量体を供給しながら熱重合による乳化重合を行う乳化重合体水分散液の製造方法であって、不飽和基含有重合性単量体の熱重合に伴う反応熱を利用して水性媒体を昇温させながら、水性媒体の温度が100〜150℃となるまで前記熱重合による乳化重合を行い、且つ、不飽和基含有重合性単量体の供給終了後直ちに、冷却を行うことを特徴とする乳化重合体水分散液の製造方法。。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有用なる乳化重合体水分散液の製造方法に関する。更に詳しくは、塗料、接着剤、繊維加工剤、紙加工剤等の幅広い用途に応用可能な乳化重合体水分散液の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的に化学物質に対する規制が進む等地球環境への配慮が社会的課題として加速していることから、樹脂の水系化がVOC削減の有力な手法としてその重要性が年々増してきている。例えば、水系樹脂の一つである乳化重合水分散体は有機溶剤を全く含まないか、含むとしても少量しか含まない樹脂としてその重要性が年々増してきている。
一般的に乳化重合水分散体は乳化剤の存在のもとで重合開始剤によるラジカル重合により製造され、得られる乳化重合水分散体の重量平均分子量は通常数十万〜数百万である。このため、成膜性不良や粒子融着性不良を起こしやすく様々な問題を引き起こす要因になっていた。そこで、これを改良する目的で低分子量化の検討が様々検討されている。例えば、目的とする分子量の範囲に制限するために有効な連鎖移動剤を用いる方法が一般的である。しかしながら、使用する連鎖移動剤の量は目的とする分子量の範囲が低いほど多くなりメルカプタン系ではその臭気が問題となったり耐候性などその他性能面において性能不良を引き起こしたりした。
【0003】
例えば、分子量を制御するため、得られる重合体の分子量と重合の際に用いる連鎖移動剤との関係を規定したり、得られる重合体の分子量と重合温度との関係式を求めてりして、反応条件を制御する方法が提案されている。(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかしながら、前記の技術は、反応温度は、概ね120℃以上であり、本範囲の温度領域では乳化重合の重合系が極めて不安定であり使用できる界面活性剤の種類が非常に限定されたり多量のブロックが形成されたり、時には重合系が完全に潰れてしまったりと非常に高度な技術を必要とした。そのため、重合体の分子量を低く制御することもまた困難な場合が多かった。
【0005】
【特許文献1】国際公開 WO98/16561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、優れた成膜特性を有する低分子量の乳化重合水分散体が製造可能になる乳化重合体水分散液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、反応槽の水性媒体中へ不飽和基含有重合性単量体を供給しながら、槽内不飽和基含有重合性単量体を含む水性媒体液温を上昇するように制御させながら熱重合による乳化重合を進め、不飽和基含有重合性単量体の供給後、直ちに冷却することで、特に分子量を低く制御することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、熱重合開始剤と乳化剤が存在する水性媒体中に、過酸化水素を開始剤の一部または全部として使用し、不飽和基含有重合性単量体を供給しながら熱重合による乳化重合を行う乳化重合体水分散液の製造方法であって、不飽和基含有重合性単量体の熱重合に伴う反応熱を利用して水性媒体を昇温させながら、水性媒体の温度が100〜150℃となるまで前記熱重合による乳化重合を行い、且つ、不飽和基含有重合性単量体の供給終了後直ちに、冷却を行うことを特徴とする乳化重合体水分散液の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明による乳化重合体水分散液の製造方法によれば、従来、(メタ)アクリルモノマーの重合体において困難であった分子量制御された乳化重合体を得ることが可能となり、これから得られた重合体は、優れた成膜特性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次いで、本発明を実施するにあたり、必要な事項を具体的に述べる。
本発明において乳化重合体水分散液は、熱重合開始剤と乳化剤が存在する水性媒体中に、過酸化水素を開始剤の一部または全部として使用し、不飽和基含有重合性単量体を供給しながら熱重合による乳化重合を行うと共に、この熱重合に伴う反応熱を利用して水性媒体を昇温させながら、水性媒体の温度が100〜150℃となるように制御して乳化重合を行い、不飽和基含有重合性単量体の供給終了後直ちに、冷却を行うことで製造される。
【0011】
本発明の製造方法は過酸化水素を開始剤として使用することを特徴とする。一般的にラジカル重合の場合、重合中発生するラジカル量を増加させることにより重合体の分子量を低分子量側に制御することが可能になる。しかしながら、過酸化水素以外の開始剤では多量に使用した場合その分解物が乳化重合体水分散液中に残存することが問題であった。過酸化水素は分解することにより水と酸素に分解するため、製造しようとする乳化重合水分散体の物性に影響することなく用いることが可能になる。
【0012】
過酸化水素の使用量は目的とする分子量により決定されるため必ずしも限定されることはないが、低分子量化と乳化重合体水分散液の安定性の両立が可能な使用量の範囲として、不飽和基含有重合性単量体の合計100重量部に対して、好ましくは0.5〜10重量部、さらに好ましくは1〜5重量部である。
【0013】
さらに、本発明の製造方法は乳化重合水分散体の物性に影響のない範囲で過酸化水素以外に他の熱重合開始剤を併用して用いてもよい。他に使用される熱重合開始剤としては、乳化重合に用いられている各種のラジカル重合開始剤を用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩類、アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビスジメチルバレロニトリル、2,2'−アゾビス(2−アミノジプロパン)二塩酸塩、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、4,4'−アゾビス(4−シアノ吉草酸)などのアゾ系化合物類、クメンヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロペルオキシドなどの有機過酸化物類等を挙げることができる。
【0014】
前記熱重合開始剤としては、1種類のみを用い加熱による熱重合を行うのが一般的ではあるが、場合により2種類以上を混合して用いてもよい。また、これら熱重合開始剤の使用量は、用いる不飽和基含有重合性単量体の種類や使用量などにより適宜変化させることができる。
【0015】
熱重合開始剤の使用量は、不飽和基含有重合性単量体の合計100重量部に対して、好ましくは0.001〜2重量部、さらに好ましくは0.01〜1重量部である。
【0016】
本発明の製造方法で使用される不飽和基含有重合性単量体としては、ラジカル重合性不飽和基を持つ化合物であれば特に限定されるものではないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜30のアルキル(メタ)アクリレート類のアクリル系不飽和単量体;
【0017】
(メタ)アクリル酸、イタコン酸またはそのモノエステル、マレイン酸またはそのモノエステル、フマル酸またはそのモノエステル、イタコン酸またはそのモノエステル、クロトン酸、p−ビニル安息香酸などのカルボン酸基含有不飽和単量体およびこれらの塩;2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、スルホプロピル(メタ)アクリレート、α−メチルスチレンスルホン酸などのスルホン酸基含有不飽和単量体およびこれらの塩;
【0018】
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン、N−メチルビニルピリジウムクロライド、(メタ)アリルトリエチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド等の第3級または第4級アミノ基含有不飽和単量体;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有不飽和単量体;(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N、N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、ビニルラクタム類などアミド基含有不飽和単量体;
【0019】
マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和二塩基酸のジエステル類、スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−クロロスチレン、クロルメチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族不飽和単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系不飽和単量体;ブタジエン、イソプレン等の共役ジオレフィン不飽和単量体;ジビニルベンゼン、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、メタクリル酸アリル、フタル酸ジアリル、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリンジアリルエーテル、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート等の多官能不飽和単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のビニル系不飽和単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、オクチルビニルエステル、ベオバ9、ベオバ10、ベオバ11〔ベオバ:シェルケミカルカンパニー(株)商標〕等のビニルエステル不飽和単量体;エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル不飽和単量体;エチルアリルエーテル等のアリルエーテル不飽和単量体;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、パーフルオロアルキルアクリレート、フルオロメタクリレート等のハロゲン含有不飽和単量体等;
【0020】
(メタ)アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有不飽和単量体;ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のビニルシラン系不飽和単量体;アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ビニルメチルケトン、ビニルブチルケトン、ダイアセトンアクリレート、アセトニトリルアクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ビニルアセトフェノン、ビニルベンゾフェノン等のカルボニル基含有不飽和単量体等が挙げられる。
【0021】
また、本発明の乳化重合体水分散液の製造方法においては、乳化剤の存在下で不飽和基含有重合性単量体の熱重合を行うが、その際の乳化剤の使用量は、不飽和基含有重合性単量体100重量部に対して、0.1〜10重量部の範囲であり、好ましくは0.5〜5重量部である。このときの乳化剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルキルサルフェート、アルカンスルフォネート、アルキルベンゼンスルフォネート、アルキルアリールポリエーテル硫酸塩、(ジ)アルキルスルホサクシネート、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルサルフェート等のようなアニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体等のようなノニオン系乳化剤;セチルトリメチルアンモニウムブロミド、ラウリルピリジニウムクロリド等のようなカチオン系乳化剤、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレン硫酸アンモニウム、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルホン酸ソーダ、ポリオキシエチレンアルケニルフェニルスルホン酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルケニルフェニル硫酸ソーダ、ナトリウムアリルアルキルスルホサクシネート、(メタ)アクリル酸ポリオキシプロピレンスルホン酸ソーダ、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリロイルホスフェート等のアニオン系反応性乳化剤;ポリオキシエチレンアルケニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリロイルエーテル等のノニオン系反応性乳化剤;
【0022】
市販されている反応性乳化剤、例えば、アクアロンHS−10、HS−20、ニューフロンティアA−229E〔以上、第一工業製薬(株)製〕、アデカリアソープSE−3N、SE−5N、SE−10N、SE−20N,SE−30N〔以上、(株)ADEKA製〕、AntoxMS−60、MS−2N、RA−1120、RA−2614〔以上、日本乳化剤(株)製〕、エレミノールJS−2、RS−30〔以上、三洋化成工業(株)製〕、ラテムルS−120A、S−180A、S−180〔以上、花王(株)製〕等のアニオン性反応性乳化剤;アクアロンRN−20、RN−30,RN−50、ニューフロンティアN−177E〔以上、第一工業製薬(株)製〕、アデカリアソープNE−10、NE−20、NE−30、NE−40〔以上、(株)ADEKA製〕、RMA−564、RMA−568、RMA−1114〔以上、日本乳化剤(株)製〕等のノニオン性反応性乳化剤;
【0023】
ポリビニルアルコール、セルロースおよびその誘導体、澱粉およびその誘導体、スチレンマレイン酸樹脂、マレイン化ポリブタジエン、マレイン化アルキッド樹脂、ポリアクリル酸(塩)、ポリアクリルアミド、水溶性アクリル樹脂、メラミンホルマリン縮合物のスルホン化物、ポリビニルピロリドン等の合成あるいは天然の水溶性高分子等が挙げられる。もちろん、これら以外の乳化剤を用いることも可能であり、これらのうちの2種以上を併用することも可能である。
【0024】
本発明の製造方法では、以上に述べた、不飽和基含有重合性単量体、熱重合開始剤、乳化剤および水、さらに必要に応じて、連鎖移動剤、中和剤等を用いることにより乳化重合を行う。この際、不飽和基含有重合性単量体は、最初にその一部を加熱し、乳化重合させて水性媒体中に乳化重合体粒子を形成させた後、残りの不飽和基含有重合性単量体を供給しながら、不飽和基含有重合性単量体の熱重合に伴う反応熱を利用して水性媒体を昇温させながら、水性媒体の温度が100〜150℃となるまで前記熱重合による乳化重合を行うことが好ましい。
【0025】
また、不飽和基含有重合性単量体は、予め乳化剤を含む水性媒体と混合して単量体の乳化液を調製し、乳化液を供給しながら、不飽和基含有重合性単量体の熱重合に伴う反応熱を利用して水性媒体を昇温させ、水性媒体の温度が100〜150℃となるまで前記熱重合による乳化重合を行うこともできる。
【0026】
この際もまた、不飽和基含有重合性単量体は、予め乳化剤を含む水性媒体と混合して単量体の乳化液を調製し、その一部を加熱し、乳化重合させて水性媒体中に乳化重合粒子を形成させた後、残りの乳化液を供給しながら、不飽和基含有重合性単量体の熱重合に伴う反応熱を利用して水性媒体を昇温させ、水性媒体の温度が100〜150℃となるまで前記熱重合による乳化重合を行うことが好ましい。
【0027】
不飽和基含有重合性単量体もしくはその乳化液の一部を予め加熱し乳化重合させて水性媒体中に乳化重合体粒子を形成させる場合、予め使用する不飽和基含有重合性単量体もしくはその乳化液の量は、全体重量の0.3〜10重量%、好ましくは0.5〜7重量%の範囲である。
【0028】
さらに、前記不飽和基含有重合性単量体もしくはその乳化液の一部を用いて得られる乳化重合体粒子の代わりに、前記不飽和基含有重合性単量体と同一もしくは類似組成の不飽和基含有重合性単量体を予め乳化重合させて得られる乳化重合体水分散液を用い、前記不飽和基含有重合性単量体もしくはその乳化液を供給しながら、不飽和基含有重合性単量体の熱重合に伴う反応熱を利用して水性媒体を昇温させ、水性媒体の温度が100〜150℃となるまで前記熱重合による乳化重合を行うシード重合法も好ましい製造方法として用いることができる。
【0029】
また、本発明の製造方法では、不飽和基含有重合性単量体の組成を変化させながら重合を行うパワーフィード重合法により乳化重合を行うこともできる。
【0030】
本発明の製造方法での不飽和基含有重合性単量体の供給は、定量ポンプを用いて行うことが好ましいが、不飽和基含有重合性単量体の供給速度は一定速度であっても速度を変化させても良い。また、不飽和基含有重合性単量体の供給は、連続的であることが好ましいが、水性媒体の昇温が停止しない範囲であれば断続的または半連続的であっても良い。
【0031】
本発明の製造方法において過酸化水素は不飽和基含有重合性単量体の供給開始時に一括して添加するか、若しくは不飽和基含有重合性単量体の供給と併行して断続的、半連続的又は連続的に添加しても良い。この際、過酸化水素の供給も不飽和基含有重合性単量体の供給同様、定量ポンプを用いて行われることが好ましいが、供給速度は一定速度であっても速度を変化させても良い。
このなかで、過酸化水素の分解を促進させる目的で不飽和基含有重合性単量体の供給開始時に一括して添加することが好ましい。
【0032】
さらに、他の熱重合開始剤を併用する場合は、最初に一度に水性媒体中に添加しても良いが、最初に一部を添加し、不飽和基含有重合性単量体の供給開始時若しくは供給開始後に、残りを断続的、半連続的又は連続的に添加しても良い。このとき、最終的に得られる乳化重合水分散体中の残存単量体量の低減下を図るため、熱重合開始剤は不飽和基含有重合性単量体の供給終了後、さらに1〜60分間、好ましくは5〜30分間添加を続けることが好ましい。この際、熱重合開始剤の供給も不飽和基含有重合性単量体の供給同様、定量ポンプを用いて行われることが好ましいが、供給速度は一定速度であっても速度を変化させても良い。
【0033】
また、本発明の製造方法において重合系の安定性を高めるために、場合により塩基性化合物を添加し重合を行っても良い。
塩基性化合物としては、水酸化リチウム、水酸化カリウムもしくは水酸化ナトリウムの如き、各種の金属水酸化物、またはアンモニアを例示することができる。
この塩基性化合物の使用量としては重合終了後の乳化重合体水分散液のpHが好ましくは2〜7、さらに好ましくは3〜6になるように添加されることが好ましい。
【0034】
さらに、この塩基性化合物を添加する場合には、最初に一度に水性媒体中に添加しても良いが、不飽和基含有重合性単量体の供給に併せて、半連続的又は連続的に添加しても良い。
【0035】
本発明の製造方法において、不飽和基含有重合性単量体の供給開始時の水性媒体の温度としては、60℃〜100℃であることが好ましく、より好ましくは70〜100℃である。
【0036】
乳化重合では重合初期に形成される重合体粒子が最終的に製造される乳化重合体水分散液の粒径や安定性に影響するとされる。乳化剤の機能が充分発揮される60℃〜100℃において不飽和基含有重合性単量体の供給を開始することにより、本発明の目的とする低分子量の乳化重合水分散体を安定化を図ることが可能になる。
【0037】
また、不飽和基含有重合性単量体の供給終了時の水性媒体の温度としては、使用する熱重合開始剤の半減時間との兼ね合いから、100〜150℃であることが必要である。より好ましくは110〜140℃である。
過酸化水素は温度を高めるほど分解が進行するため、水性媒体の温度を100℃以上まで前記熱重合による乳化重合を昇温制御することにより過酸化水素の分解が進行し乳化重合体の分子量を目的とするまで低分子量化することが可能になる。また、乳化重合の場合温度を高めていくと乳化剤の機能が弱まるため重合体粒子同士の凝集が進行し最終的には塊状化してしまう可能性がある。水性媒体の温度を150℃以下に抑えることによりこれらの危険性を最小限に抑えることが可能になる。
【0038】
ここで、水性媒体の昇温は、不飽和基含有重合性単量体を供給しながら乳化重合を進める間において、必ずしも一定の昇温速度に制御する必要はなく、例えば、水性媒体の昇温速度は使用する反応容器の冷却量、不飽和基含有重合性単量体の組成や供給量をコントロールすることにより制御することができ、比較的小さい昇温速度で乳化重合を開始し、乳化重合の進行と共に順次昇温速度が大きくなるように制御することも可能であるが、過酸化水素の分解と乳化重合体水分散液の安定性の両立から、乳化重合の開始時と終了時の温度を直線的に制御するか、もしくは、少し大きい昇温速度で乳化重合を開始し、乳化重合の進行と共に順次昇温速度が小さくなるように制御することが好ましい。
【0039】
水性媒体を昇温させながら行う乳化重合の重合所要時間は、使用する不飽和基含有重合性単量体の組成、供給量、反応速度等の他、過酸化水素の分解は重合所要時間が長いほど分解が進み、また乳化重合体水分散液の安定性は重合所要時間が短いほど安定であることから、通常30分間〜4時間、好ましくは1〜3.5時間、さらに好ましくは1〜3時間である。
【0040】
本発明の製造方法では、不飽和基含有重合性単量体の供給と水性媒体の昇温を行いながら、水性媒体の温度が100〜150℃となるまで熱重合による乳化重合を行うが、水性媒体の昇温は、不飽和基含有重合性単量体の供給による不飽和基含有重合性単量体の熱重合に伴う反応熱を利用した昇温であることから、水性媒体の昇温は、不飽和基含有重合性単量体の供給終了により停止する。
【0041】
次いで、不飽和基含有重合性単量体の供給を停止した後、速やかに水性媒体を冷却する。水性媒体の冷却条件としては、水性媒体の温度を、70〜90℃に4時間以内で冷却することが好ましい。
【0042】
なお、水性媒体の昇温が停止となった後、より低い温度で、さらに反応させることが好ましく、その際の反応温度としては、70〜100℃が好ましく、より好ましくは80〜100℃であり、反応時間としては、30分間〜5時間が好ましく、より好ましくは1〜4時間である。
【0043】
本発明の製造方法に使用する反応容器は、特に限定されず、各種の乳化重合に使用する反応槽を用いることが可能であるが、乳化重合は一般的には反応混合物が蒸発揮散しない圧力下で行うことが好ましいことから、前記した水性媒体の液温の範囲で乳化重合を行うためには、反応容器として耐圧性の密閉型圧力反応器を用いることが好ましい。
【0044】
本発明の製造方法により得られる乳化重合体水分散液は、必要により未分解の過酸化水素を分解する目的で水と酸素に分解する酵素を主成分とした過酸化水素分解剤を添加しても良い。過酸化水素分解剤としては市販の三菱ガス化学株式会社製「アスクスーパー25」などを例示することができる。
【0045】
この過酸化水素分解剤を得られる水性樹脂微粒子分散液に対して、50ppm以上から1,000ppm以下添加、さらに好ましくは100ppm以上から500ppm以下添加し、30分〜3時間程度攪拌を行うことにより系内に残存する未分解の過酸化水素を0.1%以下まで分解することが可能になる。また、本発明の製造方法により得られる乳化重合体水分散液は、目的に応じ必要により塩基性化合物を添加し中和処理を行っても良い。塩基性化合物として特に代表的なもののみを例示するにとどめれば、水酸化リチウム、水酸化カリウムもしくは水酸化ナトリウムの如き、各種の金属水酸化物;またはアンモニア;ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、イソプロピルエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノールもしくは2−(ジメチルアミノ)−2−メチルプロパノール、あるいはモルホリン、n−メチルモルホリンもしくはN−エチルモルホリンの如き、各種の有機アミン類などではあるが、本発明においては、決して、これらのもののみに限定されるというようなものではない。この塩基性化合物の使用量としては使用した酸基含有重合性不飽和単量体に対して、約200%以下の中和量となるような範囲内、さらに好ましくは約150%以下の中和量となるような範囲内が適切である。この塩基性化合物は、10℃程度の室温から100℃以下の温度で添加されるのが好ましい。
【0046】
さらに、本発明の製造方法により得られる乳化重合体水分散液は、必要により、顔料、分散剤、粘性調整剤、消泡剤、造膜助剤、凍結防止剤、有機溶剤などを加えることにより、塗料、接着剤、繊維加工剤、紙加工剤として幅広い用途に応用可能である。
【実施例】
【0047】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、実施例中の部は、特に断りのない限り重量部を示す。
【0048】
なお、以下の実施例および比較例で求めた平均粒径と粘度の測定方法を以下に示す。
【0049】
・平均粒径の測定方法:乳化重合体粒子の平均粒径は、動的光散乱粒度測定装置ナノトラック(日機装株式会社製)を用い平均粒径を測定した。平均粒径が大きいとき、場合により粒子同士が凝集を起こしていることを示しており、乳化重合体水分散液の安定性の指標となる。
【0050】
・粒径分布偏差の測定方法:ナノトラックで求められる測定結果より次に示す式により粒径分布偏差を求めた。
粒径分布偏差=(d84%―d16%)/2
(式中、d84%:頻度(%)=84%の粒径(μm)、d16%:頻度(%)=16%の粒径(μm)を表す。)
【0051】
粒径分布偏差はこの数値が大きいほど粒径分布が広く、場合により粒子同士が凝集を起こしていることを示しており、平均粒径とともに乳化重合体水分散液の安定性の指標となる。
【0052】
・粘度の測定方法:乳化重合体水分散液を入れた容器を恒温水槽中に浸漬させることにより乳化重合体水分散液の温度を25℃に調整した後、B型粘度計により測定を行った。
【0053】
・分子量の測定方法:乳化重合体水分散体ポリマーの分子量測定は東ソー株式会社製のGPC装置HLC−8220GPCを用い行った。乳化重合体水分散液をTHFに溶解し、4mg/mlの濃度に調整し測定を行った。
【0054】
・ブロック量の測定方法、ブロック量の割合の計算方法:得られた乳化重合体水分散液全量を200メッシュナイロン紗で濾過し濾過残物を水洗し水をよく切った後集め湿潤状態の重さを秤量することによりブロック量を測定した。ブロック量の割合を次の計算式で求めた。
ブロック量の割合(g/kg)=ブロック量(g)/全収量(kg)
【0055】
実施例1
攪拌機、窒素導入管、定量ポンプ、およびロードセル式天秤機能を備えた3リットルタンクにイオン交換水306g、ニューコール707SF(日本乳化剤社製の固形分30%のアニオン乳化剤)158g、ブチルアクリレート455g、メチルメタクリレート355g、スチレン540g、ヒドロキシエチルメタクリレート414g、メタクリル酸40g、ラウリルメルカプタン24.3gを仕込み攪拌乳化することにより単量体乳化プレミックスの調製を行った。
【0056】
一方、攪拌機、窒素導入管、反応釜内温度を測定するための温度センサーを備えた5リットル耐圧反応釜に窒素を導入しつつイオン交換水1400gにニューコール707SF14.4gを反応釜に仕込んだ。さらに3リットルタンクから調製した単量体乳化プレミックス115gを抜き取り添加した。添加後攪拌を開始し85℃まで昇温し保持した。
【0057】
反応釜内にイオン交換水36gに過硫酸カリウム1.8gを溶解することにより調製した開始剤水溶液を圧入することにより初期重合を開始した。初期重合を85℃で20分継続した後35%過酸化水素水溶液155gを圧入した。過酸化水素圧入後、イオン交換水144gに過硫酸カリウム1.8g、25%アンモニア水溶液6.3gを溶解することにより調製した開始剤水溶液を3時間30分かけて滴下、および残りの単量体乳化プレミックスを3時間かけて滴下することにより乳化重合を行った。このとき同時に反応釜内温度を85℃から120℃に直線的に3時間かけて変化させた。
【0058】
単量体乳化プレミックス滴下終了後80℃に20分間かけて冷却し、同温度で3時間保持し室温まで冷却した。
冷却後200メッシュナイロン紗で濾過することにより乳化分散体を得た。得られた乳化分散体の分子量を測定したところ平均分子量(Mn)は4,064、重量平均分子量(Mw)は13,964であった。また、平均粒径は155nmであった。粒径分布偏差は0.0330であった。さらにブロック量の割合は0.62g/kgであり1g/kg以内に抑えることができた。低分子量化と同時に重合を安定的に進めることができた。得られた結果を表1−1に示す。
【0059】
実施例2
攪拌機、窒素導入管、定量ポンプ、およびロードセル式天秤機能を備えた3リットルタンクにイオン交換水270g、ニューコール707SF76g、ブチルアクリレート630g、メチルメタクリレート1120g、メタクリル酸54g、ラウリルメルカプタン24.3gを仕込み攪拌乳化することにより単量体乳化プレミックスの調製を行った。
【0060】
一方、攪拌機、窒素導入管、反応釜内温度を測定するための温度センサーを備えた5リットル耐圧反応釜に窒素を導入しつつイオン交換水1200gにニューコール707SF14.4gを反応釜に仕込んだ。さらに3リットルタンクから調製した単量体乳化プレミックス115gを抜き取り添加した。添加後攪拌を開始し85℃まで昇温し保持した。
【0061】
反応釜内にイオン交換水36gに過硫酸カリウム0.9gを溶解することにより調製した開始剤水溶液を圧入することにより初期重合を開始した。初期重合を85℃で20分継続した後35%過酸化水素水溶液155gを圧入した。過酸化水素圧入後、イオン交換水144gに過硫酸カリウム0.9gを溶解することにより調製した開始剤水溶液を2時間20分かけて滴下、および残りの単量体乳化プレミックスを2時間かけて滴下することにより乳化重合を行った。このとき同時に反応釜内温度を85℃から120℃に直線的に2時間かけて変化させた。
【0062】
単量体乳化プレミックス滴下終了後80℃に20分間かけて冷却し、同温度で3時間保持し室温まで冷却した。得られた乳化分散体の分子量を測定したところ平均分子量(Mn)は5,266、重量平均分子量(Mw)は14,664であった。また、平均粒径は150nmであった。粒径分布偏差は0.0308であった。さらにブロック量の割合は0.46g/kgであり1g/kg以内に抑えることができた。低分子量化と同時に重合を安定的に進めることができた。得られた結果を表1−1に示す。
【0063】
実施例3
攪拌機、窒素導入管、定量ポンプ、およびロードセル式天秤機能を備えた3リットルタンクにイオン交換水400g、ニューコール707SF67g、ラテムルE−118B(花王製の固形分26%のアニオン乳化剤)2−エチルヘキシルアクリレート900g、メチルメタクリレート850g、スチレン200g、アクリル酸40gを仕込み攪拌乳化することにより単量体乳化プレミックスの調製を行った。
【0064】
一方、攪拌機、窒素導入管、反応釜内温度を測定するための温度センサーを備えた5リットル耐圧反応釜に窒素を導入しつつイオン交換水1400gにニューコール707SF14.4gを反応釜に仕込んだ。さらに3リットルタンクから調製した単量体乳化プレミックス115gを抜き取り添加した。添加後攪拌を開始し85℃まで昇温し保持した。
【0065】
反応釜内にイオン交換水32gに過硫酸ナトリウム1.6gを溶解することにより調製した開始剤水溶液を圧入することにより初期重合を開始した。初期重合を100℃で20分継続した後35%過酸化水素水溶液143gを圧入した。過酸化水素圧入後、イオン交換水128gに過硫酸ナトリウム6.4gを溶解することにより調製した開始剤水溶液を2時間20分かけて滴下、および残りの単量体乳化プレミックスを2時間かけて滴下することにより乳化重合を行った。このとき同時に反応釜内温度を100℃から120℃に直線的に2時間かけて変化させた。
【0066】
単量体乳化プレミックス滴下終了後80℃に30分間かけて冷却し、同温度で3時間保持し室温まで冷却した。得られた乳化分散体の分子量を測定したところ平均分子量(Mn)は5,300、重量平均分子量(Mw)は21,000であった。また、平均粒径は181nmであった。粒径分布偏差は0.0526であった。さらにブロック量の割合は0.12g/kgであり1g/kg以内に抑えることができた。低分子量化と同時に重合を安定的に進めることができた。得られた結果を表1−1に示す。
【0067】
実施例4
攪拌機、窒素導入管、定量ポンプ、およびロードセル式天秤機能を備えた3リットルタンクにイオン交換水306g、ニューコール707SF158g、ブチルアクリレート455g、メチルメタクリレート355g、スチレン540g、ヒドロキシエチルメタクリレート414g、メタクリル酸40g、ラウリルメルカプタン24.3gを仕込み攪拌乳化することにより単量体乳化プレミックスの調製を行った。
【0068】
一方、攪拌機、窒素導入管、反応釜内温度を測定するための温度センサーを備えた5リットル耐圧反応釜に窒素を導入しつつイオン交換水1400gにニューコール707SF14.4gを反応釜に仕込んだ。さらに3リットルタンクから調製した単量体乳化プレミックス115gを抜き取り添加した。添加後攪拌を開始し100℃まで昇温し保持した。
【0069】
反応釜内にイオン交換水36gに過硫酸ナトリウム1.8gを溶解することにより調製した開始剤水溶液を圧入することにより初期重合を開始した。初期重合を100℃で20分継続した後35%過酸化水素水溶液155gを圧入した。過酸化水素圧入後、イオン交換水144gに過硫酸ナトリウム1.8g、25%アンモニア水溶液6.3gを溶解することにより調製した開始剤水溶液を1時間50分かけて滴下、および残りの単量体乳化プレミックスを1.5時間かけて滴下することにより乳化重合を行った。このとき同時に反応釜内温度を100℃から120℃に直線的に1.5時間かけて変化させた。
【0070】
単量体乳化プレミックス滴下終了後80℃に20分間かけて冷却し、同温度で3時間保持し室温まで冷却した。冷却後200メッシュナイロン紗で濾過することにより乳化分散体を得た。得られた乳化分散体の分子量を測定したところ平均分子量(Mn)は4,700、重量平均分子量(Mw)は13,600であった。また、平均粒径は185nmであった。粒径分布偏差は0.0575であった。さらにブロック量の割合は0.13g/kgであり1g/kg以内に抑えることができた。低分子量化と同時に重合を安定的に進めることができた。得られた結果を表1−2に示す。
【0071】
実施例5
過酸化水素圧入後、イオン交換水144gに過硫酸ナトリウム1.8g、25%アンモニア水溶液6.3gを溶解することにより調製した開始剤水溶液を2時間20分かけて滴下、および残りの単量体乳化プレミックスを2時間かけて滴下することにより乳化重合を行った他は実施例4と同様の方法で乳化重合体水分散液の製造を行った。
【0072】
単量体乳化プレミックス滴下終了後80℃に20分間かけて冷却し、同温度で3時間保持し室温まで冷却した。得られた乳化分散体の分子量を測定したところ平均分子量(Mn)は4,900、重量平均分子量(Mw)は11,520であった。また、平均粒径は202nmであった。粒径分布偏差は0.0632であった。さらにブロック量は0.34g/kgでありであり1g/kg以内に抑えることができた。実施例4より滴下時間を延ばすことにより、粒径及び粒径分布偏差が大きくなったものの、より低分子量化が可能になった。
【0073】
実施例6
過酸化水素圧入後、イオン交換水144gに過硫酸ナトリウム1.8g、25%アンモニア水溶液6.3gを溶解することにより調製した開始剤水溶液を3時間30分かけて滴下、および残りの単量体乳化プレミックスを3時間かけて滴下することにより乳化重合を行った他は実施例4と同様の方法で乳化重合体水分散液の製造を行った。
【0074】
単量体乳化プレミックス滴下終了後80℃に20分間かけて冷却し、同温度で3時間保持し室温まで冷却した。得られた乳化分散体の分子量を測定したところ平均分子量(Mn)は4,300、重量平均分子量(Mw)は10,330であった。また、平均粒径は257nmであった。粒径分布偏差は0.1000であった。さらにブロック量は0.48g/kgでありであり1g/kg以内に抑えることができた。実施例4および実施例5より滴下時間を延ばすことにより、粒径及び粒径分布偏差が大きくなったものの、より低分子量化が可能になった。得られた結果を表1−2に示す。
【0075】
実施例7
過酸化水素圧入後、イオン交換水128gに過硫酸ナトリウム6.4gを溶解することにより調製した開始剤水溶液を2時間20分かけて滴下、および残りの単量体乳化プレミックスを2時間かけて滴下し、同時に反応釜内温度を100℃から110℃に直線的に2時間かけて変化させた他は実施例3と同様の方法で乳化重合体水分散液の製造を行った。
【0076】
単量体乳化プレミックス滴下終了後80℃に30分間かけて冷却し、同温度で3時間保持し室温まで冷却した。得られた乳化分散体の分子量を測定したところ平均分子量(Mn)は7,070、重量平均分子量(Mw)は26,800であった。また、平均粒径は174nmであった。粒径分布偏差は0.0253であった。さらにブロック量は0.09g/kgでありであり1g/kg以内に抑えることができた。実施例3より昇温幅を狭めることにより、分子量はやや大きくなったものの、粒径及び粒径分布偏差を小さくすることができた。得られた結果を表1−2に示す。
【0077】
実施例8
過酸化水素圧入後、イオン交換水128gに過硫酸ナトリウム6.4gを溶解することにより調製した開始剤水溶液を2時間20分かけて滴下、および残りの単量体乳化プレミックスを2時間かけて滴下し、同時に反応釜内温度を100℃から140℃に直線的に2時間かけて変化させた他は実施例3と同様の方法で乳化重合体水分散液の製造を行った。
【0078】
単量体乳化プレミックス滴下終了後80℃に30分間かけて冷却し、同温度で3時間保持し室温まで冷却した。得られた乳化分散体の分子量を測定したところ平均分子量(Mn)は4,900、重量平均分子量(Mw)は17,300であった。また、平均粒径は462nmであった。粒径分布偏差は0.4020であった。さらにブロック量は4.5g/kgであった。実施例3より昇温幅を大きくすることにより、粒径及び粒径分布偏差が極端に大きくなったものの、低分子量化することができた。得られた結果を表1−3に示す。
【0079】
実施例9
単量体乳化プレミックス滴下終了後80℃に1時間かけて冷却し他は実施例4と同様の方法で乳化重合体水分散液の製造を行った。
得られた乳化分散体の分子量を測定したところ平均分子量(Mn)は4,700、重量平均分子量(Mw)は12,700であった。また、平均粒径は190nmであった。粒径分布偏差は0.595であった。さらにブロック量は0.17g/kgであった。実施例4とほぼ同等の物性を有する乳化重合体水分散液を製造された。得られた結果を表1−3に示す。
【0080】
実施例10
過酸化水素圧入後、イオン交換水144gに過硫酸ナトリウム1.8g、25%アンモニア水溶液6.3gを溶解することにより調製した開始剤水溶液を2時間50分かけて滴下、および残りの単量体乳化プレミックスを2.5時間かけて滴下し、同時に反応釜内温度を85℃から100℃に直線的に30分、85℃から120℃に直線的に2時間保った他は実施例1と同様の方法で乳化重合体水分散液の製造を行った。
【0081】
単量体乳化プレミックス滴下終了後80℃に20分間かけて冷却し、同温度で3時間保持し室温まで冷却した。得られた乳化分散体の分子量を測定したところ平均分子量(Mn)は5,170、重量平均分子量(Mw)は16,900であった。また、平均粒径は162nmであった。粒径分布偏差は0.0274であった。さらにブロック量は0.642g/kgでありであり1g/kg以内に抑えることができた。得られた結果を表1−3に示す。
【0082】
比較例1
過酸化水素圧入後、イオン交換水144gに過硫酸ナトリウム1.8g、25%アンモニア水溶液6.3gを溶解することにより調製した開始剤水溶液を2時間20分かけて滴下したこと、残りの単量体乳化プレミックスを2時間かけて滴下したこと、同時に反応釜内温度を120℃に2時間保ったことの他は実施例4と同様の方法で乳化重合体水分散液の製造を行った。
【0083】
単量体乳化プレミックス滴下終了後80℃に20分間かけて冷却し、同温度で3時間保持し室温まで冷却した。反応終了後釜内を確認したところ内容物は2液に凝集分離し分散体として得ることができなかった。得られた結果を表2に示す。
【0084】
比較例2
過酸化水素圧入後、イオン交換水144gに過硫酸ナトリウム1.8g、25%アンモニア水溶液6.3gを溶解することにより調製した開始剤水溶液を2時間20分かけて滴下したこと、残りの単量体乳化プレミックスを2時間かけて滴下したこと、同時に反応釜内温度を100℃に2時間保ったことの他は実施例4と同様の方法で乳化重合体水分散液の製造を行った。
得られた乳化分散体平均粒径は191nm、粒径分布偏差は0.0281、ブロック量は0.05g/kgと重合は安定的に進んだが、分子量を測定したところ平均分子量(Mn)は16,200、重量平均分子量(Mw)は40,000であり、低分子量化が進まなかった。得られた結果を表2に示す。
【0085】
比較例3
過酸化水素圧入後、イオン交換水144gに過硫酸ナトリウム1.8g、25%アンモニア水溶液6.3gを溶解することにより調製した開始剤水溶液を2時間20分かけて滴下したこと、残りの単量体乳化プレミックスを2時間かけて滴下したこと、同時に反応釜内温度を85℃に2時間保ったことの他は実施例4と同様の方法で乳化重合体水分散液の製造を行った。
得られた乳化分散体平均粒径は160nm、粒径分布偏差は0.0263、ブロック量は0.53g/kgと重合は安定的に進んだが、分子量を測定したところ平均分子量(Mn)は19,300、重量平均分子量(Mw)は62,000であり、低分子量化が進まなかった。得られた結果を表2に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱重合開始剤と乳化剤が存在する水性媒体中に、過酸化水素を開始剤の一部または全部として使用し、不飽和基含有重合性単量体を供給しながら熱重合による乳化重合を行う乳化重合体水分散液の製造方法であって、不飽和基含有重合性単量体の熱重合に伴う反応熱を利用して水性媒体を昇温させながら、水性媒体の温度が100〜150℃となるまで前記熱重合による乳化重合を行い、且つ、不飽和基含有重合性単量体の供給終了後直ちに、冷却を行うことを特徴とする乳化重合体水分散液の製造方法。
【請求項2】
前記水性媒体を60〜100℃から昇温させることを特徴とする請求項1に記載の乳化重合水分散体の製造方法。
【請求項3】
前記水性媒体を昇温させながら行う熱重合による乳化重合の所要時間が、30分間〜4時間である請求項1に記載の乳化重合水分散体の製造方法。
【請求項4】
前記不飽和基含有重合性単量体の供給終了後水性媒体の温度を、70〜90℃に、3時間以内で冷却する請求項1に記載の乳化重合水分散体の製造方法。
【請求項5】
予め不飽和基含有重合性単量体の一部を乳化重合して得られる乳化重合体粒子の存在下で、過酸化水素を開始剤の一部または全部として使用し、水性媒体を昇温させながら、前記熱重合による乳化重合を行う請求項1〜4のいずれか1項に記載の乳化重合体水分散液の製造方法。
【請求項6】
前記水性媒体を昇温させながら行う熱重合による乳化重合との終了後、70〜100℃で、さらに熱重合させる請求項5に記載の乳化重合体水分散液の製造方法。
【請求項7】
前記不飽和基含有重合性単量体の熱重合に伴う反応熱を利用して昇温される水性媒体の温度を、前記水性媒体を昇温させながら行う熱重合による乳化重合の開始時と終了時の温度を直線的に結ぶ温度変化に対して、±5℃の範囲で制御する請求項1〜5のいずれか一項に記載の乳化重合体水分散液の製造方法。

【公開番号】特開2009−275058(P2009−275058A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124535(P2008−124535)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】