説明

乳癌の管内治療で標的とするメチル化プロモーター

【課題】乳癌および前乳癌患者の管内治療の方法の提供。
【解決手段】DNAメチル化阻害剤、脱メチル化剤、およびDNAメチルトランスフェラーゼ活性のアンタゴニストなどのメチル化調節剤および患者の乳管にメチル化調節剤を送達する溶媒として適した生体適合性のある溶液を含み、患者の乳管に送達し乳管上皮細胞と接触させる、乳管に非定型または悪性細胞を含む異常な乳管上皮細胞を有する患者の乳管に投与する組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2001年3月30日にDavid Hungにより提出された米国特許仮出願第60/279,762号の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、乳癌関連遺伝子のメチル化プロモーターを標的にすることにより、乳癌および前乳癌を管内治療する方法ならびにその組成物の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
正常組織に比べ乳癌で発現が低下しているいくつかの遺伝子は、その遺伝子のプロモーター配列が過剰にメチル化されているために沈黙(silenced)している。過剰メチル化、5-メチルシトシンの生成は、プロモーターのCpGに富んだ領域(CpGアイランドと呼称する)に生じる。CpGアイランドの配列は、最小限CCGG配列からなる。これらの領域が過剰にメチル化されることにより転写が抑制されるようであり、この過剰メチル化が癌と関連している。メチル化特異的PCR(methylation specific PCR, MSP)により5-メチルシトシン部分を検出でき、その存在が過剰メチル化の指標となる。
【0004】
下流遺伝子の転写は、プロモーターの過剰なメチル化により不活化される。したがって、癌との関連においては、過剰にメチル化されたプロモーターに制御される遺伝子は癌または悪性の状態では沈黙し、非定型または前癌状態ではより低い程度に沈黙する。
【0005】
これら遺伝子の発現または沈黙は、管上皮細胞のメチル化特異的PCRにより明らかとなる。健常人では、管上皮細胞でこれらの遺伝子が発現され得る。過剰にメチル化された遺伝子の転写は、遺伝子のプロモーター内にあるCpGアイランドの脱メチル化によって回復され得る。
【発明の開示】
【0006】
発明の概要
本発明の一局面は、乳癌関連遺伝子を制御するプロモーターの過剰メチル化を減少させるまたは除去する組成物である。それに応じて、DNAメチル化阻害剤、脱メチル化剤、DNAメチルトランスフェラーゼ活性のアンタゴニスト、および乳管上皮細胞と接触させるために患者の管内に送達する薬剤の溶媒として適した送達可能な量の生体適合性溶液からなる群より選択される脱メチル化剤を含む、非定型または悪性細胞を含む異常な乳管上皮細胞を有する患者の管内に投与する組成物を提供する。
【0007】
本発明の一局面は、乳癌関連遺伝子を制御するプロモーターの過剰メチル化が局所的に同定された患者を治療する方法である。それに応じて、DNAメチル化阻害剤、脱メチル化剤、および乳管上皮細胞で転写される遺伝子のDNAメチル化を阻害または除去するのに十分なDNAメチルトランスフェラーゼ活性のアンタゴニストからなる群より選択される薬剤を含む薬剤量を乳管の管内に送達することを含む、非定型または悪性の乳管上皮細胞を含む乳管を有する患者を治療する方法を提供する。
【0008】
発明の好ましい態様の詳細な説明
以下の好ましい態様および実施例は、限定ではなく例示の目的のために提供する。
【0009】
本発明は、一つの特異的乳管または複数の管において乳癌および前乳癌の状態が同定された患者を治療する新規組成物および治療方法に関する。
【0010】
組成物は、1つ以上の(現存する過剰なメチル化を除去するための)脱メチル化剤、DNAメチル化阻害剤(例えば、メチル基に競合的に結合しおよび/またはシトシンのメチル化を防ぐ部分を含む薬剤)、またはDNAメチルトランスフェラーゼ(酵素)もしくはシトシンのメチル化を起こす活性のアンタゴニスト/阻害剤を含む。DNAメチルトランスフェラーゼ(MeTaseまたはDMT)は、シトシンにおけるメチル化反応を触媒する酵素である。あるDMTは、例えば5-アザ-2-デオキシシチジン(5-aza-CdR)である。CpGアイランドを含むプロモーターの領域に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを、DNAメチル化の阻害剤として用いることも可能である。組成物は、乳癌関連遺伝子のプロモーターのCpG部位におけるメチル化もしくは脱メチル化に関連するおよび/または影響を及ぼすこれらの種類の薬剤を1つ以上またはすべてもしくはいくつか含んでよい。アンタゴニストまたは阻害剤は、標的とする生物活性の拮抗または阻害が可能な任意の分子であってよい。したがって、例えばアンタゴニストまたは阻害剤は、例えば小さな有機分子、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、オリゴヌクレオチド、脂質、炭水化物、ポリマー等であってよい。
【0011】
組成物はまた、有効薬剤を乳管の管内に送達可能にする薬剤または溶剤を必ず要する。乳管に送達する薬剤または溶剤を含み、記載した有効薬剤を1種類以上含む組成物は、ヒトにとって生体適合性である必要があり、好ましくは乳管に常在する管上皮細胞に有効薬剤を送達する最適な手段を提供する。したがって、組成物はまた、生理食塩水または他の一般的で安全であり送達可能な溶液もしくは薬剤もしくは溶剤を含む溶液を含み得る。例えば、管内への送達を補助する薬剤または溶剤を含む組成物は、好ましくは、粘稠性材質またはゲル材質または溶剤によって運ばれる有効薬剤を送達先の管でより長く留まりおよび/またはより長く活性を示すことを可能にするような他の溶剤を含むことができる。
【0012】
過剰にメチル化されやすく、その結果遺伝子転写および発現の沈黙を起こしやすいとして知られている乳癌遺伝子には、例えば、サイクリンD2、RARβ2、twist、BRCA1、maspin、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、およびe-カドヘリンが含まれる。ここに挙げない他の遺伝子も存在する。メチル化され得るが乳癌との関連性が必ずしも存在しないプロモーターを有する他の遺伝子には、例えばp16(INK4a)、P15(INK4b)、P14(ARF)、細胞死関連タンパク質(DAP)、網膜芽細胞腫Rb、およびフォンヒッペル・リンドウ(VHL)遺伝子が含まれる。
【0013】
本治療方法は、特許請求の範囲の組成物を患者の乳管の管内に送達することを含む。予め管が前悪性(例えば、過形成および/または非定型)細胞または悪性(癌腫)細胞を有することを同定し、本方法で提案する局所治療プロトコールの標的として同定しておくことが好ましい。
【0014】
治療方法は、乳管(例えば、非定型または悪性細胞を有すると予め同定された標的となる管)の管内に、DNAメチル化阻害剤、脱メチル化剤、および/またはDNAメチルトランスフェラーゼのアンタゴニスト等の薬剤をある量送達することを含む。管への送達は、送達ツール(例えば、カテーテル、カニューレ等)を用いて乳管に到達させ、薬剤を乳管に注入して(有効薬剤の送達に適した溶剤または溶液で)管を裏打ちする標的の管上皮細胞に接触させることにより達成され得る。送達は、例えばポンプ送達、管内に入れた徐放性カプセル等によっても達成され得る。
【0015】
薬剤の量は変動し得るが、いかなる場合においても、標的である管内の非定型細胞または悪性細胞すべてに十分な量であることが好ましい。標的細胞の概算量は、標的となる管の最初の同定によって決まり得る(例えば、管から採取した管上皮細胞の細胞学的評価による)。薬剤量は、薬剤の力価および管に入った薬剤の送達の任意の時間遅延の程度(例えば、徐放性製剤による)等の他の緩和要因によって変動し得る。管上皮細胞が非定型であるのか悪性であるのか(例えば、悪性細胞にはより高い治療活性が必要であると思われる)および/またはいくつの遺伝子がメチル化活性により影響を受けているのか等の他の要因は、任意の所与の管に送達する有効薬剤の量の決定にも影響し得る。薬剤は、標的の乳管の管上皮細胞で転写および/または発現される遺伝子を制御するプロモーターにおいて、DNAのメチル化を阻害または除去するのに十分な量送達するべきである。脱メチル化剤および/または抗メチル化剤を管内に送達する前に、管マーカーおよび管上皮細胞の状態を評価しておくことが好ましい。例えば評価には、メチル化遺伝子のMSP(例えば、メチル化遺伝子を同定するため、および/またはメチル化の量を定量化するため)および/または管上皮細胞の細胞学的評価(例えば、過形成、非定型、または悪性細胞を同定する)が含まれ得る。
【0016】
実施例
患者の右胸の乳管が、悪性と疑わしい非定型細胞を有すると同定される。メチル化特異的PCR(MSP)により乳管から採取した管上皮細胞を4つの遺伝子について検査し、管環境で転写および/または発現されるいくつかの遺伝子のいくつかのプロモーターのメチル化状態を明らかにする。メチル化の程度を定量した情報はさらに、効果的な治療を行う薬剤に必要な特異的活性または量を決定する助けとなる。RARβ2、twist、maspin、およびサイクリンD2はすべて管上皮において発現される遺伝子であり、MSPで示されるようにプロモーターCpGアイランドにおいていくらかの割合でメチル化されていることが見出される。脱メチル化剤、様々な標的遺伝子の様々なプロモーターのCpG領域に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、およびDNAメチルトランスフェラーゼ(5-azaCdR)活性の阻害剤の混合粘稠性組成物を投与する。処方により、組成物中の有効薬剤は1週間にわたって徐放される。処置をしてから1ヵ月後、追加となる2度目の薬剤管内投与の必要性を評価するため、管液を再度採取し、採取した管上皮細胞の細胞学的解析を行い、最初の投与で検査し標的とした遺伝子のMSPを行うことにより解析する。
【0017】
本明細書に引用した出版物および特許出願はすべて、個々の出版物または特許出願が詳細にかつ個別に参照として組み入れられることが示されるがごとく、参照として本明細書に組み入れられる。明確に理解できるように例示および実施例を用いて前記発明をある程度詳細に記述したが、本発明の説明からして、いくらかの変更および修正を添付の特許請求の範囲の精神または範囲に反することなく実行できることは、当業者によって容易に理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチル化調節剤、および患者の乳管にメチル化調節剤を送達する溶媒として適した生体適合性のある溶液を含み、患者の乳管に送達し乳管上皮細胞と接触させる、乳管に非定型または悪性細胞を含む異常な乳管上皮細胞を有する患者の乳管に投与する組成物。
【請求項2】
メチル化調節剤がDNAメチル化阻害剤、脱メチル化剤、およびDNAメチルトランスフェラーゼ活性のアンタゴニストからなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
メチル化調節剤が、乳癌関連遺伝子のプロモーターにあるCpG部位でメチル化または脱メチル化を調節する、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
乳癌関連遺伝子がサイクリンD2、RARβ2、twist、BRCA1、maspin、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、e-カドヘリン、p16(INK4a)、P15(INK4b)、P14(ARF)、細胞死関連タンパク質(DAP)、網膜芽細胞腫Rb、およびフォンヒッペル・リンドウ(VHL)遺伝子からなる群より選択される、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
メチル化調節剤が脱メチル化剤である、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
メチル化調節剤がDNAメチル化阻害剤である、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
DNAメチル化阻害剤がメチル基に競合的に結合しシトシンのメチル化を防ぐ、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
DNAメチル化阻害剤が乳癌関連遺伝子のプロモーターのCpGアイランド領域に対するオリゴヌクレオチドである、請求項6記載の組成物。
【請求項9】
メチル化調節剤がDNAメチルトランスフェラーゼのアンタゴニストである、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
DNAメチルトランスフェラーゼのアンタゴニストが5-アザ-2-デオキシシチジン(5-aza-CdR)のシトシン残基においてメチル化反応を触媒する、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
生体適合性溶液が生理食塩水、粘稠性材質、およびゲル材質からなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
メチル化調節剤および患者の乳管にメチル化調節剤を送達する溶媒として適した生体適合性溶液を含む組成物を患者の乳管に送達する段階と、前悪性または悪性乳管上皮細胞内の乳癌関連遺伝子のDNAメチル化を調節する段階とを含む、乳管に前悪性または悪性乳管上皮細胞を有する患者を治療する方法。
【請求項13】
メチル化調節剤がDNAメチル化阻害剤、脱メチル化剤、およびDNAメチルトランスフェラーゼ活性のアンタゴニストからなる群より選択される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
乳癌関連遺伝子がサイクリンD2、RARβ2、twist、BRCA1、maspin、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、e-カドヘリン、p16(INK4a)、P15(INK4b)、P14(ARF)、細胞死関連タンパク質(DAP)、網膜芽細胞腫Rb、およびフォンヒッペル・リンドウ(VHL)遺伝子からなる群より選択される、請求項12記載の方法。
【請求項15】
メチル化調節剤が脱メチル化剤である、請求項12記載の方法。
【請求項16】
メチル化調節剤がDNAメチル化阻害剤である、請求項12記載の方法。
【請求項17】
DNAメチル化阻害剤がメチル基に競合的に結合しシトシンのメチル化を防ぐ、請求項16記載の方法。
【請求項18】
DNAメチル化阻害剤が乳癌関連遺伝子のプロモーターのCpGアイランド領域に対するオリゴヌクレオチドである、請求項16記載の方法。
【請求項19】
メチル化調節剤がDNAメチルトランスフェラーゼのアンタゴニストである、請求項12記載の方法。
【請求項20】
DNAメチルトランスフェラーゼのアンタゴニストが5-アザ-2-デオキシシチジン(5-aza-CdR)のシトシン残基においてメチル化反応を触媒する、請求項19記載の方法。
【請求項21】
生体適合性溶液が生理食塩水、粘稠性材質、およびゲル材質からなる群より選択される、請求項12記載の方法。

【公開番号】特開2009−96808(P2009−96808A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273409(P2008−273409)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【分割の表示】特願2002−576981(P2002−576981)の分割
【原出願日】平成14年3月27日(2002.3.27)
【出願人】(502153961)サイティック コーポレイション (4)
【Fターム(参考)】